説明

金属酸化物粒子複合体、金属酸化物複合体ゾル、及び金属酸化物複合体ゾルの製法

【課題】1次粒子の凝集を引き起こすことなく、非極性溶媒にナノオーダーで均一分散可能な金属酸化物粒子及びこの金属酸化物粒子が均一に分散したゾルを提供する。
【解決手段】金属酸化物粒子に有機リン化合物が化学的に結合した金属酸化物粒子複合体を構成し、これを所定の有機溶媒中に均一分散させてゾルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子表面に十分な量の疎水基を有し、しかもフリーなOH基の量は少なく、高い疎水性を示す金属酸化物粒子複合体及びそれらが有機溶剤に均一に分散したゾル、並びに前記ゾルの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナをはじめとするAlを主成分とした金属酸化物微粒子(ベーマイト、αアルミナ、γアルミナ)は、粒子の持つ多くの優れた性質から今後さまざまな産業分野への展開が予想されるが、既に広く使用されているシリカと同様に表面に大量の水酸基を有し、親水性の表面を形成していることが多い。また、粒子径が小さくなるほど比表面積は増大し、相互作用が強まるため、それだけ凝集も起こりやすくなる。
【0003】
一般的にゾル中の金属酸化物の分散が不十分であると、透明性の不足、着色の発現につながり、著しく外観を損なうことが良く知られている。そのため上記金属酸化物を有機溶剤中に均一分散させるために、多量の有機オニウムイオンやその他処理剤で表面処理を試みたが、わずかなゾル中での粒子分散性向上と引き換えに着色するばかりか透明性も殆ど得られない。これは、金属酸化物の表面の極性が高すぎるために、有機溶剤中で可視光波長に近いサイズの凝集体を形成し、光線を透過しないことに起因する。同様の現象はAlを主成分とした金属酸化物に限らず、シリカ、チタニア、ヘマタイト、マグネシア、カルシア等他の金属酸化物全般に見られるが、Alを主成分とした金属酸化物は表面のOH基の量が多く、特にその傾向が強いため、分散が困難である。
【0004】
すでに多くの有効な表面処理法が開発されているシリカでの知見に習い、シランカップリング剤処理とクロロシラン類処理の組み合わせで製造した例(特表2003−507557)を高アスペクト比のアルミナへ適用するには、未だ合成例がない比較的疎水性の表面を有するアルミナが必要であるのと、強酸性下で製造後中和するなどの工程により、実質的には多くのシラノール基が残存する問題があるため困難である。
【0005】
より疎水性を向上させるために、非極性溶媒とアルコール存在下で強制的にゾルゲル反応を行ったシリカ(特開平6−92621)があるが、SiOH基の封鎖は明らかに不十分である。また、シランカップリング剤処理後、ビニルポリマーで被覆したコアシェル型シリカ(特開平9−194208)、芳香族を含むポリオルガノシロキサンなどを用いて表面被覆したシリカ(特開2003−128837)などもあるが、いずれも物理的な表面被覆であり、溶媒と混合すれば容易に脱離してしまい、疎水化処理効果が失われてしまう点はアルミナでも同じであることが容易に予想される。
【0006】
さらには表面の水酸基をスルホン基で所望の割合封鎖したアルミナ粒子複合体を用いた場合、優れた分散性が予想されるが、このアルミナ粒子複合体に用いられるスルホン酸化合物は、強酸性基であることから、ゾルとしての液性も強酸性となり、保存性にやや劣り、またこのゾルへの塩基性物質の添加が不可能であるために、用途が限定される。したがって強酸や強アルカリを用いない穏和な組成が求められる。
【0007】
このような事情により、アルミナを始めとする金属酸化物微粒子は、非極性溶媒中にナノオーダーで分散させることが極めて困難であり、例えば非極性溶媒にしか溶解しない機能性分子(染料成分、ゴムコンパウンドなど)と複合化しようと試みた場合、分子レベルあるいはナノオーダーで均一混合することは実質不可能であった。
【0008】
【特許文献1】特表2003−507557号
【特許文献2】特開平6−92621号
【特許文献3】特開平9−194208号
【特許文献4】特開2003−128837号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の問題の解決方法として、1次粒子の凝集を引き起こすことなく、非極性溶媒にナノオーダーで均一分散可能な金属酸化物粒子及びこの金属酸化物粒子が均一に分散したゾルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、本発明は、
金属酸化物粒子に有機リン化合物が化学的に結合したことを特徴とする、金属酸化物粒子複合体に関し、さらに、
前記金属酸化物粒子複合体が有機溶剤中に均一分散したゾルに関する。
【0011】
本発明は、微小な金属酸化物粒子の表面を、非極性溶媒に均一分散可能な官能基を有するように、処理剤である有機リン化合物で表面処理し、リン酸イオンを前記表面に化学的に結合し、高い比率で疎水化することにより、金属酸化物粒子同士が凝集せず、非極性溶媒中での分散性を飛躍的に向上させている。したがって、前記金属酸化物粒子複合体が前記有機溶剤中に分散した本発明のゾルにおいては、その均一分散性を著しく高めることができ、また、前記有機リン化合物は着色に対して何ら影響を与えることがないために、ゾル単体及び溶媒を削除して得られる機能性薄膜における透明性などの光学的特性や強度などの機械的特性を同時に達成することができるようになる。
【0012】
また、前記ゾルは、例えば疎水性の高い第3成分を溶解した他の有機溶剤溶液との混合を飛躍的に容易にし、前記第3成分と前記金属酸化物粒子とを均一に混合することを可能とすることができる。
【0013】
なお、前記有機リン化合物を用いた理由は、チオール系やシラン系化合物に比べ、粒子表面への吸着能が非常に高く、少量の添加量で実用上必要なレベルの分散性が確保できるためである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明してきたように、本発明によれば粒子表面に十分な量の疎水基を有し、高い疎水性を示す金属酸化物微粒子複合体及びそれらが有機溶剤に均一に分散したゾルを提供できるようになる。これにより、従来、分散性、分散時の粒径の面から効果が限定されていた塗料、乾燥剤、ゴム、印刷、触媒製造、触媒担持体、エレクトロセラミック、ファインセラミック、完全水系コーティング剤、機能性薄膜の性能向上へ貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、発明を実施するための最良の形態に基づいて説明する。
【0016】
(金属酸化物粒子複合体)
<金属酸化物粒子>
本発明の金属酸化物粒子複合体を構成する金属酸化物粒子としては、例えば珪素酸化物、アルミニウム酸化物、鉄酸化物、亜鉛酸化物、カルシウム酸化物、チタン酸化物、錫酸化物、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、及び硫化亜鉛、またタルク、カオリナイトなどの粘土鉱物を例示することができる。しかしながら、機械的特性及び光学的特性を高い次元で両立させるには、シリカ、アルミナ、ヘマタイト、チタニア、カルシアが良く、中でも結晶性の良く、ナノサイズでありながら、アスペクト比の高い粒子を作ることができるアルミナが好ましい。
【0017】
また、前記アルミナ粒子は、下記の一般式により表されることが好ましい。
A1203・nH20
