説明

鉄道車両の屋根構体

【課題】空調装置を支持する部材の交換を容易にすると共に防水性を確保できる鉄道車両の屋根構体を提供すること。
【解決手段】空調装置7が吊設される開口部6の周囲の外板3の外面3aに車体側ブラケット10が溶接固定される。車体側ブラケット10に中間ブラケット20が着脱可能に取着され、中間ブラケット20に、空調装置7から横方向に延設される延設部8が連結される。車体側ブラケット10は外板3の外面3aに溶接固定されるので、車体側ブラケット10を外板3に固定するときに、外板3に孔を穿設しなくて良い。その結果、外板3の防水性を確保できる。また、中間ブラケット20に損傷等が生じた場合、車体側ブラケット10から中間ブラケット20を取り外すことができるので、中間ブラケット20の交換を容易にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道車両の屋根構体に関し、特に、空調装置を支持する部材の交換を容易にすると共に防水性を確保できる鉄道車両の屋根構体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、空調装置が屋根構体に配置される鉄道車両が知られている。この種の鉄道車両の構造として、空調装置が車両限界の高さを超えないようにするため、屋根板に開口部を形成し、その開口部に空調装置を吊設するものがある(特許文献1)。この場合、開口部の周囲の屋根板の所定箇所に軸状部材を突設し、その軸状部材を用いて、開口部に吊設される空調装置が支持される。屋根板に軸状部材を突設する手段の一つに、屋根板に穿設した孔部に軸状部材の基部を挿着するものがある。この場合、屋根板の防水性を確保するため、屋根板の外面(表面)および内面(裏面)から、孔部と軸状部材との間を水密にするシール材が施工される。
【0003】
また、屋根板に孔部を穿設せずに軸状部材を屋根板に突設する手段として、軸状部材を屋根板に溶接固定するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3−118161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来の技術では、ダブルスキン構造(外板および内板が複数の隔壁で連結される)の中空形材により形成された屋根板に軸状部材を突設する場合、外板に穿設した孔部に軸状部材を挿着すると、外板の外面側のシール材の施工は容易であるが、外板の内面側のシール材の施工は、内板や隔壁に遮られるため困難である。施工が困難な外板の内面側のシール材が不足するので、防水性を確保し難いという問題点があった。
【0006】
加えて、シール材の経年劣化によりシール切れが生じると防水性が低下し、孔部と軸状部材との間から雨水が外板と内板との間に浸入する。雨水が浸入すると外板と内板との間の湿度が高まるので、外板や内板、隔壁が腐食し易くなるという問題点があった。
【0007】
また、空調装置を支持する軸状部材を屋根板に溶接固定した場合は、軸状部材に損傷等が生じると、軸状部材は屋根板(鉄道車両)に溶接固定されているので、損傷した軸状部材を取り外して新しいものと交換することは困難であった。
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、空調装置を支持する部材の交換を容易にすると共に防水性を確保できる鉄道車両の屋根構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0009】
この目的を達成するために請求項1記載の鉄道車両の屋根構体によれば、外板および内板が複数の隔壁で連結されるダブルスキン構造の中空形材により形成されるものであり、外板および内板に開口部が貫通形成され、その開口部の周囲の外板の外面の所定箇所に車体側ブラケットが溶接固定される。その車体側ブラケットに中間ブラケットが着脱可能に取着される。一方、空調装置から横方向に延設部が延設され、その延設部は外板を下方に臨み中間ブラケットに連結される。これにより空調装置は開口部に吊設される。開口部から車体側ブラケットまでの外板と延設部との間にシール部材が介設されるので、外板と延設部との間に浸入した雨水はシール部材で堰き止められる。これにより、開口部から車内に雨水が浸入することを防止できる。
【0010】
