説明

金属触媒の製造方法

【課題】担体粒子の表面に担持される金属微粒子の、担持量のばらつきを、できるだけ小さくすることができる、金属触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】金属微粒子のもとになる金属のイオンを含む液相の反応系中に担体粒子を分散させた状態で、加熱下で還元剤の作用によって前記イオンを還元させて、金属微粒子として析出させると共に担体粒子の表面に担持させた後の反応系を、3K/分以上の冷却速度で冷却する金属触媒の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、燃料電池用触媒等として好適に用いることができる金属触媒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用触媒等としては、金属、特に、貴金属を用いた金属触媒が使用されるが、貴金属元素は、地球上に限られた量しか存在しないことから、その使用量を極力、減らして、なおかつ、触媒としての作用は、できるだけ向上させることが求められる。そこで、この要求に対応するために、例えば、カーボンブラックや無機化合物等からなる担体粒子の表面に、金属の微粒子を担持させた複合構造を有する金属触媒が、広く用いられている。
【0003】
触媒作用は、主に、金属の表面において発揮されることから、前記複合構造を有する金属触媒においては、良好な触媒作用を維持しながら、金属の使用量をできるだけ少なくするために、単体粒子の表面に担持させる金属微粒子を、できる限り小粒径で、比表面積の大きいものとすることが有効である。
【0004】
担体粒子の表面に、金属微粒子を担持させる方法としては、含浸法と呼ばれる高温処理法や、液相還元法、気相法等があり、特に、近年、製造設備の簡易化が容易な液相還元法、すなわち、担体粒子を、金属微粒子のもとになる金属のイオンを含む、液相の反応系中に分散させた状態で、前記金属のイオンを、還元剤の作用によって還元させることで、微粒子状に析出させると共に、担体粒子の表面に担持させる方法が、広く普及しつつある。
【0005】
液相還元法によって形成する金属微粒子の粒径を小さくするためには、担体粒子の比表面積を大きくすることが、有効であると考えられている。そのため、例えば、特許文献1では、担体粒子として、比表面積が250〜350m2/g、粒径が150〜350Åである難黒鉛化性カーボンブラックや、比表面積が900〜1500m2/g、粒径が200〜400Åである易黒鉛化性カーボンブラックを使用することが提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、担体粒子として、比表面積が70〜800m2/g、[002]面の平均格子面間隔d002が0.337〜0.348nm、結晶子の大きさLc(002)が3〜18nmであるカーボン担体を用いることが提案されている。さらに、特許文献3では、担体粒子として、比表面積が600〜1200m2/gである炭素粉末を用いることが提案されている。
【0007】
また、金属微粒子の粒径を小さくするためには、液相還元法による金属微粒子の析出時に、液相の反応系中に、ホウ素、ケイ素、リン、硫黄、窒素等の不純物元素を含有させておき、これらを、金属元素と共析させる方法も有効であり、例えば、非特許文献1においては、金属元素としての白金とルテニウムとを、不純物元素としてのリンと共析させることで、金属微粒子の粒径を2nmまで小さくできたことが報告されている。
【特許文献1】特開平8−117598号公報
【特許文献2】特開2000−268828号公報
【特許文献3】特開2003−308849号公報
【非特許文献1】電気化学会第72回大会学術講演要旨集1G09(平成17年4月1日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記各方法等の、従来の、液相還元法を利用した製造方法によって製造された金属触媒は、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の担持量が一定せず、ばらつきやすいという問題がある。本発明の目的は、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の、担持量のばらつきを、できるだけ小さくすることができる、金属触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来は、分散媒として水を用い、前記水中に、金属のイオンのもとになる水溶性の金属化合物と、還元剤と、担体粒子とを加えた反応系を、水の沸点以下の所定の温度に加熱して、先に説明した液相還元法により、担体粒子の表面に、金属微粒子を担持させていた。そして、一定時間、反応させた後の、前記反応系を、メンブランフィルタ等のフィルタを用いてろ過処理して、金属微粒子が担持された担体粒子を、反応系から分離することで、析出反応を停止させて、金属触媒を製造していた。
