説明

鉄道用セメント瀝青系注入材料

【課題】 高温施工時における鉄道用セント瀝青系注入材料において、新設線用普通硬化タイプと既設線用急硬タイプのそれぞれに対し、良好な流動性を所要時間保持させることが困難であり、施工性や強度発現性等に問題があった。
【解決手段】 普通硬化タイプには収縮補償性混和材を普通硬化性のセント膨張材、凝結調節剤を遅延型高性能減水剤とし、急硬タイプには収縮補償性混和材をセメント急硬材、凝結調節剤を該セメント混和材用の凝結遅延剤と上記した普通硬化タイプの遅延型高性能減水剤の併用とし、それぞれ特定したものを配合してなる混合物とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄道の各種省力化軌道の高温施工時におけるセメント瀝青系注入材料に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、鉄道のバラスト道床軌道は、列車の運行本数の増加や高速化によって軌道狂いが増し、その保守作業に多くの労力を要している。ところが、作業者の高齢化や労働嗜好等の社会情勢変化が加わり、線路を良好な状態に保つことが次第に困難な状態になりつつある。
【0003】これに対処するため、各種の省力化軌道が実現し、様々な軌道内注入材料が使用されるようになってきた。その代表的な省力化軌道は、新設線用には平板スラブ軌道や枠形スラブ軌道、既設線用には舗装軌道や填充道床軌道等があり、それぞれの軌道構造に適する性能をもった注入材料が使用されている。
【0004】例えば、新設線では、施工間合が自由に確保できるので、普通硬化性のセメント瀝青系注入材料(特許第1111241号)、既設線では短い線路閉鎖時間内に軌道内に注入して列車荷重に耐える強度を早く発現させる必要があるので、急硬性のセメント瀝青系注入材料(特許第854894号)等が必然的に使用されてきた。
【0005】また、上記した各材料は二つの方法で施工される。その一つは、一液法によるもので、通常、ミキング装置を積載した移動プラント車を用い、施工現場において全材料を一括混練りして軌道内に流し込むいわゆる直接注入方式による施工である。他の一つは、二液法によるもので、注入材料をA液とB液に分けて別々に混練りした後、それぞれ別のホースで圧送し、その先端部において連続混合式ミキサにより両液を合流・混合するポンプ圧送方式、または、別々に混練りしたA液とB液を台車運搬し、注入現場においてバケツとハンドミキサによりA液とB液を混合する手練り方式で注入材料を製造し、軌道内に流し込む方式である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明で対象とするセメント瀝青系注入材料は、常温施工タイプに属し、その性質は主として施工性を水、強度をセメント、弾性を瀝青乳剤と高分子系乳剤に依存する特徴を有している。そのうち、施工性と強度発現性の適否は、セメント成分と水の反応作用および両乳剤との混合性等に著しく左右され、セメントの水和反応や両乳剤の分解等の速さは高温時に促進し、低温時に遅延することが知られている。
【0007】例えば、使用されるセメント成分は、一液法では、早強ポルトランドセメントと普通硬化性の収縮補償性混和材、二液法では、普通ポルトランドセメントと急硬性の収縮補償性混和材が該当し、使用される瀝青乳剤と高分子系乳剤はそれぞれのセメント成分と相性のよいものが特定されている。そして、セメント成分の水和と両乳剤の分解の速度は、温度の高低により注入材料のゲル化の程度、強度発現の大小・緩急等に支配的な影響を与え、特に高温時には下記のような致命的な事故を誘発した。
【0008】すなわち、夏期の高温時施工の場合には、直接注入方式では、混練り中あるいは練り上がった注入材料がミキサから全部排出していない時にゲル化を起こして機内で固結してしまうことであり、他方、ポンプ圧送方式では、ミキサ、圧送装置、ホース内で注入材料がゲル化を起こして機内で固結してしまうことである。それゆえ、高温時に施工することができない。気温の低い夜間だけ作業するか、あるいは使用する機械・器具と材料に対して面倒な降温処理を施す等施工上重要な支障をきたしたり、特殊な対策を講ずることが要求された。これに伴って、工期の延伸、施工能率の低下、諸経費の増加等好ましくない問題が発生した。
