説明

金属製容器蓋

【課題】ライナーが接着塗料層を介して内部に接着固定されている金属製容器蓋であって、接着塗料層の上にマスキング層などの格別の層を形成することなく、該ライナーの周縁部を自由端とするための非接着領域が形成されている金属製容器蓋を提供する。
【解決手段】円形天面壁7及びスカート壁9を有する金属薄板製のキャップシェルと、天面壁7の内面に配設されたライナー5とを具備している金属製容器蓋において、天面壁7の内面には接着領域Xと非接着領域Yとが形成されており、ライナー5は、接着領域X及び非接着領域Yに密接しており、接着領域Xは、天面壁の内面に形成された接着塗料層30から形成されており、非接着領域Yは、接着塗料層30へのレーザ光照射により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製容器蓋に関するものであり、より詳細には、円形天面壁及び該天面壁の周縁から垂下する円筒形スカート壁を有する金属薄板製シェルと、該シェルの円形天面壁内面に配設された合成樹脂製ライナーとを具備している金属製容器蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミやスチール等の金属製薄板を成形加工して得られる金属製容器蓋は、ガラスビンや金属製容器などの剛性の容器の蓋として広く使用されている。このような金属製容器蓋は、円形天面壁と該天面壁の周縁から垂下する円筒形スカート壁とを有する金属薄板製シェルを備えており、この円形天面壁の内面には、容器口部との密封性を確保するために、合成樹脂製のライナーが配設されている。即ち、容器蓋を容器口部に装着したとき、該容器の上端部分に、柔軟性の高い合成樹脂製ライナーが密着することにより密封性が確保されるわけである。
【0003】
上記のような合成樹脂製ライナーの配設は、キャップ形状に成形された金属薄板製シェルの天面壁内面部分に溶融樹脂を滴下し、滴下された樹脂溶融物を該シェル内で圧縮成形することにより行われる。この場合、金属薄板シェルの内面には、予め接着塗料層が形成されており、ライナー形成用の樹脂が天面壁の内面に接着固定されるようになっている。
【0004】
上記のようにして配設される合成樹脂製ライナーでは、その全面が金属薄板シェルに接着固定されるが、最近では、その周縁部を金属薄板シェル(天面壁)に対して非接着とすることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
即ち、金属製容器蓋は、合成樹脂製ライナーを配設した後、これを容器口部に被せ、適当な治具を用いて天面壁の周縁部分及びスカート壁の上端部分を容器口部の外面に沿ってかしめていき、さらに容器口部の外面の螺子をスカート壁に転写していくことにより、容器蓋への螺子の成形と容器蓋の容器口部への装着とが同時に行われる。このようにして金属製容器蓋を容器口部に装着する場合、ライナーの周縁部が金属薄板シェル(天面壁周縁部)に接着固定されていないほうが、天面壁の周縁部分及びスカート壁の上端部分を容器口部の外面に沿ってかしめていく際、ライナーの周縁部分が容器口部の上端を巻き込むように容易に変形して密着し、高い密封性を容易に確保でき、さらに、この容器口部との密着部分でのライナーの自由度が高いため、衝撃に対する耐性も高く、衝撃による密封破壊も有効に防止することができるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−153973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、合成樹脂製ライナーを金属製薄板シェルの天面壁の内面に接着固定すると同時に、該ライナーの周縁部分を天面壁内面に非接着とするためには、円形に打抜き加工する前の金属製薄板の内面全体にわたって接着塗料層を設け、この後に、ライナーの周縁部分に相当する部分にマスキング層を形成し、次いで、蓋形状に曲げ絞り加工し、この状態で前述したようにシェル内部にライナー用の樹脂溶融物を滴下して圧縮成形を行ってライナーを形成するという手段が採用されている。
【0007】
上記のようにしてライナーの周縁部が天面壁内面に非接着となっている金属製容器蓋を作製する場合、マスキング層形成後、ライナー成形までの段階でマスキング層の剥離が生じてしまい、ライナー周縁部を非接着として密封性を向上させるという目的が十分に達成されないことがあった。即ち、マスキング層は樹脂等に対する接着性が非常に乏しいものであるばかりか、マスキング層の下地となっている接着塗料層には、ライナーとの接着性を向上させる接着成分(例えば酸変性オレフィン樹脂)に加え、摩擦係数低減による易開栓性向上のために各種ワックス類などが滑剤として配合されている。このため、マスキング層形成後の過酷な成形加工時にマスキング層が接着塗料層から剥離してしまうなどの不都合が生じ易くなっているのである。
