説明

金属酸化物同位体の製造方法および金属酸化物同位体の製造装置

【課題】安価で高純度な17Oまたは18Oで標識されている金属酸化物同位体を得る製造方法を提供する。
【解決手段】酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガス中において、金属粉末を加熱することにより酸素同位体である17Oまたは18Oで標識される金属酸化物同位体を得ることを特徴とする金属酸化物同位体の製造方法を提供する。また、金属粉末が、金属アルミニウム粉末であり、金属酸化物同位体が、Al17またはAl18であることを特徴とする金属酸化物同位体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物同位体の製造方法および金属酸化物同位体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、質量数が17または18の酸素原子である17Oまたは18Oで標識される金属酸化物同位体(以下、単に「金属酸化物同位体」ということもある)について鋭意研究が進められており、様々な用途に用いられるようになっている。例えば、17Oまたは18Oで標識されている酸化アルミニウム同位体(Al17またはAl18)は、未知の原子核探索や核反応の機構を解明する分野で広く利用されている。
【0003】
一般に、酸化アルミニウムは、バイヤー法によって製造されている。確かに金属アルミニウムを大気などの酸素含有雰囲気中にて加熱することでも、酸化アルミニウムを得ることはできるが、工業的には、コストや効率などの問題からバイヤー法が選択されている。
【0004】
バイヤー法とは、ボーキサイトを水酸化ナトリウムで処理して得られる水酸化アルミニウムを、大気中で焼成することによって、酸化アルミニウムを得る方法である。そして、この水酸化アルミニウムを加熱して酸化アルミニウムを得る際には、下記式(1)に示す反応が起きている。
【0005】
【化1】

【0006】
なお、特許文献1には、バイヤー法の一例として、水酸化アルミニウム、または水酸化アルミニウムを仮焼きして得られる遷移アルミナを粉砕し、塩素ガス及び水蒸気雰囲気にて焼成して酸化アルミニウムを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−290914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、一般的な水酸化ナトリウム中に含まれる酸素原子は、大部分が質量数16の酸素原子であるから、バイヤー法によって得られる酸化アルミニウム中の酸素原子は、大部分が質量数16となる。
【0009】
したがって、バイヤー法を用いて質量数17または18の酸素同位体から構成される酸化アルミニウムを製造する場合には、質量数17または18の酸素同位体から構成される水酸化ナトリウムを用意する必要がある。
【0010】
ここで、水酸化ナトリウムは、一般に下記式(2)で示すように、塩化ナトリウム水溶液を電気分解することで製造されている。
【0011】
【化2】

【0012】
したがって、質量数17または18の酸素同位体から構成される酸化アルミニウム同位体(Al17またはAl18)を得るためには、質量数17または18の酸素同位体から構成される水酸化ナトリウム(Na17OHまたはNa18OH)、または、質量数17または18の酸素同位体から構成される純水(H17OまたはH18O)を用意する必要がある。
【0013】
しかしながら、市販されている質量数17または18の酸素同位体から構成される水酸化ナトリウム、または、質量数17または18の酸素同位体から構成される純水は高価であることから、17Oまたは18Oで標識されている酸化アルミニウム同位体(Al17またはAl18)の製造コストも上昇するという不都合があった。
【0014】
また、上記製造方法では、中間体として水酸化アルミニウムを合成する工程を経るので、効率も悪いという不都合があった。
【0015】
更に、水酸化アルミニウムを加熱処理することによって、質量数17または18の酸素同位体で構成される酸化アルミニウム同位体を製造する場合、中間体の合成工程においてコンタミネーションが生じ、高純度の製品を得ることができないという不都合があった。例えば、現在販売されている純度は99.0%程度である。
【0016】
なお、上記では酸化アルミニウムについて説明したが、このほかにも例えば酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ニッケルなど他の金属酸化物においても、金属酸化物同位体を得る際に、種々の中間体を合成する必要があったり、質量数17または18の酸素同位体で構成される高価な材料が必要であったりと、同様な不都合が生じていた。