【0010】
また、前記製造方法では、特に、樹脂製であるメンブランフィルタの耐熱温度が、一般的には100℃前後であるが、実際には、70〜80℃程度の液を通過させても、孔が収縮したり、閉塞したりして、ろ過ができなくなる問題があることから、反応系を、加熱を停止した後に、自然に放冷させるか、あるいは、反応系を収容した反応容器に、もしくは前記反応系に直接に、ファン等を用いて、冷却空気を吹き付ける等して70℃以下、好ましくは60℃以下まで冷却した状態で、前記ろ過処理をするのが一般的であった。
【0011】
ところが、発明者が検討した結果、従来の冷却方法では、反応系の全体量や、担体粒子の仕込み量等の違いによって、反応系の熱容量が異なったり、外気温度が異なったりすることで、前記反応系の温度が、先に説明した、ろ過が可能な温度に低下するまでに要する時間がばらついたり、その間の、温度低下の推移に相違が生じたりするため、析出反応の開始時点から、ろ過処理して析出反応を停止させるまでの間に、還元剤の作用によって還元されて析出して、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の総量に違いを生じ、結果として、前記金属微粒子の担持量がばらつくことが明らかとなった。
【0012】
特に、近時、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の担持量を増加させると共に、個々の金属微粒子の粒径を、極力、小さくするために、還元剤として、例えば、エチレングリコール等の、液相の反応系を構成する分散媒としても機能することができる還元性分散媒を用いて、水等の分散媒を省略した反応系を調製し、前記反応系を、水の沸点以上で、かつ前記還元性分散媒の沸点以下の高温に加熱した状態で、液相還元法により、担体粒子の表面に、金属微粒子を担持させることが検討されている。
【0013】
しかし、そのような高温から、先に説明した、メンブランフィルタを用いてろ過することが可能な温度まで反応系を冷却するには、比較的、長い時間を要するため、前記反応系の熱容量の違いや、外気温度の違いによる、冷却時間のばらつきや、温度低下の過程の相違が大きくなって、金属微粒子の担持量のばらつきが、特に大きくなる傾向がある。
【0014】
そこで、発明者は、反応系の液温を、できるだけ速やかに低下させることで、反応系の熱容量の違いや、外気温度の違い等の影響を、極力、排除することを検討した結果、冷却速度を3K/分以上とすればよいことを見出した。したがって、請求項1記載の発明は、金属微粒子のもとになる、金属のイオンを含む液相の反応系中に、担体粒子を分散させた状態で、加熱下で、前記イオンを、還元剤の作用によって還元させて、金属微粒子として析出させると共に、担体粒子の表面に担持させる工程と、前記反応系を、3K/分以上の冷却速度で冷却する工程とを含むことを特徴とする金属触媒の製造方法である。
【0015】
また、前記本発明の効果は、先に説明したように、還元剤として、分散媒としても機能することができる還元性分散媒を用いた系において、特に、有効である。したがって、請求項2記載の発明は、還元剤として、液相の反応系を構成する分散媒を兼ねる還元性分散媒を用いる請求項1に記載の金属触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の、担持量のばらつきを、できるだけ小さくすることができる、金属触媒の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の金属触媒の製造方法は、金属微粒子のもとになる金属のイオンを含む液相の反応系中に担体粒子を分散させた状態で、加熱下で還元剤の作用によって前記イオンを還元させて、金属微粒子として析出させると共に担体粒子の表面に担持させる工程と、前記反応系を3K/分以上の冷却速度で冷却する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0018】
