説明

鉄道車両用走行試験装置

【課題】鉄道車両用走行試験装置において、様々な振動環境下で短期間及び低コストで実車両走行中の鉄道車両搭載機器の動的な挙動や性能評価を把握できるようにする。
【解決手段】鉄道車両用走行試験装置50は、軌条輪16、軌条輪電動機7、軌条輪油圧加振機、台車油圧加振機34、35、車体油圧加振機36、油圧システム、フライホイール装置、制御手段を備える。制御手段は、軌条輪電動機7と鉄道車両の両方の軌道・制動を可能とし、鉄道車両搭載機器による駆動や制動においても実車両同等の機器を制御する走行制御手段と、油圧加振機が実車両と同等の振動が再現できるように制御する振動制御手段とを備える。走行制御手段は軌条輪電動機7を実車両と同等の走行抵抗を模擬しながら鉄道車両を実車両と同速度で走行制御する。振動制御手段は走行距離に応じた実車両同等の振動を動的に再現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用走行試験装置に係り、特に鉄道車両のレールに相当する軌条輪を回転させて本線走行と同等の走行を模擬する鉄道車両用走行試験装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の高速化、軽量化などに伴い、比較的高周波の振動が台車に発生しやすく、それが車体に伝わることにより振動、騒音のレベルが上がる傾向にある。このような状況を改善するため、鉄道車両の振動、騒音発生及びそれらの伝達メカニズムの解明とともにそれらを低減する技術の確立が望まれている。また、鉄道車両の高速化が著しい現在、鉄道車両の性能向上・運行の安全が重要な課題となっている。これらの課題の解明・改善を図る一つの手段として、レール走行を忠実に再現・模擬する鉄道車両用走行試験装置が使用されている。
【0003】
従来の鉄道車両走行試験装置は、レールに相当する軌条輪と、この軌条輪を回転しレール走行と同等の走行を模擬するための軌条輪電動機と、走行を模擬する際に軌条輪に上下左右の動的変化を与え軌道狂いの任意の周波数、任意の波形種類(変位量、単一正弦波)で模擬するための軌条輪油圧加振機及び油圧システムと、実車両に相当する等価質量を調整するためのフライホイール装置と、を備えて構成されている。
【0004】
なお、鉄道車両用走行試験装置に係わる特許文献としては、例えば特開平5−281096号公報(特許文献1)が挙げられる。
【0005】
【特許文献1】特開平5−281096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の鉄道車両用走行試験装置では、その振動模擬波形が概ね25Hz以下の低周波数となっているため、実車両にて測定した振動データ、あるいは軌道検測車及び地上測定による軌道データと同等の連続走行運転ができない。また、模擬する振動データは、地上データの再現、すなわち変位データであり、鉄道車両の各機器で発生する高周波な加速度データの振動を再現することができない。
【0007】
本線走行の模擬を行うためには、任意の地点における車速度と振動データが一致する必要があるが、従来の鉄道車両走行試験装置では、軌条輪電動機と鉄道車両搭載機器が連動して運転することができないため、任意の地点における走行速度と振動データを一致させることが困難であった。
【0008】
また、所定の距離間隔(例えば、1m間隔)で任意の振動波形データを出力する場合、従来の鉄道車両走行試験装置では、連続走行運転の車両走行速度が変化することで振動波形データを出力する間隔がばらつき(標本化間隔にばらつきが生じるような現象)、出力する振動波形データの変位データが矩形波のような波形形状となる。結果的に、振動模擬において急激な凹凸が生じるような現象が生じ、実車両と同等の連続走行運転が困難になることが考えられる。さらに、従来の鉄道車両走行試験装置では、加速度の振動データの再現においても同様に、加速度状態を保持できない問題点から実車両と同等の連続走行運転が困難になることが懸念される。
