説明

鉄含有スラリ−及びそれを用いた有機ハロゲン化合物汚染物の無害化処理方法

【課題】土壌、焼却灰、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水中の有機ハロゲン化合物、特に難分解性のジクロロエタン(1,2−DCEt)、ジクロロメタン(DCM)等を短期間に環境基準以下まで分解し、有害な副生物を生成せずに無害化処理できる無害化処理剤及び無害化処理方法を提供する。
【解決手段】鉄、ニッケル及び鉄とニッケルの合金粒子を含んでなり、当該粒子の平均粒径が0.01〜10μmである鉄含有スラリーを用いる。当該鉄含有スラリーではニッケルの1〜75%が鉄と合金化していることが好ましい。当該鉄含有スラリーを用いた場合アルカリ性の有機ハロゲン化物の分解性能にも優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌、焼却灰、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水等を無害化するための無害化処理剤として用いる新規な鉄含有スラリー、及び当該鉄含有スラリーを用いた有機ハロゲン化合物の無害化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、TCE(トリクロロエチレン)、PCE(テトラクロロエチレン)、ジクロロメタン、PCB(ポリ塩化ビフェニル)及びダイオキシン類等の有機ハロゲン化合物による環境汚染問題が顕在化しており、それらに対する無害化用処理剤および無害化処理方法が検討されている。
【0003】
汚染排水、地下水等の処理方法としては、真空抽出や揚水曝気する物理的な方法が知られている。しかしこれらの方法では、地上への汚染物の引き上げ装置、さらに引き上げた前記汚染物の吸着設備、活性炭吸着剤の再生処理や発生廃棄物の処理が必要であり、高コストの処理方法であった。また、無害化処理には数年を要し、完全な無害化が困難であった。
【0004】
化学的な処理方法として、汚染土壌に鉄系処理剤を添加する方法が一般的となりつつある。例えば鉄粉を混合した連続浄化壁を形成する原位置処理法が知られている(例えば、特許文献1〜5)。しかし、従来の鉄粉では鉄粉表面が容易に酸化して浄化能力が低下し易く、無害化には長時間が必要となるという問題があった。鉄粉の酸化防止の為に親水性バインダ−、金属ハロゲン化物を添加し、さらに還元性水等の特殊懸濁液を用いる方法では、コスト高及び長期安定性に問題があった。また,地耐力維持としてセメント等と処理剤を同時及びまたはその前後に添加、混合する場合、セメントからのアルカリ成分の溶出により鉄粉の浄化効果が低下するという問題があった。
【0005】
一方、本発明者等は鉄とニッケルの部分合金粉末を用いた有機ハロゲン化物処理剤を提案している。しかし従来の処理剤では、難分解性のジクロロエタン(1,2−DCEt)、ジクロロメタン(DCM)の浄化性能はまだ十分でなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−321762号公報
【特許文献2】特開2001−038341号公報
【特許文献3】特開2001−198567号公報
【特許文献4】特開2006−249319号公報
【特許文献5】特開2004−57881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機ハロゲン化合物で汚染された土壌、焼却灰、産業廃棄物、汚泥、スラッジ、排水、地下水等に対する従来の無害化処理方法は、処理性能、経済性が十分ではなく、無害化に長期間を要し、特に難分解性のジクロロエタン(1,2−DCEt)、ジクロロメタン(DCM)の分解性能、或いはアルカリ性における有機ハロゲン化物の分解性能が低いという問題があった。そのため、難分解性の有機ハロゲン化合物で汚染された土壌等を無害化できる処理剤及び処理方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、有機ハロゲン化物の無害化処理に関して鋭意検討を重ねた結果、鉄とニッケルの部分合金を含む粒子(微粒子)スラリーでは、鉄単独又は鉄とニッケル以外の異種金属の合金に比べて難分解性の有機ハロゲン化物の分解性能が高いことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の鉄含有スラリーは、鉄、ニッケル及び鉄とニッケルの合金(部分合金)を含んでなり、それらの平均粒径が0.01〜10μmである鉄含有スラリーである。
