説明

金属製丸パイプの加工方法およびこの方法を用いて加工された金属製丸パイプ

【課題】金属製丸パイプの曲げ部の外面の一部を大きく窪んだ形状にすることなく、適切に平面化することが可能な金属製丸パイプの加工方法を提供する。
【解決手段】金属製丸パイプ1の湾曲した曲げ部10の外面に、パンチ2を用いてプレス加工を施し、曲げ部10の外面の一部を平面化するための金属製丸パイプの加工方法であって、パンチ2の先端に形成された押圧用面20については、この押圧用面20の両端部側よりも中央部側が窪むように傾斜した一対の傾斜面部20aを有する構成としておき、曲げ部10の外面にプレス加工を施す際には、一対の傾斜面部20aの双方を曲げ部10の外面に対面接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ加工が施された金属製丸パイプの曲げ部の一部分を押し潰したようにして平面化するための方法、およびこの方法を用いて加工された金属製丸パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、金属製丸パイプに曲げ加工を施すことにより、このパイプをたとえば長円形の螺旋状に形成し、このパイプを熱交換器の伝熱管として利用することを先に提案している(たとえば、特許文献1を参照)。この場合、たとえば図7(a)に示すように、金属製丸パイプ(伝熱管)1の曲げ部10に、温度センサ80などのセンサ類を安定して取り付けることを目的として、曲げ部10の一部分を平面または平面に近い平面化処理部14’としたい場合がある。また、同図(b)に示すように、金属製丸パイプ1の曲げ部10と熱交換器の他の部材81とが干渉することを避けるために、曲げ部10の一部分に平面化処理部14’を形成したい場合もある。
【0003】
前記した平面化処理部14’の形成手段としては、たとえば図8に示すように、先端の押圧用面90が平面状のパンチ9を利用し、金属製丸パイプ1の曲げ部10にプレス加工を施すことが考えられる。しかしながら、このような手段によれば、図9に示すように、プレスされた部分19が、金属製丸パイプ1の内側に大きく窪む現象を生じ易い。これは、金属製丸パイプ1の曲げ部10の外面は、直状部分(非曲げ部)とは異なり、円筒面ではなく、曲げ部10の最外周部分やその近傍部分は、球面の一部に近い凸状の3次曲面となっているため、そのような部分を平面状にプレスしようとすると、プレスされた部分が凹状に反転し易いからである。前記したように、プレスされた部分19が大きく窪んだのでは、この部分が適切に平面化されない。また、金属製丸パイプ1が伝熱管である場合、プレスされた部分19が窪んでいると、その部分の流路面積が狭小となり、流路抵抗が相当に大きくなるといった不具合を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−333343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであって、金属製丸パイプの曲げ部の外面の一部を大きく窪んだ形状にすることなく、適切に平面化することが可能な金属製丸パイプの加工方法、およびこの方法を用いて加工された金属製丸パイプを提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明の第1の側面により提供される金属製丸パイプの加工方法は、金属製丸パイプの湾曲した曲げ部の外面に、パンチを用いてプレス加工を施し、前記曲げ部の外面の一部を平面化するための金属製丸パイプの加工方法であって、前記パンチの先端に形成された押圧用面については、この押圧用面の両端部側よりも中央部側が窪むように傾斜した一対の傾斜面部を有する構成としておき、前記曲げ部の外面にプレス加工を施す際には、前記一対の傾斜面部の双方を前記曲げ部の外面に対面接触させることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、後述する実験データからも明らかなように、金属製丸パイプの曲げ部の外面がパイプ内に大きく窪まないようにしつつ、前記曲げ部の外面の平面化を適切に図ることが可能である。
本発明を理解する上で、留意すべき点は、本発明の方法において用いられるパンチの押圧用面の一対の傾斜面部は、打ち抜きプレス用パンチに設けられる凹状のシャー(シャー角)とは、役割および機能が全く異なり、これらを混同すべきではないことである。すなわち、打ち抜きプレス用パンチのシャー角は、パンチとワークとの接触度合いを少なくして、打ち抜きプレス荷重や打ち抜き時の騒音を小さくするといった作用を発揮し、シャー角が付された部分(傾斜面の部分)はワークを積極的に押圧するためのものではない。これに対し、本発明において用いられるパンチの一対の傾斜面部は、パイプの曲げ部の外面に直接接触してこの外面を積極的に押圧するための部分であり、プレス対象となる金属製丸パイプの曲げ部の外面が球面の一部に近い凸状の3次曲面である場合に、この3次曲面の頂部およびその近傍部分のプレス変形量を抑制する作用を発揮し、パンチによってプレスされた部分がパイプの内側に大きく窪むことを防止するのに役立つのである。
【0009】