【0009】
また、従来の鉄道車両走行試験装置では、連続走行運転下において、鉄道車両搭載機器による駆動や制動機器を制御したり、機器の状態を確認したりする走行コントローラ制御装置がないため、実際の走行時の振動を再現した試験条件下において、実車両の模擬走行を行いディスクボルトやディスクの状態を模擬することもできないし、破壊寸前に至る過程の確認を詳細に把握することが難しい。
【0010】
一般的に、走行特性などの調査・確認作業において、本線を使っての走行試験で行っていくことは、経費、要員、時間の面において非常に効率が悪く、安全上試験条件の設定が困難であるケースがある。また、任意の波形種類(変位量、単一正弦波)のみの本線走行模擬においても、条件別の試験回数が増え、経費、要員、時間の面において非常に効率が悪い。
【0011】
本発明の目的は、レール走行を忠実に再現・模擬して様々な振動環境下で短期間及び低コストで実車両走行中の鉄道車両搭載機器の動的な挙動や性能評価を把握することができる鉄道車両用走行試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の目的を達成するために、本発明は、鉄道車両のレールに相当する軌条輪と、前記軌条輪を回転させて本線走行と同等の走行を模擬するための軌条輪電動機と、走行を模擬する際に前記軌条輪に上下、左右の動的変化を与え軌道狂いを模擬するための軌条輪油圧加振機と、台車を加振するための台車油圧加振機と、トンネル内車両動揺や隣接号車との拘束力等の模擬を行うための車体油圧加振機と、前記軌条輪油圧加振機、前記台車油圧加振機及び前記車体油圧加振機を駆動するための油圧システムと、実車両に相当する等価質量を調整するためのフライホイール装置と、前記軌条輪油圧加振機、前記台車油圧加振機及び前記車体油圧加振機の加振を制御する制御手段とを備えた鉄道車両用走行試験装置において、前記制御手段は、前記軌条輪電動機と前記鉄道車両の両方の軌道・制動を可能とし、鉄道車両搭載機器による駆動や制動においても実車両同等の機器を制御する走行コントローラによる走行制御手段と、前記軌条輪油圧加振機、前記台車油圧加振機及び前記車体油圧加振機が実車両と同等の振動が再現できるように制御する振動制御手段とを備え、前記走行制御手段は前記軌条輪電動機を実車両と同等の走行抵抗を模擬しながら前記鉄道車両を実車両と同速度で走行制御し、前記振動制御手段は走行距離に応じた実車両同等の振動を動的に再現することにある。
【0013】
係る本発明のより好ましい具体的な構成例は次の通りである。
(1)前記走行制御手段は前記実車両のATCチャートなど走行実績記録に沿ってキロ程に応じたランカーブを模擬すること。
(2)走行制御手段は前記実車両のATCチャートなど走行実績記録に沿ってキロ程に応じたブレーキ処理を模擬すること。
(3)前記ブレーキ処理による制動は列車内号車間のブレーキ負担率に応じたブレーキ負荷を分担するようにしたこと。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鉄道車両用走行試験装置によれば、レール走行を忠実に再現・模擬して様々な振動環境下で短期間及び低コストで実車両走行中の鉄道車両搭載機器の動的な挙動や性能評価を把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態の鉄道車両用走行試験装置について図1から図10を用いて説明する。
【0016】
図1は本実施形態の鉄道車両用走行試験装置50の全体を示す平面図である。
【0017】