【0008】
また、マスキング層は、例えば、所定のインク(マスキングインキと呼ばれている)を塗布し、硬化させることにより形成されるが、このようなマスキングインキとしては、接着塗料層との接着性を高めるために油脂成分(グリセリン脂肪酸エステル)などが配合された油変性アルキドインキが好適に使用されている。このようなマスキングインキには特有の油臭があり、従って、所定の内容物が充填された容器の口部に装着した場合、内容物のフレーバーを損ねてしまうという問題もあった。
【0009】
従って、本発明の目的は、合成樹脂製ライナーが接着塗料層を介して内部に接着固定されている金属製容器蓋であって、接着塗料層の上にマスキング層などの格別の層を形成することなく、該ライナーの周縁部を自由端とするための非接着領域が形成されている金属製容器蓋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、円形天面壁及び該天面壁の周縁から垂下する円筒形スカート壁を有する金属薄板製シェルと、該シェルの円形天面壁内面に配設された合成樹脂製ライナーとを具備している金属製容器蓋において、
前記円形天面壁の内面には、接着領域と非接着領域とが形成されており、前記ライナーは、該接着領域及び非接着領域に密接しており、
前記接着領域は、前記円形天面壁の内面に形成された接着塗料層から形成されており、前記非接着領域は、該接着塗料層へのレーザ光照射により形成されていることを特徴とする金属製容器蓋が提供される。
【0011】
本発明の金属製容器蓋においては、
(1)前記非接着領域には、前記接着塗料層が残存しており、該非接着領域において、該接着塗料層と円形天面壁との間で界面剥離が生じていること、
或いは
(2)前記非接着領域には、前記接着塗料層が残存しており、該非接着領域において、前記ライナーが該接着塗料層の表面に非接着であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明において、合成樹脂製ライナーは、天面壁の内面に形成された接着塗料層上に滴下され、金属製薄板シェル内で溶融樹脂を圧縮成形することにより形成される。即ち、この接着塗料層が接着領域となっており、この部分で、該ライナーは、天面壁の内面に接着固定されており、これにより、この容器蓋を容器口部に装着したとき、該ライナーが脱落することなく容器口部の上端に密着するように保持され、シール材として効果的に機能することとなる。
【0013】
また、金属製薄板シェル内の上記ライナーが施される部分には、上記の接着領域と共に、非接着領域が形成されており、この領域で該ライナーは接着固定されておらず、高い自由度を有している。従って、例えば、非接着領域を円形天面壁の周縁部分に配置することにより、このライナーは、該容器蓋を容器口部に装着してかしめる際に、容器口部の上端を巻き込むように容易に変形して密着し、高い密封性を容易に確保できる。また、容器口部との密着部分でのライナーの自由度が高く、従って、衝撃に対する耐性が高く、衝撃による密封破壊も有効に防止することができる。
【0014】
さらに、金属製容器蓋には、スカート壁から天面壁の周縁部にかけて破断用のスコアを設けた構造のものが知られている。このようなキャップでは、螺子は形成されておらず、スカート壁に連結された把持リングを持ってスコアを破断し、この容器蓋を容器口部から取り外すものである。このような容器蓋においても、円形天面壁のスコアよりも若干内側から外側の位置に非接着領域を形成しておくことにより、開栓時に、把持リングを持ち上げてスコアを破断し、容器蓋を容器から取り除く際に、スコアで囲まれた引き裂き部と共にライナーが持ち上げられ、スコアの外側のスカート部を容器から容易に取り除くことができる。
【0015】
本発明においては、上記の非接着領域は、接着塗料層にレーザ光を照射することにより形成される点が最も大きな特徴である。レーザ光の照射により、接着塗料層が変質或いは除去され、接着塗料層のライナーや金属製薄板シェル(天面壁内面)への接着性が失われ、これにより、非接着領域が形成されるわけである。
即ち、本発明においては、非接着領域を形成するために、接着塗料層の上にマスキング層等の格別の層を設ける必要は無い。従って、マスキング層の剥離やマスキング層による油臭に起因するフレーバー性の低下などの不都合を確実に防止し、ライナーに自由度の高い部分を形成した利点(例えば密封性の向上等)を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の容器蓋の一例を容器口部に載置した状態を示す半断面側面図。