【0009】加えて、各注入材料はいずれも流動性が悪くなると、またはゲル化に近い状態になると、充填不良の個所ができる。さらに、高温条件では所要の流動性を得るために添加水を多く使用する場合があり、長・短期強度の低下やばらつきの増加等を招くため、仕上がりや品質面で欠陥を生じさせるという問題がある。他方、冬期の寒冷時施工の場合には、セメントの水和反応が進まないことによる強度発現の不良、若材齢時の初期凍害や成熟材齢時の凍害等の問題があり、保温、給熱の特殊な対策を必要とするが、本発明と係わりがないのでここでは省略する。
【0010】したがって、現在、これらの問題を回避するため止む終えない対策として、注入材料の練り上がり温度は5〜30℃の範囲を厳守すること、好ましい温度は10〜25℃の範囲とすること等の規制を行っているのが実状であり、それが施工上重要な障害となっていた。
【0011】
【課題を解決するための手段】そこで本発明は、鉄道用セメント瀝青系注入材料の高温時における注入施工に際し、新設軌道用と既設軌道用の各注入材料に対して適切な凝結調節剤を使用することにより、移動プラント車を用いる直接注入およびポンプを用いる長距離圧送注入の各作業時間に従来の制限温度(30℃)を超える30〜45℃において、所要の流動性を一定時間確保(ゲル化を防止)し、能率的に施工でき、しかも良好な充填と所要の短・長期強度を有する均質的な硬化体をうることができるようにしたものである。
【0012】すなわち、強度を付与する普通セメント、セメントの硬化収縮を補償する普通硬化型の膨張性混和材、セメントとの混合性のよい瀝青乳剤、セメントや瀝青乳剤等と混合性のよい高分子系乳剤、経済性に寄与する増量材、抱き込み気泡を破泡・微小化する消泡剤、微小気泡を連行導入して耐凍害を向上させるAE剤(空気連行剤)、充填性を高める発泡剤、流動性の良否を調節する水および上記したすべての材料と相性が良くセメントの水和反応を遅延させしかも減水効果が優れる凝結調節剤(遅延型高性能減水剤)を使用する。
【0013】一般に、新設軌道は施工間合を十分に確保できるので、請求項1に記載した普通硬化性タイプのセメント瀝青乳剤系注入材料を使用している。ところが、国内で遭遇する気温30℃以上では混練り終了後約15分間程度でゲル化・硬化の過程に入るので、注入施工が不可能となった。本発明は特定の凝結調節剤を添加することにより、所要時間(60分以上)ゲル化しない状態となり、十分な余裕をもって注入作業や圧送ができしかも良好な強度発現が得られる。
【0014】したがって、気温や日光直射の条件下においてもトラブルがなく施工できるようになり、隣接線の移動プラント車からの直接注入および長距離の圧送注入が可能となった。また、請求項2の注入材料には、急硬性を付与するために普通ポルトランドセメントと急硬型の収縮補償性混和剤、これらセメント成分と混合性のよい瀝青乳剤、セメント成分や瀝青乳剤等と混合性のよい高分子系乳剤、上記と同じ増量材、消泡剤、AE剤、発泡剤、水および上記したすべての材料に対して相性が良く、かつセメントの水和反応遅延と減水の効果が高い凝結調節剤(無機塩類や有機酸の配合物、遅延型高性能減水剤を併用)を使用する。
【0015】通常、既設軌道においては、営業線で夜間の短い線路閉鎖間合に注入施工を行い、初列車通過時の荷重に耐える強度を発現させるため、急硬性タイプのセメント瀝青系注入材料を使用している。夏期には夜間でも30℃近い気温の場合があり、この急硬性タイプは前記した普通硬化性タイプと比べ、セメントの水和が非常に急激であるため(凝結・硬化が極めて早い)、作業の手持ち等によりミキサ固結、注入不能、充填不良個所の発生等の事故が頻発した。
