金属酸化物膜、積層体、金属部材並びにその製造方法
【課題】アルミニウムを主成分とする金属を保護しうる、微細孔や気孔(ポア)などの膜欠陥がなく水分放出の少ない金属酸化物膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜であって、膜厚が10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下である金属酸化物膜、及びアルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の化成液中で陽極酸化して金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法。
【解決手段】アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜であって、膜厚が10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下である金属酸化物膜、及びアルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の化成液中で陽極酸化して金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物膜及び積層体、金属部材ならびにそれらの製造方法に関し、特に、半導体や平面ディスプレイ等の電子装置の製造工程で用いられる製造装置に使用して好適な金属酸化物膜及び積層体、金属部材ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や平面ディスプレイなどの電子装置の製造分野などに用いられる製造装置、即ち化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、及びマイクロ波励起プラズマCVDなどに用いる真空薄膜形成装置や、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング(RIE)、及び近年開発されたマイクロ波励起プラズマエッチングなどに用いるドライエッチング装置(以下、真空装置と総称する。)、洗浄装置、焼成装置、加熱装置等、特に腐食性の流体、ラジカル、照射イオンに接する面を有する構造材として、近年、ステンレス材に代わり、軽量で強固な、アルミニウムを主成分とする金属が広く用いられている。これらの装置では、今後の効率的な多品種少量生産を実現するためにも、1台で複数のプロセスを処理可能な3次元立体化クラスターツール化や、1つのプロセスチャンバーでガス種を切り替えて複数の処理を行うこと等が求められている。アルミニウムは実用金属の中でも特に卑な部類に属しており、アルミニウム及びアルミニウムを主成分とする金属には、適切な表面処理による保護膜形成が必要である。
【0003】
アルミニウムを主成分とする金属を構造材として用いた際の表面保護膜としては、古くから電解液中の陽極酸化による陽極酸化膜(アルマイト)が知られている。電解液として、酸性電解液(通常、pH2以下)を用いると、ポーラス構造を有する平滑で均一なアルマイト皮膜を形成させることができる。
【0004】
しかも、アルマイト皮膜は耐食性を有しており、また酸性電解液も安定で管理が容易なため、広く一般に用いられている。しかしながら、ポーラス構造を有するアルマイト皮膜は構造部材の表面処理としては熱に弱く、アルミニウム基材とアルマイト皮膜における熱膨張係数の違いよりクラックを生じて(特許文献1−特開平10−130884号公報)、パーティクルの発生、アルミニウム基材の露出による腐食などの発生要因となっていた。
【0005】
またポーラス構造の孔内部には多量の水分等が蓄積・吸着しており(特許文献2−特公平5−053870号公報)、これがアウトガス成分として多量に放出されることにより、これら真空装置の性能の大幅な低下や、デバイスの動作不良、その他ハロゲンガスを含む各種ガス・薬品との共存によるアルマイト皮膜及びアルミニウム基材の腐食を引き起こす要因になるなど、多くの問題点を有していた。ハロゲンガスの中でも特に塩素ガスについては、リアクティブイオンエッチング(RIE)等に於ける金属材料の加工に於けるエッチングガスや、薄膜形成装置やドライエッチング装置のクリーニング工程にも用いられており、塩素ガスに対する強固な耐食性を有した装置部材の金属表面処理が重要である。
【0006】
そこで、高温の熱負荷によるクラックの増加割合が低いアルマイト皮膜及びその形成方法が種々提案されている。例えば、アルミニウムの合金組成をコントロールしたアルマイト皮膜の形成方法が提案されている(特許文献3−特開平11−181595号公報)。しかしこのアルマイト皮膜も従来同様、表面にポーラス構造を有しており、このポーラス構造の孔内部に残存している水分による各種の問題については未解決のまま残されていた。
【0007】
このポーラス構造に起因する問題改善の為に、各種方法が提案されている。例えば、酸性電解質中にて陽極酸化処理したポーラス構造を有するアルマイト皮膜を沸騰水中に浸漬、又は加圧水蒸気中にて処理することにより、表面に水酸化アルミニウム(ベーマイト層)を形成して孔を塞ぐ封孔処理(特許文献4−特開平5−114582号公報)や、金属の水和物あるいは水和酸化物を主成分とする溶液中に於ける封孔処理(特許文献5−特開2004−060044号公報)などが提案されている。しかし、封孔処理後もポーラス構造の孔内部には依然として水分が残存しており、水酸化アルミニウムによるベーマイト層自体も水和物であることから、圧力や温度などの条件によっては水分の供給源となっており、根本的な解決には至っていない。また、ポーラス構造のアルマイト皮膜を形成後、バリア構造の陽極酸化処理を行う方法(特許文献6−特開2005−105300号公報)も提案されているが、二工程の陽極酸化処理を行う必要があるために、製造コストが高くなるといった問題があった。
【0008】
その他、アルミニウムを主成分とする金属を構造部材として用いた際の表面処理として、金属・合金や、各種セラミックス、セラミックスと金属あるいは合金とを組み合わせた粉体材料を溶融して噴射する溶射法などが用いられている(特許文献7−特開平9−069514号公報)。しかし溶射法による表面処理では、膜表面と基材とが穴でつながっている気孔の生成抑制が困難な為に、装置内でハロゲンガス等の腐食ガスを用いた場合には、気孔による基材のアルミニウムを主成分とする金属が接触している部位が腐食する問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−130884号公報
【特許文献2】特公平5−053870号公報
【特許文献3】特開平11−181595号公報
【特許文献4】特開平5−114582号公報
【特許文献5】特開2004−060044号公報
【特許文献6】特開2005−105300号公報
【特許文献7】特開平9−069514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
即ち、酸性電解液により形成したアルマイト皮膜は、残存・吸着水分の問題があり、ポーラス構造のアルマイト皮膜を形成後、バリア構造の陽極酸化処理を行う方法では、ボイドの形成や、ガス溜まりの形成を完全に抑制するのが困難であること、溶射法による表面処理では気孔生成の抑制が困難であった。アルマイト皮膜は水分を含有するAl2O3・6H2O構造であり、しかも化成液の電気分解によって生じたOHイオンにより膜がエッチングされて多孔質になるためそこに大量の水を含有し、たとえばRIE装置に用いられるとエッチング処理中に大量の水分がチャンバー内に放出されて水プラズマとなる。この水プラズマはOHラジカルを発生させてフォトレジストを分解するから、レジストと被エッチング材料との選択比が大幅に減少し、そのため従来のRIEではレジストを分厚く形成しなければならなかった。それは解像度の低下という問題を生じさせる。またチャンバー中に放出された大量の水分は気相反応によって、チャンバー内のイオンを凝集させ、大量のゴミをチャンバー内に発生させ、デバイスの歩留まり悪化をまねく。RIEでは通常20〜40ミリトールでエッチングをするので気体分子間隔が十分広く気相反応は起こらずゴミは発生しないはずであるのに、現実には大量のゴミが発生しゲートバルブにゴミが付着しウエハーの出し入れにゴミがウエハーに付着して不良品を発生することが問題になる。これは水分が介在してゴミが発生するためである。
【0011】
従来のアルマイトの水分を放出させるために熱処理を行おうにも、アルマイトは140℃でクラックが生じるので熱処理で水分を減少させることもできない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、アルミニウムを主成分とする金属を保護しうる、微細孔や気孔(ポア)などの膜欠陥がなく水分放出の少ない金属酸化物膜およびその製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、アルミニウムを主成分とする金属を保護しうる、微細孔や気孔(ポア)などの膜欠陥のない金属酸化物膜を有する金属部材及びその製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、アルミニウムを主成分とする金属を保護しうる、微細孔や気孔(ポア)などの膜欠陥がなく水分放出の少ない、しかも150℃以上の熱処理にもクラックの生じることのない金属酸化物膜を有する金属部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、薄膜であり、かつ膜からの放出水分量が所定量以下である金属酸化物膜が、加熱による酸化物膜のクラックの発生やアウトガスの放出等が抑えられ、またハロゲンガス、特に塩素ガスに対して良好な耐食性を有すること、及び特定の化成液を用いることで優れた性質を備えた金属酸化物膜が得られることを見いだした。
【0016】
即ち、本発明によれば、アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜であって、膜厚が10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下(1×1018個/cm2以下)であることを特徴とする金属酸化物膜が得られる。なお、以下の説明では、E表記法(E-Notation)を用いて分子数を表す。
【0017】
また、一部元素の含有量を抑制したアルミニウムを主成分とする金属に於いて、特定の化成液を用いることにより形成された金属酸化物膜は、ボイドやガス溜まりが形成されず、加熱による酸化物膜のクラック発生等が抑えられることにより、硝酸、フッ酸等の薬液及びハロゲンガス、特に塩素ガスに対して良好な耐食性を有することを見いだした。
【0018】
本発明において、金属酸化膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡により測定できる。例えば日本電子(株)製JSM−6700などを用いうる。
【0019】
本発明において金属酸化物膜からの放出水分量は、金属酸化物膜を23℃で10時間、その後昇温してさらに200℃で2時間保持する間に膜から放出される単位面積あたりの放出水分子数[分子/cm2]を言う(昇温時間中も測定に含まれる)。放出水分量は、例えば、大気圧イオン化質量分析装置(ルネサス東日本製 UG−302P)を用いて測定可能である。
【0020】
好ましくは、金属酸化物膜はアルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の化成液中で陽極酸化して得られてなる。化成液は、硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。また化成液が非水溶媒を含有することが好ましい。また、陽極酸化ののち100℃以上で加熱処理されてなることが好ましい。例えば100℃以上の加熱炉中でアニール処理することができる。この金属酸化物膜は、望ましくは、半導体又は平面ディスプレイの製造装置の構造材保護用皮膜として使用される。
【0021】
本発明によれば、また、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属からなる基体上にこの金属酸化物膜を有してなることを特徴とする積層体が得られる。この積層体は、望ましくは、半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材に使用される。
【0022】
また本発明の金属酸化物膜の上下には、必要に応じて他の層を有していてもよい。例えば金属酸化物膜上に更に、金属、サーメット及びセラミックスから選ばれるいずれか1種又は2種以上を原料とした薄膜を形成して多層構造とすることもできる。
【0023】
本発明によれば、また、このような積層体を用いた半導体又は平面ディスプレイ製造装置が得られる。
【0024】
本発明によれば、また、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の化成液中で陽極酸化してアルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜を得ることを特徴とする金属酸化物膜の製造方法が得られる。
【0025】
化成液は、硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。また化成液が非水溶媒を含有することが好ましい。
【0026】
また、金属酸化物膜は陽極酸化ののち150℃以上で加熱処理されてなることが好ましい。好ましくは、得られた金属酸化物の膜厚が10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下である。この放出水分は、金属酸化物膜の表面吸着水に由来しており、放出水分量は金属酸化物膜の実効表面積に比例するので、放出水分量を低減する為には実効表面積を最小にすることが有効であり、この為金属酸化物膜は表面に気孔(ポア)などのないバリア型金属酸化物膜であることが望ましい。これら金属酸化物膜は、半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材の保護用皮膜として使用される。
【0027】
さらに、本発明によれば、アルミニウムを主成分とする金属からなる基体をpH4〜10の化成液中で陽極酸化し、前記基体上にアルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜を形成することを特徴とする積層体の製造方法が得られる。
【0028】
なおアルミニウムを主成分とする金属とは、アルミニウムを50質量%以上含む金属を言う。純アルミニウムでもよい。好ましくはこの金属はアルミニウムを80質量%以上含み、より好ましくはアルミニウムを90質量%以上、更に好ましくは94質量%以上含む。またアルミニウムを主成分とする金属は好ましくは、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属を含む。
【0029】
なお高純度アルミニウムを主成分とする金属とは、アルミニウムを主成分とする金属であって、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の総含有量が1%以下である金属をいう。また高純度アルミニウムを主成分とする金属は好ましくは、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属を含む。
【発明の効果】
【0030】
本発明による、微細孔や気孔などのない無欠陥バリア型の、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物膜及びこれを有する積層体は、薬品や腐食性の流体、特に塩素ガス等のハロゲンガスに対して良好な耐食性を示し、水素ラジカル、酸素ラジカル、塩素ラジカル、臭素ラジカル、フッ素ラジカル等の全てのラジカルやプラズマにおけるイオン照射にも完全な耐性を有する。また150℃以上、500℃に加熱しても金属酸化物膜にクラックが入りにくいのでパーティクルの発生やアルミニウム基体の露出による腐食が抑えられ、熱安定性が高く、膜からのアウトガスの放出も少ない。真空薄膜形成装置等の真空装置の内壁など構造材の保護膜に用いた場合は、装置の到達真空度を向上させる他、製造される薄膜の品質を向上させるので、薄膜を有するデバイスの動作不良の低減にもつながる。ラジカルに反応しない表面を提供するからプロセスが安定化する。また、プラズマ処理装置に従来のアルマイト保護されたアルミニウムを用いると、アルマイトでは膜が厚く壁面のキャパシタンスが大きいので大量の電荷が付着しイオンと電子の再結合によってプラズマが消失するためプラズマ励起のための電力消費が大きいという問題点もあるが、本発明のアルミニウム酸化膜では膜厚が小でよいので、キャパシタンスが小さく従って電荷再結合によるプラズマ消失も小さいのでプラズマ励起の電力を従来の1/5〜1/10にすることができる。また水分の放出が金属アルミニウムと同等の少なさなので、RIE装置においても水プラズマの発生がなく、フォトレジストが損傷しないので選択比を大きく獲ることができ、ひいてはレジストを薄くすることができ、解像度の飛躍的増大につなげることができる。また、ゴミの発生を抑制し歩留まりが向上する。なお本発明においては必ずしもすべての効果を発現することを必須とするものではなく、上記した1以上の効果があればよいものとする。
【0031】
特に、高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物はバリア構造中でのボイドの形成やガス溜りの形成を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、実施例4及び実施例5における、陽極酸化時の電圧特性を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例3、比較例1の各サンプル及び未処理のアルミ試料片の放出水分特性を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例3、実施例6、比較例1及び比較例3に於けるアニール処理後のサンプル表面の電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、実施例8、実施例10、比較例4、及び比較例5に於ける塩素ガス曝露評価後のサンプル表面の電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例8〜10及び比較例6に於ける塩素ガス曝露評価後のサンプル表面の電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例14〜16及び参考例1における、陽極酸化時の電流特性を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例21及び参考例6における、陽極酸化時の電圧特性を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例30に於ける薬液浸漬後の高純度アルミニウム材及びA5052材の各サンプル表面の電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、実施例33に於ける塩素ガス曝露評価後の高純度アルミニウム材及びA5052材の各サンプル表面の写真である。
【図10】図10は、表11に示す純Alと各種Al合金について、1wt%アジピン酸アンモニウムを含む非水溶液電解液(nonaqueous electrolyte solution)で陽極酸化したときの特性を示し、図10(a)は電圧特性、図10(b)は電流特性を示すグラフである。
【図11】図11は、1wt%アジピン酸アンモニウムを含む非水溶液電解液(nonaqueous electrolyte solution)で形成された種々のアルミニウム合金の残留電流密度を示すグラフである。
【図12】図12は、表12に組成を示すMgとZrを少量含む高純度Alについて、1wt%アジピン酸アンモニウムを含む非水溶液電解液(nonaqueous electrolyte solution)で陽極酸化した結果を示し、図12(a)は電圧特性、図12(b)は電流特性を示すグラフである。
【図13】図13は、アニール後の酸化膜を評価するため再陽極酸化に関し、573(K)でアニール後のアルミニウム合金の再陽極酸化曲線で、図13(a)及び図13(b)はそれぞれ電圧特性、電流特性を示すグラフである。
【図14】図14は、アニール・再酸化の前後の残留電流値を示すグラフである。
【図15】図15は、陽極酸化における電圧と酸化膜厚との関係を示すグラフである。
【図16】図16は、陽極酸化電圧と酸化膜の比抵抗との関係を示すグラフである。
【図17】図17(a)、(b)、(c)は、それぞれ、陽極酸化後300℃で1時間アニールしたAlMg2試料をアンモニアガス、塩素ガス、HBrガスに200℃で暴露した状況を、(d)のアルマイトを塩素ガスに100℃で暴露した状況と合わせて示す電子顕微鏡写真である。
【図18】図18は、陽極酸化後300℃で1時間アニールしたAlMg2試料を照射イオンに曝した結果を示すグラフである。
【図19】図19は、Mgを1.5質量%、2質量%それぞれ含む高純度Al(不純物の総含有量が100ppm以下)にZrを0.1質量%添加した場合及び添加しない場合について、Al結晶粒の成長について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0034】
本発明に係わる金属酸化物膜は、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜であって、膜厚が10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下である。この膜はアルミニウムを主成分とする金属からなる基体上に形成すると保護膜として高い性能を示す。
【0035】
金属酸化物膜の膜厚は、好ましくは100μm以下と薄くする。膜厚が厚いとクラックが入りやすく、またアウトガスを放出しやすい。より好ましくは10μm以下とし、更に好ましくは1μm以とし、なかでも好ましくは0.8μm以下とし、特に好ましくは0.6μm以下とする。ただし膜厚は10nm以上とする。膜厚が薄すぎると十分な耐食性が得られなくなる。好ましくは20nm以上とし、より好ましくは30nm以上とする。
【0036】
金属酸化物膜からの放出水分量は1E18分子/cm2以下とする。放出水分量が多いとそれら水分が腐食の元になる他、真空装置等の内壁など構造材の保護膜に用いた場合は、製造される薄膜の品質を悪化させてしまう。好ましくは2E17分子/cm2以下とし、より好ましくは1E17分子/cm2以下とする。放出水分量は少ないことが好ましいが、通常、1.5E15分子/cm2以上である。
【0037】
