説明

鉄骨造建築に用いる外壁用複合パネル

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄骨造建築物に用いる外壁用のパネルに関するものであって、本願明細書中では単にセメント板と称する押出成形セメント板又は気泡軽量コンクリート板(ALCパネル)を外壁材とした中層鉄骨造建築物に於て、外断熱構造が有利に達成出来るようにした外壁用パネルを提供するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、鉄骨造建築用の外壁材としてのセメント板は、押出成形体を、ローラー上を移動させて、オートクレーブ室で養生させるが、幅が広くなると衝撃によるひび割れ、亀裂、養生の際の反り等の発生によって製品の不良率が高くなるため、又製品の輸送や取扱い上の観点から幅は450〜1,000mmであり、600mm幅が賞用されている主製品である。
【0003】そして、従来の外壁用セメント板は、図6に示す如く、各セメント板の上部と下部に、あらかじめ梁Bへの取付用のZクリップ21を仮止めしておく。Zクリップ21は、セメント板の空洞h上の所定位置にボルト孔を穿けて、空洞内に挿入した角ナットに対してセメント板表面上からボルト締めして取り付けている。
【0004】従って、従来のセメント板を外壁材として取付けるに際しては、各階のコンクリート床上に運び上げた各セメント板のZクリップ21を仮止めしたものを1枚づつ吊り上げて、セメント板1の下部クリップ21は、梁B上に取付片19で溶接固定した鋼材の通しアングル20に係止(図6(D))し、上部クリップ21は梁Bの下面に溶接固定された鋼材の通しアングル20に下方から嵌合(図6(B))し、セメント板1の位置を合せた後、Zクリップ21を本締めし、幅600mm位のセメント板1を順次1枚づつ建て込んで外壁を形成している(図7)。
【0005】そして、鉄骨造の外壁が形成された後、柱Pや梁の鉄材の露出部には耐火層としてのロックウール15を吹付けて耐火被覆した後、セメント板1の内面には、約30mm厚の硬質ウレタンフォームの断熱層16を現場吹付けで形成し、次いで必要箇所に軽量鉄骨材の内装材用下地Sを取付け、各下地に内装材17を張設している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】外壁の組付けは、工場から供給されたまゝのセメント板1を1枚づつ順次取付ける作業であるため、建物建築作業に占める作業日数割合が高く、人手を要する煩雑な作業であった。また、外壁に対する断熱層の形成も、張設したセメント板1の内面に硬質ウレタンフォーム層16を吹付け形成するため、断熱層16の厚さが均一に出来ないばかりか、作業自体も熟練を要した。
【0007】また、内装材用の下地の取付時に断熱層の欠落も生じ易く、下地材の取付けによって壁厚D1も大となる。また、セメント板の柱でかくれた部分E(図8R>8)(柱とセメント板との間の部分)では、柱に対するロックウールの吹付けも、セメント板に対する硬質ウレタンフォームの吹付けも出来ないため、セメント板1から柱Pへの冷橋作用(外気の冷気温度の熱伝導作用)が生じ、柱Pへの結露による錆腐蝕を招来し、鉄骨部分の脆化による建物の予想外の破壊を招来することとなる。
【0008】また、ロックウール吹付け部と硬質ウレタンフォーム吹付け部との接続部では、吹付けたウレタンの凝固時の収縮作用(体積収縮率約3%)とウレタンの接着力により亀裂C(図8)が生じ、該亀裂は冷橋作用を招来して結露の原因となる。本発明は上述の如き各問題点を解決又は改善出来る外壁材の提供を目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段及び作用】セメント板1を複数枚並置した外層の内面に鋼材の少なくとも上下枠を備えた型枠体Tを載置し、更に型枠体T上に内装板7を載置し、型枠体Tで形成された空洞部Kが硬質ウレタンフォーム6によって充填されて、セメント板1と型枠体Tと内装板とが硬質ウレタンフォームによって一体的に接着結合された外壁用の複合パネルである。
