説明

金属部品類の加工用油

【課題】 金属部品類の加工用油の基油組成を加工後における洗浄剤の組成と近づけることにより、良好な加工性及び洗浄性を維持しながら洗浄後の洗浄剤の蒸留回収率を高める。
【解決手段】 本発明に係る金属部品類の加工用油は、炭素数10〜13の飽和炭化水素成分を少なくとも90容量%以上含有してなる金属部品類の洗浄用油を基油として、該基油に、添加剤として極圧剤、油性剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、流動点降下剤、さび止め剤のうち、少なくとも1種を混合してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、機械、精密機器、電気、電子等の工業分野における各種の金属部品に対し、切削、研削、プレス加工など種々の加工およびその後の処理をおこなうに適した油に関し、より詳しくは、焼結金属などの複雑な構造の部品等に対して、良好な加工及びその際に発生したダスト等の洗浄ができ、洗浄工程管理が容易であるとともに、洗浄剤消費量が少なく、経済性にも優れた金属部品類の加工用油を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、機械、精密機器、電気、電子等の工業分野において、各種部品等の加工に際して不水溶性加工油が用いられる。この不水溶性加工油には必要に応じた諸特性を付与するために、一般に鉱油、合成油を基油として、これに極圧剤、油性剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、流動点降下剤、さび止め剤などの各種添加剤を配合したものが使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
さらにこれらの加工油を用いて得られた各種加工部品に対し、防錆処理などの次工程を施す場合においては、あらかじめ上記加工油を洗浄除去処理をおこなう必要があるが、この場合特に錆びやすい部品や脱脂の難しい部品については、古くから脱脂力が高く不燃性の1,1,1−トリクロロエタン、フロン113、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン系溶剤を使用した洗浄が行われてきた。
【0004】
しかし、これらのハロゲン系溶剤は、環境問題、毒性問題等により使用が困難であるところから、その代替洗浄剤として次第に水系、フッ素系、アルコール系、グリコールエーテル系、炭化水素系などの各種洗浄剤への代替が行われるようになった。
さらにこれらの代替洗浄剤についても、水系洗浄剤は、不燃性であるが金属部品に対してしみや腐食問題を起こしやすく、脱脂力も劣り、かつすすぎ、乾燥、廃水処理等の付帯設備やそのための広いスペ−スが必要であること、またフッ素系洗浄剤であるHCFC、HFC、HFE等は、非水系の不燃性溶剤として扱えるが、HFCはオゾン層破壊問題により全廃時期が決まっており、HFCやHFEは脱脂力が弱く、地球温暖化問題も懸念され、将来的な代替洗浄剤にはなり得ないものと考えられている。
【0005】
さらにイソプロピルアルコール等のアルコール系やグリコールエーテル系の洗浄剤は、上記に示す地球環境問題はないものの、引火の危険性があり、加えて、脱脂力、乾燥性、安定性、毒性、臭気、回収性等のいずれかの問題要因を含んでいる。また炭化水素系洗浄剤は、可燃性を有する欠点があるが、他の代替洗浄剤と比べて脱脂力に優れており、安定性、回収性等の洗浄剤の必要な性能を併せ持つため、比較的引火点の高い第二石油類や第三石油類の炭化水素系洗浄剤が、高い清浄度を要求される部品や、精密部品の洗浄などにおいて好ましく使用されている(例えば、特許文献2)。
【0006】
また、炭化水素系洗浄剤を用いた洗浄方法としては、大気圧下における浸漬洗浄、減圧下で洗浄剤を大気圧下での引火点以上に加熱して洗浄する真空洗浄や真空ベーパー洗浄等があり、乾燥方法は温風乾燥、真空乾燥、真空ベーパー乾燥等が実施されている。さらに洗浄性を向上させるために、洗浄剤の加温、超音波の照射、部品の揺動、洗浄剤の噴流などを組み合わせた洗浄も行われている。近年では、環境影響や洗浄剤使用量削減のため、大気への洗浄剤排出量が少ない真空洗浄乾燥機や、真空ベーパー乾燥機が好ましく使用されている(例えば、特許文献3)。
【0007】
