説明

鉛フリーはんだ合金及び当該はんだを用いたはんだ接合部

【課題】低耐熱性電子部品等の実装に適した、高い接合信頼性を有する鉛フリーはんだ及びはんだ接合を低コストで提供する。
【解決手段】Sn-Bi-Ni及びSn-Bi-Cu-Niを基本組成とし、Sn-Biの共晶組成に一定量のNi及び/又はCuを添加させることで、はんだ接合部及び/又ははんだ接合界面にNiBi、Ni3Sn2及びCu6Sn5のようなNiAs型結晶構造に代表される六方最密充填構造を有する金属間化合物を形成させることにより、強固で高い信頼性を有するはんだ接合を可能とした。更に、Ge、Ga、及びPから選択される1種又は2種以上を0.001〜1.0重量%添加することにより、はんだ接合部及び/又ははんだ接合界面にNiAs型結晶構造を有する金属間化合物の形成を阻害することなく、はんだ合金溶融中やはんだ接合部の酸化を抑制して、高い信頼性を有するはんだ接合が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sn、Bi、及びNiを基本組成とする鉛フリーはんだ合金に関し、はんだ接合部及び/又ははんだ接合界面においてNiAs型結晶構造を有する金属間化合物を形成することを特徴とする鉛フリーはんだ合金及び当該鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Sn-Pb共晶はんだが電子部品の接合材料として広く用いられてきた。しかし、近年、鉛の人体及び環境への影響が問題視されるようになり、鉛を配合しない鉛フリーはんだ接合材料の開発が進み、広く実用化されている。
例えば、Sn-Ag-Cu系はんだ合金やSn-Cu-Ni系はんだ合金が広く用いられている。
しかし、Sn-Ag-Cu系はんだ合金及びSn-Cu-Ni系はんだ合金の融点は、それぞれ217℃〜221℃と227℃になっており、Sn-Pb共晶はんだ合金の融点183℃に比べ高温である。そのため、低耐熱性電子部品等の実装には使用することが困難であった。
【0003】
そこで、比較的融点の低いSn-Zn系はんだ合金やSn-Pb共晶はんだ合金の融点よりも低温のSn-Bi系はんだ合金、そして、Sn-Ag-Cu系はんだ合金にInやBiを添加して融点を下げた鉛フリーはんだ合金の提案がなされ、実用化も進んでいる。
しかし、Sn-Zn系はんだ合金は腐食等の信頼性に、Sn-Bi系はんだ合金は接合強度に、そして、Sn-Ag-Cu系はんだ合金にInやBiを添加して融点を下げた鉛フリーはんだ合金の場合は、高価なInの添加によるコスト面での問題点、更にBi添加の場合は機械的特性の劣化等の問題がそれぞれ存在している。
【0004】
上記の問題を解決すべく、本発明者は特許文献1においてInを必須成分とし、それにCu及びNi、又はCu、Ni及びSnを添加した鉛フリーはんだ合金を用い、且つ、はんだ接合部及び/又ははんだ接合界面にNiAs型結晶構造を有する金属間化合物を形成させることにより、信頼性等の高い鉛フリーはんだ合金とそれを用いたはんだ接合を提案している。
【0005】
しかし、上記提案はInを含有するため、コスト面での課題を残していることも事実であり、より低コストで高信頼性を有し、しかも、Sn-Pb共晶はんだ合金よりも融点の低い鉛フリーはんだ合金が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−5542号公報
【特許文献2】国際公開2009/51255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低耐熱性電子部品等の実装に適した、高い接合信頼性を有する鉛フリーはんだ及びはんだ接合を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鉛フリーはんだ合金組成及び金属間化合物に着目して鋭意検討を重ねた結果、Sn-Bi-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金を用いることにより、はんだ接合部及び/又ははんだ接合界面において、Bi-Ni及びNi-Sn金属間においてNiAs型結晶構造に代表される六方最密充填構造(稠密六方格子)を有する金属間化合物を形成すること、そして、Sn-Bi-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金にCuを添加したSn-Bi-Cu-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部及び/又ははんだ接合界面においてもNiAs型結晶構造を有する金属間化合物を形成させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、Sn-Bi-Niを基本組成とし、Sn-Biの共晶組成に一定量のNi及び/又はCuを添加させることによって、はんだ接合部及び/又ははんだ接合界面にNiBi、Ni3Sn2、及びCu6Sn5のようなNiAs型結晶構造に代表される六方最密充填構造を有する金属間化合物を生成させ、それらの金属間化合物をはんだ接合部及び/又ははんだ接合界面に形成させることによって、接合強度及び信頼性の高いはんだ接合を可能とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、融点の低い鉛フリーはんだ合金であるため、低耐熱性電子部品のはんだ接合や高密度はんだ実装が可能となるばかりでなく、はんだ接合部の強度が高く、信頼性にも優れているため、また、従来のIn配合鉛フリーはんだ合金に比べコストも安価であることから、広く電子部品のはんだ接合に応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】NiAs型結晶構造のモデル図