また、車体側ブラケットは外板の外面に溶接固定されるので、車体側ブラケットを外板に固定するときに、外板に孔を穿設する必要がない。外板に孔を穿設しなくて良いので、外板の防水性を確保できる効果がある。また、孔を塞ぐシール材の施工を不要にできるので、シール材の経年劣化によりシール切れが生じることもなく、長期に亘って外板の防水性を確保できる。
【0011】
また、車体側ブラケットに中間ブラケットが着脱可能に取着され、その中間ブラケットに延設部を介して空調装置が連結される。中間ブラケットに損傷等が生じた場合、中間ブラケットは空調装置に連結されているので、車体側ブラケットから中間ブラケットを取り外せば、空調装置、延設部および中間ブラケットを屋根構体から取り外すことができる。延設部と中間ブラケットとを分離することで、中間ブラケットを交換できる効果がある。
【0012】
請求項2記載の鉄道車両の屋根構体によれば、車体側ブラケットの一対の立設部は所定の間隔をあけて外板に立設される。中間ブラケットの基体に延設部が連結され、基体は一対の立設部の間に配置される。基体の両側に形成される対向部は立設部と対向するので、対向部と立設部とが突き当たる方向に鉄道車両(屋根構体)に加速度が生じる場合の対向部と立設部との相対変位は、外板に溶接固定された立設部により規制される。これにより請求項1の効果に加え、対向部(中間ブラケット)の相対変位を規制できるので、開口部に吊設された空調装置の横方向の変位を抑制できる効果がある。
【0013】
請求項3記載の鉄道車両の屋根構体によれば、延設部が連結される基体は外板に載置され、対向部は基体に立設されているので、延設部および空調装置による荷重を外板で受けることができ、車体側ブラケットの重力軸方向に作用する荷重を軽減できる。また、中間ブラケットが延設部および空調装置による荷重で変形することを抑制できるので、請求項2の効果に加え、車体側ブラケットや中間ブラケットを軽量化できると共に、それらの寿命を向上できる効果がある。
【0014】
また、外板に載置される基体に延設部が連結されるので、外板の上方に配置される延設部の高さを低く抑えることができる。これにより、外板の高さを車両限界近くに設定した場合でも、空調装置や延設部が車両限界の高さを超えることを抑制できる。その結果、請求項2の効果に加え、外板の高さを車両限界近くに設定することができ、ひいては客室の天井を高くできる効果がある。
【0015】
請求項4記載の鉄道車両の屋根構体によれば、対向部と立設部とが突き当たる方向と直交方向に加速度が生じる場合の対向部と立設部との相対変位は、立設部および対向部に貫設される第1軸状部材により規制される。これにより請求項2又は3の効果に加え、対向部(中間ブラケット)の相対変位を規制できるので、開口部に吊設された空調装置の横方向の変位を抑制できる効果がある。
【0016】
また、第1軸状部材は横方向に配置されているので、第1軸状部材の縦方向の大きさ(高さ)を小さくできる。これにより、第1軸状部材の外板からの高さを低く抑えることができる。その結果、請求項2又は3の効果に加え、外板の上方に配置される延設部の高さを低く抑えられる効果がある。
【0017】
請求項5記載の鉄道車両の屋根構体によれば、基体に縦方向に配置されると共に延設部に連結される第2軸状部材により、横方向に屋根構体に加速度が生じる場合の基体と延設部との相対変位が規制される。これにより請求項2から4のいずれかの効果に加え、延設部の相対変位を規制できるので、開口部に吊設された空調装置の横方向の変位を抑制できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態における鉄道車両の屋根構体の平面図である。
【図2】(a)は図1のIIaで示す部分を拡大して示した鉄道車両の屋根構体の部分拡大図であり、(b)は鉄道車両の屋根構体の側面図であり、(c)は図2(a)のIIc−IIc線における屋根構体の断面図である。
【図3】(a)は図1のIIIa−IIIa線における鉄道車両の屋根構体の断面図であり、(b)は変形例におけるシール部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態における鉄道車両の屋根構体1について説明する。図1は本発明の一実施の形態における鉄道車両の屋根構体1の平面図である。なお、図1では、屋根構体1の長手方向の図示を省略している。
