説明

鉄系材料および鉄系材料の表面処理方法

【課題】表面から数百μm以下の浅く、組織は微細で、かつ組成の均一性が改善された合
金層を得る表面処理方法を提案することにある。
【解決手段】鉄系材料5の例としてFe−C鋼からなる鋼板5を用い、その表面に硬度向上材料と表面張力向上材料とからなる層4が形成され、層4の上方に設置された電子ビーム照射装置から電子ビーム3が層4に向かって同層の表面におけるエネルギー密度がエネルギー密度にして1.0×10W/m〜1.5×10W/m程度5×10W/mである
ように照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系材料および鉄系材料の表面処理法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の金型や金属部品は、熱的あるいは機械的な負荷がかかるので、従来から耐久性、耐摩耗性、硬度等の機械的特性の向上のためにそれらの表面を改質することが行われている。かかる表面改質の一手法として、改質対象となる材料の表面に適当な改質用材料を皮膜し、アーク、電子ビーム、あるいはレーザなどの高エネルギービームを照射することにより改質対象材料と改質用材料とを溶融凝固させ、改質対象材料よりも優れた機械的特性を持つ合金層を形成する技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、高合金化用元素を含有する金属または合金の粉末と後述の予備加熱処理でタールピッチ状物質となるアクリル系粘着性結合材などを混練、成形して作成したシートを、非酸化性雰囲気下、150〜380℃で5分間以上保持する予備加熱処理を施した後、金属部材表面の高合金化すべき部位に接着し、その後、前記高合金化すべき部位を、高エネルギー密度の加熱手段で局部加熱溶融して高合金化することを特徴とする金属表面の高合金化法、が提案されている。
【0004】
特許文献2には、金属母材表面の被合金化部位に目立て加工を施し、この目立ての凹部に金属または合金の粉末を供給し、レーザ光を照射して、目立ての凸部と目立ての凹部に供給した金属または合金の粉末とを共に溶融して合金化することを特徴とするレーザによる金属表面合金化法が提案されている。
【0005】
また、合金層の形成技術ではないが、特許文献3には上記特許文献1、2と類似の技術として、金属板を互いに突合わせ、該突合わせ部を加熱し、溶融池を形成して下向き溶接する金属材料の溶接方法において、前記金属板の突合わせ面間に、表面張力の温度依存性が正の表面活性元素、即ち所定値以上含むと温度上昇に連れて溶融池の表面張力が増加する表面活性元素を含有する物質からなるフィルムを配置し、前記突合わせ部と共に溶融させ、溶融池中の表面活性元素の濃度を前記所定値以上にして溶融池表面部の対流の方向を最高温度となる点へ向かう様にすることを特徴とする金属材料の溶接方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−045705号公報
【特許文献2】特公昭61−139682号公報
【特許文献3】特開平9−192831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、特許文献1に記載されているような熱源にアークを用いた処理法では、表面から深く溶融させることができ、厚い合金層を得ることができるが、熱源の性質上、表面から数百μm以下の薄い合金層を得ることは難しく、また冷却速度が遅いために微細な組織を持つ合金層を得ることができない点である。
【0008】
一方、特許文献2に記載されているような、熱源にレーザを用いた処理法や電子ビームを用いた処理法では、表面から数百μm以下の浅い領域のみを溶融させることができ、急冷することができるので、微細な組織を持つ合金層を得ることができる。しかし、急冷のために添加元素が十分に母材に攪拌されずに凝固し、合金層の組成に偏りが生じる問題がある。特許文献3は、上記の通り、金属材料の溶接方法に関する技術である。
【0009】
本発明は、上記の諸問題を解決するためになされたもので、表面から数百μm以下の浅く、その組織は微細でかつ組成の均一性が改善された合金層を有する鉄系材料および表面処理方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鉄系材料は、鉄を主成分とし、厚みが0.1μm〜500μmで硫黄含有量が0.015質量%以下の合金層を有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の表面処理方法は、鉄系材料の表面に上記鉄系材料の表面硬度を向上させる硬度向上材料と上記鉄系材料の溶融状態での表面張力を向上させる表面張力向上材料とが存在する状態下で、