説明

金箔用接着剤、およびこの接着剤を使用した金箔貼付方法

【課題】有体物の基体外面への金箔の貼付作業によって、有体物の外観上の見栄えを向上させると共に、見栄えが長期にわたり維持されるようにする場合に、金箔の貼付作業が、より容易に、かつ、迅速にできるようにする。
【解決手段】仏像など有体物の基体外面に金箔を接着するための金箔用接着剤であって、接着剤が、アクリル樹脂を0.028〜0.36質量%と、ウレタン樹脂を0.016〜0.24質量%と、水を99.0〜99.95質量%とを含有する。金箔用接着剤3を使用して、基体2外面に金箔4を貼付する金箔用貼付方法であって、まず、基体2外面に接着剤3を塗布し、次に、基体2外面をその外方から覆うよう、基体2外面に金箔4を接近させて、基体2外面のうちの少なくとも一部外面2aに接着剤3により金箔4を接着し、次に、金箔押し作業により、金箔4を基体2外面に接着させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仏像などの基体外面に金箔を接着するために用いられるエマルジョンタイプの金箔用接着剤、およびこの接着剤を使用した金箔貼付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
仏像、仏具などの有体物については、この有体物の外観上の見栄えを向上させるためなどの理由で、その基体外面に金箔を貼付することが、古来より行なわれており、これには、下記特許文献1のようなものが提案されている。
【0003】
上記公報のものによれば、要するに、次のように記載されている。
【0004】
主剤は、ひまし油変性アルキッド樹脂、液状エポキシ樹脂、キシレン樹脂、テレピン油などの混合物である。上記テレピン油は、溶剤として用いられている。また、硬化剤は、ヘキサメチレンディイソシアネート系ポリイソシアネートに、メトキシブチルアセテートとキシレンを混合したものであり、上記主剤と硬化剤とは重量比で2:1に調合されて表面被覆剤とされている。
【0005】
そして、金箔付きの仏壇は、以下のように造られる。
【0006】
即ち、洗浄剤等を使って被着体表面が清浄化される。次に、上記主剤と硬化剤とが上記調合比率で配合されて表面被覆剤が得られ、所望濃度に希釈すべく、必要に応じてシンナーが加えられる。次いで、上記表面被覆剤が被着体の表面に綿、スプレー等で塗布される。すると、この塗布後、上記表面被覆剤は、20〜30分で金箔押しが可能なワニス皮膜にと変化する。そこで、上記表面被覆剤の塗布後、20分〜2時間(常温下)の間に、上記ワニス皮膜の上へ金箔押しを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平7−13278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近時、家庭における室内装飾品など、有体物の基体外面に金箔を貼付して、この有体物の見栄えの向上を手軽に図りたいとの要望がある。そして、この場合には、上記した金箔の貼付作業は熟練者以外の初心者でも、容易かつ迅速にできるようにすることが求められる。
【0009】
しかしながら、前記従来の技術における表面被覆剤といわれる接着剤は、含有成分についての構成が複雑であって手軽には入手困難である。また、これを所望濃度に希釈するため、必要に応じてシンナーを加えることが要求される。よって、このような接着剤を用いての上記貼付作業は、特に初心者にとって極めて煩雑である。
【0010】
また、前記従来の技術における金箔の貼付作業では、上記基体外面に接着剤を塗布した後、この接着剤が金箔押し可能なワニス皮膜に変化するまで20〜30分待つ必要がある。このため、上記貼付作業には長時間を要するおそれがある。
【0011】
しかも、上記したように、金箔押し作業が可能となるよう接着剤がワニス皮膜に変化してから、この接着剤に対し金箔押し作業をすることとなるが、上記接着剤がワニス皮膜に変化したか否かを正確に判断するためには、熟練を要することから、この点でも、上記金箔の貼付作業は煩雑となりがちである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、有体物の基体外面への金箔の貼付作業によって、この有体物の外観上の見栄えを向上させると共に、この見栄えが長期にわたり維持されるようにする場合に、この金箔の貼付作業が、より容易に、かつ、迅速にできるようにすることである。
【0013】
請求項1の発明は、仏像など有体物1の基体2外面に金箔4を接着するための金箔用接着剤3であって、
