説明

金微粒子とその製造方法

【課題】PLL−g−PEGを吸着させることによって血液中での分散安定性を高めた、生体に対して安全な金ナノロッドとその用途を提供する。
【解決手段】ポリエチレングリコールを側鎖にグラフトしたポリリジンが吸着しているナノサイズのロッド形状の金微粒子(金ナノロッド)であり、例えば、ポリエチレングリコールのグラフト率が10〜50mol%のポリリジンが吸着しており、金微粒子を水中に分散した分散液のゼータ電位が+25mV以下であることを特徴とする金微粒子、および該金微粒子をバイオマーカーとした生体内の近赤外イメージング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレングリコール(PEG)を側鎖にグラフトしたポリリジン(PLL−g−PEG)が吸着しているナノサイズのロッド形状の金微粒子(金ナノロッド)とその用途に関する。
【0002】
本発明は、より具体的には、PEGのグラフト率を特定の割合に調整したポリリジンを吸着した金ナノロッドとその用途に関する。本発明の技術は、血液中での金ナノロッドの分散安定性を高める方法として有用であり、金ナノロッドを生体内へ投与しバイオマーカーとして利用できるため生体内の近赤外イメージングが可能である。
【背景技術】
【0003】
溶媒中に分散した金属微粒子に光を照射すると局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon resonance:LSPR)と呼ばれる共鳴吸収現象が生じる。この吸収現象は金属の種類と形状、そして金属微粒子周囲における媒体の屈折率によって吸収波長が決定される。例えば、球状の金微粒子が水に分散した場合は530nm付近に吸収域を持ち、金微粒子の形状を短軸10nm程度のロッド状(金ナノロッド)にすると、ロッドの短軸に起因する530nm付近の吸収の他に、ロッドの長軸に起因する長波長側の吸収を有することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
これらの金属微粒子分散液は、低分子化合物や高分子化合物を保護剤として金属微粒子表面に吸着ないし結合させることによって、金属微粒子が凝集することなく安定に溶媒に分散させることができる。特に金ナノロッドは形状の変化や凝集状態変化、金ナノロッド周辺の環境によって分光特性が変化する特異な金微粒子であり(非特許文献2、3、4)、近赤外光をプローブとして用いる新しい分光分析の材料として可能性がある。
【0005】
金ナノロッドはアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1より大きいロッド状のナノサイズの金微粒子であり、例えば、カチオン性界面活性剤である第四級アンモニウム塩のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)に溶解した水中で合成され、CTAB水溶液中の金イオンを化学還元、電気還元、光還元などによって合成することが可能であり、合成した金ナノロッドはCTABの保護作用によって水中で安定に分散している(特許文献1、2、3、4)。
【0006】
近年、窒素や硫黄を吸着基とする分散剤を、水中で合成した金ナノロッドに表面処理して有機溶媒中へ安定に抽出させる方法が報告されている(特許文献5、6)。また、保護鎖としてPEGを共有結合したポリリジン骨格中のアミノ基に近赤外域(650〜1300nm)に吸収を有する蛍光色素を共有結合させた近赤外蛍光プローブを用いた生体内の近赤外イメージング技術が報告されている(特許文献7)。
【0007】
さらに、α−メトキシ−ω−メルカプトPEGを修飾した金ナノロッドをバイオマーカーとしてマウスに注入し、一定時間経過後に血中や各器官を分別採取しそれぞれの部位における金ナノロッドの濃度を測定することで、PEG修飾した金ナノロッドの血液中での分散安定性を報告している(非特許文献5)。また、CTABを除去しつつ、フォスファチジルコリン(PC)を金ナノロッドへ吸着させ、CTABの細胞毒性を低減させる方法が報告されており、CTABの低減とPCの吸着をゼータ電位の変化として測定している(非特許文献6)。また、様々なグラフト率のPEGのポリリジンが報告されている(非特許文献7)。
【非特許文献1】S.Link,M.B.Mohamed,M.A.El-Sayed,J.Phys.Chem.B,103,p3073(1999)
【非特許文献2】K.Honda,Y.Niidome,N.Nakashima,H.Kawazumi,S.Yamada,Chem.Lett.,35,p854(2006)
