説明

鉄道車両の床構造

【課題】床下からの熱を車内側へ伝わり難くした鉄道車両の床構造を提供すること。
【解決手段】枕木方向に凹部111と凸部112とが交互に形成された波形鋼板の下床11が台枠3上に張られ、その下床11上には床受を介して上床12が支持され、下床11と上床12との間に空間を形成し、下床11の上面に詰物層13が敷き詰められ、更にその上に断熱層14が設けられた二重床であり、床受は、枕木方向に沿って配置される枕木方向床受15と、レール方向に沿って配置されたレール方向床受16とを有し、枕木方向床受15は、下床11の凸部112上面に接合され、レール方向床受16は、下床11とは非接触であって詰物層13に固定されたものであることを特徴とする鉄道車両の床構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下床の上に床受を介して上床が設けられた二重床の鉄道車両の床構造に関し、特に、床下からの熱を車内側へ伝わり難くした鉄道車両の床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には、二重の床構造で構成されたものがある。その床構造は、台枠に下床が張られ、その上面には床受が溶接されて起立し、その床受に支えられるようにして上床が張り渡される。床受はレール方向(車体長手方向)に伸びて配置された板材であり、枕木方向(車体横方向)に複数配置されている。下床と上床とは床受を介して接続されており、両床の間には空間が存在する。そこには、下床の上面に敷き詰められた詰物層が形成され、更にその詰物層の上に断熱層が設けられている。詰物層は、例えば軽量骨材をエポキシ樹脂にアミン化合物を含む硬化剤で結合一体化した材料が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−85452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした従来の床構造は、その構成部材である下床、上床及び床受にステンレスなどの金属が使用されているため、火災時に下から下床が加熱されると、その熱が床受を介して上床に伝わり、車内温度を急激に上昇させることになる。一方で二重の床構造は、床下から車内への振動の伝達を抑えた防振効果を発揮するため、そうした防振効果に加えて昇温防止のための工夫が必要であった。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決すべく、床下からの熱を車内側へ伝わり難くした鉄道車両の床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鉄道車両の床構造は、枕木方向に凹部と凸部とが交互に形成された波形鋼板の下床が台枠上に張られ、その下床上には床受を介して上床が支持され、前記下床と上床との間に空間を形成し、前記下床の上面に詰物層が敷き詰められ、更にその上に断熱層が設けられた二重床であり、前記床受は、枕木方向に沿って配置される枕木方向床受と、レール方向に沿って配置されたレール方向床受とを有し、前記枕木方向床受は、前記下床の凸部上面に接合され、前記レール方向床受は、前記下床とは非接触であって前記詰物層に固定されたものであることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る鉄道車両の床構造は、前記レール方向床受が、前記下床の凹部に配置されたものであることが好ましい。
本発明に係る鉄道車両の床構造は、前記枕木方向床受が、断面がコの字形状の部材であり、その開放端が前記下床の凸部上面に接合され、前記レール方向床受は、断面がL字形状の部材であり、前記上床に略直交して垂れ下がった面の下方端部分が前記詰物層に固定されたものであることが好ましい。
本発明に係る鉄道車両の床構造は、前記枕木方向床受が、前記下床との接触側の前記凹部に対応する位置に切欠部が形成されたものであることが好ましい。
本発明に係る鉄道車両の床構造は、前記枕木方向床受が、前記下床との接触側の前記凸部に対応する位置に切欠部が形成され、枕木方向に見て隣り合う前記切欠部の間には、少なくとも一つの前記凸部に対応する位置に非切欠部が存在し接合されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、枕木方向床受とレール方向床受床受とを有する床受によって二重床を構成したことにより、下床と床受との接触を減らすることができ、よって床受によるヒートブリッジの影響を抑えて昇温を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】床構造の実施形態を示したレール方向から見た車両床の断面図である。
【図2】床構造の実施形態を示した車両床の一部平面図である。
【図3】図2を枕木方向から見た車両床の断面図である。
【図4】簡易燃焼試験の結果をグラフにした図である。
【図5】第2実施形態の枕木方向床受をレール方向から見た図である。
【図6】第3実施形態の枕木方向床受をレール方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係る鉄道車両の床構造について図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態の床構造を示した図であって、レール方向から見た車両床の断面図である。本実施形態の床構造も従来例のものと同様に二重床である。その車両床10は、車体の長手方向に配置された左右の側梁1と、その側梁1間に架け渡された枕梁2と横梁を有する台枠3上に構成されている。台枠3の上には一面に下床11が敷設されている。
