説明

金属被覆型有機結晶の製造方法

【課題】 新規な材料である金属被覆型有機結晶を製造するための方法を提供する。
【解決手段】 可視光照射条件下、有機結晶と、遷移金属塩とを、アルカリ性水溶液中で反応させることを特徴とする金属被覆型有機結晶の製造方法であって、前記有機結晶の価電子帯の頂のエネルギーをA(eV)、前記有機結晶の伝導帯の底のエネルギーをB(eV)とした場合に、前記遷移金属塩を前記アルカリ性水溶液中に溶解させた際の遷移金属の存在形態である遷移金属イオンまたは遷移金属錯イオンの酸化還元電位C(V)が、以下の関係式(1)を満たすことを特徴とする。
−A−4.5≦C≦−B−4.5 (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機結晶の表面が金属で被覆された、金属被覆型有機結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料表面を金属によって被覆した金属被覆材料は、材料表面に硬度、導電性、耐溶剤性等の金属由来の物性を付与することができるため有用であり、様々な材料について研究がなされている。
【0003】
中でも粒子状材料表面への金属の被覆については、これまでに様々な方法が提案されており、例えば、非特許文献1には、アミノ末端を有するシランカップリング剤で表面修飾したSiOビーズを金で被覆する方法が開示されている。また、非特許文献2には、高分子電解質を吸着させたポリスチレンラテックスに金ナノ粒子を吸着させ、これを足場にして金を還元析出させる方法が開示されている。さらに、非特許文献3には、Sn2+を吸着させたSiOビーズに銀塩を添加することによって、SiOビーズを銀で被覆する方法が開示されている。
【非特許文献1】ケミカルフィジックスレターズ(Chemical Physics Letters),1998年,288,p243−247
【非特許文献2】アドバンスドマテリアルズ(Advanced Materials),2001年,13,p1090−1094
【非特許文献3】ケミストリーオブマテリアルズ(Chemistry of Materials),2001年,13,p1630
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1〜3をはじめとした粒子状材料を金属で被覆する従来の方法においては、被覆の際に、シランカップリング剤、界面活性剤、高分子電解質等のバインダーや還元剤を用いる必要があり、コアとなる材料に直接金属を被覆する方法はほとんど見出されていなかった。バインダー等を用いると、反応副生成物が高濃度で共存することになって単離の操作が煩雑になるばかりでなく、金属被覆材料の物性が損なわれてしまうという問題があった。金属および金属によって被覆される材料の物性を最大限に生かすためには、コアとなる材料を、バインダー等を介さず直接金属で被覆する方法が求められる。
【0005】
さらに、従来研究されてきた粒子状の金属被覆材料においては、コアとなる材料が非結晶性のポリマーであることがほとんどであり、有機結晶を被覆する方法は見出されていなかった。機能性材料として様々な用途を有する有機色素等の有機結晶を金属によって被覆することができれば、非線形光学材料や電子光学材料等の新規材料として様々な応用が期待される。例えば、次世代光通信を支える光スイッチング、光演算や光メモリーには、優れた非線形光学特性を有する材料が必要であるが、素子化に見合う材料はいまだない。そこで、非線形光学特性を有するコアに金属を被覆することで、金属ナノシェルの光電場増強効果により非線形光学特性が向上しうる。
【0006】
そこで本発明は、新規な材料である金属被覆型有機結晶を製造するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、有機結晶に対して特定の関係を有する遷移金属塩を金属源として用いることにより、光触媒還元法により有機結晶を金属で被覆できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、可視光照射条件下、有機結晶と、遷移金属塩とを、アルカリ性水溶液中で反応させることを特徴とする金属被覆型有機結晶の製造方法であって、前記有機結晶の価電子帯の頂のエネルギーをA(eV)、前記有機結晶の伝導帯の底のエネルギーをB(eV)とした場合に、前記遷移金属塩を前記アルカリ性水溶液中に溶解させた際の遷移金属の存在形態である遷移金属イオンまたは遷移金属錯イオンの酸化還元電位C(V)が、以下の関係式(1)を満たすことを特徴とする、製造方法を提供して前記課題を解決するものである。
