説明

鉛蓄電池の製造方法

【課題】過放電放置特性を向上させるために不可欠な硫酸ナトリウムを製造工程において安定して投入できる、品質の高い鉛蓄電池の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、極板群を電槽の内部に収納して液口を有する蓋で電槽の開口部を封口する第1の工程と、電解液である希硫酸を液口から注入する第2の工程と、硫酸ナトリウムからなる錠剤を液口から投入する第3の工程と、液口を液口栓で閉じる第4の工程と、からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は車載用途を中心に安定した需要があり、この鉛蓄電池の特性を向上させる方法について、種々検討がなされている。
【0003】
車載用鉛蓄電池の重要な側面の1つに、特に長期間乗車せずに車載機器に流される暗電流等によって車載用の鉛蓄電池が過放電した場合でも内部短絡を回避できること(過放電放置特性に優れること)が挙げられる。これを具現化する技術として、電解液(希硫酸)にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の硫酸塩(とりわけ硫酸ナトリウム)を溶解させることが知られている。
【0004】
工場において多品種の鉛蓄電池を製造する場合、コスト低減の観点から、できるだけ原材料を統一して、添加物はその所望量を後入れする方法が採られる。例えば電解液への硫酸ナトリウム添加量が種々に亘る場合、電解液を電槽の内部に注入する際に所望量の硫酸ナトリウムを投入することが望ましい。
【0005】
この硫酸ナトリウムは吸湿性を有するため、粉末として電解液に投入するには、湿度管理や投入方法に細心の注意を払う必要が生じる。この煩雑さを回避することを考えた場合、即用式鉛蓄電池ではあるが特許文献1のように、硫酸ナトリウムからなる錠剤を予め所望量だけ電槽の内部に投入しておき、然る後に電解液を注入する方法が望ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−190834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1の記載に準拠して錠剤化した硫酸ナトリウムを添加しても、実際の製造工程において、新たな課題を生じさせることがわかってきた。本発明は上記課題に基づいてなされたものであり、過放電放置特性を向上させるために不可欠な硫酸ナトリウムを製造工程において安定して投入できる、品質の高い鉛蓄電池の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、極板群を電槽の内部に収納して液口を有する蓋で電槽の開口部を封口する第1の工程と、電解液である希硫酸を液口から注入する第2の工程と、硫酸ナトリウムからなる錠剤を液口から投入する第3の工程と、液口を液口栓で閉じる第4の工程と、からなることを特徴とする鉛蓄電池の製造方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、錠剤に炭酸ナトリウムをさらに混在させることを特徴とする。また請求項3に記載の発明は、請求項1において、電槽の外部観察検査を行う第5の工程をさらに設けることを特徴とする。
【0010】
鉛蓄電池の場合、電解液を液口から注入した場合、その注入量は液面を目視することで管理することになる。鉛蓄電池において電解液中の硫酸イオンは活物質の一部を担うので、注入量は慎重に管理する必要がある。
【0011】
しかしながら特許文献1のように、予め硫酸ナトリウムからなる錠剤を電槽の中に添加し、然る後に電解液を注入する方法では、電解液の液面が管理し難くなり、電池の諸特性を左右する電解液の注入量がばらつくことがわかった。この理由として、吸湿性を有する硫酸ナトリウムはその保管状態(日数や保管場所の湿度など)によって電解液を注いだ時の錠剤の崩壊度合が大きく異なることが挙げられる。加えて、一般的に鉛蓄電池は、外部に接する面積の大きい端セルが外気温の影響を受けやすいので、保管状態によっては同一電池内でも電解液の注入量に差が出ることもある。
【0012】
また鉛蓄電池は、電解液の所望量全てを注入せずに化成を行い、化成後に残りの電解液を注入して液面を調整することが多い。しかしながら特許文献1の構成で上述した方法を行うと、電解液の所望量全てを注入せずに硫酸ナトリウムが溶け残ってしまった状態(電解液中の硫酸イオン濃度が不安定な状態)で鉛蓄電池を化成することで、化成効率がセル間やロット間で一定化しない虞がある。
【0013】
