説明

鉄道車両の防振床構造及びその固定方法

【課題】車両組立現場で防振材を車両構体(台枠)側に取り付ける工程を不要とし、車両組立現場での作業を簡素化・容易化するとともに、防振材が劣化することがない、鉄道車両の防振床構造及びその固定方法を提供する。
【解決手段】ネジ込み量制限部を設けたネジ切りパイプ103と、ネジ切りパイプ103のネジ部と噛み合うネジ穴を設けた支持板104とで、上床110の芯材102及び芯材102の上下に配置した防振材106,107を挟みこんで上床110と一体化する。その後、ネジ切りパイプ103に設けた貫通孔114に上方からネジ115を通して、台枠113もしくは根太に設けたネジ穴116にネジ込むことで、上床110が防振材106,107を介して固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の防振床構造及びその固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の防振床構造として、振動の直接的な伝達を防止するため、台枠の上面に弾性部材を介して床板を支持することが行われている。即ち、車両構体の構体床板に設けた床受部材に防振部材を取付け、該防振部材に内装床板を載せ、構体床板から内装床板へ伝播される振動を防振部材で減衰し、内装床板の振動によって放射される固体伝播音を低下させることが提案されている。
【0003】
床板の台枠への取り付けに防振部材を介在せる構造は、部品点数が増加して取付作業も複雑化する。そこで、内装床板を支持する防振部材の両側面に係止段部を形成し、構体床板に設けた床受部材に、上面が開口した収納溝を形成し、収納溝の一方の側壁内面に、防振部材の一側面の係止段部上面に係合する係合部を設けるとともに、収納溝の他方の側壁上部から連続して水平方向外側に延出する支持部を設け、支持部に、防振部材の他側面の係止段部上面に係合する係合部を有する押え板を取付けることで、部品点数の低減と取付作業の容易化を図ることが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−48017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の先行技術では、最初に防振材を車両構体側に設けられた根太などの受部材に取り付け、そこに上床を取り付けていく施工方法となっている。このため、車両組立現場で防振材を車両構体側に取り付ける工程が必要となるため、場合によっては床構造の完成に時間がかかってしまう傾向があった。
【0006】
一方で、防振材を予め上床に取り付けておこうとした場合、上床と車両との取付部に防振材が介在するため、防振材が劣化した場合には、上床を車両に固定する固定具(ネジ、ボルト等)の軸力が確保できないため、防振材の経年劣化によって、固定具が緩んでしまう懸念があった。
【0007】
また、一車両の中でも場所によって振動の大きさが異なり、上床の防振性能を車両の部位毎に最適化したい場合がある。このような場合に、従来の技術では車両側の防振材取付部構造を変更する必要があり、開発終盤での変更は容易ではなかった。
【0008】
そこで、鉄道車両の防振床構造として、上板に防振材を一体化させてユニットとして組み立てておき、その一体化されたユニットを車両構体をなす台枠又は当該車両構体に備わる根太に対して取り付けることで、取付工数(時間)を短縮するとともに、防振材の経年劣化に起因する緩みを抑制し、さらに、振動伝達(防振)特性を容易に変更でき設計自由度を高める点で解決すべき課題がある。
本発明の目的は、上板に防振材を一体化させて構造簡単なユニットとし、一体化されたユニットを車両構体をなす台枠又は当該車両構体に備わる根太に対して取り付けることで、上床の組立て及び車両構体等への取り付け作業を簡単・容易化することができ、さらに、防振材の経年劣化に起因する緩みを抑制し、さらに、振動伝達(防振)特性を容易に変更でき設計自由度を高めることができる鉄道車両の防振床構造、及びその車両構体側への固定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、上床を台枠又は当該台枠に備わる根太に対して弾性支持する鉄道車両の防振床構造であって、上床の芯材の上下に防振材を配置し、前記両防振材を上下に挟んで支持板を配置し、前記芯材と前記両防振材と前記支持板にそれぞれ位置を合わせて形成された各貫通孔に通したネジ切りパイプのネジ作用によって前記芯材と前記両防振材とを前記両支持板で挟み込み且つ前記両防振材に弾性変形をさせた状態で前記上床と一体化し、前記ネジ切りパイプに形成されている貫通孔に通されたネジを前記台枠又は前記根太に設けたネジ穴にネジ込むことを特徴としている。
【0010】