前記本発明の製造方法は、反応系の冷却速度を3K/分以上とすること以外は、従来と同様に実施することができる。すなわち、本発明の金属触媒の製造方法においては、まず、液相還元法によって、担体粒子の表面に、金属微粒子を担持させる。すなわち、担体粒子を、金属微粒子のもとになる金属のイオンを含む、液相の反応系中に分散させた状態で、前記金属のイオンを、還元剤の作用によって還元させることで、微粒子状に析出させると共に、担体粒子の表面に担持させる。
【0019】
この際、液の温度や粘度、かく拌の有無、かく拌する場合は、かく拌速度等を変更することにより、形成される金属微粒子の粒径を調整することができる。すなわち、液の温度が低いほど、また粘度が高いほど、さらに、かく拌する場合は、かく拌速度が低いほど、形成される金属微粒子の粒径が小さくなる傾向がある。したがって、形成する金属微粒子の種類や粒径、使用する還元剤の種類、その他の条件を考慮しながら、液の温度、粘度、かく拌条件等を設定するのが好ましい。
【0020】
反応系は、従来同様に、分散媒として水を含む水系であっても良いが、先に説明したように、還元剤として、分散媒を兼ねる還元性分散媒を使用して、水等の分散媒を省略した反応系が好ましい。前記反応系においては、水等の分散媒中に、還元剤を加えた反応系に比べて、金属のイオンと還元剤とが接触する機会を、飛躍的に増加させることができる。
【0021】
そのため、金属微粒子として析出されない金属イオンの量を極力、少なくして、反応系中に存在する金属イオンの量が一定でも、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の量を、増加させることができる。また、担体粒子の表面に吸着された金属のイオンを核として生成される金属微粒子の数を増加させて、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の量が一定であるとき、個々の金属微粒子の粒径を、できるだけ小さくすることもできる。
【0022】
還元性分散媒としては、所定の温度範囲で液状を呈するため、分散媒としても使用することができる、種々の還元剤が、いずれも、使用可能である。前記還元性分散媒としては、例えば−13℃から+197.6℃までの広い範囲で液状を呈するため、室温(5〜35℃)での、反応系の仕込が容易である上、先に説明したように、反応系を、水の沸点以上の高温に加熱して反応させることができるエチレングリコールが挙げられる。また、同様の働きをする還元性分散媒としては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0023】
一方、分散媒として水を用いた水系の反応系には、水に可溶性の、種々の還元剤を含有させることができる。前記還元剤としては、先に説明したエチレングリコール等の還元性分散媒が挙げられる他、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類や、アスコルビン酸、グルタチオン、有機酸類(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等)、還元性糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、スクロース、マルトース、らフィノース、スタキオース等)、および糖アルコール類(ソルビトール等)が挙げられる。中でも、還元性糖類や、その誘導体としての糖アルコール類、あるいはアルコール類が好ましい。なお、先に説明した、分散媒として還元性分散媒を用いた反応系に、前記各還元剤のいずれかを、補助的に添加することもできる。
【0024】
金属微粒子のもとになる金属のイオン源としては、金属元素を含み、かつ、液相の反応系に可溶性の、つまり、分散媒が還元性分散媒である場合は、前記還元性分散媒に可溶性の、また、分散媒が水である場合は水溶性の、種々の金属化合物が、いずれも使用可能である。また、金属化合物は、可能であれば、核成長の起点となって異常な核成長を生じさせるおそれのある、ハロゲン元素等の不純物元素を含まないのが好ましい。ただし、不純物元素を含む金属化合物を使用する場合でも、反応条件等を調整することにより、異常な核成長を抑えて、担体粒子の表面に、小粒径の金属微粒子を担持させることは可能である。
【0025】
金属のイオン源として好適な金属化合物としては、例えば、白金の場合、ジニトロジアンミン白金(II)(Pt(NO22(NH32)、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(H2〔PtCl6〕・6H2O)等が挙げられ、特に、ジニトロジアンミン白金(II)が好ましい。パラジウムの場合は、塩化パラジウム(II)溶液(PdCl2)、金の場合は、テトラクロロ金(III)酸四水和物(HAuCl4・4H2O)等が挙げられる。
