説明

鉄道車両の車体姿勢制御システム

【課題】コンパクトな構成でもって車両の高さ調整と傾斜制御との両方を実現することが可能な鉄道車両の車体姿勢制御システムを提供する。
【解決手段】車体3の左右に一対が回転支持され、圧縮空気源からの空気の空気バネ10A,10Bへの供給と空気バネ10A,10Bからの空気の排出とをそれぞれ制御する高さ調整部及び傾斜制御部を有する給排気制御装置30と、これら一対の給排気制御装置30A,30Bにそれぞれ相対回転可能に支持され、車体3左右の台車枠2に対する高さの変化に応じて相対回転するレバー60A,60Bとを設け、高さ調整部及び傾斜制御部がレバー60の相対回転に応じてそれぞれ空気バネ10A,10Bに対する空気の供給及び排出を行うように鉄道車両の姿勢制御システムを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車体姿勢制御システムに係り、特に、台車枠と車体間の左右に配置された一対の空気バネにより、車両の高さ調整及び傾斜制御を行なう鉄道車両の車体姿勢制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が曲線を高速で走行すると、乗客に超過遠心力が働き不快な乗り心地となる。これを緩和するため、曲線走行時に車体を内軌側に傾けることで乗客にかかる超過遠心力を低減させる技術が採用されている。この一例として、在来線特急列車として運用されている振子車両がある。
【0003】
この振子車両は、台車上にコロやベアリング等で回転支持された回転梁を備えており、この回転梁の上に空気バネを介して車体を載せた構造をなしている。この構造により、車両が曲線にさしかかると、台車枠と回転梁との間に構成されたアクチュエータにより回転梁が所定の角度だけ回転させられ、車体の傾斜が図られる。
【0004】
この他、最近の新幹線車両や一部の在来線特急車両で実用化されている「空気バネ車体傾斜」という技術がある(例えば特許文献1参照)。この空気バネ車体傾斜は、曲線に差し掛かると、外軌側の空気バネに空気を強制的に送り込むことで空気バネを伸張させ、車体を内側に傾けるものである。
【0005】
一方、上記のように空気バネを使用する装置として、車体の高さ一定に維持するための自動高さ調整装置(LV)が知られている。この自動高さ調整装置は、車両の左右の高さの検出結果に基づき、これら左右それぞれの高さが一定となるように左右一対の空気バネへの給排気を制御している。
このような自動高さ調整装置を利用した車体傾斜システムが提案され、実用化されている(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47−41165号公報
【非特許文献1】玉置 俊治,「空気バネを利用した車体傾斜装置の開発と効果(その2)」,R&m 2006.6,pp.50〜53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のように空気バネによって車体の高さ調整と傾斜制御との両方を実行しようとする場合、高さ調整用、傾斜制御用の弁装置がそれぞれ別個に必要となるため、構成自体が大掛かりとなり大きなスペースを要してしまうという問題があった。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、コンパクトな構成でもって車両の高さ調整と傾斜制御との両方を実現することが可能な鉄道車両の車体姿勢制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る鉄道車両の車体姿勢制御システムは、台車枠と車体間の左右に一対の空気バネを配置し、車両の圧縮空気源からの空気により前記空気バネを伸縮させることで前記車体の姿勢を制御する鉄道車両の車体姿勢制御システムにおいて、前記車体の左右に一対が回転支持され、前記圧縮空気源からの空気の前記空気バネへの供給と前記空気バネからの空気の排出とをそれぞれ制御する高さ調整部及び傾斜制御部を有する給排気制御装置と、これら一対の給排気制御装置にそれぞれ相対回転可能に支持され、前記車体左右の前記台車枠に対する高さの変化に応じて相対回転するレバーとを備え、前記高さ調整部及び前記傾斜制御部が前記レバーの相対回転に応じてそれぞれ前記空気バネに対する空気の供給及び排出を行うことを特徴とする。
【0010】
このような特徴の車体姿勢制御システムによれば、高さ調整部及び傾斜制御部のそれぞれが、レバーの給排気制御装置に対する相対回転により作動することで、空気バネへの空気の供給及び排出を制御する。これにより、車体の高さの調整を図りながら車体の傾斜制御を行なうことが可能となる。また、車体の高さ調整用の高さ調整部と車体の傾斜制御用の傾斜制御部とがともに給排気制御装置に設けられているため、高さ調整用、傾斜制御用の弁装置をそれぞれ別個に設ける必要はなく、構成自体をコンパクトなものとすることができる。
【0011】
また、本発明に係る鉄道車両の車体姿勢制御システムにおいて、前記高さ調整部は、前記レバーが基準位置から一方向に第一給気角度以上に相対回転した際に前記空気バネに空気を供給するとともに、前記レバーが前記基準位置から他方向に第一排気角度以上に相対回転した際に前記空気バネから空気を排出し、前記傾斜制御部は、前記レバーが前記基準位置から一方向に前記第一給気角度より大きい第二給気角度以上に相対回転した際に前記空気バネに空気を供給するとともに、前記レバーが前記基準位置から他方向に前記第一排気角度より大きい第二排気角度以上に相対回転した際に前記空気バネから空気を排出することを特徴とする。
【0012】
このような特徴の車体姿勢制御システムによれば、レバーが一方向に第一給気角度以上に相対回転した際には、高さ調整部により空気バネに空気が供給され車体の上昇が図られる一方、レバーが他方向に第一排気角度以上相対回転した際には、高さ調整部により空気バネから空気が排出され車体の下降が図られる。これによって、車体の台車枠に対する高さが一定となるように調整することができる。