本発明において、好ましくは、前記一対の傾斜面部は、これらの夾角が150〜160°の範囲内とされた構成である。このような構成によれば、金属製丸パイプの曲げ部の外面がパイプ内に窪むことを抑制しつつ、前記曲げ部の外面のうち、プレスされた部分の平面度合いを高くするのに好適である。この点も、後述する実験データから理解することができる。
【0010】
本発明の第2の側面により提供される金属製丸パイプは、本発明の第1の側面により提供される金属製丸パイプの加工方法を用いて加工されたことを特徴としている。この金属製丸パイプは、熱交換器の伝熱管として構成することができる。
【0011】
このような構成の金属製丸パイプは、湾曲した曲げ部の外面に、大きな窪みを生じることなく平面化された部分を有するものとなる。平面化された部分の平面度合いは高いために、この部分には、たとえばセンサなどの機器を好適に取り付けることが可能となる。また、平面化された部分が、金属製丸パイプの内側に大きく窪んだ状態にはならないために、その部分の内幅(内径)が狭小になることも抑制され、金属製丸パイプ内に流体を流通させる場合に、大きな流路抵抗を生じないようにすることもできる。
【0012】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、本発明において用いられる金属製丸パイプおよびパンチの一例を示す要部正面図であり、(b)は、(a)のI−I断面図である。
【図2】図1に示す金属製丸パイプにパンチを用いて加工を施す状態を示す要部断面図である。
【図3】(a)は、図2に示す加工方法により平面化処理部が形成された金属製丸パイプの一例を示す要部正面図であり、(b)は、(a)のIII−III断面図である。
【図4】金属製丸パイプに形成された平面化処理部の他の例を示す要部断面図である。
【図5】本発明の他の例を示す要部正面図である。
【図6】本発明の他の例を示す要部正面図である。
【図7】(a),(b)は、金属製丸パイプの曲げ部の一部を平面化して利用する例を示す要部正面図である。
【図8】本発明との対比例を示す要部正面図である。
【図9】本発明との対比例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
図1〜図3は、本発明の一例を示している。本実施形態の金属製丸パイプの加工方法は、図1に示すような金属製丸パイプ1を加工対象としている。この金属製丸パイプ1は、曲げ加工が施されたステンレス製または銅製などのパイプであって、全体または一部が正面視U字状であり、半円弧状に湾曲した曲げ部10を有している。
【0016】
曲げ部10の外面の一部を平面化するために用いるパンチ2は、硬質の金属製であって、図1(b)に示すように、先端の押圧用面20は、一対の傾斜面部20aを有する構成である。これら一対の傾斜面部20aは、略くの字状であり、押圧用面20の両端部側(図1(b)では上下両端部側)よりも中央部側が窪むように傾斜している。各傾斜面部20aは、平面状であることが好ましいが、平面に近い曲面とすることも可能である。一対の傾斜面部20aの夾角αは、たとえば150°〜160°の範囲である。
【0017】
曲げ部10の外面の一部を平面化するには、図2に示すように、パンチ2の一対の傾斜面部20aの双方を曲げ部10の外面に対面接触させるようにして、パンチ2を用いたプレス加工を施し、曲げ部10の外面の一部を押し潰す。その際、金属製丸パイプ1については、適当なホルダ(図示略)を用いて固定させておく。
【0018】
前記した加工方法によれば、図3(a),(b)に示すような平面化処理部14が形成される。この平面化処理部14は、曲げ部10の内側に向けた窪みを生じることなく、その表面が略平面状とされた形態である。このような平面化処理部14が形成されるのは、次のような理由によると考えられる。すなわち、プレス加工対象となる曲げ部10の外面は、元々は球面の一部に近い凸状の3次曲面であるが、前記した加工方法によれば、この3次曲面の頂部(パンチ2の対面箇所のうち、パンチ2に向けて最も突出している部分)およびその近傍部分のプレス量は抑制され、それ以外の部分のプレス量よりも少なくなる。その結果、前記した3次曲面の頂部およびその近傍部分が金属製丸パイプ1の内側に大きく反転するように変形する現象が防止され、平面度合いが高い平面化処理部14が得られる。
【0019】
前記した加工が施された金属製丸パイプ1は、たとえば特許文献1に記載されているような熱交換器の伝熱管として利用される。平面化処理部14は、先に述べた図7の平面化処理部14’と同様な役割を果たし、たとえばセンサ類などの機器を取り付けたり、あるいは他の部材との干渉を回避するのに役立つ。平面化処理部14は、既述したように、平面度合いが高いために、センサ類などの機器の取り付けを容易かつ適切に行なうことが可能である。また、平面化処理部14が金属製丸パイプ1の内側に大きく窪んでいないために、平面化処理部14の形成箇所においてパイプの内幅が狭小になることも抑制される。したがって、金属製丸パイプ1内に流体を流通させる場合に、平面化処理部14が大きな流路抵抗となる不具合も適切に解消することができる。
【0020】
本件発明者は、パンチ2として、一対の傾斜面部20aの夾角αが相違するものを用いて、金属製丸パイプの曲げ部にプレス加工を施す実験を行なった。加工対象となる金属製丸パイプとしては、次の第1ないし第3の金属製丸パイプを用いた。