【0011】
本発明の鉄含有スラリーの鉄粉の平均粒子径は0.01〜10μmの範囲である。平均粒子径が0.01μm未満では空気又は溶存酸素による酸化劣化が起こり、製造時間も長くなり生産性が悪くなる。平均粒子径が10μmを越えると、例えば土壌中に注入した際に均質分散が悪く、無害化効率が低下する。
【0012】
本発明における平均粒径は一般的な方法(例えばレーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置(マイクロトラック粒度分布計))で測定された累積50%値(d50)をいう。
【0013】
本発明の鉄含有スラリーは有機ハロゲン化合物を還元脱ハロゲン(塩素)化するものであるが、有機ハロゲン化合物を還元脱ハロゲン(塩素)化する反応は局部電池作用を利用するため、特に鉄粉とニッケルの間が還元作用点となる。ニッケルが鉄粉上に単に点在した状態(非合金化)では局部電池作用が弱く、部分合金化することにより初めて局部電池作用効果は増大し、かつ安定性を発揮することができる。浄化時に土壌中や地下水中において、鉄粉とニッケルが分離して還元作用低下を抑制する観点からも部分合金化が特に効果がある。
【0014】
鉄とニッケルの部分合金が添加ニッケルの全体の1%未満では鉄単独系と差が無く、また75%を越えて完全合金化すると局部電池作用は低下してしまう。鉄とニッケルの部分合金の部分合金化率としては5%以上、さらには20%以上がさらに好ましい。
【0015】
さらに本発明の鉄含有スラリーにおける部分合金の存在部位としては、合金部分が鉄粒子の表面全体を占めるものでなく、鉄含有スラリー粒子の表面において鉄、ニッケル、合金が夫々存在することが好ましい。粒子表面全体を合金が覆っていると、局部電池作用が起こり難く、有機ハロゲン化物の分解が起こり難いからである。
【0016】
部分合金は鉄含有スラリー粒子表面の一部、特に被覆が表面積全体の1〜75%の範囲であることが特に好ましい。
【0017】
部分合金化率はEPMA(電子線マイクロアナライザ−)やTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、鉄粉表面積に対する合金層(異種元素の拡散層の割合)面積より求めることができる。
【0018】
本発明の鉄含有スラリーは、さらに(110)面のX線回折ピ−クの半値幅が0.3°以上0.8°以下の結晶性を有する鉄粉を含んでなる鉄含有スラリ−が好ましい。半値幅が0.3°未満の結晶性を有する極めて結晶性の高い鉄粉、或いは半値幅が08°を超える結晶性が低い(結晶歪の大きすぎる)鉄粉では、分解活性が低下する。
【0019】
次に本発明の鉄含有スラリーの製造法について説明する。
【0020】
本発明の鉄含有スラリーはメカノケミカル法により部分合金化された粉末をさらに湿式粉砕により微粒子化したものであることが好ましい。メカノケミカル法は、例えば金属鉄粉とニッケル粉を湿式粉砕することにより鉄粉とニッケル粉を強烈な機械的せん断力により部分合金化でき、なおかつ鉄粉に最適な結晶性の歪を与えることができる。そのため、粉砕条件によってX線回折ピ−クの半値幅を0.3°以上0.8°以下の範囲とすることにより、結晶歪およびニッケルの部分合金拡散層による局部電池が形成され、還元脱塩素反応を促進できる。
【0021】
鉄粉原料としては純鉄の他に、鋼(例えば還元鉄粉)、鋳鉄、銑鉄等を用いることが出来る。粉末の形状は特に限定するものではなく、球形状、樹枝状、片状、針状、角状、積層状、ロッド状、板状,海綿状等が使用できる。鉄粉の粒径は、特に限定されないが、50〜300μm程度を有しているものが、好適に使用できる。
【0022】
ニッケル粉末としては純ニッケル粉末、工業用ニッケル粉末の他にフェロニッケル粉末等が含まれる。一般的に入手可能な工業用ニッケル粉末は10〜100μmの粒径を有しており、更には、1〜10μm程度の微粒ニッケル粉末も好適に使用可能である。
【0023】
メカノケミカル法(MA法)によって部分合金化された粉末は、さらに湿式粉砕によって微粒子スラリー化する。粉砕装置(湿式粉砕機、湿式分散機又は湿式混合機等)内に水を循環させるが、酸化を防止するため、窒素ガス等の不活性ガスでバブリングして用いることが好ましく、溶存酸素が1mg/L以下で使用する事がさらに好ましい。