【非特許文献3】Y.Niidome,H.Takahashi,S.Urakawa,K.Nishioka,S.Yamada,Chem.Lett.,33,p454(2004)
【非特許文献4】S.Link,M.A.El-Sayed,J.Phys.Chem.B,109,p10531(2005)
【非特許文献5】T.Niidome,M.Yamagata,Y.Okamoto,Y.Akiyama,H.Takahashi,T.Kawano,Y.Katayama,Y.Niidome,J.Control.Release,114,p343(2006)
【非特許文献6】H.Takahashi,Y.Niidome,T.Niidome,K.Kaneko,H.Kawasaki,S.Yamada,Langmuir,22,p2(2006)
【非特許文献7】A. Sato, S. W. Choi, M. Hirai, A. Yamayoshi, R. Moriyama, T. Yamano, M. Takagi, A. Kano, A. Shimamoto, A. Maruyama, J.Control.Release,122,p209(2007)
【特許文献1】特開2004−292627号公報
【特許文献2】特開2005−97718号公報
【特許文献3】特開2006−169544号公報
【特許文献4】特開2006−118036号公報
【特許文献5】特開2005−270957号公報
【特許文献6】特開2006−176876号公報
【特許文献7】特許公表2002−514610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4などに記載されている方法で合成された金ナノロッドはCTABに被覆されて水中に分散しているが、CTABは高い細胞毒性を示すため、血液中への投与などの生体内への適用はできない。特許文献5〜6に記載されている方法では、窒素や硫黄で吸着する分散剤を用いて有機溶媒に金ナノロッドを安定に分散させることが可能であるが、血液中での分散安定性は検討されていない。特許文献7に記載されているものは、蛍光色素による生体内の近赤外イメージングを目的とした蛍光プローブであるが、蛍光色素をバイオマーカーに使用した場合は、得られる光信号の定量性に欠けており、再現性の得られる測定結果が得られない。
【0009】
非特許文献5には、PEG修飾による金ナノロッドは血液中で分散安定性が高まることが報告されているが、PEG鎖中に反応性の官能基がないため、他の化合物と反応させることはできない。非特許文献6には、CTABを低減してPCで修飾した金ナノロッドは細胞毒性を低減することが報告されているが、血液中の分散安定性を高めたものではなく、ゼータ電位はCTABの除去割合を指標として数値化したものである。
【0010】
本発明は、金ナノロッドについて、従来の上記技術では知られていない新規技術を提供する。具体的には、PLL−g−PEGを吸着させることによって血液中での分散安定性を高めた、生体に対して安全な金ナノロッドとその用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下に示す構成を有する金微粒子とその用途に関する。
〔1〕ポリエチレングリコールを側鎖にグラフトしたポリリジンが吸着していることを特徴とするロッド形状の金微粒子。
〔2〕数平均分子量500〜50000のポリエチレングリコールを側鎖にグラフトした数平均分子量1000〜300000のポリリジンが吸着していることを特徴とする上記〔1〕に記載する金微粒子。
〔3〕ポリエチレングリコールのグラフト率が10〜50mol%のポリリジンが吸着していることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載する金微粒子。
〔4〕金1mmolに対しポリエチレングリコールを側鎖にグラフトしたポリリジンが含有するアミノ基のモル数として0.05mmol以上吸着していることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕に記載する金微粒子。
〔5〕金微粒子を水中に分散した分散液のゼータ電位が+25mV以下であることを特徴とする請求項〔1〕〜〔4〕の何れかに記載する金微粒子。
〔6〕長軸長さ400nm未満であってアスペクト比が1より大きく、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲である請求項〔1〕〜〔5〕何れかに記載する金微粒子。
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕に記載する金微粒子に吸着しているポリエチレングリコールを側鎖にグラフトしたポリリジンが含有するアミノ基に、コハク酸無水物を反応させてカルボキシル基を付加することを特徴とする金微粒子。