式中のnが0のときは酸化アルミニウムを示し、α、γアルミナまたはβ、ρ、χ、ε、γ、κ、κ’、θ、η、δ、λ型のアルミナである。式中のnが1のときはベーマイトを表す。また式中のnが1を越えて3未満である場合はベーマイトと非結晶構造のアルミナ水和物の混合物を示す。これは一般に疑ベーマイトと呼ばれている。さらにnが3以上では非結晶構造のアルミナ水和物を示す。本発明のアルミナ粒子はこれらのうちから選ばれる少なくとも1つであるが、結晶性や粒子安定性の面や入手の容易さからベーマイト、αアルミナ、γアルミナのいずれかが特に好ましい。
【0018】
前記アルミナ粒子の形状は、繊維状、紡錘状、棒状、針状、筒状、柱状などの異方性を示すことが好ましく、特には、短軸長さが1〜10nmであり、長軸長さが20〜700nmであり、アスペクト比が5〜100であるような高異方性を示すことが好ましい。前記アルミナ粒子を含む高透明性のゾルを得ようとする場合、特に粒子サイズは短軸長さが6nm以下であり、長軸長さが500nm以下であることが好ましい。さらに長軸長さは20〜400nmが好ましく、特に20〜100nmであることが好ましい。
【0019】
また、前記アルミナ粒子は、粒子短軸の径の大きさに応じて0.5nm〜9.5nmの径、長さは粒子長軸径以下の5〜700nmの中空円筒を粒子内に有した中空粒子であることが好ましい。これによって、前記アルミナ粒子の比重を低減することができ、例えば前記アルミナ粒子を含むゾルから有機溶剤を除去し、固化して構造体を形成させた場合に、その重量を低く維持したまま、機械物性を向上させることができ、また高透明性を達成することができる。
【0020】
なお、アルミナ粒子のモル数は一般式より求める。たとえばαアルミナ粒子は一般式Al2O3より分子量は101.96とする。ベーマイト粒子の場合は例外的にAlO(OH)を分子量に適用して75.98を分子量とする。
【0021】
上述したアルミナ粒子は、上記結晶系、形状、サイズのものが得られれば特に限定されず、水熱合成法やゾルゲル法など一般的な方法を用いることができる。
【0022】
<有機リン化合物>
本発明の金属酸化物粒子複合体は、上述した金属酸化物粒子に対して化学的に結合した有機リン化合物を含んでいる。有機リン化合物は特に限定されないが、粒子表面への反応性、化合物としての安定性、入手の容易さなどの理由から、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類若しくは環状リン化合物が好ましく、特にリン酸エステル類が好ましい。さらに好ましくは、酸性リン酸エステル類、つまり酸性基(P−OH)を有するリン酸エステル類が好適である。特にアルミナ粒子表面への反応の場合、表面のAlOHは求核攻撃性を有する塩基性であり、有機リン酸は低温ではAlOHに水素結合で配位し、室温〜やや高温で脱水、脱エステル反応が進み、アニオンとなってアルミナ表面のルイス酸点(Al+部位)に吸着することになる。したがって、有機リン酸は酸性基(OH基)を有する方が粒子表面への反応性が高く、また解膠能力が高い。これは有機酸全般にも当てはまるが、特に有機リン化合物でその傾向が顕著である。
【0023】
本発明において、有機リン化合物のうちモノフェニルアシッドホスフェートは極めて優れた分散性を発現するが、金属酸化物粒子との結合様式として、図1に示すような金属酸化物表面に対する2座配位、3座配位が非弾性電子トンネルスペクトロスコピーや多重反射吸収赤外スペクトロスコピー、Al-MAS-NMR等の測定を利用した研究により報告されている。このような化学的に安定した結合と表面のLewis酸点に対して疎水基が垂直になっていることから、少量で効果的な分散効果を実現する。
【0024】
[論文1]M.Higo,S.Kamata, Analytical Sciences, vol.18, p.227-242, March (2002)
[論文2]Gray A. Nitowski, Virgina Polytech.Inst./State Univ. PhD論文 (1998)
[論文3]R.Coast,M.Pikus,P.N.Henriksen,G.A.Nitowski, J.Adhesion. Sci. Technol., vol.10, p.101-121 (1996)
[論文4]R.D.Ramsier, P.N.Henriksen, A.N.Gent, Surface Science, vol.203, p.72-88 (1988)
[論文5]MK.Templeton, W.H.Weinberg, J.Am.Chem.Soc., vol.107, p.774-779 (1985)
【0025】
一方、p−トルエンスルホン酸などの強酸は解膠能力は高いが、得られた複合体を着色して、著しく光学特性を劣化させたりしてしまう場合がある。また、酢酸、カルボキシル塩、ヒドロキシル塩、又はアミノ酸塩を有する弱酸では、上述した着色の問題を生じることはないが、解膠能力が不十分である。したがって、酸性基(P−OH)を有するリン酸エステル類が解膠能力の高さと各種副作用の小ささの両面で最も優れている。
【0026】
本発明で特に好適に用いられる上記酸性リン酸エステル類は、一般式ROnP(O)(OH)3-n(ここでn=1または2)で表わされる。Rは、炭素数1以上の直鎖でも分岐鎖でもよいアルキル基、若しくはアリール基からなる群から選択される1つ以上を示し、ハロゲン原子、エーテル結合などによる酸素原子、チオエーテル結合やスルホン結合などによる硫黄原子が含まれてもよい。n=2の場合、2つのRは同一でも異なっていても良い。さらに直鎖アルキル基の場合は炭素数は2以上であることが好ましい。ここでいう炭素数とはRに含まれる炭素原子の総数を指す。2未満では立体反発の効果が低く、後述する有機溶剤にアルミナ粒子複合体などの金属酸化物粒子複合体が均一に分散したゾルを得ることが難しくなる。Xは水素原子、金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンである。
【0027】
また、本発明で用いられる上記環状リン化合物類は図2に示す一般式で表され、R、R’、R’’は水素原子、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1以上の直鎖でも分岐鎖アルキル基、若しくはアリール基からなる群から選択される1つ以上を示し、ハロゲン原子、エーテル結合などによる酸素原子、チオエーテル結合やスルホン結合などによる硫黄原子が含まれてもよい。
【0028】
なお、上記有機リン化合物としては、フェニルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブチルピロホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、n-オクチルアシッドホスフェート、2-エチルへキシルアシッドホスフェート、n-ラウリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、(2-ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、ビス(2-エチルへキシル)ホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、エチレングリコールモノエチルエーテルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアシッドホスフェート、モノフェニルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、モノベンジルアシッドホスフェート、モノブトキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、などのリン酸エステル類、トリス(2-エチルへキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、テトラ(アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイトなどの亜リン酸エステル類、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイトなどの亜リン酸エステル水素塩類、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、9-ヒドロ-10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン=10-オキシド、10-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキシド、6,8-ジブロモ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドなどの環状有機リン化合物類が挙げられる。