一方、レバーが一方向に第二給気角度以上に相対回転した際には、高さ調整部に加え傾斜制御部より空気バネに空気が供給され車体の上昇が図られ、レバーが他方向に第二排気角度以上相対回転した際には、高さ調整部に加え傾斜制御部により空気バネから空気が排出され車体の下降が図られる。これによって、車両が曲線を高速で走行する場合には、傾斜制御部の寄与によって車体の高さを曲線に合わせて大きく傾斜させることができる。
【0013】
さらに、本発明に係る鉄道車両の車体姿勢制御システムは、車両が曲線を通過する際に、外軌側に位置する前記給排気制御装置を回転させることで該給排気制御装置に支持された前記レバーを前記一方向に前記第二給気角度以上に相対回転させる回転機構をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
これにより、車両が曲線を通過する際に、外軌側の給排気制御装置に支持されたレバーを強制的に一方向に第二給気角度以上に相対回転させることができるため、外軌側に位置する空気バネを迅速かつ確実に伸張させることができ、即ち、車両が通過する曲線に応じて迅速かつ確実に車体を傾斜させることが可能となる。したがって、乗り心地の向上を図ることが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る鉄道車両の車体姿勢制御システムにおいて、前記回転機構は、車両が曲線を通過する際に、内軌側に位置する前記給排気制御装置を回転させることで該給排気制御装置に支持された前記レバーを前記他方向に前記第二排気角度以上に相対回転させることを特徴とする。
【0016】
これにより車両が曲線を通過する際に、内軌側の給排気制御装置に支持されたレバーを強制的に他方向に第二排気角度以上に相対回転させることができるため、内軌側に位置する空気バネから迅速かつ確実に空気を排出することができる。これによって、外軌側の空気バネを伸張させることに加えて、同時に内軌側の空気バネを収縮させることができるため、曲線を通過する車両の車体をより円滑かつ確実に傾斜させることができる。したがって、更なる乗り心地の向上を図ることが可能となる。
【0017】
さらに、本発明に係る鉄道車両の車体姿勢制御システムにおいて、前記高さ調整部は、前記レバーが前記一方向に前記第一給気角度以上又は前記他方向に前記第一排気角度以上に相対回転した際に時間遅れを伴って作動して、前記空気バネに対する空気の供給又は排出を行い、前記傾斜制御部は、前記レバーが前記一方向に前記第二給気角度以上又は前記他方向に前記第二排気角度以上に相対回転すると同時に作動して、前記空気バネに対する空気の供給又は排出を行うことを特徴とする。
【0018】
レバーが一方向に第一給気角度又は他方向に第一排気角度以上に相対回転した際には、このレバーの相対回転に対して高さ調整部が遅れて作動して空気バネに対する空気の供給又は排出を行うことで、乗客の乗り心地を損なうことなく台車枠に対する車体の高さを適切に調整することができる。
一方、レバーが一方向に第二給気角度又は他方向に第二排気角度以上に相対回転した際には、このレバーの相対回転と同時に傾斜制御部が作動して空気バネに対する空気の供給又は排出を行うことで、迅速な車体の傾斜及び傾斜解除を行なうことができる。この際、傾斜制御部の作動に遅れて高さ調整部も作動することにより、空気バネに対する空気の供給量又は排出量を増加させることができ、より迅速に車体の傾斜及び傾斜解除を実行することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る鉄道車両の車体姿勢制御システムにおいて、前記高さ調整部は、一端が第一給気弁を介して前記圧縮空気源に接続され、他端が第一排気弁を介して大気に接続されるとともに、前記空気バネに連通する第一空気バネ連通口が設けられた高さ調整用流路を備え、前記傾斜制御部は、一端が第二給気弁を介して前記圧縮空気源に接続され、他端が第二排気弁を介して大気に接続されるとともに、前記空気バネに連通する第二空気バネ連通口が設けられた傾斜制御用流路を備え、前記レバーの相対回転に応じて、前記第一給気弁、前記第一排気弁、前記第二給気弁及び前記第二排気弁が開閉することにより、前記高さ調整部及び前記傾斜制御部がそれぞれ前記空気バネに対する空気の供給又は排出を行うことを特徴とする。
【0020】
このような特徴の鉄道車両の車体姿勢制御システムによれば、高さ調整部の第一給気弁及び第一排気弁がレバーの相対回転に応じて開閉するとともに、傾斜制御部の第二給気弁及び第二排気弁がレバーの相対回転に応じて開閉することで、車体の高さ調整を図りながら車体の傾斜制御を行なうことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る車体姿勢制御システムによれば、車体の高さ調整を行う高さ調整部と車体の傾斜制御を行う傾斜制御部とがともに給排気制御装置に設けられているため、構成自体をコンパクトなものとしながら、車体の高さ調整及び傾斜制御を確実に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係る姿勢制御システムを搭載した鉄道車両を進行方向から見た図である。
【図2】車体が標準高さにある場合を示す姿勢制御システムの全体構成図である。
【図3】レバーが標準位置にある状態の給排気制御装置周辺を示す図である。
【図4】レバーが標準位置から一方向に回転した際の状態の給排気制御装置周辺を示す図である。
【図5】レバーが標準位置から他方向に回転した際の状態の給排気制御装置周辺を示す図である。
【図6】給排気制御装置の内部構成を説明する図であって、レバーが標準位置にある状態を示す図である。
【図7】給排気制御装置の内部構成を説明する図であって、レバーが標準位置から第一給気角度まで回転した状態を示す図である。
【図8】給排気制御装置の内部構成を説明する図であって、レバーが標準位置から第一排気角度まで回転した状態を示す図である。
【図9】給排気制御装置の内部構成を説明する図であって、レバーが標準位置から第二給気角度まで回転した状態を示す図である。
