説明

鉄道架線設備の状態監視システム

【課題】鉄道架線設備に発生した異常箇所を確実に検知することができる鉄道架線設備の状態監視システムを提供する。
【解決手段】鉄道架線設備を撮像するカメラ3及び正常時の鉄道架線設備のデータを搭載している先行列車と、正常時の鉄道架線設備のデータを搭載している後行列車と、先行列車のカメラで撮像された画像を取り込み、この画像を処理するデータ処理部14と、画像処理後、データを蓄積するデータ蓄積部15と、画像処理されたデータと正常時の鉄道架線設備のデータとを比較し、異常の有無を検知された鉄道架線設備の異常検知箇所の詳細な調査を行うか否かを判断し、より詳細な調査が必要であると判定された場合、後行列車へ前記鉄道架線設備の異常検知箇所の詳細な調査指令を送信する無線送受信装置18とを備え、調査指令に基づいて異常検知箇所の詳細な調査を後行列車において行い、鉄道架線設備の異常発生箇所を確定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に搭載したカメラの画像処理による鉄道架線設備の状態監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道における架線設備の状態監視は、架線の高さ、離隔距離などの測定データを検測車により測定し、その測定データを一行程終了ごとに各保守担当部署に送付して異常の有無を確認するようにしている(下記特許文献1参照)。このような測定データによる架線の状態監視では、鉄道架線設備の具体的な異常箇所を判断することができないため、徒歩による巡回により異常部位や位置を確認するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−223474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したような従来の鉄道架線設備の異常検出方法は、測定データの確認から異常箇所の確定までに時間を要するとともに、それに従事する人員を必要とするといった問題があった。
本発明は、上記状況に鑑みて、車上において画像処理を行い、通信技術によって他列車との連携を図ることにより、鉄道架線設備に発生した異常箇所を確実に確定することができる鉄道架線設備の状態監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕鉄道架線設備の状態監視システムにおいて、鉄道架線設備を撮像するカメラ及び正常時の鉄道架線設備のデータを搭載している先行列車と、前記鉄道架線設備を撮像するカメラ及び正常時の鉄道架線設備のデータを搭載している後行列車と、前記先行列車のカメラで撮像された鉄道架線設備の画像を取り込み、画像を処理する画像処理手段と、この画像処理手段による画像処理後、データを蓄積するデータ蓄積手段と、前記画像処理されたデータと前記正常時の鉄道架線設備のデータとを比較し、異常の有無を検知するデータ比較手段と、このデータ比較手段によって検知された鉄道架線設備の異常検知箇所の詳細な調査を行うか否かを判断する判定手段と、この判定手段により詳細な調査が必要であると判定された場合、前記後行列車へ前記鉄道架線設備の異常検知箇所の詳細な調査指令を送信する無線送受信手段とを備え、前記調査指令に基づいて前記鉄道架線設備の異常検知箇所の詳細な調査を前記後行列車において行い、前記鉄道架線設備の異常発生箇所を確定するようにしたことを特徴とする。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載の鉄道架線設備の状態監視システムにおいて、前記架線設備の異常発生箇所が確定された場合には、前記後行列車から各保守担当部署へ異常箇所データを自動配信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、先行列車において画像処理を行い、通信技術によって後行列車との連携を図ることにより、鉄道架線設備の異常発生位置や部位を早急にしかも確実に確定することができる。
また、架線設備の異常発生位置や部位情報を後行列車で確定した場合には、各保守担当部署へ異常箇所データを自動配信して、架線設備の異常発生位置や部位の復旧に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例を示す鉄道架線設備の状態監視システムのカメラによるデータ取得状況を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す鉄道架線設備の状態監視システムのブロック図である。
【図3】本発明に係る鉄道架線設備の詳細説明図である。
【図4】本発明に係る鉄道架線設備の異常事例を示す図である。
【図5】本発明の実施例を示す鉄道架線設備の状態監視システムの動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の鉄道架線設備の状態監視システムは、鉄道架線設備を撮像するカメラ及び正常時の鉄道架線設備のデータを搭載している先行列車と、前記鉄道架線設備を撮像するカメラ及び正常時の鉄道架線設備のデータを搭載している後行列車と、前記先行する列車のカメラで撮像された鉄道架線設備の画像を取り込み、この画像を処理する画像処理手段と、この画像処理手段による画像処理後、データを蓄積するデータ蓄積手段と、前記画像処理されたデータと前記正常時の鉄道架線設備のデータとを比較し、異常の有無を検知するデータ比較手段と、このデータ比較手段によって検知された鉄道架線設備の異常検知箇所の詳細な調査を行うか否かを判断する判定手段と、この判定手段により詳細な調査が必要であると判定された場合、前記後行列車へ前記鉄道架線設備の異常箇所の詳細な調査指令を送信する無線送受信手段とを備え、前記調査指令に基づいて前記鉄道架線設備の異常検知箇所の詳細な調査を前記後行列車において行い、前記鉄道架線設備の異常発生箇所を確定するようにした。
【実施例】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す鉄道架線設備の状態監視システムのカメラによるデータ取得状況を示す模式図、図2はその鉄道架線設備の状態監視システムのブロック図である。