また、前述の一般式ROnP(O)(OX)3-nでRが炭素数2以上の置換・非置換のアルキル基のものも好適な例として挙げられる。
【0029】
上記有機リン化合物のうち、特に上記一般式でn=1であるモノアルキルホスフェート及びモノアリールホスフェートを好ましく用いることができる。このようなモノホスフェート類は金属酸化物表面への吸着能が高く、溶媒中において極めて優れた分散性を発現する。中でもモノフェニルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、モノベンジルアシッドホスフェート、モノブトキシエチルアシッドホスフェートは分散効果が顕著である。
【0030】
これらの有機リン化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ここでいう「2種以上」とは、例えばブトキシエチルアシッドホスフェートとテトラコシルアシッドホスフェートのように化学種の異なるものを組み合わせてもよいし、また例えば(C4H9O)nP(O)(OH)3-nなる化学式で表されるブチルアシッドホスフェートにおいて、式中のnが1のものと2のものを混合して用いてもよいことを意味している。
【0031】
なお、本発明の目的を達成することが出来る限りにおいて、前記有機リン化合物は、前記金属酸化物粒子に対して、共有結合、配位縮合、水素結合、静電気的な結合などのいずれの態様で結合していても良いし、前記有機リン化合物の総てがこのような態様で結合している必要はなく、少なくとも一部が結合していれば良い。
【0032】
本発明の金属酸化物粒子複合体における有機リン化合物の含有量は、後述する樹脂組成物の合成過程で使用する金属酸化物粒子複合体分散溶液の平行光線透過率が30%以上となる量であれば特に制限されない。しかしながら、金属酸化物粒子複合体の固形分に対して0.3wt%以上が好ましく、さらに好ましくは1wt%以上である。有機リン化合物の含有量が0.3wt%以下では、後述する有機溶剤に金属酸化物粒子複合体が均一に分散したゾルを得ることができない場合がある。尚、有機リン化合物の含有量は、TG-DTA、IR、NMRなどの装置を組み合わせて定性、定量することができる。
【0033】
(金属酸化物粒子ゾル、及びその製造方法)
本発明の金属酸化物粒子複合体ゾルは、上述のようにして得た金属酸化物粒子複合体を所定の有機溶剤中に分散させて得る。この際、別の工程(別バッチ)にて前記金属酸化物粒子複合体を作製した後、この複合体を前記有機溶剤中に分散させるようにすることもできるが、前記金属酸化物粒子複合体を作製する過程において併せて得ることもできる。具体的には、上述の金属酸化物粒子を超音波、マイクロビーズミル、攪拌、高圧乳化などの少なくとも一つの手段を用いて前記有機溶剤中に強制的に分散させながら、所望の有機リン化合物を添加・反応させることによって、所定の金属酸化物粒子複合体を含むゾルとすることができる。
【0034】
またもうひとつの方法としては、金属酸化物粒子を上記超音波、マイクロビーズミル、攪拌、高圧乳化などの方法で一旦水へ分散させ、これに所望の有機リン化合物を添加・反応させて金属酸化物粒子複合体とした後、遠心分離、蒸留などによって水から有機溶剤へ溶媒置換することで前記複合体を含むゾルとすることができる。
【0035】
尚、高圧乳化とは、具体的には、金属酸化物粒子の入った水溶液をポンプで加圧し、パルプシートとバルブの狭い間隔を超音速域の流速で通過させることにより、パルプシートのエッジ部でキャビテーション(空洞化現象)を発生させ、その空洞の崩壊に伴って局部的に高い圧力差が引き起こされ、液中の凝集状態にある粒子を一次粒子の状態まで解膠する操作をいう。
【0036】
また、金属酸化物粒子複合体ゾルを構成する前記有機溶剤としては、有機リン化合物が可溶なものであれば特に限定されない。具体的には、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2,テトラクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ピリジン、アセトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、イソプロパノール、へキサフルオロイソプロパノールなどを例示することができる。これらの有機溶剤は単独あるいは混合物で用いてもよい。
【0037】
また、上記金属酸化物粒子複合体ゾルを形成するに際し、その金属酸化物粒子に対して前処理を施し、表面に吸着した水分を除去するようにすることができる。前記水分が前記粒子表面に比較的多量に付着していると、前記水分に含まれる水酸基が、前記ゾルから形成した構造体などの比較的弱い部分を攻撃して、加水分解や酸化劣化を引き起こし、これらのことが原因で前記構造体の機械特性の劣化や着色などを引き起こしてしまう場合がある。
【0038】
前記前処理としては種々の乾燥方法を用いて行うことができるが、好ましくはフリーズドライ法、及び常圧または減圧下で100℃から300℃の温度をかけての強熱の少なくとも一方の手段を用いて行う。これによって、前記水分を比較的短時間で効率良く十分に除去することができるようになる。特に、熱による粒子同士の表面に存在するOH基同士の脱水縮合に起因する癒着の恐れがないフリーズドライ法がより好ましい。
【0039】
このような方法で前処理(乾燥)を行うに際しては、例えば金属酸化物粒子に水を加え、超音波振動を常温で10分間以上与えることで、固形分1〜40wt%程度の水分散懸濁液を作製する。次いで、フリーズドライの場合は、市販の工業用フリーズドライ装置を用い、以下に示す手順に従って実施する。(1)金属酸化物粒子の水分散懸濁液を凍結乾燥装置の棚にセットし、2〜5時間かけて凍結を行う。(2)この間、トラップも並行して冷却する。(3)10〜20分のうちに十分排気して0.02〜0.5Torr程度の真空とする。(4)約1日間フリーズドライを行い、水分を昇華させる。(5)25〜+50℃にて数時間2次乾燥を行い、僅かに残存する水分を除去する。(6)窒素又は乾燥空気により常圧に戻す。得られた乾燥粉末は、ゾル化するまでの間、密封保存する。
【0040】
前記フリーズドライ装置の例としては、共和真空技術(株)製凍結乾燥機RLEIIシリーズ、RL-Bシリーズなどが挙げられる。
【0041】