【0017】
このような背景の下、安価で高純度な17Oまたは18Oで標識される金属酸化物同位体を得る方法が要望されていたが、有効適切なものが提供されていないのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガス中において、金属粉末を加熱することにより酸素同位体である17Oまたは18Oで標識される金属酸化物同位体を得ることを特徴とする金属酸化物同位体の製造方法である。
【0019】
請求項2に係る発明は、前記金属粉末が、金属アルミニウム粉末であり、前記金属酸化物同位体が、Al17またはAl18であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物同位体の製造方法である。
【0020】
請求項3に係る発明は、前記金属粉末を加熱する際に、前記金属粉末に所望の金属酸化物同位体粉末を予め混合させて加熱することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属酸化物同位体の製造方法である。
【0021】
請求項4に係る発明は、得られた前記金属酸化物同位体を粉砕した後に、再び酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガス中において加熱することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の金属酸化物同位体の製造方法である。
【0022】
請求項5に係る発明は、前記金属粉末の加熱の際に使用した前記酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、前記不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガスを循環利用することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の金属酸化物同位体の製造方法である。
【0023】
請求項6に係る発明は、酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスを供給可能な酸素同位体ガス供給装置と、前記酸素同位体ガス供給装置から供給される酸素同位体ガスを雰囲気ガスとして導入可能であり、かつ、金属粉末を加熱自在に構成された熱処理炉と、を有することを特徴とする金属酸化物同位体の製造装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガス中において、金属粉末を加熱することにより酸素同位体である17Oまたは18Oで標識されている金属酸化物同位体を得ている。
これにより、酸素同位体である17Oまたは18Oで標識される金属酸化物同位体を得る際に、中間体を合成する必要がなくなり高純度な金属酸化物同位体を得ることができる。また、質量数17または18の酸素同位体から構成される他の材料(例えば酸化アルミニウムの場合は、水酸化ナトリウムや純水)を用いず、酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスのみを用いるので、安価に金属酸化物同位体を得ることができる。
【0025】
また、本発明では、金属粉末を加熱する際に、金属粉末に所望の金属酸化物同位体を予め混合させて加熱している。
一般に金属粉末を加熱する場合、金属粉末が溶融して表面積が低下するため、酸化反応を十分に行うまでに必要とされる時間が長くなる。これに対し、本発明では、原料に用いる金属粉末に、予め所望の金属酸化物同位体粉末を混合しておくことで、溶融による表面積低下を防止することができる。その結果、酸化反応に要する時間を低減することができる。
【0026】
また、本発明では、得られた前記金属酸化物同位体を粉砕した後に、再び酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガス中において加熱している。
金属粉末を加熱処理して金属酸化物を生成する場合、表面に金属酸化物被覆が生じ、内部まで反応が進みにくいが、一度加熱した後に粉砕することで、表面に形成された金属酸化物被覆を破壊し、反応面積を拡大させることができる。これにより、金属酸化物同位体の完全酸化までに必要な加熱時間および加熱エネルギーを低減させることができ、また、高純度の金属酸化物同位体を得ることができる。
【0027】