図1において、1は線路、2は先行列車(知能列車ともいう)であり、この先行列車2はカメラ画像を処理して架線設備の異常を検出し、それを後行列車(知能列車ともいう)19へ通信するための制御処理装置10を備えている。3はこの列車2に搭載されるカメラ、4はパンタグラフ、5は支持柱、6は架線設備である。制御処理装置10は、図2に示すように、入力インタフェース11、中央処理装置12、データ記憶部13、データ処理部14、データ蓄積部15、データ比較部16、判定部17、無線送受信装置18を備えている。19は後行列車(知能列車)であり、先行列車2と同様、架線設備を撮像するカメラ及び正常時の架線設備のデータを搭載している。20は架線設備の異常位置や部位などの異常箇所データが後行列車19から配信される保守担当部署である。
【0011】
図3は本発明に係る鉄道架線設備の詳細説明図、図4はその鉄道架線設備の異常事例を示す図である。
図3において、21は鉄柱、22はき電線、23はき電分岐線、24はトロリ線、25はちょう架線、26はハンガ、27は曲線引金具、28は高圧配電線である。
図4にはちょう架線25のハンガ26からトロリ線24が外れている鉄道架線設備の異常事例を示している。
【0012】
なお、鉄道架線設備の異常事例は、ここに示したトロリ線の外れに限定されるものではなく、ちょう架線、曲線引金具、き電線、高圧配線の碍子等の鉄道架線設備の状態監視も本発明の監視範囲に含まれる。
図5は本発明の実施例を示す鉄道架線設備の状態監視システムの動作フローチャートである。
【0013】
(1)まず、先行列車2に搭載されたカメラ3によって架線設備6を撮像し、架線設備6の状態を連続した画像データとして制御処理装置10に取り込む。(ステップS1)。
(2)ステップS1にて取り込まれた画像データを、架線設備6の部位ごとに異常が判別可能な状態にデータ処理部14で画像処理する(ステップS2)。
(3)ステップS2で画像処理したデータをデータ蓄積部15に蓄積する(ステップS3)。
【0014】
(4)ステップS2で画像処理したデータとデータ記憶部13にあらかじめ記憶されている架線設備6の正常な状態の画像データとをデータ比較部16で比較し、異常の有無を検知する(ステップS4)。このステップS4において、異常を検知しなかった場合にはステップS1へ戻り、異常を検知した場合には次のステップへ進む。
(5)ステップS4の比較の結果を踏まえて、詳細な調査の必要性があるか否かを判定部17にて判断する(ステップS5)。
【0015】
(6)ステップS5において詳細な調査の必要性があると判断された場合、後行列車19に対して架線設備6の異常検知箇所の詳細な調査指令を無線送受信装置18から送信する(ステップS6)。
(7)後行列車19は架線設備6の異常検知箇所の詳細な調査指令を無線送受信装置(図示なし)で受信して、その調査指令に従って異常検知箇所の詳細な調査を行う(ステップS7)。
【0016】
(8)詳細な調査の結果、架線設備6の異常検知箇所の異常状態が確認されたか否かをチェックする(ステップS8)。
(9)ステップS8において架線設備6に異常が確認されたら、後行列車19の無線送受信装置で各保守担当部署20へ異常箇所データを自動配信する(ステップS9)。このデータを踏まえて、異常架線設備の復旧を行う。
【0017】
なお、ここでは、先行列車2から後行列車19へと直接無線通信を行う場合について説明したが、先行列車2から送受信装置を備えた地上局を介して後行列車19へと無線通信を行うようにしてもよい。
このように構成することにより、従来のように検測車を用いることなく、先行知能列車と後行知能列車との無線送受信技術を用いた連携によって、鉄道架線設備の異常を早期に確定し、その復旧を行うことができる。
【0018】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の鉄道架線設備の状態監視システムは、鉄道架線設備の異常状態を早期にしかも確実に検知することができるツールとして利用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 線路
2 先行列車(知能列車)
3 カメラ
4 パンタグラフ
5 支持柱
6 架線設備
10 制御処理装置
11 入力インタフェース
12 中央処理装置
13 データ記憶部
14 データ処理部
15 データ蓄積部
16 データ比較部
17 判定部
18 無線送受信装置
19 後行列車(知能列車)
20 保守担当部署
21 鉄柱
22 き電線
23 き電分岐線
24 トロリ線
25 ちょう架線
26 ハンガ
27 曲線引金具
28 高圧配電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)鉄道架線設備を撮像するカメラ及び正常時の鉄道架線設備のデータを搭載している先行列車と、
(b)前記鉄道架線設備を撮像するカメラ及び正常時の鉄道架線設備のデータを搭載している後行列車と、
(c)前記先行列車のカメラで撮像された鉄道架線設備の画像を取り込み、該画像を処理する画像処理手段と、
(d)該画像処理手段による画像処理後、データを蓄積するデータ蓄積手段と、
(e)前記画像処理されたデータと前記正常時の鉄道架線設備のデータとを比較し、異常の有無を検知するデータ比較手段と、
(f)該データ比較手段によって検知された鉄道架線設備の異常検知箇所の詳細な調査を行うか否かを判断する判定手段と、
(g)該判定手段により詳細な調査が必要であると判定された場合、前記後行列車へ前記鉄道架線設備の異常箇所の詳細な調査指令を送信する無線送受信手段とを備え、
(h)前記調査指令に基づいて前記鉄道架線設備の異常検知箇所の詳細な調査を前記後行列車において行い、前記鉄道架線設備の異常発生箇所を確定するようにしたことを特徴とする鉄道架線設備の状態監視システム。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道架線設備の状態監視システムにおいて、前記架線設備の異常発生箇所が確定された場合には、前記後行列車から各保守担当部署へ異常箇所データを自動配信することを特徴とする鉄道架線設備の状態監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−31643(P2011−31643A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177152(P2009−177152)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】