−A−4.5≦C≦−B−4.5 (1)
【0009】
この態様において、前記有機結晶は、有機色素結晶であることが好ましく、前記有機結晶の平均粒径は、1μm未満であることが好ましい。
【0010】
また、この態様において、前記アルカリ性水溶液が、アンモニア水であることが好ましく、前記遷移金属が、金、銀、銅、コバルト、白金、およびパラジウムから選択されるものであることも好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、バインダー等の他の材料を介さずに金属が有機結晶に直接付着した、金属被覆型有機結晶の製造方法が提供される。この方法によれば、光励起によって反応が進行するため、還元剤等を用いずに、反応を穏和に進行させることができる。還元剤等を用いないことで、反応系中の副生成物の生成も押さえることができる。さらに、本発明の製造方法は、材料をアルカリ水溶液中で混合するのみであるため、簡易かつ低コストに製造することもできる。
【0012】
本発明のこのような作用および利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の金属被覆型有機結晶の製造方法は、有機結晶と、遷移金属塩とをアルカリ性水溶液中で反応させることを特徴とする。
【0014】
本発明に用いられる有機結晶に特に制限はないが、本発明は光励起によって反応が開始することから、光励起しやすい、可視域に吸収を有する有機色素結晶を用いることが好ましく、ポリ1,6−ジ(N−カルバゾリル)−2,4−ヘキサジイン(ポリDCHD)、ポリ5,7−ドデカジイン−1,12−ジイルビス(N−(ブトキシカルボニイルメチル)カルバメ−ト)(ポリ4BCMU)、ポリ2,4−ヘキサジイン−1,6−ジイルジ(p−トルエンスルホネ−ト)(ポリPTS)等のポリジアセチレン系化合物;亜鉛フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、テトラへキシルチオバナジルフタロシアニン等のフタロシアニン化合物;テトラフェニルポルフィリン、テトラフェニルポルフィナト亜鉛等のポルフィリン系化合物;3-カルボキシメチル-5-[2-(3-オクタデシル-2-ベンゾセレナゾルニリデン)エチリデン]ローダニン、シアニン色素等のJ会合体形成能を有する化合物などの有機色素結晶が好ましく用いられる。
【0015】
有機結晶の形状やサイズにも制限はないが、溶液中で分散、攪拌しながら反応させることが可能な、微粒子状の結晶が好ましい。特に、平均粒径が1μm以下の、ナノメーターサイズの有機ナノ結晶が好ましく用いられる。ナノメーターサイズの有機ナノ結晶の製造方法としては、有機結晶を良溶媒に溶解させた溶液を、高速攪拌下の貧溶媒に注入することによってナノ結晶を析出させる方法である、再沈法を好ましく用いることができる。この方法においては、ナノ結晶が分散液の状態で得られるので、このナノ結晶分散液をそのまま利用することにより、再沈法による有機ナノ結晶の作製からランニングで本発明の製造方法を行うことが可能である。再沈法の詳細は、「ジャパニーズジャーナルオブアプライドフィズィックス(Japanese Journal of Applied Physics)」,1992年,31,L1132、特開平06−079168号公報、特開2001−262137号公報等を参考にすることができる。
【0016】
遷移金属塩は、反応溶媒となるアルカリ性水溶液に添加されることで、フリーの遷移金属イオン、または遷移金属錯イオンとなって溶解し、有機結晶に被覆される金属の金属源となるものである。遷移金属塩を構成する遷移金属としては、金、銀、銅、コバルト、白金、およびパラジウム等が好ましく挙げられ、本発明においては、これらの硝酸塩、ハロゲン化物塩、硫酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、過塩素酸塩等が用いられる。反応の容易性の点から、硝酸銀等の銀塩が特に好ましく用いられる。
【0017】
遷移金属塩の添加量は、有機結晶のサイズにもよるが、遷移金属塩が少なすぎると完全に有機結晶を被覆することができないことから、通常、モル基準で、有機結晶に対して2倍以上用いられる。上限は特に制限はなく、有機結晶表面に被覆される金属層の所望の厚さや、コスト等の点から適宜決定される。
【0018】