強熱乾燥は、常圧条件の場合には市販の熱風乾燥型オーブンを用いる。装置の例としては、エスペック(株)製熱風循環式オーブンLC224、234、(株)カワタ製エースドライヤーADAシリーズ、あるいは黒田工業(株)製コンベア型熱風乾燥機などが挙げられる。操作としては、上記の水分散懸濁液をオーブンの棚にセットし、温度、懸濁液量、揮発面積にも依るが、150℃の場合で数時間〜1日程度、200℃の場合で3時間〜半日程度かけて乾燥を行う。250℃を超える温度では、前述のOH基同士の縮合が少しずつ進む為、乾燥は250℃以下、望ましくは200℃以下にて行う。
【0042】
減圧条件の強熱乾燥の場合には、市販の真空乾燥機を用いる。装置の例としては、(株)松井製作所製減圧伝熱式乾燥機DPTH-40、(株)カワタ製DECO-DVシリーズなどが挙げられる。操作としては、上記の水分散懸濁液を乾燥機内にセットし、温度、懸濁液量、揮発面積にも依るが、150℃・2Torrの場合で2時間〜5時間程度かけて乾燥を行う。
【0043】
吸着水の乾燥による除去・脱離効果は、熱重量分析(TG)で確認される。TG分析は、空気中または窒素ガス雰囲気中、5℃/min.の昇温速度にて行う。前記金属酸化物粒子に対する前処理(乾燥)は、この分析に於いて25℃から150℃までの加熱減量として2wt%以下になるような条件で行うことが好ましい。本分析で測定される重量減少は、基本的にその殆どが吸着水分である。
【0044】
前記前処理(乾燥)は、前記吸着水分が1wt%以下、更には0.5wt%以下になるまで乾燥させることが特に好ましい。この結果、最終的に製造される金属酸化物粒子複合体ゾルに一部水分と反応する触媒を担持させた場合に、前記水分に含まれるOH基による触媒の失活を抑制することや、顔料やゴムの加水分解などによる劣化を予防することができる。
【0045】
前述の前処理によって得られた金属酸化物粒子粉体は前述の有機溶剤と混合して、金属酸化物粒子ゾルとし、これに有機リン化合物を添加する。ここで前処理によって一部生成する表面OH基同士の水素結合などに起因する凝集塊を再び分散させる目的で、有機リン化合物を添加する前に超音波、マイクロビーズミル、攪拌、高圧乳化などの少なくとも一つの手段を用いることで、有機リン化合物の反応をより容易にすることができる。この中で作業工程中に不純物が混入し難く、装置も簡便である理由から超音波振動が特に望ましい。超音波振動の条件は得に限定されないが、処理時間はゾル中の金属酸化物粒子濃度、温度、粒径、超音波の強さなどにより微調整し、例えば温度10〜40℃程度の室温において、120分以上行うことが好ましい。
【0046】
有機リン化合物を添加後、生成した金属酸化物粒子複合体ゾルに対し、超音波、マイクロビーズミル、攪拌、高圧乳化などの少なくとも一つの手段を用いて分散処理を行うことで、前記有機リン化合物と前記金属酸化物粒子表面のOH基との化学的吸着を促進し、前記有機溶剤中での前記金属酸化物粒子複合体の分散性を更に向上させることができる。前記前処理後の操作と同様の理由で、超音波振動が特に望ましい。超音波振動の条件は得に限定されないが、処理時間はゾル中の金属酸化物粒子濃度、温度、粒径、超音波の強さなどにより微調整し、例えば温度10〜40℃程度の室温において、30分以上行うことが好ましい。
【0047】
なお、一例として、合成したアルミナ粒子からアルミナ粒子複合体ゾルを作製する合成フローを図3に示す。
【0048】
以上の操作により、金属酸化物粒子複合体が有機溶剤中に均一に分散した金属酸化物粒子複合体ゾルを得ることが可能である。尚、前記ゾルの平行光線透過率は30%以上であることが好ましい。30%未満では、前記複合体の分散性が低く、本発明の本来的な目的を達成できない場合がある。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げ、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0050】
(評価方法)
(1)粒子形状、粒子径
透過型電子顕微鏡(TEM:JEOUEM-1200EXII日本電子株式会社)にて粒子形状を観察した。試料を純水(2段蒸留水)にて希釈後、超音波洗浄器に15分間かけた。その後銅メッシュ上の親水処理済カーボン被覆コロジオン膜に試料を塗布し、乾燥させ観察試料を準備した。TEMにてその試料の電子顕微鏡像を120KV、70mA、10万倍にて撮影して、観察した。
粒子径は、TEMにて撮影した写真を市販のスキャナーで電子データとして取り込み、画像処理により粒子径を測定した(ソフト名:Scion Image for Windows(商標登録))。短軸径、長軸径、厚さ、一辺の長さ共にそれぞれ無作為に100個体選び、測定した。
【0051】
(2)アルミナの同定
粉末X線回折装置(X線解析装置:RINT-2000理学電機)を用いた。試料を測定用無反射板に圧粉することにより、これを観察試料とし、X線解析装置にて測定し、アルミナのJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)と比較することにより同定した。
【0052】
(3)粒子表面改質量の定量
TG−DTA(TG-DTA320セイコーインスツルメンツ)を用いて観察した。測定条件は、測定温度:室温〜9.00℃、昇温速度10℃/分とした。
【0053】
(4)光学的物性測定
得られたアルミナ粒子複合体ゾルを石英製セルに2ml測り採り、分光光度計(U4000)を用いて、平行光線透過率を測定した。
【0054】
(アルミナ粒子の合成)
(A)ベーマイト粒子
機械攪拌機を備えたテフロン(商標登録)製ビーカーに塩化アルミニウム六水和物(2.0 M,40ml,25℃)を入れ、恒温槽で10℃に保ちつつ、攪拌(700rpm)しながら水酸化ナトリウム(5.0 M,40ml,25℃)を約6分かけて滴下した。滴下終了後さらに10分間攪拌を続け、攪拌終了後、溶液のpHを測定した(pH=7.08)。溶液をテフロンライナーを備えたオートクレーブに代え密栓し、オーブンで120℃、24時間経時させた(第1の熱処理)。第1の熱処理の終了後、前記オートクレーブをオイルバスへ移し、180℃、30分間加熱した(第2の熱処理)。第2の熱処理終了後、前記オートクレーブを流水へ入れ、急速冷却(約10℃)をした(第3の熱処理)。第3の熱処理終了後、前記オートクレーブを再びオーブンへ入れ150℃で、1日加熱を続けた(第4の熱処理)。その後、前記オートクレーブを流水で冷やし、遠心分離(30000rpm,30min)で上澄み除去後、遠心水洗3回、水メタノール混合溶液(体積比水:メタノール、0.5:9.5)遠心洗浄を1回行った。その後、凍結乾燥機を用いて乾燥させることにより無色結晶(A)を得た。この無色結晶はX線回折の結果ベーマイトであることが判明した。また、TEMを用いて粒子のサイズを調べたところ、長軸長さ125±13nm、短軸長さ(径)5.2±0.6アスペクト比が約20の針状だった。
【0055】
(B)γアルミナ粒子
上記(A)で得られたベーマイト粒子粉末10gをアルミナるつぼに入れ、600℃で5時間熱処理を行うことにより無色の粉末粒子(B)を得た。X線回折を用いて結晶相の同定を行ったところ、粉末粒子はγ-アルミナであることが判明した。
【0056】
(C)αアルミナ粒子
上記(A)で得られたベーマイト粒子粉末10gをアルミナるつぼに入れ、1100℃で3時間熱処理を行うことにより無色の粉末粒子(C)を得た。X線回折を用いて結晶相の同定を行ったところ、粉末粒子はα-アルミナであることが判明した。
【0057】
(ベーマイト粒子水ゾルの合成)
(D)ベーマイト粒子水ゾル
上記(A)で得られたベーマイト粒子粉末50gを蒸留水450gに添加し、粒子10wt%の分散液としたものをよく攪拌した後、超音波分散機に30分間かけて均一なベーマイト粒子水ゾル(D)500gを作製した。
【0058】
(フリーズドライベーマイト粒子の作製)
