説明

釣用衣服

【課題】着用者の抵抗感を低減しつつ防水性を向上させうる釣用衣服の提供を課題としている。
【解決手段】衣服表面を構成する外布部材によって形成された伸縮部が備えられており、前記外布部材が弛みを持った状態に保形され、張力が加えられた際に前記弛みが解消されて伸展されることにより伸縮性が発揮される伸縮部が備えられている釣用衣服であって、前記伸縮部は、外布部材の一部の布材が他部の布材の裏面側に進入されて縫着された状態となるように形成されており、前記一部の布材が裏面側に膨出する形状に保形されるべく縫着されて前記弛みを持った状態に保形されており、しかも、前記弛みを伸展可能にすべく前記膨出している箇所よりも進入方向先端側で前記一部の布材が他部の布材に縫着されていることを特徴とする釣用衣服を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り用衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、衣服は着用者の体が動く方向に引っ張られることとなる。したがって、釣用衣服において、強度などの観点からその表面を構成する外布部材に非伸縮性のものを採用した場合には、着用者が釣りの動作を行うたびに衣服に張力が発生して釣り人に抵抗感を与えることとなる。
このことに対して非伸縮性の外布部材を採用しつつも伸縮自在な伸縮部を設けて着用者の動作に応じた伸縮性を付与すべく釣用衣服にプリーツ構造を形成させることが行われている(例えば、下記特許文献1)。
このプリーツは、通常、求められる伸縮方向と交差する方向に沿って外布部材の一部が所定の区間折り畳まれ、その両端部が折り畳まれた状態のまま縫着されて固定されることによって形成される。したがって、外布部材の一部の布材が重ね合せられた重合箇所がこの縫着箇所の間に形成され、自然状態においては、その両端部における縫着によってその間の箇所も外布部材が折り畳まれた状態で保形される。そして、この重合箇所に張力が与えられると折り畳まれた部分が容易に伸展されて折り畳まれる前の長さに復元されることから、このプリーツによって着用者に対する抵抗感を低減させることができる。
【0003】
ところで、釣用衣服は、釣り人が海水、河川水あるいは雨水などを被水した際に内側の着衣を濡らすことがないように防水性の向上が要望されており、表面を構成する外布部材には撥水性に優れた素材が採用されたりしている。
しかし、釣用衣服には、デザイン面や機能面から表面を構成する外布部材に用いる布材を切り替えることが広く行われており、素材自体の撥水性を向上させてもこの切り替え部における縫い目を通じて内部に水を浸入させるおそれを有している。
【0004】
このような縫い目からの水の浸入を防止するためにシームテープなどと呼ばれる防水テープによって縫い目を内側から目止めする方法が従来採用されているものの前記プリーツ構造を設けた場合には、このような目止め方法による水の浸入防止が十分に機能されないという問題を有しており十分な防水性を確保することが困難である。
【0005】
図9は、従来の釣用衣服に採用されているプリーツの断面構造を示す断面図であり、プリーツの端部において布材が折り畳まれて縫着されている様子を示すもので、この図を参照しつつプリーツにおける水の浸入について説明する。
この図9にも示されているように、通常、プリーツ101を形成する際には、外布部材の一部の布材102を折り返して3重構造を形成し、表面側(上側)の布材102aから裏面側(下側)の布材102bまで糸が縫い通されて縫着が行われる。
そして、裏面側に表れている縫い目に対して裏面側からシームテープ103による目止めが実施され、縫着に用いた糸104を伝って水分が表面側から裏面側に浸入することが防止されている。
このとき下側の布材102cの裏面側はシームテープ103によって目止めがされてはいるものの上側の布材102aと中間の布材102bとが折り重ねられている箇所においては上側の布材102aの裏面側に目止めがなされておらず、表面側から糸を伝って浸入した水分が、上側の布材102aと中間の布材102bとの間の隙間105に溜まることとなる。
このシームテープ103による目止めは、プリーツ101の両端部の縫着箇所にしか施されないことから、この隙間105に侵入した水は、プリーツの中央部分において容易に内部に侵入されることとなる。
【0006】
このようなことから従来の釣用衣服においては、着用者の抵抗感を低減しつつ防水性を向上させることが困難であるという問題を有している。
【0007】