このような金属酸化物膜としては、微細孔や気孔などのない、バリア型の金属の酸化物膜が適している。従来用いられていたポーラス構造を有する多孔質の金属酸化物膜に対して、バリア型の金属酸化物膜は、薄膜でありながら耐食性に優れ、微細孔や気孔を殆ど有しないので水分等を吸着しにくい利点がある。
【0038】
本発明の金属酸化物膜は、アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる。アルミニウムを主成分とする金属とは、アルミニウムを50質量%以上含む金属を言う。純アルミニウムでもよい。好ましくはこの金属はアルミニウムを80質量%以上含み、より好ましくはアルミニウムを90質量%以上、更に好ましくは94質量%以上含む。アルミニウムを主成分とする金属としては、純アルミニウムでもよいが、必要に応じてアルミニウムと合金を形成しうる他の任意の金属を含有してもよく、2種以上を含有しても良い。金属の種類は特に限定されないが、好ましい金属としてはマグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属が挙げられる。なかでもマグネシウムはアルミニウム基体の強度を向上できる利点があり特に好ましい。
【0039】
さらに、本発明の金属酸化物膜は、アルミを主成分とする金属であって、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量が抑制された高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる。これら特性元素の含有量を合計した総含有量としては、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下である。高純度アルミニウムを主成分とする金属としては、純アルミニウムでもよいが、必要に応じてアルミニウムと合金を形成しうる他の任意の金属を含有してもよく、2種以上を含有しても良い。金属の種類は上記特定元素以外であれば特に限定されないが、好ましい金属としては、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属が挙げられる。なかでもマグネシウムはアルミニウム基体の強度を向上できる利点があり特に好ましい。マグネシウム濃度としては、アルミニウムと合金を形成しうる範囲であれば特に制限はないが、十分な強度向上をもたらすためには、通常0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上とする。またアルミニウムと均一な固溶体を形成する為には、6.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5.0質量%、更に好ましくは4.5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
【0040】
また、本発明のアルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属は、この他に、結晶調整剤としてその他の金属成分を含有していてもよい。結晶制御に対する十分な効果を持つものであれば特に制限はないが、好ましくはジルコニウム等が用いられる。
【0041】
これら他の金属を含む場合、その含有量は、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属全体に対して通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上とする。他の添加金属による特性を十分に発現させるためである。ただし、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、特に好ましくは4.5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下とする。アルミニウムと他の金属成分とが均一な固溶体となり、良好な材料特性を維持するためにはこれより少ない方がよい。
【0042】
本発明の他の態様によれば、アルミニウムを主成分とする金属部材であって、腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する面にアルミニウム酸化物不動態膜を有する金属部材において、前記アルミニウム酸化物不動態膜は、厚さが0.1μm以上1μm以下で比抵抗が1E10Ω・cm以上の無孔性非晶質膜であることを特徴とする金属部材が得られる。通常のアルマイトでは、1E10Ω・cm以上の比抵抗を持つことはできないが、本発明のアルミニウム酸化物不動態膜は、厚さが0.1μm以上1μm以下で比抵抗が1E10Ω・cm、好ましくは1E11〜1E14Ω・cm、さらに好ましくは1E12Ω・cmを達成できる。また、前記アルミニウム酸化物不動態膜は放出水分量が1E18分子/cm2以下であることを特徴とする。
【0043】
前記アルミニウムを主成分とする金属は、アルミニウムを50%質量以上含みかつマグネシウムを1〜4.5質量%含むことを特徴とする。マグネシウムを含有すると、機械的強度が向上する効果があり、熱に強くなるので、陽極酸化後の150℃以上、500℃の熱処理にも耐えるが、陽極酸化に時間をかけて電流値を下げることによって熱処理を省略できれば、マグネシウムの添加はなくてもよい。前記アルミニウムを主成分とする金属は、ジルコニウムを0.15質量以下、好ましくは0.1質量%以下含むことが好ましい。これによってさらに機械的強度、耐熱性をあげることができる。
【0044】
本発明の金属部材はアルミニウム、マグネシウムおよびジルコニウムを除く元素の総含有量が1質量%以下であることが好ましい。また、これらの、アルミニウム、マグネシウムおよびジルコニウムを除く元素のいずれも含有量が0.01質量%以下であることが好ましい。これらの不純物元素が上記含有量を超えると、酸化膜中に酸素が発生してボイドが生じアニールでのクラック発生をまねく。また、膜の残留電流上昇を招く。
【0045】
本発明の金属部材は、電子装置の製造工程で用いられる各種装置において、特に腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する部分に使用するのが好ましい。
【0046】
次に、本発明のアルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物膜の製造方法について説明する。
【0047】
アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の化成液中で陽極酸化する方法によれば、緻密でポアフリーのバリア型金属酸化物膜を得ることができる利点がある。一般には、アルミニウムを主成分とする金属からなる基体をpH4〜10の化成液中で陽極酸化することで、その基体表面にアルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜が形成される。
【0048】
この方法は、基板の不均一性に起因する欠陥を修復する機能を有するために、緻密で平滑な酸化物膜を形成できる利点がある。本発明に用いる化成液は通常pH4以上、好ましくは5以上、より好ましくは6以上である。また通常10以下、好ましくは9以下、より好ましくは8以下である。陽極酸化により生成した金属酸化物膜が化成液に溶解しにくいよう、pHは中性に近いことが望ましい。
【0049】
本発明に用いる化成液は、化成中の各種物質の濃度変動を緩衝してpHを所定範囲に保つためにも、pH4〜10の範囲で緩衝作用を示すことが好ましい。このため緩衝作用を示す酸や塩などの化合物を含むことが望ましい。このような化合物の種類は特に限定されないが、化成液への溶解性が高く溶解安定性もよい点で、好ましくは硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種である。より好ましくは金属酸化膜中に硼素、燐元素の残留がほとんどない有機カルボン酸又はその塩である。
【0050】
陽極酸化処理により生成される金属酸化物膜には、溶質成分が極微量ながら取り込まれるが、溶質として有機カルボン酸又はその塩を用いることにより、真空薄膜形成装置等に適用した際に金属酸化物膜から硼素、燐元素が溶出する可能性が皆無となり、形成した薄膜の品質及びこれを用いたデバイス等の性能安定化、向上が望めるからである。
【0051】
有機カルボン酸は、カルボキシル基を1又は2以上有するものであればよく、また本発明の所期の効果を阻害しない限り、カルボキシル基以外の官能基を有していてもよい。例えば蟻酸なども好ましく用いることが出来る。化成液への溶解性が高く溶解安定性もよい点では、脂肪族カルボン酸類が好ましく、なかでも炭素数3〜10の脂肪族ジカルボン酸が好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、特に限定はされないが例えばマロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、イタコン酸、グルタル酸、ジメチルマロン酸、シトラコン酸、クエン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。なかでも溶液安定性、安全性、良好な緩衝作用等の理由で酒石酸、クエン酸、アジピン酸が特に好ましい。このうち1種を用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
硼酸、燐酸及び有機カルボン酸の塩としては、これらの酸と適当な陽イオンとの塩であればよい。陽イオンとしては特に制限はないが例えばアンモニウムイオン、1級、2級、3級又は4級のアルキルアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、ホスホニウムイオン、或いはスルホニウムイオンなどを用いることができる。なかでも表面への金属イオン残留等による基板金属への拡散等による残留による影響が少ない点で、アンモニウムイオン、1級、2級,3級又は4級のアルキルアンモニウムイオンが好ましい。アルキルアンモニウムイオンのアルキル基は、化成液への溶解性を考慮して適宜選択すればよいが、通常、炭素数1〜4のアルキル基である。
【0053】
これらの化合物は1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明に係わる化成液は上記の化合物に加えて他の化合物を含んでもよい。
【0054】
これら化合物の濃度は、目的に応じて適宜選択すればよいが、化成液全体に対して、通常0.01質量%以上とし、好ましくは0.1質量%以上とし、より好ましくは1質量%以上とする。電気伝導率を上げ金属酸化物膜の形成を十分に行うためには多くすることが望ましい。ただし通常30質量%以下とし、好ましくは15質量%以下とし、より好ましくは10質量%以下とする。金属酸化物膜の性能を高く保ち、またコストを抑えるためにはこれ以下が望ましい。
【0055】
本発明に用いる化成液は、非水溶媒を含有することが好ましい。非水溶媒を含む化成液を用いると、水溶液系の化成液に比べて、定電流化成に要する時間が短くて済むため、高いスループットで処理できる利点がある。
【0056】
非水溶媒の種類は、良好に陽極酸化ができ、溶質に対する十分な溶解度を持つものであれば特に制限はないが、1以上のアルコール性水酸基及び/又は1以上のフェノール性水酸基を有する溶媒、若しくは非プロトン性有機溶媒が好ましい。なかでも、保存安定性の点でアルコール性水酸基を有する溶媒が好ましい。
【0057】
アルコール性水酸基を有する化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、シクロヘキサノール等の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,4−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール等を用いることができる。また、分子内にアルコール性水酸基以外の官能基を有する溶媒も、本発明の所期の効果を阻害しない限り使用することができる。なかでも水との混和性及び蒸気圧の点で二つ以上のアルコール性水酸基を有するものが好ましく、2価アルコールや3価アルコールがより好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールが特に好ましい。
【0058】
フェノール性水酸基を有する化合物としては、例えば、1つの水酸基を有する無置換フェノールやo−/m−/p−クレゾール類、キシレノール類等のアルキルフェノール類、また、2つの水酸基を有するものとしてはレソルシノール類が、また3つの水酸基を有するものとしてはピロガロール類等を用いることができる。
【0059】
これらアルコール性水酸基及び/又はフェノール性水酸基を有する化合物は、本発明の所期の効果を阻害しない限り、さらに分子内に他の官能基を有していてもよい。例えば、メチルセロソルブやセロソルブ等のように、アルコール性水酸基とともにアルコキシ基を有する溶媒も用いることができる。
【0060】
非プロトン性有機溶媒としては、極性溶媒又は非極性溶媒のいずれを使用してもよい。
【0061】
極性溶媒としては、特に限定はされないが例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル類;トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等の燐酸エステル類が挙げられる。
【0062】
非極性溶媒としては、特に限定はされないが例えば、ヘキサン、トルエン、シリコンオイルなどが挙げられる。
【0063】
これらの溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明の金属酸化物膜の形成に用いる化成液の非水溶媒として特に好ましいのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はジエチレングリコールであり、これらを単独又は組み合わせて用いてもよい。また非水溶媒を含有していれば、水を含有していてもよい。
【0064】
非水溶媒は、化成液全体に対して通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは55質量%以上含む。ただし通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下含む。
【0065】
化成液が非水溶媒に加えて水を含む場合、その含有量は化成液全体に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、通常85質量%以下、好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0066】
非水溶媒に対する水の割合は、好ましくは1質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、通常90質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0067】
本発明に係わる化成液は、必要に応じて他の添加剤を含んでいてもよい。例えば、金属酸化物膜の成膜性及び膜特性を向上させるための添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、本発明の所期の効果を著しく損なわない限り特に制限されず、公知の化成液で用いられる添加剤やそれ以外の物質の中から選択する一種以上の物質を添加して用いることができる。このとき、添加剤の添加量には特段の制限はなく、その効果とコスト等を勘案して適切な量とすればよい。
【0068】
本発明において、陽極酸化のための電解法としては本発明の所期の効果を著しく損なわない限り特に制限はない。電流波形としては、例えば直流の他に、印加電圧が周期的に断続するパルス法、極性が反転するPR法、その他交流や交直重畳、不完全整流、三角波などの変調電流等を用いることができるが、好ましくは直流を用いる。
【0069】
本発明において、陽極酸化の電流及び電圧の制御方法は特に制限はなく、アルミニウムを主成分とする金属の表面に酸化物膜が形成される条件を適宜組み合わせることができる。通常は定電流及び定電圧にて陽極酸化処理することが好ましい。即ちあらかじめ定められた化成電圧Vfまで定電流にて化成し、化成電圧に達した後にその電圧に一定時間保持して陽極酸化を行うことが好ましい。
【0070】
この際、効率的に酸化膜を形成する為に、電流密度は、通常0.001mA/cm2以上とし、好ましくは0.01mA/cm2以上とする。ただし表面平坦性の良好な酸化膜を得る為に、電流密度は、通常100mA/cm2以下とし、好ましくは10mA/cm2以下とする。
【0071】
また、化成電圧Vfは通常3V以上とし、好ましくは10V以上、より好ましくは20V以上とする。得られる酸化膜厚は化成電圧Vfと関連するので、酸化物膜に一定の厚みを付与するために、前記電圧以上を印加することが好ましい。ただし通常1000V以下とし、好ましくは700V以下とし、より好ましくは500V以下とする。得られる酸化物膜は高絶縁性を有するので、高絶縁破壊を起こすことなく、良質な酸化膜を形成する為には、前記の電圧以下で行うことが好ましい。
【0072】
尚、化成電圧に至るまで直流電源の代わりにピーク電流値が一定の交流を使用し、化成電圧に達したところで直流電圧に切り替えて一定時間保持する方法を用いてもよい。
【0073】
本発明において、陽極酸化の他の条件は特に制限されるものではない。ただし陽極酸化時の温度は、化成液が安定に液体として存在する温度範囲とする。通常、−20℃以上であり、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは10℃以上である。製造する際の生産・エネルギー効率等を勘案して、前記温度以上にて処理することが好ましい。ただし通常150℃以下であり、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは80℃以下である。化成液の組成を保持して均一な陽極酸化を行う為に、前記温度以下にて処理することが好ましい。
【0074】
本発明の製造方法によれば、陽極酸化法により緻密でポアフリーなバリア型の金属酸化物膜を効率良く製造できるため、耐電圧が高く、またアニール処理での割れやクラック等の発生を抑制でき、ひいては膜からのアウトガス放出量を低減できる利点がある。膜の耐電圧が高いため真空薄膜形成装置の内壁など構造材の保護用膜など金属基材表面の保護皮膜として適する。またこの金属酸化物膜は、金属基材表面の保護皮膜の他に、不純物遮断性皮膜、防食皮膜としても機能しうる。
【0075】
本発明のさらに他の態様によれば、アルミニウムを主成分とする金属部材を誘電率が水よりも小さくかつ水を溶解する有機溶媒を含む化成液中で陽極酸化して無孔性非晶質膜アルミニウム酸化物不動態膜を形成することを特徴とする金属部材の製造方法が得られる。水の誘電率は約80であるが、物質の結合エネルギーは誘電率の二乗に逆比例するので、これより高い誘電率、例えば83のHF溶液では水は0℃でも解離してしまう。そこで、水の分解を防ぎ、成長したアルミニウム酸化膜がエッチングされるのを防ぐためには、誘電率が水よりも小さくかつ水を溶解する、蒸気圧の低い有機溶媒を含む化成液中で陽極酸化すればよい。その結果無孔性非晶質膜アルミニウム酸化物不動態膜を形成することができる。このような有機溶媒の例として、エチレングリコールは誘電率が39であり、ジエチレングリコールは誘電率33、トリエチレングリコールは24、テトラエチレングリコールは20である。よってこれらの有機溶媒をもちいれば効果的に誘電率を下げ、水の電気分解を起こさずに高電圧を印加することができる。例えば、エチレングリコールを用いれば水の電気分解を起こさずに最大200Vまで陽極酸化電圧を印加でき、厚さが0.3μmの無孔性非晶質膜のアルミニウム酸化物不動態膜を形成することができる。ジエチレングリコールを用いれば水の電気分解を起こさずに最大300Vまで陽極酸化電圧を印加でき、厚さが0.4μmの無孔性非晶質膜のアルミニウム酸化物不動態膜を形成することができる。
【0076】
前記化成液には該化成液を電気伝導性にする電解質を添加するが、その結果化成液が酸性になってしまっては、アルミニウム部材が腐食されてしまう。よって、化成液の電気伝導性を高めつつpHが4〜10、好ましくは5.5〜8.5、より好ましくは6〜8として、アルミニウムの腐食を防止できるような電解質、例えばアジピン酸塩を用いる。その含有量は0.1〜10質量%、好ましくは1%程度であるのがよい。典型例では、有機溶媒79%、水20%、電解質1%の化成液が用いられる。
【0077】
前記陽極酸化は、前記金属部材と対向電極(たとえば白金)とを前記化成液中に配置する第1の工程と、前記金属部材にプラスを前記電極にマイナスを印加して一定の電流を所定の時間流す第2の工程と、前記金属部材と前記電極との間に一定の電圧を所定の時間印加する第3の工程とを含むのが好ましい。前記第2の工程の前記所定の時間は前記金属部材と所定の電極との間の電圧がよい。所定の値になるまで(例えば、エチレングリコールを用いた場合は200Vになるまで)であるのが好ましい。
【0078】
前記第3の工程の前記所定の時間は前記金属部材と所定の電極との間の電流が所定の値になるまでであることが好ましいが、電流値は電圧が上記の所定値になると急激に減少し、あとは時間とともに徐々に減少してゆく。この残留電流が少ないほど、酸化膜の膜質は向上するのであるが、たとえば24時間定電圧処理すれば、膜質は熱処理をしたものと同等になる。生産性を上げるためには、適当な時間で定電圧処理を打ち切り、熱処理(アニール)をすればよい。熱処理は150℃以上、300℃程度で0.5〜1時間行うのが好ましい。
【0079】
前記第2の工程において平方cm当たり0.01〜100mA、好ましくは0.1〜10mAの電流、さらに好ましくは0.5〜2mAの電流を流す。
【0080】
先に述べたように前記第3の工程において前記電圧は前記化成液が電気分解を起こさないような電圧とする。前記無孔性非晶質膜アルミニウム酸化物不動態膜の厚さは前記第3の工程における前記電圧に依存する。
【0081】
如何なる理論にも拘泥されるものではないが、この様な本発明の優れた効果は、化成処理時に形成されたポアフリーの金属酸化物膜は、膜全体がアモルファス構造となっており、結晶等の粒界がほとんど存在しないことによると考えられる。また、更に緩衝作用を有する化合物を添加したり、溶媒として非水溶媒を用いたりすることにより、金属酸化物膜中に微量の炭素成分が取り込まれてAl−Oの結合強度が弱くなっており、これにより膜全体のアモルファス構造が安定化されているものと推定される。
【0082】
以上のように製造された金属酸化物膜は、膜中の水分除去を行うなどの目的で、加熱処理を行ってもよい。従来のポーラス構造を有する金属酸化物膜は、150〜200℃程度のアニール処理でも割れやクラックが発生することがあり、高温での加熱処理が行えず十分な水分除去が行えないため、アウトガスの放出量が低減できない原因ともなっていた。本発明に係わる金属酸化物膜は、緻密でポアフリーなバリア型の膜であるため、アニール処理での割れやクラック等の発生を抑制でき、ひいては膜からのアウトガス放出量を低減できる利点がある。