また、本発明は、鉄道車両の防振床構造の固定方法であって、上床の芯材の上下に防振材を配置し、前記両防振材を上下に挟んで支持板を配置し、前記芯材と前記両防振材と前記支持板にそれぞれ位置を合わせて形成された各貫通孔に通したネジ切りパイプのネジ作用によって前記芯材と前記両防振材とを前記両支持板で挟み込み且つ前記両防振材を弾性変形させた状態で前記上床と一体化し、前記ネジ切りパイプに形成されている貫通孔に通されたネジを前記台枠又は前記根太に設けたネジ穴にネジ込むことにより、前記防振材と一体化された前記上床を台枠又は当該台枠に備わる根太へ固定することを特徴としている。
【0011】
ネジ切りパイプにネジ込み量制限部を設ける場合には、支持板にネジ切りパイプのネジ部と噛み合うネジ孔を設けておき、上床の芯材及び芯材の上下に配置した防振材を挟みこんでネジ切りパイプのネジ部をネジ孔にネジ込むことで、上床と防振材とを一体化することができ、しかも、ネジ切りパイプに設けた貫通穴に上方からネジを通して、台枠もしくは根太に設けたネジ穴にネジ込むことで、上床と防振材とを一体化したユニットをネジ切りパイプの位置でネジ切りパイプを利用して台枠等に取り付けることができ、そのときの締め付け力もネジ切りパイプを通して台枠等に支持させることができる。したがって、防振材に余分な力が作用せず、防振材の防振特性を維持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、防振材が予め上床に一体化されているとともに、上方からネジで固定するだけで上床を車両に組み付けられるため、車両組立現場での作業時間を短縮することができる。また、ネジ込み量制限部があるため、ネジ切りパイプと支持板ネジ部の締付力で軸力が維持され、仮に防振材が劣化してもネジ切りパイプが緩むことはない。さらに、防振材を長手方向に切り欠くことが容易な構造となっており、切欠幅を調整することで上床の防振性能を最適化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】防振床を備える鉄道車両の長手方向の垂直断面図である。
【図2】本発明による鉄道車両の防振床構造の実施例1を示す斜視図である。
【図3】図2に示す防振床構造における防振材取付部の組立図である。
【図4】図2に示す防振床構造の車体への取付方法の一例を示す模式斜視図である。
【図5】図2における床構造の異なる構成例を示す図である。
【図6】図2に示す防振床構造の車体への別の取付方法の例を示す断面図である。
【図7】本発明による鉄道車両の防振床構造の実施例2を示す斜視図である。
【図8】図7(実施例2)に示す防振床構造のA−A断面図である。
【図9】本発明による鉄道車両の防振床構造の実施例3を示す斜視図である。
【図10】本発明による鉄道車両の防振床構造の実施例4を示す斜視図である。
【図11】図9に示す上床の組立方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明による鉄道車両の防振床構造及びその固定方法の実施例を説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、防振床を備える鉄道車両構体10の長手方向の垂直断面図である。一般に、鉄道車両構体10は、床面をなす台枠113と、台枠113の幅方向の両側に立設される側構体100,100と、側構体100の上端部に配設される屋根構体(図示なし)と、台枠113の長手方向の両端部に立設される妻構体(図示なし)と、からなる箱状体である。近年、軽量化と部品点数の削減のため、対向する2枚の面板とこれら面板を接続する複数のリブを備える押出形材を適宜接合して、台枠113と側構体100などを構成している。台枠113の車内側(上面側)の面板には後述する上床110を固定するため根太119が備えられている。
【0016】
図2は本発明による鉄道車両の防振床構造の実施例1を示す斜視図であり、その一部を断面図で示している。上床110は、コア材109と、当該コア材109に貼り付けられた面板111,111とから構成されている。コア材109は、例えば木材やアルミハニカム材もしくは発泡アルミ材などで製作されているが、これに限定されるものではない。上床110の両端には、芯材102が配設されていて上床110と一体化されている。芯材102を上下に挟むように、防振材としての防振ゴム106,107が一体化されている。防振ゴム106,107を支持板104,105で挟んで、支持板104,105をネジ切りパイプ103で締結するときに、支持板104,105を引き寄せることで、芯材102と防振ゴム106,107とを一体化する構造となっている。
【0017】