【特許文献1】特開2000−14299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、着用者の抵抗感を低減しつつ防水性を向上させうる釣用衣服の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、衣服表面を構成する外布部材によって形成された伸縮部が備えられており、しかも、前記外布部材が弛みを持った状態に保形され、張力が加えられた際に前記弛みが解消されて伸展されることにより伸縮性が発揮される伸縮部が備えられている釣用衣服であって、前記伸縮部は、外布部材の一部の布材が他部の布材の裏面側に進入されて縫着された状態となるように形成されており、前記一部の布材が裏面側に膨出する形状に保形されるべく縫着されて前記弛みを持った状態に保形されており、しかも、前記弛みを伸展可能にすべく前記膨出している箇所よりも進入方向先端側で前記一部の布材が他部の布材に縫着されていることを特徴とする釣用衣服を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の釣用衣服は、外布部材が弛みを持った状態に保形され、張力が加えられた際に前記弛みが解消されて伸展されることにより伸縮性が発揮される伸縮部が備えられていることから、着用者の動作時に与える衣服の抵抗感を低減させることができる。
また、本発明においては、前記伸縮部が、外布部材の一部の布材が他部の布材の裏面側に進入されて縫着された状態となるように形成されており、前記一部の布材が裏面側に膨出する形状に保形されるべく縫着されて弛みを持った状態に保形されていることから、プリーツのように布材を折り畳んで縫着させることなく外布部材の一部に弛みを持たせることができ縫着部の裏面側をシームテープなどによって確実に目止めさせ得る。
すなわち、着用者の抵抗感を低減しつつ防水性を向上させうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本発明の釣用衣服であるレインブルゾンを示す前面図で、図2は、前記レインブルゾンの背面図、図3は、レインブルゾンを着用者が着用した様子を示す側面図である。
また、図4は、図3に示す着用状態から着用者が腕を持ち上げた様子を示す側面図である。
図1、及び図2に示すように、本実施形態のレインブルゾン1は、胴体及び肩の中央から首までの部分を被う胴部10に、肩から腕にかけた部分を被う袖部11が設けられて構成されている。
【0013】
なお、胴部10及び袖部11の表面(外側)を構成する外布部材に用いられている布材Xは、図5に示すように3層構造を有しており、外布部材の外側表面を構成する第一層L1がナイロン素材の織り布により形成され、該第一層L1に裏面側で接する第二層L2がポリテトラフオロレチレンとポリウレタンとが複合化された多孔質フィルムにより形成されている。さらに、この第二層L2の裏面側に配され、外布部材の内側表面(裏面)を構成する第三層L3がテトロン糸で編成されたニット布によって形成されている。
この布材Xは、第一層L1と第二層L2とがラミネート加工されて一体に構成されている一方で第三層L3は前記第二層L2を内側から覆っている状態であり第二層L2に接着されてはいない。
また、前記第一層L1が緊密に織られたナイロン織布である一方で、この第三層L3のメッシュ素材は繊維間に空隙を有しており、第二層L2をなすウレタンフィルムがこの空隙部を通じて裏面側から視認されるようにして布材Xに配されている。
【0014】
本実施形態のレインブルゾン1には、着用者の動作に応じた伸縮性を発揮させうるように、伸縮方向に伸縮可能な伸縮部が左右の体側部に2箇所ずつ、合計4箇所に設けられている。
この右体側部に設けられた2つの伸縮部22、23、左体側部に設けられた2つの伸縮部24、25の4つの伸縮部は、それぞれ大きさや形状を異ならせているものの基本的な構造は共通している。
この伸縮部の構造について、左体側部に設けられた2つの伸縮部24、25の内の上方側に設けられた伸縮部24を例に説明する。
【0015】
この伸縮部24は、レインブルゾン1の表面を構成する外布部材に前身側から背中側にかけてスリット状の開口24aを設け、このスリットを介して隣接する上側(襟側)の布材24bの裏面側に下側(裾側)の布材24cから連続して延びる輪郭形状横長矩形の布材24dを進入させてその先端縁ならびに両側縁を上側の布材24bに縫着させた状態に形成されている。
したがって、上側の布材24bとその裏側に進入された布材24dとが縫着された縫い目24eは、スリット状の開口24aの一端部から布材24dの進入方向(襟方向)に向けて所定長さ形成された後、略直角に曲がり上側の布材24bの下端縁と略平行に前記開口24aと略同一長さ形成され、さらに、スリット状の開口24aの他端部(裾方向)に向けて再び略直角に曲がる全体コの字状に形成されており、このコの字状の縫い目24eと上側の布材24bの下端縁とによって画成される横長矩形状の領域において上下(外側と内側と)に布材が重ね合わされた重合箇所を形成させている。