【0016】ところが、本発明で特定した凝結調節剤を添加することにより、注入材料のゲル化時間の延伸とその調節を正確に行うことができるようになり、施工性の確保、良好な充填、大きい短時間強度の発現が得られる。したがって、この注入材料は隣接線等から移動プラント車を用いて軌道内へ流し込む、一液法による直接注入方式が可能となった。
【0017】さらに、請求項3の注入材料は、ポンプ圧送中のゲル化・固結を防ぐために請求項2で述べた各材料を二つのグループに分ける。その一つであるセメント瀝青系モルタルのA液には、普通ポルトランドセメント、瀝青乳剤、増量材、消泡剤、AE剤、発泡剤、水(主部)およびこれらすべての材料に対して相性の良い凝結調節剤(遅延型高性能減水剤)を添加する。他の一つの急硬性スラリーには、急硬型の収縮補償性混和材、水(残部)およびこれらに対して相性の良い凝結調節剤(無機塩類や有機酸の混合物)を添加する。この両液は別々に混練りした後、注入現場で両液を一体に混練りして完成品の注入材料となる。
【0018】この注入材料も、既設線用の急硬性タイプであるため、前記した請求項2の注入材料と同様、高温時には施工性や填充性の不良、使用機器のトラブル等が多発した。ところが、本発明で特定した凝結調節剤を使用することにより、上述したA液とB液は、気温が30〜45℃の高温条件下において、いずれの液も注入施工が可能な流動性を保持している可使時間(ゲル化しない状態)が約60分以上確保できるので、施工上のトラブルは起こらない。また、A液とB液を混合すると、約5〜20分間程度の所要の流動性を保持した後(この可使時間は凝結調節剤の添加量で調節する)、急激な硬化をするので材料分離がほとんどなく、良好な施工と均質な填充物が得られる。
【0019】したがって、既設線における省力化軌道に改造する工事等の大規模施工では、機械化された二液法の圧送注入方式が、補修工事等の小規模施工では、バケツとハンドミキサを用いる二液法の手練り方式による注入が可能となった。要するに、本発明によると、国内で遭遇する高温時施工の温度規制がまったく削除され、順調な注入ができて施工上のトラブルも根絶されることになる。
【0020】また、いずれの省力化軌道に対しても高温時に施工可能な良質なセメント瀝青系注入材料が得られる。さらに詳しく以下に説明する。本発明の鉄道用セメント瀝青系注入材料は、特定のセメント、収縮補償性混和材、瀝青乳剤、高分子系乳剤、増量材、凝結調節剤、消泡剤、AE剤、発泡剤および水等からなっている。
【0021】以下、請求項1と請求項4の注入材料を普通硬化タイプ、請求項2の注入材料を急硬タイプ(一液法)、請求項3の注入材料を急硬タイプ(二液法)という。本発明で使用する材料とその配合は次の通りである。セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩)、混合セメント(高炉、シリカ、フライアッシュ)、特殊セメント(白色、アルミナ、超速硬、膨張)等が使用できる。特に、普通硬化タイプには早強ポルトランドセメント、急硬タイプの一液法と二液法には普通ポルトランドセメントが好ましい。これらは、注入材料硬化体の骨格を形成し、主として強度に寄与する。
【0022】収縮補償性混和材としては、普通硬化タイプにはカルシウム、サルホ・アルミネート(3CaO,3Al2O3,CaSo4 )系鉱物を主体とし、微量の高分子系分散剤と無機塩類を含む膨張性セメント混和材/または石灰系の膨張性セメント混和材を一種類使用する。これらは、セメント硬化時の収縮を補償すると共に材料分離の防止等の作用をする。
【0023】なお、このタイプの収縮補償性混和材は、早強ポルトランドセメントに対し、いずれも10〜20重量%配合するのが好ましい。つぎに、急硬タイプの両法には、カルシウムアルミネート系鉱物と硫酸カルシウム(石膏)の配合物に無機微粉末を配合してなる急硬と膨張の性質を兼備するセメント混和材を使用する。