【図2】図1の一部拡大概略断面図。
【図3】図1の容器蓋を容器口部に巻締める工程を示す部分断面図。
【図4】図1に示す容器蓋が容器口部に巻締められた状態を示す半断面側面図。
【図5】図4の一部拡大概略断面図。
【図6】図1の容器蓋の天面壁内面とライナーとの接着状態を示す平面図。
【図7】レーザ光照射により形成される非接着領域のパターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図2を参照して、本発明の金属製容器蓋は、金属薄板製シェル(以下、キャップシェルと呼ぶことがある)3と該シェル3内に設けられている合成樹脂製ライナー5とから構成されている。
【0018】
キャップシェル3は、円形天面壁7と、この天面壁7の周縁から垂下する略円筒形状のスカート壁9とを有しており、適度な強度が確保される限り、その材質は制限されず、例えば、アルミニウム若しくはアルミニウム合金等の金属薄板から形成されていてよいが、特に優れた耐落下衝撃性を確保するという観点からは、例えば厚さが0.22乃至0.26mm程度の厚みのアルミニウム基合金製薄板から形成されていることが好ましく、その引張強度は、200乃至230N/mmの範囲にあることが好適である。
【0019】
合成樹脂製ライナー5としては、適度のクッション性と密封性とを有する合成樹脂、例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系樹脂エラストマーや、軟質塩化ビニル系樹脂などが使用される。このような合成樹脂製ライナー5は、キャップシェル3内にライナー形成用樹脂の溶融物を滴下しての型押しにより成形され、キャップシェル3の天面壁7の内面に接着固定されている。
【0020】
図1から明らかなように、スカート壁9の下端は、半径方向外方に膨出せしめられており、膨出しているこの下端部には、破断可能な複数のブリッジ11を介してタンパーエビデント(TE)裾部13が連なっている。
【0021】
上記のスカート壁9の略中央部は、後述する巻締めによって螺子が形成される螺子形成領域15となっており、この螺子形成領域15の上端には環状溝17が形成されている。この環状溝17は、巻締めのための治具を導入するためのものである。
【0022】
環状溝17の上方には、ナール19が形成されており、これにより、この容器蓋のグリップ性が高められ、開栓或いは閉栓を容易に行い得るようになっている。
また、ナール19の上端には、周方向に延びている弧状スリット20が適当な間隔で複数形成されている。この弧状スリット20は、内容物の腐敗等により容器の内圧が異常に上昇した場合のガス抜き、炭酸ガス飲料用容器などの内圧容器に装着された容器蓋を開封する際のガス抜き、或いは洗浄水を導入するために設けられているものである。
【0023】
上記の金属製容器蓋は、図1及び図2に示されているように、容器口部70に被せられ、図3に示す巻締め工程によって容器口部70に巻締められ、これにより、図4及び図5に示されている様に容器口部70に固定され、容器口部70が密封されることとなる。
【0024】
容器口部70(容器)は、金属、ガラス、硬質樹脂等からなるものであり、図に示す例では金属製のものが例示されている。図1〜図5に示されているように、容器口部70の上端にはカール部71が形成され、側面には、螺子73が形成され、螺子73の下方には顎部75が形成されている。
【0025】
合成樹脂製ライナー5は、既に述べたように、天面壁7の内面に合成樹脂溶融物を供給し、この溶融物を所要形状に型押成形することによって形成され、好都合に形成することができる。図示の実施形態におけるライナー5は、比較的肉薄の円形中央部5aと比較的肉厚の環状周縁部5bとから構成されており、環状周縁部5bの中央部分は若干凹んだ凹部となっている。
【0026】
図1に示されているように、容器口部70に巻締めるために容器蓋(シェル3)を容器口部70に被せた状態では、容器口部70の上端(カール部71)に前述したライナー5の環状周縁部5bの凹部が対面し、また、容器蓋のTE裾部13の下端が容器口部70の顎部75の下側に位置する。
【0027】