【0016】
前記スリット状の開口24aは、前身側から背中側に向けてやや上側に傾斜する方向に沿って延在されており、したがって、上側の布材24bと該布材24bの裏面側に進入している布材24dとが重合する重合箇所も前身側から背中側に向けてやや上側に傾斜する横長矩形状となってレインブルゾン1の左体側部に設けられている。
【0017】
この重合箇所において重なり合う布材の内、下側(内側)の布材24d(以下「内側布材24d」ともいう)は、この縫い目24eで囲われる領域において裏面側に膨出する立体形状を有している。
この内側布材24dの形状について、図6を参照しつつ説明する。
この図6のa)に示す図は、立体形状が形成される前の内側布材の裁断形状を表す斜視図であり、この立体形状が形成される前の布材31は、上面視略矩形で、先端側の輪郭線32がやや丸みを帯びた状態となるように裁断されており、両側縁部にそれぞれ1つの略V字状の切欠33(33’)が形成されている。
そして、この図6のa)に示す布材31が前記切欠33(33’)の一方の辺33a(33a’)と他方の辺33b(33b’)とが重合されてこの辺に沿った縫着ライン33L(33L’)で縫着されることにより、図6のb)に示すように、裏面側に膨出する内側布材が形成される。
そして、図6のc)に示すように、この膨出形状が形成された布材31の先端側ならびに両側縁、すなわち破線Dにて示すラインに沿って上側の布材24b(以下「外側布材24b」ともいう)に縫着されることにより、内側布材24dは裏面側に膨出する状態が保形されて外側布材24bに縫着されることとなり弛みを持った状態で外側布材24bに縫着される。
【0018】
伸縮部24が上下の布材をこのように縫着させて形成されることにより、この布材が重合する重合箇所に張力が加えられた際には、前記内側布材24dがその弛みを解消させて伸展されることから着用者の動作時における抵抗感を低減することができる。
すなわち、図4に示すように、腕を上げてレインブルゾン1の体側部に上下方向に張力を発生させた際には、この張力の方向に交差するように配された伸縮部24を構成する内側布材24dの弛みがこの張力によって解消され、スリット状の開口24aがそれ以前よりも広く開口して着用者に強い抵抗感を与えないように作用する。
このように作用する点に関しては、この伸縮部24の下側に設けられたもう一方の伸縮部25についても同様である。すなわち、この下方の伸縮部25を構成する内側布材25dがその弛みを解消すべく伸展して開口25aを拡張させるように作用する。
【0019】
なお、本実施形態のレインブルゾン1においては、この伸縮部24、25の内側布材24d、25dは、外側布材24b、25bの下端縁に相当する箇所において素材が切り替えられている。
この内側布材24d、25dよりも下側の箇所に配されている布材24c、25cと外側布材24b、25bとは、同一素材が用いられており、外布部材に用いられている外側布材24b、25b、内側布材24d、25d及び内側布材24d、25dの下側箇所を構成する布材24c、25cの内、内側布材24d、25dだけが異なる意匠を備えている。
このことによって伸縮部24、25は、その外見が一見モノトーンな状態でありながら、腕を上げるなどした際に、内側布材24d、25dの意匠が表出するように形成されておりレインブルゾン1の美観の向上にも寄与し得るように形成されている。
【0020】
このような布材の切り替えがなされて、着用者に対する抵抗感の低減のみならずレインブルゾン1の美観の向上が図られている点については、右体側部に設けられた伸縮部22、23も同様である。
【0021】
次いで、この伸縮部24における防水性について、図3における、A−A線断面を示す図7a)ならびにB−B線断面を示す図7b)を参照しつつ説明する。
なお、この図7a)、b)においては、外布部材の3層構造を詳細に図示することなく単純化して単層のものとして示している。
この伸縮部24においては、全ての縫い目に対して目止めがなされており、図6b)において切欠33、33’の辺を縫い合わせた縫着ライン33L、33L’も、図7a)にも示されているように、シームテープ41aによって目止めがされており、その縫い目全長にわたって目止めがされている。
また、この図7a)、b)にも示すように、内側布材24dの側縁部と外側布材24bとの縫い目に対してもシームテープ41bが裏面側から接着されて目止めがなされており、内側布材24dの進入方向先端側と外側布材24bとの縫い目もシームテープ41cによる目止めがなされている。さらには、内側布材24dとその下側の布材24cとの切り替え部における縫い目に対してもシームテープ41dによる目止めが行われている。