【0083】
特に、前記特定元素をほぼ含まない高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物皮膜は、アルミニウム合金を主成分とする金属酸化物被膜に比べて更に熱安定性が高く、ボイドやガス溜まり等が形成されにくい。このため300℃程度以上のアニール処理によっても金属酸化物膜にボイドやシームが入りにくいので、パーティクルの発生やアルミニウム基体の露出による薬品やハロゲンガス、特に塩素ガスに対する腐食が抑えられ、膜からのアウトガスの放出も更に少ない利点がある。
【0084】
加熱処理方法は特に限定されるものではないが、加熱炉等でのアニール処理が簡便で好ましい。
【0085】
加熱処理の温度は、本発明の所期の効果を妨げない限り特に制限はないが、通常100℃以上であり、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上である。加熱処理による金属酸化膜の表面及び内部の水分を十分に除去するためには、前記温度以上で処理することが好ましい。ただし通常600℃以下であり、好ましくは550℃以下であり、より好ましくは500℃以下である。金属酸化膜のアモルファス構造を保持して、表面の平坦性を維持するためにも前記温度以下で処理することが好ましい。アニール処理の場合、通常、加熱炉の設定温度を加熱処理温度とみなす。
【0086】
加熱処理の時間は、本発明の所期の効果を妨げない限り特に制限はないが、目的の効果と、加熱処理による表面荒れ、生産性等を勘案して適宜設定すればよいが、通常1分以上、好ましくは5分以上、特に好ましくは15分以上である。金属酸化膜の表面及び内部の水分を十分に除去するためには、前記時間以上で処理することが好ましい。ただし通常180分以下、好ましくは120分以下、より好ましくは60分以下である。金属酸化膜構造及び表面平坦性を維持するためにも前記時間内で処理することが好ましい。
【0087】
アニール処理の際の炉内ガス雰囲気は、本発明の処理の効果を妨げない限り特に制限はないが、通常、窒素、酸素、或いはこれらの混合ガスなどを適宜用いることができる。なかでも酸素濃度が18vol%以上の雰囲気が好ましく、20vol%以上の条件がより好ましく、酸素濃度が100vol%の条件が最も好ましい。
【0088】
次に、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜を含む積層体及び用途について説明する。
【0089】
アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属からなる基体上に、本発明の金属酸化物膜を形成し保護膜とした積層体は、薬品やハロゲンガス、特に塩素ガスに対して良好な耐食性を示す。またこれを加熱しても金属酸化物膜にクラックが入りにくいので、アニール処理などにより十分に膜中の水分除去を行うことができ、膜からのアウトガスの放出を抑えることができる。通常、塩素ガスによるアルミニウムの腐食には酸化剤、塩素イオン及び水の三要素が必要であるが、塩素ガス自体が酸化剤であり、塩素イオンの供給源にもなりうるので、水が存在すると腐食を引き起こすが、本発明の金属酸化物膜からはアウトガスとしての放出水分量が極めて少ない為に、アルミニウムの腐食抑制が可能になる。またクラックによるパーティクルの発生や、クラック部分でのアルミニウム基体の露出による腐食が抑えられる。
【0090】
また本発明の金属酸化物膜の上下には、必要に応じて他の層を有していてもよい。本発明の金属酸化物膜は膜厚が1μm以下と薄いため、物理的、機械的強度を補強する為には、二層以上の積層膜構造とすることが好ましい。
【0091】
例えば金属酸化物膜上に更に、金属、サーメット及びセラミックスから選ばれるいずれか1種又は2種以上を原料とした薄膜を形成して多層構造とすることもできる。金属としては、1種の金属単体及び2種以上の元素よりなる合金が含まれ、種類は特に制限されないが、強度、耐食性等を勘案して遷移金属類が好ましく用いられる。
【0092】
これら金属、サーメット、セラミックスの成膜方法としては、本発明の所期の効果を阻害しない限り任意の方法を用いることができるが、成膜速度が大きく厚い皮膜の形成が可能であり、被溶射材料の種類、形状、寸法に対する自由度が大きい溶射法が好ましく用いられる。
【0093】
本発明に係わる金属酸化物膜は、以上述べたように塩素ガスを始めとするガスや薬品に強く、加熱によるクラック等が生じにくく、かつアウトガスが少ないので、半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材の保護用皮膜としてきわめて好適である。そしてアルミニウム系金属からなる基体上に本金属酸化物膜を有する積層体は、半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材として好適である。ここで半導体又は平面ディスプレイ製造装置とは、半導体又は平面ディスプレイの製造分野などに用いられる製造装置、即ち化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、及びマイクロ波励起プラズマCVDなどに用いる真空薄膜形成装置や、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング(RIE)、及び近年開発されたマイクロ波励起プラズマエッチングなどに用いるドライエッチング装置を言う。
【実施例】
【0094】
本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。
【0095】
本願の実施例1から10では、アルミニウムはJIS規格A5052材を用い、酒石酸及びエチレングリコールは和光純薬工業(株)製の試薬特級を、またアジピン酸、硼酸及び硼酸ナトリウム、燐酸及び燐酸ナトリウム、蓚酸は関東化学(株)製の特級を、硫酸及びアンモニア水は三菱化学(株)製のEL薬品グレードをそれぞれ用いた。
【0096】
陽極酸化は、ソースメーター(KEITHLEY製 2400シリーズ)を用いて、純白金板をカソード電極として化成液温度を23℃に調整して行った。陽極酸化後に石英管の赤外線加熱炉(以下、「IR炉」と略す)中にて、窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、所定の温度にて1時間アニール処理を行った。
【0097】
陽極酸化膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製 JSM−6700)により測定した。クラックの有無は目視又は、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス VHX−200)、走査型電子顕微鏡のいずれかにより観察した。
【0098】
陽極酸化膜表面からの放出水分量は、大気圧イオン化質量分析装置(ルネサス東日本製 UG−302P)(以下、「APIMS分析装置」と略す)を用いて測定した。サンプルを23℃に保持したSUS316製のリアクターチューブ内に入れた後、アルゴンガスを流量1.2L/分にて流した。リアクターチューブを通過したアルゴンガスをAPIMSへ導入し、そのアルゴンガス中に検出される水由来の質量数(18(H2O+)、19((H2O)H+)、37((H2O)2H+)、55((H2O)3H+))について、サンプルより放出される単位面積あたりの放出水分量(放出水分子数[分子/cm2])として測定した。
【0099】
アルゴンガスを流して最初の3分間はラインより排気して、これ以後について測定を行った。尚、実施例のサンプルを測定する際には、23℃で10時間経過した後、リアクターチューブの昇温を開始して200℃に達した後(3時間後)、200℃で2時間保持し、この間測定を行った。一方、比較例のサンプルは放出水分量が多いため実施例と同様に測ると水分測定装置の測定可能範囲を超えてしまうことが予想されたため、比較例のサンプルを測定する際には放出水分が多い為に、10時間経過後も23℃を維持して実施例と同時間(計15時間)測定を行った。
【0100】
塩素ガスに対する金属酸化物膜の耐性は以下のように測定した。即ちサンプルをSUS316製のリアクターチューブ内に入れた後、窒素ガスを流量1L/分にて流しながらリアクターチューブを200℃に昇温した。200℃に達した後、5時間保持してプリベークを行った。このままの状態でリアクターチューブの温度を100℃に下げた後、ガスを塩素ガスに切り替えた。リアクターチューブ内が完全に塩素ガスで置換された後、100℃のリアクターチューブ内に0.3MPaの塩素ガスを封入して6時間保持した。塩素ガス曝露後、リアクターチューブ内を窒素ガスにて置換した。塩素ガス曝露後のサンプル表面性状を、目視及び走査型電子顕微鏡により表面観察した。
【0101】
尚、実施例及び比較例に用いた化成液は、表1に示す組成にて調整した。
【0102】
【表1】
【0103】
(実施例1)
水39.5gに酒石酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール(EG)158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.1になるまで29%アンモニア水を添加して化成液aを調製した。この化成液中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を化成電圧50Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、50Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた酸化膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.08μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。結果をまとめて表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
(実施例2)
実施例1において、化成電圧を100Vにした以外は実施例1と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.15μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0106】
(実施例3)
実施例1において、化成電圧を200Vにした以外は実施例1と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.30μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0107】
(実施例4)
水39.5gにアジピン酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.0になるまで29%アンモニア水を添加して化成液bを調製した以外は実施例3と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.31μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0108】
(実施例5)
水197.5gにアジピン酸1.8gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.0になるまで29%アンモニア水を添加して化成液cを調製した。この化成液中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた酸化膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.29μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0109】
実施例4及び実施例5に於ける陽極酸化時の経過時間に伴う電圧変化を図1に示す。化成液の主溶媒として非水溶媒を用いた実施例4は、より短時間で所定の電圧まで到達しており、高スループットで金属酸化物膜を形成できることがわかる。
【0110】
(実施例6)
水194gに硼酸4.5g及び硼酸ナトリウム1.5gを加えて撹拌混合した。この溶液のpHを測定したところ、7.1であった。この化成液d中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた酸化膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.29μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0111】
(実施例7)
水194gに燐酸2.5g及び燐酸ナトリウム3.5gを加えて撹拌混合した。この溶液のpHを測定したところ、7.2であった。この化成液e中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた陽極酸化膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。陽極酸化膜の膜厚を測定したところ、0.28μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0112】
(比較例1)
水180gに98%硫酸20gを加えて撹拌混合して化成液fを調製した。この化成液を20℃に保持した中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を電流密度10mA/cm2、電圧20Vにて2時間電解酸化処理を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。
【0113】
得られた電解酸化皮膜の膜厚を測定したところ約35μmであり、膜表面には微細孔が多数あり、ポーラス構造を有する多孔質酸化物膜が形成されていた。この多孔質酸化物膜を3気圧の加圧水蒸気中で30分処理を行い封孔処理を行った。この酸化物膜付きアルミ試料片をIR炉中200℃で1時間アニール処理したところ、酸化物膜にクラックを生じた。大気開放して室温で48時間放置した後、放出水分量を測定したところ、1E19分子/cm2以上であった。実施例と同条件で放出水分量を測定すれば、更に大きい値になったと推定できる。
【0114】
実施例3、比較例1の各サンプル及び未処理のアルミ試料片の放出水分特性の測定結果を図2に示す。実施例3では、未処理のアルミニウム合金とほぼ同程度の放出水分特性を示すのに対して、比較例1では遙かに多い放出水分が認められた。
【0115】
(比較例2)
比較例1において、電解酸化時間を3時間行った以外は比較例1と同様に処理を行った。電解酸化皮膜の膜厚を測定したところ、約40μmであった。この酸化物膜付きアルミ試料片をIR炉中200℃で1時間アニール処理したところ、酸化物膜にクラックを生じた。放出水分量を測定したところ、1E19分子/cm2以上であった。実施例と同条件で放出水分量を測定すれば、更に大きい値になったと推定できる。
【0116】
(比較例3)
水192gに蓚酸8gを加えて撹拌混合して化成液gを調製した。この化成液を30℃に保持した中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を電流密度10mA/cm2、電圧40Vにて1時間電解酸化処理を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。
【0117】
得られた電解酸化皮膜の膜厚を測定したところ約13μmであり、膜表面には微細孔が多数あり、ポーラス構造を有する多孔質酸化物膜が形成されていた。この多孔質酸化物膜を3気圧の加圧水蒸気中で30分処理を行い封孔処理を行った。この酸化物膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理したところ、多孔質酸化物膜にクラックを生じた。大気開放して室温で48時間放置した後、放出水分量を測定したところ、7E18分子/cm2以上であった。実施例と同条件で放出水分量を測定すれば、更に大きい値になったと推定できる。
【0118】
実施例3、6及び比較例1、3に於けるアニール処理後の電子顕微鏡観察による表面状態を図3に示す。実施例3、6ではアニール処理後もクラックを生じていないのに対して、比較例1、3では微細なクラックを生じていることがわかる。
【0119】
(実施例8〜10)
実施例3,4及び6と同様の処理により得られた酸化膜付きアルミ試料片を、前記の手法に従い塩素ガスへの曝露耐性評価を行った。結果を表3に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
何れの酸化膜付きアルミ試料片についても、目視観察では腐食は認められなかった。
【0122】
(比較例4〜6)
比較例1〜3に於いて、アニール条件を変更した以外は比較例1〜3と同様の処理により得られた電解酸化膜付きアルミ試料片に対し、実施例8〜10と同様に塩素ガスへの曝露耐性評価を行った。結果を表3に示す。また、実施例8、10及び比較例4,5に於ける塩素ガス曝露評価後の目視観察によるアルミ表面状態を図4に示す。実施例8、10では腐食が認められないのに対して、比較例4では塩化アルミニウムと思われる白色状の孔食が、また比較例5では試料片の部分的な変色が認められた。さらに、実施例8〜10及び比較例6に於ける塩素ガス曝露評価後の電子顕微鏡観察によるアルミ表面状態を図5に示す。実施例8〜10では塩素ガス曝露後もほぼ変化が認められないのに対して、比較例6では表面に多数の微粒子状付着物が観察された他、多数の微細クラックを生じていた。
【0123】
次に高純度アルミ二ウムを用いた場合の実施例について比較例とともに説明する。
【0124】
実施例11から34では、アルミニウムはJIS規格のA5052材、5N高純度純アルミニウム材(HQ0)、及び特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量を0.03質量%以下に抑制したアルミニウム−マグネシウム合金にジルコニウムを0.1質量%添加した日本軽金属(株)製の高純度アルミニウム材(HQ2及びHQ4.5)を用いた。酒石酸及びエチレングリコールは和光純薬工業(株)製の試薬特級を、またアジピン酸、硼酸及び硼酸ナトリウムは関東化学(株)製の特級を、アンモニア水は三菱化学(株)製のEL薬品グレードをそれぞれ用いた。
【0125】
尚、実施例及び比較例に用いた化成液は、表1に示す組成にて調整した。また、用いたアルミニウム及びアルミニウム合金の特定元素の含有量を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
陽極酸化は、ソースメーター(KEITHLEY製 2400シリーズ)を用いて、純白金板をカソード電極として化成液温度を23℃に調整して行った。初めに所定の電圧まで定電流にて反応を行い、電圧に達したところで、定電圧にて反応を行い、最終的に到達した電流密度を残余電流密度とした。必要に応じて、陽極酸化後に石英管の赤外線加熱炉(以下、「IR炉」と略す)中にて、窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、所定の温度にて1時間アニール処理を行った。
【0128】
金属酸化膜は走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製 JSM−6700)を用いて表面観察を行った。
【0129】
また、薬液に対する金属酸化物皮膜のエッチング量は以下のように算出した。
【0130】
即ち、所定濃度の各薬液をポリエチレンビーカーにて調整した後、サンプルを室温にて10分間浸漬処理を行った。薬液処理後、超純水にてリンスした後、窒素ガスにてブロー乾燥させた。このサンプルを表1の化成液aを用いて電流密度0.1mA/cm2にて再陽極酸化処理を行い、電圧が200Vに達するまでに要するクーロン量よりエッチング量を換算した。
【0131】
更に、塩素ガスに対する金属酸化物膜の耐性は以下のように測定した。即ちサンプルをSUS316製のリアクターチューブ内に入れた後、窒素ガスを流量1L/分にて流しながらリアクターチューブを200℃に昇温した。200℃に達した後、5時間保持してプリベークを行った。このままの状態でリアクターチューブの温度を200℃に保ったまま、ガスを塩素ガスに切り替えた。リアクターチューブ内が完全に塩素ガスで置換された後、200℃のリアクターチューブ内に0.3MPaの塩素ガスを封入して6時間保持した。塩素ガス曝露後、リアクターチューブ内を窒素ガスにて置換した。塩素ガス曝露前後のサンプル重量を精密電子天秤にて秤量して重量減少による金属酸化物皮膜の耐性を評価した。
【0132】
金属酸化膜表面からの放出水分量は、大気圧イオン化質量分析装置(ルネサス東日本製 UG−302P)(以下、「APIMS分析装置」と略す)を用いて測定した。サンプルを23℃に保持したSUS316製のリアクターチューブ内に入れた後、アルゴンガスを流量1.2L/分にて流した。リアクターチューブを通過したアルゴンガスをAPIMSへ導入し、そのアルゴンガス中に検出される水由来の質量数(18(H2O+)、19((H2O)H+)、37((H2O)2H+)、55((H2O)3H+))について、サンプルより放出される単位面積あたりの放出水分量(放出水分子数[分子/cm2])として測定した。
【0133】
アルゴンガスを流して最初の3分間はラインより排気して、これ以後について測定を行った。尚、実施例のサンプルを測定する際には、23℃で10時間経過した後、リアクターチューブの昇温を開始して200℃に達した後(3時間後)、200℃で2時間保持し、この間測定を行った。一方、比較例のサンプルは放出水分量が多いため実施例と同様に測ると水分測定装置の測定可能範囲を超えてしまうことが予想されたため、比較例のサンプルを測定する際には放出水分が多い為に、10時間経過後も23℃を維持して実施例と同時間(計15時間)測定を行った。
【0134】
(実施例11)―放出水分量
水39.5gにアジピン酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール(EG)158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.1になるまで29%アンモニア水を添加して化成液bを調製した。この化成液中で20×8×1mmのHQ2試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた酸化膜付き試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.31μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。結果を表5に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