【0026】
銀の場合は、硝酸銀(I)(AgNO3)、メタンスルホン酸銀(CH3SO3Ag)等が挙げられ、特に、硝酸銀(I)が好ましい。ロジウムの場合は、塩化ロジウム(III)溶液(RhCl3・3H2O)、イリジウムの場合は、ヘキサクロロイリジウム(III)酸六水和物(2(IrCl6)・6H2O)、ルテニウムの場合は、硝酸ルテニウム(III)溶液(Ru(NO3)3)、オスミウムの場合は、酸化オスミウム(VIII)(OsO4)等が挙げられる。
【0027】
コバルトの場合は、硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO32・6H2O)、硫酸コバルト(II)七水和物(CoSO4・7H2O)、塩基性炭酸コバルト(II)(xCoCO3・yCo(OH)2・zH2O、x、y、zは製法により異なる、通常はx=2、y=3、z=1)、塩化コバルト(II)六水和物(CoCl2・6H2O)、アセチルアセトンコバルト(II)(Co〔CH(COCH322)、酢酸コバルト(II)四水和物(Co(CH3COO)2・4H2O)等が挙げられる。
【0028】
マンガンの場合は、硝酸マンガン(II)水和物(Mn(NO32・nH2O、n=4〜6)、塩化マンガン(II)四水和物(MnCl2・4H2O)、硫酸アンモニウムマンガン(II)六水和物(Mn(NH42(SO42・6H2O)等が挙げられる。鉄の場合は、硝酸鉄(III)六水和物、九水和物(Fe(NO33・6H2O、9H2O)、塩化鉄(II)四水和物(FeCl2・4H2O)、硫酸鉄(II)七水和物(FeSO4・7H2O)、アセチルアセトン鉄(III)(Fe〔CH(COCH323)等が挙げられる。
【0029】
ニッケルの場合は、硝酸ニッケル(II)六水和物(Ni(NO32・6H2O)、塩化ニッケル(II)六水和物(NiCl2・6H2O)、硫酸ニッケル(II)七水和物(NiSO4・7H2O)、アセチルアセトンニッケル(II)(Ni〔CH(COCH322)、塩基性炭酸ニッケル(II)(aNiCO3・bNi(OH)2・cH2O、a、b、cは製法により異なる、通常はa=2、b=3、c=4)、酢酸ニッケル(II)四水和物(Ni(CH3COO)2・4H2O)等が挙げられる。
【0030】
クロムの場合は、アセチルアセトンクロム(III)(Cr〔CH(COCH323)、塩化クロム(II)(CrCl2)、硝酸クロム(III)九水和物(Cr(NO33・9H2O)等が挙げられる。モリブデンの場合は、塩化モリブデン(V)(MoCl5)、チタンの場合は塩化チタン(IV)溶液(TiCl4)等が挙げられる。
【0031】
担体粒子としては、カーボンブラックや無機化合物等からなる種々の粒子が、使用可能であり、特に、BET比表面積が100〜1500m2/gであるカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックのBET比表面積が、前記範囲であるのが好ましいのは、次の理由による。
【0032】
すなわち、BET比表面積が、前記範囲未満では、カーボンブラックの表面に生成される、多数の金属微粒子の、隣り合う間隔が近くなりすぎて、その成長過程で、隣り合う金属微粒子同士が融合して粒径が大きくなる機会が増加する。そのため、たとえ、分散媒として還元性分散媒を用いた反応系を構成したとしても、担持される金属微粒子の粒径を小さくする効果が、十分に得られないおそれがある。
【0033】
また、前記範囲を超える場合には、多数の金属微粒子の、隣り合う間隔が拡がりすぎるため、金属触媒を、特に、燃料電池用として使用する際に、酸素ガスや水素ガスが金属微粒子間を拡散する過程が、触媒反応の律速段階となって、燃料電池の電池特性を、現状より良好なものとすることができないおそれがある。なお、これらの問題を併せ考慮すると、カーボンブラックのBET比表面積は、前記範囲内でも、特に200〜1400m2/gであるのが好ましい。
【0034】
反応系、特に水系の反応系には、例えば、そのpHを、金属イオンの還元析出に適した範囲に調整するためのpH調整剤、担体粒子を分散させるための分散剤、液相の粘度を調整するための粘度調整剤等の、各種の添加剤を添加してもよい。
【0035】
このうち、pH調整剤としては、各種の酸やアルカリが、何れも使用可能であるが、特に、核成長の起点となって異常な核成長を生じさせるおそれのある不純物元素を含まない酸やアルカリを使用するのが好ましい。不純物元素を含まない酸としては、硝酸等を挙げることができ、アルカリとしては、アンモニア水等を挙げることができる。