鉄道車両用走行試験装置50は、軌道検測車(ドクターイエロー)及び地上測定による軌道データを測定し、これらの測定データを基に、鉄道車両のレールに相当する軌条輪16を回転して本線走行と同等の走行速度を模擬するとともに、鉄道車両搭載機器による駆動や実車両と同等の機器の制御を行い、鉄道車両の各箇所に動的振動変化を与えるための軌条輪油圧加振機、台車油圧加振機、車体油圧加振機を備えている。この鉄道車両用走行試験装置50では、指定の距離間隔で任意の振動波形データをリアルタイムに補間しながら振動波形データを出力し実車両と同等の連続走行運転の模擬試験を行えるように構成されている。
【0018】
鉄道車両用走行試験装置50は、鉄道車両の前方から車軸順に、第1軸軌条輪装置1、第2軸軌条輪装置2、第3軸軌条輪装置3、第4軸軌条輪装置4とからなる4台の軌条輪装置を備えている。
【0019】
第1軸軌条輪装置1及び第2軸軌条輪装置2は1台で構成された第1のコモンベース5上に配置されている。第1軸軌条輪装置1と第2軸軌条輪装置2の前後方向の間隔は、軸間距離変更機構11により第1のコモンベース5上の軌条輪装置軸部1、2を移動させて調整できるようになっている。
【0020】
第3軸軌条輪装置3及び第4軸軌条輪装置4は第1のコモンベース5とは別の1台で構成された第2のコモンベース5上に配置されている。第3軸軌条輪装置3と第4軸軌条輪装置4の前後方向の間隔は、軸間距離変更機構11により、第2のコモンベース5上の軌条輪装置軸部3、4を移動させて調整できるようになっている。
【0021】
図2は本実施形態の軌条輪装置の全体を示す平面図、図3は図2の軌条輪装置の側面図である。
【0022】
図2及び図3に示すように、軌条輪電動機7とフライホイール装置8は、ベベルギア9と中間軸受けを介して軌条輪ベース6上に設置されている。軌条輪電動機7と軌条輪16は、左右方向に伸縮可能な伸縮動力軸10とベベルギア9を介して接続されている。軌条輪16は軌条輪フレーム12上に静圧軸受け15を介して設置され、静圧軸受け15は左右方向に微調移動可能な微調フレーム45上に設置されている。従って、軌条輪16は微調フレーム45により左右方向に微調移動可能に設置されている。
【0023】
鉄道車両走行試験装置50は、軌条輪16を上下方向に振動するための軌条輪上下油圧加振機13と、軌条輪16を左右方向に振動するための軌条輪左右油圧加振機14とを備えている。これらの油圧加振機13、14と軌条輪フレーム12は、静圧継手(図示せず)を介して接続されている。
【0024】
図4は鉄道車両70を搭載して加振する状態における鉄道車両用走行試験装置50の側面図である。
【0025】
鉄道車両走行試験装置50は、鉄道車両70(または台車72)を搭載できるように構成されている。台車72を車両走行試験装置50に搭載する場合は、第1軸軌条輪装置1と第2軸軌条輪装置2に1台の台車72を搭載し、第3軸軌条輪装置3と第4軸軌条輪装置4に別の1台の台車72を搭載する。
【0026】
この鉄道車両走行試験装置50は、台車72の各箇所を直接加振してレールの凹凸等詳細な軌道条件を模擬するための台車上下油圧加振機34及び台車左右油圧加振機35と、車体71を左右方向に加振してトンネル走行時に受ける空力加振力や超過遠心力を模擬するための車体油圧加振機36とを備えている。台車油圧加振機34、35は台車軸箱を加振するように設置されている。
【0027】
台車72に設けられた8つの車輪47は、第1軸軌条輪装置1、第1軌条輪軸部2、第3軸軌条輪装置3、第4軸軌条輪装置4のレール形状を模擬した各軌条輪16上に配置される。軌条輪16は、正回転及び逆回転が可能であり、ブレーキ装置(図示せず)のディスクブレーキより回転が強制停止されるようになっている。
【0028】
図1を参照しながら、各軌条輪装置1〜4を動作する付帯設備を説明する。
【0029】
油圧システム52は、油圧加振機13、14、34、35を駆動するための加振用油圧源ポンプモータ19と、静圧継手用の油圧源ポンプモータ17と、オイルタンクユニット18と、アキュムレータ(図示せず)と、ドレイン回収ユニット(図示せず)と、油圧の温度管理を行うための冷却装置とを備えている。冷却装置は水ポンプ(図示せず)及びクーリングタワー20から構成されている。