【0011】
下床11は、例えばステンレスなどからなる金属性の波形鋼板(キーストンプレート)であり、断面が台形や矩形の凹部111と凸部112とが枕木方向に交互に形成され、その凹部111及び凸部112はレール方向に連続している。下床11の上には、床受を介して上床12が支持され、その上床12が車内の床面を構成している。下床11と上床12との間には空間ができるが、そこには下床11の凹部111を埋めるように詰物層13が敷き詰められ、更に詰物層13の平らな上面には断熱層14が重ねられている。
【0012】
ところで、この車両床10は、従来のものに比べて上床12を支持する床受と下床11との接触部分が少なくなっている。ここで、図2は、本実施形態の床構造を示した図であって、車両床の一部平面図であり、図3は、図2を枕木方向から見た車両床の断面図である。車両床10では、枕木方向に沿って配置される枕木方向床受15と、レール方向に沿って配置されるレール方向床受16によって床受が構成されている。枕木方向床受15は、下床11の凸部112上面に接合され、レール方向床受16は下床11に対しては非接触である。
【0013】
枕木方向床受15は、断面がコの字形状の部材であって、開放端側が下になって下床11の凸部112上面に当てられている。逆に、凹部111の位置では、枕木方向床受15が下床11から浮いている。一方、レール方向床受16は、断面がL字形状の部材であって、上床12と略直交して垂れ下がった面の下方端部分が詰物層13へ差し込まれ、固定されている。レール方向床受16は、凹部111及び凸部112と平行であって、凹部111の位置に合わせて設けられている。
【0014】
レール方向床受16は、その長手方向端部が枕木方向床受15の側面に突き当てられ、その突き当て部分が溶接され、枕木方向床受15とレール方向床受16とが床受として一体になっている。そして、この床受は、枕木方向床受15の開放端側が下床11の凸部112上面に当てられて溶接されるが、レール方向床受16は下床11に対しては浮いた状態になり、非接触である。
【0015】
このような車両床10では、枕木方向床受15及びレール方向床受16からなる床受が下床11の上に溶接された後に、その下床11上にエポキシ樹脂に軽量骨材を含めた詰物剤が流し込まれ、表面が平らになるように整えて硬化させた詰物層13が形成される。その際、詰物層13は、図1に示すように、レール方向床受16の下方端部分が埋まる厚さで形成される。その結果、レール方向床受16は、下床11とは非接触であるが、硬化した詰物層13によって支えられることになる。そして、詰物層13の上に重ねて断熱層14が形成される。断熱層14には、ロックウールやセラミックウールなどが使用される。
【0016】
こうして固定された枕木方向床受15及びレール方向床受16の上には、上床12が載せられ、複数箇所のネジ止めによって固定される。上床12と枕木方向床受15及びレール方向床受16との固定には、その間に床受ライナー17が挟み込まれている。床受ライナー17は、振動防止に加えて耐火性を考慮して耐火ゴムが使用される。そして、上床12の上面にはゴム材からなる床敷物18が貼り付けられている。
【0017】
以上、本実施形態の車両床10は、振動軽減に加えて車内の温度上昇を緩和させることが可能となった。図4は、図2に示す小面積の車両床10の供試体と、同じように作製した従来の車両床の供試体について行った、簡易燃焼試験の結果をグラフにした図であり、縦軸に温度、横軸に時間を示している。簡易燃焼試験では、ガスバーナーを使用した加熱炉によって下床11の下側から加熱し、上床12の上面温度を計測した。なお、従来の車両床の床構造は、レール方向床受によってのみ上床を支持し、そのレール方向床受が下床に直接接合されたものである。
【0018】
この試験結果では、床上温度が80度に達するのに共に15分程度であったが、その後は従来構造と車体床10の本構造との温度上昇に差が生じた。具体的には、床上温度が100度に達するのに、従来構造では23分程であったが、本構造は37分程だった。更に床上温度が200度に達するのに、従来構造では50分程であったが、本構造では1時間経過した時点でも達していなかった。従って、床受(15,16)と下床11との接触を減らした本構造では、床受(15,16)が下床11と上床12とのヒートブリッジとして昇温に及ぼしていた影響を抑え、前述した防振効果と共に昇温を抑制する効果が得られた。
【0019】
更に本実施形態では、下床11と上床12との間に、枕木方向床受15とレール方向床受16を接合した床受を介して二重床としたことにより、従来のものと同様に、床下から車内への振動の伝達を抑えた防振床構造とすることができた。特に、レール方向床受16は下床11とは非接触であり、詰物層13に固定されているため、そのレール方向床受16を伝わる振動は、下床11に直接固定されている従来のものよりも抑えられる。
【0020】
次に、本実施形態の床受のうち特に枕木方向床受について説明する。図5は、第2実施形態の枕木方向床受をレール方向から見た図である。この枕木方向床受21は、図3に示す枕木方向床受15と同様に断面がコの字形状の部材であって、開放端側が下になって下床11の凸部112に当てられている。しかし、その開放端は直線ではなく、複数の切欠部211が形成されている。