図3は、図2に示す防振床構造における防振材取付部の組立図である。図3には、本実施例1における上床110の防振材取付部の分解された構成部品が組み立てられる様子が斜視図として示されている。芯材102は、例えばアルミ押し出しにより一体物で成形された断面矩形の形材とすることができるが、材質や加工法はこれに限定されるものではない。芯材102は、断面矩形の芯本体と、その形材の外側の縦辺から外側に上床110の面と平行な方向に一体的に延びるように成形された鍔108とを備えている。鍔108の上側には防振ゴム106が配置され、下側には防振ゴム107が配置される。一般に、上床110への荷重は上から掛かりその荷重を下から支持するため、下側の防振ゴム107の厚さが上側の防振ゴム106よりも厚くなっているが、防振ゴム106と107の厚み比率は、必要に応じて自由に変更できる。その場合、例えば図5に示すように、芯材102の形状を変更して鍔108の位置を下げる(形材の外側の縦辺の下端から延びるように成形する)ことで、防振ゴム106の厚みを任意に変更できる。
【0018】
上側の防振ゴム106の上には支持板104、下側の防振ゴム107の下には支持板105が重ねるように配置される。これら板及びゴム並びに鍔105〜108には貫通孔が開いており、これらの貫通孔には下からネジ切りパイプ103が貫くように挿通される。支持板104に形成されている貫通孔はネジを切ることでネジ孔とされており、ネジ切りパイプ103の先端にはネジを切ってネジ部112が形成されている。ネジ部112のネジ切り込みが終了している位置において、ネジ径よりも大きな径の外形に至るまでの環状の段部を形成することで、ネジ込み量制限部101が設けられている。ネジ切りパイプ103のネジ部112を支持板104のネジ孔にネジ込んで締めていくと、鍔108を間に挟んだ防振ゴム106,107は支持板104と支持板105との間で締めつけられて上床110と一体化される。この際、環状の段部が支持板104に当接するところで防振ゴム106,107に対する締め付けがストップする。このような構造によって、ネジ切りパイプ103の軸力は、金属部材同士の応力で維持され、防振ゴム106,107にはネジ切りパイプ103の締め付けがストップするまでに生じる所定の圧縮力によって、弾性変形(与圧縮)された状態で上床110に一体化されている。したがって、仮に、防振ゴム106,107が劣化しても、ネジ切りパイプ103の支持板104に対するネジ込みが緩むことはないようになっている。
【0019】
ネジ切りパイプ103を支持板104に対して完全にネジ締めしたときのネジ切りパイプ103の頭部と支持板104との間の距離は、支持板105、自由状態の防振ゴム106,107、及び鍔108の厚みを足したものより僅かに小さくなるように設計されている。したがって、ネジ切りパイプ103を支持板104に対して完全に締結した状態では防振ゴム106,107に軽い予圧が掛かる。このため、防振ゴム106,107や支持板105が横ズレすることはない。
【0020】
図4は、図2に示す防振床構造の、車体への取付方法を示す模式斜視図であり、本実施例における上床110の台枠113への取付例を示している。ネジ切りパイプ103の中心には貫通孔114が開けられており、車両構体(台枠113)側にはネジ切りパイプ103の配置位置に合わせて複数のネジ穴116が形成されている。上床110と、その各端部において芯材102に支持板104,105、防振ゴム106,107及びネジ切りパイプ103で一体化したユニットを、その上方から、ネジ115を、ネジ切りパイプ103の貫通孔114を通して台枠113のネジ穴116にネジ込むことで、台枠113に締結することができる。このため、車両組立現場では、台枠113上に防振ゴム106,107等と一体化した上床110を配置し、ネジ切りパイプ103の位置において、上から順番にネジ115をネジ止めしていくだけで上床110の組み付けが完了するので、施工時間を大幅に短縮することができる。この防振床構造によれば、ネジ切りパイプ103はネジ115を挿通させる孔を兼ねており、防振ゴム106,107等にネジ115を挿通させるための専用の孔を別途、設ける必要がない。また、ネジ115の締め付け力は、ネジ切りパイプ103を通じて台枠113上に支持されるので、防振ゴム106,107等に掛かることがなく、上床110を弾性支持する機能(防振特性)に影響を与えることがない。更に、ネジ切りパイプ103の貫通孔114にはその上端にネジ115のネジ頭を埋め込むためのザグリ117が設けてあり、ネジ止めした後にネジ115が床から出っ張ることもない。
【0021】