【0030】
剛壁・車間装置21は、鉄道車両の車体間ダンパ等の制振装置を取付け可能としている。鉄道車両の先端側は、固定装置22で鉄道車両を前後方向に固定、伸縮可能なダンパー等制振装置を設置し、先端及び他端側に車間装置を設置できるものとする。
【0031】
なお、図示していないが、軌条輪装置の周辺には、脱線防止ガードを配置し、万一の台車脱線の防止を図っている。また、回転試験時に台車部品が破損・脱落した場合に、周囲への飛散を防止する飛散防止ガードや、軌条輪踏面に付着した油・汚れを拭取ることが可能で、取扱が容易で安全性を考慮した踏面清掃装置や、連続走行運転中の軸箱及び歯車装置を冷却する台車冷却装置等を設置している。台車冷却装置は、実車両の実走行を摸擬するため軌条輪回転速度に応じて風速を可変、可動式としている。さらには、軌条輪踏面、ブレーキディスク、制輪子等に水道水または工業用水及び石鹸水を散水し、摩擦力を変えて走行模擬実験をするための散水装置も設置している。
【0032】
図4に示す車体横転防止装置33には、供試体である鉄道車両70または台車72の試験時の荷重枠を拘束し、前後方向の運動を拘束する車両拘束装置を設けている。また、車体横転防止装置53の車体71との接触面に緩衝材を取付け、車体横転時の衝撃を吸収する構造となっている。
【0033】
鉄道車両用走行試験装置50の電源・制御システム53について図1を参照しながら説明する。
【0034】
電源・制御システム53は、高圧受電盤24、トランス盤25、電動機制御盤26、補機器制御盤27、油圧起動盤31、中央操作盤28、加振制御装置29、走行コントローラ制御装置30、計測システム、及び監視記録サブシステムを備えている。
【0035】
電動機制御盤26は、軌条輪電動機7、加振用油圧源ポンプモータ19、及び静圧継手用油圧源ポンプモータ17等を駆動するものである。補機器制御盤27は鉄道車両用走行試験装置全体の低圧の起動回路をシーケンス制御するものである。油圧起動盤31はモータ19、17を起動するためのものである。
【0036】
中央操作盤28は、鉄道車両用走行試験装置50の運転、油圧加振等の操作、これらの運転に係る油圧源装置、冷却装置などの補機器制御盤27等への各コントローラ全体のシステムを管理しコントロールしている。
【0037】
加振制御装置29は、電気油圧サーボ弁を直接制御し、入力する波形を忠実に再現させるために、加振機変位、荷重、加速度及び差圧等の状態量をフィードバックし、油圧加振機の動特性を向上するための機能を兼ね備えており、実車両で測定した振動データ、軌道データまたはそれらの加工データの取り込みが可能である。
【0038】
走行コントローラ制御装置30は、鉄道車両の軌道・制動を可能とし、鉄道車両搭載機器による駆動や制動においても実車両同等の機器を制御する。
【0039】
計測システムは、供試体である鉄道車両70または台車72の状態量(振動、騒音、変位、応力、温度等)の計測装置の各種設定をデータ処理装置(図示せず)で行い、データ処理装置を介して制御装置、走行コントローラ制御装置30と連携した計測を可能とするものである。
【0040】
監視記録サブシステムは、軌条輪16と車輪47の接触状態や台車72や車体71の動揺を計測室内のモニタ(図示せず)で監視可能とするものである。
【0041】
そして、電源・制御システム53の各構成要素及び各制御対象は、専用の制御ネットワークやIPネットワーク32等で接続されている。電源・制御システム53は、制御のオープン性を確保した多彩なネットワークシステムで構成され、各種制御機器の各階層をシームレスに統合している。この電源・制御システム53は、低電圧から高電圧仕様の電気機器を管理するセンサ類をネットワークで接続することにより、制御系と計測データなどの情報を共有して一括管理可能なオープンフィールドネットワーク制御システムで構成している。