(実施例12)―放出水分量
水39.5gに酒石酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール(EG)158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.1になるまで29%アンモニア水を添加して化成液aを調製した以外は実施例11と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.32μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。結果を表5に示す。
【0137】
(実施例13)―放出水分量
水194gに硼酸4.5g及び硼酸ナトリウム1.5gを加えて撹拌混合した。この溶液のpHを測定したところ、7.1であった。この化成液dを調製した以外は実施例11と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.32μmであった。またクラックは観察されなかった。
【0138】
放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。結果を表5に示す。
【0139】
(実施例14)
水39.5gにアジピン酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.0になるまで29%アンモニア水を添加して化成液bを調製した。この化成液中で20×8×3mmのHQ0試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.011mA/cm2であった。この実施例14のから19、及び参考例1から4の結果をまとめて表6に示す。
【0140】
【表6】
【0141】
(実施例15、16)
試料片としてHQ2及びHQ4.5を使用した以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.012mA/cm2及び0.017mA/cm2であった。
【0142】
(実施例17)
水197.5gにアジピン酸1.8gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.0になるまで29%アンモニア水を添加して化成液cを調製した。この化成液中で、試料片としてHQ2を使用した以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.024mA/cm2であった。
【0143】
(実施例18)
水39.5gに酒石酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール(EG)158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.1になるまで29%アンモニア水を添加して化成液aを調製した。この化成液中で、試料片としてHQ2を使用した以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.014mA/cm2であった。
【0144】
(実施例19)
水194gに硼酸4.5g及び硼酸ナトリウム1.5gを加えて撹拌混合した。この溶液のpHを測定したところ、7.1であった。この化成液d中で、試料片としてHQ2を使用した以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.021mA/cm2であった。
【0145】
(参考例1〜4)
化成液a〜dの各溶液中において、20×8×1mmのA5052アルミニウム試料片を用いた以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。結果を表6に示す。
【0146】
実施例14〜16及び参考例1に於ける陽極酸化時の経過時間に伴う電流密度変化を図6に示す。陽極酸化に用いるアルミニウム材として、A5052に対して、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量を抑制した高純度アルミニウムを用いることにより、マグネシウムの含有濃度及びジルコニウムの有無に依らず、何れも残余電流密度が小さくなり、これは陽極酸化による金属酸化物皮膜中の欠陥部を補修する為のイオン電流が小さいことを示唆しており、さらに良好な金属酸化物皮膜を形成できていることがわかる。
【0147】
(実施例20,21)
試料片としてHQ2を使用し、電流密度0.1mA/cm2及び10mA/cm2の定電流にて化成した以外は実施例15と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.013mA/cm2及び0.014mA/cm2であった。酸化開始後、200Vに達するまでに要する到達時間と合わせて結果を表7に示す。
【0148】
【表7】
【0149】
(参考例5,6)
試料片としてA5052材を使用した以外は実施例20,21と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.036mA/cm2及び0.047mA/cm2であった。酸化開始後、200Vに達するまでに要する到達時間と合わせて結果を表7に示す。
【0150】
陽極酸化に用いるアルミニウム材として、A5052に対して、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量を抑制した高純度アルミニウムを用いることにより、何れも残余電流密度が小さくなり、良好な金属酸化物皮膜を形成できていることがわかる。また、実施例21及び参考例6に於ける陽極酸化時の経過時間に伴う電圧変化を図7に示す。高純度アルミニウムを用いた実施例21は、より短時間で所定の電圧まで到達しており、高スループットでバリア型金属酸化物膜を形成できることがわかる。
【0151】
(実施例22〜26)
実施例14〜16,20,21の各条件にて形成した金属酸化物皮膜について、反応終了後、純水洗浄した後窒素ガスにてブロー乾燥したのち、各サンプルについて、IR炉中にて窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、300℃にて1時間アニール処理を行った。アニール処理後、室温まで放冷した後、表1に記載の化成液bを用いて化成電圧200Vまで0.1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で5分間保持して再陽極酸化処理を行った。定電圧反応終了時の残余電流密度及び酸化開始後、200Vに達するまでに要する到達時間の結果を表8に示す。
【0152】
【表8】
【0153】
(参考例7〜9)
参考例1,5,6の各条件にて形成した金属酸化物皮膜を使用した以外は実施例22〜26と同様にしてアニール処理後、再陽極酸化処理を行った。定電圧反応終了時の残余電流密度及び酸化開始後、200Vに達するまでに要する到達時間の結果を表8に示す。
【0154】
陽極酸化に用いるアルミニウム材として、A5052に対して、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量を抑制した高純度アルミニウムを用いることにより、アニール処理後に再陽極酸化処理を行うと、実施例22〜26ではいずれも短時間で所定電圧に達すると同時に、残余電流密度が初期の金属酸化物皮膜形成時に比べて一桁低減しており、アニール処理を行うことで、より良質なバリア型金属酸化物皮膜を形成できていることがわかる。
【0155】
一方、アルミニウム材としてA5052を用いた参考例7〜9では、アニール処理後に再陽極酸化処理を行うと所定電圧に達するまでにかなりの時間を要している。これは、アルミニウム材中に特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)が含まれていると、バリア型金属酸化物皮膜と金属界面付近に高圧のガスを含むボイドが形成され、これがアニール処理の熱で膨張することにより、バリア型金属酸化物皮膜にマイクロクラック等が発生し、このクラックを補修する為に再陽極酸化処理に長時間を要し、残余電流密度も初期の金属酸化物皮膜形成時と同等程度に留まるものと推察される。
【0156】
(実施例27〜32)
表1に記載の化成液bを用いて、試料片としてHQ2及びA5052材を用いた以外は実施例14と同様にして陽極酸化膜を形成した。反応終了後、純水洗浄下後窒素ガスにてブロー乾燥したのち、各サンプルについて、IR炉中にて窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、300℃にて1時間アニール処理を行った。得られたサンプルについて、表9に記載の各薬液に室温で10分間浸漬処理を行い、その後純水洗浄した後窒素ガスにてブロー乾燥を行った。
【0157】
この各サンプルを表1の化成液bを用いて電流密度0.1mA/cm2にて再陽極酸化処理を行い、電圧が200Vに達するまでに要するクーロン量より、各薬液によるバリア型金属酸化物皮膜のエッチング量を算出し、A5052材に対する高純度アルミニウム材のエッチング量比を求めた。結果を表9に示す。
【0158】
【表9】
【0159】
また、実施例30に於ける薬液処理後の表面状態を図8に示す。
【0160】
上述のように、高純度アルミニウム材のバリア型金属酸化物皮膜は、何れの薬液種及び濃度に於いても、A5052材に比べてエッチング量比が1未満であり、より高い耐食性を有していた。
【0161】
(実施例33,34)
表1に記載の化成液b及びdを用いて、試料片としてHQ2及びA5052材を用いた以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。反応終了後、純水洗浄下後窒素ガスにてブロー乾燥したのち、各サンプルについて、IR炉中にて窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、300℃にて1時間アニール処理を行った。得られたサンプルについて、精密電子天秤にて秤量した後、リアクターチューブ内で200℃6時間、塩素ガス曝露を行った。
【0162】
曝露後、サンプル重量を精密電子天秤にて秤量して金属酸化物皮膜の重量減少率を算出し、A5052材に対する高純度アルミニウム材の重量減少率比を求めた。結果を表10に示す。
【0163】
【表10】
【0164】
また、実施例33に於ける薬液処理後の表面状態を図9に示す。
【0165】
上述のように、高純度アルミニウム材のバリア型金属酸化物皮膜は、A5052材のものに比べて、塩素ガス曝露による重量減少率比が1未満であり、塩素ガスに対してより高い耐食性を有していた。また、化成液bを用いた金属酸化物皮膜は、化成液dによるものに比べて、更により高い耐食性を有していた。
【0166】
次に、本発明のほかの特徴について実験データに基づき説明する。
【0167】
表11に純Alと各種Alの組成を示し、図10(a)に、これらのAlを非水溶液電解液(1質量%のアジピン酸を含む)で陽極酸化したときの電圧特性を、図10(b)に電流特性を示す。
【0168】
【表11】
【0169】
また、図11はこのときの陽極酸化後の残留電流値をAl合金中の不純物(Cu,Fe,Cr,Mn,Si)の総含有量に関連付けて示す。図11から、不純物の総含有量は1質量%以下が好ましいことがわかる。これらの不純物は酸化されると酸化膜とAlとの界面に凝集してその触媒作用で酸素ガスを発生させ、残留電流値を悪化させるとともに、アニール時に酸化膜にクラックを生じさせる。
【0170】
ここで、表12に組成を示すような、MgとZrを少量含む高純度Alを同様に非水溶液陽極酸化した結果を図12に示す。図12(a)は電圧特性、図12(b)は電流特性である。電圧特性は全ての試料についてリニアに所定電圧まで上昇し、電流特性はA5052を除き全て充分低い残留電流に達した。
【0171】
【表12】
【0172】
図12の陽極酸化の後、純水で試料を洗浄し、窒素ガス中で乾燥させ、300℃で1時間アニールを行った。アニールは、酸素ガスと窒素ガスを20対80の容積比で含む混合ガスを毎分5リットルの流量で流して行った。アニール後の酸化膜を評価するため再陽極酸化を行った。図13(a)(b)はそれぞれ電圧特性、電流特性を示し、図14はアニール・再酸化の前後の残留電流値を示す。図14の残留電流密度の変化において、○印は陽極酸化後の純Al及び高純度Al−Mg合金、●印はアニール及び再陽極酸化後の純Al及び高純度Al−Mg合金、□印は陽極酸化後のA5052合金、そして塗りつぶし四角形はアニール及び再陽極酸化後のA5052合金についてのものである。アニール・再酸化によって残留電流値が劇的に下がることが分かる。酸化膜の絶縁特性が大幅に改善されたためである。A5052については、アニール等によって酸化膜にクラックが生じ、特性を悪化させている。
【0173】
図15は、AlMg2(Al-Mg2wt%-Zr0.1wt%)の陽極酸化における電圧と陽極酸化膜厚との関係を示す。電圧が高いほどそれにほぼ比例して膜厚が厚くなることがわかる。
【0174】
図16は、AlMg2(Al-Mg2wt%-Zr0.1wt%)の陽極酸化における陽極酸化電圧と酸化膜の比抵抗との関係を示す。比抵抗は全て1E11以上であり、アニール・再酸化によって比抵抗は10〜50倍に増加する。
【0175】
図17(a)、(b)、(c)は、それぞれ、陽極酸化後に陽極酸化膜を300℃で1時間アニールしたAlMg2試料をアンモニアガス、塩素ガス、HBrガスに200℃で暴露した状況を、(d)のアルマイトを塩素ガスに100℃で暴露した状況と合わせて示す。0.3MPaで6時間ガスに曝露後のものである。本発明の酸化膜はダメージを受けていないことが分かる。
【0176】
図18は、同様に、陽極酸化後300℃で1時間アニールしたAlMg2試料を照射イオンに曝した結果を示す耐食抵抗特性である。横軸はイオン打ち込みのエネルギーをプラズマ電位で示し、縦軸はそのときのエッチング量を示す。100Vのプラズマ電位のもとで、本発明の陽極酸化膜が、水素ラジカル、酸素ラジカル、塩素ラジカル、臭素ラジカル、フッ素ラジカル等の種々のラジカルに対して、またプラズマにおけるイオン照射に対して完全な耐性を有することが分かる。
【0177】
図19は、本発明に用いて好適なMgを1.5質量%、2質量%それぞれ含む高純度Al(不純物の総含有量が100ppm以下)にZrを0.1質量%添加した場合の効果を添加しない場合とともに示す。Zr添加により、Al結晶粒の成長が抑えられるのが分かる。またMg2%添加でも同様の効果が有ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0178】
上述のように、本発明によれば、アルミニウムを主成分とする金属酸化物膜、特に、微細孔や気孔などのないバリア型金属酸化物膜、及びその製造方法を提供できる。この金属酸化物膜及びこれを有する積層体は、薬品やハロゲンガス、特に塩素ガスに対して良好な耐食性を示し、加熱しても金属酸化物膜にクラックが入りにくいのでパーティクルの発生やアルミニウム基体の露出による腐食が抑えられ、熱安定性が高く、膜からのアウトガスの放出も少ない。真空薄膜形成装置等の真空装置の内壁など構造材の保護膜に用いた場合は、装置の到達真空度を向上させる他、製造される薄膜の品質を向上させるので、薄膜を有するデバイスの動作不良の低減にもつながる。
【0179】
また本発明の金属酸化物膜製造方法によれば、耐電圧が高く加熱時のクラックも生じにくいポアフリーの金属酸化物膜を効率良く形成できる。この金属酸化物膜は金属基材表面の保護皮膜として好適である他、不純物遮断性皮膜、防食皮膜としても利用しうるものであり、その適用範囲は広い。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物膜及び積層体、金属部材ならびにそれらの製造方法に関し、特に、半導体や平面ディスプレイ等の電子装置の製造工程で用いられる製造装置に使用して好適な金属酸化物膜及び積層体、金属部材ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や平面ディスプレイなどの電子装置の製造分野などに用いられる製造装置、即ち化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、及びマイクロ波励起プラズマCVDなどに用いる真空薄膜形成装置や、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング(RIE)、及び近年開発されたマイクロ波励起プラズマエッチングなどに用いるドライエッチング装置(以下、真空装置と総称する。)、洗浄装置、焼成装置、加熱装置等、特に腐食性の流体、ラジカル、照射イオンに接する面を有する構造材として、近年、ステンレス材に代わり、軽量で強固な、アルミニウムを主成分とする金属が広く用いられている。これらの装置では、今後の効率的な多品種少量生産を実現するためにも、1台で複数のプロセスを処理可能な3次元立体化クラスターツール化や、1つのプロセスチャンバーでガス種を切り替えて複数の処理を行うこと等が求められている。アルミニウムは実用金属の中でも特に卑な部類に属しており、アルミニウム及びアルミニウムを主成分とする金属には、適切な表面処理による保護膜形成が必要である。
【0003】
アルミニウムを主成分とする金属を構造材として用いた際の表面保護膜としては、古くから電解液中の陽極酸化による陽極酸化膜(アルマイト)が知られている。電解液として、酸性電解液(通常、pH2以下)を用いると、ポーラス構造を有する平滑で均一なアルマイト皮膜を形成させることができる。
【0004】
しかも、アルマイト皮膜は耐食性を有しており、また酸性電解液も安定で管理が容易なため、広く一般に用いられている。しかしながら、ポーラス構造を有するアルマイト皮膜は構造部材の表面処理としては熱に弱く、アルミニウム基材とアルマイト皮膜における熱膨張係数の違いよりクラックを生じて(特許文献1−特開平10−130884号公報)、パーティクルの発生、アルミニウム基材の露出による腐食などの発生要因となっていた。
【0005】
またポーラス構造の孔内部には多量の水分等が蓄積・吸着しており(特許文献2−特公平5−053870号公報)、これがアウトガス成分として多量に放出されることにより、これら真空装置の性能の大幅な低下や、デバイスの動作不良、その他ハロゲンガスを含む各種ガス・薬品との共存によるアルマイト皮膜及びアルミニウム基材の腐食を引き起こす要因になるなど、多くの問題点を有していた。ハロゲンガスの中でも特に塩素ガスについては、リアクティブイオンエッチング(RIE)等に於ける金属材料の加工に於けるエッチングガスや、薄膜形成装置やドライエッチング装置のクリーニング工程にも用いられており、塩素ガスに対する強固な耐食性を有した装置部材の金属表面処理が重要である。
【0006】
そこで、高温の熱負荷によるクラックの増加割合が低いアルマイト皮膜及びその形成方法が種々提案されている。例えば、アルミニウムの合金組成をコントロールしたアルマイト皮膜の形成方法が提案されている(特許文献3−特開平11−181595号公報)。しかしこのアルマイト皮膜も従来同様、表面にポーラス構造を有しており、このポーラス構造の孔内部に残存している水分による各種の問題については未解決のまま残されていた。
【0007】
このポーラス構造に起因する問題改善の為に、各種方法が提案されている。例えば、酸性電解質中にて陽極酸化処理したポーラス構造を有するアルマイト皮膜を沸騰水中に浸漬、又は加圧水蒸気中にて処理することにより、表面に水酸化アルミニウム(ベーマイト層)を形成して孔を塞ぐ封孔処理(特許文献4−特開平5−114582号公報)や、金属の水和物あるいは水和酸化物を主成分とする溶液中に於ける封孔処理(特許文献5−特開2004−060044号公報)などが提案されている。しかし、封孔処理後もポーラス構造の孔内部には依然として水分が残存しており、水酸化アルミニウムによるベーマイト層自体も水和物であることから、圧力や温度などの条件によっては水分の供給源となっており、根本的な解決には至っていない。また、ポーラス構造のアルマイト皮膜を形成後、バリア構造の陽極酸化処理を行う方法(特許文献6−特開2005−105300号公報)も提案されているが、二工程の陽極酸化処理を行う必要があるために、製造コストが高くなるといった問題があった。
【0008】
その他、アルミニウムを主成分とする金属を構造部材として用いた際の表面処理として、金属・合金や、各種セラミックス、セラミックスと金属あるいは合金とを組み合わせた粉体材料を溶融して噴射する溶射法などが用いられている(特許文献7−特開平9−069514号公報)。しかし溶射法による表面処理では、膜表面と基材とが穴でつながっている気孔の生成抑制が困難な為に、装置内でハロゲンガス等の腐食ガスを用いた場合には、気孔による基材のアルミニウムを主成分とする金属が接触している部位が腐食する問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−130884号公報
【特許文献2】特公平5−053870号公報
【特許文献3】特開平11−181595号公報
【特許文献4】特開平5−114582号公報
【特許文献5】特開2004−060044号公報
【特許文献6】特開2005−105300号公報
【特許文献7】特開平9−069514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
即ち、酸性電解液により形成したアルマイト皮膜は、残存・吸着水分の問題があり、ポーラス構造のアルマイト皮膜を形成後、バリア構造の陽極酸化処理を行う方法では、ボイドの形成や、ガス溜まりの形成を完全に抑制するのが困難であること、溶射法による表面処理では気孔生成の抑制が困難であった。アルマイト皮膜は水分を含有するAl2O3・6H2O構造であり、しかも化成液の電気分解によって生じたOHイオンにより膜がエッチングされて多孔質になるためそこに大量の水を含有し、たとえばRIE装置に用いられるとエッチング処理中に大量の水分がチャンバー内に放出されて水プラズマとなる。この水プラズマはOHラジカルを発生させてフォトレジストを分解するから、レジストと被エッチング材料との選択比が大幅に減少し、そのため従来のRIEではレジストを分厚く形成しなければならなかった。それは解像度の低下という問題を生じさせる。またチャンバー中に放出された大量の水分は気相反応によって、チャンバー内のイオンを凝集させ、大量のゴミをチャンバー内に発生させ、デバイスの歩留まり悪化をまねく。RIEでは通常20〜40ミリトールでエッチングをするので気体分子間隔が十分広く気相反応は起こらずゴミは発生しないはずであるのに、現実には大量のゴミが発生しゲートバルブにゴミが付着しウエハーの出し入れにゴミがウエハーに付着して不良品を発生することが問題になる。これは水分が介在してゴミが発生するためである。