上記表面にエネルギー密度が5×10W/mm〜5×10W/mmのエネルギーを付与して上記硬度向上材料と表面張力向上材料と共に上記表面を加熱して上記表面を溶融し、鉄を主成分とする合金層を形成することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の他の表面処理方法は、鉄系材料の表面に上記鉄系材料の表面硬度を向上させる機能と上記鉄系材料の溶融状態での表面張力を向上させる表面張力向上機能とを有する両機能材料が存在する状態下で、上記表面にエネルギー密度が5×10W/mm〜5×10W/mmのエネルギーを付与して上記両機能材料と共に上記表面を加熱して上記表面を溶融し、鉄を主成分とする合金層を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
図5は、従来技術における金属の溶融池2内での対流1の様子を示すのもであって、マランゴニ対流が知られている。これは、溶融池2内の表面張力の勾配によって発生する。表面張力は、一般の鋼材では温度依存性が負、つまり温度の上昇とともに表面張力が小さくなる。このため、従来技術における溶融池2内では図5に示すように表面では溶融池中心から周辺への対流1が生じる。
【0014】
これに対して、本発明においては硫黄などの表面張力向上材料を使用するので、図4に基づいて後記するように、図5とは逆方向の対流1が生じて組成に偏りのない均一な合金層が鉄系材料の表面に形成され、かくして当該鉄系材料の機械的特性が改善される。
【0015】
なお、通常の金属精製過程での脱硫行程において、金属内に0.05質量%程度以上の硫黄が固溶すると、硫黄の偏析や硫黄化合物などが生じて金属の信頼性が低下する。このため、従来から溶融処理法の過程に硫黄を混入させることは避けられてきた。しかし、本発明では熱原にレーザや電子ビーム等の高密度エネルギービームを適切な条件、即ちエネルギー密度が5×10W/mm〜5×10W/mmの条件下で用いることにより溶融時に硫黄が多少存在しても、硫黄の沸点は450℃付近と一般の金属の融点に比べ大幅に低いので、大部分は気化し凝固後の改質層にはほとんど含まれない。
【0016】
また、熱源にレーザや電子ビームを上記表面に上記のエネルギー密度範囲で付与して用いるために溶融層を浅くすることができ、大きな冷却速度が得られるため、微細な合金層が得られる。また、レーザや電子ビーム等の高密度エネルギービームを上記の適切な条件にて用いることにより、硫黄などの表面張力向上材料の働きを損なうことなく溶融池内に硬度向上材料を攪拌させる対流を生じ、組成に偏りのない、均一で含有する硫黄などの表面張力向上材料が0.015質量%以下である合金層が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1〜7の説明図である。
【図2】本発明の実施例8の説明図である
【図3】本発明の実施例10の説明図である。
【図4】本発明における溶融池内での対流の様子の説明図である。
【図5】従来技術における溶融池内での対流の様子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜図4は、本発明の表面処理法を説明するものであって、それらの図において、鉄系材料の例として厚さ1mm〜5mm程度の各種の鋼からなる鋼板5が用いられ、当該鋼板5の表面に、前記した硬度向上材料と表面張力向上材料とからなる層4(図1)または層6(図2および図3)が形成され、層4または層6の上方に設置された電子ビーム照射装置(図示せず)から電子ビーム3が層4または層6に向かって照射される。層4は、硬度向上材料と表面張力向上材料との単なる物理的混合物からなり、層6は当該両材料を予め通常の融解・凝固方法にて固溶体または金属間化合物などとして合金化し、薄膜状に加工したものであって鋼板5の被加工面上に密着される。当該薄膜の厚みは、溶融池が鋼板5に至るように薄膜であることが好ましく、例えば300μm程度またはそれ以下であることが好ましい。
【0019】
図4は、本発明における溶融池内での溶融物の対流の状態を示す断面図である。本発明においては硫黄などの表面張力向上材料を使用するので、表面張力の温度依存性が正、つまり温度の上昇とともに表面張力が大きくなる。このため、図4に示すように溶融池内では、表面では周辺から溶融池中心に向かう対流が生じる。この結果、照射前に表面に施与した硬度向上材料や表面張力向上材料が対流により溶融池内へと巻き込まれ、溶融した鉄系材料と良好に攪拌されて凝固し、組成に偏りのない均一な合金層が鉄系材料の表面に形成され、かくして当該鉄系材料の機械的特性が改善される。
【0020】