【0042】
IPネットワーク管理により、軌道検測車及び地上測定による軌道データを、即座に鉄道車両用走行試験装置50に転送することが可能であり、本線の地上変化を模擬して鉄道車両の運行の安全を確認することが可能となる。
【0043】
図5を参照しながら、連続走行運転における各装置の動作について説明する。図5は鉄道車両用走行試験装置50の運転フローを示す図である。なお、供試体である鉄道車両70が鉄道車両用走行試験装置50に搭載されているものとする。
【0044】
初めに、盤電源投入ステップ5−1で、高圧受電盤24、トランス盤25及び電動機制御盤26の高電圧系の盤電源の投入を行い、鉄道車両用走行試験装置50を受電状態にする。
【0045】
次いで、制御電源投入処理ステップ5−2で、中央操作盤28より制御用システム電源の投入を行い、加振制御装置29、走行コントローラ制御装置30、計測システム、監視記録サブシステムの鉄道車両用走行試験装置アプリケーションを起動する。
【0046】
次いで、運転準備処理ステップ5−3で、連続走行運転条件を設定する。例えば、軌条輪16の駆動条件や加振条件、鉄道車両搭載機器の制御条件を設定する。また、等価質量を調整するためのフライホイール設定、ATCチャートなど走行実績記録をベースにキロ程に応じたランカーブ設定、実車両にて測定した振動データ、あるいは軌道検測車及び地上測定による軌道データ及びPC等で加工した車両振動データや軌道データを用いて指定の距離間隔で任意の振動波形を出力するための振動波形を設定する。
【0047】
次いで、システム起動処理ステップ5−4で、連続走行運転前処理を行う。具体的には、中央操作盤28より潤滑装置、油圧源システムとクリーニングポンプ等のポンプを立ち上げる。また、油圧の温度及び加圧力の調整を行い、指定の位置まで軌条輪上下油圧加振機13を移動させ、運転動作可能な初期状態をとる。
【0048】
次いで、運転処理ステップ5−5で、中央操作盤28より加振制御装置29、走行コントローラ制御装置30、計測システム、監視記録サブシステムの各コントローラに運転開始を指示し、軌条輪16のディスクブレーキを解除する。そして、加振制御装置29は、予め設定された軌道検測車及び地上測定による軌道データを自動的にキロ程単位での波形データとして出力し、電気油圧サーボ弁を直接制御して油圧加振機13、14を駆動し、軌条輪16を振動させる。走行コントローラ制御装置30は、予め設定されたATCチャートなど走行実績記録をベースにキロ程に応じたランカーブ設定を基に、軌条輪16を回転させる。
【0049】
運転処理ステップ5−5の走行コントローラ制御装置30の動作について、さらに具体的に説明する。
【0050】
走行コントローラ制御装置30は、運転準備において予め設定された鉄道車両搭載機器の制御条件、ATCチャートなど走行実績記録に従い走行距離に応じたランカーブ条件に従って動作する。例えば、東京駅から新横浜駅までの連続走行運転の場合、東京駅点からのATCチャートなど走行実績記録内の力行ノッチ、ブレーキノッチ信号を取得し、鉄道車両搭載機器の制御装置をコントロールする。また、その時の軌条輪16の回転速度より鉄道車両70の走行速度と走行距離をリアルタイムに計測する。
【0051】
また、同様に予め設定されている路線データ、例えば、勾配、曲線、トンネル、走行抵抗を前記算出した走行速度と走行距離を基に、軌条輪16に模擬抵抗を負荷し、鉄道車両の走行抵抗を模擬する。この走行抵抗においては、列車内号車間のブレーキ負担率に応じたブレーキ負荷を分担することができる。すなわち、鉄道車両の車輪回転と逆向きな方向に負荷(トルク)となる走行抵抗をかけることにより実車の走行模擬が可能である。
【0052】