即ち、図1に示されているように、容器蓋を容器口部70に被せた状態で、図3に示すようにして巻締めが行われる。即ち、容器口部70に被せられた容器蓋を、外側押圧具77で容器口部70の上端に押さえ付けて、天面壁7の周縁部からスカート壁9の上端部分をかしめていきながら(巻締め初期)、螺子形成用ローラ79を容器蓋の環状溝17に導入し、次いで容器蓋のスカート壁9を押し付けながら容器口部70の雄螺子73に沿ってローラ79を回転させていくことにより、スカート壁9の螺子形成領域15に、容器口頸部70の雄螺子73と螺子係合する雌螺子25を形成する。
一方、容器蓋のTE裾部13の下端は、裾部巻締めローラ80によって容器口部70の顎部75の下側に押し付けられ、これにより、顎部75の下側に沿って変形することとなる。
【0028】
上記の巻締め工程によって、図4に示すように、シェル3からなる金属製容器蓋は、容器口部70に巻締め固定され、容器口部70(カール部71)の上端及び外周部に前述したライナー5の環状周縁部5bが密着することにより、容器口部70が密封されることとなる。この状態において、スカート壁9は容器口部70の外面に螺子係合しており、且つTE裾部13の下端は、容器口部70の顎部75の下側に固定されている。
【0029】
容器口部70に巻締め固定されている容器蓋は、これを開栓方向に回転させていくことにより、スカート壁9が上昇して容器口部70から取り除かれるが、この際、TE裾部13は、その下端が容器口部70の顎部75の下側に係合するために、その上昇が制限され、この結果、ブリッジ11が破断し、TE裾部13がスカート壁9から切り離される。従って、容器口部70から除去された容器蓋ではTE裾部13が切り離されており、これにより、開封の事実を認識することができる。
【0030】
ところで、図4に示されているように、容器口部70に被せた状態での巻締めにより、天面壁7の周縁からスカート壁9の上端にかかる部分が容器口部70のカール部71にかしめられ、これにより、ライナー5の環状周縁部5bが天面壁7及びスカート壁9と共に屈曲してカール部71を巻き込むようにして該カール部71と密着し、これにより、良好な密封性が確保される。
【0031】
ライナー5の環状周縁部5bは、上記のようにしてカール部71に密着されるため、この環状周縁部分5bは天面壁7とは非接着に保持される。即ち、ライナー5の円形中央部5aは天面壁7の内面に強固に接着固定され、その脱落や位置ずれが有効に防止されるが、環状周縁部分5bは、天面壁7の内面に非接着の状態(要するにフリーの状態)に保持される。ライナー5の環状周縁部分5bがフリーの状態に保持されていた方が、上記のような巻締めに際して、天面壁7の周縁部やスカート壁9の上端部分の変形にライナー5の環状周縁部分5bがスムーズに追随してカール部71に密着し、良好な密封性を確保することが可能となるからである。また、ライナー5の環状周縁部分5bがフリーの状態に保持されていた方が、耐衝撃密封性の点でも効果的であり、大きな衝撃を受けた場合においても、スカート壁9や天面壁7に加わる振動や変形等の影響を受けず、カール部71との密着性を維持することもできる。
【0032】
したがって、図2及び図5の部分拡大断面図と共に、天面壁7の内面とライナー5との接着状態を示す図6を参照して、本発明の容器蓋においては、ライナー5が設けられる天面壁7は、その中央部分が接着領域Xとなっており、その周縁部分が非接着領域Yとなっている。即ち、天面壁7の内面には接着塗料層30が形成されており、これにより、接着領域Xが形成されるが、その周縁部では、接着塗料層30の接着性が消失されており、これにより非接着領域Yが形成されている。このような接着領域X及び非接着領域Yが形成されている天面壁7の内面に、ライナー形成用樹脂の溶融物を滴下し、型押成形を行うことにより、ライナーの肉薄円形中央部5aから若干環状周縁部分5bに入った領域が接着領域Xに強固に接着固定され、接着領域Xより外側の環状周縁部分5bが非接着領域Yで天面壁7の内面に非接着の状態に保持されたライナー5が成形され、前述した巻締め工程によって、このライナー5の環状周縁部分5bが容器口部70のカール部71に密着せしめられて密封が形成されるわけである。
尚、図2及び図5では、接着塗料層30が示されているが、他の図では、接着塗料層30は省略されている。
【0033】
上記のような接着領域Xを形成する接着塗料層30は、それ自体公知の接着塗料により形成される。