(E)フリーズドライベーマイト粒子
上記(D)で得られたベーマイト粒子水ゾル200gのフリーズドライを行った。共和真空技術(株)製凍結乾燥機RLEII-52を用いて、次の様にフリーズドライ乾燥を行った。(1)ベーマイト粒子水ゾル500gを凍結乾燥装置の棚にセットし、3時間かけて-40℃で凍結を行った。(2)この間、コールドトラップも並行して-50℃に冷却した。(3)10分のうちに速やかに排気を行い、0.2Torrの真空とした。(4)このまま20時間フリーズドライを行い、水分を昇華させた。(5)+30℃にて4時間2次乾燥を行い、僅かに残存する水分を除去した。(6)乾燥空気により常圧に戻した。この一連の操作の結果、45gのフリーズドライベーマイト粒子(E)が得られた。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として0.9wt%であり、十分な乾燥が行われたことを確認できた。
【0059】
(アルミナ粒子複合体ゾルの合成)
(実施例1)
上記(E)のフリーズドライベーマイト粒子をテトラヒドロフランに添加し、粒子10wt%の分散液としたものをよく攪拌した後、超音波分散機に40分間かけた。そこへブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)を、粒子重量に対して2wt%添加しよく攪拌した後、超音波分散機に120分間かけた。その後、得られた溶液をさらに高圧乳化装置で50MPaの圧力で処理することにより、テトラヒドロフランに分散したベーマイト粒子複合体ゾルを得ることができた。このゾルの平行光線透過率は60%であり、また、前記分散溶液を濃縮、乾爆し、TG-DTAを用いて粒子上に吸着している改質剤量を確認すると、粒子重量に対し1.4wt%であった。
【0060】
(実施例2)
前記フリーズドライベーマイト粒子(E)に代えてγアルミナ粒子(B)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は45%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.0wt%であった。
【0061】
(実施例3)
前記フリーズドライベーマイト粒子(E)に代えてαアルミナ粒子(C)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は44%であり、改質剤量は粒子重量に対し0.9wt%であった。
【0062】
(実施例4)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてブチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-504)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は57%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.5wt%であった。
【0063】
(実施例5)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてブチルピロホスフェート(城北化学工業製JP-504A)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は59%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.4wt%であった。
【0064】
(実施例6)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてn-ラウリルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は62%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.1wt%であった。
【0065】
(実施例7)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えて2-エチルヘキシルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-508)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は62%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.4wt%であった。
【0066】
(実施例8)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてオレイルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-508-O)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は69%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.0wt%であった。
【0067】
(実施例9)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてテトラコシルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-524R)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は71%であり、改質剤量は粒子重量に対し0.8wt%であった。
【0068】
(実施例10)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてテトラコシルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-524R)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は53%であり、改質剤量は粒子重量に対し0.5wt%であった。
【0069】
(実施例11)
γアルミナ粒子(B)に代えてαアルミナ粒子(C)を用いた以外は、実施例10と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は52%であり、改質剤量は粒子重量に対し0.5wt%であった。
【0070】
(実施例12)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてビス(2-エチルへキシル)ホスフェート(城北化学工業製LB-58)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は57%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.5wt%であった。
【0071】
(実施例13)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えて(2-ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドホスフェート(城北化学工業製JPA-514)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は52%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.3wt%であった。
【0072】