〔8〕請求項〔1〕〜〔6〕に記載する金微粒子に吸着しているポリエチレングリコールを側鎖にグラフトしたポリリジンが含有するアミノ基に、無水酢酸を反応させてアセチル基を付加することを特徴とする金微粒子。
〔9〕上記〔1〕〜〔8〕の金微粒子をバイオマーカーとして使用した生体内の近赤外イメージング。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金ナノロッドは、PEGのグラフト率を10〜50mol%に調整したポリリジンを吸着させることで、金ナノロッドの血液中での分散安定性を高めることができる。また、PLL−g−PEGはアミノ基を有しており、金表面との吸着点として機能するばかりでなく、他の化合物を反応させることが可能である。
【0013】
さらに、本発明の金ナノロッドは、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲の金ナノロッドを用いており、PLL−g−PEGを吸着させた金ナノロッドを生体内へ投与し、生体内の近赤外イメージング技術を構築することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、濃度の%は特に示さない限り質量%である。また、本発明明における吸収スペクトルの変化とは、金ナノロッドの凝集に伴うLSPRの最大吸収波長の吸光度の低下や吸収スペクトル形状の変化を意味する。PEGのグラフト率とは、ポリリジンの側鎖アミンに結合したPEG鎖の割合〔結合したPEG量/側鎖アミン量〕を意味する。
【0015】
本発明の金ナノロッドは、PEGを側鎖にグラフトしたポリリジン(PLL−g−PEG)が吸着していることを特徴とする金微粒子である。PEGは様々なグラフト率でPLLに結合しており、好ましくは、このPLL−g−PEGは特定の割合で金ナノロッドに吸着されている。
【0016】
本発明の生体内の近赤外イメージングは、上記金ナノロッドの近赤外吸収特性とポリリジンの血液中での分散安定性をバイオマーカーとして利用したものである。
【0017】
本発明で用いるPLL−g−PEGは、非特許文献7で報告されている合成法で合成されたポリリジンを使用することができる。本発明で用いるPLL−g−PEGについて、PEGのグラフト率は10〜50mol%が適当であり、15〜40mol%が好ましい。PEGのグラフト率が10mol%より小さい場合、血液中での分散安定性が悪くなり、金ナノロッドが凝集を起こす可能性が高くなる。また、PEGのグラフト率が50mol%より大きい場合、PEGの立体障害により、金ナノロッドへの吸着性が悪くなる。
【0018】
ポリリジンへグラフトするPEGの数平均分子量(Mn)は、500〜50000以下が適当であり、Mn1000〜20000が好ましい。Mn50000より大きい場合、血液中での分散安定性に変化ないため、コスト的に不利となる。また、PEGのMn500より小さい場合、血液中での分散安定性が悪くなり、金ナノロッドが凝集を起こす可能性が高くなる。
【0019】
PEGをグラフトするポリリジンのMnは1000〜300000が適当であり、Mn5000〜100000が好ましい。Mn300000より大きい場合、金ナノロッドへ吸着するアミノ基は充分に存在するためコスト的に不利である。また、Mn1000より小さい場合、アミノ基の数が不足し、金ナノロッドへの吸着が不安定となり、脱離傾向が高まり、金ナノロッドが凝集を起こす可能性が高くなる
本発明で使用する金ナノロッドは、長軸の長さが400nm未満であって、アスペクト比が1より大きいロッド形状の金微粒子が好ましい。具体的には、LSPRの最大吸収波長が波長700〜2000nmの範囲内にあるアスペクト比の金ナノロッドが適当である。また金ナノロッドの長軸長さは200nm以下がより好ましい。長軸長さがこれより長いと、金ナノロッドが沈降しやすくなる傾向があり、分散媒中での分散安定性が失われる。
【0020】
金ナノロッドは次式[I]で示される4級アンモニウム塩が溶解した水溶液中で金イ
オンを還元することによって合成することができる。例えば、n=15のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を使用することによって、CTABが表面に吸着した金ナノロッドを得ることができる。この金ナノロッドはCTABが吸着した状態で水中に安定に分散している。
CH3(CH2)n+(CH3)3Br- (nは1〜15の整数) …[I]
【0021】