【0024】なお、カルシウムアルミネート系鉱物はCaO とAl2O3 を電気炉等によって溶融して得られ、無定形物であり、粉末度はブレーン値で2000〜8000cm2/gがよい。石膏は、II型無水石膏を使用し、カルシウムアルミネート系鉱物と石膏の割合は後者が前者に対して0.1〜10重量%が好ましい。これらは、急激な強度発現と硬化時の収縮補償等の役割を果たす。
【0025】無機微粉末は注入材料の均質性や長期強度の安定性に大きく寄与するものであり、使用される材料は、高炉スラブ、活性シリカ、フライアッシュ、焼成白土およびポゾラン等から選ばれた1種が挙げられ、その粉末度は最大粒径で1mm以下・ブレーン値で500〜2000cm2/g がよく、無機微粉末のカルシウムアルミネート系鉱物と石膏に対する割合は前者が後者に対して0.3〜5重量%が好ましい。
【0026】なお、急硬タイプの両法の収縮補償性混和材は、普通ポルトランドセメントに対し好ましくは15〜40重量%配合する。しかし、その量は要求される急硬性と経済性を考慮して選択する。瀝青乳剤としては、瀝青物例えば針入度40/60〜200/500範囲のストレートアスファルトを主材とし、これに界面活性剤と多価金属塩を加え、さらに必要に応じて乳化助剤、分散剤、保護コロイド等を適宜使用して水中に乳化させたものである。また、瀝青物にゴム、合成高分子重合体等を添加・混合して改質された瀝青物を乳化したものを使用することができる。
【0027】なお、上記した乳剤中の瀝青物含有量は40〜70重量%、特に55〜65重量%が好ましい。この際、界面活性剤にはアニオン系、ノニオン系、カチオン系のもの1種以上を乳剤中に0.5〜8重量%、好ましくは1〜5重量%含有させる。多価金属塩は、AlCl3,CaCl2,FeCl3 およびMgCl2 等の塩化物を多価金属イオンとして0.05〜5重量%、好ましくは0.2〜2.5重量%含有させる。
【0028】そして、瀝青乳剤は注入材料の種別毎に使い分ける。すはわち、普通硬化タイプの瀝青乳剤には特定のアニオン系のものが好ましい。これは、セメントや収縮補償性混和材との混合性がよく、作業性の向上、強度の増進、耐ひびわれ性の改善および弾性付与等の働きをする。他方、急硬タイプ(両法)の瀝青乳剤には特定のノニオン系のものが好ましい。これは、上記した普通硬化タイプの作用の他に水和速度を促進させて初期強度をさらに増加させる性能を付加する効果をもっている。
【0029】つぎに、瀝青乳剤の使用量は、適用対象の軌道の種類毎に要求性能が異なるため、変更するのが好ましい。例えば、セメントに対する瀝青乳剤の配合割合は、普通硬化タイプを適用するスラブ軌道には150〜250重量%、急硬タイプ両法を適用する舗装軌道には100〜200重量%、填充道床軌道には50〜150重量%配合すれば十分である。ここで、瀝青乳剤が少ない配合は、強度は大きいが、可撓性や弾性が劣る性状の硬化体となる。一方、乳剤量が多い配合は上記と反対性状の硬化体を形成するので、瀝青乳剤量の増減によって要求性能に適合する填充硬化体を選択することができる。
【0030】高分子系乳剤としては、ゴムラテックス、水溶性高分子重合体、合成高分子重合体エマルジョンおよび合成樹脂エマルジョン等を使用できる。特には、セメント、収縮補償性混和材、瀝青乳剤、凝結調節剤、消泡剤、AE剤および水との混合性に優れかつ耐ひび割れ性等の向上効果が大きいSBR系ラテックスが好ましい。これは、注入材料硬化体内に存在し、主として脆性、緩衝性、水密性および感温性等を改善することに役立つ。
【0031】なお、高分子系乳剤に関しても軌道の要求性能や経済性を考慮し、セメントに対する配合割合を変更することが好ましく、例えば、普通硬化タイプのスラブ軌道の場合にはセメントに対して10〜30重量%、急硬タイプ両法の舗装軌道や填充道床軌道の場合にはセメントに対して10〜40重量%配合すれば十分である。