【0020】
図1に示すように、屋根構体1は、後述するように外板3(図2(c)参照)及び内板4が複数の隔壁5で連結されるダブルスキン構造のアルミニウム製またはアルミニウム合金製の中空形材2により構成されており、長手方向(鉄道車両のレール方向)に沿って長辺が位置するような横長の矩形状に形成された開口部6が厚さ方向に貫通形成されている。開口部6は空調装置7が配置される部位であり、平面視における空調装置7の外形は、開口部6より少し小さめに形成されている。空調装置7の上部側から横方向(図1上下左右)に延設部8が延設されている。平面視における延設部8の外形は、開口部6より大きめの矩形状に形成されている。これにより、延設部8は外板3を下方に臨むことができ、開口部6の周囲で延設部8を外板3との間で支持することにより、空調装置7を開口部6に吊設できる。
【0021】
なお、開口部6は、屋根構体1の長手方向両端に配置されている。これにより鉄道車両の中央付近は、開口部6に配置される空調装置7や延設部8の影響を受けることなく、車両限界の範囲内で外板3の高さ及び客室の天井高さを大きくできる。客室の天井高さを大きくすることで、乗客の快適性を向上できる。
【0022】
外板3は、開口部6の全周を囲むシール部材9が上向きに突設されている。シール部材9は、外板3の外面3a(図2(c)参照)と延設部8との間に介設されて雨水を遮断するための部材である。外板3の外面3aと延設部8との間にシール部材9が介設され、シール部材9が圧縮変形することにより、開口部6から雨水が浸入することを防止できる。本実施の形態では、シール部材9はゴム状弾性材により形成されている。
【0023】
車体側ブラケット10は、中間ブラケット20を取着するための部材であり、外板3の外面3aに溶接固定される。本実施の形態では、屋根構体1の長手方向に沿ってシール部材9の外側の外板3に3箇所ずつ、屋根構体1の左右(図1上下)に合計6箇所配置されている。車体側ブラケット10は、延設部8の大きさ(空調装置7からの張り出し長さ)に合わせて延設部8の下方に位置する外板3に固定される。
【0024】
次に図2を参照して、車体側ブラケット10及び中間ブラケット20について詳細に説明する。図2(a)は図1のIIaで示す部分を拡大して示した鉄道車両の屋根構体1の部分拡大図であり、図2(b)は鉄道車両の屋根構体1の側面図であり、図2(c)は図2(a)のIIc−IIc線における屋根構体1の断面図である。なお、理解を容易にするため、図2(a)では延設部8の図示を省略し、図2(c)では連結部30の図示を省略している。
【0025】
図2(a)及び図2(b)に示すように、車体側ブラケット10は、側面視して略L字状に形成された部材により構成されており、外板3に溶接固定される平板状の固定部11と、その固定部11から鉛直方向上向きに立設される立設部12とを備えている。固定部11を外板3に溶接固定することによって立設部12が外板3に立設されるので、外板3との接合面積(溶接面積)を大きくできる。これにより立設部12を強固に外板3に固定できる。
【0026】
固定部11は、対向する一対の立設部12の対向面(平面)が平行状となるように所定の間隔をあけて外板3に固定される。車体側ブラケット10は、外板3(中空形材2)と同材質で形成されている。これにより、溶接によって脆弱な中間相が生成されることを抑制して、外板3に溶接固定される車体側ブラケット10の機械的強度を確保できる。
【0027】
固定部11は、対向する立設部12と相反するように外側を向いて配置されており、対向する立設部12側に位置しない。これにより、対にして配置される車体側ブラケット10間の距離を大きくできるので、一対の車体側ブラケット10間に配置される中間ブラケット20の大きさ(長さ)を大きくできる。中間ブラケット20は、後述するように、延設部8に連結される連結部30(図2(b)参照)が配置されるので、中間ブラケット20を大きくできれば、連結部30の軸直角方向(水平方向)における断面積を大きくできる。その結果、連結部30を座屈し難くでき寿命を向上できる。
【0028】