また、本発明では、金属粉末の加熱の際に使用した酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガスを循環利用している。
これにより、17ガス若しくは18ガスの使用量を削減することができ、金属酸化物同位体の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態である金属酸化物同位体の製造装置を示す系統図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態である金属酸化物同位体の製造装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態である金属酸化物同位体の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0030】
[第1の実施形態]
<金属酸化物同位体の製造装置>
図1は、本発明の第1の実施形態である金属酸化物同位体の製造装置1を示す系統図である。
図1に示すように、本実施形態の金属酸化物同位体の製造装置1は、酸素同位体ガス供給装置2と、バッファータンク3と、循環ポンプ4と、排気ポンプ5と、熱処理炉6と、を有した構成となっている。
【0031】
酸素同位体ガス供給装置2は、高純度の酸素同位体ガスである17ガスまたは18ガスを供給可能なように構成されている。また、酸素同位体ガス供給装置2は、配管7を介してバッファータンク3と接続されており、配管7には、酸素同位体ガス供給装置2側から順に、流量調整弁8と遮断弁9が設けられている。
【0032】
流量調整弁8は、適宜調整することによって、酸素同位体ガス供給装置2から供給される酸素同位体ガスの流量を制御することができるように構成されており、遮断弁9は、閉止することで、酸素同位体ガスの供給を遮断することができるように構成されている。
【0033】
バッファータンク3は、熱処理炉6内の圧力を一定にするために、熱処理炉6内に過剰に供給された酸素同位体ガスを蓄積するために設けられており、配管10または配管11を介して、熱処理炉6と接続されている。
【0034】
配管10には、バッファータンク3側から順に遮断弁12と循環ポンプ4が設けられており、遮断弁12は、弁を閉じることで、バッファータンク3から熱処理炉6に供給される酸素同位体ガスを遮断することができるように構成されている。
また、循環ポンプ4は、バッファータンク3内の酸素同位体ガスを熱処理炉6内に供給することが可能なように構成されている。
【0035】
配管11には、熱処理炉6側から順に、ガスクーラー13と、ダストフィルタ14と、排気ポンプ5と、遮断弁15と、が設けられている。
ガスクーラー13は、配管11を通るガスを冷却するために設けられており、ダストフィルタ14は、配管11を通るガスに含まれるダストを除去するために設けられている。
【0036】
また、排気ポンプ5は、熱処理炉6内において使用された酸素同位体ガスをバッファータンク3に循環させることが可能なように構成されている。遮断弁15は、弁を閉じることで、熱処理炉6からバッファータンク3に循環する酸素同位体ガスを遮断することができるように構成されている。
【0037】
また、配管11には、排気ポンプ5と遮断弁15との間において、配管16が分岐して設けられており、この配管16には排気弁17が設けられている。排気弁17は、弁を開けることで、排気ポンプ5によって、熱処理炉6から酸素同位体ガスを外部へ放出することができるように構成されている。
【0038】
熱処理炉6は、気密性を有しており、内部に原材料である金属粉末を充填した処理品18を配置可能なように構成されており、例えばバッチ式熱処理炉を用いることができる。また、熱処理炉6にはリーク弁19が設けられた配管20が接続されており、このリーク弁19を開くことで熱処理炉6内に大気を導入することができる。
【0039】
処理品18に充填される原材料としては、金属粉末のみを用いてもよいが、金属粉末に加えて更に所望の金属酸化物同位体が混合されたものを用いてもよい。
本実施形態の金属酸化物同位体の製造装置1は以上のような構成をしている。
【0040】
<金属酸化物同位体の製造方法>
次に、上述した金属酸化物同位体の製造装置1を用いた、金属酸化物同位体の製造方法について説明する。
なお、以下の説明では金属粉末としてアルミニウム粉末を用いた場合について説明するが、これに限定されない。金属粉末としては、例えばマグネシウム、すず、ニッケル、亜鉛等を用いることができる。
【0041】
本実施形態の金属酸化物同位体の製造方法では、まず、原材料金属アルミニウム粉末と酸化アルミニウム同位体(Al17またはAl18)粉末を充填した処理品18を、熱処理炉6内に配置する。