図4において、本実施例の作用・効果を説明する。鍔108は防振ゴム106,107で挟まれている。また、ネジ115の締結が完了した状態で、上支持板104と上床110の面板111とは、表面が実質的に面一となる車両床面を与えるように、予め各部分の厚みや寸法が設定されているとともに、鍔108とネジ切りパイプ103との間、及び面板111と上支持板104との間には、横方向に微小な隙間G1,G2が空く構成となるように、各部の寸法(例えば、上支持板104の板幅や、芯材102の鍔108の孔径とネジ切りパイプ103の外径)が定められている。このため、上床110はネジ切りパイプ103又は上支持板104からは完全に防振されている。従って、台枠113からの振動はネジ切りパイプ103及び上支持板104までは伝達するが、上床110までは伝達しない。これにより、車内床表面において圧倒的な面積を占める上床110の振動を低減することができ、車内騒音を大幅に低減することができる。さらに、上床110と台枠113との間の空間に吸音材などを挿入することで、床下からの空気伝播音も低減することはもちろん可能である。なお、面板111と上支持板104の間の隙間には、最終的にシーリング材などを封入することで気密を確保するとともに、客室内の床表面を凹凸なく平らにすることが可能である。
【0022】
図4において、本実施例では防振ゴム107は奥行き方向に切欠き118が設けられている。切欠き118によって防振ゴム107に適宜隙間を空けることで、防振ゴム107を変形しやすくする効果がある。これにより上床110が柔らかく支持され防振性能が向上するとともに、防振ゴム107が変形する時の内部摩擦により減衰性能が上がるという効果がある。本実施例では、切欠き118の幅Wについて容易に設計変更をすることができる構造になっており、上床110を支持するのに必要な支持剛性と、必要な防振性能及び防振ゴムの重量などを勘案して、最適な切欠き118の幅Wを設定することができる。また、一車両の中でも車両構体の剛性や振動源の特性が異なり、部位によって上床110の支持剛性を変更したい場合がある。本実施例ではそのような場合にも、切欠き118の幅Wを変更することで容易に一車両の中の部位毎に、又は編成車両の中の車両毎に、上床110の支持剛性を変更することが可能であり、効果的な防振性能を発揮することができる。なお、切欠き118による防振性能の最適化は後述する実施例2から実施例4にも適用できる。
【0023】
また、図4では防振ゴム106には切欠きが設けられていないが、図5に示すように必要に応じて切欠き118を防振ゴム106にも設けることは当然可能である。逆に、防振ゴム107に切欠き118を設けずに、支持剛性を高めることも可能である。
【0024】
図6は、本実施例における上床110と台枠113の固定方法について、別の一例を示したものである。台枠113は間に三角形の空間が空いた気密床をアルミ押し出しで加工し、溶接により一枚の大きなパネルにつなぎ合わせていく。台枠113には根太119や、座席を乗せるための座席固定部120が設けてあり、これらは押し出し加工により複雑な形状も成形が可能である。根太119にはネジ穴116が切ってあり、上床110を根太119に載せた後、上からネジ115で締結するだけで固定できる。根太119は図6のように片持ち形状に限らず、台枠113から両持ちで支える構造でも良い。
【実施例2】
【0025】
図7は、本発明による鉄道車両の防振床構造の実施例2を示す斜視図であり、図8は図7に示す防振床構造のA−A断面図である。図6に示す固定の例では台枠113に座席固定部120を設けていたが、座席を根太ではなく上床に直接固定する場合には、図6に示すようにする必要は無く、上床110を敷き詰めて配置することができる。その場合には、防振ゴムを一体化した上床の締結部を共通化して重量低減することが望ましい。
本実施例は、台枠113あるいは根太119に、複数の上床110を隣接して配設する場合であって、一方の上床110に備えられる鍔108bを、他方の上床110aに備えられる鍔108aの上面に載置して、鍔108bと鍔108aとが重ねられる対向連結部が形成される例である。一方の上床110の対向連結部をなす部位には、鍔108bと鍔108bが欠落した接続用欠落部108cとが形成されている。他方の上床110の対向連結部をなす部位には鍔108bが嵌合できるように、鍔108aの上面に備えられる防振材106と上支持板104の両方が切欠かれた接続用切欠き部Vが設けられている。つまり、一方の上床110と他方の上床110との対向連結部には、鍔108bおよび接続用切欠き部108cと、鍔108aの上面に接続用切欠き部Vと、が双方互い違いに備えられている。
【0026】
