説明

鉄道車両の運転室構造

【課題】身長が低い運転士であっても、不安定な姿勢を取らずに楽に運転座席に座ることができ、また車両直前を見るために運転座席から伸びあがることができる運転室構造を提供すること。
【解決手段】運転台および運転座席を備える鉄道車両の運転室構造であって、運転台は、天板と、天板の下方に設けられた足台と、前記足台を延長する足台延長板とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、鉄道車両の運転室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、鉄道車両の運転室は、図7に示すように、運転台52と運転座席54とを備えている。運転台52の上部には、運転操作部や各種計器の表示部などが配置された天板56があり、天板56の下方には、足台58が設けられている。
【0003】
従来の運転台52の足台58は、その前端部58a、すなわち運転座席54に座る運転士1の側の端部が、天板56の前端部56aと同じ位置、もしくはそれより奥まった位置(運転台52の内部側に引っ込んだ位置)にあった。これは、足台58が、運転中の運転士1の足置きとしての使用が想定されていたためである。
【0004】
近年、女性運転士の増加などにより、従来よりも身長の低い運転士も増加している。身長が低い運転士は、運転座席54に座ったり立ったりする際や、運転座席54を調節する際に、足台58に上ることがある。しかし、足台58が天板56の前端部よりも後ろ側(運転台52の内部側、車両進行方向の前側)にあるため、足台58に上ったときに、腰を曲げた不安定な姿勢となってしまう。
【0005】
運転士の体型の違いを考慮した運転台として、例えば特許文献1には、運転台床部に高さ位置を調節できる踏み段装置を設置することが提案されている。しかし、この踏み段装置は、運転士が運転座席に座ったときの運転台床面、すなわち図6における足台58に相当する部分の高さを調節可能にするものであり、単に、運転台床面(足台58)の上に設置されている。すなわち、上記踏み台装置は、運転台(52)の天板(56)の前端部よりも内側に設置される。そのため、運転士がその踏み台装置に足を掛けて運転座席に座ったり運転席から立ったりする場合、やはり腰を曲げた不安定な姿勢となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−324614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、身長が低い運転士であっても、不安定な姿勢を取らずに楽に運転座席に座ることができ、また車両直前を見るために運転座席から伸びあがることができる運転室構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、運転台および運転座席を備える鉄道車両の運転室構造であって、前記運転台は、天板と、天板の下方に設けられた足台と、前記足台を延長する足台延長板とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、前記足台延長板は、前記足台に対して出し入れ可能であってもよい。
【0010】
また、前記足台延長板は、前記足台の運転座席側先端部分近傍を軸として回動することにより、前記足台に対して出し入れ可能に取り付けられていてもよい。また、前記足台延長板は、前記足台の内部に収納されており、前記足台の運転座席側端面から前記運転座席側へ引き出されることにより、前記足台を延長することとしてもよい。また、前記足台延長板は、前記運転台が接地された床面の、前記足台の運転座席側端面に接する位置に収納されており、前記床面から上方へ引き出されることにより、前記足台を延長することとしてもよい。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明は、運転台および運転座席の近傍にドアを備える鉄道車両の運転室構造であって、前記ドアが設置された床面よりも上方に、該前記ドアから出し入れ可能な足台延長板が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、身長が低い運転士であっても、不安定な姿勢を取らずに楽に運転座席に座ったり運転座席から立ったりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の運転室構造の一例を示す側面図である。
【図2】足台延長板の一例を示す側面図である。
【図3】足台延長板の他の例を示す側面図である。
【図4】足台延長板の他の例を示す側面図である。
【図5】足台延長板の他の例を示す側面図である。
【図6】本発明の運転室構造の一例を示す斜視図である。
【図7】従来の運転室の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の運転室構造について、図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態を概念的に示す側面図である。運転室10は、鉄道車両の先頭車両に設けられており、運転台12と、運転座席14とを備えている。図中左側が鉄道車両の進行方向であり、運転士1は、運転台12に向かって運転座席14に着席する。