【図10】給排気制御装置の内部構成を説明する図であって、レバーが標準位置から第二排気角度まで回転した状態を示す図である。
【図11】回転機構によって給排気制御装置が回転させられた状態を示す図である。
【図12】(a)は車体の高さが標準高さよりも低い位置にある場合の姿勢制御システムの全体構成図、(b)は高さ制御部の作用により空気バネに空気が供給された状態の姿勢制御システムの全体構成図である。
【図13】(a)は車体の高さが標準高さよりも高い位置にある場合の姿勢制御システムの全体構成図、(b)は高さ制御部の作用により空気バネから空気が排出された状態の姿勢制御システムの全体構成図である。
【図14】(a)は鉄道車両1が曲線を通過する際にピストン機構が外軌側の給排気制御装置を回転させた状態の姿勢制御システムの全体構成図、(b)は車両が傾斜している際の姿勢制御システムの全体構成図である。
【図15】排気制御装置の内部構成を説明する図であって、レバーが標準位置から第二排気角度以上まで回転した結果、第一給気弁及び第二給気弁がそれぞれ開口された状態を示す図である。
【図16】回転機構としてピストン機構に代えてウェイトを採用した状態の鉄道車両を進行方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る鉄道車両の車体姿勢制御システム(以下、単に「車体姿勢制御システム」と称する)について図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の車体姿勢制御システム100は、軌道Kを走行レベルとして走行する鉄道車両1における台車枠2に対する車体3の高さ調整及び傾斜制御を行うものである。
【0024】
この鉄道車両1は、軌道K上に配置される一対の車輪4と、該一対の車輪4同士を連結する輪軸5とを備えており、この輪軸5の両端に設けられたバネ体6を介して該輪軸5の上方に上記台車枠2が配置されている。また、台車枠2上には、鉄道車両1の幅方向に離間して配置された左右一対の空気バネ10(10A,10B)が設置されており、これら空気バネ10A,10Bの上方には該空気バネ10A,10Bに支持されるようにして上記車体3が支持されている。
【0025】
ここで、図2を参照して本実施形態の車体姿勢制御システム100の全体構成について説明する。車体姿勢制御システム100は、上述した一対の空気バネ10A,10Bと、圧縮空気源20と、一対の給排気制御装置30(30A,30B)と、給排気制御装置30に支持されたレバー60(60A,60B)と、該レバー60に対して台車枠2を連結する連結棒70(70A,70B)と、給排気制御装置30に接続されたピストン機構(回転機構)80(80A,80B)とを備えている。
【0026】
圧縮空気源20は、鉄道車両1の車体3に設けられており、コンプレッサによって圧縮された空気が貯蔵されている。
【0027】
給排気制御装置30A,30Bは、図1に示すように、車体3の幅方向に離間して該車体3の下部に左右一対が設けられている。これら給排気制御装置30A,30Bは、それぞれ鉄道車両1の進行方向に平行な軸線回りに車体3に対して回転可能となるように該車体3に支持されている。
【0028】
また、一対の給排気制御装置30A,30Bには、一端が圧縮空気源20に接続されて中途で二手に分岐した圧縮空気源側配管21の他端がそれぞれ接続されており、該圧縮空気源側配管21を介して圧縮空気源20から空気が供給されるようになっている。さらに、これら給排気制御装置30A,30Bには、一端が空気バネ10A,10Bに接続された空気バネ側配管11A,11Bの他端が接続されており、これら空気バネ側配管11A,11Bを介して、圧縮空気源20から供給された空気を空気バネ10A,10Bに対して供給することができるようになっている。
【0029】
レバー60A,60Bは、それぞれバー状をなす部材であって、その基端側が上記一対の給排気制御装置30A,30Bに対して回転可能にそれぞれ支持されている。なお、給排気制御装置30A,30Bの車体3に対する回転軸と、レバー60の給排気制御装置30に対する回転軸は同軸とされている。このような一対のレバー60A,60Bは、図2に示すように、互いに向かって延在する水平方向、即ち、鉄道車両1の幅方向内側に延在する向きが初期位置とされている。
【0030】
連結棒70は、一端がそれぞれ上記レバー60A,60Bの先端側に回転可能に連結されるとともに他端が台車枠2の左右両側に対して回転可能に連結されている。この連結棒70と上記レバー60とによって、給排気制御装置30と台車枠2とを接続するリンク機構が構成されている。
【0031】
ここで、車体3の台車枠2に対する高さが予め定めた標準高さとされている場合、図3に示すようにレバー60は初期位置とされ、当該レバー60と台車枠2との上下方向の間隔は連結棒の寸法に応じたものとされている。
【0032】
これに対して、図4に示すように車体3の台車枠2に対する高さが小さくなり、車体3に支持された給排気制御装置30の位置が下方に移動した場合には、レバー60の先端側が連結棒に連結されていることにより、レバー60は給排気制御装置30に対して一方向T1、即ち、レバー60の先端側が基端側に対して上方に向かって回転する方向に回転する。
【0033】
一方、図5に示すように車体3の台車枠2に対する高さが大きくなり、これに伴って、車体3に支持された給排気制御装置30の位置が上方に移動した場合には、レバー60の先端側が連結棒に連結されていることにより、レバー60は給排気制御装置30に対して他方向T2、即ち、レバー60の先端側が基端側に対して下方に向かって回転する方向に回転する。
【0034】
次に、給排気制御装置30の内部構成について説明する。この給排気制御装置30は、図6に示すように、その内部に高さ調整部40と傾斜制御部50とを備えている。これら高さ調整部40及び傾斜制御部50は、それぞれ圧縮空気源20からの空気の空気バネ10A,10Bへの供給と空気バネ10A,10Bからの空気の排出とを制御するものである。
【0035】