溶媒として用いられるアルカリ性水溶液は、アルカリ金属の水酸化物塩や水溶性アミンの水溶液等が用いられるが、中でもアンモニア水は、反応後に系中から容易にアルカリ分を除去することができるだけでなく、遷移金属塩として銀塩を用いた場合には、酸化銀を溶解するため好ましい。
【0019】
金属被覆型有機結晶の原料となる上記有機結晶と遷移金属塩は、有機結晶の価電子帯の頂のエネルギーをA(eV)、有機結晶の伝導帯の底のエネルギーをB(eV)としたときに、反応溶媒であるアルカリ性水溶液中に遷移金属塩を溶解させた場合の遷移金属の存在形態である、遷移金属イオンまたは遷移金属錯イオンの酸化還元電位C(V)が、以下の関係式(1)を満たす組み合わせにおいてのみ使用される。
−A−4.5≦C≦−B−4.5 (1)
【0020】
ここで、遷移金属イオンまたは遷移金属錯イオンの酸化還元電位は、標準水素電極を基準とした酸化還元電位であり、本明細書においては、「化学便覧基礎編II改訂3版」,日本化学会編,1984年,pp.474−476、に開示された値を使用している。遷移金属を溶媒となるアルカリ水溶液中に溶解させた場合において、遷移金属がフリーの金属イオンと錯イオンのうちの、どのイオン種になるかは、遷移金属種と、アルカリ性水溶液の種類によって決まるが、これらイオン種は溶液中で厳密に単独種として存在するものではないため、本発明においては、アルカリ水溶液中で主成分となるイオン種の酸化還元電位の値を用いる。例えば遷移金属塩として硝酸銀が用いられる場合、アルカリ性水溶液がアンモニア水の際には、銀は主として錯イオンであるジアンミン銀(I)イオンとして存在するため、ジアンミン銀(I)イオンの酸化還元電位(0.373(V))をCとして用い、アルカリ性水溶液が水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水酸化物水溶液の場合には、銀は主としてフリーの銀イオンとして存在するため、銀イオンの酸化還元電位(0.799(V))をCとする。なお、以下において遷移金属イオンと遷移金属錯イオンをまとめて、単に遷移金属イオンという。
【0021】
有機結晶の伝導帯の底および価電子帯の頂のエネルギーとは、それぞれ、伝導帯の底または価電子帯の頂と、真空準位とのエネルギー差であり、これは、実験的に求められる。エネルギーを求める実験的手法はいくつか存在するが、本発明においては、「ケミカルフィジックスレターズ(Chemical Physics Letters)」,1981年,84,p54−58に開示されている方法を採用している。これは、バイアス電圧を印加して金属から有機結晶へ電荷を注入し、バイアス電圧と流れる電流の関係を測定することによって伝導帯のエネルギー準位を決定し、光学的に見積もったバンドキャップを伝導帯のエネルギー準位から差し引いて、価電子帯のエネルギー準位を見積もるものである。
【0022】
図1に、例として、有機結晶としてポリDCHDを用いた場合のエネルギー準位図を示す。本発明の原料である有機結晶と遷移金属塩の組み合わせが、上述の関係式(1)を満たすということは、有機結晶のエネルギー準位(右軸)と遷移金属イオンの酸化還元電位(左軸)の軸の高さを図1のようにとった場合に、有機結晶の価電子帯の頂と伝導帯の底のエネルギー準位の間に、遷移金属イオンの酸化還元電位が位置するという関係を有することを意味している。酸化還元電位と真空準位との関係については、「エレクトロケミストリーアットセミコンダクターアンドオキシダイズドメタルエレクトローズ(Electrochemistry at Semiconductor and Oxidized Metal Electrodes)」,(ニューヨーク、ロンドン),プレナムプレス(Plenum Press),1980年,p31に記載されている。このような関係を有する組み合わせの原料を用いることによって、有機結晶中で価電子帯から伝導帯に励起された電子が遷移金属イオンに流れ、有機結晶表面での遷移金属の還元析出、すなわち有機結晶表面の遷移金属による被覆が可能になる。図1の右軸をみると、ポリDCHDの伝導帯の底のエネルギー準位は−3.44eVであり、価電子帯の頂のエネルギー準位は−5.77eVであることから、それぞれの高さに相当する左軸の酸化還元電位、すなわちアルカリ水溶液中で−1.06Vから1.27Vの間の酸化還元電位を有する遷移金属イオンとなる遷移金属塩が、本発明においてはポリDCHDと組み合わせて原料として用いることができる。
【0023】
