説明

鉛蓄電池

【課題】再生PPを用いつつ電解液面の視認性が良好な電槽を用いることで、リサイクルに配慮した補水タイプの鉛蓄電池(自動車のセルスタータ用途など)を提供する。
【解決手段】隔壁によって複数のセル室に区切られたポリプロピレン製の電槽の各セル室に、セパレータを介して正極と負極とを対峙させた複数の極板群と電解液を収納し、これら複数の極板群を電気的に接続して電槽の開口部を蓋で封止した鉛蓄電池であって、電槽を構成するポリプロピレンのうち再生ポリプロピレンの重量比率を10〜50%とし、かつ電槽の長側面の肉厚を1.5〜2.5mmとしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池に関し、特に使用済み蓄電池から採取されたリサイクル樹脂製部品の有効活用に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池における電槽、蓋や液口栓などの樹脂製部品には、耐酸化性に優れるポリプロピレン樹脂またはポリプロピレンの共重合樹脂(以下、総称してPPと略記)や、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(以下、ABSと略記)が用いられてきた。中でもPPは電解液である希硫酸への耐性が高く、種々の鉛蓄電池の電槽材料として用いられ続けてきた。
【0003】
近年、環境および資源保護を目的とした鉛蓄電池のリサイクル使用が活発化している。そこでは活物質である鉛およびその化合物のみならず、鉛蓄電池に使用された電槽のリサイクルも検討されている。使用済みの(あるいは製造工程において不良品として排出された)鉛蓄電池に用いられた電槽は樹脂製部品(電槽、蓋、液口栓)の原材料となり得るが、不純物の混入による強度や耐性の低下が懸念される。しかしながら樹脂製部品の中でも蓋および液口栓は、電槽のように電解液が常時接触しておらず、かつ電槽に比べて肉厚で破壊しにくい形状であるため、新品のPPと再生PPとを混ぜ合わせたものを原材料とする場合が多かった。一方で電槽は電解液への耐性が求められるため、品質保証上、新品のPPのみを用いる場合が殆どであった。このように、再生PPは鉛蓄電池のリサイクル使用における他の再生材料(鉛など)と比べて消費が遅く、リサイクル活動におけるネックとなっていた。
【0004】
そこでこの課題を満たすべく、特許文献1のように、蓋や液口栓だけでなく電槽にも使用できる再生着色PPが提案されるようになった。具体的には、使用済みの(あるいは製造工程において不良品として排出された)鉛蓄電池の樹脂製部品を電槽、蓋、液口栓に分け、電槽から得た再生PPの割合を重量比で60%以上とし、残部を蓋および液口栓から得た再生PPとし(すなわち100%再生PPとし)、これを着色したものを原材料として鉛蓄電池の電槽を作製することで、加工性と機械的強度のバランスを図ろうというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−083575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで再生PPには不純物が多く含まれるため、そのまま使用した場合には黒点の残存や濃色化が引き起こされる。そこで特許文献1に示すように、100%再生PPであっても新品のPPと混ぜ合わせた場合であっても、種々の顔料を加えて美観を整えてから、樹脂製部品を作製することになる。
【0007】
鉛蓄電池の中でも最も販売量が多い自動車のセルスタータ用途は、補水によるメンテナンスが必要なため、電解液の減量度合が液面の視認により把握できるPP(新品のPPなら透明あるいは半透明)を電槽に用いてきた。ところが特許文献1のように顔料を加えたPPでは透明性が損なわれるため、結局はリサイクルできる対象商品が、電解液面の視認が不要な無補水タイプの鉛蓄電池(制御弁式鉛蓄電池など)に限られていた。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するものであって、再生PPを用いつつ電解液面の視認性が良好な電槽を用いることで、リサイクルに配慮した補水タイプの鉛蓄電池(自動車のセルスタータ用途など)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明の請求項1に記載した鉛蓄電池は、隔壁によって複数のセル室に区切られたポリプロピレン製の電槽の各セル室に、セパレータを介して正極と負極とを対峙させた複数の極板群と電解液を収納し、これら複数の極板群を電気的に接続して電槽の開口部を蓋で封止した鉛蓄電池であって、電槽を構成するポリプロピレンのうち再生ポリプロピレンの重量比率を10〜50%とし、かつ電槽の長側面の肉厚を1.5〜2.5mmとしたことを特徴とする。