【0024】
これら粉砕装置は、循環タンクの併用によるバッチ式、又は半連続式を用いることができる。加工時間は鉄含有スラリ−の循環量、加工装置内の線速及び固形物の目標平均粒径(d50)により決まる。例えば鉄含有スラリ−の循環量は1〜50L/分、加工装置内の粉砕媒体線速は粉砕媒体を攪拌する回転数と回転翼径により決まるが、線速が小さいと部分合金化が進まないため、線速として10m/秒以上が好ましい。
【0025】
一方、粉砕時間は30分〜10時間、特に1時間〜5時間が好ましい。
【0026】
また粉砕処理の間、鉄含有スラリ−への不活性ガスバブリング及び冷却することが好ましい。スラリ−の冷却には循環タンクの二重構造を利用した外部冷却等を用いることができる。
【0027】
本発明の鉄含有スラリーは有機ハロゲン化合物の無害化処理剤として用いるが、その使用条件にあわせて適宜pH調整剤、粘度調整剤、酸化防止剤と併用することができる。
【0028】
pH調整剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、セメント等が使用できる。pH範囲としては鉄の水酸化物が安定である7〜12が好ましく、無害化処理剤の酸化を抑制する事ができる。
【0029】
粘度調整剤を含むことにより、鉄含有スラリ−中の固形成分が輸送中、あるいは保存中に沈殿することが抑制され、汚染物質内の処理剤が均質分散する事ができる。粘度調整剤としてはPVA(ポリビニルアルコ−ル)、IPA(イソプロピルアルコ−ル)、グルコ−ス(単糖類)、スクロ−ス(2糖類)、プルラン、CMC(カルボキシルメチルセルロ−ス)、ポリアクリルアミド、メチルセルロ−ス、ナフタレンスルホン酸、ヒドロキシエチルセルロ−ス、セメント等を使用することができる。見かけ粘度としては1〜10000mPa・secが好ましく、1〜1000mPa・secが更に好ましい。粘度調整剤の添加量は無害化処理剤に対し0.01〜10重量%の添加が好ましい。
【0030】
酸化防止剤を含むことにより、鉄含有スラリ−中の固形成分、特に鉄成分の酸化を防止することができ、特に前記pH調整剤と併せて使用することが好ましい。酸化防止剤としては硫酸第一鉄、塩化第一鉄、亜硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸)、モルフォリン、ヒドラジン等が使用できる。添加量は無害化処理剤に対し0.01〜10重量%が好ましく、添加量が10重量%を越えても顕著な効果は認められない。
【0031】
本発明の鉄含有スラリ−の鉄合金を含む固形物濃度(スラリ−濃度)は1〜50重量%であることが好ましい。スラリ−濃度が1重量%未満では処理剤中の有効成分が少ないため無害化効率が低下し、そのため汚染物質への処理剤添加量が増加し、コスト高、地耐力(地盤がどの程度の荷重に耐えられるか、また、地盤の沈下に対して抵抗力がどのくらいあるかを示す指標のこと)低下が課題となる。一方、スラリ−濃度が50重量%を越えると粘度が増大し、製造及び処理工程が複雑となる。
【0032】
本発明の鉄含有スラリ−は有機ハロゲン化合物汚染物質に添加・混合、浸透又は注入することによって有機ハロゲン化合物を無害化処理することができる。
【0033】
例えば、有機ハロゲン化合物汚染物質が土壌である場合、掘削処理法と原位置処理法が例示できる。掘削処理法において、掘削した汚染土壌と鉄含有スラリ−を添加、混合する方法に制限は無いが、均一且つ、短時間に添加、混合することが望ましい。例えば、掘削した土壌をドラム型スクラバ−、改質ミキサ−、ニ−ダ−等によるバッチ混合処理する方法、振動型ミキサ、バイブロミキサ、バイブロエクスプローラ又はロッド内蔵型外部円振動式混練機、振動機能を備えた土壌改良機等による連続処理法、等も使用できる。
【0034】
原位置処理法では汚染土壌中に縦または横井戸を堀り、鉄含有スラリ−を高圧空気または高圧水等により注入・浸透させる処理法、汚染土壌に対し2重構造を有するドリル又はスクリュー等で地下に向かって掘り下げ時又は引き抜き時に鉄含有スラリ−を注入・混合する処理法、注入管により鉄含有スラリ−を汚染土壌の地下方向へ注入する処理法、等が例示できる。
【0035】