本発明における上記鉄系材料としては、各種の鉄鉱石を還元して得られる各種の鉄および当該鉄から得られる鋼、例えばフェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、オーステナイト系ステンレスなどである。当該鉄系材料の上記硬度、耐錆性向上材料としては、Cr、B、N、Ni、Si、Ti、Mo、Wなど、またはそれらの各化合物であって、本発明ではそれらから選ばれた少なくとも一種または二種以上が用いられる。上記各化合物としては、Cr、B、N、Ni、Si、Ti、Mo、W の各窒化物、あるいは各硫酸塩、各塩酸塩、各硝酸塩、各酢酸塩などの酸塩類などである。またBとNとは、窒化硼素(BN)として、就中50nm以下の微粉末として用いると、その場合には硼素と窒素とが合金層に均一に分散し、当該両者が上記鉄系材料の靭性や硬度をさらに増加させる効果がある。上記硬度向上材料として特に好ましいものは、B、N、Mo、Wなど、またはそれらの各化合物である。
【0021】
本発明における上記表面張力向上材料としては、S、Te、Se、O、Sn、Yなど、またはそれらの各化合物であって、本発明ではそれらから選ばれた少なくとも一種または二種以上が用いられる。SおよびOは、Sガス、酸素ガス、あるいは亜硫酸ガスとして使用してもよい。前記の両機能材料としては、Cr、B、N、Ni、Si、P、Ti、Mo、Wの各硫化物や酸化物が例示される。またTe、Se、Sn、Yは、各硫化物、各酸化物、各硫酸塩、各塩酸塩、各硝酸塩、各酢酸塩などとして使用してよい。
【0022】
上記硬度向上材料、上記表面張力向上材料および上記両機能材料のうち、後記するエネルギー付与の際に固体のもの、特に上記硬度向上材料は、その平均粒径が10μm以下のもの、特に0.5μm〜2μmの径範囲内のものが好ましい。なお本発明における各種粒子の平均粒径は、何れもレーザ回折式粒度分布測定から得たものであって、測定した粒度分布において、粒径の小さい方からの積算体積が50%に達した際の粒子径(D50)とする。また、粒子分布は測定した粒度分布において、粒径の小さい方からの積算体積が10%に達した際の粒子径(D10)が、D50の1/10以上で、粒径の小さい方からの積算体積が90%に達した際の粒子径(D90)がD50の10倍以下であればよいとする。
【0023】
後記するエネルギー付与の際に上記鉄系材料の表面の改質に寄与する限り、粉体あるいは粒体の状態で使用しても良いが、水や有機液体に分散させてペースト状として用いると、上記諸材料の鉄系材料の表面への施与が容易で且つ確実となり、その結果、鉄系材料の改質効果が安定するので好ましい。上記の有機液体としては、リグロイン、石油ベンジン、ガソリンなどの石油系類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、イソプロピルアルコール、ノルマルヘキサンなどのその他の有機液体類などである。なお上記ペースト状物の代えてスプレーにて塗布してもよい。なおSおよびOの供給は、気体状態で後記するエネルギー付与室内に存在せしめることでもよい。
【0024】
上記のペースト状のもの、もしくは上記スプレーに塗布する際の塗布する厚みは、大きすぎると溶融池が鋼板5に至らないので300μm以下、例えば10μm〜200μm程度が望ましい。かかる塗布後、室温または鋼板5に変態がおきない程度の温度にて乾燥させ、有機溶剤を蒸発させる。当該温度は、鋼板5の組成によって多少変化するが、一般的には450℃〜600℃程度であって、例えばフェライト系ステンレスでは500℃〜550℃、マルテンサイト系ステンレスでは450℃〜500℃、オーステナイト系ステンレスでは500℃〜600℃である。
【0025】
その後、電子ビームを照射し、添加元素と母材を溶融させる。ビームの照射は大きな冷却速度を得るため、表層から500μm以下の溶融層が望ましく、硫黄の気化による除去のことを考えると、電子ビームの照射条件は加速電圧20〜40keVであり、鋼板5の表面におけるエネルギー密度が5×10W/mm〜5×10W/mmであることが望ましい。なお、合金層に固溶する元素の成分比率は塗布量とビームエネルギーを調節することで変えることができる。
【0026】
このように、本発明では急冷により微細な組織を持ち、硫黄などの働きにより溶融池内に添加元素を攪拌させる対流を生じ、組成に偏りのない、均一な合金層を形成することができる。また、有機溶剤によってペースト状にし、塗布するため、複雑な形状であっても合金層を得ることができる。
【0027】