【0010】
また本発明の請求項2に記載した鉛蓄電池は、請求項1において、蓋に液口栓を設けたことを特徴とする。
【0011】
さらに本発明の請求項3に記載した鉛蓄電池は、請求項1において、負極にカーボンを添加したことを特徴とする。
【0012】
上述したように、再生PPに含まれる不純物は電槽の黒点や濃色化の原因となるため、従来は再生PPを用いる際には顔料を添加し、上述した美観を損ねる現象を解消することが常態化されていた。
【0013】
しかしながら本発明者らが鋭意検討した結果、PPの全量に占める再生PPの重量比率を10〜50%とし、かつ長側面の肉厚を2.5mm以下にした電槽であれば、黒点や濃色化の抑制が可能で、電解液面を十分に視認できることを知見した。
【0014】
一方、再生PPを活用して電槽を作製する場合、長側面の肉厚が過度に小さい(1.5mm未満)と、樹脂(再生PPと新品のPPの混合物)が金型に円滑に注入されず、成形不良となることを、本発明者は併せて知見した。
【0015】
本発明はこれらの知見に基づいてなされたものであって、PPの全量に占める再生PPの重量比率を10〜50%とし、かつ長側面の肉厚を1.5〜2.5mmの範囲とした電槽を、蓋に液口栓を設けたメンテナンス型の鉛蓄電池に用いることで、必要な情報(電解液面)を視認できるようになる。
【0016】
ところで、特性向上の目的で負極に添加したカーボンの一部は、充放電の繰返しにより電解液中に浮遊する。特性低下とは無関係なこの現象を明確に視認した一部の使用者が、この現象をあたかも品質不良として誤判定することで、使用可能な鉛蓄電池を早期に交換するという不具合が報告されていた。しかしながら本発明の鉛蓄電池に用いる電槽は適度に黒ずんでいるため、電解液面は視認しつつも浮遊したカーボンが視認できなくなり、上述した誤判定を免れるようになるという特有の効果も有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、再生PPを用いつつ電解液面の視認性が良好な電槽を用いることで、リサイクルに配慮した補水タイプの鉛蓄電池(自動車のセルスタータ用途など)を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に用いる再生PPの製造工程を示すフローチャート
【図2】本発明の鉛蓄電池に用いる電槽の製造工程を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、図を用いて説明する。
【0020】
本発明の請求項1に記載した鉛蓄電池は、隔壁によって複数のセル室に区切られたポリプロピレン製の電槽の各セル室に、セパレータを介して正極と負極とを対峙させた複数の極板群と電解液を収納し、これら複数の極板群を電気的に接続して電槽の開口部を蓋で封止した鉛蓄電池であって、電槽を構成するポリプロピレンのうち再生ポリプロピレンの重量比率を10〜50%とし、かつ電槽の長側面の肉厚を1.5〜2.5mmとしたことを特徴とする。本発明の鉛蓄電池の要部である電槽の作製方法について、さらに詳述する。
【0021】
図1は、本発明に用いる再生PP樹脂の製造工程を示すフローチャートである。まず、使用済みまたは工程不良品として回収された鉛蓄電池から、PP樹脂製部品を回収する。次いでこれらの部品を粉砕し、比重差を利用した風力選別などによって異物を除去し、さらに次の工程での投入性を考慮してリペレットすることで、本発明に用いる再生PPを作製する。
【0022】
図2は、本発明の鉛蓄電池に用いる電槽の製造工程を示すフローチャートである。まず、再生PPと新品のPPとを、重量比率として再生PPが10〜50%となるように混合し、ルーダー加工を行った後、長側面の肉厚が1.5〜2.5mmの金型で複数種成型することで、本発明に用いる電槽を作製する。
【0023】
このようにして作製した電槽は再生PP特有の不具合である色むら、黒点、濃色化などが目立たなくなるので、成形時に顔料で着色する必要がなくなり、無着色で透明性が高い(電解液面の視認性が良好な)、補水タイプの鉛蓄電池にも使用可能な電槽となる。
【0024】
ここでPPの全量に占める再生PPの重量比率が10%未満の場合、却って新品のPPとの混合が困難になるために色むらが発生し、電解液面の視認性が低下する。またPPの全量に占める再生PPの重量比率が50%を超えるような過剰添加の場合、色むら、黒点、濃色化などが顕著化するために電解液面の視認性が低下する。