そこで本発明では、第1の工程として極板群を電槽の内部に収納して液口を有する蓋で電槽の開口部を封口した後、まず第2の工程として電解液を液口から注入し、然る後に第3の工程として硫酸ナトリウムからなる錠剤を液口から投入し、最後に第4の工程として液口を液口栓で閉じるようにした。このような順序で鉛蓄電池を製造することのメリットは、下記の通りである。
【0014】
第1に、第2の工程として電解液を液口から注入した状態で、硫酸ナトリウムからなる吸湿性の錠剤の影響を受けることなく、活物質の一部を担う電解液の注入量を液面にて精確に目視管理できる。
【0015】
第2に、硫酸ナトリウムからなる錠剤の直径を、液口の直径に対して80%以下とすることで、粉末状や顆粒状よりも円滑かつ精確に液口から硫酸ナトリウムを投入できる。一般に、鉛蓄電池のサイズや仕様ごとに構成条件(極板構成、活物質量、硫酸量など)が異なり、硫酸ナトリウムの所望量も都度異なる。これを鑑みて、硫酸ナトリウムを適度に小さい錠剤とすれば、液口1つに対して投入する錠剤の個数を管理することで電解液に溶解させる硫酸ナトリウムの添加量を細かく変化させることができるようになる。その結果、どのような仕様の鉛蓄電池に対しても適量の硫酸ナトリウムを投入できるようになる。
【0016】
ところで鉛蓄電池の製造工程の最終段階において、目視やカメラ検査機などを用いて電槽の外部観察検査(第5の工程)を行い、製造工程中に電槽が衝突などで破損していないかを調べることがある。この場合、硫酸ナトリウムからなる錠剤の溶解度合が不十分であれば、溶け残った錠剤を電槽の破損(衝突による樹脂成分の白化)と誤認することがある。この誤認を避けるには、第3の工程において投入する錠剤の中に炭酸ナトリウムをさらに混在させ、錠剤の溶解を促進するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、過放電放置特性を向上させるために不可欠な硫酸ナトリウムを安定して投入できるようになり、鉛蓄電池を高品質で製造・提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の鉛蓄電池の製造方法の一例を示す概略図
【図2】本発明の鉛蓄電池の製造方法の要部を示す概略断面図
【図3】鉛蓄電池の外観を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図を用いて本発明を実施するための形態について詳述する。
【0020】
図1は本発明の鉛蓄電池の製造方法の一例を示す概略図であり、左から右へと工程が進む様を表している。また図2は本発明の鉛蓄電池の製造方法の要部を示す概略断面図である。本発明は、セパレータを介して正極板と負極板とを対峙させた極板群2を電槽1の内部に収納して液口3aを有する蓋3で電槽1の開口部を封口する第1の工程と、電解液注入機4などを用いて電解液4aである希硫酸を液口3aから注入する第2の工程と、硫酸ナトリウムからなる錠剤5を液口3aから投入する第3の工程と、液口3aを液口栓6で閉じる第4の工程と、からなることを特徴としている。
【0021】
鉛蓄電池の場合、電解液4a中の硫酸イオンは活物質の一部を担うので、電解液4aを液口3aから注入した後、液面を目視することで電解液4aの注入量を管理する。しかしながら特許文献1のように、予め硫酸ナトリウムからなる錠剤5を電槽の中に添加し、然る後に電解液4aを注入する方法では、電解液4aの液面が管理し難くなり、電解液4aの注入量がばらつくことで電池の諸特性が不安定になる場合があることがわかった。この理由として、吸湿性を有する硫酸ナトリウムはその保管状態(日数や保管場所の湿度など)によって電解液を注いだ時の錠剤の崩壊度合が大きく異なることが挙げられる。加えて、一般的に鉛蓄電池は、外部に接する面積の大きい端セルが外気温の影響を受けやすいので、保管状態によっては同一電池内でも電解液の注入量に差が出ることもある。
【0022】
また鉛蓄電池は、電解液の所望量全てを注入せずに化成を行い、化成後に残りの電解液を注入して液面を調整することが多い。しかしながら特許文献1の構成で上述した方法を行うと、電解液の所望量全てを注入せずに硫酸ナトリウムが溶け残ってしまった状態(電解液中の硫酸イオン濃度が不安定な状態)で鉛蓄電池を化成することで、化成効率がセル間やロット間で一定化しない虞がある。
【0023】
そこで本発明では、図1に示すように、第1の工程の後、まず第2の工程として電解液4aを液口3aから注入し、然る後に第3の工程として錠剤5を液口3aから投入するようにした。この手順を経ることで、下記のメリットがある。
【0024】
第1に、第2の工程として電解液4aを液口3aから注入した状態で、その注入量を液面にて精確に目視管理できるので、錠剤5の吸湿度合が液面に及ぼす影響を無視できる。