これらの炭化水素系洗浄剤を使用する洗浄乾燥機には蒸留回収機が付設され、洗浄剤を蒸留回収して繰り返し使用される。一般に従来の加工油は、洗浄剤と比べて沸点が高いため、蒸留回収機で洗浄剤成分と加工油成分を容易に分離できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−20598号公報
【特許文献2】特開平6−293898号公報
【特許文献3】特開平6−15239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の部品等の加工及び洗浄方法には以下の問題がある。特に細孔を多く有する構造の焼結金属部品などのような物理的に汚れと洗浄剤が接触しがたい複雑な構造を有する部品等の洗浄や、多数の部品等を洗浄籠に入れて密着した条件下で洗うような場合には、上記した洗浄力の優れた炭化水素系洗浄剤であっても、旧来のハロゲン系溶剤のような短時間での洗浄が難しく、十分な清浄度が得られないという問題がある。
【0010】
このような問題に対し、炭化水素系洗浄剤でも洗浄され易い低粘度の加工油を使用して加工する試みもなされてきたが、このような加工油は低沸点の鉱物油等を基油として使用しており、洗浄剤との沸点差が小さいために、洗浄剤を蒸留回収する際に加工油成分も洗浄剤とともに蒸留回収される。そのため、洗浄剤の組成変化による洗浄性の低下や乾燥性の悪化が起こり、洗浄剤の成分管理が必要になり、洗浄剤の回収率を低下せざるを得なく、洗浄剤消費量が多くなり、管理上も非常に煩わしい問題が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記した加工油の洗浄が難しい部品等に対して、加工油を用いた部品の良好な加工及び該加工油の洗浄が容易で、洗浄工程管理が簡単であるとともに、洗浄剤消費量が少なく、経済性に優れた金属部品の加工用油を提案するものである。具体的には、炭素数10〜13の飽和炭化水素成分を少なくとも90容量%以上含有してなる金属部品類の洗浄用油を基油として、該基油に、添加剤として極圧剤、油性剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、流動点降下剤、さび止め剤のうち、少なくとも1種を混合してなり、前記金属部品類の加工に用いられる金属部品類の加工用油に関する。
【0012】
また、本発明は、炭素数10〜13の飽和炭化水素成分を少なくとも90容量%以上含有した基油に、添加剤として極圧剤、油性剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、流動点降下剤、さび止め剤のうち、少なくとも1種を混合した加工用油により金属部品類の加工をおこなった後、上記添加剤を含まない基油により加工部品類の洗浄をおこなうようにした金属部品類の加工・洗浄方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、炭素数10〜13の飽和炭化水素成分を少なくとも90容量%以上含有してなる金属部品類の洗浄用油を基油として、これに添加剤として極圧剤、油性剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、流動点降下剤、さび止め剤のうち、1種または2種以上を混合してなるものを加工用油として用いるものであるために、金属部品類の加工後においてこれを洗浄する場合に、上記加工用油の基油、すなわち添加剤を含まない炭素数10〜13の飽和炭化水素成分を少なくとも90容量%以上含有したものを共用することができ、洗浄工程管理が容易であるとともに、洗浄剤消費量が少なく、経済性にも優れた加工及び洗浄が可能となる。
【0014】
また、とくに細孔を多く有する構造を持つ焼結金属部品などのような物理的に汚れと洗浄剤が接触し難い複雑な構造を有する部品等の洗浄や、多数の部品等を洗浄籠に入れて密着した条件下で洗うような高い洗浄性が要求される条件下の部品等に対して、良好な加工及び洗浄が可能となる。さらにこの場合に、加工部品の洗浄に使用することで加工用油が混入した洗浄剤を蒸留回収しても洗浄剤の組成変化が起こらず、その回収率を高めることができ、長期的に安定した洗浄、乾燥が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において本発明の具体的な内容を詳細に説明する。金属加工後の加工用油を含めた部品類の洗浄に用いられる洗浄剤に関して種々研究したところ、不飽和炭化水素や芳香族炭化水素等は、安定性、毒性、臭気等のいずれかの問題があるところからこれを避け、飽和炭化水素成分が有効であることが解った。