【0025】
正極および負極には、鉛合金からなる格子に鉛や鉛化合物の粉末を充填したものを用いることができる。なお正極には鉛丹を、負極にはカーボンや硫酸バリウムおよびリグニン化合物を、適宜添加することができる。
【0026】
セパレータにはポリエチレン、ガラスマット製のものを単独で用いたり、ガラスマット製のものとPP不織布とを併用したりできる。極板群を電気的に接続する部材には、種々の鉛合金を用いることができる。電解液には希硫酸を用いる。蓋や液口栓にはPPの他、ABSなどを用いることができる。
【実施例】
【0027】
ここでは鉛蓄電池を組み立てる代わりに、図1および2に沿って再生PPの重量比率や長側面の肉厚が(表1)に示すように異なる電槽(N−40B19L、N−60B24L、N−75D23L、N−85D23L、N−105D31L)を複数種作製し、電槽高さの80%まで電解液を注入した後、長側面側から電解液面の視認性を確認した。表中「○」は視認性が良好であったものを、「△」は色むらの発生により視認が困難であったものを、「×」は視認が不可能であったものを示す。「□」は成形不良であったものを示す。
【0028】
【表1】

【0029】
PPの全量に占める再生PPの重量比率が10〜50%で、かつ電槽の長側面の肉厚が1.5〜2.5mmである電槽は電解液面の視認性が良好であった。
【0030】
長側面の肉厚が1.5mm未満の場合、樹脂(再生PPと新品のPPの混合物)が金型に円滑に注入されず、電槽成形が困難であった(成形不良)。
【0031】
長側面の肉厚が2.5mmを超える場合、肉厚に比例して透明性が低下するため、電解液面の視認が不可能であった。
【0032】
PPの全量に占める再生PPの重量比率が10%未満の場合、再生PPの割合が減って透視しやすくなるという予測に反して、電解液面の視認が困難になった。この理由として、再生PPが少量だと却って新品のPPとの混合が困難になるために色むらが発生したことが挙げられる。
【0033】
PPの全量に占める再生PPの重量比率が50%を超える場合、再生PPの比率に比例して透明性が低下するため、電解液面の視認が不可能であった。
【0034】
なおPPの全量に占める再生PPの重量比率が10〜50%で、かつ電槽の長側面の肉厚が1.5〜2.5mmである試験品については、電解液中に1gのカーボンブラック(これまでの解析結果から、負極活物質当たり0.1質量%のカーボンを添加して実車試験を1年間行った場合の浮遊量に相当)を添加した場合でも、粉末の浮遊を視認できなかった。この結果に基づけば、特性低下とは無関係なカーボンの浮遊を使用者が品質不良として誤判定することはないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、鉛蓄電池のうち最も販売量が多い自動車のセルスタータ用途に再生PPを展開できるようになるので、リサイクル活動に貢献できる。しかも本発明の電槽を用いた鉛蓄電池は品質不良とは無縁の現象の視認性を落とすこともできるので、使用者の誤判定を防ぐこともできるため、実用的価値は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁によって複数のセル室に区切られたポリプロピレン製の電槽の各セル室に、セパレータを介して正極と負極とを対峙させた複数の極板群と電解液を収納し、これら複数の極板群を電気的に接続して電槽の開口部を蓋で封止した鉛蓄電池であって、
前記電槽を構成するポリプロピレンのうち、再生ポリプロピレンの重量比率を10〜50%とし、
かつ前記電槽の長側面の肉厚を1.5〜2.5mmとしたことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記蓋に液口栓を設けたことを特徴とする、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記負極にカーボンを添加したことを特徴とする、請求項1に記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−54080(P2012−54080A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195309(P2010−195309)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】