【0016】
運転台12は、上部に、運転操作部や各種計器の表示部などが配置された天板16を有し、天板16の下方には、足台18が設けられている。足台18の運転座席14側の端部(前端部)18aは、天板16の運転座席14側の端部(前端部)16aと、ほぼ同一の垂直線上にある。足台18の上部には空間が設けられており、運転座席14に座った運転士1の足が入るようになっている。なお、本実施形態では、運転座席14側から運転台12の内側に向かって略水平な足台18が設けられているが、足台18は、必ずしも運転座席14側から運転台12の内側に向かって略水平である必要はなく、例えば、運転座席側14から運転台12の内側に向かって傾斜するような足台18とすることもできる。
【0017】
足台18の運転座席14側部分には、足台延長板20が設けられている。足台延長板20は、運転座席14側に突出して設けられており、足台18を運転座席14側へ延長している。足台延長板20は、その上面と、足台18の上面とがほぼ同じ高さとなるように設けられている必要はなく、必要に応じて、足台延長板20の上面が、足台18の上面よりも高く、又は低くなるように設けることもできる。足台延長板20は、天板16の前端部16aよりも運転座席14側へ延びていればよいが、運転士1が足を掛けてほぼ垂直に立てる程度突出しているのが好ましく、例えば、天板16の前端部16aよりも75mm以上突出しているのが好ましい。
【0018】
運転士1が小柄な人(身長が低い人運転士等)である場合、運転座席14に座るときに、まず足台延長板20に上がってから運転座席14に座ることで、運転座席14に楽に座ることができる。本発明によれば、足台延長板20が運転台12の前面、すなわち天板16の前端部16aよりも手前側に突出して設けられているので、運転士1は、足台延長板20に乗ったときに、腰を曲げない姿勢をとることができ、安定した姿勢で運転座席14に座ることができる。運転座席14から降りるときも同様に、足台延長板20を用いて安定した姿勢で降りることができる。また、身長の低い運転士1が車両直前を見るために伸び上がる際にも、足台延長板20に乗って、安定した姿勢で伸び上がることができる。
【0019】
足台延長板20が設置される高さについても特に限定はないが、身長が低い運転士等が、運転座席に楽に座ることができ、かつ、安定した姿勢で運転座席14に座ることができる点を考慮すると、足台延長板20は、着座中の運転士等の眼の位置から下方1110mm〜1200mm程度の範囲内であることが好ましい。なお、足台延長板20は、足台20と同じ高さであってもよく、足台20よりも低く、あるいは高くしてもよい。
【0020】
足台延長板20は、運転台12に固定的に設けられていてもよいが、身長が高い運転士1にとっては不要であり、また、運転士1が限られた空間である運転室10を動くときには、足台延長板20が邪魔になることも考えられる。また、車両の形態によっては、足台延長板20がドア開閉に支障をきたす場合もある。このような点を考慮して、足台延長板20は、足台18に対して出し入れ可能な構成とし、必要時のみ突出する構造とすることが好ましい。このような突出構造としては、例えば、足台18の端面から持ち上がる、前方に押し出される、あるいは床面から持ち上がるなどの形態が挙げられる。
【0021】
図2〜図5に、出し入れ可能な足台延長板20の例を示す。
【0022】
図2、図3は、足台18の前端部18aの近傍に設けられた軸19を介して回動可能に取り付けられた足台延長板の一例を示す側面図である。図2に示す足台延長板20aは、不使用時には、足台18上に収納されており(破線部分参照)、使用時には、運転士1が手前側へ180度回転させることで図2の状態にセットされる。図3に示す足台延長板20bは、不使用時は、足台18の側に倒して足台18に収納されており(破線部分参照)、使用時には、運転士1が手前側へ90度回転させることで図3の状態にセットされる。
【0023】
足台延長板の出し入れは、運転士1が簡単な操作でできるのが好ましく、例えば、足台延長板に、突起またはハンドルを設けておくことで簡単な操作で足台延長板の出し入れが可能となる。また、図3に示す足台延長板にあっては、例えば、足台延長板20bに突起またはハンドルを設けておき、運転士1がその突起またはハンドルを持ち上げて(または足で引き上げて)足台延長板20bを引き出すと、足台延長板20bの下面に自動的にストッパーが出て、足台延長板20bが水平となった状態で固定される構成とすることができる。また、収納時には、そのストッパーを解除することで、足台延長板20bを倒して足台18に収納できるようにすればよい。このような構成は、従来公知の種々の方法により実現できる。
【0024】
図4は、前方に引き出される足台延長板の一例を示す側面図である。図4に示す足台延長板20cは、足台18の内部に収納されており(破線部分参照)、足台18の運転座席14側の面から運転座席14側へ引き出せるように構成されている。