有機結晶と遷移金属塩との反応は、可視光照射条件下で攪拌することによって行われる。可視光照射条件とは室内光程度の明るさであって、十分に反応を進行させることができる。可視域にほとんど吸収を有さない結晶の場合には、紫外光を照射することによって反応を促進させることができる。反応温度や反応時間は用いる原料によって異なるが、有機結晶に被覆する金属層の所望の厚さ等に応じて適宜決定される。撹拌効率を高め反応を促進させるために、超音波を照射してもよい。
【0024】
再沈法によって作製したナノ結晶を用いて本発明の製造方法を行う場合には、ナノ結晶作製時のナノ結晶分散液にそのままアルカリ水溶液と遷移金属塩を添加することによって反応を行ってもよいし、いったんナノ結晶を単離した後に、アルカリ水溶液中にナノ結晶を分散しなおしてから反応を行ってもよい。
【0025】
こうして得られる金属被覆型有機結晶は、核(コア)となる有機結晶の表面全体が直接無数のナノメーターサイズの金属ナノ粒子(シェル)によって覆われている、コア−シェル構造を有することが、走査型電子顕微鏡(SEM)観察等から確認される。
【0026】
上述の方法によって得た金属被覆型有機結晶は、さらに、被覆金属よりもイオン化傾向の低い遷移金属の塩と反応させることで、表面金属を置換した金属被覆型有機結晶とすることもできる。一つの種類の金属被覆型有機結晶から、容易に複数種の表面金属の異なる金属被覆型有機結晶が得られる点で有用である。
【実施例】
【0027】
以下実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
マグネティックスターラーで激しく撹拌された純水50ml中に、5mMのDCHDアセトン溶液1mlをマイクロシリンジで一気に注入し、40℃で30分間保持することで、DCHDナノ結晶を作製した。その後、紫外線照射(265nm)を60分間行い、DCHDナノ結晶を固相重合させ、ポリDCHDナノ結晶とした。ポリDCHDナノ結晶の平均粒径は、約150nmであった。
上記のポリDCHDナノ結晶水分散液5mlに、硝酸銀水溶液(22.2mM,0.5ml)とアンモニア水溶液(11mM,0.2ml)を添加し、室内灯下、40℃で30分間保持することによって、ポリDCHDナノ結晶(コア)の表面に銀ナノ粒子が多数吸着した金属被覆型有機結晶を得た。得られた金属被覆有機結晶を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ポリDCHDナノ結晶表面全体に直径約5〜15nmの銀ナノ粒子が多数吸着していた。また、粉末法X線回折・電子線回折測定の結果から、金属被覆型有機結晶は、ポリDCHDと銀のみから構成されていることが確認された。
【0029】
さらに、硝酸銀水溶液を、同濃度の硫酸銀(AgSO)、酢酸銀(AgCHCOO)、トリフルオロ酢酸銀(AgCFCOO)、過塩素酸銀(AgClO)に替えた以外は実施例と同様の操作を行ったところ、実施例1と同様の金属被覆型有機色素ナノ結晶が得られることも確認された。
【0030】
(実施例2)
マグネティックスターラーで激しく撹拌された純水20ml中に、CoPcジメチルホルムアミド溶液0.4mlをマイクロシリンジで一気に注入することで、CoPcナノ結晶を作製した。
上記のCoPcナノ結晶水分散液5mlに、硝酸銀水溶液(22.2mM,0.5ml)とアンモニア水溶液(111mM,0.2ml)を添加し、室内灯下、30分間超音波を照射しながら加熱することによって、CoPcナノ結晶(コア)の表面に銀ナノ粒子が多数吸着した金属被覆型有機結晶を得た。得られた金属被覆型有機結晶を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、CoPcナノ結晶表面全体に銀ナノ粒子が多数吸着していた。また、粉末法X線回折測定の結果から、金属被覆型有機結晶は、CoPcと銀のみから構成されていることが確認された。
【0031】
(実施例3)
マグネティックスターラーで激しく撹拌された純水20ml中に、飽和テトラフェニルポルフィリン(HTPP)ジメトキシエタン溶液0.2mlをマイクロシリンジで一気に注入することで、HTPPナノ結晶を作製した。
上記のHTPPナノ結晶水分散液3mlに、硝酸銀水溶液(22.2mM,0.5ml)とアンモニア水溶液(111mM,0.2 ml)を添加し、室内灯下、30分間超音波を照射しながら加熱することによって、HTPPナノ結晶(コア)の表面に銀ナノ粒子が多数吸着した金属被覆型有機結晶を得た。得られた金属被覆型有機結晶を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、HTPPナノ結晶表面全体に銀ナノ粒子が多数吸着していた。また、粉末法X線回折測定の結果から、金属被覆型有機結晶は、HTPPと銀のみから構成されていることが確認された。