高さ調整部40は、図6に示すように、給排気制御装置30の内部に形成された高さ調整用流路41を備えている。この高さ調整用流路41の一端には、圧縮空気源側配管21を介して圧縮空気源20に接続される第一供給口42が形成される一方、他端には、大気に開口する第一排出口43が形成されている。また、この高さ調整用流路41の第一供給口42と第一排出口43との間には、空気バネ側配管11を介して空気バネ10に接続される第一空気バネ連通口44が形成されている。
【0036】
上記第一供給口42には、通常時閉状態とされる第一給気弁45が設けられており、上記第一排出口43には、同じく通常時閉状態とされる第一排気弁46が設けられている。これら第一給気弁45及び第一排気弁46には、互いに近接する方向に向かって延在する被押圧バー45a,46aがそれぞれ設けられており、これら被押圧バー45a,46aが、第一給気弁45及び第一排気弁46の対向方向の外側に向かってそれぞれ押圧されることで、これら第一給気弁45及び第一排気弁46が開状態とされるようになっている。
【0037】
さらに、高さ調整部40は、上記レバー60の基端側に接続された第一押圧部47を備えている。第一押圧部47は、第一給気弁45及び第一排気弁46の被押圧バー45a,46bを押圧することで、これら第一給気弁45及び第一排気弁46をそれぞれ開状態とする役割を有している。この第一押圧部47は、ダンパ及びバネから形成された遅れ要素47aを介してレバー60に接続されており、これにより、レバー60の給排気制御装置30に対する相対回転に時間遅れを伴って追従するように回転する。
なお、レバー60が初期位置にある場合においては、第一押圧部47は、第一給気弁45及び第一排気弁46の被押圧バー45a,46aの間でこれら被押圧バー45a,46aと間隔をあけた状態で配置されている。
【0038】
このような第一押圧部47は、レバー60の給排気制御装置30に対する相対回転に伴って一方向T1及び他方向T2に回転する。
ここで、本実施形態においては、図7に示すように、レバー60の一方向T1に相対回転に伴って第一押圧部47が一方向T1に回転した結果、当該第一押圧部47が第一給気弁45の被押圧バー45aを押圧し、該第一給気弁45が開状態とされ始めるレバー60の初期位置からの角度を第一供給角度θ1sと定義する。一方、図8に示すように、レバー60の他方向T2の相対回転に伴って第一押圧部47が他方向T2に回転した結果、当該第一押圧部47が第一排気弁46の被押圧バー46aを押圧し、該第一排気弁46が開状態とされ始めるレバー60の初期位置からの角度を第一排気角度θ1eと定義する。
【0039】
傾斜制御部50は、図6に示すように、給排気制御装置30の内部に形成された傾斜制御用流路51を備えている。この傾斜制御用流路51の一端には、圧縮空気源側配管21を介して圧縮空気源20に接続される第二供給口52が形成される一方、他端には大気に開口する第二排出口53が形成されている。
また、この傾斜制御用流路51の第二供給口52と第二排出口53との間には、空気バネ側配管11を介して空気バネ10に接続される第二空気バネ連通口54が形成されている。
【0040】
本実施形態においては、例えば傾斜制御用流路51が給排気制御装置30の回転中心を対称中心として、上記高さ調整用流路41に対して180°の点対称となるように形成されている。したがって、高さ調整用流路41の第一供給口42及び傾斜制御用流路51の第二供給口52は互いに反対側を向いており、また、高さ調整用流路41の第一排出口43及び傾斜制御用流路51の第二排出口53は互いに反対側を向いている。換言すれば、高さ調整用流路41の第一供給口42と傾斜制御用流路51の第二排出口53が同様の向きを向いており、高さ調整用流路41の第一排出口43と傾斜制御用流路51の第二供給口52が同様の向きを向いているのである。
なお、傾斜制御用流路51は高さ調整用流路41に対して180°の点対称となるように必ずしも形成されていなくともよく、これら傾斜制御用流路51及び高さ調整用流路41は給排気制御装置30の設計に応じて任意の配置とすることができる。
【0041】
上記第二供給口52には、通常時閉状態とされた第二給気弁55が設けられており、上記第二排出口53には、同じく通常時閉状態とされた第二排気弁56が設けられている。これら第二給気弁55及び第二排気弁56には、互いに近接する方向に向かって延在する被押圧バー55a,56aがそれぞれ設けられており、これら被押圧バー55a,56aが、第二給気弁55及び第二排気弁56の対向方向の外側に向かってそれぞれ押圧されることで、これら第二給気弁55及び第二排気弁56が開状態とされるようになっている。
【0042】
また、この傾斜制御部50は、上記レバー60の基端側に接続された第二押圧部57を備えている。第二押圧部57は、第二給気弁55及び第二排気弁56の被押圧バー55a,56aを押圧することで、これら第二給気弁55及び第二排気弁56をそれぞれ開状態とする役割を有している。この第二押圧部57は、レバー60に対して剛に接続されており、即ち、レバー60に対して不動に固定されている。これにより、レバー60の給排気制御装置30に対する相対回転に伴って、時間遅れが生ずることなく同時に回転する。
なお、レバー60が初期位置にある場合においては、第二押圧部57は、第二給気弁55及び第二排気弁56の被押圧バー55a,56aの間でこれら被押圧バー55a,56aと間隔をあけた状態で配置されている。また、この第二押圧部57の第二給気弁55及び第二排気弁56の被押圧バー55a,56aとの間隔は、第一押圧部47の第一給気弁45及び第一排気弁46の被押圧バー45a,46aとの間隔よりも大きく設定されている。
【0043】
このような第二押圧部57は、レバー60の給排気制御装置30に対する相対回転に伴って一方向T1及び他方向T2に回転する。