このような接着塗料は、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂等の膜形成用樹脂に、硬化剤として、フェノール樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート樹脂を含み、これらの樹脂成分を、適宜ラジカル重合開始剤等と共に、アルコール類、ケトン類等の有機溶剤に溶解乃至分散させたものであり、接着性を高めるために、酸変性オレフィン樹脂が接着成分として配合されている。この酸変性オレフィン樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンを、不飽和カルボン酸乃至その無水物、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸や、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸等によって変性したものを挙げることができる。
また、上記の接着塗料層30は、キャップシェル3への成形加工前の金属薄板の内面に形成するものであり(その厚みは0.5乃至10μm程度)、従って、天面壁7の内面と共にスカート壁9の内面を含め、キャップシェル3の内面全体に形成される。従って、上記の接着塗料には、容器口部70の螺子73に対しての滑り性を高め、開栓性を高めるために、石油合成系ワックスや、脂肪酸エステルなどからなる天然ワックスに代表される滑剤成分も配合されている。
【0034】
ところで、従来では、接着塗料層30の上にマスキング層を設けることにより接着領域Xと非接着領域Yを形成していたが、このようなマスキング層は接着塗料層30に対する接着性が極めて乏しいため、ライナー5を形成する前の段階で、その剥離等を生じ易く、従って、ライナー5の周縁部を確実に非接着状態に保持することができない虞があった。
【0035】
しかるに、本発明によれば、非接着領域Yを接着塗料層30にレーザ光を照射することにより形成する。即ち、マスキング層のような格別の層を接着塗料層30の上部に設けることにより非接着領域Yを形成する場合には、マスキング層と接着塗料層30との接着不良やマスキング層の剥離等が問題となるが、本発明では、レーザ光を接着塗料層30に照射することにより非接着領域Yを形成しているため、層剥離等の問題は全く生じることがなく、確実に非接着領域Yを形成することができる。
【0036】
レーザ光照射により形成される非接着領域Yには、レーザ光の照射エネルギー密度に応じて、図7に示す3つのパターンがある。
【0037】
図7(a)で示されるパターンは、照射エネルギー密度を高くしてレーザ光を照射した場合であり、この場合には、レーザ光が照射された部分で樹脂が熱分解し(レーザアブレーション)、接着塗料層30が消失し、非接着領域Yが形成されることとなる。
【0038】
図7(b)で示されるパターンは、照射エネルギー密度を中程度としてレーザ光を照射した場合であり、接着塗料層30のレーザアブレーションが表面側から進行しており、その上層部分のみが消失しており、接着塗料層30自体は残存している。この場合には、接着塗料層30中に配合され、表面に移行している接着成分(例えば酸変性オレフィン樹脂)が分解乃至変質してしまい、残存している接着塗料層30のライナー5に対する接着性が消失し、非接着領域Yが形成されている。また、この場合には、接着性の消失により、接着塗料層30とシェル3(天面壁7)との間での密着力が大きく低下し、場合によっては界面剥離も生じている。
【0039】
図7(c)で示されるパターンは、照射エネルギー密度をさらに低くしてレーザ光を照射した場合であり、接着塗料層30のレーザアブレーションは発生しておらず、接着塗料層30はそのまま残存している。この場合、接着塗料層30の表面ではライナー5に対する接着性を保持しているが、この接着塗料層30とシェル3(天面壁7)との密着性は著しく低下し、その180度ピール強度(JIS K6850)は0.5N以下であり、好ましくは界面剥離を生じている。即ち、低出力条件では、レーザ光を照射した場合、接着塗料層30の表面側では熱が容易に放散されるため、変質や分解は生じないが、シェル3(天面壁7)との界面側では、レーザ光の反射の影響及び熱が放散され難いため、接着塗料層30中の塗料構成樹脂あるいは接着性成分が変質を生じ、この結果、接着塗料層30とシェル3(天面壁7)との密着性は著しく低下することとなる。
かかるパターンでは、ライナー5はレーザ光が照射された領域で接着塗料層30と接着しているが、ライナー5を引き剥がすと、ライナー5に追随して接着塗料層30もシェル3から引き剥がされることとなる。即ち、ライナー5は、接着領域Xと同様に接着塗料層30に接着しているものの、シェル3(天面壁7)とは非接着の状態に保持されており、レーザ光が照射された領域は非接着領域Yとなる。
【0040】
本発明において、特に好適に採用されるパターンは、接着塗料層30の分解に由来するダストの発生が少ないという観点から、図7(b)及び(c)のパターンであり、特に図7(c)のパターンはダストが全く発生せず、本発明では最適である。