【0032】
(実施例4)
マグネティックスターラーで激しく撹拌された純水20ml中に、飽和テトラフェニルポルフィナト亜鉛(ZnTPP)ジメトキシエタン溶液0.2mlをマイクロシリンジで一気に注入することで、ZnTPPナノ結晶を作製した。
上記のZnTPPナノ結晶水分散液3mlに、硝酸銀水溶液(22.2mM,0.5ml)とアンモニア水溶液(111mM,0.2ml)を添加し、室内灯下、30分間超音波を照射しながら加熱することによって、ZnTPPナノ結晶(コア)の表面に銀ナノ粒子が多数吸着した金属被覆型有機結晶を得た。得られた金属被覆型有機結晶を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ZnTPPナノ結晶表面全体に銀ナノ粒子が多数吸着していた。また、粉末法X線回折測定の結果から、金属被覆型有機結晶は、ZnTPPと銀のみから構成されていることが確認された。
【0033】
(実施例5)
マグネティックスターラーで激しく撹拌された純水30ml中に、1mMのテトラへキシルチオバナジルフタロシアニン(VOPcR)ジメトキシエタン溶液0.3mlをマイクロシリンジで一気に注入することで、VOPcRナノ結晶を作製した。
上記のVOPcRナノ結晶水分散液3mlに、硝酸銀水溶液(22.2mM,0.5ml)とアンモニア水溶液(111mM,0.2ml)を添加し、室内灯下、30分間超音波を照射しながら加熱することによって、ZnTPPナノ結晶(コア)の表面に銀ナノ粒子が多数吸着した金属被覆型有機結晶を得た。得られた金属被覆型有機結晶を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、VOPcRナノ結晶表面全体に銀ナノ粒子が多数吸着していた。また、粉末法X線回折測定の結果から、金属被覆型有機結晶は、VOPcRと銀のみから構成されていることが確認された。
【0034】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う金属被覆型有機結晶の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】有機結晶としてポリDCHDを用いた場合のエネルギー準位図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光照射条件下、有機結晶と、遷移金属塩とを、アルカリ性水溶液中で反応させることを特徴とする金属被覆型有機結晶の製造方法であって、前記有機結晶の価電子帯の頂のエネルギーをA(eV)、前記有機結晶の伝導帯の底のエネルギーをB(eV)とした場合に、前記遷移金属塩を前記アルカリ性水溶液中に溶解させた際の遷移金属の存在形態である遷移金属イオンまたは遷移金属錯イオンの酸化還元電位C(V)が、以下の関係式(1)を満たすことを特徴とする、製造方法。
−A−4.5≦C≦−B−4.5 (1)
【請求項2】
前記有機結晶が、有機色素結晶であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機結晶の平均粒径が、1μm未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ性水溶液が、アンモニア水であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属イオンまたは前記遷移金属錯体を構成する遷移金属が、金、銀、銅、コバルト、白金、およびパラジウムから選択されるものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−84851(P2007−84851A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272134(P2005−272134)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月29日 社団法人応用物理学会発行の「2005年(平成17年)春季 第52回 応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第0分冊、第3分冊」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】