【0042】
その上で、排気ポンプ5を使用して、熱処理炉6内の残存大気成分を、配管11,16を介して排気する。この際、排気弁17は開いており、遮断弁9,12,15及びリーク弁19は閉止している。
その後、十分に排気をしたら、排気弁17を閉止して排気ポンプ5を停止する。
【0043】
次に、熱処理炉6内に、酸素同位体ガスである17ガスまたは18ガスを処理雰囲気ガスとして導入する。具体的には、遮断弁9,12を開き、酸素同位体ガス供給装置2から配管7を介して、バッファータンク3内に酸素同位体ガスを供給し、バッファータンク3内に供給された酸素同位体ガスを、循環ポンプ4を用いて配管10を介して熱処理炉6内に導入する。
この際、酸素同位体ガスの流量は、流量調整弁8によって適宜調整する。
【0044】
その後、熱処理炉6内の圧力が大気圧より1kPa程度高めの圧力になるまで酸素同位体ガスを導入したら、遮断弁9を閉止し、酸素導体ガス供給装置2からバッファータンク3への酸素同位体ガスの供給を止める。
【0045】
次に、遮断弁15を開き、循環ポンプ4および排気ポンプ5を用いて、バッファータンク3と熱処理炉6の間で酸素同位体ガスの循環を開始する。そして、熱処理炉6の昇温運転を開始することで、処理品18内の金属アルミニウム粉末を加熱する。このようにして酸素同位体ガスである17ガスまたは18ガス中において、金属アルミニウム粉末を加熱することでと酸化反応させ、酸化アルミニウム同位体粉末を生成する。
【0046】
この際、加熱に伴って熱処理炉6内の雰囲気ガスが膨張し、熱処理炉6内の圧力が上昇するので、それを防止するように適宜循環ポンプ4と排気ポンプ5の吐出量を調整し、熱処理炉6内の圧力を、大気圧より1kPa程度高めの圧力に保つようにする。そして、過剰な酸素同位体ガスはバッファータンク3内に蓄積するようにする。
なお、大気圧より1kPa程度高めにするのは、熱処理炉6内を陽圧にするためであり、これによって炉外からのガスの侵入を阻むことができる。
【0047】
このように、循環ポンプ4および排気ポンプ5を制御することで、熱処理炉6内の酸素同位体ガスの膨張による圧力変動を吸収するだけでなく、酸化によって消費された酸素同位体ガスの減量分を補充することもできる。
【0048】
加熱温度は、金属粉末の種類によって適宜調整することができるが、金属酸化物の焼結温度以下であることが好ましい。例えば、金属粉末として金属アルミニウム粉末を用いる場合は、酸化アルミニウム同位体の焼結温度以下であることが好ましく、焼結による処理品の固化を抑制しつつ高い酸化速度を得ることができるので、1500℃付近であることがより好ましい。
【0049】
なお、本実施形態では、処理品18に予め金属アルミニウム粉末だけでなく、所望の金属酸化物同位体粉末を混合させている。
一般に、金属粉末を加熱する場合、金属粉末が溶融して表面積が低下するため、酸化反応を十分に行うまでに必要とされる時間が長くなるが、本実施形態のように、所望の金属酸化物同位体粉末を予め混合しておくことで、溶融による表面積低下を防止することができる。例えば金属アルミニウム粉末を加熱する場合、融点である660℃付近において、金属アルミニウム粉末の溶融が生じ、表面積が低下することとなるが、所望のアルミニウム酸化物同位体を混合しておくことで、溶融による表面積の減少を防ぐことができる。
その結果、酸化反応に要する時間を低減することができる。
【0050】
十分に金属アルミニウム粉末を加熱させて、酸化アルミニウム同位体を得たら、加熱処理を終了させて、熱処理炉6内を冷却させる。
なお、冷却過程では、熱処理炉6内の雰囲気ガスの収縮に伴って圧力が低下するので、それを防止するように循環ポンプ4および排気ポンプ5を制御して、熱処理炉6内の圧力を一定に維持するようにする。これにより、冷却過程でも金属アルミニウムの酸化反応を継続させることができる。
【0051】
十分に冷却した後は、遮断弁12を閉止し、排気ポンプ5を用いて熱処理炉6内に残存した酸素同位体ガスをバッファータンク3に回収する。このように酸素同位体ガスを十分に回収することで、金属酸化物同位体の製造コストを低減することができる。
その後、リーク弁19を開き、熱処理炉6内に大気を導入して、炉内圧力を大気圧まで復圧させ、熱処理炉6内の処理品18を取り出す。
【0052】
取り出した処理品18は、乳鉢やボールミルなどの粉砕装置を使用して粉砕することで、まだ未酸化の活性な金属表面を露出させ反応表面積を拡大させる。