上記した各材料の施与量は、施与後の上記鉄系材料の質量%が、硬度向上材料では一般的に0.01〜20質量%好ましくは、Cr、Niであれば5〜20質量%、N、Si、Ti、Mo、Wであれば0.1〜5質量%、Bであれば0.01〜2質量%であり、上記表面張力向上材料のうちで施与時における温度において液体または固体のもので一般的に0.005〜1質量%好ましくは0.01〜0.5質量%であり、上記両機能材料は上記硬度向上材料と上記表面張力向上材料の各施与量に対応する量である。なお上記表面張力向上材料がSおよびOのようなエネルギー付与時の高温度では気体の場合は、それらはエネルギー付与室内の気層中に存在せしめられるが、その際の存在せしめられる量は、後記するエネルギー付与強度と付与時間の条件に基づいて気層中から上記鉄系材料の表面に形成される層4中または層6中に移行可能な量であって、例えば亜硫酸ガスを使用する場合は、亜硫酸ガスを1〜2容量%程度含有する大気や窒素などを用い、それらを図3に示すようにガスノズル7から層6に向けて供給するとよい。
【0028】
上記各材料が施与された後、上記表面にエネルギーを付与する。その際の施与エネルギーが過大であると上記硬度向上材料の完全蒸散の問題があり、当該エネルギーが過少であると上記鉄系材料の不溶融の問題がある。よって本発明では、エネルギー密度にして5×10W/mm〜5×10W/mm程度、好ましくは1×10W/mm〜5×10W/mm程度、特に1×10W/mm〜8×10W/mm程度のエネルギーを付与し、上記硬度向上材料と表面張力向上材料を溶融させて合金層を形成する。上記のエネルギー付与方法としては特に制限はなく、例えばアーク、レーザ、電子ビームなどによる照射が例示される。以下、実施例により本発明を一層詳細に説明する
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明の実施例1における表面処理法を説明するものである。図1において、鉄系材料5例として厚さ3mmのFe−C鋼からなる鋼板5が用いられた。当該鋼板5の表面に、前記した硬度向上材料と表面張力向上材料との混合物からなる層4が形成され、層4の上方に設置された電子ビーム照射装置(図示せず)から電子ビーム3が層4に向かって照射された。硬度向上材料および表面張力向上材料として、平均粒径0.5μmの二硫化モリブデンが用いられ、ノルマルヘキサンと均一に混合してペースト状とされ、得られたペースト状物を用いて厚さ約20μmの層4が形成され、電子ビーム3が層4に向かって層4の表面におけるエネルギー密度が5×10W/mmであるように、且つ1分にわたり照射された。
【0030】
上記の電子ビーム照射により、鋼板5の表面に上記層4の材料と鋼板5からの鉄とから形成された平均厚さが50μmの合金層が形成された。また、当該合金層についてEPMAの方法で測定した硫黄含有量は0.01質量%以下であって、実施例1から得られた上記合金層を有する鋼板5は、微小ビッカース硬さ試験の方法(以下同様)で評価した表面硬度は380HVであって、改質前のそれと比較して120%の程度に改善されていた。
【実施例2】
【0031】
平均粒径0.5μmの二硫化モリブデンに代えて、平均粒径0.05μmの二硫化モリブデンを用いた以外は実施例1と同様の方法、条件にて表面が改質された鋼板5を得た。当該鋼板5の表面硬度は、400HVであった。
【実施例3】
【0032】
硬度向上材料として、平均粒径0.5μmの二硫化モリブデン50質量%と平均粒径0.4μmの窒化硼素50質量%との混合物であり、当該混合物の平均粒径が45nmであるものを用いた以外は上記実施例3と同様にして鋼板5を得た。得られた鋼板5は、耐磨耗性、硬度がそれぞれ200%向上、400HVであった。かかる性能向上は、硼素と窒素とが合金層に均一に分散し、当該両者が鋼板5の靭性、硬度をさらに増加させたことに基づく。
【実施例4】
【0033】
硬度向上材料として、平均粒径0.5μmの二硫化モリブデン50質量%と平均粒径1.5μmの窒化硼素50質量%との混合物であり、当該混合物の平均粒径が1μmであるものを用いた以外は上記実施例4と同様にして鋼板5を得た。得られた鋼板5は、耐磨耗性、硬度がそれぞれ200%向上、430HVであった。かかる性能向上は、実施例3の場合と同様である。
【実施例5】
【0034】
実施例5では、前記実施例1〜4における硬度向上材料と表面張力向上材料との単なる物理的混合物を塗布する代わりに、図2に示すように、硬度向上材料と表面張力向上材料との両機能材料6を用意し、それを100μm〜200μm程度に薄膜化し、層5の表面に密着させた。その際、表面張力向上材として硫黄を採用した場合には合金材中における硫黄濃度は0.01質量%以上、即ち0.01質量%〜0.1質量%となるようにした。その状態で電子ビームを照射し、合金薄膜と層5を溶融させた。実施例5では、急冷により微細な組織を持ち、硫黄などの作用により、図4に示す対流1が生じて合金薄膜と層5の表面部分が攪拌され、かくして組成に偏りのない、均一な合金層を形成することができた。また、合金薄膜を用いるために実施例1などにおけるような乾燥時間を必要としない利点もある。
【実施例6】
