説明

鉛蓄電池

【課題】深い放電と慢性的な充電不足状態で使用されるようになり、充電不足状態で電解液の比重が電極板の下部ほど高くなる成層化現象が発生し、充電効率が低下した。この充電効率の低下とサルフェーションの生成で電池寿命が急速に低下する。
【解決手段】集電体のマス目の面積が集電体格子高さ方向の上部1/3に対して中央部1/3は40%以上、下部1/3は20〜80%となる負極板及び正極板とする。また、極板の厚みが上部から下部に向けて薄くなっている負極板及び正極板であり、極板の上部厚みをT、極板高さをH、極板の下部厚みをt、極板のある高さYにおける極板厚みをXとした場合、Y=(H/(T−t))X−HT/(T−t)であり、H/(T−t)が97〜290、HT/(T−t)が155〜464とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリングストップ用途の自動車用鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用鉛蓄電池は、SLIバッテリーと呼ばれるように、主に、スターター(起動)、照明、イグニッションに使用され、その他、高級車では100個以上搭載されているモーターの電源にも使用されているが、前記スターター以外はエンジンが発電機を駆動して電力を供給するため、鉛蓄電池はさほど深くは放電されず、むしろ、走行中は、発電機により充電されるため満充電状態に置かれることが多かった。
しかし、近年、自動車の燃費改善や排出ガスの削減を目的に、信号待ちなどで停車中はエンジンを停止するアイドリングストップが求められるようになり、エンジン停止中は、電力は、発電機からではなく、鉛蓄電池から供給されるため、鉛蓄電池は従来よりも深く放電されるようになった(特許文献1)。
また、過充電の手前で充電を終了して発電機の負荷を軽減する過充電防止システムが導入されたため、充電効率が低い場合は充電不足状態で使用されることが多くなった。このように鉛蓄電池は、深い放電と慢性的な充電不足状態で使用されるようになり、特に充電不足状態で長期使用したとき、濃厚な硫酸が沈降して電解液の比重が電極板の下部ほど高くなる成層化現象が発生し、その結果、負極に電池反応に寄与しない硫酸鉛の粗大結晶粒が生成(サルフェーション)して充電効率が低下した。この充電効率の低下とサルフェーションの生成という悪循環が繰り返されることで電池寿命は急速に低下した。
この改善策として負極にカーボンを多量に添加して硫酸鉛の間隙に導電パスを形成する方法が提案されたが、本発明者がこの方法をトレース実験した結果では十分な寿命延長は認められなかった。
前記アイドリングストップに対して、自動車側からは、より小電力でエンジンを再始動できる改造がなされた。しかし、この改造でサルフェーションが進行した状態でもエンジンが始動するようになったため、サルフェーションで劣化した負極活物質部分よりも分極の小さい負極耳部や負極格子板の上部が活物質化してやせ細り、破断して鉛蓄電池が突然寿命に至るという最悪の寿命モードを招いた。
また、アイドリングストップによるエンジン始動の回数増加及び充電制御による充電状態の低下に伴い、極板の放電分布が不均一になり、より分極の小さい負極耳部のやせ細りが加速することとなった。このようなことから放電分布の均一化は負極耳部のやせ細り対策として重要な課題となる。
なお、前記耳部などのやせ細りは電解液が少量の制御弁式鉛蓄電池(特許文献1)でも、電解液を多量に含む液式鉛蓄電池でも発生する。
これまでに、充電時に正極側から発生する酸素により耳部が腐食するのを、耳部にマット体などを配し、そこに電解液を保持させて防止する方法が提案されている(特許文献2、3)が、この方法によっても前記耳部のやせ細りは防止できなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2003−338312号公報
【特許文献2】特開平4−249064号公報
【特許文献3】特開平8−162149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなことから、本発明者等は前記負極耳部のやせ細りの状況を調査した。その結果、次のことを知見した。即ち、電池の寿命が残り20%程度になると、負極活物質中の硫酸鉛量が50%前後に増加し、負極耳部が細り始める。その後、硫酸鉛が急速に増加し、硫酸鉛量が80〜90%に達すると耳部の厚みは元の10%程度になって破断し易い状態になる。また、その頃になると負極劣化も寿命寸前にまで進行する。
ところで、電池の寿命モードは、負極が徐々に劣化して寿命に至るのが望ましく、前記耳部破断による突然寿命に至ることは自動車用鉛蓄電池としては回避すべきであり、そのためには、耳部破断を、負極劣化による寿命より遅らせる必要がある。
本発明は、負極劣化を遅延させるとともに、耳部破断をそれよりさらに遅延させた、突然寿命にならない長寿命の鉛蓄電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、エキスパンド製法によって形成される負極板及び正極板用の集電体のマス目の面積が、集電体格子高さ方向の上部1/3に対し、中央部1/3は40%以上、下部1/3は20〜80%であることを特徴とする鉛蓄電池である。