この際、粉砕により露出した活性な金属表面と大気の反応による純度低下を防止するために、例えば酸素同位体ガスが充填されたグローブボックスや、酸素同位体ガスを封入した密閉型ボールミルを用いるなどして、酸素同位体ガス雰囲気下で粉砕することが好ましい。
【0053】
粉砕後の処理品18は、再度熱処理炉6内に配置し、上記と同様の手順で酸素同位体ガス中において加熱処理を行い、以後加熱処理と粉砕を交互に行う。
そして、酸化による重量変化が飽和するまで加熱処理と粉砕を交互に繰り返し、完全に金属アルミニウム粉末を酸化させることで、高純度の酸化アルミニウム同位体を製造することができる。
以上のようにして、酸化アルミニウム同位体(Al17またはAl18)を得る。
【0054】
本実施形態の金属酸化物同位体の製造方法によれば、酸素同位体ガス中において、金属粉末を加熱することにより金属酸化物同位体を得ている。
したがって、金属酸化物同位体を得る際に、中間体を合成する必要がないので、環境負荷を低減できるとともに、高純度な金属酸化物同位体を得ることができる。また、質量数17または18の酸素同位体から構成される他の材料(例えば酸化アルミニウムの場合は、水酸化ナトリウムや純水)を用いず、酸素同位体ガスのみを用いるので、安価に金属酸化物同位体を得ることができる。
【0055】
また、本実施形態では、処理品として、金属粉末に予め所望の金属酸化物同位体を混合させたものを用いている。
このように原料に用いる金属粉末に、予め所望の金属酸化物同位体粉末を混合しておくことで、溶融による表面積低下を防止することができ、その結果、酸化反応に要する時間を低減することができる。
【0056】
また、本実施形態では、得られた金属酸化物同位体を粉砕した後に、再び酸素同位体ガス中において加熱している。
一般に、金属粉末を加熱処理して金属酸化物を生成する場合、表面に金属酸化物被覆が生じ、内部まで反応が進みにくいが、本実施形態では一度加熱した後に粉砕するので、表面に形成された金属酸化物被覆を破壊し、酸化されていない金属表面を露出でき反応面積を拡大させることができる。これにより、金属酸化物の完全酸化までに必要な加熱時間および加熱エネルギーを低減させることができるとともに、高純度の金属酸化物同位体を得ることができる。
【0057】
また、本実施形態では、金属粉末の加熱の際に使用した酸素同位体ガスを循環利用している。これにより、酸素同位体ガスの使用量を削減することができ、金属酸化物同位体の製造コストを低減することができる。
【0058】
[第2の実施形態]
<金属酸化物同位体の製造装置>
図2は、本発明の第2の実施形態である金属酸化物同位体の製造装置21を示す系統図である。
本実施形態は、図2に示すように、不活性ガスであるアルゴンガスを用いる点で第1の実施形態と大きく異なっている。なお、以下の説明では第1の実施形態と同様の部分については適宜説明を省略する。
【0059】
本実施形態の金属酸化物同位体の製造装置21は、第1の実施形態と異なり、アルゴンガス供給装置22を有している。
アルゴンガス供給装置22は、高純度の不活性ガスであるアルゴンガスを供給可能なように構成されており、配管23を介してバッファータンク3と接続されている。配管23には、アルゴンガス供給装置22側から順に、流量調整弁24と遮断弁25が設けられている。
【0060】
流量調整弁24は、適宜調整することによって、アルゴンガス供給装置22から供給されるアルゴンガスの流量を制御することができるように構成されており、遮断弁25は、閉止することで、バッファータンク3へのアルゴンガスの供給を遮断することができるように構成されている。
【0061】
また、配管23には、流量調整弁24と遮断弁25との間において、配管26が分岐して設けられており、配管26は熱処理炉6と接続している。したがって、アルゴンガス供給装置22から供給されるアルゴンガスは、流量調整弁24を経た後、直接配管26を介して熱処理炉6内に導入することが可能なように構成されている。
なお、配管26には置換弁27が設けられており、置換弁27は閉止することで、配管26を介した熱処理炉6へのアルゴンガスの供給を遮断することができるように構成されている。
【0062】
また、本実施形態の金属酸化物同位体の製造装置21には、第1の実施形態と異なり、バッファータンク3および加熱処理炉6に、それぞれ分析計28、29が設けられている。分析計28、29は、それぞれバッファータンク3内ないし熱処理炉6内のガスを分析可能であればどのようなものであってもよいが、分析計29は後述するように質量数16の酸素の存在量を確認するため質量分析計であることが好ましい。
本実施形態の金属酸化物同位体の製造装置21は、以上のような構成をしている。
【0063】
<金属酸化物同位体の製造方法>