第1の金属製丸パイプ:ステンレス製(JIS:SUS304L)、外径8mm、肉厚0.3mm、曲げ部の曲げ半径20mm
第2の金属製丸パイプ:銅製(JIS:C1220T)、外径18mm、肉厚1.0mm、曲げ部の曲げ半径20mm
第3の金属製丸パイプ:銅製(JIS:C1220T)、外径12.7mm、肉厚0.6mm、曲げ部の曲げ半径24mm
曲げ部のうち、プレス加工を施した位置は、図1〜図3に示した先の実施形態と同様な位置である。
本実験の結果は、次の「表1」に示すとおりであり、第1ないし第3の金属製丸パイプのいずれについても同様な結果が得られた。
【0021】
【表1】

【0022】
表1の結果から理解されるように、パンチ2の一対の傾斜面部20aの夾角αが、180°である場合には、背景技術の欄(図9)で説明したのと同様に、プレス加工された部分がパイプの内側に大きく窪んだ。これに対し、夾角αが150°または160°の場合には、プレス加工された部分がパイプの内側に窪むことはなく、その表面は平面に近い状態となった。夾角αが140°である場合には、図4に示すように、平面化処理部14に小さい2箇所の窪み部15が生じた。
【0023】
前記した結果からすると、夾角αを150〜160°の範囲内とすれば、平面化処理部14が窪みのない平面に近い形態となることが理解できる。実験で用いられた金属製丸パイプの材質は、ステンレス製および銅製の2種類であるが、これら以外の材質であっても、これらと同様な硬度または性質の材質であれば、前記と同様な結果が得られるものと考えられる。
【0024】
夾角αを140°にした場合には、小さい窪み部15が生じるものの、この窪み部15は、図9で示した窪み部と比較すると小さい。したがって、夾角αを140°程度まで小さくした場合であっても、夾角αが180°の場合よりは、平面化処理部14を良好な形態にすることが可能である。したがって、本発明においては、夾角αを150°未満にすることも可能である。
【0025】
図5および図6は、本発明の他の実施形態を示している。これらの図において、前記実施形態と同一または類似の要素には、前記実施形態と同一の符号を付している。
【0026】
図5に示す実施形態では、パンチ2によるプレス加工対象部位が、金属製丸パイプ1の曲げ部10の最端部n1(同図の右端部分)ではなく、この最端部n1からずれた部分n2とされている。この部分n2の外面も、最端部n1の外面と同様な球面に近い3次曲面であり、前記実施形態で得られた平面化処理部14を形成することができる。曲げ部10の外面のうち、最外周寄りの領域A(中心線Cよりも外周寄りであって、クロスハッチングが入れられた領域)の外面は、球面に近い3次曲面であるために、前記した領域Aのいずれの箇所を平面化する場合においても、本発明は最適である。
【0027】
図6に示す実施形態では、金属製丸パイプ1の曲げ部10が、いわゆる1/4円弧状である。このような形態の曲げ部10であっても、本発明を適用し、表面が平面に近い平面化処理部を適切に形成することが可能である。もちろん、半円弧状や1/4円弧状以外の
曲げ部にも、本発明を適用することができる。
【0028】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る金属製丸パイプの加工方法の具体的な工程は、本発明の意図する範囲内で変更自在である。また、本発明に係る金属製丸パイプの各部の具体的な構成は、設計変更自在である。
【0029】
本発明が適用された金属製丸パイプは、熱交換器の伝熱管として利用するのに適するが、これ以外の用途に用いることもできる。
【符号の説明】
【0030】
1 金属製丸パイプ
2 パンチ
10 曲げ部(金属製丸パイプの)
14 平面化処理部
20 押圧用面(パンチの)
20a 傾斜面部(押圧用面の)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製丸パイプの湾曲した曲げ部の外面に、パンチを用いてプレス加工を施し、前記曲げ部の外面の一部を平面化するための金属製丸パイプの加工方法であって、
前記パンチの先端に形成された押圧用面については、この押圧用面の両端部側よりも中央部側が窪むように傾斜した一対の傾斜面部を有する構成としておき、
前記曲げ部の外面にプレス加工を施す際には、前記一対の傾斜面部の双方を前記曲げ部の外面に対面接触させることを特徴とする、金属製丸パイプの加工方法。
【請求項2】
前記一対の傾斜面部の夾角は、150〜160°の範囲内とされている、請求項1に記載の金属製丸パイプの加工方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属製丸パイプの加工方法を用いて加工されたことを特徴とする、金属製丸パイプ。
【請求項4】
熱交換器の伝熱管として構成されている、請求項3に記載の金属製丸パイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−135784(P2012−135784A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289041(P2010−289041)
【出願日】平成22年12月26日(2010.12.26)
【出願人】(000004709)株式会社ノーリツ (1,293)