請求項2記載の発明は極板の厚みが上部から下部に向けて薄くなっている負極板及び正極板であり、その極板の上部厚みをT、極板高さをH、極板の下部厚みをt、極板のある高さYにおける極板厚みをXとした場合、数式1のとおりであり、傾きH/(T−t)は97〜290、Y切片HT/(T−t)は155〜464であることを特徴とする鉛蓄電池である。
Y=(H/(T−t))X−HT/(T−t)・・・(数式1)
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明は、集電体のマス目の面積を上部から下部に向けて小さくすることで極板下部の集電効率を上げ、極板全体の放電分布及び充電効率を均一にすることが出来る。請求項2記載の発明も同様に、極板の厚みを上部から下部に向け薄くすることで極板全体の放電分布及び充電効率を均一にすることが出来る。このことにより負極活物質と負極耳部付近の分極の差を抑制し、耳部放電による活物質化を防止することが出来る。極板全体の放電分布を均一にすることが重要であり、極板上下の集電効率のバランスが取れた場合でのみ発明の効果を発揮する。
本発明は、21世紀において益々重要になる地球環境問題から、不可避的に要求される省エネルギー、自然エネルギーなどの新エネルギー利用、特に化石燃料消費の多くを占める自動車などの輸送機器の燃費改善に応え得る、経済的で長期間安定的して作動する鉛蓄電池を提供するものであり、その工業的価値は極めて大きい
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施することができる。
【実施例】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0009】
(比較例)
比較例の鉛蓄電池は、次のようにして作製した。
鉛丹15kgと希硫酸(比重1.26:20℃換算以下同じ)110Lを混練ミキサー中に投入し鉛丹スラリーを作った。前記鉛丹スラリーと鉛粉850kgをペースト練合機に投入し、100Lの水と混練して正極活物質ペーストを作った。次に、この正極活物質ペースト85gをカルシウム合金からなるエキスパンド集電体に充填してから、温度40℃、湿度95%中に18時間放置して熟成した後に、温度60℃中に12時間放置して乾燥して未化成正極板を作った。エキスパンド集電体のマス目は幅17mm、高さ12mmの菱形形状で、開口面積(以下面積と略す)が102mmとした。
【0010】
次に負極板は、鉛粉と、該鉛粉に対して15wt%の希硫酸(比重1.26)と、該鉛粉に対して12wt%の水とを混練して負極活物質ペーストを作った。次に、負極活物質ペースト80gをカルシウム合金のエキスパンド集電体に充填してから、温度50℃、湿度95%中に18時間放置して熟成した後に温度110℃中に2時間放置して乾燥して未化成負極板を作った。
作製した未化成負極板8枚と未化成正極板7枚とをセパレータを介して交互に積層して各極板群を作った。
化成は25℃の雰囲気で22.5A、12時間の定電流で充電を行った。充電に用いた硫酸の比重は1.240とし、各セル700ml注入した。
以上の手順により、定格電圧12V、定格容量(5時間率容量)55Ahである、比較例の80D26形自動車用鉛蓄電池(JIS D5301記載)を作製した。
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1の鉛蓄電池は、次のようにして作製した。
正極活物質ペースト及び負極活物質ペーストは比較例と同様の方法で作製した。カルシウム合金のエキスパンド集電体は、鉛―カルシウム合金のシートを階段状の上刃で切り込みをいれ、シートの幅方向に展開することによって、ダイヤモンド形状のマス目を形成させる。この上刃の形状を変えることで集電体の上下方向のマス目の形状を変えることができる。
本実施形態の集電体では、高さ方向上部1/3は、幅17mm、高さ12mmの菱形形状で面積が102mmのマス目とし、中央部1/3は幅17mm、高さ9mmの菱形形状で面積が76.5mmのマス目とし、下部1/3は幅17mm、高さ6mmの菱形形状で面積が51mmとした。この集電体にペーストを充填し、熟成以降は比較例と同様の方法で実施の形態1の80D26形自動車用鉛蓄電池(JIS D5301記載)を作製した。
【0012】
(実施の形態2)
実施の形態2の鉛蓄電池は、次のようにして作製した。
正極活物質ペースト及び負極活物質ペーストは比較例と同様の方法で作製した。カルシウム合金の正極エキスパンド集電体は、実施の形態1と同様のエキスパンド展開後、集電体の交点部分を高さ方向上部1/3は1.6mmの厚みでプレスし、中央部1/3は1.2mmの厚みでプレスし、下部1/3は0.8mmの厚みでプレスした後、ペーストを充填した。極板は極板最上部が厚み1.6mm、極板最下部が0.9mmになるように極板下部に向かって一定の割合で薄くなるように充填厚みを調整した。このとき極板の上部厚みをT、極板高さをH、極板の下部厚みをt、極板のある高さYにおける極板厚みをXとした場合、H/(T−t)の値は極板高さHが116mmであるので166となり、HT/(T−t)は265となる。
負極エキスパンド集電体は実施の形態1と同様のエキスパンド展開後、集電体の交点部分を高さ方向上部1/3は1.2mmの厚みでプレスし、中央部1/3は0.9mmの厚みでプレスし、下部1/3は0.6mmの厚みでプレスした後、ペーストを充填した。極板は極板最上部が厚み1.3mm、極板最下部が0.8mmになるように極板下部に向かって一定の割合で薄くなるように充填厚みを調整した。このときのH/(T−t)の値は極板高さHが116mmであるので232となり、HT/(T−t)は302となる。熟成以降は比較例と同様の方法で、実施の形態2の80D26形自動車用鉛蓄電池(JIS D5301記載)を作製した。