立設部12は、厚さ方向に貫通形成される貫通孔12aが横方向に並設されている。貫通孔12aは、ボルトで構成された第1軸状部材34が挿通される部位であり、その第1軸状部材34により中間ブラケット20が立設部12に取着される。貫通孔12aが立設部12の複数箇所(本実施の形態では2箇所)に形成されており、その貫通孔12aに複数の第1軸状部材34が挿通されるので、車体側ブラケット10と中間ブラケット20との接合強度を向上できる。また、貫通孔12aが横方向に並設されているので、貫通孔12aを縦方向に並設する場合と比較して、立設部12の高さを低く抑えることができる。
【0029】
固定部11は、シール部材9寄りの幅方向縁部(図2(a)上側)から長手方向縁部(図2(a)左右側)に亘って切欠部11aが形成されている。切欠部11aが形成された側(屋根構体1の左右の外側(図1上または下)から見て奥側)の貫通孔12aに挿通された第1軸状部材34は、切欠部11aが形成されていない側の貫通孔12a(図2(a)下側)に挿通された第1軸状部材34と比較して、固定部11の厚さの分だけ、第1軸状部材34(ボルト頭部)の下方空間を広くできる。これにより、屋根構体1の左右の外側から工具を入れて立設部12に対する第1軸状部材34の取着作業を行う場合の作業性を向上できる。なお、切欠部11aは、立設部12が立設された側の固定部11(立設部12と固定部11との稜線付近)を残して形成されているので、立設部12の機械的強度を確保できる。
【0030】
図2(b)に示すように、中間ブラケット20は、対向配置される一対の立設部12間に配置されて車体側ブラケット10と着脱可能に取着される部材であり、基体21と、その基体21の両側に形成され立設部12と対向する対向部22とを備えて構成されている。中間ブラケット20は外板3と溶接されるものではないので、外板3と異種金属(例えば鋼製)にできる。これにより中間ブラケット20の材質を、機械的強度を優先して設定できる。なお、中間ブラケット20に異種金属を用いる場合、電食を防止するため、コーティング等の電食防止措置が採用される。
【0031】
基体21は、一対の立設部12の間に配置される部位であり、一対の立設部12間の距離と略同一の長さ、且つ、立設部12と略同一幅の平面視で矩形状の横長の板状に形成されている。対向部22は、基体21の両側に形成される部位であり、立設部12と対向配置される。なお、対向部22の高さは立設部12の高さと略同一に設定されている。
【0032】
基体21は、長手方向が、屋根構体1の長手方向(図1左右方向)に沿うように開口部6の左右(図1上下)に配置されるので、屋根構体1の短手方向(図1上下方向)における配置スペースを小さくできる。これにより開口部6の左右(図1左右)の狭いスペースを利用して、中間ブラケット20を配置できる。また、開口部6の左右(図1左右)のスペースを利用して、屋根構体1の長手方向に沿って基体21を長尺にできるので、外板3と基体21とが接する面積を大きくできる。これにより基体21の単位面積あたりの荷重を小さくすることができ、基体21を軽量化できる。
【0033】
基体21は、ボルトからなる第2軸状部材23が縦方向(図2(b)上下方向)に配置され、基部が基体21に埋設され上向きに突設されている。基体21からの第2軸状部材23の突設高さは、対向部22と略同一の高さに設定されている。これにより、第2軸状部材23の外板3に対する高さを低く抑えることができる。
【0034】
連結部30は、基体21に突設された第2軸状部材23に連結されると共に延設部8が載置される部位であり、板状に形成される基盤31と、その基盤31の上に配置され延設部8に固定される防振装置32とを備えている。本実施の形態では、防振装置32は塊状のゴム状弾性材で形成されている。これにより基盤31と延設部8とが防振結合される。
【0035】
基盤31は第2軸状部材23に連結される板状の部材であり、短手方向の幅が基体21の幅と略同一に形成されている。基盤31に形成された貫通孔(図示せず)に第2軸状部材23が挿通され、締結部材24(ナット)により締結固定される。基体21と基盤31との間にはライナー33が介設される。ライナー33の厚さを調整することにより連結部30の下面レベルの調整をすることができる。従って、開口部6の周囲の6箇所に配置される中間ブラケット20のライナー33の厚さを調整することにより、空調装置7を開口部6に水平に吊設するよう調整できる。
【0036】
なお、第2軸状部材23の先端と延設部8との間には、第2軸状部材23に締結部材24を着脱できる程度の隙間が形成されている。これにより第2軸状部材23に対して基盤31を着脱可能にできるので、ライナー33の交換を容易にできる。