また、ATCチャートなど走行実績記録内には、他車停電模擬検知信号や滑走検知模擬信号等が付加されており、指定の走行距離位置を通過すると、走行コントローラ制御装置は鉄道車両搭載機器制御装置に指令(イベント)を模擬することが可能である。なお、東京駅から新横浜駅までの連続走行運転に限らず、東京から名古屋、名古屋から東京、東京から博多までのように任意の駅区間の模擬も可能である。
【0053】
上記の走行コントローラ制御装置30による処理と平行して、加振制御装置29による振動の再現を行う。加振制御装置29は、運転準備において予め設定された軌道検測車及び地上測定による軌道データ及びPC等で加工した車両振動データや軌道データを基に、軌条輪上下油圧加振機13、軌条輪左右油圧加振機14、台車上下油圧加振機34、台車左右油圧加振機35、車体油圧加振機36を動的に駆動させ、軌道狂いや高低狂い、台車、車体を含めた鉄道車両の各箇所の振動を再現する。
【0054】
本線の走行を忠実に模擬するためには鉄道車両の走行距離に対する振動データを出力する必要がある。図8は鉄道車両の東京駅からの走行距離を1m間隔でキロ程チャートを模式的に表示したものである。図8において、波形8−1は走行距離に対する軌条輪の回転速度すなわち鉄道車両の走行速度を示しており、図8(b)に示す波形8−2は1m間隔の走行距離位置に対する振動データを示している。この振動データとは、軌道検測車による測定等で得られた変位値または加速度値である。
【0055】
図6及び図7を参照しながら、キロ程チャート直線補間について説明する。図6はキロ程チャート直線補間を行う制御系のブロック図、図7はキロ程チャート直線補間のフローチャート図である。
【0056】
図6に示すように、キロ程チャート直線補間を行う制御系は、振動データ読込手段37、記憶手段38、数値計算手段39、リアルタイム性を有する数値計算手段40、パルスカウント手段41、及び加振機制御手段42を備えている。
【0057】
図7に示すフローチャートのステップS10で試験が開始されると、ステップS11で振動データ読込手段37がキロ程チャートc1を読込み、ステップS12で記憶手段38がキロ程チャートc1を記憶する。ステップS13で、数値計算手段39が記憶手段38で記憶したキロ程チャートc1を任意に整形する。ステップS14で、記憶手段38が数値計算手段39で任意に整形したキロ程チャートc2を記憶する。
【0058】
ステップS15で、パルスカウント手段41が取得したパルスカウントc3を基に、リアルタイム性を有する数値計算手段40が走行距離を計算する。ステップ16で、数値計算手段40が計算した走行距離に対してキロ程チャートを基に直線補間を行い、指令信号c4を算出する。ステップS17で、この算出した指令信号c4を数値計算手段40から加振手段に出力する。ステップS18で、指令信号c4を基に、軌条輪上下油圧加振機13、軌条輪左右油圧加振機14、台車上下油圧加振機34、台車左右油圧加振機35、車体油圧加振機36を駆動する。ステップS19で終了判定を行い、終了しない場合はステップS15からステップS19を繰り返す。
【0059】
本線走行を忠実に模擬するためには、ステップS15からステップS19を任意の時間内で実行することが必要である。そのためにキロ程チャートの整形を行う数値計算手段39と、リアルタイム性を必要とするタスクを行うリアルタイム性を有する数値計算手段40を用いている。
【0060】
図9にキロ程チャート振動データ拡大図を示す。図9において、波形9−2は補間を行わない場合の出力信号で、波形9−3は補間を行う場合の出力信号である。波形9−3にフィルタ処理を行い、滑らかな出力信号を出力することもできる。
【0061】
キロ程チャート振動データは変位値または加速度値であるが、加速度振動波形の模擬を行う場合、1m間隔の指定走行距離位置での振動データの加速度値は、波形8−2と同様に考えられる。しかし、実際に加速度を一定に保つためには、加振機を加速度の方向に動作し続けなければならない。よって、補間を行わない場合の波形9−2では、キロ程においては指定走行距離位置に対する加速度値の再現が困難になるおそれがあった。これに対して、本実施形態では、キロ程間隔を微小にとりデータ量を増加させることなく1m間隔の振動データであっても直線補間した、波形9−3とすることで加速度値の振動を模擬することができる。
