説明

金属酸化物微粒子の製造方法

【課題】要求粒径の金属酸化物微粒子を非凝集形態で得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】金属硝酸塩水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを混合器に送って合流させ、該混合器で両水溶液を所定温度下で反応させて金属水酸化物のコロイド分散液を得た後、該金属水酸化物のコロイド分散液を減圧乾燥して焼成することにより、金属酸化物微粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学沈殿法を利用して金属酸化物微粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物微粒子の製造に関しては下記特許文献1及び2を初めとして種々の製法が提案されているが、中でも化学沈殿法は工業化が容易な製法として着目されている。
【0003】
化学沈殿法は2種類の水溶液を混合し反応させて金属水酸化物のコロイド分散液を得ることをその基本とするものであるが、最終的に得られる金属酸化物微粒子の粒径及び形態を制御することが難しい。
【0004】
例えば、積層コンデンサの微小化に伴う内部電極の薄層化に対しては平均粒径が20nm前後の金属酸化物微粒子が求められているが、化学沈殿法を利用した従前の製法では要求粒径の金属酸化物微粒子を安定に得ることが難しい。また、金属酸化物粒子の形態が針状に凝集したものになる傾向があるため球状粒子を得ることも難しい。
【特許文献1】特開2004−256857
【特許文献2】特開2004−323568
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、化学沈殿法を利用した製法でありながら、要求粒径の金属酸化物微粒子を非凝集形態で得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の金属酸化物微粒子の製造方法は、金属硝酸塩水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液とを混合器に送って合流させ、該混合器で両水溶液を所定温度下で反応させて金属水酸化物のコロイド分散液を得た後、該金属水酸化物のコロイド分散液を減圧乾燥して焼成する、ことをその特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、化学沈殿法を利用した製法でありながら、要求粒径の金属酸化物微粒子を非凝集形態で得ることができる。
【0008】
本発明の前記目的とそれ以外の目的と、構成特徴と、作用効果は、以下の説明と添付図面によって明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の金属酸化物微粒子の製造方法は、好ましくは、
(1)原料として、金属硝酸塩水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを用意するステップ
(2)別々の容器に収容された金属硝酸塩水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを所定流速で混合器に送って合流させ、該混合器で両水溶液を所定温度下で反応させるステップ
(3)反応生成物である金属水酸化物の一次コロイド分散液を混合器から別の容器に収容された前記水酸化ナトリウム水溶液に滴下して金属水酸化物の二次コロイド分散液を得るステップ
(4)二次コロイド分散液を遠心分離によって濃縮するステップ
(5)濃縮後の二次コロイド分散液から透析によって余分なイオンを所定pH以下となるまで取り除くステップ
(6)透析後の二次コロイド分散液を遠心分離によって濃縮するステップ
(7)濃縮後の二次コロイド分散液を減圧乾燥し、続けて焼成するステップ
とを具備している。
【0010】
前記ステップ(1)の金属硝酸塩水溶液には、硝酸銅(Cu(NO32)水溶液の他、硝酸クロム(Cr(NO32)水溶液や、硝酸マグネシウム(Mg(NO32)水溶液を好適に用いることができる。勿論、銅,クロム,マグネシウム以外の金属硝酸塩水溶液を用いることも可能である。また、金属硝酸塩水溶液中の金属の硝酸塩の濃度(mol/l)と水酸化ナトリウム水溶液中の水酸化ナトリウムの濃度(mol/l)は、等量の金属硝酸塩水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とが過不足無く反応するように設定することが好ましい。
【0011】
前記ステップ(2)の両水溶液の混合器への送り込みにはポンプ等の送り込み手段が好適に使用できる。両水溶液の流速には特段の制限はないが、金属硝酸塩水溶液と水酸化ナトリウム水溶液との反応を効果的に行うには該流速を100ml/hr以上1000ml/hr以下とすることが好ましい。
【0012】
また、前記ステップ(2)の混合器における反応温度は最終的に得られる金属酸化物微粒子の粒径に深く関与するものであり、該反応温度を可変することによって金属酸化物微粒子の粒径を制御、具体的には該反応温度を低下させることによって金属酸化物微粒子の粒径を減少させることができる。混合器における反応温度を可変する手段には冷却器付き恒温槽等の冷却手段が好適に使用できる。
【0013】
実験結果等によれば、反応温度を低下させることによって最終的に得られる金属酸化物微粒子の粒径を減少できる理由は、該反応温度の低下によって水の比誘電率が大きくなり、水中で安定が銅ヒドロキソ錯化学種([Cun(OH)2n+22-)のnの数が減少し、錯イオン半径が減少したためと推測される。また、平均粒径が約50nm以下の金属酸化物微粒子を得る場合の反応温度は17℃以下とすることが好ましく、また、平均粒径が約20nm以下の金属酸化物微粒子を得る場合の反応温度は6℃以下とすることが好ましい。反応温度を低下させるほど水の比誘電率が大きくなるため金属酸化物微粒子の粒径を減少できるが、その下限は0℃であって水溶液が凍結しない程度とする。
【0014】
前記ステップ(3)は一次コロイド分散液中の金属水酸化物のpHが極端に変わらないようにするための配慮であるが、該ステップ(3)は必ずしも必要なものではない。
【0015】
前記ステップ(4)の遠心分離には遠心分離機等の遠心分離手段が好適に使用できる。遠心分離の条件には特段の制限はないが、適度に濃縮でき、且つ、遠心力による凝集体形成を抑制するには1000rpm,3minが条件として好ましい。
【0016】