(実施例14)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてステアリルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は70%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.0wt%であった。
【0073】
(実施例15)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてエチレングリコールモノエチルエーテルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は64%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.5wt%であった。
【0074】
(実施例16)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてトリエチレングリコールモノエチルエーテルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は69%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.6wt%であった。
【0075】
(実施例17)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてトリエチレングリコールモノブチルエーテルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は69%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.5wt%であった。
【0076】
(実施例18)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えて9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイドを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は52%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.8wt%であった。
【0077】
(実施例19)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えて9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイドを用いた以外は、実施例2と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は39%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.3wt%であった。
【0078】
(実施例20)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えて9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイドを用いた以外は、実施例3と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は36%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.2wt%であった。
【0079】
(実施例21)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えて9-ヒドロ-10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキシドを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は42%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.7wt%であった。
【0080】
(実施例22)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えて10-ベンジル-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキシドを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は51%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.8wt%であった。
【0081】
(実施例23)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてフェニルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は65%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.4wt%であった。
【0082】
(実施例24)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてジフェニルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は62%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.7wt%であった。
【0083】
(実施例25)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えて6,8-ジブロモ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は60%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.4wt%であった。
【0084】
(実施例26)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノフェニルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は72%であり、改質剤量は粒子重量に対し0.9wt%であった。
【0085】
(実施例27)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノフェニルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例2と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は70%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.0wt%であった。
【0086】
(実施例28)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノフェニルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例3と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は70%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.1wt%であった。
【0087】