ここで、本実施形態においては、図9に示すように、レバー60の一方向T1に相対回転に伴って第二押圧部57が一方向T1に回転した結果、当該第二押圧部57が第二給気弁55の被押圧バー55aを押圧し、該第二給気弁55が開状態とされ始めるレバー60の初期位置からの角度を第二供給角度θ2sと定義する。一方、図10に示すように、レバー60の他方向T2への相対回転に伴って第二押圧部57が他方向T2に回転した結果、当該第二押圧部57が第二排気弁56の被押圧バー56aを押圧し、該第二排気弁56が開状態とされ始めるレバー60の初期位置からの角度を第二排気角度θ2eと定義する。
【0044】
なお、上述したように、第二押圧部57の第二給気弁55及び第二排気弁56の被押圧バー55a,56aとの間隔は、第一押圧部47の第一給気弁45及び第一排気弁46の被押圧バー45a,46aとの間隔よりも大きく設定されていることから、第二給気角度θ2sは第一給気角度θ1sよりも大きい角度とされ、第二排気角度θ2eは第一排気角度θ1eよりも大きい角度とされている。
【0045】
ピストン機構80は、それぞれ給排気制御装置30を車体3に対して強制的に相対回転させるための機構であって、車体3に固定されたシリンダ81と、該シリンダ81から突出可能とされたロッド82とを備えている。本実施形態においては、このピストン機構80は、それぞれ一対の給排気制御装置30の対向方向内側に一対が設けられており、即ち、車体3の左右に一対が設けられている。
【0046】
ピストン機構80におけるロッド82の先端は、給排気制御装置30から下方に向かって延在する凸部31に対して、互いに回動可能に連結されている。また、ロッド82は、シリンダ81から給排気制御装置30の対向方向外側に向かって突出可能とされている。このような構成により、ロッド82がシリンダ81から突出した際には、給排気制御装置30の凸部31をそれぞれ給排気制御装置30の対向方向外側に向かって押圧され、給排気制御装置30は、それぞれ他方向T2に向かって回転する。これによって、ピストン機構80のロッド82が突出することで、給排気制御装置30に相対回転可能に支持されたレバー60が、一方向T1に相対回転することになる。
【0047】
上記ピストン機構80は、図示しない制御装置によって制御されることにより、鉄道車両1が曲線を通過する際にのみ、車体3の左右一対のピストン機構80のうち外軌側に位置するピストン機構80が作動するようになっている。即ち、鉄道車両1が曲線に入る際に外軌側のピストン機構80のロッド82が突出し、鉄道車両1が曲線を通過時にはロッド82は突出状態とされる。そして、鉄道車両1が曲線から脱出する際には、ロッド82が後退し、ピストン機構80が通常の状態に復帰する。
【0048】
ここで、本実施形態においては、ピストン機構80のロッド82の突出長は、図11に示すように、給排気制御装置30を車両1に対して回転させることにより、レバー60が給排気制御装置30に対して一方向に第二給気角度θ2s以上に相対回転させることができる寸法に設定されている。これにより、鉄道車両1が曲線を通過する際には、外軌側に位置する給排気制御装置30のレバー60が該給排気制御装置30に対して一方向に第二給気角度θ2s以上相対回転することになる。
【0049】
次に、以上のような構成の車体姿勢制御システム100の作用について説明する。
まず、車体姿勢制御システム100による車体3の台車枠2に対する高さ調整機能から説明する。この高さ調整機能によって車体3の台車枠2に対する高さが一定に保持され、乗客の乗り心地の向上が図られる。
【0050】
車体3の台車枠2に対する高さが標準高さよりも小さくなると、図12(a)に示すように、左右一対の給排気制御装置30に支持されたレバー60は、給排気制御装置30に対して一方向T1に相対回動する。この際、当該レバー60の一方向T1の回転角度が第一給気角度θ1s以上となると、図7に示すように、このレバー60の回転に時間遅れを伴って、給排気制御装置30の高さ調整部40における第一押圧部47が第一給気弁45の被押圧バー45aを押圧し、通常時閉状態とされている第一給気弁45が開状態となる。この際、第一排気弁46は閉状態とされる。
【0051】
その結果、高さ調整部40においては、高さ調整用流路41の第一供給口42から圧縮空気源20からの空気が導入され、当該空気が第一空気バネ連通口44を介して空気バネ10A,10Bにそれぞれ供給される。これによって、各空気バネ10A,10Bがそれぞれ上下方向に伸張し、台車枠2上に空気バネ10A,10Bを介して支持された車体3が上方に持ち上げられることにより該車体3の高さが上昇する。
【0052】
そして、車体3の高さが上昇して該車体3の高さが標準高さに近づくと、レバー60の給排気制御装置30に対する相対回転角度が第一給気角度θ1s未満となる。すると、第一押圧部47による第一給気弁45の被押圧バー45aの押圧が解除され、第一給気弁45が閉状態となる。その結果、空気バネ10A,10Bへの空気の供給が停止される。
【0053】
一方、車体3の台車枠2に対する高さが標準高さよりも大きくなると、図13(a)に示すように、左右一対の給排気制御装置30に支持されたレバー60は、給排気制御装置30に対して他方向T2に相対回動する。この際、当該レバー60の他方向T2の回転角度が第一排気角度θ1e以上となると、図8に示すように、このレバー60の回転に時間遅れを伴って、給排気制御装置30の高さ調整部40における第一押圧部47が第一排気弁46の被押圧バー46aを押圧し、通常時閉状態とされている第一排気弁46が開状態となる。この際、第一給気弁45は閉状態とされる。
【0054】
その結果、高さ調整部40においては、第一排出口43と第一空気バネ連通口44が連通状態となり、空気バネ10A内に存在する圧縮された空気が高さ調整用流路41、第一排出口43を介して大気に排出される。これによって、各空気バネ10A,10Bがそれぞれ上下方向に収縮し、台車枠2上にこれら空気バネ10A,10Bを介して支持された車体3の高さが降下する。
【0055】
そして、車体3の高さが下降して該車体3の高さが標準高さに近づくと、レバー60の給排気制御装置30に対する相対回転角度が第一排気角度θ1e未満となる。すると、第一押圧部47による第一排気弁46の被押圧バー46aの押圧が解除され、第一排気弁46が閉状態となる。その結果、空気バネ10A,10Bへの空気の供給が停止される。