【0036】
液相のpHの好適な範囲は、析出させる金属の種類や、そのもとになる金属のイオン源としての、金属化合物の種類等によって異なり、また、その好適な範囲内でpHを小さくするほど、形成される金属微粒子の粒径が小さくなる傾向がある。よって、形成する金属微粒子の種類や粒径、使用する還元剤の種類、その他の条件を考慮しながら、pH調整剤を添加するか否か、添加する場合は、どの程度の量を添加するか、を選択するのが好ましい。
【0037】
また、分散剤や粘度調整剤としては、従来公知の種々の化合物を用いることができるが、この両者の機能を兼ね備えた高分子分散剤を使用するのが好ましい。高分子分散剤としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等のアミン系の高分子分散剤や、カルボキシメチルセルロース等の、分子中にカルボン酸基を有する炭化水素系の高分子分散剤、あるいは、1分子中にポリエチレンイミン部分とポリエチレンオキサイド部分とを有する共重合体(以下「PEI−PO共重合体」とする)等を挙げることができる。
【0038】
高分子分散剤の添加量は、特に、限定されないが、添加量を多くするほど液相の粘度が上昇して、形成される金属微粒子の粒径が小さくなる傾向があることから、製造する金属微粒子の粒径や、使用する還元剤の種類、その他の条件を考慮しながら、好適な添加量の範囲を設定するのが好ましい。
【0039】
次に、本発明の製造方法では、前記各成分を含む反応系を、所定の温度で一定時間、反応させた後、3K/分以上の冷却速度で冷却する。反応系の冷却速度が前記範囲内に限定される理由は、先に説明したとおりである。すなわち、冷却速度が3K/分未満では、反応系の冷却に時間がかかりすぎるため、先に説明したように、反応系の熱容量や外気温度の違い等による影響を受けて、例えば、析出反応の開始時点から、ろ過処理して析出反応を停止させるまでの間に、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の担持量がばらついてしまう。
【0040】
これに対し、反応系の冷却速度が3K/分以上であれば、前記反応系を、熱容量や外気温度の違い等による影響を、極力、排除した状態で、できるだけ速やかに冷却できるため、前記析出反応の開始時点から、ろ過処理して析出反応を停止させるまでの間等に、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の、担持量のばらつきを、できるだけ小さくすることが可能となる。
【0041】
なお、反応系の冷却速度は、前記範囲内でも25K/分以下、特に5〜20K/分であるのが好ましい。冷却速度が前記範囲を超える場合には、冷却の制御が難しくなって、却って、担体粒子の表面に担持される金属微粒子の、担持量のばらつきが大きくなったり、特に、分散媒が水等である場合に、反応系が、過剰な温度低下によって凝固して、ろ過できなくなったりするおそれがある。
【0042】
反応系を、前記範囲内の冷却速度で、速やかに冷却するためには、例えば、耐熱ガラスによってらせん状に形成されて、冷却水の供給手段と接続されていると共に、反応系を収容する反応容器内に、前記反応系に浸漬される下降位置と、反応系から引き上げられる上昇位置の2つの位置の間の任意の位置に移動可能に配設された冷却管等を用いるのが好ましい。
【0043】
前記冷却管は、反応系の加熱による反応時には、前記上昇位置に保持され、反応終了時に、供給手段から、所定の温度の冷却水が連続的に通水された状態で下降されて、反応系に直接に浸漬されることによって、前記反応系を冷却する働きをする。前記冷却管によれば、通水する冷却水の温度や通水量、冷却管の、反応系への浸漬量等を調整することで、反応系を3K/分以上、特に5K/分以上の範囲内の、任意の冷却速度で、急速に冷却することができる。
【0044】
また、例えば、シリコーンゴム製で、冷却水が通水された冷却ホースを、反応系に浸漬することも考えられる。前記冷却ホースによれば、冷却管ほど急速な冷却は期待できないものの、やはり通水する冷却水の温度や通水量、冷却ホースの、反応系への浸漬量等を調整することで、反応系を3K/分程度の冷却速度で冷却することは可能である。
【0045】
冷却の終点は、先に説明したように、メンブランフィルタの孔が収縮したり閉塞したりしない70℃以下、好ましくは60℃以下であるのが好ましく、前記温度範囲まで冷却された反応系を、前記メンブランフィルタを用いてろ過処理して、金属微粒子が担持された担体粒子を、反応系から分離して、析出反応を停止させることで、金属触媒が製造される。また、製造された金属触媒は、その後、洗浄、活性化等の処理を経て、燃料電池用触媒等として使用される。