次に、上述した金属酸化物同位体の製造装置21を用いた、金属酸化物同位体の製造方法について説明する。なお、以下の説明においても、第1の実施形態と同様な部分については、適宜説明を省略する。
【0064】
まず、第1の実施形態と同様に、金属アルミニウム粉末と酸化アルミニウム同位体粉末が充填された処理品18を熱処理炉6内に設置し、排気弁17を開き、遮断弁9,12,15、置換弁27およびリーク弁19を閉じた状態で、熱処理炉6内から残存大気成分を排気ポンプ5を使用して配管11,16を介して排気する。その後、十分に排気をしたら、排気弁17を閉止して排気ポンプ5を停止する。
【0065】
次に、置換弁27を開き、アルゴンガス供給装置22を用いて、置換ガスとして高純度のアルゴンガスを配管23,26を介して熱処理炉6内に供給する。アルゴンガスの供給は、熱処理炉6内の圧力が大気圧と同一になるまで行う。
その後置換弁27を閉じて排気弁17を開き、排気ポンプ5を使用して熱処理炉6内のアルゴンガスを排気する。その後、排気弁17を閉じて置換弁27を開き、再びアルゴンガスを熱処理炉6内に導入する。
【0066】
このアルゴンガスの導入と排気は、アルゴンガスを大気圧まで導入した状態で、分析計29にて熱処理炉6内の残留成分を計測した際に、窒素や水、質量数16の酸素(16)などの不純物となりうる成分が排除されるまで繰り返す。
不純物成分の排除が完了したら、置換弁27を閉じ排気弁17を開いて、排気ポンプ5を用いて熱処理炉6内のアルゴンガスを排気し、その後排気ポンプ5を停止して排気弁17を閉止する。
【0067】
次に、熱処理炉6内に、高純度の酸素同位体ガスである17または18と、高純度のアルゴンガスを処理雰囲気ガスとして導入する。
具体的には、遮断弁9,12,25を開き、酸素同位体ガス供給装置2から配管7を介してバッファータンク3内に酸素同位体ガスを供給し、アルゴンガス供給装置22から配管23を介してバッファータンク3内にアルゴンガスを供給する。なお、酸素同位体ガスの流量およびアルゴンガスの流量は、それぞれ流量調整弁8,24によって適宜調整する。
【0068】
そして、バッファータンク3に供給された酸素同位体ガスおよびアルゴンガスを、循環ポンプ4を用いて、配管10を介して熱処理炉6内に導入する。
その後、熱処理炉6内の圧力が大気圧より1kPa程度高めの圧力になるまで、酸素同位体ガスおよびアルゴンガスを導入したら、遮断弁9,25を閉止する。
【0069】
この際、高純度の酸素同位体ガスである17または18と高純度のアルゴンガスの混合比は任意の比率にて混合しても構わない。
もっとも、高純度の酸素同位体ガスである17または18の濃度を大気中の酸素濃度と同様の20%付近にすることで、炉体やヒーター、ポンプなどを一般の大気炉と同じ安価な材質の部材にて構成することができる。
また、循環させるガス中の酸素濃度を抑えることで発火などの危険性を低減することもできる。
【0070】
次に、遮断弁15を開き、循環ポンプ4および排気ポンプ5を用いて、バッファータンク3と熱処理炉6の間で酸素同位体ガスの循環を開始する。そして、熱処理炉6の昇温運転を開始し、処理品18内の金属アルミニウム粉末を加熱する。このようにしてアルゴンガスと酸素同位体ガスである17ガスまたは18ガスの混合ガス中において、金属アルミニウム粉末を加熱することで酸化反応させ、酸化アルミニウム同位体粉末を生成する。
【0071】
この際、加熱に伴って熱処理炉6内の雰囲気ガスが膨張し、熱処理炉6内の圧力が上昇するので、それを防止するように適宜循環ポンプ4と排気ポンプ5の吐出量を調整し、熱処理炉6内の圧力を、大気圧より1kPa程度高め圧力に保つようにする。そして、過剰な酸素同位体ガスはバッファータンク3内に蓄積するようにする。
【0072】
このように、循環ポンプ4および排気ポンプ5を制御することで、熱処理炉6内の酸素同位体ガスの膨張による圧力変動を吸収するだけでなく、処理品18に含まれる金属アルミニウムの酸化によって消費された酸素同位体ガスの減量分を補充することもできる。
【0073】
また、金属アルミニウム粉末が酸化することで、酸素同位体ガスが消費されるため、バッファータンク3内の酸素同位体ガスの濃度が低下する。そこで、分析計28によってバッファータンク3内の酸素同位体ガスの濃度をモニターし、消費分について、遮断弁9を開いて酸素同位体ガス供給装置2から、バッファータンク3内に酸素同位体ガスを補充する。これにより、処理雰囲気中の酸素同位体ガスの濃度を維持し、安定した酸化反応を継続させることができる。
【0074】
なお、加熱温度は、第1の実施形態と同様に設定すればよい。