【0032】増量材としては、細骨材例えば川砂、海砂、山砂、硅砂等を使用する。特には石質が堅硬で吸水率が小さくかつ粒度が良く管理されている硅砂が好ましい。また、細骨材と共に硅藻土、ベントナイト、クレー、石灰岩やその他岩石を粉砕した石粉、フライアッシュ等のフィラーを使用することができる。なお、増量材は上記した各材料の1種または2種以上を組み合わせて使用するが、その使用量は注入材料に要求される品質や価格を考慮して選択する。例えば、普通タイプを適用するスラブ軌道の場合にはセメントに対して50〜300重量%、急硬タイプ両法を適用するE型(営業線用)舗装軌道の場合には50〜200重量%配合すれば十分である。
【0033】凝結調節剤としては、注入材料の種別により2つのグループに大別して使用する。普通硬化タイプの凝結調節剤は、リグニン系、オキシカルボン酸系、ナフタリン系、メラミン系の遅延型を使用する。特には、遅延型の高性能減水剤に属するメラミン系のもの、例えば、高縮合トリアジン系化合物/または変性メチロールメラミン縮合物と水溶性特殊高分子化合物の配合物を主成分とするものが好ましい。
【0034】なお、上記した凝結調節剤は普通硬化タイプの高温施工時における作業性の確保と添加水の減量を主目的として使用するものである。その添加量は、セメントに対して0.5〜5重量%である。それ以外に範囲では凝結を調節し、作業性を満足させることができない。他方、急硬タイプ両法の凝結調節剤は、無機塩類や有機酸の配合物である凝結調節剤と上記した遅延型高性能減水剤の2つを併用する。
【0035】そのうち、前者の凝結調節剤は、無機塩類として硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硼酸塩、炭酸塩、無機ハロゲン化合物等が使用でき、これらを単独または併用して用いるが、炭酸塩(炭酸カリ等)や硼酸塩(硼酸等)が好適である。そして、有機酸には、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸カルシウム、酒石酸等があり、これらを単独または併用して用いるが、クエン酸や酒石酸が好適である。
【0036】これら成分からなる凝結調節剤は、急硬タイプ一液法の混合液あるいは二液法B液の凝結を調節し、作業性を確保するために使用するものである。本剤の成分配合は、無機塩類がセメントに対して0.1〜10重量%、有機酸が0.05〜5重量%である。これ以外の範囲では良好な作業性を得ることができない。つぎに、後者の遅延型高性能減水剤は、混練りするすべての材料と混合性が良く、それら材料の特性を十分に発揮させることが可能なものであり、前記した普通硬化タイプと同類のものを使用する。その使用量もセメントに対して0.5〜5重量%と同じである。
【0037】要するに、高温度(30℃以上)の施工においては、普通硬化タイプには遅延型高性能減水剤、急硬タイプ一液法には凝結遅延剤と遅延型高性能減水剤を併用、急硬タイプ二液法にはA液へ遅延型高性能減水剤およびB液へ凝結遅延剤を使用することにより、添加水量が減少し、所要の流動性と可使時間の確保が可能となり、満足な作業性、填充性、強度発現性および耐久性を有しかつ均質的な注入材料硬化体が得られる。
【0038】消泡剤としては、例えば、シリコーン系、アルコール系、脂肪酸系、アミン系、アミド系、エーテル系、金属石鹸等を使用することができる。そのうち、シリコーン系が好ましく、これは普通硬化タイプや急硬タイプの一括混合液あるいは二液法A液の各材料を混練りするときに発生する不必要な大きい径の抱き込み気泡を破泡・微小化する作用をする。その添加量は、セメントに対して0.05〜0.3重量%である。
【0039】AE剤としては、セメント瀝青系注入材料中に、多数の独立微小気泡を生じさせることにより、そのワーカビッチーおよび耐凍害性を改善することを主たる目的とする化学混和剤、例えばアニオン系界面活性剤の石鹸系、硫酸エステル系、スルホネート系、リン酸エステル系、非イオン界面活性剤のエーテル系、エステルエーテル系、両性界面活性剤のベタイン系を使用することができる。特には、天然樹脂(松根油)より抽出されたアニオン系界面活性剤を荷性イソーダで中和して暗褐色液体にしたものが好ましい。これは、普通硬化タイプや急硬タイプ両液に対して、上記した消泡剤と併用してその効果を発揮させる。その添加量は、通常のコンクリートで添加される量よりも一桁多い量すなわちセメントに対して1〜5重量%である。