前記ステップ(5)の透析には透析膜を用いた透析手段が好適に使用できる。即ち、遠心分離後の上澄み液を捨て、沈殿物水溶液を透析膜に入れて、ビーカー等に入れた純水中に吊り下げておく。透析の条件には特段の制限はないが、余分なイオンを十分に除去するにはpH9以下となるまで透析することが条件として好ましい。
【0017】
前記ステップ(6)の遠心分離には遠心分離機等の遠心分離手段が好適に使用できる。遠心分離の条件には特段の制限はないが、適度に濃縮でき、且つ、遠心力による凝集体形成を抑制するには5000rpm,5minが条件として好ましい。
【0018】
前記ステップ(7)の減圧乾燥には減圧乾燥機やフリーズドライヤー等の減圧乾燥手段が好適に使用できる。金属酸化物微粒子を非凝集形態で得る場合の圧力は13hPa以下とすることが好ましい。
【0019】
また、前記ステップ(7)の焼成にはロータリーエバポレーター等の焼成手段が好適に使用できる。焼成の条件、特に圧力は最終的に得られる金属酸化物微粒子の形態に深く関与するものであり、具体的には該圧力を低下させることによって金属酸化物微粒子の形態を非凝集にすることができる。
【0020】
実験結果等によれば、圧力を低下させることによって最終的に得られる金属酸化物微粒子の形態を非凝集にできる理由は、減圧下では乾燥が加速され、液体架橋による強固な凝集や残留溶媒の存在による合一が抑制されたためと推測される。焼成の条件は最終的に得ようとする金属酸化物微粒子の物性に応じ、27hPa以下,160℃,4hrのように設定される。
【0021】
尚、前記のプロセスにおいて、水酸化ナトリウム水溶液に代えて水酸化カリウム水溶液を用いても同様の作用,効果を得ることができる。
【0022】
以下に本発明の実施例等を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等に制限されるものでない。
【0023】
[実施例1]
まず、原料として0.1mol/lの硝酸銅(Cu(NO32)水溶液と、0.2mol/lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用意した。
【0024】
次に、別々の容器に収容された硝酸銅水溶液と水酸化ナトリウム水溶液のそれぞれをポンプを用いて500ml/hrの流速で混合器に送って合流させ、該混合器で両水溶液を5℃の温度下で混合して反応させた。
【0025】
次に、反応生成物である水酸化銅(Cu(OH)2)の一次コロイド分散液を混合器から別の容器に収容された前記水酸化ナトリウム水溶液に滴下して水酸化銅の二次コロイド分散液を得た。
【0026】
次に、二次コロイド分散液を遠心分離(条件は1000rpm,3min)によって濃縮し、濃縮後の二次コロイド分散液から透析によって余分なイオン(Na+,OH-,NO3-)をpHが9以下となるまで取り除いた。
【0027】
次に、透析後の二次コロイド分散液を遠心分離(条件は5000rpm,3min)によって濃縮し、濃縮後の二次コロイド分散液を減圧乾燥(条件は13hPa以下,室温,4hr)し、続けて焼成(条件は160℃,4hr,27hPa以下)して酸化銅(CuO)の微粒子を得た。
【0028】
[比較例1]
混合器における反応温度を20℃とした以外は実施例1と同じ手順で酸化銅の微粒子を得た。
【0029】
[比較例2]
濃縮後の二次コロイド分散液を大気中で乾燥した以外は実施例1と同じ手順で酸化銅の微粒子を得た。
【0030】
[評価結果]
実施例1,比較例1,比較例2で得た酸化銅の微粒子の組成,粒径,形態を、それぞれXRD(X線回折装置),FE−TEM(電界放出型透過電子顕微鏡),FE−SEM(電界放出型走査型電子顕微鏡)によってそれぞれ評価した。
【0031】
実施例1で得られた酸化銅の微粒子の平均粒径は約17nm(実測値は17±7nm)であった。これに対し、比較例1で得られた酸化銅の微粒子の平均粒径は約58nm(実測値は58±30nm)で、その形態は各微粒子が針状に凝集していた。実施例1で得られた酸化銅の微粒子の平均粒径が小さい理由は、反応温度の低下によって水の比誘電率が大きくなり、水中で安定が銅ヒドロキソ錯化学種([Cun(OH)2n+22-)のnの数が減少し、錯イオン半径が減少したためと推測される。
【0032】
また、実施例1で得た酸化銅の微粒子の形態は針状配列ではあるものの各微粒子は一定間隔で連なっていて各々は略球状を成していた。これに対し、比較例2で得た酸化銅の微粒子の形態は針状配列で各微粒子が凝集していた。実施例1で得た酸化銅の微粒子の形態が非凝集である理由は、減圧下では乾燥が加速され、液体架橋による強固な凝集や残留溶媒の存在による合一が抑制されたためと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属硝酸塩水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液とを混合器に送って合流させ、該混合器で両水溶液を所定温度下で反応させて金属水酸化物のコロイド分散液を得た後、該金属水酸化物のコロイド分散液を減圧乾燥して焼成する、
ことを特徴とする金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項2】
混合器における反応温度を可変することによって金属酸化物微粒子の粒径を制御する、
ことを特徴とする金属酸化物微粒子の製造方法。
【請求項3】
混合器における反応温度は0℃(水溶液非凍結)以上17℃以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物微粒子の製造方法。

【公開番号】特開2009−263194(P2009−263194A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118374(P2008−118374)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人粉体粉末冶金協会、平成19年度秋季大会 粉体粉末冶金協会講演概要集、第216頁、平成19年11月19日発行 (2)社団法人粉体粉末冶金協会、平成19年度秋季大会(第100回講演大会)、平成19年11月21日開催
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【出願人】(505246206)テクノファーム・アクセス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】