【0010】複合パネルWは複数枚のセメント板を並置一体化固定した形態であり、パネルWが従来のセメントパネル幅(1,000mm以下)よりはるかに広幅となっているため、外壁の形成(建て付け)作業が能率的に行なえる。更に、パネルWは工場生産で硬質ウレタンフォーム層の充填成形と同時に各構成部材を接着結合するために、断熱材としての硬質ウレタンフォーム層や内装材の個々の取付工程が不要となり、パネルWの製造が省力化出来、合理化出来る。また、硬質ウレタンフォーム層が工場生産で均一厚みであるため、施工建物では断熱機能が全壁面で均一となり、しかも、従来の硬質ウレタンフォームの吹付け作業不必要となって建築施工が省力化出来ると共に、柱Pの外側(裏側)に面した部分にも断熱層が存在するため、柱Pに対するセメント板1からの冷橋作用は阻止出来る。
【0011】また、内装板用の下地の取付けも柱のまわりを除いて必要なくなった(パネルWが内装板を備えている)ため、下地材の取付けと内装板の張設との作業も不要となり、建築作業が省力化出来、しかも壁厚Dも従来より薄くなり、建物室内の有効スペースが増大する。また、セメント板への断熱層付与手段として、鉄材露出部の耐火用ロックウール吹付けに接続してウレタン吹付けすること(図8)が無いので、従来の、ロックウール層と硬質ウレタン層の接続部での亀裂C(図8)の発生及び結露の発生の恐れが無くなった。
【0012】また、複合パネルWは上下左右枠を備えた型枠内に補強材10,11が張設されているため、工場でのパネル製造時のウレタン発泡圧によるパネルの変形歪が防止出来ると共に、型枠体Tを構成するアングル鋼材が外壁のセメント板1から内装板17への熱的接触を必要最少限(アングル鋼材の厚み接触)にとどめる為に、セメント板1から内装板17への冷橋(ヒートブリッジ)作用も最少限に抑制出来る。また、パネルWの下枠の一辺がセメント板を支承するため、地震等の揺れ作用を受けても、セメント板1が型枠体Tから脱落することはない。
【0013】更に、複合パネルWの四周の各枠材がアングル鋼材であるため、強力な補強材として機能し、従って、窓や部屋の出入口等の開口を形成する複合パネル部に別体の補強材を付設する必要がない。また、パネルWの両側枠の立設辺の縁が熱不良導体の合成樹脂材や木材から成る緩衝体14を介して内装板17を支持している(図2(A))ため、セメント板から側枠を介した内装板への冷橋作用は緩衝体14で阻止される。
【0014】また、パネルWの型枠体の上下辺の内側にネジ孔を介してナットが溶接固定されているため、パネルWの梁への取付けは、取付用金物等の利用で簡単に行なえる。また、各セメント板はZクリップによって型枠体に取付けるため、各セメント板相互の位置調整も取付けも容易となる。尚、Zクリップに換えて、上枠2、下枠4に内側への水平方向の長孔を設けても良い。
【0015】また、型枠体Tの上枠2がセメント板上端より低くなっているため、パネルWの梁Bへの取付金物によるボルト孔8を介した締着が、上部パネルのセメント板下端と下部パネルのセメント板上端との間に、特別の取付金物用間隔を設けることなく遂行出来、上下パネル間に不都合な余分の隙間は出来ない。また、セメント板1の端部が側枠3の外側への屈曲を備えているので、外壁のコーナー部でも、外部は全てセメント板1となり、完全な耐火壁となる。
【0016】
【実施例】従来の、幅600mm、長さ2800mmの押出成形セメント板1に上部Zクリップ21及び下部Zクリップ21を仮止め(図6(A)(C))し、Zクリップ21群を上面としてセメント板1の3枚を並置した。
【0017】次いで、等辺山形鋼(75mm(辺幅)×75mm(辺幅)×6mm(厚さ))から成る上枠2と、寸法が65×65×6の等辺山形鋼から成る両側枠3,3と、50mm×50mm×6mmの等辺山形鋼から成る下枠4とを、上枠2及び両側枠3,3では内方への水平辺と上方への垂直辺の形態に、下枠4は内方への水平辺と下方への垂直辺の形態に溶接枠組みし、更に、65mm×65mm×6mmで長さ10cmの等辺山形鋼片19の一辺を下枠4の水平辺に溶接し、他片を69×3の鋼板に溶接(図3R>3(B))して各枠2,3,3,4の水平辺が型枠体Tのセメント板への当接縁となり、各枠の上方への垂直辺と鋼板とで型枠体Tの外周壁となるように各鋼材を溶接固定した。
【0018】また、上枠2と、鋼板5と等辺山形鋼19の適所にボルト孔8を穿孔し、ボルト孔に連通するナット9を内面側に溶接固定し、型枠体Tの縦方向補強材として、上枠2と下枠4との各水平辺中央部間に寸法が50mm×3mmの平鋼を溶接張設し、両側枠間には9mm径の丸鋼11を間隔を置いて溶接張設し、また、鋼板5にはウレタン注入孔Oを穿孔して型枠体とした。