【0062】
なお、上述した図9に係わる説明では、直線補間方法について説明しているが、補間方法はスプライン補間、ラグランジェ処理による曲線補間としても良い。
【0063】
次に、図10に示す振動再現に限定して説明する。
【0064】
軌道検測車及び地上測定による軌道データ及びPC等で加工した車両振動データや軌道データは、変位量、加速度及び荷重データに変換され各軌条輪上下油圧加振機、軌条輪左右油圧加振機、台車上下油圧加振機、台車左右油圧加振機、車体油圧加振機への目標波形11−1を作成する。
【0065】
作成した目標波形は、IPネットワーク11−2を介して鉄道車両用走行試験装置の加振制御装置に送られ、データベース化することが可能であり、前記データベース化された目標波形は、加振制御装置より電気油圧サーボ弁を直接制御し油圧加振機を駆動させ、供試体である鉄道車両に振動を与えることができる。
【0066】
しかし、供試体である鉄道車両からの反力や電気油圧サーボ弁、油の特性により目標波形と鉄道車両に取り付けた振動加速度、変位等の計測からの応答波形が一致しないことがある。すなわち、目標波形に対する応答波形の伝達特性が低下することがあるため、伝達関数の逆伝達関数データを補償データとして、目標波形に補償値として加味し目標波形と応答波形を一致させるように繰り返し振動再現処理11−3を行い、目標波形を整形・加工して再現可能な新しい目標波形を自動整形11−4していく機能を設けている。加振制御装置、走行コントローラ制御装置、計測システム、監視記録サブシステムの各コントローラは、専用の制御ネットワークと通常のIPネットワークで接続されていることから中央操作盤からの運転開始指示一つで、これら複雑な作業を簡単に操作することが可能な装置となっており、計測データ、目標波形データ、画像データの必要な情報を関連付けることが可能となっている。
【0067】
また、加振制御装置は、実車両の振動加速度・変位等データから求める軌道条件データだけでなく、数値による軌道条件の推定を図示していない上位システムで実施して加振目標波形を生成し、IPネットワークの通信手段により渡すので試験装置で受け取れ、上記加振目標波等の加振条件を設定し加振機により車両または台車を加振でき、供試体(車両または台車)を含む特性変化を補正する機能を有する装置となっている。
【0068】
上述した本実施形態によれば、レール走行を忠実に再現・模擬が可能となり、様々な振動環境下で短期間及び低コストで実車両走行中の鉄道車両搭載機器の動的な挙動や性能評価を把握することができる。
【0069】
また、走行中における軌道異常状態、台車異常の振動再現をPC等で加工し振動を模擬することも可能である。
【0070】
また、車両側を任意のランカーブで走行させながら実車両同等の振動を模擬することにより、忠実に実車両相当の再現・模擬が可能となる環境下において、走行中における軌道異常状態、台車異常の把握及び鉄道車両の性能向上・運行の安全を短期間及び低コストで把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施形態の鉄道車両用走行試験装置の全体を示す平面図である。
【図2】図1の鉄道車両用走行試験装置の軌条輪装置の全体を示す平面図である。
【図3】図2の軌条輪装置の側面図である。
【図4】鉄道車両を搭載して加振する状態における本実施形態の鉄道車両用走行試験装置の側面図である。
【図5】図1の鉄道車両用走行試験装置の運転フローを示す図である。
【図6】本実施形態におけるキロ程チャート直線補間を行う制御系のブロック図である。
【図7】本実施形態におけるキロ程チャート直線補間のフローチャート図である。