CTABは高い細胞毒性を示し、血液中への投与といった生体内への適用はできないため、上記金ナノロッド水分散液は、水中に存在する余剰の界面活性剤CTABを除去して使用するとよい。具体的には、金ナノロッド水分散液を遠心分離して金ナノロッドを遠沈管の底に沈降させ、CTABを含む上澄みを除去する。沈降した金ナノロッドは水を添加して再分散させる。この操作を1〜3回繰り返すことによって余剰なCTABを除去することができる。なお、CTABを過剰に除去すると金ナノロッドが凝集して水に再分散しなくなる。
【0022】
金ナノロッドにPLL−g−PEGを吸着させる方法としては、余剰のCTABを除去した金ナノロッドの水分散液に、PLL−g−PEGを溶解した水溶液を添加して混合すればよく、PLL−g−PEGのアミノ基が金表面へ多点吸着して、PLL−g−PEGが吸着した金ナノロッドが得られる。PLL−g−PEGの混合割合は、金1mmolに対し、PLL−g−PEGの含有するアミノ基のモル数として0.05mol以上が適当である。PLL−g−PEGの添加割合がそれより少ないとPEGの相対量が少なくなるため、血液中でも金ナノロッドの分散安定性が悪くなり、凝集を起こす傾向が高くなる。
【0023】
PLL−g−PEGが吸着した金ナノロッドは、PEGのグラフト率が異なるPLL−g−PEGを用いることによって表面電荷(ゼータ電位)を調整することができる。
【0024】
様々なグラフト率のPLL−g−PEGは、相対的に金ナノロッド表面のアミノ基の密度が変化するため、PLL−g−PEGを金ナノロッドに吸着させた場合、ゼータ電位を調整することができる。具体的には、PEGのグラフト率が高いPLL−g−PEGを金ナノロッドに吸着するとゼータ電位は低くなり、PEGのグラフト率が低いPLL−g−PEGを金ナノロッドに吸着するとゼータ電位は高くなる。
【0025】
PLL−g−PEGを吸着させた金ナノロッドのゼータ電位は、+25mV以下が適当であり、+20mV以下が好ましい。ゼータ電位が+25mVより大きい場合、血液中での分散安定性が悪くなり、凝集を起こす傾向が高くなる。
【0026】
PLL−g−PEG中のアミノ基は、他の化合物と反応させることができる。例えば、カルボン酸やカルボン酸無水物と反応させて金ナノロッドのゼータ電位を低くすることができる。なお、PLL−g−PEG中のアミノ基と反応させる化合物は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)など、アミノ基と反応する官能基を有する化合物であれば、制限なく使用することができる。
【0027】
本発明は、(イ)PLL−g−PEG中のアミノ基にコハク酸無水物を反応させてカルボキシル基を付加することによってゼータ電位を変化させたPLL−g−PEG吸着金ナノロッド、(ロ)PLL−g−PEG中のアミノ基に無水酢酸を反応させてアセチル基を付加(アセチル化)することによってゼータ電位を変化させたPLL−g−PEG吸着金ナノロッドなどを含む。
【0028】
本発明に使用する金ナノロッドは、700〜2000nmにLSPRの吸収ピークを有しており、血液中で安定に分散するため、バイオマーカーとして使用できる。特に波長800nm〜1200nmの近赤外光は水の吸収による影響が少なく(Near Infrared Window)、生体にも安全な波長域であり、生体外部から近赤外光を照射することによって、生体内に投与した金ナノロッドの分散状態や凝集状態による分光特性の変化を測定することが可能であり、近赤外光分析システムやバイオイメージングシステムなどを構築することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。また、参考例を示す。なお、以下の実施例は、金ナノロッドの主に900nm付近の波長域におけるLSPRの吸収波長シフトを測定しているが、金ナノロッドのアスペクト比を変更することによって700〜2000nmまでの波長域についても同様の吸収波長のシフトを測定することができる。
【0030】
分光特性は日本分光株式会社製測定機(V-670)を用いて測定した。ゼータ電位はMalverne社製測定器(Zeta-sizer Nano―ZS)を用いて測定した。PLL−g−PEGは非特許文献7の合成方法を用いて合成した。
【0031】
〔PLL−g−PEGの合成〕
非特許文献7の合成法に従い、PLL−g−PEGを合成した(図1、合成スキーム)。原料に、Mn28000のポリリジン、Mn5000のPEGを使用して、以下のPEGのグラフト率が異なる2種のPLL−g−PEGを得た。
(イ)PLL−g−PEG−1:グラフト率36mol%、Mn313000
(ロ)PLL−g−PEG−2:グラフト率5mol%、Mn96000