【0011】
従来のアルマイトの水分を放出させるために熱処理を行おうにも、アルマイトは140℃でクラックが生じるので熱処理で水分を減少させることもできない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、アルミニウムを主成分とする金属を保護しうる、微細孔や気孔(ポア)などの膜欠陥がなく水分放出の少ない金属酸化物膜およびその製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、アルミニウムを主成分とする金属を保護しうる、微細孔や気孔(ポア)などの膜欠陥のない金属酸化物膜を有する金属部材及びその製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、アルミニウムを主成分とする金属を保護しうる、微細孔や気孔(ポア)などの膜欠陥がなく水分放出の少ない、しかも150℃以上の熱処理にもクラックの生じることのない金属酸化物膜を有する金属部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、薄膜であり、かつ膜からの放出水分量が所定量以下である金属酸化物膜が、加熱による酸化物膜のクラックの発生やアウトガスの放出等が抑えられ、またハロゲンガス、特に塩素ガスに対して良好な耐食性を有すること、及び特定の化成液を用いることで優れた性質を備えた金属酸化物膜が得られることを見いだした。
【0016】
即ち、本発明によれば、アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜であって、膜厚が10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下(1×1018個/cm2以下)であることを特徴とする金属酸化物膜が得られる。なお、以下の説明では、E表記法(E-Notation)を用いて分子数を表す。
【0017】
また、一部元素の含有量を抑制したアルミニウムを主成分とする金属に於いて、特定の化成液を用いることにより形成された金属酸化物膜は、ボイドやガス溜まりが形成されず、加熱による酸化物膜のクラック発生等が抑えられることにより、硝酸、フッ酸等の薬液及びハロゲンガス、特に塩素ガスに対して良好な耐食性を有することを見いだした。
【0018】
本発明において、金属酸化膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡により測定できる。例えば日本電子(株)製JSM−6700などを用いうる。
【0019】
本発明において金属酸化物膜からの放出水分量は、金属酸化物膜を23℃で10時間、その後昇温してさらに200℃で2時間保持する間に膜から放出される単位面積あたりの放出水分子数[分子/cm2]を言う(昇温時間中も測定に含まれる)。放出水分量は、例えば、大気圧イオン化質量分析装置(ルネサス東日本製 UG−302P)を用いて測定可能である。
【0020】
好ましくは、金属酸化物膜はアルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の化成液中で陽極酸化して得られてなる。化成液は、硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。また化成液が非水溶媒を含有することが好ましい。また、陽極酸化ののち100℃以上で加熱処理されてなることが好ましい。例えば100℃以上の加熱炉中でアニール処理することができる。この金属酸化物膜は、望ましくは、半導体又は平面ディスプレイの製造装置の構造材保護用皮膜として使用される。
【0021】
本発明によれば、また、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属からなる基体上にこの金属酸化物膜を有してなることを特徴とする積層体が得られる。この積層体は、望ましくは、半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材に使用される。
【0022】
また本発明の金属酸化物膜の上下には、必要に応じて他の層を有していてもよい。例えば金属酸化物膜上に更に、金属、サーメット及びセラミックスから選ばれるいずれか1種又は2種以上を原料とした薄膜を形成して多層構造とすることもできる。
【0023】
本発明によれば、また、このような積層体を用いた半導体又は平面ディスプレイ製造装置が得られる。
【0024】
本発明によれば、また、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の化成液中で陽極酸化してアルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜を得ることを特徴とする金属酸化物膜の製造方法が得られる。
【0025】
化成液は、硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。また化成液が非水溶媒を含有することが好ましい。
【0026】
また、金属酸化物膜は陽極酸化ののち150℃以上で加熱処理されてなることが好ましい。好ましくは、得られた金属酸化物の膜厚が10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下である。この放出水分は、金属酸化物膜の表面吸着水に由来しており、放出水分量は金属酸化物膜の実効表面積に比例するので、放出水分量を低減する為には実効表面積を最小にすることが有効であり、この為金属酸化物膜は表面に気孔(ポア)などのないバリア型金属酸化物膜であることが望ましい。これら金属酸化物膜は、半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材の保護用皮膜として使用される。
【0027】
さらに、本発明によれば、アルミニウムを主成分とする金属からなる基体をpH4〜10の化成液中で陽極酸化し、前記基体上にアルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜を形成することを特徴とする積層体の製造方法が得られる。
【0028】
なおアルミニウムを主成分とする金属とは、アルミニウムを50質量%以上含む金属を言う。純アルミニウムでもよい。好ましくはこの金属はアルミニウムを80質量%以上含み、より好ましくはアルミニウムを90質量%以上、更に好ましくは94質量%以上含む。またアルミニウムを主成分とする金属は好ましくは、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属を含む。
【0029】
なお高純度アルミニウムを主成分とする金属とは、アルミニウムを主成分とする金属であって、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の総含有量が1%以下である金属をいう。また高純度アルミニウムを主成分とする金属は好ましくは、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属を含む。
【発明の効果】
【0030】
本発明による、微細孔や気孔などのない無欠陥バリア型の、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物膜及びこれを有する積層体は、薬品や腐食性の流体、特に塩素ガス等のハロゲンガスに対して良好な耐食性を示し、水素ラジカル、酸素ラジカル、塩素ラジカル、臭素ラジカル、フッ素ラジカル等の全てのラジカルやプラズマにおけるイオン照射にも完全な耐性を有する。また150℃以上、500℃に加熱しても金属酸化物膜にクラックが入りにくいのでパーティクルの発生やアルミニウム基体の露出による腐食が抑えられ、熱安定性が高く、膜からのアウトガスの放出も少ない。真空薄膜形成装置等の真空装置の内壁など構造材の保護膜に用いた場合は、装置の到達真空度を向上させる他、製造される薄膜の品質を向上させるので、薄膜を有するデバイスの動作不良の低減にもつながる。ラジカルに反応しない表面を提供するからプロセスが安定化する。また、プラズマ処理装置に従来のアルマイト保護されたアルミニウムを用いると、アルマイトでは膜が厚く壁面のキャパシタンスが大きいので大量の電荷が付着しイオンと電子の再結合によってプラズマが消失するためプラズマ励起のための電力消費が大きいという問題点もあるが、本発明のアルミニウム酸化膜では膜厚が小でよいので、キャパシタンスが小さく従って電荷再結合によるプラズマ消失も小さいのでプラズマ励起の電力を従来の1/5〜1/10にすることができる。また水分の放出が金属アルミニウムと同等の少なさなので、RIE装置においても水プラズマの発生がなく、フォトレジストが損傷しないので選択比を大きく獲ることができ、ひいてはレジストを薄くすることができ、解像度の飛躍的増大につなげることができる。また、ゴミの発生を抑制し歩留まりが向上する。なお本発明においては必ずしもすべての効果を発現することを必須とするものではなく、上記した1以上の効果があればよいものとする。
【0031】
特に、高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物はバリア構造中でのボイドの形成やガス溜りの形成を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、実施例4及び実施例5における、陽極酸化時の電圧特性を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例3、比較例1の各サンプル及び未処理のアルミ試料片の放出水分特性を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例3、実施例6、比較例1及び比較例3に於けるアニール処理後のサンプル表面の電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、実施例8、実施例10、比較例4、及び比較例5に於ける塩素ガス曝露評価後のサンプル表面の電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、実施例8〜10及び比較例6に於ける塩素ガス曝露評価後のサンプル表面の電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、実施例14〜16及び参考例1における、陽極酸化時の電流特性を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例21及び参考例6における、陽極酸化時の電圧特性を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例30に於ける薬液浸漬後の高純度アルミニウム材及びA5052材の各サンプル表面の電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、実施例33に於ける塩素ガス曝露評価後の高純度アルミニウム材及びA5052材の各サンプル表面の写真である。
【図10】図10は、表11に示す純Alと各種Al合金について、1wt%アジピン酸アンモニウムを含む非水溶液電解液(nonaqueous electrolyte solution)で陽極酸化したときの特性を示し、図10(a)は電圧特性、図10(b)は電流特性を示すグラフである。
【図11】図11は、1wt%アジピン酸アンモニウムを含む非水溶液電解液(nonaqueous electrolyte solution)で形成された種々のアルミニウム合金の残留電流密度を示すグラフである。
【図12】図12は、表12に組成を示すMgとZrを少量含む高純度Alについて、1wt%アジピン酸アンモニウムを含む非水溶液電解液(nonaqueous electrolyte solution)で陽極酸化した結果を示し、図12(a)は電圧特性、図12(b)は電流特性を示すグラフである。
【図13】図13は、アニール後の酸化膜を評価するため再陽極酸化に関し、573(K)でアニール後のアルミニウム合金の再陽極酸化曲線で、図13(a)及び図13(b)はそれぞれ電圧特性、電流特性を示すグラフである。
【図14】図14は、アニール・再酸化の前後の残留電流値を示すグラフである。
【図15】図15は、陽極酸化における電圧と酸化膜厚との関係を示すグラフである。
【図16】図16は、陽極酸化電圧と酸化膜の比抵抗との関係を示すグラフである。
【図17】図17(a)、(b)、(c)は、それぞれ、陽極酸化後300℃で1時間アニールしたAlMg2試料をアンモニアガス、塩素ガス、HBrガスに200℃で暴露した状況を、(d)のアルマイトを塩素ガスに100℃で暴露した状況と合わせて示す電子顕微鏡写真である。
【図18】図18は、陽極酸化後300℃で1時間アニールしたAlMg2試料を照射イオンに曝した結果を示すグラフである。
【図19】図19は、Mgを1.5質量%、2質量%それぞれ含む高純度Al(不純物の総含有量が100ppm以下)にZrを0.1質量%添加した場合及び添加しない場合について、Al結晶粒の成長について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0034】
本発明に係わる金属酸化物膜は、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜であって、膜厚が10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下である。この膜はアルミニウムを主成分とする金属からなる基体上に形成すると保護膜として高い性能を示す。
【0035】
金属酸化物膜の膜厚は、好ましくは100μm以下と薄くする。膜厚が厚いとクラックが入りやすく、またアウトガスを放出しやすい。より好ましくは10μm以下とし、更に好ましくは1μm以とし、なかでも好ましくは0.8μm以下とし、特に好ましくは0.6μm以下とする。ただし膜厚は10nm以上とする。膜厚が薄すぎると十分な耐食性が得られなくなる。好ましくは20nm以上とし、より好ましくは30nm以上とする。
【0036】
金属酸化物膜からの放出水分量は1E18分子/cm2以下とする。放出水分量が多いとそれら水分が腐食の元になる他、真空装置等の内壁など構造材の保護膜に用いた場合は、製造される薄膜の品質を悪化させてしまう。好ましくは2E17分子/cm2以下とし、より好ましくは1E17分子/cm2以下とする。放出水分量は少ないことが好ましいが、通常、1.5E15分子/cm2以上である。
【0037】
このような金属酸化物膜としては、微細孔や気孔などのない、バリア型の金属の酸化物膜が適している。従来用いられていたポーラス構造を有する多孔質の金属酸化物膜に対して、バリア型の金属酸化物膜は、薄膜でありながら耐食性に優れ、微細孔や気孔を殆ど有しないので水分等を吸着しにくい利点がある。
【0038】
本発明の金属酸化物膜は、アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる。アルミニウムを主成分とする金属とは、アルミニウムを50質量%以上含む金属を言う。純アルミニウムでもよい。好ましくはこの金属はアルミニウムを80質量%以上含み、より好ましくはアルミニウムを90質量%以上、更に好ましくは94質量%以上含む。アルミニウムを主成分とする金属としては、純アルミニウムでもよいが、必要に応じてアルミニウムと合金を形成しうる他の任意の金属を含有してもよく、2種以上を含有しても良い。金属の種類は特に限定されないが、好ましい金属としてはマグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属が挙げられる。なかでもマグネシウムはアルミニウム基体の強度を向上できる利点があり特に好ましい。
【0039】
さらに、本発明の金属酸化物膜は、アルミを主成分とする金属であって、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量が抑制された高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる。これら特性元素の含有量を合計した総含有量としては、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下である。高純度アルミニウムを主成分とする金属としては、純アルミニウムでもよいが、必要に応じてアルミニウムと合金を形成しうる他の任意の金属を含有してもよく、2種以上を含有しても良い。金属の種類は上記特定元素以外であれば特に限定されないが、好ましい金属としては、マグネシウム、チタン及びジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属が挙げられる。なかでもマグネシウムはアルミニウム基体の強度を向上できる利点があり特に好ましい。マグネシウム濃度としては、アルミニウムと合金を形成しうる範囲であれば特に制限はないが、十分な強度向上をもたらすためには、通常0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上とする。またアルミニウムと均一な固溶体を形成する為には、6.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5.0質量%、更に好ましくは4.5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
【0040】
また、本発明のアルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属は、この他に、結晶調整剤としてその他の金属成分を含有していてもよい。結晶制御に対する十分な効果を持つものであれば特に制限はないが、好ましくはジルコニウム等が用いられる。
【0041】
これら他の金属を含む場合、その含有量は、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属全体に対して通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上とする。他の添加金属による特性を十分に発現させるためである。ただし、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、特に好ましくは4.5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下とする。アルミニウムと他の金属成分とが均一な固溶体となり、良好な材料特性を維持するためにはこれより少ない方がよい。
【0042】
本発明の他の態様によれば、アルミニウムを主成分とする金属部材であって、腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する面にアルミニウム酸化物不動態膜を有する金属部材において、前記アルミニウム酸化物不動態膜は、厚さが0.1μm以上1μm以下で比抵抗が1E10Ω・cm以上の無孔性非晶質膜であることを特徴とする金属部材が得られる。通常のアルマイトでは、1E10Ω・cm以上の比抵抗を持つことはできないが、本発明のアルミニウム酸化物不動態膜は、厚さが0.1μm以上1μm以下で比抵抗が1E10Ω・cm、好ましくは1E11〜1E14Ω・cm、さらに好ましくは1E12Ω・cmを達成できる。また、前記アルミニウム酸化物不動態膜は放出水分量が1E18分子/cm2以下であることを特徴とする。
【0043】
前記アルミニウムを主成分とする金属は、アルミニウムを50%質量以上含みかつマグネシウムを1〜4.5質量%含むことを特徴とする。マグネシウムを含有すると、機械的強度が向上する効果があり、熱に強くなるので、陽極酸化後の150℃以上、500℃の熱処理にも耐えるが、陽極酸化に時間をかけて電流値を下げることによって熱処理を省略できれば、マグネシウムの添加はなくてもよい。前記アルミニウムを主成分とする金属は、ジルコニウムを0.15質量以下、好ましくは0.1質量%以下含むことが好ましい。これによってさらに機械的強度、耐熱性をあげることができる。
【0044】
本発明の金属部材はアルミニウム、マグネシウムおよびジルコニウムを除く元素の総含有量が1質量%以下であることが好ましい。また、これらの、アルミニウム、マグネシウムおよびジルコニウムを除く元素のいずれも含有量が0.01質量%以下であることが好ましい。これらの不純物元素が上記含有量を超えると、酸化膜中に酸素が発生してボイドが生じアニールでのクラック発生をまねく。また、膜の残留電流上昇を招く。
【0045】
本発明の金属部材は、電子装置の製造工程で用いられる各種装置において、特に腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する部分に使用するのが好ましい。
【0046】
次に、本発明のアルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物膜の製造方法について説明する。
【0047】
アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の化成液中で陽極酸化する方法によれば、緻密でポアフリーのバリア型金属酸化物膜を得ることができる利点がある。一般には、アルミニウムを主成分とする金属からなる基体をpH4〜10の化成液中で陽極酸化することで、その基体表面にアルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜が形成される。
【0048】
この方法は、基板の不均一性に起因する欠陥を修復する機能を有するために、緻密で平滑な酸化物膜を形成できる利点がある。本発明に用いる化成液は通常pH4以上、好ましくは5以上、より好ましくは6以上である。また通常10以下、好ましくは9以下、より好ましくは8以下である。陽極酸化により生成した金属酸化物膜が化成液に溶解しにくいよう、pHは中性に近いことが望ましい。
【0049】
本発明に用いる化成液は、化成中の各種物質の濃度変動を緩衝してpHを所定範囲に保つためにも、pH4〜10の範囲で緩衝作用を示すことが好ましい。このため緩衝作用を示す酸や塩などの化合物を含むことが望ましい。このような化合物の種類は特に限定されないが、化成液への溶解性が高く溶解安定性もよい点で、好ましくは硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種である。より好ましくは金属酸化膜中に硼素、燐元素の残留がほとんどない有機カルボン酸又はその塩である。
【0050】
陽極酸化処理により生成される金属酸化物膜には、溶質成分が極微量ながら取り込まれるが、溶質として有機カルボン酸又はその塩を用いることにより、真空薄膜形成装置等に適用した際に金属酸化物膜から硼素、燐元素が溶出する可能性が皆無となり、形成した薄膜の品質及びこれを用いたデバイス等の性能安定化、向上が望めるからである。
【0051】