【図8】鉄道車両用走行試験装置のキロ程チャートを示す図である。
【図9】鉄道車両用走行試験装置のキロ程チャートの拡大図である。
【図10】図1の鉄道車両用走行試験装置の振動再現フローを示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1…第1軸軌条輪装置、2…第2軸軌条輪装置、3…第3軸軌条輪装置、4…第4軸軌条輪装置、5…コモンベース、6…軌条輪ベース、7…軌条輪電動機、8…フライホイール装置、9…べべルギア、10…伸縮動力軸、11…軸間距離変更機構、12…軌条輪フレーム、13…軌条輪上下油圧加振機、14…軌条輪左右油圧加振機、15…静圧軸受け、16…軌条輪、17…油圧源ポンプモータ、18…オイルタンクユニット、19…加振用油圧源ポンプモータ、20…クーリングタワー、21…剛壁・車間装置、22…固定装置、24…高圧受電盤、25…トランス盤、26…電動機制御盤、27…補機器制御盤、28…中央操作盤、29…加振制御装置、30…走行コントローラ制御装置、31…油圧起動盤、32…IPネットワーク、33…車体横転防止装置、34…台車上下油圧加振機、35…台車左右油圧加振機、36…車体油圧加振機、45…微調フレーム、47…車輪、50…鉄道車両用走行試験装置、52…油圧システム、53…電源・制御システム、70…車両、71…車体、72…台車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両のレールに相当する軌条輪と、
前記軌条輪を回転させて本線走行と同等の走行を模擬するための軌条輪電動機と、
走行を模擬する際に前記軌条輪に上下、左右の動的変化を与え軌道狂いを模擬するための軌条輪油圧加振機と、
台車を加振するための台車油圧加振機と、
トンネル内車両動揺や隣接号車との拘束力等の模擬を行うための車体油圧加振機と、
前記軌条輪油圧加振機、前記台車油圧加振機及び前記車体油圧加振機を駆動するための油圧システムと、
実車両に相当する等価質量を調整するためのフライホイール装置と、
前記軌条輪油圧加振機、前記台車油圧加振機及び前記車体油圧加振機の加振を制御する制御手段とを備えた鉄道車両用走行試験装置において、
前記制御手段は、前記軌条輪電動機と前記鉄道車両の両方の軌道・制動を可能とし、鉄道車両搭載機器による駆動や制動においても実車両同等の機器を制御する走行コントローラによる走行制御手段と、前記軌条輪油圧加振機、前記台車油圧加振機及び前記車体油圧加振機が実車両と同等の振動が再現できるように制御する振動制御手段とを備え、
前記走行制御手段は前記軌条輪電動機を実車両と同等の走行抵抗を模擬しながら前記鉄道車両を実車両と同速度で走行制御し、
前記振動制御手段は走行距離に応じた実車両同等の振動を動的に再現する
ことを特徴とする鉄道車両用走行試験装置。
【請求項2】
請求項1において、前記走行コントローラによる走行制御手段は前記実車両のATCチャートなど走行実績記録に沿ってキロ程に応じたランカーブを模擬することを特徴とする鉄道車両用走行試験装置。
【請求項3】
請求項1において、前記走行コントローラによる走行制御手段は前記実車両のATCチャートなど走行実績記録に沿ってキロ程に応じたブレーキ処理を模擬することを特徴とする鉄道車両用走行試験装置。
【請求項4】
請求項3において、前記ブレーキ処理による制動は列車内号車間のブレーキ負担率に応じたブレーキ負荷を分担するようにしたことを特徴とする鉄道車両用走行試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−298473(P2008−298473A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142310(P2007−142310)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)