有機ハロゲン化合物汚染物質が地下水等である場合、揚水した汚染地下水または直接地下水域に鉄含有スラリ−を注入する処理法、汚染地下水周辺に連続的に井戸を掘削し、井戸に鉄含有スラリ−を充填する処理法(この際、井戸掘削時に発生した清浄な砂利、石、岩等をジョ−クラッシャ−等で粉砕し、鉄含有スラリ−と混合し井戸に埋め戻す方法)等が使用できる。
【0036】
本発明の無害化処理方法において、無害化処理する汚染物質は、有機ハロゲン化合物である。有機ハロゲン化合物の例としては、DCM(ジクロロメタン)、四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1−DCE、Cis−DCE、Trans−DCE(trans−1,2−ジクロロエチレン)、MC、1,1,2−トリクロロエタン、TCE、PCE、1,3−ジクロロプロペン等の有機塩素化合物、またはこれらの有機臭素系化合物等が挙げられるが、特に難分解性のジクロロエタン(1,2−DCEt)、ジクロロメタン(DCM)の分解性に優れるものである。
【0037】
本発明では、鉄含有スラリ−の添加量は、その分解活性及び経済性の観点から、汚染処理対象物に対して0.1〜20重量%、特に1〜5重量%であることが好ましい。鉄含有スラリ−の添加量が20重量%を越えると土壌の地耐力が低下し、土壌再利用の為に凝集剤等の添加処理が必要となる。
【0038】
本発明では、さらに地耐力維持としてセメントを同時添加、注入することが出来る。例えば無害化剤としてスラリ−剤や水溶液を添加することにより汚染土壌の地耐力低下が起きる場合に、その対策として本処理剤と共にセメントを汚染物質に対し0.1〜10重量%添加する事により被処理物の地耐力低下(軟弱化)を防ぐことができる。セメントとしてはポルトランドセメント、低アルカリセメント等を用いる事が出来る。本発明では、セメント注入によって処理物が、アルカリ性となっても有機ハロゲン化合物の分解処理能が低下せず、高い分解能が発揮される。
【発明の効果】
【0039】
本発明の無害化処理剤は、特に土壌、焼却灰、排水、廃棄物中の有機ハロゲン化合物の分解において、従来の工法を適用した場合にも高い分解速度、及び長期安定性を発揮し、特に難分解性のジクロロエタン、ジクロロメタンを短時間に浄化でき、またアルカリ雰囲気においても無害化に高い効果がある。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
実施例1
鉄粉原料(炭素含有量2.7%)及びニッケル粉末(鉄に対して0.3重量%)の全量500gをボールミルで混合後、アトライターミル(三井鉱山(株)製 DAYNAMICMILL、10mmφ粉砕ボール、3kg仕込み,2時間稼動)で部分合金化粉末を得た。
【0042】
次に湿式粉砕機(アシザワ・ファインテック製スタ−ミルLMZ−2)にジルコニアビ−ズ(0.5mm径)を充填後、併設する循環タンクから水5Lを循環した。循環タンク内の循環水を窒素ガスで脱気し、溶存酸素濃度が1mg/L以下を確認後、得られた部分合金化粉末を全量添加、pH調整として水酸化ナトリウムを添加(設定pH12)後、5時間かけて湿式粉砕して鉄含有スラリー(スラリー濃度10重量%)とした。
【0043】
鉄含有スラリー又は粉体の平均粒径、X線回折のFe(110)半値幅、BET比表面積、pHを表1に示す。鉄含有スラリ−のpHはガラス電極により測定した。
【0044】
比較例1
還元鉄粉(炭素含有量0.35%)を用い、アトライターミル処理をしない以外は実施例1と同様の条件でジルコニアビーズを用いて湿式粉砕機(アシザワ・ファインテック製スタ−ミルLMZ−2)にて処理し、ニッケルを含まない鉄と炭素の部分合金粉末を得、鉄含有スラリーとした。結果を表1に示す。
【0045】
比較例2
実施例1に使用した部分合金化粉末を湿式粉砕することなくそのまま水で希釈して鉄含有スラリーとした。結果を表1に示す。
【0046】
比較例3
比較例1で用いたものと同じ還元鉄粉(炭素含有量0.35%)をアトライターミル処理と湿式粉砕処理のいずれもせず、そのまま水で希釈して鉄含有スラリーとした。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