【0041】
尚、レーザ光の照射エネルギー密度の調整は、例えばレーザ光の出力調整による以外にも種々の手段を採用することができ、例えばレーザ光源(レーザ発振器)と接着塗膜30との距離やレーザ光のスポット径の調整等によっても行うことができる。即ち、レーザ光源と接着塗膜30との距離を小さくすれば照射エネルギー密度は大きくなり、この距離を大きくすれば照射エネルギー密度は小さくなる。また、接着塗膜30に照射されるレーザ光のスポット径を小さくすれば、照射エネルギー密度は大きくなり、スポット径を大きくすれば照射エネルギー密度は小さくなる。従って、用いるレーザ源の種類や接着塗膜30のレーザ光吸収特性等に応じて、レーザ光の照射条件によって照射エネルギー密度を調整し、目的とするパターンで非接着領域Yを形成すればよい。
【0042】
また、上述した説明から理解されるように、本発明では低出力レベルでのレーザ光の照射によって非接着領域Yを形成することができるため、レーザ源としては、接着塗膜30がある程度の吸収特性を示すものであれば、種々のものを使用することができる。例えば、溶接や機械加工の分野では、YAG、ファイバーレーザ等の固体レーザが広く使用されているが、本発明では、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ等の気体レーザを使用することもでき、これは、生産コストの観点から大きな利点である。
【0043】
例えば、アルミニウム板の表面に、市販の接着塗料(東洋インキ、関西ペイント、DICグラフィックス社製接着ニス)を塗布して厚みが4μmの接着塗膜30を形成し、レーザ発振器(YAGレーザ)を使用し、出力を13W及びスポット径を60μmに固定したまま、レーザ発振器と接着塗膜30との間隔を変更してレーザ光を照射することにより(照射時間0.5秒)、図7(a)〜(c)に示すパターンで非接着領域Yが形成されることを確認することができる。
【0044】
即ち、上記の間隔を190mmに設定してレーザ光を照射したときには、出力密度が極めて高く、図7(a)に示すパターンで非接着領域Yが形成され、レーザ光照射部(非接着領域Y)には接着塗膜30は完全に消失していた。
【0045】
また、上記の間隔を200mmに設定してレーザ光を照射したときには、出力密度が低下しているため、図7(b)に示すパターンで非接着領域Yが形成され、レーザ光照射部(非接着領域Y)では接着塗膜30が残存していたが、ライナーに対する接着性は示さなかった。
【0046】
さらに、上記の間隔を210mmに設定してレーザ光を照射したときには、出力密度がさらに低下しているため、図7(c)に示すパターンで非接着領域Yが形成された。即ち、レーザ光照射部(非接着領域Y)には接着塗膜30が残存しており、しかも、この接着塗膜30はライナーに対する接着性も示したが、アルミニウム板との間には界面剥離が生じていた。
【0047】
尚、レーザ光照射部(非接着領域Y)での接着塗膜30の有無は、その表面の顕微鏡観察や硫酸銅水溶液との反応性により確認することができる。例えば、接着塗膜30が残存している場合には、硫酸銅水溶液はアルミニウム板と反応しないが、消失している場合には、アルミニウム板と反応する。
また、レーザ光照射部(非接着領域Y)での接着塗膜30とアルミニウム板との界面剥離は、接着塗膜30に膨れが発生することから確認することができる。即ち、接着塗膜30とアルミニウム板との界面での接着塗膜30の変質等により生じたガスにより膨れが生じるからである。
【0048】
本発明において、接着塗膜30へのレーザ光照射による非接着領域Yの形成は、接着塗膜30形成後、インシェルモールドでのライナー5の成形前の任意の段階で行うことができるが、金属製薄板をキャップ形状に成形した後に行うことが好適である。
【0049】
即ち、金属製薄板には、その内面の全体にわたって接着塗膜30が形成され、その外面にも、その全体にわたって適宜印刷層が形成される。このような塗装金属製薄板の内面の所定位置(キャップシェル3に成形したときにライナー5の外周縁部分が密着する天面壁7の周縁部分)にレーザ光を照射して非接着領域Yを形成することは可能である。しかしながら、この塗装金属製薄板は、例えば1m前後の幅を有しており、打抜き、曲げ絞り加工等により、この薄板からは多数のキャップシェル3が成形される。従って、打抜き前の段階でレーザ光を照射する場合には、極めて大型のレーザ光照射装置を使用したり、或いは多数のレーザ光照射装置が必要となってしまい、生産コストの増大や装置のメンテナンスにも負担がかかってしまう。