【0037】
対向部22は、立設部12の対向面を臨む平面が形成され、その平面が立設部12の対向面と平行状に対向している。また、対向部22は、厚さ方向に貫通形成される貫通孔22aが横方向に並設されている。貫通孔22aは、立設部12の貫通孔12aに対応する位置に形成されている。貫通孔22aは、第1軸状部材34が挿通される部位であり、貫通孔12a,22aにより第1軸状部材34が立設部12及び対向部22に貫設される。対向部22と立設部12との間にライナー35が介設され、締結部材36(ナット)により締結固定される。ライナー35の厚さを調整し、ライナー35の両面を立設部12及び対向部22に密着させることにより、一対の立設部12間に対向部22(中間ブラケット20)を拘束できる。
【0038】
なお、対向部22は、立設部12と同様に貫通孔22aが横方向に並設されているので、貫通孔22aを縦方向に並設する場合と比較して、対向部22の高さを低く抑えることができる。立設部12、対向部22及び第2軸状部材23の外板3からの突出高さは略同一に形成されているので、立設部12、対向部22及び第2軸状部材23の上方に配置される延設部8(図2(b)参照)の高さを低く抑えることができる。その結果、延設部8が車両限界の高さを超えないようにできる。これにより、外板3の高さを車両限界近くに設定した場合でも、空調装置7や延設部8が車両限界の高さを超えることを抑制できる。その結果、外板3の高さを車両限界近くに設定することができ、ひいては客室の天井を高くできるので、乗客の快適性を向上できる。
【0039】
ここで、一対の立設部12は屋根構体1の長手方向(鉄道車両のレール方向(図1左右方向))に沿って所定の間隔をあけて配置されているので、鉄道車両が加速または減速した場合に生じる対向部22と立設部12との相対変位は、立設部12により規制される。立設部12は外板3に溶接固定されているので堅牢にできる。立設部12によって対向部22(中間ブラケット20)の相対変位を規制できるので、開口部6に吊設された空調装置7の横方向(鉄道車両のレール方向(図1左右方向))の変位を抑制できる。
【0040】
また、一対の立設部12の対向面(平面)は平行状に配置され、その対向面と平行な対向部22の平面は、ライナー35を介して立設部12と密着している。そのため、屋根構体1が鉛直軸を中心にして水平方向に旋回(ヨーイング)する場合に生じる車体側ブラケット10(立設部12)と中間ブラケット20(対向部22)との相対変位は、立設部12と対向部22とが干渉するため規制される。これにより開口部6に吊設された空調装置7の水平方向の変位を抑制できる。
【0041】
なお、屋根構体1の長手方向(第1軸状部材34の軸方向)に対向部22と立設部12との相対変位が生じる場合には、立設部12が荷重のほとんどを負担するので、第1軸状部材34が負担する荷重は僅かである。これにより第1軸状部材34の寿命を向上できる。
【0042】
一方、走行する鉄道車両にローリングや上下振動、ピッチングが生じる等、屋根構体1の長手方向(鉄道車両のレール方向)と直交方向(第1軸状部材34の軸直角方向)に生じる対向部22と立設部12との相対変位は、立設部12及び対向部22に貫設される第1軸状部材34により規制される。第1軸状部材34によって対向部22(中間ブラケット20)の相対変位を規制できるので、開口部6に吊設された空調装置7の横方向(鉄道車両の枕木方向)の変位を抑制できる。
【0043】
なお、鉄道車両の加速や減速によって生じる屋根構体1のレール方向の加速度に比べて、ローリングや上下振動等によって生じる屋根構体1の短手方向の加速度は小さいので、第1軸状部材34に作用する剪断方向の荷重を抑制できる。これにより第1軸状部材34の寿命を向上できる。
【0044】
また、第1軸状部材34は横方向に配置(横設)されているので、第1軸状部材34が貫設される立設部12及び対向部22の高さ、並びに、第1軸状部材34の縦方向の大きさ(高さ)を小さくできる。これにより立設部12及び対向部22の上方に配置される延設部8の高さを低く抑えることができる。その結果、外板3の高さを車両限界近くに設定した場合でも、空調装置7や延設部8が車両限界の高さを超えることを抑制できる。その結果、外板3の高さを車両限界近くに設定することができ、ひいては客室の天井を高くできるので乗客が圧迫感を覚え難く、乗客の快適性を向上できる。