【0032】
〔金ナノロッド水分散液の調製〕
400mMのCTAB水溶液中で合成された金ナノロッド水分散液を遠沈管に入れ、14000(×g)の相対遠心加速度(遠心加速度を地球の重力加速度で除したもの)で10分間遠心分離して金ナノロッドを遠沈管の底に沈降させた。上澄み液を別の遠沈管に入れ、沈降した金ナノロッドは水で再分散させた。別の遠沈管に入れた上澄み液は、再び14000(×g)で10分間遠心分離して金ナノロッドを沈降させ、この上澄み液を除去することにより余剰のCTABを除去した。沈降した金ナノロッドは水で再分散させ、前の再分散液と合わせて、金ナノロッド水分散液を得た(NRs水分散液、金1mmol/L)。
【0033】
〔実施例1〕
NRs水分散液にPLL−g−PEG−1水溶液を、金と含有するアミノ基のモル比が1:0.1となるように添加し、ボルテックスミキサーで24時間攪拌した。攪拌終了後、2日間透析して余剰のPLL−g−PEG−1を除去した。得られたPLL−g−PEG−1が吸着した金ナノロッド(PLL−g−PEG−NRs−1)水分散液は、ゼータ電位が+17.5mVであり、処理前の分光特性から変化なく、PLL−g−PEG−1の吸着により金ナノロッドは安定に分散した(図2)。
【0034】
〔実施例2〕
PLL−g−PEG−NRs−1を、水、及び10%血清中で分散した状態で7日間保管し、波長890nmの吸光度の変化を確認した結果、顕著な変化は確認されず、水、及び血清中で安定に分散可能であった(図3(水)、図4(血清))。
【0035】
〔実施例3〕
PLL−g−PEG−NRs−1水分散液を、5000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離し、水、及びpH7.4のリン酸緩衝液(PBS)で再分散し、波長890nmの吸光度の変化を確認したところ、遠心分離操作前後で顕著な分光特性変化は確認されず安定に分散可能であった(図5)。
【0036】
〔実施例4〕
マウスから採血した血液中にPLL−g−PEG−NRs−1を分散し、室温に1時間静置した後、2000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離し血球細胞を除き、分光特性を測定した結果、顕著な変化は確認されず、血液中で安定に分散可能であった(図6)。
【0037】
〔実施例5〕
PLL−g−PEG−NRs−1水分散液を、3000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離し水に再分散した。得られたPLL−g−PEG−NRs−1水分散液に、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解したコハク酸無水物とトリエチルアミンをPLL−g−PEG−1の含有するアミノ基のモル数と同モル数になるようそれぞれ加え、2時間静置した。この溶液を3000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離して金ナノロッドを沈降させ、この上澄み液を除去することにより余剰のコハク酸無水物とトリエチルアミンを除去した。沈降した金ナノロッドは水で再分散させてゼータ電位を測定したところ、反応前の+17.5mVから−14.4mVに変化しており、PLL−g−PEG−NRs−1中のアミノ基とコハク酸無水物が反応して表面電荷が変化したことを確認した。
【0038】
〔実施例6〕
PLL−g−PEG−NRs−1水分散液を、3000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離し水に再分散した。得られたPLL−g−PEG−NRs−1水分散液に、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した無水酢酸とトリエチルアミンをPLL−g−PEG−1の含有するアミノ基のモル数と同モル数になるようそれぞれ加え、2時間静置した。この溶液を3000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離して金ナノロッドを沈降させ、この上澄み液を除去することにより余剰のコハク酸無水物とトリエチルアミンを除去した。沈降した金ナノロッドは水で再分散させてゼータ電位を測定したところ、反応前の+17.5mVから−11.4mVに変化しており、PLL−g−PEG−NRs−1中のアミノ基と無水酢酸が反応してアセチル化され、表面電荷が変化したことを確認した。
【0039】
〔参考例1〕