有機カルボン酸は、カルボキシル基を1又は2以上有するものであればよく、また本発明の所期の効果を阻害しない限り、カルボキシル基以外の官能基を有していてもよい。例えば蟻酸なども好ましく用いることが出来る。化成液への溶解性が高く溶解安定性もよい点では、脂肪族カルボン酸類が好ましく、なかでも炭素数3〜10の脂肪族ジカルボン酸が好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、特に限定はされないが例えばマロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、イタコン酸、グルタル酸、ジメチルマロン酸、シトラコン酸、クエン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。なかでも溶液安定性、安全性、良好な緩衝作用等の理由で酒石酸、クエン酸、アジピン酸が特に好ましい。このうち1種を用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
硼酸、燐酸及び有機カルボン酸の塩としては、これらの酸と適当な陽イオンとの塩であればよい。陽イオンとしては特に制限はないが例えばアンモニウムイオン、1級、2級、3級又は4級のアルキルアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、ホスホニウムイオン、或いはスルホニウムイオンなどを用いることができる。なかでも表面への金属イオン残留等による基板金属への拡散等による残留による影響が少ない点で、アンモニウムイオン、1級、2級,3級又は4級のアルキルアンモニウムイオンが好ましい。アルキルアンモニウムイオンのアルキル基は、化成液への溶解性を考慮して適宜選択すればよいが、通常、炭素数1〜4のアルキル基である。
【0053】
これらの化合物は1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明に係わる化成液は上記の化合物に加えて他の化合物を含んでもよい。
【0054】
これら化合物の濃度は、目的に応じて適宜選択すればよいが、化成液全体に対して、通常0.01質量%以上とし、好ましくは0.1質量%以上とし、より好ましくは1質量%以上とする。電気伝導率を上げ金属酸化物膜の形成を十分に行うためには多くすることが望ましい。ただし通常30質量%以下とし、好ましくは15質量%以下とし、より好ましくは10質量%以下とする。金属酸化物膜の性能を高く保ち、またコストを抑えるためにはこれ以下が望ましい。
【0055】
本発明に用いる化成液は、非水溶媒を含有することが好ましい。非水溶媒を含む化成液を用いると、水溶液系の化成液に比べて、定電流化成に要する時間が短くて済むため、高いスループットで処理できる利点がある。
【0056】
非水溶媒の種類は、良好に陽極酸化ができ、溶質に対する十分な溶解度を持つものであれば特に制限はないが、1以上のアルコール性水酸基及び/又は1以上のフェノール性水酸基を有する溶媒、若しくは非プロトン性有機溶媒が好ましい。なかでも、保存安定性の点でアルコール性水酸基を有する溶媒が好ましい。
【0057】
アルコール性水酸基を有する化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、シクロヘキサノール等の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン−1,4−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール等を用いることができる。また、分子内にアルコール性水酸基以外の官能基を有する溶媒も、本発明の所期の効果を阻害しない限り使用することができる。なかでも水との混和性及び蒸気圧の点で二つ以上のアルコール性水酸基を有するものが好ましく、2価アルコールや3価アルコールがより好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールが特に好ましい。
【0058】
フェノール性水酸基を有する化合物としては、例えば、1つの水酸基を有する無置換フェノールやo−/m−/p−クレゾール類、キシレノール類等のアルキルフェノール類、また、2つの水酸基を有するものとしてはレソルシノール類が、また3つの水酸基を有するものとしてはピロガロール類等を用いることができる。
【0059】
これらアルコール性水酸基及び/又はフェノール性水酸基を有する化合物は、本発明の所期の効果を阻害しない限り、さらに分子内に他の官能基を有していてもよい。例えば、メチルセロソルブやセロソルブ等のように、アルコール性水酸基とともにアルコキシ基を有する溶媒も用いることができる。
【0060】
非プロトン性有機溶媒としては、極性溶媒又は非極性溶媒のいずれを使用してもよい。
【0061】
極性溶媒としては、特に限定はされないが例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル類;トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等の燐酸エステル類が挙げられる。
【0062】
非極性溶媒としては、特に限定はされないが例えば、ヘキサン、トルエン、シリコンオイルなどが挙げられる。
【0063】
これらの溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明の金属酸化物膜の形成に用いる化成液の非水溶媒として特に好ましいのは、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はジエチレングリコールであり、これらを単独又は組み合わせて用いてもよい。また非水溶媒を含有していれば、水を含有していてもよい。
【0064】
非水溶媒は、化成液全体に対して通常10質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは55質量%以上含む。ただし通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下含む。
【0065】
化成液が非水溶媒に加えて水を含む場合、その含有量は化成液全体に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、通常85質量%以下、好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0066】
非水溶媒に対する水の割合は、好ましくは1質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、通常90質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。
【0067】
本発明に係わる化成液は、必要に応じて他の添加剤を含んでいてもよい。例えば、金属酸化物膜の成膜性及び膜特性を向上させるための添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、本発明の所期の効果を著しく損なわない限り特に制限されず、公知の化成液で用いられる添加剤やそれ以外の物質の中から選択する一種以上の物質を添加して用いることができる。このとき、添加剤の添加量には特段の制限はなく、その効果とコスト等を勘案して適切な量とすればよい。
【0068】
本発明において、陽極酸化のための電解法としては本発明の所期の効果を著しく損なわない限り特に制限はない。電流波形としては、例えば直流の他に、印加電圧が周期的に断続するパルス法、極性が反転するPR法、その他交流や交直重畳、不完全整流、三角波などの変調電流等を用いることができるが、好ましくは直流を用いる。
【0069】
本発明において、陽極酸化の電流及び電圧の制御方法は特に制限はなく、アルミニウムを主成分とする金属の表面に酸化物膜が形成される条件を適宜組み合わせることができる。通常は定電流及び定電圧にて陽極酸化処理することが好ましい。即ちあらかじめ定められた化成電圧Vfまで定電流にて化成し、化成電圧に達した後にその電圧に一定時間保持して陽極酸化を行うことが好ましい。
【0070】
この際、効率的に酸化膜を形成する為に、電流密度は、通常0.001mA/cm2以上とし、好ましくは0.01mA/cm2以上とする。ただし表面平坦性の良好な酸化膜を得る為に、電流密度は、通常100mA/cm2以下とし、好ましくは10mA/cm2以下とする。
【0071】
また、化成電圧Vfは通常3V以上とし、好ましくは10V以上、より好ましくは20V以上とする。得られる酸化膜厚は化成電圧Vfと関連するので、酸化物膜に一定の厚みを付与するために、前記電圧以上を印加することが好ましい。ただし通常1000V以下とし、好ましくは700V以下とし、より好ましくは500V以下とする。得られる酸化物膜は高絶縁性を有するので、高絶縁破壊を起こすことなく、良質な酸化膜を形成する為には、前記の電圧以下で行うことが好ましい。
【0072】
尚、化成電圧に至るまで直流電源の代わりにピーク電流値が一定の交流を使用し、化成電圧に達したところで直流電圧に切り替えて一定時間保持する方法を用いてもよい。
【0073】
本発明において、陽極酸化の他の条件は特に制限されるものではない。ただし陽極酸化時の温度は、化成液が安定に液体として存在する温度範囲とする。通常、−20℃以上であり、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは10℃以上である。製造する際の生産・エネルギー効率等を勘案して、前記温度以上にて処理することが好ましい。ただし通常150℃以下であり、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは80℃以下である。化成液の組成を保持して均一な陽極酸化を行う為に、前記温度以下にて処理することが好ましい。
【0074】
本発明の製造方法によれば、陽極酸化法により緻密でポアフリーなバリア型の金属酸化物膜を効率良く製造できるため、耐電圧が高く、またアニール処理での割れやクラック等の発生を抑制でき、ひいては膜からのアウトガス放出量を低減できる利点がある。膜の耐電圧が高いため真空薄膜形成装置の内壁など構造材の保護用膜など金属基材表面の保護皮膜として適する。またこの金属酸化物膜は、金属基材表面の保護皮膜の他に、不純物遮断性皮膜、防食皮膜としても機能しうる。
【0075】
本発明のさらに他の態様によれば、アルミニウムを主成分とする金属部材を誘電率が水よりも小さくかつ水を溶解する有機溶媒を含む化成液中で陽極酸化して無孔性非晶質膜アルミニウム酸化物不動態膜を形成することを特徴とする金属部材の製造方法が得られる。水の誘電率は約80であるが、物質の結合エネルギーは誘電率の二乗に逆比例するので、これより高い誘電率、例えば83のHF溶液では水は0℃でも解離してしまう。そこで、水の分解を防ぎ、成長したアルミニウム酸化膜がエッチングされるのを防ぐためには、誘電率が水よりも小さくかつ水を溶解する、蒸気圧の低い有機溶媒を含む化成液中で陽極酸化すればよい。その結果無孔性非晶質膜アルミニウム酸化物不動態膜を形成することができる。このような有機溶媒の例として、エチレングリコールは誘電率が39であり、ジエチレングリコールは誘電率33、トリエチレングリコールは24、テトラエチレングリコールは20である。よってこれらの有機溶媒をもちいれば効果的に誘電率を下げ、水の電気分解を起こさずに高電圧を印加することができる。例えば、エチレングリコールを用いれば水の電気分解を起こさずに最大200Vまで陽極酸化電圧を印加でき、厚さが0.3μmの無孔性非晶質膜のアルミニウム酸化物不動態膜を形成することができる。ジエチレングリコールを用いれば水の電気分解を起こさずに最大300Vまで陽極酸化電圧を印加でき、厚さが0.4μmの無孔性非晶質膜のアルミニウム酸化物不動態膜を形成することができる。
【0076】
前記化成液には該化成液を電気伝導性にする電解質を添加するが、その結果化成液が酸性になってしまっては、アルミニウム部材が腐食されてしまう。よって、化成液の電気伝導性を高めつつpHが4〜10、好ましくは5.5〜8.5、より好ましくは6〜8として、アルミニウムの腐食を防止できるような電解質、例えばアジピン酸塩を用いる。その含有量は0.1〜10質量%、好ましくは1%程度であるのがよい。典型例では、有機溶媒79%、水20%、電解質1%の化成液が用いられる。
【0077】
前記陽極酸化は、前記金属部材と対向電極(たとえば白金)とを前記化成液中に配置する第1の工程と、前記金属部材にプラスを前記電極にマイナスを印加して一定の電流を所定の時間流す第2の工程と、前記金属部材と前記電極との間に一定の電圧を所定の時間印加する第3の工程とを含むのが好ましい。前記第2の工程の前記所定の時間は前記金属部材と所定の電極との間の電圧がよい。所定の値になるまで(例えば、エチレングリコールを用いた場合は200Vになるまで)であるのが好ましい。
【0078】
前記第3の工程の前記所定の時間は前記金属部材と所定の電極との間の電流が所定の値になるまでであることが好ましいが、電流値は電圧が上記の所定値になると急激に減少し、あとは時間とともに徐々に減少してゆく。この残留電流が少ないほど、酸化膜の膜質は向上するのであるが、たとえば24時間定電圧処理すれば、膜質は熱処理をしたものと同等になる。生産性を上げるためには、適当な時間で定電圧処理を打ち切り、熱処理(アニール)をすればよい。熱処理は150℃以上、300℃程度で0.5〜1時間行うのが好ましい。
【0079】
前記第2の工程において平方cm当たり0.01〜100mA、好ましくは0.1〜10mAの電流、さらに好ましくは0.5〜2mAの電流を流す。
【0080】
先に述べたように前記第3の工程において前記電圧は前記化成液が電気分解を起こさないような電圧とする。前記無孔性非晶質膜アルミニウム酸化物不動態膜の厚さは前記第3の工程における前記電圧に依存する。
【0081】
如何なる理論にも拘泥されるものではないが、この様な本発明の優れた効果は、化成処理時に形成されたポアフリーの金属酸化物膜は、膜全体がアモルファス構造となっており、結晶等の粒界がほとんど存在しないことによると考えられる。また、更に緩衝作用を有する化合物を添加したり、溶媒として非水溶媒を用いたりすることにより、金属酸化物膜中に微量の炭素成分が取り込まれてAl−Oの結合強度が弱くなっており、これにより膜全体のアモルファス構造が安定化されているものと推定される。
【0082】
以上のように製造された金属酸化物膜は、膜中の水分除去を行うなどの目的で、加熱処理を行ってもよい。従来のポーラス構造を有する金属酸化物膜は、150〜200℃程度のアニール処理でも割れやクラックが発生することがあり、高温での加熱処理が行えず十分な水分除去が行えないため、アウトガスの放出量が低減できない原因ともなっていた。本発明に係わる金属酸化物膜は、緻密でポアフリーなバリア型の膜であるため、アニール処理での割れやクラック等の発生を抑制でき、ひいては膜からのアウトガス放出量を低減できる利点がある。
【0083】
特に、前記特定元素をほぼ含まない高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物皮膜は、アルミニウム合金を主成分とする金属酸化物被膜に比べて更に熱安定性が高く、ボイドやガス溜まり等が形成されにくい。このため300℃程度以上のアニール処理によっても金属酸化物膜にボイドやシームが入りにくいので、パーティクルの発生やアルミニウム基体の露出による薬品やハロゲンガス、特に塩素ガスに対する腐食が抑えられ、膜からのアウトガスの放出も更に少ない利点がある。
【0084】
加熱処理方法は特に限定されるものではないが、加熱炉等でのアニール処理が簡便で好ましい。
【0085】
加熱処理の温度は、本発明の所期の効果を妨げない限り特に制限はないが、通常100℃以上であり、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上である。加熱処理による金属酸化膜の表面及び内部の水分を十分に除去するためには、前記温度以上で処理することが好ましい。ただし通常600℃以下であり、好ましくは550℃以下であり、より好ましくは500℃以下である。金属酸化膜のアモルファス構造を保持して、表面の平坦性を維持するためにも前記温度以下で処理することが好ましい。アニール処理の場合、通常、加熱炉の設定温度を加熱処理温度とみなす。
【0086】
加熱処理の時間は、本発明の所期の効果を妨げない限り特に制限はないが、目的の効果と、加熱処理による表面荒れ、生産性等を勘案して適宜設定すればよいが、通常1分以上、好ましくは5分以上、特に好ましくは15分以上である。金属酸化膜の表面及び内部の水分を十分に除去するためには、前記時間以上で処理することが好ましい。ただし通常180分以下、好ましくは120分以下、より好ましくは60分以下である。金属酸化膜構造及び表面平坦性を維持するためにも前記時間内で処理することが好ましい。
【0087】
アニール処理の際の炉内ガス雰囲気は、本発明の処理の効果を妨げない限り特に制限はないが、通常、窒素、酸素、或いはこれらの混合ガスなどを適宜用いることができる。なかでも酸素濃度が18vol%以上の雰囲気が好ましく、20vol%以上の条件がより好ましく、酸素濃度が100vol%の条件が最も好ましい。
【0088】
次に、アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属の酸化物からなる膜を含む積層体及び用途について説明する。
【0089】
アルミニウムを主成分とする金属又は高純度アルミニウムを主成分とする金属からなる基体上に、本発明の金属酸化物膜を形成し保護膜とした積層体は、薬品やハロゲンガス、特に塩素ガスに対して良好な耐食性を示す。またこれを加熱しても金属酸化物膜にクラックが入りにくいので、アニール処理などにより十分に膜中の水分除去を行うことができ、膜からのアウトガスの放出を抑えることができる。通常、塩素ガスによるアルミニウムの腐食には酸化剤、塩素イオン及び水の三要素が必要であるが、塩素ガス自体が酸化剤であり、塩素イオンの供給源にもなりうるので、水が存在すると腐食を引き起こすが、本発明の金属酸化物膜からはアウトガスとしての放出水分量が極めて少ない為に、アルミニウムの腐食抑制が可能になる。またクラックによるパーティクルの発生や、クラック部分でのアルミニウム基体の露出による腐食が抑えられる。
【0090】
また本発明の金属酸化物膜の上下には、必要に応じて他の層を有していてもよい。本発明の金属酸化物膜は膜厚が1μm以下と薄いため、物理的、機械的強度を補強する為には、二層以上の積層膜構造とすることが好ましい。
【0091】
例えば金属酸化物膜上に更に、金属、サーメット及びセラミックスから選ばれるいずれか1種又は2種以上を原料とした薄膜を形成して多層構造とすることもできる。金属としては、1種の金属単体及び2種以上の元素よりなる合金が含まれ、種類は特に制限されないが、強度、耐食性等を勘案して遷移金属類が好ましく用いられる。
【0092】
これら金属、サーメット、セラミックスの成膜方法としては、本発明の所期の効果を阻害しない限り任意の方法を用いることができるが、成膜速度が大きく厚い皮膜の形成が可能であり、被溶射材料の種類、形状、寸法に対する自由度が大きい溶射法が好ましく用いられる。
【0093】
本発明に係わる金属酸化物膜は、以上述べたように塩素ガスを始めとするガスや薬品に強く、加熱によるクラック等が生じにくく、かつアウトガスが少ないので、半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材の保護用皮膜としてきわめて好適である。そしてアルミニウム系金属からなる基体上に本金属酸化物膜を有する積層体は、半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材として好適である。ここで半導体又は平面ディスプレイ製造装置とは、半導体又は平面ディスプレイの製造分野などに用いられる製造装置、即ち化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、及びマイクロ波励起プラズマCVDなどに用いる真空薄膜形成装置や、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング(RIE)、及び近年開発されたマイクロ波励起プラズマエッチングなどに用いるドライエッチング装置を言う。
【実施例】
【0094】
本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。
【0095】
本願の実施例1から10では、アルミニウムはJIS規格A5052材を用い、酒石酸及びエチレングリコールは和光純薬工業(株)製の試薬特級を、またアジピン酸、硼酸及び硼酸ナトリウム、燐酸及び燐酸ナトリウム、蓚酸は関東化学(株)製の特級を、硫酸及びアンモニア水は三菱化学(株)製のEL薬品グレードをそれぞれ用いた。
【0096】
陽極酸化は、ソースメーター(KEITHLEY製 2400シリーズ)を用いて、純白金板をカソード電極として化成液温度を23℃に調整して行った。陽極酸化後に石英管の赤外線加熱炉(以下、「IR炉」と略す)中にて、窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、所定の温度にて1時間アニール処理を行った。
【0097】
陽極酸化膜の膜厚は、透過型電子顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製 JSM−6700)により測定した。クラックの有無は目視又は、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス VHX−200)、走査型電子顕微鏡のいずれかにより観察した。
【0098】
陽極酸化膜表面からの放出水分量は、大気圧イオン化質量分析装置(ルネサス東日本製 UG−302P)(以下、「APIMS分析装置」と略す)を用いて測定した。サンプルを23℃に保持したSUS316製のリアクターチューブ内に入れた後、アルゴンガスを流量1.2L/分にて流した。リアクターチューブを通過したアルゴンガスをAPIMSへ導入し、そのアルゴンガス中に検出される水由来の質量数(18(H2O+)、19((H2O)H+)、37((H2O)2H+)、55((H2O)3H+))について、サンプルより放出される単位面積あたりの放出水分量(放出水分子数[分子/cm2])として測定した。
【0099】
アルゴンガスを流して最初の3分間はラインより排気して、これ以後について測定を行った。尚、実施例のサンプルを測定する際には、23℃で10時間経過した後、リアクターチューブの昇温を開始して200℃に達した後(3時間後)、200℃で2時間保持し、この間測定を行った。一方、比較例のサンプルは放出水分量が多いため実施例と同様に測ると水分測定装置の測定可能範囲を超えてしまうことが予想されたため、比較例のサンプルを測定する際には放出水分が多い為に、10時間経過後も23℃を維持して実施例と同時間(計15時間)測定を行った。
【0100】