一方の上床110と他方の上床110とを隣接して配設する際、一方の上床110の鍔108bが他方の上床110の鍔108aの上面に設けられた接続用切欠き部Vに嵌合するとともに、鍔108aの上面に備えられる防振材106および上支持板104が一方の上床110に備えられる接続用切欠き部108cに嵌合する態様で連結されるとともに、鍔108aとそれに載置された鍔108bとがネジ121で締結される。このとき、鍔108bの上面と上床110の上面側の面板111とが略同一面に形成されるように、鍔108bの厚さが調整されている。ネジ121によって剛結合される隣接する上床110,110同士は、台枠113及び根太119に対して、防振ゴム106,107によって防振支持される。また、上床110,110の対向連結部に供される防振ゴム106,107及びネジ切りパイプ103を共通に用いることができるので、これら支持部品の数を略半減できるとともに、これら支持部品に係るコストおよび重量を大幅に低減することができる。
【実施例3】
【0027】
図9は、本発明による鉄道車両の防振床構造の実施例3を示す斜視図である。図9に示すように、座席取付脚122を上支持板104に固定する場合にも、上床110の鍔108同士を締結することが可能である。座席取付脚122は、図示しない客室用座席の下側に取り付けられている。本実施例では、ネジ切りパイプ103の上部を長くして、予め上支持板104から飛び出すように構成しておく。その上で実施例2と同様に上床110をネジ115及びネジ121で固定した後、座席取付脚122を上支持板104に乗せ、ネジ切りパイプ103のネジ部を利用してナット123で固定する。実施例1で述べたように、ネジ切りパイプ103にはネジ込み量制限部101が設けてあり、上支持板104はネジ切りパイプ103で剛に支持されている。このため、座席取付脚122も上支持板104で剛に支持され、仮に防振ゴムが劣化しても、ナット123が緩むことはない。
【実施例4】
【0028】
図10は、本発明による鉄道車両の防振床構造の実施例4を示す斜視図である。本実施例では、防振ゴムを上床110の端部ではなく、図10のように上床110の面内に埋め込んで一体化させている。図11にこの上床110の組立図を示す。コア材109には芯材124を埋め込むなどして取り付けるための長方形穴が設けてある。そして底部の面板111の上にコア材109及び芯材102を四辺に取り付け、芯材124を埋め込んだ後、上部の面板111を取り付ける。なお、四辺に取り付けられる芯材102には、他の上床と締結するための鍔108が設けてある。また、上下の面板111には防振ゴムを嵌め込むための窓が、芯材124の窪みに合うように設けてある。
【0029】
このようにして形成した上床110は、図10のように上防振ゴム106、下防振ゴム107、ネジ切りパイプ103、及び上下の支持板104、105を、実施例1と同様に組み立てることで、防振ゴムを上床110に一体化している。
【0030】
また本実施例では、実施例3と同様にネジ切りパイプ103の上部ネジ部を長くして、そこに座席取付脚122を取り付けるようにしているが、座席取付脚122をネジ切りパイプ103ではなく上床110に直接取り付けるようにすることも可能である。その場合には、上床110に座席を取り付けるための芯材を別途埋め込み、そこに固定するなどの方法がある。
【0031】
上述した実施例2から4において、防振材が予め上床に一体化されているとともに、上方からネジで固定するだけで上床を車両に組み付けられるため、車両組立現場での作業時間を短縮することができる。また、ネジ込み量制限部があるため、ネジ切りパイプと支持板ネジ部の締付力で軸力が維持され、仮に防振材が劣化してもネジ切りパイプが緩むことはない。さらに、防振材を長手方向に切り欠くことが容易な構造となっており、切欠幅または上下の防振ゴムの特性を変更することによって、上床の防振性能を最適化することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
10 鉄道車両構体 100 側構体
101 ネジ込み量制限部 102 芯材
103 ネジ切りパイプ 104 上支持板
105 下支持板 106 上防振ゴム
107 下防振ゴム 108 鍔
109 コア材 110 上床
111 面板 112 ネジ部
113 台枠 114 貫通穴
115 ネジ 116 ネジ穴
117 ザグリ 118 切欠き
119 根太 120 座席固定部
121 ネジ 122 座席取付脚
123 ナット 124 芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両構体をなす台枠又は当該台枠に備わる根太に対して上床を弾性支持する鉄道車両の防振床構造において、
上床の芯材の上下に防振材を配置し、前記両防振材を上下に挟んで支持板を配置し、前記芯材と前記両防振材と前記支持板にそれぞれ位置を合わせて形成された各貫通孔に通したネジ切りパイプのネジ作用によって前記芯材と前記両防振材とを前記両支持板で挟み込み且つ前記両防振材を弾性変形をさせた状態で前記上床と一体化し、前記ネジ切りパイプに形成されている貫通孔に通されたネジを前記台枠又は前記根太に設けたネジ穴にネジ込むこと