上記接着剤3が、アクリル樹脂を0.028〜0.36質量%と、ウレタン樹脂を0.016〜0.24質量%と、水を99.0〜99.95質量%とを含有することを特徴とする金箔用接着剤である。
【0014】
請求項2の発明は、上記接着剤3が、アクリル樹脂を0.035〜0.18質量%と、ウレタン樹脂を0.02〜0.12質量%とを含有することを特徴とする請求項1に記載の金箔用接着剤である。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1の金箔用接着剤3を使用して、上記基体2外面に金箔4を貼付する金箔用貼付方法であって、
まず、上記基体2外面に上記接着剤3を塗布し、
次に、上記基体2外面をその外方から覆うよう、この基体2外面に金箔4を接近させて、上記基体2外面のうちの少なくとも一部外面2aに上記接着剤3により金箔4を接着し、
次に、金箔押し作業により、上記金箔4を上記基体2外面に接着させるようにしたことを特徴とする金箔貼付方法である。
【0016】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明による効果は、次の如くである。
【0018】
請求項1の発明は、仏像など有体物の基体外面に金箔を接着するための金箔用接着剤であって、
上記接着剤が、アクリル樹脂を0.028〜0.36質量%と、ウレタン樹脂を0.016〜0.24質量%と、水を99.0〜99.95質量%とを含有している。
【0019】
このため、上記接着剤を上記基体外面に塗布したとき、この基体外面の各部に対し、上記接着剤は、ムラなく展開すると共に、その厚さが均一となるよう円滑に容易に、かつ、迅速に展開可能とされる。また、上記成分の接着剤によれば、水分の乾燥後、上記基体外面への金箔の接着力が十分に確保される。
【0020】
よって、上記基体外面に上記接着剤により金箔を接着させたとき、この金箔の外面が全体的にムラなく平滑に仕上ることとなり、この外面に良好な艶が得られることとなって、有体物の外観上の見栄えが向上する。また、上記基体外面に上記接着剤により金箔が強固に接着されて、有体物の見栄えが長期にわたり維持される。
【0021】
即ち、上記接着剤によれば、有体物の基体外面への金箔の貼付作業によって、この有体物の外観上の見栄えを向上させ、かつ、この見栄えを長期にわたり維持させようとする場合において、この金箔の貼付作業が、より容易に、かつ、迅速にできることとなる。
【0022】
また、上記接着剤は水性のものであるため、シンナーなどの溶剤を用いることに比べて、安価であると共に、初心者でも扱い易いという利点がある。
【0023】
請求項2の発明は、上記接着剤が、アクリル樹脂を0.035〜0.18質量%と、ウレタン樹脂を0.02〜0.12質量%とを含有している。
【0024】
このため、上記基体外面に接着剤により金箔を接着したとき、この金箔の外面が全体的に、よりムラなく平滑に仕上がることとなり、この外面に、より良好な艶が得られることとなって、有体物の外観上の見栄えが更に向上する。また、上記基体外面への接着剤による金箔の接着力が、より十分に確保されて、有体物の見栄えが、より長期にわたり維持される。
【0025】
請求項3の発明によれば、上記請求項1と同様の効果が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】有体物の基体外面への金箔の貼付方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の金箔用接着剤に関し、有体物の基体外面への金箔の貼付作業によって、この有体物の外観上の見栄えを向上させると共に、この見栄えが長期にわたり維持されるようにする場合に、この金箔の貼付作業が、より容易に、かつ、迅速にできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0028】
即ち、仏像など有体物の基体外面に金箔を接着するための金箔用接着剤であって、上記接着剤が、アクリル樹脂を0.028〜0.36質量%と、ウレタン樹脂を0.016〜0.24質量%と、水を99.0〜99.95質量%とを含有している。
【実施例】
【0029】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0030】
図1(c)において、符号1は、仏像、仏壇、仏具などの宗教用有体物である。なお、この有体物1は、家庭室内の置物のような装飾用のものであってもよい。
【0031】
上記有体物1は、木製、金属製、樹脂製、セラミックス製などの固形基体2と、この基体2の外面における被接着面に、エマルジョンタイプの接着剤3により貼付される金箔4とを備えている。上記接着剤3は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、これら各樹脂を乳化させるための界面活性剤、および水を主たる含有成分としている。