このシームテープは、内側布材24d、外側布材24b、及び切り替え部よりも下側の布材24cのそれぞれの布材の第二層をなす多孔質フィルムを加熱溶融させて第三層をなすメッシュ素材の繊維間の間隙から滲出させることにより接着されており、その略全面を第二層に接着させている。
【0022】
本実施形態の伸縮部は、内側布材を従来のプリーツ(図9参照)のように折り畳んで縫着することなく弛みを持たせることができることから、縫い目を伝った水の進入がシームテープによってより確実に防止されうる。
このように、本実施形態のレインブルゾンは、防水性に優れており、しかも、伸縮部において内側布材が裏面側に膨出する状態が保形され、弛みを持った状態で外側布材に縫着されていることから良好なる伸縮性を有している。
すなわち、本実施形態のレインブルゾンは、被水しやすく活動しやすさが求められている釣用衣服として好適なものである。
【0023】
なお、本実施形態においては、内側布材を裏面側に膨出した状態で外側布材に縫着させることを容易に実施させ得ることから、両側縁部にそれぞれ設けられた略V字状の切欠を縫着して立体形状を内側布材に形成させた後に外側布材に縫着させる場合を例示してレインブルゾンの説明を行ったが、このような態様以外の方法で内側布材を裏面側に膨出させた状態で外側布材に縫着させて内側布材に折り畳みを形成させずに防水性と伸縮性とを付与させる場合も本発明の意図する範囲である。
【0024】
また、本実施形態においては、レインブルゾンを例示して釣用衣服を説明しているが、本発明においては釣用衣服をレインブルゾンに限定するものではなく、例えば、図8(釣用ズボンの前面図)に示すように、膝部に相当する箇所に膝の折り曲げに対する伸縮性を付与すべく、左右一対の伸縮部26が設けられた釣用ズボン2も本発明の意図する範囲であり、この釣用ズボン2に設ける伸縮部26もレインブルゾン1において説明した伸縮部24と同様に構成することができる。
すなわち、外側布材26bの裏側に内側布材24dを進入させ、該内側布材24dを裏面側に膨出させた状態で外側布材26bに縫着することにより釣用ズボン2の伸縮部26を形成させ得る。
さらには、レインブルゾンやズボンのみならずベストなどの各種の衣服も本発明の意図する範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態の釣用衣服の前面図。
【図2】同実施形態の釣用衣服を示す背面図。
【図3】同実施形態の釣用衣服を示す側面図。
【図4】同実施形態の釣用衣服を示す側面図。
【図5】釣用衣服の外布部材を示す断面図。
【図6】a)〜c)釣用衣服の伸縮部の形成方法を示す斜視図。
【図7】a)図3のA−A線断面図、b)図3のB−B線断面図。
【図8】本発明の他実施形態の釣用衣服の前面図。
【図9】従来の釣用衣服に用いられているプリーツの構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0026】
1・・・レインブルゾン、2・・・釣用ズボン、22、23、24、25、26・・・伸縮部、24a、25a、26a・・・開口、24b、25b、26b・・・外側布材、24d、25d、26d・・・内側布材、24e、25e、26e・・・縫い目、33・・・切欠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服表面を構成する外布部材によって形成された伸縮部が備えられており、しかも、前記外布部材が弛みを持った状態に保形され、張力が加えられた際に前記弛みが解消されて伸展されることにより伸縮性が発揮される伸縮部が備えられている釣用衣服であって、
前記伸縮部は、外布部材の一部の布材が他部の布材の裏面側に進入されて縫着された状態となるように形成されており、前記一部の布材が裏面側に膨出する形状に保形されるべく縫着されて前記弛みを持った状態に保形されており、しかも、前記弛みを伸展可能にすべく前記膨出している箇所よりも進入方向先端側で前記一部の布材が他部の布材に縫着されていることを特徴とする釣用衣服。
【請求項2】
前記一部の布材が、裏面側に膨出する立体形状とされており、両側縁部にそれぞれ1以上設けられた略V字状の切欠が、その一方の辺と他方の辺とを重合させて縫着された状態となるように形成されて前記立体形状とされている請求項1記載の釣用衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−18902(P2010−18902A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179379(P2008−179379)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】