【実施例】
【0046】
〈実施例1〉
反応系を収容する反応容器と、耐熱ガラスによってらせん状に形成されて、冷却水の供給手段と接続されていると共に、前記反応容器内に、前記反応系に浸漬される下降位置と、反応系から引き上げられる上昇位置の2つの位置の間の任意の位置に移動可能に配設された冷却管と、反応容器に接続された還流管、およびかく拌機と、反応容器を加熱するためのヒータとを備えた反応装置を用意した。
【0047】
そして、前記反応装置の反応容器内に、還元性分散媒としてのエチレングリコールを注入すると共に、カーボンブラック〔ライオン(株)製のケッチェンブラックEC−600JD、BET比表面積:約1300m2/g〕と、白金濃度50g/リットルのジニトロジアンミン硝酸白金溶液とを加えて液相の反応系を調製した。各成分の濃度は、カーボンブラック:10g/リットル、ジニトロジアンミン硝酸白金溶液:30g/リットルとした。また、反応系の全体量は1リットルとした。
【0048】
次に、前記反応系を、マグネチックスターラを用いて、500rpmの回転数でかく拌しながらヒータに通電して、還流下、192℃に加熱することにより、白金イオンを還元させて、白金微粒子として析出させると共に、液相中に分散したカーボンブラックの表面に担持させた後、反応開始から6時間経過した反応系に、かく拌を続けながら、供給手段から0℃の冷却水を連続的に通水した冷却管を、前記下降位置まで下降させて、反応系に直接に浸漬することで、前記反応系を20K/minの冷却速度で60℃まで冷却した後、メンブランフィルタを用いてろ過して白金触媒を製造した。冷却時の外気温度は25℃とした。
【0049】
〈実施例2〜4〉
冷却管に通水する冷却水の温度、通水量、および冷却管の、反応系への浸漬量等を調整して、前記反応系の冷却速度を10K/min(実施例2)、7K/min(実施例3)、5K/min(実施例4)としたこと以外は、実施例1と同様にして白金触媒を製造した。
【0050】
〈実施例5〉
冷却管に代えて、シリコーンゴム製で、0℃の冷却水が通水された冷却ホースを反応系に浸漬して冷却することで、前記反応系の冷却速度を3K/minとしたこと以外は、実施例1と同様にして白金触媒を製造した。
【0051】
〈比較例1〉
反応容器からヒータを引き離すと共に、前記反応容器に、ファンを用いて空気を吹き付けて冷却することで、反応系の冷却速度を1K/minとしたこと以外は、実施例1と同様にして白金触媒を製造した。
【0052】
〈実施例6、7、比較例2〉
カーボンブラックとして、BET比表面積が約220m2/gであるもの〔キャボット社製のVulcan XC−72R〕を用いたこと以外は、実施例1、3、比較例1と同様にして白金触媒を製造した。反応系の冷却速度は20K/min(実施例6)、7K/min(実施例7)、1K/min(比較例2)とした。
【0053】
〈実施例8〉
反応容器内に、分散媒としての水を注入すると共に、還元剤としてのエタノールと、カーボンブラック〔ライオン(株)製のケッチェンブラックEC−600JD、BET比表面積:約1300m2/g〕と、白金濃度50g/リットルのジニトロジアンミン硝酸白金溶液とを加えて液相の反応系を調製した。各成分の濃度は、エタノール800ml/リットル、カーボンブラック:10g/リットル、ジニトロジアンミン硝酸白金溶液:30g/リットルとした。また、反応系の全体量は1リットルとした。
【0054】
次に、前記反応系を、マグネチックスターラを用いて、500rpmの回転数でかく拌しながらヒータに通電して、還流下、85℃に加熱することにより、白金イオンを還元させて、白金微粒子として析出させると共に、液相中に分散したカーボンブラックの表面に担持させた後、反応開始から6時間経過した反応系に、かく拌を続けながら、供給手段から0℃の冷却水を連続的に通水した冷却管を、前記下降位置まで下降させて、反応系に直接に浸漬することで、前記反応系を7K/minの冷却速度で60℃まで冷却した後、メンブランフィルタを用いてろ過して白金触媒を製造した。冷却時の外気温度は25℃とした。
【0055】
〈実施例9〉
反応容器内に、分散媒としての水を注入すると共に、還元剤としてのフルクトースと、カーボンブラック〔ライオン(株)製のケッチェンブラックEC−600JD、BET比表面積:約1300m2/g〕と、白金濃度50g/リットルのジニトロジアンミン硝酸白金溶液とを加えて液相の反応系を調製した。各成分の濃度は、フルクトース30g/リットル、カーボンブラック:10g/リットル、ジニトロジアンミン硝酸白金溶液:30g/リットルとした。また、反応系の全体量は1リットルとした。