【0040】発泡剤としては、金属アルミニウム粉末に植物油、鉱物油あるいはステアリン酸等を添加して表面コーティングしたものを使用する。これは、フレーク状のもので、粒径50μm以下(市販品は200〜250メッシュ通過程度)、比表面積は大きいものが好ましく、セメント水和物の水酸化カルシウムとの反応で生成する水素ガスによって注入材料が硬化する前に容積を増し、空隙を一杯に填充した状態にする働きをする。その添加量は、普通硬化タイプはセメントに対して0.0001〜0.0003重量%、急硬タイプ両法は0.00003〜0.0001重量%の範囲であり、温度が高い施工では添加量が少ない側を採用する。
【0041】水としては、一般に淡水を使用する。例えば、水道水、地下水、河川水、工業用水等である。水は、普通硬化タイプの一括混合液、急硬タイプ一液法の一括混合液および二液法のA・B各液と両液を混練りしてなる注入材料の流動性を調節するために使用する。その添加量は、注入材料の配合や填充空隙の大小等により適宜選択する。
【0042】上記した各材料の他に繊維を添加・混合する場合がある。その繊維としては、無機繊維、天然繊維、合成繊維等が使用できる。そのうち、例えば無機のガラス繊維は太さが100デニール以下、長さが5〜20mmに切断したものが好ましい。繊維の添加は、注入材料の曲げ強度、剪断強度、耐衝撃性等を改善する効果がある。
【0043】さらには、注入前に軌道スラブや枕木等の直下または填充層の直下に上記した各繊維の編布、織布、不織布等を挿入し、注入材料を填充する施工法が適用できる。一般には、枕木等の直下部用には耐アルカリ性ガラス繊維マット、填充層の直下部用にはポリエチレン製の不織布が好ましい。前者は、填充層の補強用として耐荷性、耐ひび割れ性等に顕著な効果を発揮する。後者は、注入材料の漏れ止めと填充層補強の役目を果たす。
【0044】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を説明する。省力化軌道に使用されているセメント瀝青系注入材料の代表例としては、新設線スラブ軌道用の普通硬化性のものと既設線E型舗装軌道用の急硬性のもの(一液法、二液法)が挙げられる。これら各注入材料の配合をまとめて表1に示す。
【0045】
【表1】


【0046】そのうち、比較品は従来から供用しているものである。得られた試験結果に関し、各配合の主な特性値を一括して表2に、フロータイム径時変化と圧縮強度発現性の代表例を図1〜図3に、40℃において凝結調節剤添加量がフロータイムに及ぼす影響を図4に示す。
【0047】
【表2】


【0048】(1) 使用材料a セメント普通ポルトランドセメント;市販品、ブレーン値=3280cm2/g比重=3.16早強ポルトランドセメント;市販品、ブレーン値=4460cm2/g比重=3.14b 収縮補償性混和材普通硬化性用;市販品、CSA系鉱物、ブレーン値=5410cm2/g比重=2.83急硬性用;市販品、C127 系鉱物、ブレーン値=6250cm2/g比重=2.92c 瀝青乳剤A乳剤;アニオン系セメント混合用、市販品、比重=1.012エングラー度=7.3 蒸発残留物=61.2wt% 、針入度=83PT乳剤;ノニオン系セメント混合用、市販品、比重=1.0027エングラー度=6.4 蒸発残留物=60.3wt% 、針入度=89d 高分子系乳剤SBR系ラテックス、市販品、粘度=101cp、不揮発分=48.0wt%PH=8.0e 硅砂8号硅砂、市販品、FM=1.44、比重=2.64、吸水量=0.52wt%f 水水道水g 消泡剤シリコン系、市販品、粘度=445cp、不揮発分=41.9wt%h AE剤天然産有機物系、比重=1.23、PH=9.2(5%水溶液)