【0056】
このように、本実施形態の車体姿勢制御システム100においては、車体3が上昇又は降下した際に給排気制御装置30の高さ調整部40が空気バネ10A,10Bに対して空気の供給及び排出を行うことにより、車体3の台車枠2に対する高さを一定に保持することができる。
なお、ここでは、車体3の左右の高さが同時に上昇又は下降した場合の車体姿勢制御システム100の作用について説明したが、車体3の左右いずれか一方が上昇又は下降した場合であっても、左右の給排気制御装置30における高さ調整部40がそれぞれ別個に作動することにより、車体3の台車枠2に対する高さを一定に保持することができる。
【0057】
次に、車体姿勢制御システム100による車体3の傾斜制御機能について説明する。
鉄道車両1が軌道K上を走行して曲線に入り込む際には、図示しない制御部の指令によって、図14(a)に示すように、一対のピストン機構80A,80Bのうち外軌側に位置するピストン機構80Aが作動する。これによって、ピストン機構80Aのロッド82がシリンダ81から突出して給排気制御装置30Aを車体3に対して相対回転させ、その結果、該給排気制御装置30Aに支持されたレバー60Aがこの給排気制御装置30Aに対して第二給気角度θ2s以上に相対回転する。即ち、ピストン機構80Aの作用によって、外軌側に位置するレバー60Aが給排気制御装置30Aに対して一方向T1に第二給気角度θ2s以上に相対回転させられる。
【0058】
すると図9に示すように、レバー60Aに剛に接続された第二押圧部57が該レバー60Aと同時に回転することにより、レバー60Aの相対回転に遅れることなく、傾斜制御用流路51の第二供給口52に設けられた第二給気弁55の被押圧バー55aを押圧する。これにより、第二給気弁55が開状態とされる。
なお、この際、第二排気弁56は閉状態とされている。また、高さ調整部40の第一押圧部47はレバー60Aの相対回転に対して時間遅れを伴って第一給気弁45の被押圧バー45aを押圧するため、この段階では、第一給気弁45が開状態とされることはなく通常時と同様閉状態とされている。
【0059】
上記のように第二給気弁55が開状態とされると、第二供給口52を介して傾斜制御用流路51内に圧縮空気源20からの空気が導入され、当該空気が第二空気バネ連通口を介して外軌側の空気バネ10Aに供給される。
また、図15に示すように、上記レバー60の相対回転に遅れて第一押圧部47が高さ調整部40における第一給気弁45の被押圧バー45aを押圧することにより、上記の傾斜制御部50による空気バネ10Aに対しての空気の供給に遅れて、高さ調整部40による空気バネ10Aに対して空気の供給が行われる。
【0060】
このように一対の空気バネ10A,10Bのうち、外軌側の空気バネ10Aのみに空気が供給されると、図14(b)に示すように、該空気バネ10Aが上下方向に伸張していく。その結果、車体3の外軌側のみのが台車枠2に対して持ち上げられることにより、車体3はその幅方向において外軌側に向かうに従って漸次上方に傾斜した状態となる。
【0061】
そして、空気バネ10Aが伸張して車体3が上記のように傾斜し、車体3の外軌側の台車枠からの高さのみが大きくなると、当該外軌側のレバー60Aの先端側が連結棒70に連結されていることにより、該レバー60Aが他方向T2に相対回転する。
これにより、レバー60Aの給排気制御装置30に対する一方向T1の相対回転角度が第二給気角度θ2s未満となると、第二押圧部57による第二給気弁55の被押圧バー55aの押圧が解除され、第二給気弁55は閉状態となり、傾斜制御部50による空気バネ10Aへの空気の供給が停止される。同様に、レバー60Aの給排気制御装置30に対する一方向T1の相対回転角度が第一給気角度θ1s未満となると、第一押圧部47による第一給気弁45の被押圧バー45aの押圧が解除され、第一給気弁45は閉状態となり、高さ調整部40による空気バネ10Aへの空気の供給が停止される。このようにして、外軌側の空気バネ10Aのみが伸張した状態が維持され、車体3の傾斜状態が保持される。
【0062】
そして、上記のように車体3を傾斜状態として曲線を通過する鉄道車両1が曲線の終わりに差し掛かると、図示しない制御部の指令によって、ピストン機構80のロッド82がシリンダ81内に後退し、即ち、ピストン機構80の突出状態が解除される。これによって、ピストン機構80による給排気制御装置30の回転が解除されると、該給排気制御装置30が水平状態に復帰するように一方向T1に回転し、この際、レバー60Aは、給排気制御装置に対して他方向T2に相対回転する。
【0063】
そして、このようなレバー60Aの他方向T2への相対回転が、基準位置から第二排気角度θ2e以上となると、レバー60Aに剛に連結された第二押圧部57が第二排気弁56の被押圧バー56aを押圧することにより傾斜制御用流路51の第二排出口53が開放状態となる。さらに、これに遅れるようにして、レバー60Aに遅れ要素47aを介して連結された第一押圧部47が第一排気弁46の被押圧バー46aを押圧することで、高さ調整用流路41の第一排出口43が開放状態となる。これによって、空気バネ10A内の空気が排出され、空気バネ10Aが上下方向に伸縮していく。
【0064】
そして、空気バネ10Aが伸縮することにともなってレバー60Aと給排気制御装置30に対する相対角度が第二排出角度θ2e未満となると第二排気弁56が閉状態となり、さらに、当該相対角度が第一排出角度θ1e未満となると第一排気弁46が閉状態となる。これにより空気バネ10Aからの空気の排出が完了し、車体3が水平状態に復帰する。
【0065】
以上のように、本実施形態の車体姿勢制御システム100によれば、高さ調整部40及び傾斜制御部50のそれぞれが、レバー60の給排気制御装置30に対する相対回転により作動することで、空気バネ10A,10Bへの空気の供給及び排出を制御するため、車体3の高さの調整を図りながら車体3の傾斜制御を行なうことが可能となる。また、車体3の高さ調整用の高さ調整部40と車体3の傾斜制御用の傾斜制御部50とがともに給排気制御装置30に設けられているため、高さ調整用、傾斜制御用の弁装置をそれぞれ別個に設ける必要はなく、構成自体をコンパクトなものとすることができる。