【0025】
図5は、床面から持ち上がる足台延長板の一例を示す側面図である。図4に示す足台延長板20dは、運転台12が接地された床面の、足台18の運転座席14側の端面に接する位置に収納されている。足台延長板20dを使用するときには、運転士1が床面から上方へ足台延長板20dを引き上げて図5の状態にセットすることができる。足台延長板20dは、例えば、所定量引き上げられたところでストッパー21が自動的に出て、足台延長板20dの下降を防止して固定できる構成とすればよい。この場合、足台延長板20dを床面下に収納するときは、ストッパー21を押して凹ませることで、足台延長板20dを下降可能にすればよい。
【0026】
また、図示しないが、上記で説明した足台延長板を出し入れする方法のほか、足台から着脱可能に足台延長板を設ける構成としても良い。この構成によっても、上記と同様の効果を奏することが可能となる。
【0027】
上記の各例では、足台延長板20を運転台12の足台18を延長する位置に設けているが、足台延長板は、運転座席14の近傍のドアに設けることもできる。すなわち、図6に示すように、ドアが設置された床面よりも上方に、ドア22から出し入れ可能に足台延長板24を設けることもできる。この構成によれば、身長の低い運転士であっても、背伸び等することなくドア22に設けられる窓26から容易に外部の安全確認等を行うことが可能となる。なお、図6は、本発明の運転室構造の一例を示す斜視図であり、運転台および運転座席の近傍にドアを備える鉄道車両の運転室構造であって、ドア22が設置された床面25よりも上方に、ドアから出し入れ可能な足台延長板24が設けられていることを特徴とするものである。
【0028】
この場合における足台延長板24は、ドア22が設置された床面よりも上方に位置する足元近傍、例えば、運転台12の足台18に対応する位置に、ドア22から出し入れ可能に設けることができる。なお、図6の例では、足台延長板24は、ドア22に軸支され、90度回転できるようになっているが、この構成に限定されるものではなく、上記で説明した種々の方法で出し入れ可能である。また、ドア22から着脱可能に足台延長板24を設ける構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0029】
符号の説明
1 運転士
10,50 運転室
12,52 運転台
14,54 運転座席
16,56 天板
16a,18a,56a,58a 前端部
18,58 足台
20,20a,20b,20c,24 足台延長板
22 ドア
25 床面
26 窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転台および運転座席を備える鉄道車両の運転室構造であって、
前記運転台は、天板と、天板の下方に設けられた足台と、前記足台を延長する足台延長板とを備えることを特徴とする鉄道車両の運転室構造。
【請求項2】
前記足台延長板は、前記足台に対して出し入れ可能である請求項1に記載の運転室構造。
【請求項3】
前記足台延長板は、前記足台の運転座席側先端部分近傍を軸として回動することにより、前記足台に対して出し入れ可能に取り付けられている請求項2に記載の運転室構造。
【請求項4】
前記足台延長板は、前記足台の内部に収納されており、前記足台の運転座席側端面から前記運転座席側へ引き出されることにより、前記足台を延長する請求項2に記載の運転室構造。
【請求項5】
前記足台延長板は、前記運転台が接地された床面の、前記足台の運転座席側端面に接する位置に収納されており、前記床面から上方へ引き出されることにより、前記足台を延長する請求項2に記載の運転室構造。
【請求項6】
運転台および運転座席の近傍にドアを備える鉄道車両の運転室構造であって、
前記ドアが設置された床面よりも上方に、該前記ドアから出し入れ可能な足台延長板が設けられていることを特徴とする運転室構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−255838(P2011−255838A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133783(P2010−133783)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載日:平成22年5月20日 掲載アドレス http://www.rtri.or.jp/index_J.html, http://www.rtri.or.jp/infoce/getsurei/2010/Getsu5_J.html, http://www.rtri.or.jp/infoce/getsurei/2010/Getsu05/g234_7.pdf, 研究集会名:第234回 鉄道総研月例発表会 主催者名:財団法人鉄道総合技術研究所 理事長 垂水尚志 開催日:平成22年5月20日
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)