【0019】次いで、型枠体Tをセメント板上に載置(図3(A))し、下枠4の垂下辺をセメント板1の下端面に当接し、セメント板1の上端が上枠2よりL(30mm)だけ突出した状態で各Zクリップ21の上下枠2,4の各水平辺への嵌合、本締着によって3枚のセメント板を型枠体Tに固定し、両側枠の垂直辺上端全長に亘って塩ビ製緩衝体14(図2(A))を被冠装着した。
【0020】次いで、該セメント板組付型枠体をプレス台30上に載置し、12.5mm厚の石膏ボードから成る内装板7を型枠体Tの四周立設辺上に載置し、プレス体31をガイド柱32に沿って降下して内装板7上に保持し、ウレタン注入孔Oから硬質ウレタンフォームを注入発泡形成した。
【0021】発泡終了後、製品を取り出したところ、成形時の硬質ウレタンフォームの発泡圧は強大であるが、型枠体内の平鋼10及び丸鋼11の各補強材が型枠体の四周の鋼材の膨出歪の発生を防止し、且つプレス体の押圧保持作用によって内装板7の膨出歪も無い均斉な複合パネルが得られた。
【0022】しかも、得られた複合パネルWは、セメント板1と、型枠体各鋼材と、側枠3,3に被冠した緩衝体14と、石膏ボードの内装板7とが芯部の硬質ウレタンフォームと、ウレタンフォームの接着力によって強固に一体化されていた。
【0023】〔パネルの使用〕実施例で得られたパネルを鉄骨造建築の外壁材として使用したところ、パネルW自体が従来のセメント板の数倍の幅を有しているため、外壁面の建付け日数は従来の1/2以下に短縮出来た。更に、パネルWが断熱層も内装板も備えているため、鉄骨造の外壁をパネルWで建付けるだけで外壁材の断熱層も内装板も同時施工となり、従来の如き外壁板に対する断熱層の現場吹付け作業も、下地材を設置して内装板を張設する施工も省略出来、建築工事日数が大幅に短縮出来た。
【0024】また、パネルWを建付けするだけで建築物全体が均斉な断熱層による外断熱形態となり、従来工法では断熱層の吹付けの出来なかった柱や梁のパネルと接する部分にも断熱層が存在するため、建物外壁部からの冷橋作用は完全に阻止出来、鉄骨造建築物の耐用年数向上が可能となった。また、従来の内装用下地材を介して内装板を張設するのに比べて、パネル内面が内装板であるため、外壁の厚みが少なくなり、建物の有効スペースが増加した。
【0025】また、外壁の形成は、大型化された複合パネルWを地上から吊り上げて施工するのが合理的であり、各階の外壁の建付けに各階のコンクリート床を利用する必要がないため、床コンクリートの打設は、外壁形成後に施工出来、コンクリート床の打設が天候に関係なく施工出来るようになり、コンクリート床の養生も容易となった。
【0026】〔変形例〕複合パネルWの枠体は、パネルWの上部及び下部が梁に取付けられれば良いので、アングル鋼材の上枠と下枠のみとすることも可能であ。この場合は、パネルの成形時に、両側には別体の型枠を当接すれば良く、パネルWの軽量化及び使用枠材のコスト低減となると共に、パネル側縁に鋼材が存在しないため、パネルWの側縁部での冷橋阻止の観点からも有利である。
【0027】
【発明の効果】複合パネルWは複数枚のセメント板を置一体化固定した形態であって従来のセメントパネルよりはるかに幅広となるため、外壁の建て付け作業量が減少し、作業時間の短縮化が達成出来る。更に、パネルWは工場生産で硬質ウレタンフォーム層の充填成形と同時に各構成部材を接着結合するために、断熱材としての硬質ウレタンフォーム層や内装材の個々の取付工程が不要となり、パネルWの製造が省力化出来、均質製品が合理的に製造できる。また、硬質ウレタンフォーム層が工場生産で均一厚みであるため、施工建物では断熱機能が全壁面で均一となる。また、本発明の複合パネルを外壁材として用いれば、従来の、セメント板に対する硬質ウレタンフォームの現場での吹付け作業も、内装材用下地の取付けと内装材の張設の作業も不要となり、従って、建築工期の著しい短縮化が達成出来る。
【0028】また、本発明複合パネルで鉄骨造建築物の外壁を形成すれば、柱Pの外側(裏面)に面した部分にも断熱層が存在して外壁面全面が均一に断熱されるため、外壁セメント板からの冷橋作用が阻止出来、建物内部の柱や梁等の鉄材の冷橋に起因する結露からの錆腐蝕及び鉄材脆化が阻止出来、鉄骨造建築物の部分脆化による思わぬ倒壊が無くなり、鉄骨造建築の安全性及び耐用年数が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明複合パネルの図であって、(A)は斜視図、(B)は水平断面図、(C)は垂直断面図である。