鉄含有スラリーの平均粒径はレーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置(マイクロトラック粒度分布計)で測定し、平均粒径は累積50%値(d50)を用いた。鉄含有スラリーの比表面積(BET表面積)、X線結晶回折の半値幅(0.04deg/stepにおける(110)面の半値幅)は、鉄粒子の酸化による影響を考慮し、鉄含有スラリー中の水分をエタノールで置換後、常温下で真空乾燥機にて乾燥後測定した。
【0048】
(難分解性有機ハロゲン化物の分解性能評価)
有機ハロゲン化物として、ジクロロエタン(1,2−DCEt)、ジクロロメタン(DCM)をそれぞれ10mg/L含む蒸留水(100ml)に内部標準としてメタノール/ベンゼン混合溶液を40μl添加し、鉄含有スラリー中の粒子固形分換算で1重量%添加し、室温(20℃)、160rpmで振とう処理した。処理後、JIS K0125に基づいてヘッドスペース法によりガスクロマトグラフを用いて有機ハロゲン化物の濃度を測定した。ガスクロマトグラフに用いたカラムは、揮発性有機塩素化合物分析にはUA−624W(フロンティアラボ製30m長、内径0.5mm、膜厚3μm)を用い、その他の炭化水素分析にはSILICAPLOT(CHROMPAC社製30m長、内径0.53mm、膜厚4μm)を使用した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

実施例1の鉄含有スラリーでは、難分解性であるDCM濃度について20日後、1,2−DCEt濃度は68日後には環境基準を達成した。分解生成物としてエチレン等が認められたが、基準項目の有機塩素系化合物は生成しなかった。また、図2に難分解性DCM及び1,2−DCEt濃度の経時変化を示す。
【0050】
比較例1では70日後においても難分解性であるDCM、1,2−DCEt濃度について環境基準をクリアできなかった。
【0051】
比較例2、3ではDCM、1,2−DCEt濃度は42日後も減少していなかった。
【0052】
本発明の鉄含有スラリーは、従来の部分合金、又はニッケルと部分合金化されていない鉄粉スラリーでは分解できない難分解性のDCM、1,2−DCEtを短期間で分解処理できた。
【0053】
(アルカリ雰囲気中での有機ハロゲン化物の分解性能評価)
フライアッシュセメントに純水を入れ、1時間振とう(10%スラリ−)した後、ろ過した水溶液(0.45μmメンブランフィルタ−でろ過)100mlにTCE(トリクロロエチレン)を10mg/L添加し、内部標準としてメタノール/ベンゼン混合溶液を40μl添加し混合溶解してpH10のアルカリ性TCE水溶液を得た。
【0054】
実施例1及び比較例3の鉄含有スラリーを固形分換算で1wt%添加し、室温(20℃)、160rpmで振とう処理した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】比較例2、3の鉄含有スラリーによる難分解性DCMの分解処理性能。
【図2】実施例1の鉄含有スラリーによる難分解性DCM及び1,2−DCEtの分解処理性能。
【図3】実施例1、比較例3の鉄含有スラリーによるアルカリ性トリクロロエチレンの分解処理性能。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、ニッケル及び鉄とニッケルの合金粒子を含んでなり、当該粒子の平均粒径が0.01〜10μmである鉄含有スラリー。
【請求項2】
鉄、ニッケル、及び鉄とニッケルの合金粒子を含んでなり、ニッケルの1〜75%が鉄と合金化している請求項1に記載の鉄含有スラリー。
【請求項3】
請求項1〜2に記載の鉄含有スラリーを有機ハロゲン化合物汚染物質に添加・混合、浸透又は注入することを特徴とする有機ハロゲン化合物汚染物の無害化処理方法。
【請求項4】
有機ハロゲン化合物がジクロロエタン及び/又はジクロロメタンを含んでなる請求項3に記載の無害化処理方法。
【請求項5】
有機ハロゲン化合物がアルカリ性の有機ハロゲン化合物を含んでなる請求項3〜4に記載の無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−301(P2010−301A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163476(P2008−163476)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】