【0035】
実施例5とは、熱源として電子ビームに代えてレーザを用いた点においてのみ異なる合金層の形成を行った。
【実施例7】
【0036】
実施例7では、実施例5とは、図3に示すように表面張力向上材料として亜硫酸ガス8をガスノズル7から層6に向けて供給したことにおいて異なり、この実施の形態7では、急冷により、微細な組織を持ち、硫黄の働きにより、図4に示す対流1が生じ、合金薄膜と母材が攪拌され、組成に偏りのない、均一な合金層を形成することができる。なお、合金薄膜には硫黄を含んでいる必要がなく、既成の材料を利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、機械的強度の改善された鋼材などの鉄系材料の製造に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0038】
1:溶融池の対流
2:溶融池
3:ビーム
4:硬度向上材料と表面張力向上材料との物理的混合物層
5:鋼板
6:硬度向上材料と表面張力向上材料と合金化物層
7:ガスノズル
8:亜硫酸ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面上に、鉄を主成分とし厚みが0.1μm〜500μmで硫黄含有量が0.015質量%以下の合金層を有することを特徴とする鉄系材料。
【請求項2】
上記合金層は、Cr、B、N、Ni、Si、Ti、Mo、Wからなる群から選ばれた少なくとも1種を少なくとも0.1質量%、ただしBの場合は少なくとも0.001質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の鉄系材料。
【請求項3】
鉄系材料の表面に上記鉄系材料の表面硬度を向上させる硬度向上材料または防錆性を向上させる耐錆性向上材と上記鉄系材料の溶融状態での表面張力を向上させる表面張力向上材料とが存在する状態下で、上記表面にエネルギー密度が5×10W/mm〜5×10W/mmのエネルギーを付与して上記硬度向上材料と表面張力向上材料と共に上記表面を加熱して上記表面を溶融し、鉄を主成分とする合金層を形成することを特徴とする鉄系材料の表面処理方法。
【請求項4】
上記硬度向上材料は、Cr、B、N、Ni、Si、Ti、Mo、Wからなる群から選ばれた少なくとも1種またはその化合物であり、上記表面張力向上材料はS、Te、Se、O、Sn、Yからなる群から選ばれた少なくとも1種またはその化合物であることを特徴とする請求項3に記載の鉄系材料の表面処理方法。
【請求項5】
上記硬度向上材料は、窒化硼素、二硫化モリブデン、二硫化タングステンからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項3または4に記載の鉄系材料の表面処理方法。
【請求項6】
上記硬度向上材料は、Cr、B、N、Ni、Si、Ti、Mo、Wからなる群から選ばれた少なくとも1種またはその化合物と窒化硼素とを含むことを特徴とする請求項3または4に記載の鉄系材料の表面処理方法。
【請求項7】
上記表面張力向上材料として気体のSまたは気体のS化合物を用い、上記気体のSまたは気体のS化合物中で上記のエネルギー付与を行うことを特徴とする請求項3〜6の何れか一項に記載の鉄系材料の表面処理方法。
【請求項8】
鉄系材料の表面に上記鉄系材料の表面硬度を向上させる機能と上記鉄系材料の溶融状態での表面張力を向上させる表面張力向上機能とを有する両機能材料が存在する状態下で、上記表面にエネルギー密度が5×10W/mm〜5×10W/mmのエネルギーを付与して上記両機能材料と共に上記表面を加熱して上記表面を溶融し、鉄を主成分とする合金層を形成することを特徴とする鉄系材料の表面処理方法。
【請求項9】
上記表面張力向上材料と上記表面張力向上材料との混合物、または上記両機能材料は、予め合金化および膜状とされて上記鉄系材料の表面に供給されることを特徴とする請求項8に記載の鉄系材料の表面処理方法。
【請求項10】
上記両機能材料は、Cr、B、N、Ni、Si、Ti、Mo、Wからなる群から選ばれた少なくとも1種の硫化物あるいは酸化物であることを特徴とする請求項9に記載の鉄系材料の表面処理方法。
【請求項11】
上記エネルギーは、電子ビームまたはレーザであることを特徴とする請求項3〜請求項10の何れか一項に記載の鉄系材料の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−185098(P2010−185098A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28675(P2009−28675)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】