【図2】本発明複合パネルの部分拡大図であって、(A)は図1(B)のA部を、(B)は図1(C)のB部を、(C)は図1(C)のC部を示す図である。
【図3】本発明複合パネルの内部構造を示す斜視図であって、(A)はセメント板と型枠体との関連構造を示し、(B)は下枠4と鋼板5との関係構造を示す図である。
【図4】本発明複合パネルの使用状態を示す部分斜視図である。
【図5】本発明複合パネルの製造過程を示す斜視図である。
【図6】従来の、セメント板の斜視図であって、(A)は上部のZクリップ仮止め状態を、(B)はセメント板上部の梁への取付け状態を、(C)は下部Zクリップの取付け状態を、(D)はセメント板下部の梁への取付け状態を示す図である。
【図7】従来の、セメント板を梁へ取付けた状態を示す斜視図である。
【図8】従来の、セメント板の使用状態を示す部分斜視図である。
【符号の説明】
1…セメント板
2…上枠
3…側枠
4…下枠
5…鋼板
6…硬質ウレタンフォーム
7…内装板
8…ボルト孔
9…ナット
10…平鋼
11…丸鋼
15…ロックウール
17…化粧板
21…Zクリップ
h…空洞
O…注入孔
P…柱
S…スタッド
T…型枠体
W…複合パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 セメント板(1)を複数枚並置した外層の内面に、鋼材の少なくとも上下枠を備えた型枠体(T)を載置し、更に型枠体(T)上に内装板(7)を載置し、型枠体(T)で形成された空洞部(K)が硬質ウレタンフォーム(6)によって充填されて、セメント板(1)と型枠体(T)と内装材(7)とが硬質ウレタンフォーム(6)によって一体的に接着結合された外壁用複合パネル。
【請求項2】 型枠体(T)がアングル鋼材の上下左右枠を備え、上下枠間及び左右枠間には補強材(10,11)が張設されている請求項1の外壁用複合パネル。
【請求項3】 型枠体(T)が、アングル鋼材の一辺を水平内向きとし、他辺を垂直上向きとした上枠(2)及び両側枠(3,3)と、アングル鋼材の一辺を水平内向きとし、他辺を垂直下向きのセメント板下端支承辺とした下枠(4)と、更に下枠(4)に垂直上向きの鋼板(5)を固着した構造体である請求項2の外壁用複合パネル。
【請求項4】 両側枠(3,3)の立設辺と内装板(17)との間には、熱不良導体の緩衝体(14)が全長に亘って介在している請求項2または3の外壁用複合パネル。
【請求項5】 上枠(2)及び下枠に取付けた鋼板(5)の内面には、ボルト孔(8)と連通するナット(9)を溶接固定している請求項1から4までのいずれか1項の外壁用複合パネル。
【請求項6】 各セメント板(1)の上下端がZクリップ(21)によって上下枠(2,4)の水平辺に係止されている請求項1から5までのいずれか1項の外壁用複合パネル。
【請求項7】 セメント板(1)の上端が上枠(2)の上面よりやや突出している請求項1から6までのいずれか1項の外壁用複合パネル。
【請求項8】 セメント板(1)の一方の側端部が内方への屈曲縁を備えた請求項1から6までのいずれか1項の外壁用複合パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【特許番号】特許第2999980号(P2999980)
【登録日】平成11年11月5日(1999.11.5)
【発行日】平成12年1月17日(2000.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−152628
【出願日】平成9年6月10日(1997.6.10)
【公開番号】特開平11−1991
【公開日】平成11年1月6日(1999.1.6)
【審査請求日】平成9年6月10日(1997.6.10)
【出願人】(000188917)松本建工株式会社 (4)
【出願人】(396027108)株式会社テスク (68)
【参考文献】
【文献】特開 平6−158779(JP,A)
【文献】特開 平8−277601(JP,A)
【文献】特開 平9−60142(JP,A)