十分に金属アルミニウム粉末を加熱させて、酸化アルミニウム同位体を得たら、加熱処理を終了させて、熱処理炉6内を冷却させる。
【0075】
冷却過程では、熱処理炉6内の雰囲気ガスの収縮に伴って圧力が低下するので、それを防止するように循環ポンプ4および排気ポンプ5を制御して熱処理炉6内の圧力を一定に維持するようにする。
【0076】
なお、冷却過程でも酸化反応によって、酸素同位体ガスの濃度が低下するので、適宜分析計28によってバッファータンク3内の酸素同位体ガスの濃度を測定し、一定になるように適宜遮断弁9を開いて酸素同位体ガス供給装置2から、酸素同位体ガスをバッファータンク3内に導入するようにする。
これにより、冷却過程でも金属アルミニウムの酸化反応を安定して継続させることができる。
【0077】
十分に冷却した後は、遮断弁12を閉止し、排気ポンプ5を用いて熱処理炉6内に残存した酸素同位体ガスを、配管11を介してバッファータンク3に回収する。このように酸素同位体ガスを十分に回収することで、金属酸化物同位体の製造コストを低減することができる。
その後、遮断弁15を閉じてリーク弁19を開き、熱処理炉6内に大気を導入して、炉内圧力を大気圧まで復圧させ、熱処理炉6内の処理品18を取り出す。
【0078】
取り出した処理品18は、乳鉢やボールミルなどの粉砕装置を使用して粉砕することで、酸化されていない活性な金属表面を露出でき表面積を拡大させる。
この際、粉砕により露出した活性な金属表面と大気の反応による純度低下を防止するために、例えば酸素同位体ガスが充填されたグローブボックスや、酸素同位体ガスを封入した密閉型ボールミルを用いるなどして、酸素同位体ガス雰囲気下で粉砕することが好ましい。
【0079】
粉砕後の処理品18は、再度熱処理炉6内に配置し、上記と同様の手順でアルゴンガスと酸素同位体ガスの混合ガス中において加熱処理を行い、以後加熱処理と粉砕を交互に行う。
そして、酸化による重量変化が飽和するまで加熱処理と粉砕を交互に繰り返し、完全に金属アルミニウム粉末を酸化させることで、高純度の酸化アルミニウム同位体を製造することができる。
以上のようにして、酸化アルミニウム同位体(Al17またはAl18)を得る。
【0080】
本実施形態の金属酸化物導体の製造方法によれば、第1の実施形態と同様に、中間体を合成する必要がないので、高純度な金属酸化物同位体を得ることができる。また、質量数17または18の酸素同位体から構成される他の材料を用いず、酸素同位体ガスのみを用いるので、安価に金属酸化物同位体を得ることができる。
【0081】
また、第1の実施形態と同様に、処理品として、金属粉末に予め所望の金属酸化物同位体を混合させたものを用いているので、溶融による表面積低下を防止することができ、その結果、酸化反応に要する時間を低減することができる。
【0082】
また、第1の実施形態と同様に、一度加熱した後に粉砕するので、表面に形成された金属酸化物被覆を破壊し、反応面積を拡大させることができ、金属酸化物の完全酸化までに必要な加熱時間および加熱エネルギーを低減させることができ、また、高純度の金属酸化物同位体を得ることができる。
【0083】
また、第1の実施形態と同様に、酸素同位体ガスを循環利用しているので、製造コストを低減することができる。
【0084】
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施形態では、不活性ガスとしてアルゴンガスを用いた場合について説明したが、これに限定されない。
【0085】
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0086】
(実施例1)
実施例1では、第1の実施形態に示した金属酸化物同位体の製造方法と同様な方法によって、酸化アルミニウム同位体(Al17)を得た。具体的には、金属アルミニウム粉末と純度10wt%の酸化アルミニウム同位体(Al17)粉末を混合比10:1で混合させた処理品を、加熱温度を1500℃とし、熱処理炉内で加熱した。また、加熱処理と粉砕を交互に行い、酸化アルミニウムを得た。
なお、処理品の粉砕は、17酸素同位体ガスが充填されたグローブボックスで行った。もっとも、本実施例では17酸素同位体ガスを用いたが、16Oによるコンタミ防止が目的なので、グローブボックス内はアルゴンガスで充填されていても構わない。
【0087】
得られた酸化アルミニウムについて、DCA電源を用いた光電測光式発光分光分析法によって、Si,Fe,Na,Tg及びCa成分を定量し、Alメタルメタノール及び臭素溶液で溶解の後、ICP発光装置によりAlメタル成分を定量した。