【0016】
しかもこの場合に飽和炭化水素の炭素数が9以下の場合は、引火点が40℃以下となるため、使用中に引火の危険性が高く、炭素数が14以上の場合は、沸点が250℃以上となり、乾燥性の悪化や良好な洗浄効果も得られなくなるばかりか、汚れとの分離性も悪くなり、蒸留回収して繰り返し使用することが困難となる。その結果炭素数が10〜13の飽和炭化水素成分が有効であるとの結論に達した。
【0017】
さらに洗浄用に使用される炭素数10〜13の飽和炭化水素としては特に限定されるものではなく、例えば、n−デカン、イソデカン、n−ウンデカン、イソウンデカン、n−ドデカン、イソドデカン、n−トリデカン、イソトリデカン等が挙げられ、これらの混合物としても使用することができる。
【0018】
さらに上記した金属加工品の洗浄剤について、その主成分である炭素数10〜13の飽和炭化水素を金属部品類加工用に用いる加工用油の基油と共通化すれば、洗浄剤に各種添加剤を添加することでそのまま加工用油としても用いることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわちこの場合における加工用油の基油は炭素数10〜13の飽和炭化水素成分からなる必要がある。
【0019】
この場合、前記した洗浄剤と同じ炭素数10〜13の飽和炭化水素成分が90容量%未満であると、洗浄剤の劣化が早く、経済性に劣るものとなり、また反対に99容量%以上であると金属の加工性に劣るものとなる。したがって、基油のうち90容量%以上99容量%未満、さらに好ましくは95容量%以上98容量%未満が洗浄剤と同じ炭素数10〜13の飽和炭化水素成分からなるものであればよく、この場合に少量であれば洗浄剤と異なる炭素数10〜13の飽和炭化水素成分を含んでいてもよい。
【0020】
金属部品類加工用加工油の基油として用いられる炭素数10〜13の飽和炭化水素としては特に限定されるものではなく、例えば、n−デカン、イソデカン、n−ウンデカン、イソウンデカン、n−ドデカン、イソドデカン、n−トリデカン、イソトリデカン等が挙げられ、これらの混合物としても使用することができる。さらに添加剤として必要に応じて極圧剤、油性剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、流動点降下剤、さび止め剤のうち、少なくとも1種を混合するのが好ましい。
【0021】
なお金属加工部品類の洗浄剤には、加工用油添加剤の溶解性を向上させるため、加工用油の諸特性や洗浄剤の乾燥性、安定性、回収性等の性能を低下させない範囲でアルコール、エステル、ケトン、グリコールエーテル、ナフテン系炭化水素等の溶剤を必要に応じて配合することが有効である。またこの場合に、使用条件に応じて少量の酸化防止剤や界面活性剤も配合することができる。
【0022】
上記の組成からなる金属部品類の加工用油・洗浄剤を用いた加工金属部品類の洗浄及び乾燥方法については、特に限定されるものではなく、例えば洗浄方法については、大気圧下もしくは減圧下における浸漬洗浄、揺動洗浄、回転洗浄、超音波洗浄、シャワー洗浄及び真空ベーパー洗浄などが使用でき、また乾燥方法については、温風乾燥、吸引乾燥、回転乾燥、真空乾燥、真空ベーパー乾燥等を実施することができる。
【0023】
さらに本発明の効果を十分発揮させるには、真空乾燥、真空ベーパー乾燥のように乾燥時に蒸発する洗浄剤を大気に放出させず捕捉でき、洗浄剤消費量の少ない乾燥方法を用い、蒸留回収機を付設した洗浄機を使用することが望ましい。これらの洗浄方法及び乾燥方法は、要求される清浄度や所要時間等を考慮して、単独もしくは数種類の方式を組み合わせて実施することができる。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〜4、比較例1〜7〕
本発明に係る金属部品類の加工・洗浄用油を用いて、焼結金属の加工及び洗浄試験を行った結果を表1に示す。表1には本発明に係る金属部品類の加工・洗浄用油を用いた実施例1〜4と、在来の各種加工油および洗浄剤を用いた比較例1〜7があらわされている。
【0025】
<加工性の評価>
試験方法:焼結金属を表1の加工用油に浸漬してサイジング加工を行い、加工性の評価を行った。
加工機:15tプレス加工機