(実施例29)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノエチルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は75%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.5wt%であった。
【0088】
(実施例30)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノエチルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例2と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は73%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.4wt%であった。
【0089】
(実施例31)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノエチルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例3と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は72%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.3wt%であった。
【0090】
(実施例32)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノブチルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は69%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.6wt%であった。
【0091】
(実施例33)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノブチルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例2と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は65%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.5wt%であった。
【0092】
(実施例34)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノブチルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例3と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は64%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.5wt%であった。
【0093】
(実施例35)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノベンジルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は80%であり、改質剤量は粒子重量に対し2.3wt%であった。
【0094】
(実施例36)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノベンジルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例2と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は79%であり、改質剤量は粒子重量に対し2.2wt%であった。
【0095】
(実施例37)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノベンジルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例3と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は75%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.9wt%であった。
【0096】
(実施例38)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノブトキシエチルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は74%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.9wt%であった。
【0097】
(実施例39)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノブトキシエチルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例2と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は74%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.8wt%であった。
【0098】
(実施例40)
前記ブトキシエチルアシッドホスフェート(城北化学工業製JP-506H)に代えてモノブトキシエチルアシッドホスフェートを用いた以外は、実施例3と同様の操作を実施してアルミナ粒子複合体ゾルを作製した。このゾルの平行光線透過率は71%であり、改質剤量は粒子重量に対し1.7wt%であった。
【0099】
(比較例1)
上記(A)のベーマイト粒子をテトラヒドロフランに添加し、粒子10wt%の分散液としたものをよく攪拌した後、超音波分散機に130分間かけた。その後、得られた溶液をさらに高圧乳化装置で50MPaの圧力で処理し、ベーマイト粒子ゾルを得た。このゾルは懸濁状態であった。
【0100】
(比較例2)
日産化学製アルミナゾル520の粉末をテトラヒドロフランに添加し、粒子10wt%の分散液としたものをよく攪拌した後、超音波分散機に130分間かけた。その後、得られた溶液をさらに高圧乳化装置で50MPaの圧力で処理し、ベーマイト粒子ゾルを得た。このゾルは懸濁状態であった。尚、アルミナゾル520は20wt%の水分散溶液として市販されているが、フリーズドライして乾爆粉末としてから用いた。粒子はベーマイト構造であり、粒子径10〜20nm、棒状、粒状の混合物である。
【0101】
(比較例3)
日本アエロジル社製酸化アルミニウムCの粉末をテトラヒドロフランに添加し、粒子10wt%の分散液としたものをよく攪拌した後、超音波分散機に130分間かけた。その後、得られた溶液をさらに高圧乳化装置で50MPaの圧力で処理し、アルミナ粒子ゾルを得た。このゾルは懸濁状態であった。尚、酸化アルミニウムCは、粒子径約13nmの球状をとっている。
【0102】
(比較例4)
サンゴバン・セラミック・マテリアル製CAM9010の粉末をテトラヒドロフランに添加し、粒子10wt%の分散液としたものをよく攪拌した後、超音波分散機に130分間かけた。その後、得られた溶液をさらに高圧乳化装置で50MPaの圧力で処理し、アルミナ粒子ゾルを得た。このゾルは懸濁状態であった。尚、CAM9010は、長軸径約90nm、短軸径10〜15nmのサイズでちょうどラグビーボール形状を呈している。また、粒子は単独で存在するのではなく、4、5個の数珠繋ぎになっている。
【0103】
(評価結果)
各実施例、比較例の評価結果を表1に示す。