【0032】
上記の場合、アクリル樹脂は、特に基体2が樹脂製である場合に、より大きい接着力を発揮するが、一般的に、あらゆる材質のものに適用されて大きい接着力を発揮する。一方、ウレタン樹脂は、特に基体2が金属製である場合に、より大きい接着力を発揮する。
【0033】
ここで、下記「表1」のように、ポリウレタン樹脂製の平坦な表面における被接着面に、上記接着剤3により金箔4を接着させた場合の実験結果を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
上記「表1」中において、その数値は、接着剤3の各含有物質の質量%を示している。また、上記「表1」以外で、ほぼその残量を占める含有物質として、99.0〜99.95質量%の水が含有されている。
【0036】
また、「接着剤の展開状態」とは、被接着面に対し接着剤3を塗布して展開させたとき、この接着剤3の表面張力などによって、小さな水玉状や水溜り状のものができることにより、接着剤3の展開にムラが生じるか否かの状態を視覚により判断したものである。接着剤3がムラなく展開されておれば○、ムラが生じておれば×、その中間は△で示してある。
【0037】
また、「接着剤厚さの均一性」とは、被接着面に接着剤3を塗布して展開させたとき、その面方向の各部の厚さが均一か否かを視覚により判断したものである。接着剤3の厚さが均一であれば○、不均一であれば×、その中間であれば△で示してある。
【0038】
また、「接着力」とは、被接着面に接着剤3により金箔4を接着させ、その後、水分を蒸発させて接着剤3を自然乾燥させるために、1時間程度放置して手の触覚により判断したものである。接着力があれば○、不足すれば×、その中間は△で示してある。
【0039】
そして、上記実験結果において、「表1」中の「接着剤の展開状態」について見ると、実験番号7,8で示すように、アクリル樹脂が0.035〜0.045質量%や0.028〜0.036質量%であり、かつ、ウレタン樹脂が0.02〜0.03質量%や0.016〜0.024質量%である場合には、△であるが、実験番号9〜11で示すように、それら未満になると、×となる。
【0040】
また、「接着剤厚さの均一性」について見ると、実験番号1〜4で示すように、アクリル樹脂が0.28〜0.36質量%以上であり、かつ、ウレタン樹脂が0.16〜0.24質量%以上である場合には、×となる。
【0041】
また、「接着力」について見ると、実験番号8で示すように、アクリル樹脂が0.028〜0.036質量%であり、かつ、ウレタン樹脂が0.016〜0.024質量%である場合には、△であるが、実験番号9〜11で示すように、それら未満になると、×となる。
【0042】
このため、上記接着剤3は、実験番号4〜8に相当する範囲として、アクリル樹脂を0.028〜0.36質量%と、ウレタン樹脂を0.016〜0.24質量%と、界面活性剤を0.002〜0.05質量%と、水を99.0〜99.95質量%とを含有することが好ましい。また、これに加えて、動物性樹脂としてミルクカゼインを0.01〜0.2質量%と、植物性ワックスとしてカルナバワックスを0.01〜0.2質量%とを含有することが好ましい。
【0043】
そして、接着剤3に含有される上記アクリル樹脂とウレタン樹脂となどを、それぞれ上記した質量%の範囲にすれば、この接着剤3を上記基体2外面に塗布したとき、この基体2外面の各部に対し、上記接着剤3はムラなく展開すると共に、その厚さが均一となるよう円滑に容易に、かつ、迅速に展開可能とされる。また、上記成分の接着剤3によれば、水分の乾燥後、上記基体2外面への金箔4の接着力が十分に確保される。
【0044】
よって、上記基体2外面に上記接着剤3により金箔4を接着させたとき、この金箔4の外面が全体的にムラなく平滑に仕上ることとなり、この外面に良好な艶が得られることとなって、有体物1の外観上の見栄えが向上する。また、上記基体2外面に上記接着剤3により金箔4が強固に接着されて、有体物1の見栄えが長期にわたり維持される。
【0045】
即ち、上記接着剤3によれば、有体物1の基体2外面への金箔4の貼付作業によって、この有体物1の外観上の見栄えを向上させ、かつ、この見栄えを長期にわたり維持させようとする場合において、この金箔4の貼付作業が、より容易に、かつ、迅速にできることとなる。
【0046】
また、上記接着剤3は水性のものであるため、シンナーなどの溶剤を用いることに比べて、安価であると共に、初心者でも扱い易いという利点がある。