商品名「YKK−150」有限会社山嘉工機製作所製
加工条件:金型を用いた塑性加工
材質:鉄系材
評価:◎:仕上寸法誤差−5%以上+5%未満
【0026】
<洗浄性の評価>
試験方法:加工後の焼結金属を、下記条件で洗浄及び乾燥を行い、乾燥状態の観察及び残存油分の測定を行った。
洗浄システム:ベーパー洗浄乾燥機
商品名「FVH2−3040」株式会社クリンビー製
洗浄条件:第1槽、第2槽浸漬超音波洗浄
洗浄剤温度:40℃ 洗浄時間:5分
乾燥条件:真空ベーパー乾燥
ベーパー温度:110℃、ベーパー時間:2分、乾燥時間:10分
評価:◎:残存油分0.05mg未満
○:残存油分0.05mg以上0.1mg未満
△:残存油分0.1mg以上0.2mg未満
×:残存油分0.2mg以上、または乾燥不良
【0027】
<洗浄剤組成変化の評価>
試験方法:洗浄剤100容量部、加工用油10容量部の混合物をエバポレーターを使用して蒸留回収した。
回収条件:圧力50mmHg、加熱温度130℃、回収率90容量%
評価:○:回収液の洗浄剤成分99容量%以上
△:回収液の洗浄剤成分95容量%以上99容量%未満、
×:回収液の洗浄剤成分95容量%未満
【0028】
これらの試験結果については表1に示した通りである。表1により明らかであるように本発明の金属部品類の加工・洗浄方法およびその加工・洗浄用油は、添加剤を含まない炭素数10〜13の飽和炭化水素成分を少なくとも90容量%以上含有した基油を金属部品類の加工と洗浄とに共用することができ、加工時にはこれに添加剤を混入するだけであるために洗浄工程管理が容易であるとともに、洗浄剤消費量が少なく、経済性にも優れるばかりでなく、金属部品類の優れた加工性、洗浄性を有し、洗浄剤を蒸留回収しながら繰り返し使用しても洗浄剤成分の変化が起こらず安定した洗浄ができ、洗浄剤消費量も少なく、経済性にも優れていることがわかった。
【0029】
【表1】

【0030】
(注)
*1 HC−250:東ソー株式会社製炭化水素系洗浄剤
引火点53℃、沸点173℃、主成分:n−デカン
*2 HC−370:東ソー株式会社製炭化水素系洗浄剤
引火点70℃、沸点196℃、主成分:n−ウンデカン
*3 石油系炭化水素A:パラフィン系炭化水素
商品名「0号ソルベント」(新日本石油株式会社製)
引火点66℃、沸点185〜200℃
*4 石油系炭化水素B:ナフテン系炭化水素
商品名「テクリーンN16」(新日本石油株式会社製)
引火点44℃、沸点160〜180℃
*5 石油系炭化水素C:ナフテン系炭化水素
商品名「テクリーンN20」(新日本石油株式会社製)
引火点72℃、沸点200〜220℃
*6 鉱物油:商品名「スーパーオイルN」(新日本石油株式会社製)
引火点158℃
*7 J−1:株式会社ジャパンエナジー製加工用油添加剤
主成分:亜リン酸エステル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10〜13の飽和炭化水素成分を少なくとも90容量%以上含有してなる金属部品類の洗浄用油を基油として、該基油に、添加剤として極圧剤、油性剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、流動点降下剤、さび止め剤のうち、少なくとも1種を混合してなり、前記金属部品類の加工に用いられることを特徴とする金属部品類の加工用油。
【請求項2】
前記洗浄用油に含まれる炭素数10〜13の飽和炭化水素成分は95容量%以上98容量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の金属部品類の加工用油。
【請求項3】
前記金属部品類は、焼結金属部品類であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部品類の加工用油。




【公開番号】特開2012−7175(P2012−7175A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180033(P2011−180033)
【出願日】平成23年8月21日(2011.8.21)
【分割の表示】特願2005−186628(P2005−186628)の分割
【原出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(592128788)ポーライト株式会社 (16)
【Fターム(参考)】