【0104】
【表1−1】


【表1−2】


【表1−3】

【0105】
本発明に従って有機リン化合物が結合した金属酸化物(アルミナ)粒子複合体のゾルに関する実施例では、何れも平行光線透過率が高く、高い透明性を有している。中でも特にモノフェニルアシッドホスフェート類の透明性が顕著である。一方、有機リン化合物が結合していない金属酸化物複合体のゾルでは、比較的高アスペクト比の粒子でも、前記有機リン化合物による表面未改質のため特に透明性が悪化していることがわかる。またアスペクト比の低い粒子では、特に透明性が低いだけでなく、溶媒を除去し、固化させた構造体の強度が著しく低い結果となった。
【0106】
以上、具体例を挙げながら本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0107】
例えば、本発明の金属酸化物粒子複合体ゾルは、必要に応じて、酸化防止剤及び熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、チオエーテル、及びこれらの置換体及びその組み合わせを含む)、紫外線吸収剤(例えばレゾルシノール、サリシレート、べンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等)、滑剤、離型剤(例えばシリコン樹脂、モンタン酸及びその塩、ステアリン酸及びその塩、ステアリルアルコール、ステアリルアミド等)、染料(例えばニトロシン等)、顔科(例えば硫化カドミウム、フタロシアニン等)を含む着色剤、添加剤添着液(例えばシリコンオイル等)、及び結晶核剤(例えばタルク、カオリン等)、触媒(金属、有機金属錯体)などを単独又は適宜組み合わせて添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の金属酸化物粒子複合体におけるモノアシッドホスフェートとアルミナ表面との結合様式を示した図である。
【図2】本発明の金属酸化物粒子複合体における環状リン化合物の構造式である。
【図3】合成したアルミナ粒子からアルミナ粒子複合体ゾルを作製する合成フローを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子に有機リン化合物が化学的に結合したことを特徴とする、金属酸化物粒子複合体。
【請求項2】
前記有機リン化合物は、リン酸エステル類及び亜リン酸エステル類の少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項3】
前記有機リン化合物は、酸性リン酸エステル類であることを特徴とする、請求項2に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項4】
前記酸性リン酸エステル類は、一般式ROP(O)(OX)3-n(n=1又は2であり、Rは炭素数1以上の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基若しくはアリール基からなる群より選択される1以上であって、ハロゲン原子、エーテル結合などによる酸素原子、チオエーテル結合やスルホン酸結合などによる硫黄原子が含まれていても良い。n=2の場合、2つのRは同一であっても良いし、異なっていても良い。Xは水素原子、金属イオン、アンモニウムイオン、及びアルキルアンモニウムイオンの少なくとも1つである。)で表されることを特徴とする、請求項3に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項5】
前記一般式のRにおける炭素数が2以上であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項6】
前記酸性リン酸エステルは、前記一般式におけるn=1のモノアルキルホスフェート及びモノアリールホスフェートの少なくとも一方であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項7】
前記酸性リン酸エステルは、モノフェニルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、モノベンジルアシッドホスフェート及びブトキシエチルアシッドホスフェートからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項6に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項8】
前記金属酸化物粒子複合体における前記有機リン化合物の含有量が、前記金属酸化物粒子複合体の固形分に対して0.3wt%以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項9】
前記金属酸化物粒子を構成する金属原子がAlを主成分とする粒子から選ばれる少なくとも1種類の粒子であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項10】
前記金属酸化物粒子は、短軸長さ1〜10nm、長軸長さ20〜700nm、アスペクト比が5〜100の異方性を呈することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項11】
前記金属酸化物粒子は、短軸長さ1〜10nm、長軸長さ20〜700nm、アスペクト比が5〜100の異方性を呈することを特徴とする、請求項9に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項12】
前記金属酸化物粒子は、
Al2O3・nH2O
なる一般式で表されるアルミナ粒子であることを特徴とする、請求項11に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項13】
前記アルミナ粒子は、内部に中空部を有することを特徴とする、請求項12に記載の金属酸化物粒子複合体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一に記載の金属酸化物粒子複合体が有機溶剤中に均一分散したゾル。
【請求項15】
有機溶剤と金属酸化物粒子との混合物に有機リン化合物を加え、室温にて化学結合を形成させることを特徴とする、金属酸化物粒子複合体ゾルの製法。
【請求項16】
前記金属酸化物粒子に前処理を施し、前記金属酸化物粒子表面の水分を除去することを特徴とする、請求項15に記載の金属酸化物粒子複合体ゾルの製法。
【請求項17】
前記前処理は、フリーズドライ、及び常圧若しくは減圧下で100℃から300℃の温度をかけての強熱の少なくとも一方の手段を用いて行うことを特徴とする、請求項16に記載の金属酸化物粒子ゾルの製法。
【請求項18】
前記有機リン化合物を加えた後、超音波振動、マイクロビーズミル、攪拌及び高圧乳化の少なくとも1つの手段を施すことを特徴とする、請求項15〜17のいずれか一に記載のゾルの製法。
【請求項19】
前記金属酸化物粒子を前記有機溶剤に加えた後、前記有機リン化合物を加える前に、超音波振動、マイクロビーズミル、攪拌及び高圧乳化の少なくとも1つの手段を施すことを特徴とする、請求項15〜17のいずれか一に記載のゾルの製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−31259(P2007−31259A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313342(P2005−313342)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】