【0025】
第2に、液口3aの直径に対して錠剤5の直径を80%以下と適度に小さくすれば、粉末状や顆粒状よりも円滑かつ精確に液口3aから硫酸ナトリウムを投入できるだけでなく、液口3a1つ当たりの錠剤5の投入量を錠剤として管理できる。そうすれば、重量などによって管理する場合よりも簡便な上、電解液に溶解させる硫酸ナトリウムの添加量を細かく変化させることができるようになり、種々の特性を有する鉛蓄電池を逐次設計できるようになる。
【0026】
図3は鉛蓄電池の外観を示す概略図である。鉛蓄電池はその製造過程において、運搬時の不注意やラインの不整備などによって電槽が床や諸設備に衝突し、使用時に支障をきたす破損箇所7を形成することがある。例えば車載用鉛蓄電池の場合、電槽1の材質をポリプロピレン(PP)にすることが多いが、このPP製の電槽1の一部に生じた破損箇所7が一般的に白色化することから、この不具合は白化と呼ばれる。白化が著しい箇所にはクラックが発生しているため、車載後に電解液(希硫酸)が車両の内部に飛散付着し、金属の腐食を引き起こすことがある。このような不具合を回避するために、鉛蓄電池の製造工程の最終段階において、目視やカメラ検査機などを用いて電槽1の外部観察検査(第5の工程)を行うことがある。
【0027】
しかしながら、硫酸ナトリウムからなる錠剤5の溶解度合が不十分であれば、溶け残った錠剤5を、電槽1の破損箇所7の白化と誤認することがある。そこでこの誤認を避けるために、第3の工程において投入する錠剤5の中に炭酸ナトリウムをさらに混在させ、錠剤5の溶解を促進する方法が好ましい。
【0028】
炭酸ナトリウムを電解液に投入した際の反応式は「Na2CO3+H2SO4→2Na++SO42-+CO2+H2O」である。この式からわかるように、炭酸ナトリウムは電解液中で硫酸ナトリウムを生じさらに硫酸イオンに電離するので、硫酸ナトリウムの有用性を損なわない。加えて炭酸ナトリウムの溶解時に発生する二酸化炭素によって電解液の拡散性が向上するので、硫酸ナトリウムの溶解性が高まる。
【0029】
なお錠剤5に混在させる炭酸ナトリウムは、硫酸ナトリウムに対して、重量比で25%以上とすることが好ましい。この範囲であれば、電解液4aに対する錠剤5の添加比率にもよるが5分以内で錠剤5を溶かすことができる。
【0030】
ここで極板群2に用いられる正極板には、活物質ペーストとして鉛および鉛酸化物を含むものを用いることができる。また負極板には、活物質ペーストとして鉛および鉛酸化物、さらには硫酸バリウムやカーボンブラック、およびリグニン化合物を含むものを用いることができる。さらにセパレータにはポリエチレンなどを用いることができる。電槽1や蓋3には、PPやアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)を用いることができる。また極板群2の内部や極板群2どうしを電気的に接続するストラップや接続部品などには、鉛や種々の鉛合金を用いることができる。さらに液口栓6には、防爆などの機能を有するものを用いることができる。なお電解液4aとして用いる希硫酸の比重は、1.2〜1.4g/mlであることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の鉛蓄電池の製造方法は、過放電放置特性を向上させるために不可欠な硫酸ナトリウムを製造工程において精確に投入できるため、鉛蓄電池の利用範囲を広めることができる。さらに硫酸ナトリウムの添加方法を工夫すれば、不良品としての誤認をも確実に避けることできるので、産業上の貢献度は極めて高い。
【符号の説明】
【0032】
1 電槽
2 極板群
3 蓋
3a 液口
4 電解液注入機
4a 電解液
5 錠剤
6 液口栓
7 破損箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極板群を電槽の内部に収納して液口を有する蓋で電槽の開口部を封口する第1の工程と、
電解液である希硫酸を前記液口から注入する第2の工程と、
硫酸ナトリウムからなる錠剤を前記液口から投入する第3の工程と、
前記液口を液口栓で閉じる第4の工程と、
からなることを特徴とする鉛蓄電池の製造方法。
【請求項2】
前記錠剤に炭酸ナトリウムをさらに混在させることを特徴とする、請求項1記載の鉛蓄電池の製造方法。
【請求項3】
前記電槽の外部観察検査を行う第5の工程をさらに設けることを特徴とする、請求項2に記載の鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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