NRs水分散液にPLL−g−PEG−1水溶液を、金と含有するアミノ基のモル比が1:0.01となるように添加する以外は実施例1と同様にして、PLL−g−PEG−1が吸着した金ナノロッド(PLL−g−PEG−NRs−2)水分散液を得た。得られた水分散液は、処理前の分光特性から大きく変化し、金ナノロッドは安定に分散しなかった(図2)。得られたPLL−g−PEG−NRs−2を、水、及び10%血清中に7日間保管した結果、分光特性の変化が確認され、水、及び血清中で安定に分散しなかった(図3(水)、図4(血清))。
【0040】
〔参考例2〕
PLL−g−PEG−2を使用する以外は実施例1と同様にしてPLL−g−PEG−2が吸着した金ナノロッド(PLL−g−PEG−NRs−3)水分散液を得た。得られた水分散液は、ゼータ電位が+31.2mVであり、処理前の分光特性から変化なく、PLL−g−PEG−2の吸着により金ナノロッドは安定に分散した(図2)。また、PLL−g−PEG−NRs−3を、水、及び10%血清中で分散した状態で7日間保管し、波長890nmの吸光度の変化を確認した結果、顕著な変化は確認されず、水、及び血清中で安定に分散可能であった(図3(水)、図4(血清))。このPLL−g−PEG−NRs−3水分散液を5000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離し、水、及びpH7.4のPBSで再分散し、波長890nmの吸光度の変化を確認したところ変化が確認され、特にPBSに再分散した場合、顕著な変化が確認された(図5)。さらに、マウスから採血した血液中にPLL−g−PEG−NRs−3を分散し、室温に1時間静置した後、2000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離し血球細胞を除き、分光特性を測定した結果、吸光度の低下が確認され血液中で安定に分散しなかった(図6)。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】PLL−g−PEGの合成スキーム
【図2】実施例1、参考例1、2の分光特性
【図3】実施例2、参考例2の分光特性
【図4】実施例2、参考例2の分光特性
【図5】(a)実施例3の分光特性、(b)参考例2の分光特性
【図6】実施例4、参考例2の分光特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコールを側鎖にグラフトしたポリリジンが吸着していることを特徴とするロッド形状の金微粒子。
【請求項2】
数平均分子量500〜50000のポリエチレングリコールを側鎖にグラフトした数平均分子量1000〜300000のポリリジンが吸着していることを特徴とする請求項1に記載する金微粒子。
【請求項3】
ポリエチレングリコールのグラフト率が10〜50mol%のポリリジンが吸着していることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載する金微粒子。
【請求項4】
金1mmolに対しポリエチレングリコールを側鎖にグラフトしたポリリジンが含有するアミノ基のモル数として0.05mmol以上吸着していることを特徴とする請求項1〜3に記載する金微粒子。
【請求項5】
金微粒子を水中に分散した分散液のゼータ電位が+25mV以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載する金微粒子。
【請求項6】
長軸長さ400nm未満であってアスペクト比が1より大きく、局在表面プラズモン共鳴の最大吸収波長が700〜2000nmの範囲である請求項1〜5の何れかに記載する金微粒子。
【請求項7】
請求項1〜6に記載する金微粒子に吸着しているポリエチレングリコールを側鎖にグラフトしたポリリジンが含有するアミノ基に、コハク酸無水物を反応させてカルボキシル基を付加することを特徴とする金微粒子。
【請求項8】
請求項1〜6に記載する金微粒子に吸着しているポリエチレングリコールを側鎖にグラフトしたポリリジンが含有するアミノ基に、無水酢酸を反応させてアセチル基を付加することを特徴とする金微粒子。
【請求項9】
請求項1〜8の金微粒子をバイオマーカーとして使用した生体内の近赤外イメージング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−53111(P2010−53111A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222952(P2008−222952)
【出願日】平成20年8月30日(2008.8.30)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】