i アルミニウム粉末C−300、市販品、Al=98.6wt% 、比重=0.2〜0.3、88μのふるいで10wt% 残j 凝結調節剤(発明品)
普通硬化性用;遅延型高性能減水剤■、変性メチロールメラミン縮合物と変性リグニン化合物、全アルカリ量=0.19wt% 、比重=1.125急硬性用;遅延型高性能減水剤■、高縮合トリアジン系化合物、全アルカリ量=0.20kg/m3 、比重=1.230遅延剤■、無機塩類と有機酸の配合物、比重=2.87(2) 使用機器a ミキサ中型ミキサ、AMーQr型(25リットル)、ビータ羽根を使用b 圧縮試験機オルゼン型、0.5t、1.0t、10tの各力計を使用(3) 試験方法a フロータイムJSCEのJロート法に準拠b ブリーディング率と膨張率JSCEのポリエチレン袋法に準拠c 圧縮強度φ5×5cmの円柱供試体、単軸圧縮、載荷速度=2%歪み(一定)
d 材料分離度φ5×5cmの円柱供試体、上下半分の密度差(%)
(4) 試験結果■ 施工性普通硬化タイプの混合液と急硬タイプ(二液法)のA液は表2、図1および図2に示すように、比較品は温度20℃と30℃では約45分以上の可使時間をもっているが(No. 1、2、13、14)、温度40℃では約10〜15分に短縮し(No. 3、15)、注入作業が不可能となる。
【0049】これに対し、発明品は40℃において、いずれも可使時間が約55分以上に延伸し(No. 4〜6、10〜12)、十分な作業性が確保できる。また、その可使時間は図4に示すように、凝結調節剤添加量の増減によって長・短を自由に調節できること、表1に示す如く比較品と比べて添加水が約10%ほど減量して高品質に寄与する効果がある。
【0050】つぎに、急硬タイプ(二液法)の混合液の場合には、表2と図3に示す如く、比較品は温度20℃と30℃では概ね5分程度の可使時間があるので、どうにか注入作業を遂行することができるが(No. 7、8)、温度40℃では約3分程度で急速なゲル化を起こす(No. 9)。これに対し、発明品は40℃において、約25〜40分程度の可使時間を確保することができ(No. 10〜12)、満足に施工できる。また、凝結調節剤の添加による可使時間の調節(図4)および添加水の減量(表1)の効果も上記した二液法とまったく同様である。
■ ブリーディング率と膨張率表2に示す如く、比較品と発明品はいずれもブリーディングがまったくなく、膨張率もスラブ軌道の1〜3%、E型舗装軌道の0〜1%という規格値を満足し、まったく問題がない。
■ 圧縮強度普通硬化タイプと急硬タイプの各注入材料に関する圧縮強度発現性は、表2、図1および図3に示すように、発明品の40℃強度は各材齢において、比較品の20、30、40℃の各強度と比べて大きい。特に、高温時の40℃を両品で対比すると、前者は後者よりも格段に高い強度が得られた。これは、主として本発明による減水作用と硬化反応活性化の効果に帰すことができる。
■ 材料分離度各注入材料の硬化体に関する上下半分の比重差百分率は、表2に示す如くである。総じて、発明品は比較品よりもその値が小さく均質性に優れると評価できる。これは、主として減水効果によるものと考えられ、好ましい結果である。
【0051】
【発明の効果】以上詳細に説明した本発明によると、セメント、収縮補償性混和材、瀝青乳剤、高分子系乳剤、増量材、凝結調節剤、消泡剤、AE剤、発泡剤および水等を添加してなる鉄道用セメント瀝青系注入材料において、収縮補償性混和材は普通硬化性のカルシウムサルホアルミネート/または石灰を主体とする無機微粉末、凝結調節剤は遅延型高性能減水性の変性メチロールメラミン縮合物と変性リグニン化合物の配合物または高縮合トリアジン系化合物を主成分とするものを用い、その他の材料と一括混練りしてなる混合物としたことにより、高温施工時において、新設線用普通硬化性填充材に要求される性能をすべて満足することができ、均質的で耐荷性に優れた直接注入と圧送注入の両方式に適用可能な普通硬化タイプ一液法の鉄道用セメント瀝青系注入材料を得ることができる。