【図2】Cu-Sn状態図
【図3】Bi-Ni状態図
【図4】Ni-Sn状態図
【図5】Bi-Cu状態図
【図6】Bi-Sn状態図
【図7】Cu-Ni状態図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳細に説明する。
従来、はんだ接合部やはんだ接合界面に金属間化合物が形成されることは知られており、その際、生成される金属間化合物の組成は、使用するはんだ合金の組成や母材等により異なる。例えば、電子部品を銅配線を施したプリント基板にSnを主成分とする鉛フリーはんだ合金を用いてはんだ接合を行った場合、接合母材であるプリント基板の銅配線部とはんだの接合界面にCu6Sn5等の金属間化合物が生成し、金属間化合物層が形成される。
これは、プリント基板の母材組成であるCuに鉛フリーはんだ合金の組成であるSn等が接触し、濡れが生じ、はんだ相にCuが拡散する際、はんだ接合界面に金属間化合物の組成である例えばCuの濃化現象が発生し、Cu6Sn5金属間化合物が生成し、接合界面に当該金属間化合物の層を形成すると考えられている。
また、プリント基板の母材組成にCuが存在しない場合であっても、本発明の鉛フリーはんだ合金を用いることによって、はんだ接合界面に母材にCuが存在するのと同様のCu6Sn5組成等の金属間化合物層が形成すると考えられている。
【0013】
このように、はんだ接合部及び/又ははんだ接合界面にCuSn金属間化合物が生成すると、接合界面に当該金属間化合物の層を形成し、接合強度が向上することが知られている。そして、このCu6Sn5金属間化合物の結晶構造が金属間化合物の結晶構造がNiAs型に代表される六方最密充填構造であり、当該結晶構造を有する金属間化合物をはんだ接合部及び/又ははんだ接合界面に有することが重要である。
また、本発明者が特許文献2にて提案した鉛フリーはんだ合金もNiAs型に近い結晶構造を有する金属間化合物組成である(Cu,Ni)6Sn5を接合界面に形成させることによって、はんだ接合界面に発生するクラックを抑制する効果を有していることも述べられている。
【0014】
本発明は、係る条件を満たすNiAs型結晶構造に代表される六方最密充填構造を有する金属間化合物の生成に着目し、且つ、低コストで低融点を実現させるために、Sn-Bi共晶を基に種々の元素と配合量を検討した結果、Niを特定量添加したSn-Bi-Niと、更に当該組成にCuを添加したSn-Bi-Ni-Cuを基本組成とする鉛フリーはんだ合金を選択することにより、低耐温性電子部品等の接合が可能な温度域においても、高信頼性と優れた電気特性効果を有するはんだ接合を可能としたのである。
【0015】
本発明のSn-Bi-Ni及びSn-Bi-Ni-Cuを基本組成とする鉛フリーはんだ合金の各組成の配合量は、本発明の効果を有する範囲において特に制限はないが、Sn-Biの比率において、Biの配合量が23〜63atm%の範囲であれは融点が185℃以下となるため好ましく、更に、SnとBiが共晶関係付近であればより好ましい。例えば、SnとBiの比率では、Snが57atm%、Biが43atm%付近の共晶域が例示できる。
そして、Ni及び/又はCuの配合量に関して、はんだ接合において結晶構造が六方最密充填構造を有する金属間化合物を生成する配合量であれば特に制限はないが、はんだ合金の融点を考慮すると、Niの場合、0.001〜1.0重量%が好ましく、更に0.01〜0.1重量%がより好ましい。そして、Cuの場合、0.01〜2.0重量%が好ましく、更に0.1〜1.0重量%がより好ましい。
また、本発明のSn-Bi-Ni及びSn-Bi-Ni-Cuを基本組成とする鉛フリーはんだ合金に本発明の効果を損なわない範囲において、Se、Te、Sb、Si、Ag、Zn、Ge、Ga、P、Si、Al等の元素の1種又は2種以上を任意に添加しても構わない。その際の添加量も、本発明の効果を損なわない範囲において特に制限はない。
更に、上記の添加元素の中でも、Ge、Ga、及びPは、酸化防止効果を有するため、Sn-Bi-Ni及びSn-Bi-Cu-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金中に0.001〜1.0重量%を添加することにより、はんだ接合の信頼性が著しく向上する。
【0016】
本発明の、Sn-Bi-Ni及びSn-Bi-Cu-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部及び/又ははんだ接合界面に結晶構造が六方最密充填構造を有する金属間化合物を生成することについて状態図を用いて説明する。
図1は、六方最密充填構造の代表的な結晶構造であるNiAs型結晶構造のモデル図であり、本発明のSn-Bi-Ni及びSn-Bi-Cu-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部及び/又ははんだ接合界面には、図1に示す結晶構造を有する金属間化合物が形成されていると考えられる。
【0017】
図2は、Cu-Snの状態図であるが、当該状態図より、Snの配合量が44atm%付近において、η域が出現しNiAs型結晶構造を示すCu6Sn5化合物組成がみられる。