【0047】
なお、上記接着剤3は、実験番号5〜7に相当する範囲として、アクリル樹脂を0.035〜0.18質量%と、ウレタン樹脂を0.02〜0.12質量%と、水を99.0〜99.95質量%とを含有することが、より好ましく、また、これに加えて、ミルクカゼインを0.0125〜0.1質量%と、カルナバワックスを0.0125〜0.12質量%とを含有することが、より好ましい。
【0048】
上記のようにすれば、上記基体2外面に接着剤3により金箔4を接着したとき、この金箔4の外面が全体的に、よりムラなく平滑に仕上がることとなり、この外面に、より良好な艶が得られることとなって、有体物1の外観上の見栄えが更に向上する。また、上記基体2外面への接着剤3による金箔4の接着力が、より十分に確保されて、有体物1の見栄えが、より長期にわたり維持される。
【0049】
次に、上記接着剤3を使用して、上記基体2外面に金箔4を接着させることにより、この金箔4を基体2外面に貼付するための金箔4の貼付方法につき、説明する。
【0050】
図1(a)を参照して、まず、上記基体2外面を刷毛や布で払拭するなどして、この基体2外面を清浄にする。次に、基体2外面に上記接着剤3を刷毛7やスプレーで薄く塗布する。この場合、水の含有量が適正に確保されていることにより粘性が小さく抑制された接着剤3は、基体2外面の各部に均一厚さとなるよう円滑に容易に、かつ、迅速に展開させられる。そして、この塗布から数分間放置して水分を自然乾燥させる。
【0051】
次に、図1(b)を参照して、上記基体2外面をその外方から覆うよう、この基体2外面のうちの少なくとも一部外面2aに上記接着剤3により金箔4を接着させる。
【0052】
次に、図1(c)を参照して、綿など軟らかい可撓性塊体8により、上記金箔4の各部を上記基体2外面の各部に次々と押し付けるようにして金箔押し作業を行なう、これにより、上記金箔4を上記基体2外面の所望部位に全体的に接着させる。
【0053】
また、図示しないが、基体2外面に、金箔4を接着すべき他の所望部位があるならば、この他の所望部位に対しても上記と同様に他の金箔を接着させればよい。これにより、基体2外面への金箔4の貼付作業が終了する。
【0054】
なお、上記接着剤3を出荷したり、保存したりする場合には、例えば、接着剤3は、これに含有されるアクリル樹脂を14〜18質量%とし、ウレタン樹脂を8〜12質量%とし、界面活性剤を1.13〜2.49質量%として、高濃度の接着剤3にしておき、金箔4の貼付用としての接着剤3の使用に際し、この接着剤3を水で50〜500倍に、より好ましくは100〜400倍に希釈するようにしてもよい。
【0055】
また、上記接着剤3による基体2外面への金箔4の接着は、有体物1の部分的や全体的な補修を目的とするものであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 有体物
2 基体
2a 一部外面
3 接着剤
4 金箔
7 刷毛
8 塊体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仏像など有体物の基体外面に金箔を接着するための金箔用接着剤であって、
上記接着剤が、アクリル樹脂を0.028〜0.36質量%と、ウレタン樹脂を0.016〜0.24質量%と、水を99.0〜99.95質量%とを含有することを特徴とする金箔用接着剤。
【請求項2】
上記接着剤が、アクリル樹脂を0.035〜0.18質量%と、ウレタン樹脂を0.02〜0.12質量%とを含有することを特徴とする請求項1に記載の金箔用接着剤。
【請求項3】
請求項1の金箔用接着剤を使用して、上記基体外面に金箔を貼付する金箔用貼付方法であって、
まず、上記基体外面に上記接着剤を塗布し、
次に、上記基体外面をその外方から覆うよう、この基体外面に金箔を接近させて、上記基体外面のうちの少なくとも一部外面に上記接着剤により金箔を接着し、
次に、金箔押し作業により、上記金箔を上記基体外面に接着させるようにしたことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の金箔貼付方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−126764(P2012−126764A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276912(P2010−276912)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(508203725)株式会社メイクリーン (7)
【Fターム(参考)】