【0066】
また、レバー60が一方向T1に第一給気角度θ1s以上に相対回転した際には、高さ調整部40により空気バネ10A,10Bに空気が供給され車体3の上昇が図られる一方、レバーが他方向T2に第一排気角度θ1e以上相対回転した際には、高さ調整部40により空気バネ10A,10Bから空気が排出され車体3の下降が図られる。これによって、車体3の台車枠2に対する高さが一定となるように調整することができる。
【0067】
一方、レバー60が一方向T1に第二給気角度θ2s以上に相対回転した際には、高さ調整部40に加え傾斜制御部50より空気バネ10A,10Bに空気が供給され車体3の上昇が図られ、レバー60が他方向T2に第二排気角度θ2e以上相対回転した際には、高さ調整部40に加え傾斜制御部50により空気バネ10A,10Bから空気が排出され車体3の下降が図られる。これによって、車体3が曲線を高速で走行する場合には、傾斜制御部50の寄与によって車体3の高さを曲線に合わせて大きく傾斜させることができる。
【0068】
さらに、車両が曲線を通過する際には、ピストン機構80によって、外軌側の給排気制御装置30に支持されたレバー60を強制的に一方向T1に第二給気角度θ2s以上に相対回転させることができるため、外軌側に位置する空気バネ10A,10Bを迅速かつ確実に伸張させることができる。即ち、鉄道車両1が通過する曲線に応じて迅速かつ確実に車体3を傾斜させることが可能となり、乗り心地の向上を図ることができる。
また、当該ピストン機構80による給排気制御装置30の相対回転角度を適宜設定することにより、車体3の傾斜量を容易に調整することが可能となる。
【0069】
また、レバー60が一方向T1に第一給気角度θ1s又は他方向T2に第一排気角度θ1e以上に相対回転した際には、このレバー60の相対回転に対して傾斜制御部50が遅れて作動して空気バネ10A,10Bに対する空気の供給又は排出を行うことで、乗客の乗り心地を損なうことなく台車枠2に対する車体3の高さを適切に調整することができる。
一方、レバー60が一方向T1に第二給気角度θ2s又は他方向T2に第二排気角度θ2e以上に相対回転した際には、このレバー60の相対回転と同時に傾斜制御部50が作動して空気バネ10A,10Bに対する空気の供給又は排出を行うことで、迅速な車体3の傾斜及び傾斜解除を行なうことができる。この際、傾斜制御部50の作動に遅れて高さ調整部40も作動することにより、空気バネ10A,10Bに対する空気の供給量又は排出量を増加させることができ、より迅速に車体3の傾斜及び傾斜解除を実行することができる。
【0070】
また、本実施形態においては、高さ調整部40における高さ調整用流路41の第一供給口42及び傾斜制御部50における傾斜制御用流路51の第二供給口52の開口面積を適宜調整することにより、車体3の高さの上昇速度及び下降速度や、車体3の傾斜速度及び傾斜解除速度を任意に調整することができる。特に、傾斜制御用流路51の第二供給口52の開口面積を広く形成しておけば、車体3が曲線を通過する際に当該車体3をより迅速に傾斜させることが可能となる。
【0071】
さらに、第二給気弁55の閉状態から開状態に切り替わる際に、レバー60の相対角度が大きくなるに連れて第二給気弁55の開状態の開口面積が大きくなるようにすれば、車体3の傾斜速度を容易に調整することができる。このように傾斜速度を調整することで、乗客の乗り心地を損なうことなく、車体3の傾斜を図ることができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。
例えば、本実施形態においては、鉄道車両1が曲線を通過する際に、外軌側のピストン機構80Aが外軌側の給排気制御装置30Aを車体3に対して他方向T2に相対回転させることで当該外軌側のレバー60Aを一方向T1に第二給気角度θ2s以上回転させる構成としたが、これに加えて、内軌側のピストン機構80Bが内軌側の給排気制御装置30Bを車体3に対して一方向T1に相対回転させることでレバー60Bを他方向T2に第二排気角度θ2e以上回転させるように構成されていてもよい。この際の内軌側のピストン機構80Bの作動も、内軌側のピストン機構80Aと同様図示しない制御部の指令によって行なわれる。
【0073】
これにより、鉄道車両1が曲線を通過する際に、内軌側の給排気制御装置30Bに支持されたレバー60Bを強制的に他方向T2に第二排気角度θ2e以上に相対回転させることができるため、内軌側に位置する空気バネ10Bから迅速かつ確実に空気を排出することができる。これによって、外軌側の空気バネ10Aを伸張させることに加えて、同時に内軌側の空気バネ10Bを収縮させることができるため、曲線を通過する鉄道車両1の車体3をより円滑かつ確実に傾斜させることができる。したがって、更なる乗り心地の向上を図ることが可能となる。
なお、この場合、左右一対の空気バネ10A,10Bのいずれか一方を収縮させるため、これら空気バネ10A,10Bを適切に収縮させることができるように、空気バネ10A,10Bに予め空気を供給した状態にし、これら空気バネ10A,10Bの初期高さをある程度確保しておく必要がある。
【0074】
また、実施形態においては、曲線通過時に給排気制御装置30を回転させることでレバー60を相対回転させる回転機構としてピストン機構80を採用したが、これに代えて、図16に示すように、左右それぞれの給排気制御装置30の下部に配置されるウェイト90を採用してもよい。この場合、鉄道車両1が曲線を通過する際の遠心力がウェイト90に作用することにより、外軌側の給排気制御装置30は他方向T2に回転させられ、内軌側の給排気制御装置30は一方向T1に回転させられる。その結果、外軌側のレバー60Aを一方向T1に回転させ、内軌側のレバー60Bを他方向T2に回転させることができるため、外軌側の空気バネ10Aを伸張させるとともに内軌側の空気バネを収縮させて車体3を容易に傾斜させることができる。