【0018】
図3は、Bi-Niの状態図であるが、当該状態図より、Biの配合量が45〜49atm%付近において、NiAs型結晶構造を示すNiBi化合物組成がみられる。
【0019】
図4は、Ni-Snの状態図であるが、当該状態図より、Snの配合量が39〜43atm%において、NiAs型結晶構造を示すNi3Sn2合物組成がみられる。
【0020】
図5は、Bi-Cuの状態図であるが、当該状態図より、金属間化合物の形成は見られない。
【0021】
図6は、Bi-Snの状態図であるが、当該状態図より、金属間化合物の形成はみられない。また、Biが43atm%付近で共晶がみられる。
【0022】
図7は、Cu-Niの状態図であるが、当該状態図より、CuとNiが全固溶の関係にあることがわかる。
【0023】
図2〜図4の状態図により、Sn-Bi-Ni及びSn-Bi-Cu-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金が、NiAs型結晶構造を有する化合物のNiBi、Ni3Sn2及びCu6Sn5を形成する配合域を有することがわかる。
また、図5〜図7の状態図より、BiとCuは金属間化合物の生成はなく、SnとBiは共晶関係にあり、CuとNiは全固溶の関係にあることがわかる。
【0024】
以上の状態図より、本発明のSn-Bi-Ni及びSn-Bi-Cu-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金を用いてはんだ接合を行った場合、はんだ接合部及び/又ははんだ接合界面にはNiBi、Ni3Sn2及びCu6Sn5といったNiAs型結晶構造を有する金属間化合物を形成することが予測され、本発明の効果を有すると考えられる。
【0025】
更に、本発明のSn-Bi-Ni及びSn-Bi-Cu-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金に、Ge、Ga、及びPから選択される1種又は2種以上を0.001〜1.0重量%添加することにより、はんだ合金溶融中やはんだ接合部の酸化を抑制して、高い信頼性を有するはんだ接合が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のSn-Bi-Ni及びSn-Bi-Cu-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金は、融点がSn-Pb共晶はんだ合金と比較して、低融点に調整することが可能であるため、高い信頼性を有するはんだ接合が低耐熱性電子部品に対して可能となることに加え、従来のIn配合の鉛フリーはんだ合金に比較して安価であるため、高密度化、微細化を必要とする電子部品等の製造、実装に広く応用が可能である。











【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn-Bi-Niを基本組成とする鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合において、はんだ接合部中及び/又ははんだ接合界面に六方最密充填構造を有する金属間化合物を形成することを特徴とする鉛フリーはんだ合金及び当該鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部。
【請求項2】
請求項1記載の鉛フリーはんだ合金にCuを添加したことを特徴とする鉛フリーはんだ合金及び当該鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部。
【請求項3】
六方最密充填構造がNiAs型結晶構造であることを特徴とする請求項1及び請求項2記載の鉛フリーはんだ合金及び当該鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部。
【請求項4】
Sn及びBiの配合が共晶付近であることを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の鉛フリーはんだ合金及び当該鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部。
【請求項5】
Niの含有量が0.001〜1.0重量%、残部がSn及びBiよりなることを特徴とする請求項1乃至請求項4記載の鉛フリーはんだ合金及び当該鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部。
【請求項6】
Cuの含有量が0.01〜2.0重量%、残部がSn、Bi及びNiよりなることを特徴とする請求項2乃至請求項5記載の鉛フリーはんだ合金及び当該鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部。
【請求項7】
請求項1〜請求項6記載の鉛フリーはんだ合金に、Ge、Ga、及びPから選択される1種又は2種以上を0.001〜1.0重量%添加したことを特徴とする鉛フリーはんだ合金及び当該鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部。





【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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