塩素ガスに対する金属酸化物膜の耐性は以下のように測定した。即ちサンプルをSUS316製のリアクターチューブ内に入れた後、窒素ガスを流量1L/分にて流しながらリアクターチューブを200℃に昇温した。200℃に達した後、5時間保持してプリベークを行った。このままの状態でリアクターチューブの温度を100℃に下げた後、ガスを塩素ガスに切り替えた。リアクターチューブ内が完全に塩素ガスで置換された後、100℃のリアクターチューブ内に0.3MPaの塩素ガスを封入して6時間保持した。塩素ガス曝露後、リアクターチューブ内を窒素ガスにて置換した。塩素ガス曝露後のサンプル表面性状を、目視及び走査型電子顕微鏡により表面観察した。
【0101】
尚、実施例及び比較例に用いた化成液は、表1に示す組成にて調整した。
【0102】
【表1】
【0103】
(実施例1)
水39.5gに酒石酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール(EG)158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.1になるまで29%アンモニア水を添加して化成液aを調製した。この化成液中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を化成電圧50Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、50Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた酸化膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.08μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。結果をまとめて表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
(実施例2)
実施例1において、化成電圧を100Vにした以外は実施例1と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.15μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0106】
(実施例3)
実施例1において、化成電圧を200Vにした以外は実施例1と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.30μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0107】
(実施例4)
水39.5gにアジピン酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.0になるまで29%アンモニア水を添加して化成液bを調製した以外は実施例3と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.31μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0108】
(実施例5)
水197.5gにアジピン酸1.8gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.0になるまで29%アンモニア水を添加して化成液cを調製した。この化成液中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた酸化膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.29μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0109】
実施例4及び実施例5に於ける陽極酸化時の経過時間に伴う電圧変化を図1に示す。化成液の主溶媒として非水溶媒を用いた実施例4は、より短時間で所定の電圧まで到達しており、高スループットで金属酸化物膜を形成できることがわかる。
【0110】
(実施例6)
水194gに硼酸4.5g及び硼酸ナトリウム1.5gを加えて撹拌混合した。この溶液のpHを測定したところ、7.1であった。この化成液d中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた酸化膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.29μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0111】
(実施例7)
水194gに燐酸2.5g及び燐酸ナトリウム3.5gを加えて撹拌混合した。この溶液のpHを測定したところ、7.2であった。この化成液e中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた陽極酸化膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。陽極酸化膜の膜厚を測定したところ、0.28μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。
【0112】
(比較例1)
水180gに98%硫酸20gを加えて撹拌混合して化成液fを調製した。この化成液を20℃に保持した中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を電流密度10mA/cm2、電圧20Vにて2時間電解酸化処理を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。
【0113】
得られた電解酸化皮膜の膜厚を測定したところ約35μmであり、膜表面には微細孔が多数あり、ポーラス構造を有する多孔質酸化物膜が形成されていた。この多孔質酸化物膜を3気圧の加圧水蒸気中で30分処理を行い封孔処理を行った。この酸化物膜付きアルミ試料片をIR炉中200℃で1時間アニール処理したところ、酸化物膜にクラックを生じた。大気開放して室温で48時間放置した後、放出水分量を測定したところ、1E19分子/cm2以上であった。実施例と同条件で放出水分量を測定すれば、更に大きい値になったと推定できる。
【0114】
実施例3、比較例1の各サンプル及び未処理のアルミ試料片の放出水分特性の測定結果を図2に示す。実施例3では、未処理のアルミニウム合金とほぼ同程度の放出水分特性を示すのに対して、比較例1では遙かに多い放出水分が認められた。
【0115】
(比較例2)
比較例1において、電解酸化時間を3時間行った以外は比較例1と同様に処理を行った。電解酸化皮膜の膜厚を測定したところ、約40μmであった。この酸化物膜付きアルミ試料片をIR炉中200℃で1時間アニール処理したところ、酸化物膜にクラックを生じた。放出水分量を測定したところ、1E19分子/cm2以上であった。実施例と同条件で放出水分量を測定すれば、更に大きい値になったと推定できる。
【0116】
(比較例3)
水192gに蓚酸8gを加えて撹拌混合して化成液gを調製した。この化成液を30℃に保持した中で20×8×1mmのA5052アルミ試料片を電流密度10mA/cm2、電圧40Vにて1時間電解酸化処理を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。
【0117】
得られた電解酸化皮膜の膜厚を測定したところ約13μmであり、膜表面には微細孔が多数あり、ポーラス構造を有する多孔質酸化物膜が形成されていた。この多孔質酸化物膜を3気圧の加圧水蒸気中で30分処理を行い封孔処理を行った。この酸化物膜付きアルミ試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理したところ、多孔質酸化物膜にクラックを生じた。大気開放して室温で48時間放置した後、放出水分量を測定したところ、7E18分子/cm2以上であった。実施例と同条件で放出水分量を測定すれば、更に大きい値になったと推定できる。
【0118】
実施例3、6及び比較例1、3に於けるアニール処理後の電子顕微鏡観察による表面状態を図3に示す。実施例3、6ではアニール処理後もクラックを生じていないのに対して、比較例1、3では微細なクラックを生じていることがわかる。
【0119】
(実施例8〜10)
実施例3,4及び6と同様の処理により得られた酸化膜付きアルミ試料片を、前記の手法に従い塩素ガスへの曝露耐性評価を行った。結果を表3に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
何れの酸化膜付きアルミ試料片についても、目視観察では腐食は認められなかった。
【0122】
(比較例4〜6)
比較例1〜3に於いて、アニール条件を変更した以外は比較例1〜3と同様の処理により得られた電解酸化膜付きアルミ試料片に対し、実施例8〜10と同様に塩素ガスへの曝露耐性評価を行った。結果を表3に示す。また、実施例8、10及び比較例4,5に於ける塩素ガス曝露評価後の目視観察によるアルミ表面状態を図4に示す。実施例8、10では腐食が認められないのに対して、比較例4では塩化アルミニウムと思われる白色状の孔食が、また比較例5では試料片の部分的な変色が認められた。さらに、実施例8〜10及び比較例6に於ける塩素ガス曝露評価後の電子顕微鏡観察によるアルミ表面状態を図5に示す。実施例8〜10では塩素ガス曝露後もほぼ変化が認められないのに対して、比較例6では表面に多数の微粒子状付着物が観察された他、多数の微細クラックを生じていた。
【0123】
次に高純度アルミ二ウムを用いた場合の実施例について比較例とともに説明する。
【0124】
実施例11から34では、アルミニウムはJIS規格のA5052材、5N高純度純アルミニウム材(HQ0)、及び特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量を0.03質量%以下に抑制したアルミニウム−マグネシウム合金にジルコニウムを0.1質量%添加した日本軽金属(株)製の高純度アルミニウム材(HQ2及びHQ4.5)を用いた。酒石酸及びエチレングリコールは和光純薬工業(株)製の試薬特級を、またアジピン酸、硼酸及び硼酸ナトリウムは関東化学(株)製の特級を、アンモニア水は三菱化学(株)製のEL薬品グレードをそれぞれ用いた。
【0125】
尚、実施例及び比較例に用いた化成液は、表1に示す組成にて調整した。また、用いたアルミニウム及びアルミニウム合金の特定元素の含有量を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
陽極酸化は、ソースメーター(KEITHLEY製 2400シリーズ)を用いて、純白金板をカソード電極として化成液温度を23℃に調整して行った。初めに所定の電圧まで定電流にて反応を行い、電圧に達したところで、定電圧にて反応を行い、最終的に到達した電流密度を残余電流密度とした。必要に応じて、陽極酸化後に石英管の赤外線加熱炉(以下、「IR炉」と略す)中にて、窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、所定の温度にて1時間アニール処理を行った。
【0128】
金属酸化膜は走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製 JSM−6700)を用いて表面観察を行った。
【0129】
また、薬液に対する金属酸化物皮膜のエッチング量は以下のように算出した。
【0130】
即ち、所定濃度の各薬液をポリエチレンビーカーにて調整した後、サンプルを室温にて10分間浸漬処理を行った。薬液処理後、超純水にてリンスした後、窒素ガスにてブロー乾燥させた。このサンプルを表1の化成液aを用いて電流密度0.1mA/cm2にて再陽極酸化処理を行い、電圧が200Vに達するまでに要するクーロン量よりエッチング量を換算した。
【0131】
更に、塩素ガスに対する金属酸化物膜の耐性は以下のように測定した。即ちサンプルをSUS316製のリアクターチューブ内に入れた後、窒素ガスを流量1L/分にて流しながらリアクターチューブを200℃に昇温した。200℃に達した後、5時間保持してプリベークを行った。このままの状態でリアクターチューブの温度を200℃に保ったまま、ガスを塩素ガスに切り替えた。リアクターチューブ内が完全に塩素ガスで置換された後、200℃のリアクターチューブ内に0.3MPaの塩素ガスを封入して6時間保持した。塩素ガス曝露後、リアクターチューブ内を窒素ガスにて置換した。塩素ガス曝露前後のサンプル重量を精密電子天秤にて秤量して重量減少による金属酸化物皮膜の耐性を評価した。
【0132】
金属酸化膜表面からの放出水分量は、大気圧イオン化質量分析装置(ルネサス東日本製 UG−302P)(以下、「APIMS分析装置」と略す)を用いて測定した。サンプルを23℃に保持したSUS316製のリアクターチューブ内に入れた後、アルゴンガスを流量1.2L/分にて流した。リアクターチューブを通過したアルゴンガスをAPIMSへ導入し、そのアルゴンガス中に検出される水由来の質量数(18(H2O+)、19((H2O)H+)、37((H2O)2H+)、55((H2O)3H+))について、サンプルより放出される単位面積あたりの放出水分量(放出水分子数[分子/cm2])として測定した。
【0133】
アルゴンガスを流して最初の3分間はラインより排気して、これ以後について測定を行った。尚、実施例のサンプルを測定する際には、23℃で10時間経過した後、リアクターチューブの昇温を開始して200℃に達した後(3時間後)、200℃で2時間保持し、この間測定を行った。一方、比較例のサンプルは放出水分量が多いため実施例と同様に測ると水分測定装置の測定可能範囲を超えてしまうことが予想されたため、比較例のサンプルを測定する際には放出水分が多い為に、10時間経過後も23℃を維持して実施例と同時間(計15時間)測定を行った。
【0134】
(実施例11)―放出水分量
水39.5gにアジピン酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール(EG)158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.1になるまで29%アンモニア水を添加して化成液bを調製した。この化成液中で20×8×1mmのHQ2試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。反応後、純水で十分洗浄した後、室温で乾燥させた。得られた酸化膜付き試料片をIR炉中300℃で1時間アニール処理した後、大気開放して室温で48時間放置した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.31μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。結果を表5に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
(実施例12)―放出水分量
水39.5gに酒石酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール(EG)158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.1になるまで29%アンモニア水を添加して化成液aを調製した以外は実施例11と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.32μmであった。またクラックは観察されなかった。放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。結果を表5に示す。
【0137】
(実施例13)―放出水分量
水194gに硼酸4.5g及び硼酸ナトリウム1.5gを加えて撹拌混合した。この溶液のpHを測定したところ、7.1であった。この化成液dを調製した以外は実施例11と同様にして酸化膜を形成した。バリア型金属酸化膜の膜厚を測定したところ、0.32μmであった。またクラックは観察されなかった。
【0138】
放出水分量を測定したところ、2E16分子/cm2以下であった。結果を表5に示す。
【0139】
(実施例14)
水39.5gにアジピン酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.0になるまで29%アンモニア水を添加して化成液bを調製した。この化成液中で20×8×3mmのHQ0試料片を化成電圧200Vまで1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で30分間保持して陽極酸化を行った。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.011mA/cm2であった。この実施例14のから19、及び参考例1から4の結果をまとめて表6に示す。
【0140】
【表6】
【0141】
(実施例15、16)
試料片としてHQ2及びHQ4.5を使用した以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.012mA/cm2及び0.017mA/cm2であった。
【0142】
(実施例17)
水197.5gにアジピン酸1.8gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.0になるまで29%アンモニア水を添加して化成液cを調製した。この化成液中で、試料片としてHQ2を使用した以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.024mA/cm2であった。
【0143】
(実施例18)
水39.5gに酒石酸1.8gを溶解させた後、エチレングリコール(EG)158gを加えて撹拌混合した。この溶液を撹拌しながら溶液のpHが7.1になるまで29%アンモニア水を添加して化成液aを調製した。この化成液中で、試料片としてHQ2を使用した以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.014mA/cm2であった。
【0144】
(実施例19)
水194gに硼酸4.5g及び硼酸ナトリウム1.5gを加えて撹拌混合した。この溶液のpHを測定したところ、7.1であった。この化成液d中で、試料片としてHQ2を使用した以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.021mA/cm2であった。
【0145】
(参考例1〜4)
化成液a〜dの各溶液中において、20×8×1mmのA5052アルミニウム試料片を用いた以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。結果を表6に示す。
【0146】
実施例14〜16及び参考例1に於ける陽極酸化時の経過時間に伴う電流密度変化を図6に示す。陽極酸化に用いるアルミニウム材として、A5052に対して、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量を抑制した高純度アルミニウムを用いることにより、マグネシウムの含有濃度及びジルコニウムの有無に依らず、何れも残余電流密度が小さくなり、これは陽極酸化による金属酸化物皮膜中の欠陥部を補修する為のイオン電流が小さいことを示唆しており、さらに良好な金属酸化物皮膜を形成できていることがわかる。
【0147】
(実施例20,21)
試料片としてHQ2を使用し、電流密度0.1mA/cm2及び10mA/cm2の定電流にて化成した以外は実施例15と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.013mA/cm2及び0.014mA/cm2であった。酸化開始後、200Vに達するまでに要する到達時間と合わせて結果を表7に示す。
【0148】
【表7】
【0149】
(参考例5,6)
試料片としてA5052材を使用した以外は実施例20,21と同様にして酸化膜を形成した。定電圧反応終了時の残余電流密度は0.036mA/cm2及び0.047mA/cm2であった。酸化開始後、200Vに達するまでに要する到達時間と合わせて結果を表7に示す。
【0150】
陽極酸化に用いるアルミニウム材として、A5052に対して、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量を抑制した高純度アルミニウムを用いることにより、何れも残余電流密度が小さくなり、良好な金属酸化物皮膜を形成できていることがわかる。また、実施例21及び参考例6に於ける陽極酸化時の経過時間に伴う電圧変化を図7に示す。高純度アルミニウムを用いた実施例21は、より短時間で所定の電圧まで到達しており、高スループットでバリア型金属酸化物膜を形成できることがわかる。
【0151】
(実施例22〜26)
実施例14〜16,20,21の各条件にて形成した金属酸化物皮膜について、反応終了後、純水洗浄した後窒素ガスにてブロー乾燥したのち、各サンプルについて、IR炉中にて窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、300℃にて1時間アニール処理を行った。アニール処理後、室温まで放冷した後、表1に記載の化成液bを用いて化成電圧200Vまで0.1mA/cm2の定電流にて化成し、200Vに達した後、定電圧で5分間保持して再陽極酸化処理を行った。定電圧反応終了時の残余電流密度及び酸化開始後、200Vに達するまでに要する到達時間の結果を表8に示す。
【0152】
【表8】
【0153】
(参考例7〜9)
参考例1,5,6の各条件にて形成した金属酸化物皮膜を使用した以外は実施例22〜26と同様にしてアニール処理後、再陽極酸化処理を行った。定電圧反応終了時の残余電流密度及び酸化開始後、200Vに達するまでに要する到達時間の結果を表8に示す。
【0154】
陽極酸化に用いるアルミニウム材として、A5052に対して、特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)の含有量を抑制した高純度アルミニウムを用いることにより、アニール処理後に再陽極酸化処理を行うと、実施例22〜26ではいずれも短時間で所定電圧に達すると同時に、残余電流密度が初期の金属酸化物皮膜形成時に比べて一桁低減しており、アニール処理を行うことで、より良質なバリア型金属酸化物皮膜を形成できていることがわかる。
【0155】
一方、アルミニウム材としてA5052を用いた参考例7〜9では、アニール処理後に再陽極酸化処理を行うと所定電圧に達するまでにかなりの時間を要している。これは、アルミニウム材中に特定元素(鉄、銅、マンガン、亜鉛、クロム)が含まれていると、バリア型金属酸化物皮膜と金属界面付近に高圧のガスを含むボイドが形成され、これがアニール処理の熱で膨張することにより、バリア型金属酸化物皮膜にマイクロクラック等が発生し、このクラックを補修する為に再陽極酸化処理に長時間を要し、残余電流密度も初期の金属酸化物皮膜形成時と同等程度に留まるものと推察される。