【0052】また、上記注入材料において、収縮補償性混和材は急硬性のカルシウムアルミネートと石膏の配合物にシリカ質成分を主体とする無機微粉末を配合してなるもの、凝結調節剤は無機塩類や有機酸の配合物と上記した遅延型高性能減水剤を併用し、その他の材料と一括混練りしてなる混合物としたことによって、高温施工時において、営業線施工用急硬性填充材に要求される性能をすべて満足することができ、直接注入方式に適用可能な急硬タイプ一液法の鉄道用セメント瀝青系注入材料を得ることができる。
【0053】さらに、上記急硬タイプにおいて、注入材料を普通硬化性セメント瀝青系モルタルに凝結調節剤として遅延型高性能減水剤を添加するA液と急硬性混合物スラリーに凝結調節剤として無機塩類や有機酸の配合物を添加するB液との二液に分けて別々に混練りした後、それぞれ別の流路を通して圧送/または台車運搬し、注入現場においてA液とB液を一体混練りしてなる混合物としたことにより、高温施工時において、上記した急硬タイプ一液法と同様な営業線施工用急硬性填充材の性能を持つ圧送方式に適用可能な急硬タイプ二液法の鉄道用セメント瀝青系注入材料を得ることができる。
【0054】なお、以上に述べた各注入材料は、夏期の高温時にそれぞれ現場に適用し、良好な施工性と満足な品質が得られ、その有効性が確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】普通硬化タイプの注入材料に関するフロータイム経時変化と強度発現性の説明図。
【図2】急硬タイプ(二液法)の注入材料に関するA液、B液およびAB混合液のフロータイム経時変化の説明図。
【図3】急硬タイプ(一液法)の注入材料に関するフロータイム経時変化と強度発現性の説明図。
【図4】普通硬化タイプと急硬タイプ(一液法)の注入材料が40℃において、凝結調節剤添加量がフロータイムに及ぼす影響を示す説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 セメント、収縮補償性混和材、瀝青乳剤、高分子系乳剤、増量材、凝結調節剤、消泡剤、AE剤、発泡剤および水等を添加してなる高温施工時における鉄道用セメント瀝青系注入材料において、収縮補償性混和材は普通硬化性のカルシウムサルホアルミネートを主体とする無機微粉末、凝結調節剤は遅延型高性能減水性の変性メチロールメラミン縮合物と変性リグニン化合物の配合物を主成分とするものを用い、その他の材料と一括混練りしてなる混合物としたことを特徴とする鉄道用セメント瀝青系注入材料。
【請求項2】 請求項1において、収縮補償性混和材は急硬性のカルシウムアルミネートと石膏の配合物にシリカ質成分を主体とする無機微粉末を配合してなるもの、凝結調節剤は無機塩類や有機酸の配合物と上記請求項1に記した遅延型高性能減水剤を併用し、その他の材料と一括混練りしてなる混合物としたことを特徴とする鉄道用セメント瀝青系注入材料。
【請求項3】 請求項2において、注入材料を普通硬化性セメント瀝青系モルタルに凝結調節剤として遅延型高性能減水剤を添加するA液と急硬性混合物スラリーに凝結調節剤として無機塩類や有機酸の配合物を添加するB液との二液に分けて別々に混練りした後、それぞれ別々にして運搬し、注入現場においてA液とB液を一体混練りしてなる混合物としたことを特徴とする鉄道用セメント瀝青系注入材料。
【請求項4】 セメント、収縮補償性混和材、瀝青乳剤、高分子系乳剤、増量材、凝結調節剤、消泡剤、AE剤、発泡剤および水等を添加してなる高温施工時における鉄道用セメント瀝青系注入材料において、収縮補償性混和材は普通硬化性の石灰を主体とする無機微粉末、凝結調節剤は遅延型高性能減水性の高縮合トリアジン系化合物を主成分とするものを用い、その他の材料と一括混練りしてなる混合物としたことを特徴とする鉄道用セメント瀝青系注入材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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