【0075】
また、この際、ウェイト90の遠心力によって生じる該ウェイト90の傾斜角度を増幅させて給排気制御装置30を車体3に対して傾斜させる倍速機構が設けられていてもよい。このような倍速機構は、ウェイト90の傾斜角度を歯車を介して給排気制御装置30に伝達させることで容易に実現することができる。これによって、鉄道車両1が曲線を通過する際に、給排気制御装置30を十分に車体3に対して相対回転させて、レバー60を給排気制御装置30に対して第二給気角度θ2s又は第二排気角度θ2e以上に相対回転させることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 鉄道車両
2 台車枠
3 車体
4 車輪
5 輪軸
6 バネ体
10 空気バネ
10A 空気バネ
10B 空気バネ
11 空気バネ側配管
11A 空気バネ側配管
11B 空気バネ側配管
20 圧縮空気源
21 圧縮空気源側配管
30 給排気制御装置
30A 給排気制御装置
30B 給排気制御装置
31 凸部
40 高さ調整部
41 高さ調整用流路
42 第一供給口
43 第一排出口
44 第一空気バネ連通口
45 第一給気弁
45a 被押圧バー
46 第一排気弁
46a 被押圧バー
47 第一押圧部
47a 遅れ要素
50 傾斜制御部
51 傾斜制御用流路
52 第二供給口
53 第二排出口
54 第二空気バネ連通口
55 第二給気弁
55a 被押圧バー
56 第二排気弁
56a 被押圧バー
57 第二押圧部
60 レバー
60A レバー
60B レバー
70 連結棒
70A 連結棒
70B 連結棒
80 ピストン機構(回転機構)
80A ピストン機構
80B ピストン機構
81 シリンダ
82 ロッド
90 ウェイト(回転機構)
100 車体姿勢制御システム
T1 一方向
T2 他方向
θ1s 第一給気角度
θ1e 第一排気角度
θ2s 第二給気角度
θ2e 第二排気角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車枠と車体間の左右に一対の空気バネを配置し、車両の圧縮空気源からの空気により前記空気バネを伸縮させることで前記車体の姿勢を制御する鉄道車両の車体姿勢制御システムにおいて、
前記車体の左右に一対が回転支持され、前記圧縮空気源からの空気の前記空気バネへの供給と前記空気バネからの空気の排出とをそれぞれ制御する高さ調整部及び傾斜制御部を有する給排気制御装置と、
これら一対の給排気制御装置にそれぞれ相対回転可能に支持され、前記車体左右の前記台車枠に対する高さの変化に応じて相対回転するレバーとを備え、
前記高さ調整部及び前記傾斜制御部が前記レバーの相対回転に応じてそれぞれ前記空気バネに対する空気の供給及び排出を行うことを特徴とする鉄道車両の車体姿勢制御システム。
【請求項2】
前記高さ調整部は、前記レバーが基準位置から一方向に第一給気角度以上に相対回転した際に前記空気バネに空気を供給するとともに、前記レバーが前記基準位置から他方向に第一排気角度以上に相対回転した際に前記空気バネから空気を排出し、
前記傾斜制御部は、前記レバーが前記基準位置から一方向に前記第一給気角度より大きい第二給気角度以上に相対回転した際に前記空気バネに空気を供給するとともに、前記レバーが前記基準位置から他方向に前記第一排気角度より大きい第二排気角度以上に相対回転した際に前記空気バネから空気を排出することを特徴とする請求項1に記載の車体姿勢制御システム。
【請求項3】
車両が曲線を通過する際に、外軌側に位置する前記給排気制御装置を回転させることで該給排気制御装置に支持された前記レバーを前記一方向に前記第二給気角度以上に相対回転させる回転機構をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両の車体姿勢制御システム。
【請求項4】
前記回転機構は、
車両が曲線を通過する際に、内軌側に位置する前記給排気制御装置を回転させることで該給排気制御装置に支持された前記レバーを前記他方向に前記第二排気角度以上に相対回転させることを特徴とする請求項3に記載の鉄道車両の車体姿勢制御システム。
【請求項5】
前記高さ調整部は、前記レバーが前記一方向に前記第一給気角度以上又は前記他方向に前記第一排気角度以上に相対回転した際に、時間遅れを伴って前記空気バネに対する空気の供給又は排出を行い、
前記傾斜制御部は、前記レバーが前記一方向に前記第二給気角度以上又は前記他方向に前記第二排気角度以上に相対回転した際に、同時に前記空気バネに対する空気の供給又は排出を行うことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の鉄道車両の車体姿勢制御システム。
【請求項6】
前記高さ調整部は、
一端が第一給気弁を介して前記圧縮空気源に接続され、他端が第一排気弁を介して大気に接続されるとともに、前記空気バネに連通する第一空気バネ連通口が設けられた高さ調整用流路を備え、
前記傾斜制御部は、
一端が第二給気弁を介して前記圧縮空気源に接続され、他端が第二排気弁を介して大気に接続されるとともに、前記空気バネに連通する第二空気バネ連通口が設けられた傾斜制御用流路を備え、
前記レバーの相対回転に応じて、前記第一給気弁、前記第一排気弁、前記第二給気弁及び前記第二排気弁が開閉することにより、前記高さ調整部及び前記傾斜制御部がそれぞれ前記空気バネに対する空気の供給又は排出を行うことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の鉄道車両の車体姿勢制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−86656(P2012−86656A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234547(P2010−234547)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)