【0056】
次に、前記反応系を、マグネチックスターラを用いて、500rpmの回転数でかく拌しながらヒータに通電して、還流下、80℃に加熱することにより、白金イオンを還元させて、白金微粒子として析出させると共に、液相中に分散したカーボンブラックの表面に担持させた後、反応開始から6時間経過した反応系に、かく拌を続けながら、供給手段から0℃の冷却水を連続的に通水した冷却管を、前記下降位置まで下降させて、反応系に直接に浸漬することで、前記反応系を7K/minの冷却速度で60℃まで冷却した後、メンブランフィルタを用いてろ過して白金触媒を製造した。冷却時の外気温度は25℃とした。
【0057】
〈白金微粒子の担持量とそのばらつき、粒径および触媒活性の測定〉
白金微粒子の担持量、粒径および触媒活性は、下記の手順で求めた。すなわち、CO吸着法により、製造した白金触媒を前処理温度120℃、吸着温度50℃の条件で処理してCO吸着量を求め、その結果から、カーボンブラックの表面に担持された白金微粒子の表面積と触媒活性(m2/g−cat)とを算出した。
【0058】
また、製造した白金触媒における白金微粒子の担持量(重量%)を、ICP(Inductively Coupled Plazma、誘導結合プラズマ)分光分析法によって測定した。また、前記担持量と、先の表面積とから、カーボンブラックの表面に担持された白金微粒子の粒径(nm)を算出した。
【0059】
さらに、前記各実施例、比較例の白金触媒の製造を、反応系の全体量を0.5リットル、5リットル、および10リットルに変更して実施した場合と、冷却時の外気温度を10℃、20℃、および30℃に変更して実施した場合について、それぞれ、白金微粒子の担持量を測定し、その最小値と最大値の差(重量%)を求めて、白金微粒子の担持量のばらつきとした。結果を表1に示す。また、実施例1〜5、比較例1の、担持量のばらつきの測定結果を図1、実施例6、7、比較例2の、担持量のばらつきの測定結果を図2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1および図1の、実施例1〜5、比較例1の結果より、比表面積が約1300m2/gであるカーボンブラックを用いると共に、還元剤として、還元性分散媒であるエチレングリコールを用いた系においては、反応系の冷却速度を3K/分以上としたとき、白金微粒子の担持量のばらつきを小さくできることが判った。
【0062】
また、表1および図2の、実施例6、7、比較例2の結果より、比表面積が約220m2/gであるカーボンブラックを用いた系においても、同様に、反応系の冷却速度を3K/分以上としたとき、白金微粒子の担持量のばらつきを小さくできることが判った。さらに、表1の、実施例8、9の結果より、還元剤としてエタノールまたはフルクトースを用いた水系の反応系においても、同様に、反応系の冷却速度を3K/分以上としたとき、白金微粒子の担持量のばらつきを小さくできることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例1〜5、比較例1における、反応系の冷却速度と、白金微粒子の担持量のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例6、7、比較例2における、反応系の冷却速度と、白金微粒子の担持量のばらつきとの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子のもとになる金属のイオンを含む液相の反応系中に担体粒子を分散させた状態で、加熱下で還元剤の作用によって前記イオンを還元させて、金属微粒子として析出させると共に担体粒子の表面に担持させる工程と、前記反応系を3K/分以上の冷却速度で冷却する工程とを含むことを特徴とする金属触媒の製造方法。
【請求項2】
還元剤として、液相の反応系を構成する分散媒を兼ねる還元性分散媒を用いる請求項1に記載の金属触媒の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−326052(P2007−326052A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159941(P2006−159941)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】