【0045】
また、第1軸状部材34は横方向に配置されているので、延設部8が低い位置に配置されていても、締結部材36を着脱するのに最低限必要な作業空間を、外板3と延設部8との間に確保できる。これにより締結部材の着脱作業性を確保できる。
【0046】
また、第2軸状部材23が基体21に縦方向に配置されると共に延設部8(基盤31)に連結されるので、屋根構体1のレール方向に生じる基体21と延設部8との相対変位、並びに、屋根構体1の枕木方向に生じる基体21と延設部8との相対変位が第2軸状部材23により規制される。これにより、開口部6に吊設された空調装置7の横方向(屋根構体1のレール方向および枕木方向)の変位を抑制できる。なお、これらの相対変位は連結部30(防振装置32)の変位に起因するものであるから、ごく僅かである。従って、第2軸状部材23の寿命を向上できる。
【0047】
また、第2軸状部材23に固定された締結部材24により、基体21に対する基盤31の上下方向の変位が規制される。なお、基体21に対する基盤31の上下方向の変位は連結部30(防振装置32)の変位に起因するものであるから、ごく僅かである。従って、第2軸状部材23の寿命を向上できる。
【0048】
第2軸状部材23や締結部材24にねじ山が潰れる等の損傷が生じた場合には、第1軸状部材34から締結部材36を取り外し、第1軸状部材34を貫通孔12a,22aから抜脱することにより、車体側ブラケット10から中間ブラケット20を取り外すことができる。次いで、第2軸状部材23から締結部材24及び基盤31を取り外すことにより、基盤31と中間ブラケット20とを簡単に分離できる。これにより中間ブラケット20の交換を容易にできる。
【0049】
図2(a)に戻ってシール部材9について説明する。シール部材9は、互いに所定の間隔をあけて外板に立設された金属製の2本の突条9aの間に底部側が嵌挿され、上部側が突条9aから突出して配置されている。図2(c)に示すように、突条9aの基部側には突条9a間を連絡する底部9bが配設されており、その底部9bによりシール部材9の下方向への移動が規制される。底部9b及び突条9aによりシール部材9の下部側が拘束されるので、空調装置7から横方向に延設される延設部8によりシール部材9を押圧する場合に、シール部材9の上部側を弾性変形させて所定の潰し代を確保できる。これにより、シール部材9と延設部8との間から雨水が開口部6側に浸入することが確実に防止される。また、開口部6の周囲に金属製の突条9aが立設されているので、開口部6に向かって外板3を流れる雨水を突条9aで堰き止めることができる。
【0050】
図2(c)に示すように、固定部11(車体側ブラケット10)が、外板3及び内板4が複数の隔壁5で連結されるダブルスキン構造の中空形材2の外板3の外面3aに溶接固定されているので、車体側ブラケット10を外板3に固定するときに、外板3に孔を穿設する必要がない。
【0051】
ここで、従来は屋根板に孔部を穿設して、その孔部に挿着された軸状部材によって延設部8を支持する手段が採用されていた。中空形材2の外板3に孔部を穿設した場合には、防水性を確保するため、孔部にシール材を施工する必要がある。外板3の外面3a側のシール材の施工は容易であるが、外板3の内面3b側のシール材の施工は内板4や隔壁5に遮られるため困難である。施工が困難な外板3の内面3b側のシール材が不足するので、防水性が低下し易いという問題があった。
【0052】
また、シール材の経年劣化によりシール切れが生じると防水性が低下し、孔部と軸状部材との隙間から雨水が外板3と内板4との間に浸入する。雨水が浸入すると外板3と内板4との間の湿度が高まるので、外板3や内板4、隔壁5が腐食し易くなるという問題があった。
【0053】
これに対し、外板3の外面3aに固定部11(車体側ブラケット10)を溶接することで、外板3に孔を穿設しなくて良いので、外板3の防水性を確保できる。また、孔を塞ぐシール材の施工を不要にできるので、シール材の経年劣化によりシール切れが生じることもなく、外板3の防水性を確保できる。
【0054】