を特徴とする鉄道車両の防振床構造。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の防振床構造において、
前記上床の上面板と前記上側の支持板とは略面一な車両床面であること
を特徴とする鉄道車両の防振床構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉄道車両の防振床構造において、
前記芯材は、前記上床の端部に固定された芯本体と、当該芯本体から外側に一体的に延びる鍔とを備えており、前記防振材は、前記鍔の上下に配置されていること
を特徴とする鉄道車両の防振床構造。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両の防振床構造おいて、
前記上床は、隣接した態様で前記上床同士が接続される対向連結部を備えており、
前記対向連結部は、
前記上床の一方の端部に沿って前記鍔と、前記鍔に隣接する態様で前記鍔が切欠かれた結合用切欠き部とが備えられる一方の連結部と、
前記上床の他方の端部に沿って連続する前記鍔が備えられるとともに、前記結合用切欠き部に対応する態様で前記鍔の上下に備えられる前記防振材と前記支持板とが備えられる他方の連結部と、からなり、
前記対向連結部において前記鍔同士がネジで接合されること
を特徴とする鉄道車両の防振床構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道車両の防振床構造において、
前記ネジ切りパイプは先端部にネジ部を備えており、一方の前記支持板は前記ネジ切りパイプの前記ネジ部とネジ係合するネジ孔が形成されており、前記ネジ切りパイプの前記ネジ部には、前記両防振材の前記弾性変形を制限するため、前記一方の支持板の前記ネジ孔とのネジ込み量を制限するネジ込み量制限部が設けられていること
を特徴とする鉄道車両の防振床構造。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道車両の防振床構造において、
前記ネジ込み量制限部で止まるまで前記ネジ切りパイプと前記支持板を締結したときの両者端面の間隔が、非締結部材である前記芯材及び前記両防振材の厚みの和よりも小さくしたこと
を特徴とする鉄道車両の防振床構造。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の鉄道車両の防振床構造において、
前記ネジ切りパイプの前記ネジ部は前記ネジ孔が形成された前記支持板から突出する長さに構成されており、前記支持板から突出した前記ネジ部に客室内の座席を固定したことを特徴とする記載の鉄道車両の防振床構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の鉄道車両の防振床構造において、
一方の又は両方の前記防振材には、長手方向に間欠的に切欠きを設けたこと
を特徴とする鉄道車両の防振床構造。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の鉄道車両の防振床構造において、
前記芯材は、前記上床の端部以外の位置において前記上床に取り付けられており、
少なくとも2辺以上の前記上床の端面には別途芯材が設けられており、
前記別途芯材は、芯本体と当該芯本体から外側に一体的に延びる鍔とを備えており、
隣り合う前記上床同士は、前記別途芯材の前記鍔において締結されていること
を特徴とする鉄道車両の防振床構造。
【請求項10】
上床の芯材の上下に防振材を配置し、前記両防振材を上下に挟んで支持板を配置し、前記芯材と前記両防振材と前記支持板にそれぞれ位置を合わせて形成された各貫通孔に通したネジ切りパイプのネジ作用によって前記芯材と前記両防振材とを前記両支持板で挟み込み且つ前記両防振材を弾性変形させた状態で前記上床と一体化し、前記ネジ切りパイプに形成されている貫通孔に通されたネジを前記台枠又は前記根太に設けたネジ穴にネジ込むことにより、前記防振材と一体化された前記上床を台枠又は当該台枠に備わる根太へ固定することを特徴とする鉄道車両の防振床構造の固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−250683(P2012−250683A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127094(P2011−127094)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)