【0156】
(実施例27〜32)
表1に記載の化成液bを用いて、試料片としてHQ2及びA5052材を用いた以外は実施例14と同様にして陽極酸化膜を形成した。反応終了後、純水洗浄下後窒素ガスにてブロー乾燥したのち、各サンプルについて、IR炉中にて窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、300℃にて1時間アニール処理を行った。得られたサンプルについて、表9に記載の各薬液に室温で10分間浸漬処理を行い、その後純水洗浄した後窒素ガスにてブロー乾燥を行った。
【0157】
この各サンプルを表1の化成液bを用いて電流密度0.1mA/cm2にて再陽極酸化処理を行い、電圧が200Vに達するまでに要するクーロン量より、各薬液によるバリア型金属酸化物皮膜のエッチング量を算出し、A5052材に対する高純度アルミニウム材のエッチング量比を求めた。結果を表9に示す。
【0158】
【表9】
【0159】
また、実施例30に於ける薬液処理後の表面状態を図8に示す。
【0160】
上述のように、高純度アルミニウム材のバリア型金属酸化物皮膜は、何れの薬液種及び濃度に於いても、A5052材に比べてエッチング量比が1未満であり、より高い耐食性を有していた。
【0161】
(実施例33,34)
表1に記載の化成液b及びdを用いて、試料片としてHQ2及びA5052材を用いた以外は実施例14と同様にして酸化膜を形成した。反応終了後、純水洗浄下後窒素ガスにてブロー乾燥したのち、各サンプルについて、IR炉中にて窒素/酸素=80/20(vol比)組成のガスを5L/minの流速で流しながら、300℃にて1時間アニール処理を行った。得られたサンプルについて、精密電子天秤にて秤量した後、リアクターチューブ内で200℃6時間、塩素ガス曝露を行った。
【0162】
曝露後、サンプル重量を精密電子天秤にて秤量して金属酸化物皮膜の重量減少率を算出し、A5052材に対する高純度アルミニウム材の重量減少率比を求めた。結果を表10に示す。
【0163】
【表10】
【0164】
また、実施例33に於ける薬液処理後の表面状態を図9に示す。
【0165】
上述のように、高純度アルミニウム材のバリア型金属酸化物皮膜は、A5052材のものに比べて、塩素ガス曝露による重量減少率比が1未満であり、塩素ガスに対してより高い耐食性を有していた。また、化成液bを用いた金属酸化物皮膜は、化成液dによるものに比べて、更により高い耐食性を有していた。
【0166】
次に、本発明のほかの特徴について実験データに基づき説明する。
【0167】
表11に純Alと各種Alの組成を示し、図10(a)に、これらのAlを非水溶液電解液(1質量%のアジピン酸を含む)で陽極酸化したときの電圧特性を、図10(b)に電流特性を示す。
【0168】
【表11】
【0169】
また、図11はこのときの陽極酸化後の残留電流値をAl合金中の不純物(Cu,Fe,Cr,Mn,Si)の総含有量に関連付けて示す。図11から、不純物の総含有量は1質量%以下が好ましいことがわかる。これらの不純物は酸化されると酸化膜とAlとの界面に凝集してその触媒作用で酸素ガスを発生させ、残留電流値を悪化させるとともに、アニール時に酸化膜にクラックを生じさせる。
【0170】
ここで、表12に組成を示すような、MgとZrを少量含む高純度Alを同様に非水溶液陽極酸化した結果を図12に示す。図12(a)は電圧特性、図12(b)は電流特性である。電圧特性は全ての試料についてリニアに所定電圧まで上昇し、電流特性はA5052を除き全て充分低い残留電流に達した。
【0171】
【表12】
【0172】
図12の陽極酸化の後、純水で試料を洗浄し、窒素ガス中で乾燥させ、300℃で1時間アニールを行った。アニールは、酸素ガスと窒素ガスを20対80の容積比で含む混合ガスを毎分5リットルの流量で流して行った。アニール後の酸化膜を評価するため再陽極酸化を行った。図13(a)(b)はそれぞれ電圧特性、電流特性を示し、図14はアニール・再酸化の前後の残留電流値を示す。図14の残留電流密度の変化において、○印は陽極酸化後の純Al及び高純度Al−Mg合金、●印はアニール及び再陽極酸化後の純Al及び高純度Al−Mg合金、□印は陽極酸化後のA5052合金、そして塗りつぶし四角形はアニール及び再陽極酸化後のA5052合金についてのものである。アニール・再酸化によって残留電流値が劇的に下がることが分かる。酸化膜の絶縁特性が大幅に改善されたためである。A5052については、アニール等によって酸化膜にクラックが生じ、特性を悪化させている。
【0173】
図15は、AlMg2(Al-Mg2wt%-Zr0.1wt%)の陽極酸化における電圧と陽極酸化膜厚との関係を示す。電圧が高いほどそれにほぼ比例して膜厚が厚くなることがわかる。
【0174】
図16は、AlMg2(Al-Mg2wt%-Zr0.1wt%)の陽極酸化における陽極酸化電圧と酸化膜の比抵抗との関係を示す。比抵抗は全て1E11以上であり、アニール・再酸化によって比抵抗は10〜50倍に増加する。
【0175】
図17(a)、(b)、(c)は、それぞれ、陽極酸化後に陽極酸化膜を300℃で1時間アニールしたAlMg2試料をアンモニアガス、塩素ガス、HBrガスに200℃で暴露した状況を、(d)のアルマイトを塩素ガスに100℃で暴露した状況と合わせて示す。0.3MPaで6時間ガスに曝露後のものである。本発明の酸化膜はダメージを受けていないことが分かる。
【0176】
図18は、同様に、陽極酸化後300℃で1時間アニールしたAlMg2試料を照射イオンに曝した結果を示す耐食抵抗特性である。横軸はイオン打ち込みのエネルギーをプラズマ電位で示し、縦軸はそのときのエッチング量を示す。100Vのプラズマ電位のもとで、本発明の陽極酸化膜が、水素ラジカル、酸素ラジカル、塩素ラジカル、臭素ラジカル、フッ素ラジカル等の種々のラジカルに対して、またプラズマにおけるイオン照射に対して完全な耐性を有することが分かる。
【0177】
図19は、本発明に用いて好適なMgを1.5質量%、2質量%それぞれ含む高純度Al(不純物の総含有量が100ppm以下)にZrを0.1質量%添加した場合の効果を添加しない場合とともに示す。Zr添加により、Al結晶粒の成長が抑えられるのが分かる。またMg2%添加でも同様の効果が有ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0178】
上述のように、本発明によれば、アルミニウムを主成分とする金属酸化物膜、特に、微細孔や気孔などのないバリア型金属酸化物膜、及びその製造方法を提供できる。この金属酸化物膜及びこれを有する積層体は、薬品やハロゲンガス、特に塩素ガスに対して良好な耐食性を示し、加熱しても金属酸化物膜にクラックが入りにくいのでパーティクルの発生やアルミニウム基体の露出による腐食が抑えられ、熱安定性が高く、膜からのアウトガスの放出も少ない。真空薄膜形成装置等の真空装置の内壁など構造材の保護膜に用いた場合は、装置の到達真空度を向上させる他、製造される薄膜の品質を向上させるので、薄膜を有するデバイスの動作不良の低減にもつながる。
【0179】
また本発明の金属酸化物膜製造方法によれば、耐電圧が高く加熱時のクラックも生じにくいポアフリーの金属酸化物膜を効率良く形成できる。この金属酸化物膜は金属基材表面の保護皮膜として好適である他、不純物遮断性皮膜、防食皮膜としても利用しうるものであり、その適用範囲は広い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材保護用皮膜に用いる金属酸化物膜の製造方法であって、アルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の非水溶液電解液中で陽極酸化して得られたアルミニウムを主成分とする金属の酸化物で構成され、膜の厚さが10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下の無孔性非晶質膜を得ることを特徴とする金属酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物はバリア型金属酸化物からなる請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記非水溶液電解液が、硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物膜の厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項5】
半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材に用いる積層体の製造方法であって、アルミニウムを主成分とする金属からなる基体をpH4〜10の非水溶液電解液中で陽極酸化して得られたアルミニウムを主成分とする金属の酸化物で構成され、膜の厚さが10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下である無孔性非晶質膜を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物はバリア型金属酸化物からなる請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記非水溶液電解液が、硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記酸化物膜の厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
アルミニウムを主成分とする金属からなる金属部材であって、腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する面にアルミニウム酸化物不動態膜を有する金属部材において、前記アルミニウム酸化物不動態膜は、前記アルミニウムを主成分とする金属が非水溶液電解液中で陽極酸化され、厚さが0.1μm以上で比抵抗が1E10Ω・cm以上で、放出水分量が1E18分子/cm2以下の無孔性非晶質膜であることを特徴とする金属部材。
【請求項10】
前記アルミニウム酸化物不動態膜は、比抵抗が1E11〜1E14Ω・cmであることを特徴とする請求項9に記載の金属部材。
【請求項11】
前記アルミニウム酸化物不動態膜は、比抵抗が1E12Ω・cm以上であることを特徴とする請求項9に記載の金属部材。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれかに記載の金属部材を腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する部分に使用したことを特徴とする電子装置の製造工程で用いられる装置。
【請求項13】
アルミニウムを主成分とする金属からなる金属部材であって、腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する面にアルミニウム酸化物の不動態膜を有する金属部材の製造方法であって、前記アルミニウムを主成分とする金属を誘電率が水よりも小さくかつ水を溶解する有機溶媒を含む化成液中で陽極酸化し、厚さが0.1μm以上で比抵抗が1E10Ω・cm以上の無孔性非晶質のアルミニウム酸化物の不動態膜を形成することを特徴とする金属部材の製造方法。
【請求項14】
前記化成液は該化成液を電気伝導性にする電解質を含みpHが5.5〜8.5であることを特徴とする請求項13に記載の金属部材の製造方法。
【請求項15】
前記化成液は水を50質量%以下含みpHが6〜8であることを特徴とする請求項14に記載の金属部材の製造方法。
【請求項16】
前記陽極酸化は、前記金属部材と所定の電極とを前記化成液中に配置する第1の工程と、前記金属部材と前記電極との間に一定の電流を所定の時間流す第2の工程と、前記金属部材と前記電極との間に一定の電圧を所定の時間印加する第3の工程とを含むことを特徴とする請求項13に記載の金属部材の製造方法。
【請求項17】
前記第2の工程の前記所定の時間は前記金属部材と所定の電極との間の電圧が所定の値になるまでであることを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項18】
前記第3の工程の前記所定の時間は前記金属部材と所定の電極との間の電流が所定の値になるまでであることを特徴とする請求項16又は17に記載の金属部材の製造方法。
【請求項19】
前記第3の工程の後に前記金属部材を150℃以上の所定の温度で熱処理する第4の工程を含むことを特徴とする請求項16乃至18のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【請求項20】
前記陽極酸化の後に前記金属部材を150℃以上の所定の温度で熱処理することを特徴とする請求項13に記載の金属部材の製造方法。
【請求項21】
前記第2の工程において平方cm当たり0.01〜100mAの電流を流すことを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項22】
前記第2の工程において平方cm当たり0.1〜10mAの電流を流すことを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項23】
前記第2の工程において平方cm当たり0.5〜2mAの電流を流すことを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項24】
前記第3の工程において前記電圧は前記化成液が電気分解を起こさないような電圧であることを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項25】
前記無孔性非晶質膜アルミニウム酸化物不動態膜の厚さは前記第3の工程における前記電圧に依存することを特徴とする請求項24に記載の金属部材の製造方法。
【請求項26】
前記有機溶媒はエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびテトラエチレングリコールの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項13又は14に記載の金属部材の製造方法。
【請求項27】
前記有機溶媒は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびテトラエチレングリコールの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項13又は14に記載の金属部材の製造方法。
【請求項28】
前記電解質はアジピン酸を含むことを特徴とする請求項14、26又は27のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【請求項1】
半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材保護用皮膜に用いる金属酸化物膜の製造方法であって、アルミニウムを主成分とする金属をpH4〜10の非水溶液電解液中で陽極酸化して得られたアルミニウムを主成分とする金属の酸化物で構成され、膜の厚さが10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下の無孔性非晶質膜を得ることを特徴とする金属酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物はバリア型金属酸化物からなる請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記非水溶液電解液が、硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物膜の厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項5】
半導体又は平面ディスプレイ製造装置の構造材に用いる積層体の製造方法であって、アルミニウムを主成分とする金属からなる基体をpH4〜10の非水溶液電解液中で陽極酸化して得られたアルミニウムを主成分とする金属の酸化物で構成され、膜の厚さが10nm以上であり、前記膜からの放出水分量が1E18分子/cm2以下である無孔性非晶質膜を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物はバリア型金属酸化物からなる請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記非水溶液電解液が、硼酸、燐酸及び有機カルボン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記酸化物膜の厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
アルミニウムを主成分とする金属からなる金属部材であって、腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する面にアルミニウム酸化物不動態膜を有する金属部材において、前記アルミニウム酸化物不動態膜は、前記アルミニウムを主成分とする金属が非水溶液電解液中で陽極酸化され、厚さが0.1μm以上で比抵抗が1E10Ω・cm以上で、放出水分量が1E18分子/cm2以下の無孔性非晶質膜であることを特徴とする金属部材。
【請求項10】
前記アルミニウム酸化物不動態膜は、比抵抗が1E11〜1E14Ω・cmであることを特徴とする請求項9に記載の金属部材。
【請求項11】
前記アルミニウム酸化物不動態膜は、比抵抗が1E12Ω・cm以上であることを特徴とする請求項9に記載の金属部材。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれかに記載の金属部材を腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する部分に使用したことを特徴とする電子装置の製造工程で用いられる装置。
【請求項13】
アルミニウムを主成分とする金属からなる金属部材であって、腐食性の流体、ラジカル、および照射イオンの少なくとも一つに接する面にアルミニウム酸化物の不動態膜を有する金属部材の製造方法であって、前記アルミニウムを主成分とする金属を誘電率が水よりも小さくかつ水を溶解する有機溶媒を含む化成液中で陽極酸化し、厚さが0.1μm以上で比抵抗が1E10Ω・cm以上の無孔性非晶質のアルミニウム酸化物の不動態膜を形成することを特徴とする金属部材の製造方法。
【請求項14】
前記化成液は該化成液を電気伝導性にする電解質を含みpHが5.5〜8.5であることを特徴とする請求項13に記載の金属部材の製造方法。
【請求項15】
前記化成液は水を50質量%以下含みpHが6〜8であることを特徴とする請求項14に記載の金属部材の製造方法。
【請求項16】
前記陽極酸化は、前記金属部材と所定の電極とを前記化成液中に配置する第1の工程と、前記金属部材と前記電極との間に一定の電流を所定の時間流す第2の工程と、前記金属部材と前記電極との間に一定の電圧を所定の時間印加する第3の工程とを含むことを特徴とする請求項13に記載の金属部材の製造方法。
【請求項17】
前記第2の工程の前記所定の時間は前記金属部材と所定の電極との間の電圧が所定の値になるまでであることを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項18】
前記第3の工程の前記所定の時間は前記金属部材と所定の電極との間の電流が所定の値になるまでであることを特徴とする請求項16又は17に記載の金属部材の製造方法。
【請求項19】
前記第3の工程の後に前記金属部材を150℃以上の所定の温度で熱処理する第4の工程を含むことを特徴とする請求項16乃至18のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【請求項20】
前記陽極酸化の後に前記金属部材を150℃以上の所定の温度で熱処理することを特徴とする請求項13に記載の金属部材の製造方法。
【請求項21】
前記第2の工程において平方cm当たり0.01〜100mAの電流を流すことを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項22】
前記第2の工程において平方cm当たり0.1〜10mAの電流を流すことを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項23】
前記第2の工程において平方cm当たり0.5〜2mAの電流を流すことを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項24】
前記第3の工程において前記電圧は前記化成液が電気分解を起こさないような電圧であることを特徴とする請求項16に記載の金属部材の製造方法。
【請求項25】
前記無孔性非晶質膜アルミニウム酸化物不動態膜の厚さは前記第3の工程における前記電圧に依存することを特徴とする請求項24に記載の金属部材の製造方法。
【請求項26】
前記有機溶媒はエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびテトラエチレングリコールの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項13又は14に記載の金属部材の製造方法。
【請求項27】
前記有機溶媒は、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびテトラエチレングリコールの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項13又は14に記載の金属部材の製造方法。
【請求項28】
前記電解質はアジピン酸を含むことを特徴とする請求項14、26又は27のいずれか1項に記載の金属部材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図17】
【図2】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図17】
【公開番号】特開2012−57256(P2012−57256A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−278405(P2011−278405)
【出願日】平成23年12月20日(2011.12.20)
【分割の表示】特願2007−521220(P2007−521220)の分割
【原出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月20日(2011.12.20)
【分割の表示】特願2007−521220(P2007−521220)の分割
【原出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
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