次に図3を参照して、屋根構体1についてさらに説明する。図3(a)は図1のIIIa−IIIa線における鉄道車両の屋根構体1の断面図である。図3(a)に示すように、屋根構体1を構成する中空形材2は、幅方向の中央部分(開口部6の付近)が屈曲線2aで一段低くなるように外板3及び内板4が長手方向に亘って屈曲されている。低くした分だけ、延設部8及び空調装置7の高さを低く抑えることができる。これにより、外板3の高さを車両限界W近くに設定した場合でも、空調装置7や延設部8が車両限界Wの高さを超えることを抑制できる。その結果、外板3の高さを車両限界W近くに設定することができ、空調装置7が配置されない車両の中央付近の天井を高くできる。
【0055】
シール部材9の潰し代は、シール部材9の保持高さが規定される底部9bの位置、シール部材9の高さの他、連結部30の高さによって決定される。外板3から延設部8までの高さは、連結部30の高さによって設定され、その高さによってシール部材9の潰し代が決まるからである。
【0056】
本実施の形態では、基体21(図2(b)参照)は外板3に載置され、対向部22は基体21に立設されている。外板3に載置される基体21の位置は最も低位置である。その基体21に連結部30を介して延設部8が連結されるので、延設部8の高さを低く抑えることができる。そのため、外板3の高さを車両限界W近くに設定した場合でも、空調装置7や延設部8が車両限界Wの高さを超えることを抑制できる。その結果、外板3の高さを車両限界W近くに設定することができる。その結果、客室の天井を高くできる。
【0057】
また、基体21が外板3に載置されることで、基体21から延設部8までの距離を最大限確保できる。そのため、延設部8の高さを抑えたとしても、防振装置32の容積を最大限確保できる。そのため防振装置32の防振性能や耐久性を確保することができる。
【0058】
また、基体21が外板3に載置されるので、延設部8及び空調装置7による荷重を外板3で受けることができ、車体側ブラケット10の重力軸方向に作用する荷重を軽減できる。また、延設部8及び空調装置7による重力軸方向に作用する荷重で中間ブラケット20が変形することを抑制できるので、車体側ブラケット10や中間ブラケット20を軽量化できると共に、それらの寿命を向上できる。
【0059】
次に図3(b)を参照して、シール部材9の取付構造の変形例について説明する。図3(b)は変形例におけるシール部材9の断面図である。なお、本発明の一実施の形態で説明した部分と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0060】
図3(b)に示すようにシール部材9は、底部9bとシール部材9との間に合成樹脂製のライナー40が介設されている。ライナー40が介設されることにより、ライナー40の厚さの分だけシール部材9の高さを高くできる。ライナー40によりシール部材9の高さを調整することで、シール部材9の潰し代を調整できる。
【0061】
また、シール部材9は、突条9aの先端とシール部材9の側面との間にシール材41が施工されている。シール材41は、突条9aの全周(開口部6の全周)に亘って塗布形成されており、突条9aとシール部材9との間を水密にするための部材である。シール材41が施工されることにより、突条9aとシール部材9との間に雨水が浸入することが防止される。突条9aとシール部材9との間に雨水が浸入すると、突条9aから底部9bを伝って反対側の突条9aから開口部6へ雨水が浸入するおそれがある。シール材41を施工することにより、これを防止できる。
【0062】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0063】
また、上記各実施の形態で挙げた数値や形状は一例であり、他の数値や形状を採用することは当然可能である。例えば、開口部6の周囲に配置される車体側ブラケット10の数、立設部12や対向部22に形成される貫通孔12a,22aの数は適宜設定することが可能である。
【0064】
上記実施の形態では、車体側ブラケット10の立設部12及び中間ブラケット20の対向部22を対向させると共に、それらに貫通孔12a,22aを設けて第1軸状部材34及び締結部材36で締結固定する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、車体側ブラケット10の立設部12及び中間ブラケット20の対向部22を対向させ、それらによって、その対向する方向(以下「軸方向」と称す)の相対移動を規制する一方、軸方向と直交する軸直角方向の相対移動を規制するための固定は、車体側ブラケット及び中間ブラケットの形状に応じて、立設部12及び対向部22以外の部位を用いて行うことが可能である。例えば、立設部12及び対向部22以外の部位を対向させ、その対向する部位に貫通孔を連穿し、その貫通孔に軸状部材を挿通することで軸直角方向の相対移動を規制することは当然可能である。