その結果、得られた酸化アルミニウムに占める17Oで標識されている酸化アルミニウム同位体Al17の純度は、99.597wt%であった。
【0088】
(実施例2)
実施例2では、第2の実施形態に示した金属酸化物同位体の製造方法と同様な方法によって、酸化アルミニウム同位体(Al18)を得た。具体的には、金属アルミニウム粉末と純度10wt%の酸化アルミニウム同位体(Al18)粉末を混合比10:1で混合させた処理品を、加熱温度を1500℃とし、熱処理炉内で加熱した。また、加熱処理と粉砕を交互に行い、酸化アルミニウムを得た。
なお、処理品の粉砕は、酸素同位体ガスが充填されたグローブボックスで行った。
【0089】
得られた酸化アルミニウムについて、DCA電源を用いた光電測光式発光分光分析法によって、Si,Fe,Na,Tg及びCa成分を定量し、Alメタルメタノール及び臭素溶液で溶解の後、ICP発光装置によりAlメタル成分を定量した。
その結果、得られた酸化アルミニウムに占める18Oで標識されている酸化アルミニウム同位体(Al18)の純度は、99.597wt%であった。
【0090】
(比較例)
比較例では、質量数17で標識される酸素同位体17Oから構成される水酸化ナトリウム(Na17OH)を準備し、バイヤー法によって酸化アルミニウムを得た。
得られた酸化アルミニウムについて、DCA電源を用いた光電測光式発光分光分析法によって、Si,Fe,Na,Tg及びCa成分を定量し、Alメタルメタノール及び臭素溶液で溶解の後、ICP発光装置によりAlメタル成分を定量した。
その結果、得られた酸化アルミニウムに占める17Oで標識されている酸化アルミニウム同位体(Al17)の純度は、99.0wt%であった。
【符号の説明】
【0091】
1,21・・・金属酸化物同位体の製造装置、2・・・酸素同位体ガス供給装置、3・・・バッファータンク、4・・・循環ポンプ、5・・・排気ポンプ、6・・・熱処理炉、7,10,11,16,20,23,26・・・配管、8,24・・・流量調整弁、9,12,15,25・・・遮断弁、18・・・処理品、19・・・リーク弁、22・・・アルゴンガス供給装置、27・・・置換弁、28,29・・・分析計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガス中において、
金属粉末を加熱することにより酸素同位体である17Oまたは18Oで標識される金属酸化物同位体を得ることを特徴とする金属酸化物同位体の製造方法。
【請求項2】
前記金属粉末が、金属アルミニウム粉末であり、
前記金属酸化物同位体が、Al17またはAl18であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物同位体の製造方法。
【請求項3】
前記金属粉末を加熱する際に、前記金属粉末に所望の金属酸化物同位体粉末を予め混合させて加熱することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属酸化物同位体の製造方法。
【請求項4】
得られた前記金属酸化物同位体を粉砕した後に、再び酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガス中において加熱することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の金属酸化物同位体の製造方法。
【請求項5】
前記金属粉末の加熱の際に使用した前記酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガス、または、前記不活性ガスと酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスの混合ガスを循環利用することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の金属酸化物同位体の製造方法。
【請求項6】
酸素同位体ガスである17ガス若しくは18ガスを供給可能な酸素同位体ガス供給装置と、
前記酸素同位体ガス供給装置から供給される酸素同位体ガスを雰囲気ガスとして導入可能であり、かつ、金属粉末を加熱自在に構成された熱処理炉と、
を有することを特徴とする金属酸化物同位体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−40074(P2013−40074A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178211(P2011−178211)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】