【0013】
図1にはSBA規定(SBA S 0101)のアイドリングストップ寿命試験の寿命サイクル数について、比較例を100%として実施の形態1、2の寿命サイクル数を示した。試験条件は25℃の周囲温度で45A、59秒放電した後300A、1秒放電、その後14Vで60秒充電する充放電を1サイクルとして充放電を繰り返し、3600サイクル毎に40〜48時間の放置を入れる。寿命サイクルは放電時の電圧が7.2V未満になったサイクルとする。
【0014】
図1の縦軸には、比較例の寿命サイクル数を100としたときの実施の形態1及び実施の形態2のサイクル数比を示した。実施の形態1は極板上部から下部に向けて集電体のマス目形状を小さくしていることから、極板上部に比べ極板下部の集電性を向上させている。実際の充放電時には集電部に近いところほど集電性が良く、すなわち集電部である極板上部ほど集電性が良くなっていることから、下部の集電性を改善した実施の形態1の極板は極板全面で均一な集電性を確保できるため、極板全体の活物質が均一に充放電に利用され、寿命サイクルが向上した。特に比較例1は不均一な充放電サイクルを繰り返すことで極板下部のサルフェーションに伴う負極耳部の折損で短寿命という結果となった。実施の形態2は実施の形態1と効果の原理は同じで、極板下部に向かって厚みを薄くすることにより極板下部放電分布を改善することで、通常では不均一であった充放電分布を均一にすることで寿命サイクルが向上した。
【0015】
図2は充電受入性試験の比較例を100としたときの実施の形態1及び実施の形態2の5秒目の電流値を示した。これは、電池容量をSOC(State of Charge)90%に調整し、6時間、25℃放置した後に14.0V定電圧充電を行う試験である。5秒目電流の値が大きいほど受電受入性が良好であることを意味し、実施の形態1、2は比較例に対して大幅に充電性が改善されている。これは集電性を均一にしたことで放電分布が極板の活物質全体に均一になり、充電受入性が良くなった結果である。この充電受入性の改善は充電前の放電状態が極板全体に均一に放電しているほど充電時の副反応である水素、酸素発生反応を抑制できことによると考えられる。この充電受入性向上も図1に示すサイクル特性向上の効果と言える。
【0016】
図3は極板の厚みが上部から下部に向けて薄くなっている負極板及び正極板であり、その極板の上部厚みをT、極板高さをH、極板の下部厚みをtとしたときのt/Tと充電受入性試験の5秒目電流との関係である。上部厚みに対して下部厚みの割合が0.25から0.75の場合において発明の効果が大きいことから、極板のある高さYにおける極板厚みをXとした場合、XとYの関係はY=(H/(T−t))X−HT/(T−t)となり、この式の傾きH/(T−t)は97〜290、Y切片HT/(T−t)は155〜464となる場合に充電受入性により効果をもたらす。
【0017】
図4は集電体の高さ方向上部1/3のマス目面積に対するマス目面積の割合と、充電受入性試験の5秒目電流の関係を示した物である。上部マス目面積に対する下部面積率が20〜80%において、5秒目電流が大きいことが分かる。また上部マス目面積に対する中央部面積率は40%以上で5秒目電流が大きく、これらマス目面積の割合がより効果的であることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アイドリングストップ寿命試験における寿命サイクル数の比較例比を示す図である。
【図2】25℃、充電受入性試験における14V定電圧充電5秒目電流値の比較例比を示す図である。
【図3】上部極板厚みTと下部極板厚みtの比、t/Tの関係と充電受入性試験における14V定電圧充電5秒目電流値との関係を示した図である。
【図4】集電体の上部マス目面積に対する中央部及び下部のマス目面積率と、充電受入性試験における14V定電圧充電5秒目電流値との関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキスパンド製法によって形成される負極板及び正極板用の集電体であって、集電体のマス目の面積が、集電体高さ方向の上部1/3に対し、中央部1/3は40%以上、下部1/3は20〜80%であることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
極板の厚みが上部から下部に向けて薄くなっている負極板及び正極板であり、その極板の上部厚みをT、極板高さをH、極板の下部厚みをt、極板のある高さYにおける極板厚みをXとした場合、数式1の関係があり、傾きH/(T−t)は97〜290、Y切片HT/(T−t)は155〜464であることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。
Y=(H/(T−t))X−HT/(T−t)・・・(数式1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−20905(P2010−20905A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177516(P2008−177516)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】