【0065】
また、上記実施の形態では、車体側ブラケット10及び中間ブラケット20の軸直角方向の相対移動を規制するための固定を、立設部12及び対向部22に貫設された第1軸状部材34(軸状部材)を用いて行う場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の部材を用いて相対移動を規制することは当然可能である。他の部材としては、例えば、鉤状に形成された係止部材、クランプ等の締め具が挙げられる。
【0066】
上記実施の形態では、連結部30が防振装置32を備える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、防振装置32を省略して、連結部30を剛体で構成することは当然可能である。防振装置32を省略した場合であっても、連結部30で延設部8を支持して空調装置7を吊設できる。
【0067】
上記実施の形態では、シール部材9が外板3から突設される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、シール部材を延設部8から下向きに突設することは当然可能である。この場合もシール部材9に所定の潰し代を設けることで、雨水の浸入を防止できる。
【符号の説明】
【0068】
1 屋根構体
2 中空形材
3 外板
3a 外面
4 内板
5 隔壁
6 開口部
7 空調装置
8 延設部
9 シール部材
10 車体側ブラケット
12 立設部
20 中間ブラケット
21 基体
22 対向部
23 第2軸状部材
34 第1軸状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外板および内板が複数の隔壁で連結されるダブルスキン構造の中空形材により形成される鉄道車両の屋根構体において、
前記外板および前記内板に貫通形成される開口部と、
その開口部の周囲の前記外板の外面の所定箇所に溶接固定される車体側ブラケットと、
その車体側ブラケットに着脱可能に取着されると共に、前記開口部に吊設される空調装置から横方向に延設されつつ前記外板を下方に臨む延設部に連結される中間ブラケットと、
前記開口部から前記車体側ブラケットまでの前記外板と前記延設部との間に介設されるシール部材とを備えていることを特徴とする鉄道車両の屋根構体。
【請求項2】
前記車体側ブラケットは、
所定の間隔をあけて前記外板に立設される一対の立設部を備え、
前記中間ブラケットは、
前記一対の立設部の間に配置されると共に前記延設部が連結される基体と、
その基体の両側に形成され前記立設部と対向する対向部とを備えていることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両の屋根構体。
【請求項3】
前記基体は、前記外板に載置されるものであり、
前記対向部は、前記基体に立設されていることを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両の屋根構体。
【請求項4】
前記立設部および前記対向部に貫設され横方向に配置される第1軸状部材を備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の鉄道車両の屋根構体。
【請求項5】
前記基体に縦方向に配置されると共に前記延設部に連結される第2軸状部材を備えていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の鉄道車両の屋根構体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−82277(P2013−82277A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222625(P2011−222625)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)