【0021】
この切欠部211は、枕木方向床受21の軽量化のために形成されたものである。ここでは、下床11の凹部111の位置に対応して形成されているが、同じく凹部111に配置されたレール方向床受16と重なる箇所は除かれている。枕木方向床受21は、レール方向に複数配置されて、しかもそれぞれが断面コの字形状であるため切欠部211は、両側面に形成される。従って、一つ一つの切欠部211が僅かであっても車体全体において軽量化の効果は大きい。一方で、一つの切欠部211について面積は僅かであるため、剛性への影響はない。
【0022】
続いて、図6に示した第3実施形態の枕木方向床受の他の例について説明する。この枕木方向床受22は、図3に示す枕木方向床受15と同様に断面がコの字形状の部材であって、開放端側が下になって下床11の凸部112に当てられている。そして、この枕木方向床受22にも、その開放端に複数の切欠部221が形成されている。
【0023】
切欠部221は、下床11の凸部112に対応した位置に対応して形成されている。すなわち、切欠部221は、これによって枕木方向床受22の軽量化の効果を得ることもできるが、凸部112との接触を少なくし、熱の伝達を遮断する効果が得られる。ただし、枕木方向床受22は上床12にかかる荷重を支える必要があるため、下床11にも接合していなければならない。そこで、図示するように、凸部112に対して接触と非接触とが交互になるように切欠部221が形成されている。なお、枕木方向床受22の両側面に形成する切欠部221の位置を互いにずらすようにしてもよい。
【0024】
枕木方向床受22は、レール方向に複数配置され、しかもそれぞれが断面コの字形状であるため切欠部211は両側面に形成される。従って、凸部112との接触箇所を半分にすることによって、或いは半分にならないまでも接触箇所を減らすことによって昇温を抑制する効果を向上させることができる。更に本形態でも、一つ一つの切欠部221は僅かであるが、車体全体において軽量化の効果は大きく、一方で一つの切欠部211について面積は僅かであるため、剛性への影響はない。
【0025】
以上、本発明に係る鉄道車両の床構造について実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、レール方向床受16は、全てを必ず下床11と非接触にしなければならない訳ではなく、剛性などを考慮して一部が下床11と接しているようなものであってもよい。
また、枕木方向床受15などは断面がコの字形状のものを示して説明したが、例えば断面がL字形状であってもよい。
また、前記レール方向床受16は、下床11の凹部111に対応して配置したものを示したが、下床11と接しなければ凸部112の位置に配置してもよい。
【符号の説明】
【0026】
10 車両床
11 下床
12 上床
13 詰物層
14 断熱層
15 枕木方向床受
16 レール方向床受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枕木方向に凹部と凸部とが交互に形成された波形鋼板の下床が台枠上に張られ、その下床には床受を介して上床が支持され、前記下床と上床との間に空間を形成し、前記下床の上面に詰物層が敷き詰められ、更にその上に断熱層が設けられた二重床をなす鉄道車両の床構造において、
前記床受は、枕木方向に沿って配置される枕木方向床受と、レール方向に沿って配置されたレール方向床受とを有し、前記枕木方向床受は、前記下床の凸部上面に接合され、前記レール方向床受は、前記下床とは非接触であって前記詰物層に固定されたものであることを特徴とする鉄道車両の床構造。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両の床構造において、
前記レール方向床受は、前記下床の凹部に配置されたものであることを特徴とする鉄道車両の床構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する鉄道車両の床構造において、
前記枕木方向床受は、断面がコの字形状の部材であり、その開放端が前記下床の凸部上面に接合され、前記レール方向床受は、断面がL字形状の部材であり、前記上床に略直交して垂れ下がった面の下方端部分が前記詰物層に固定されたものであることを特徴とする鉄道車両の床構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載する鉄道車両の床構造において、
前記枕木方向床受は、前記下床との接触側の前記凹部に対応する位置に切欠部が形成されたものであることを特徴とする鉄道車両の床構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載する鉄道車両の床構造において、
前記枕木方向床受は、前記下床との接触側の前記凸部に対応する位置に切欠部が形成され、枕木方向に見て隣り合う前記切欠部の間には、少なくとも一つの前記凸部に対応する位置に非切欠部が存在し接合されたものであることを特徴とする鉄道車両の床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101639(P2012−101639A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250872(P2010−250872)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)