【0050】
しかるに、上記のようにして内面に接着塗料層30が形成されている塗装金属製薄板を打抜き、曲げ絞り加工によりキャップシェル3を成形した後、このシェル3の天面壁7の周縁部分にレーザ光を照射して非接着領域Yを形成するという手段を採用する場合には、キャップシェル3の搬送ラインにレーザ光照射装置を配置してレーザ光の照射を行うことができる。このため、レーザ光照射装置の大型化や数の増大を有効に回避することができる。
【0051】
上述した本発明において、非接着領域Yの幅は、図2に示されているように、前述したライナー5の環状周縁部分5bに対応する程度の幅でよく、ライナー5が天面壁7の内面に脱落することなく固定されている限り、かならずしも厳密ではないが、一般的には、非接着領域Yの内周側端部Y’(図2参照)が、容器口部70(カール部71)の内周側端部Zよりも1乃至10mm程度、内周側に位置するように設定するのがよい。おおよそ、この部分のライナー5が容器口部70の上端部分に屈曲して密着して密封部を形成するからである。これよりも内側まで非接着領域が占めるとライナー5の環状周縁部5bが下方に垂れ下がり、容器蓋を容器口部に巻締める際に、ライナー5の環状周縁部5bが容器口部の内周面側に巻き込まれる虞がある。
【0052】
さらに、上述した例では、キャップシェル3は旋回開栓型であり、そのスカート壁9に雌螺子25が容器口部70の雄螺子73からの転写により形成されており、このシェル3を旋回させ、螺子係合を解除することにより、容器口部70から取り除かれる。しかるに、本発明では、非旋回開栓型の金属製容器蓋にも適用できる。
非旋回開栓型容器蓋におけるキャップシェルには、雌螺子は形成されず、例えば特開2002−284219号公報等で示されているように、雌螺子の代わりに、比較的ハイトの短いスカート壁9には引張タブが設けられ、このタブの両端から天面壁に向かって一対の破断用のスコアが延びており、このスコアは、さらに、天面壁9の周縁部に沿って延びている。即ち、このタイプの金属製容器蓋は、タブを引っ張り上げて、スコアを破断することにより、容器蓋(キャップシェル3)を容器口部70から取り外すものである。このようなタイプにおいても、先に述べた理由により、ライナー5の周縁部(天面壁7の周縁部)に非接着領域Yを形成することが望ましく、本発明にしたがって、レーザ光の照射により非接着領域Yを形成することができる。即ち、この場合には、天面壁7のスコアは、非接着領域Y上に位置するように設けることにより、タブの引っ張り上げによるスコアの破断をライナー5が妨害しないようにすることが望ましいからである。
【0053】
本発明の金属製容器蓋では、密封性を付与するためのライナーの周縁部が確実にフリーに保持されているため、その密封性は極めて高く、また耐衝撃性も高く、衝撃による密封性の低下も有効に防止されている。
【符号の説明】
【0054】
3:金属製薄板シェル(キャップシェル)
5:合成樹脂製ライナー
7:天面壁
9:スカート壁
30:接着塗料層
70:容器口部
X:接着領域
Y:非接着領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形天面壁及び該天面壁の周縁から垂下する円筒形スカート壁を有する金属薄板製シェルと、該シェルの円形天面壁内面に配設された合成樹脂製ライナーとを具備している金属製容器蓋において、
前記円形天面壁の内面には、接着領域と非接着領域とが形成されており、前記ライナーは、該接着領域及び非接着領域に密接しており、
前記接着領域は、前記円形天面壁の内面に形成された接着塗料層から形成されており、前記非接着領域は、該接着塗料層へのレーザ光照射により形成されていることを特徴とする金属製容器蓋。
【請求項2】
前記非接着領域には、前記接着塗料層が残存しており、該非接着領域において、該接着塗料層と円形天面壁との間で界面剥離が生じている請求項1に記載の金属製容器蓋。
【請求項3】
前記非接着領域には、前記接着塗料層が残存しており、該非接着領域において、前記ライナーが該接着塗料層の表面に非接着である請求項1に記載の金属製容器蓋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−192972(P2012−192972A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60074(P2011−60074)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000228442)日本クラウンコルク株式会社 (382)
【Fターム(参考)】