説明

鉛蓄電池

【構成】
鉛蓄電池は正極板と負極板と電解液とを有し、電解液はMgイオンを0.5mmol/L以上3mmol/L以下、Alイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下、Liイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下の濃度で含有する。
【効果】
サルフェーションを抑制することにより、充電不足になりやすい環境で使用する際の寿命性能を改善すると共に、過充電状態になりやすい環境で使用しても寿命性能に優れた鉛蓄電池が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉛蓄電池に関し、特に自動車用等に使用され、充電不足になりやすい環境でも過充電となりやすい環境でも、好ましい寿命性能を有する鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車用鉛蓄電池は、エンジン始動時にクランキング電流を供給すると共に、アイドリング等でエンジンの回転数が低下した際に、オルタネータからの電力不足を賄うために使用されてきた。そして通常走行時にはオルタネータからの電力で電装品を駆動すると共に、余剰電力により鉛蓄電池を充電する。鉛蓄電池は放電される機会に比べて充電される機会が多く、過充電になりやすい環境で使用される。
【0003】
これに対して近年、燃料効率の改善のため、自動車に鉛蓄電池の充電制御システムが搭載されるようになった。充電制御システムでは、自動車の減速による回生エネルギーにより鉛蓄電池を充電し、加速時、アイドリング時及び定速走行時に鉛蓄電池からの電力で電装品を駆動する。この結果、オルタネータでの発電に用いられてきたエネルギーを減らし、自動車の低燃費化が可能になる。しかし充電制御車では、鉛蓄電池が過充電にならないようにオルタネータを制御すると共に、鉛蓄電池の電力で電装品を駆動する機会が増しているので、鉛蓄電池は充電不足の状態(Partial State of Charge: PSOC)になりやすい。
【0004】
自動車の低燃費化をさらに進めるため、停車の都度、エンジンを停止させるアイドリングストップ制御が行われるようになった。アイドリングストップ車では、頻繁にエンジンを停止するので、エンジンの再始動のためのクランキング電流と停車中の電装品への駆動電流とのため、鉛蓄電池は特に充電不足になりやすい。ところで充電不足の鉛蓄電池は、還元が困難な硫酸鉛が負極に蓄積するサルフェーションのため短寿命になる。充電不足の環境でサルフェーションが始まると、サルフェーションの進行を止めることができず、負極の容量が早期に低下し、寿命性能が低下する。
【0005】
特許文献1(特開2008-243487号公報)は、鉛蓄電池の電解液に0.3mol/L以下の濃度のAlイオンと、0.14mol/L以下の濃度のLiイオンとを含有させることにより、負極のサルフェーションを抑制すると共に、正極の利用率を向上させることを提案している。しかしながら発明者らの追試によると、電解液にAlイオンとLiイオンとを含有させた鉛蓄電池を、従来の使用条件に準じて過充電状態になりやすい環境で使用すると、正極活物質の軟化による劣化、すなわち、正極活物質が格子から脱落することによる放電性能の低下が起こることが判明した。換言すると、電解液がAlイオンとLiイオンとを含有する鉛蓄電池を、充電制御機能等を備えていない自動車で使用する、あるいは充電制御機能等を停止させて使用すると、正極活物質の軟化により寿命性能が低下する。
【0006】
ここで関連する先行技術を示す。特許文献2(特開平06-223867号公報)は、鉛蓄電池に硫酸Naから成る極板群の支持体を設けることを開示している。硫酸Naの支持体は電解液に可溶なため、脱落した活物質が支持体の上部に堆積して正極板と負極板とが短絡することを防止できる。また特許文献2は、硫酸Naの変わりに硫酸Mgを用いても良いことを開示している。しかしながら特許文献2は、硫酸Mgにより正極活物質の軟化を防止できることを開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-243487号公報
【特許文献2】特開平06-223867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の課題は、
・ サルフェーションを抑制することにより、充電不足になりやすい環境で使用する際の寿命性能を改善すると共に、
・ 過充電状態になりやすい環境で使用しても実用的な寿命性能を備えた鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、正極板と負極板と電解液とを有する鉛蓄電池であって、前記電解液はMgイオンを0.5mmol/L以上3mmol/L以下、Alイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下、Liイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下の濃度で含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
鉛蓄電池の電解液中にAlイオンとLiイオンとを含有させることにより、充電不足状態でのサルフェーションによる寿命性能の低下を抑制することができる。しかしながら電解液中にAlイオンとLiイオンとを含有させると、過充電になりやすい環境では、正極活物質の軟化のため、逆に寿命性能が低下する。ここでAlイオンとLiイオンとに加えて、適正量のMgイオンを電解液に含有させると、過充電になりやすい環境でも、充電不足になりやすい環境でも、実用的な寿命性能の鉛蓄電池が得られる。
【0011】
鉛蓄電池の電解液がAlイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下、Liイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下の濃度で含有すると、充電不足になりやすい環境で実用的に優れた寿命性能が得られる。そして前記の濃度のAlイオンとLiイオンとに加えて、電解液がMgイオンを0.5mmol/L以上3mmol/L以下の濃度で含有すると、過充電になりやすい環境でも充電不足になりやすい環境でも、実用的な寿命性能が得られる。
【0012】
Alイオン及びLiイオンの何れかの濃度が0.02mol/L未満では、充電不足になりやすい環境での寿命性能が不足する。Alイオン及びLiイオンの何れかの濃度が0.3mol/Lを超えると、Mgイオンを含有させても、過充電になりやすい環境での寿命性能が不足する。各々0.02mol/L以上0.3mol/L以下の濃度のAlイオンとLiイオンとに対して、Mgイオンを0.5mmol/L以上の濃度で含有させることにより、過充電になりやすい環境での寿命性能を向上させることができる。しかしMgイオンを3mmol/Lを超える濃度で含有させると、充電不足になりやすい環境での寿命性能が低下する。

【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Alイオン含有量とLiイオン含有量とを固定し、Mgイオン含有量を変化させた際の、アイドリングストップ寿命性能と軽負荷寿命性能とを示す特性図
【図2】Mgイオン含有量とLiイオン含有量とを固定し、Alイオン含有量を変化させた際の、アイドリングストップ寿命性能と軽負荷寿命性能とを示す特性図
【図3】Alイオン含有量とMgイオン含有量とを固定し、Liイオン含有量を変化させた際の、アイドリングストップ寿命性能と軽負荷寿命性能とを示す特性図
【図4】アイドリングストップ(IS)寿命試験(SBA S 0101:2006)を示す図
【図5】軽負荷寿命試験(JIS D 5301:2006 9.5.5)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の最適実施例を示す。本発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0015】
JIS D 5301:2006に規定される55B24サイズの公称電圧12V、定格容量36Ah(5時間率)の鉛蓄電池を、電解液中のAlイオン、Liイオン、及びMgイオンの含有量を変えて作製した。Pb-0.07mass%Ca-1.5mass%Snの鉛合金シートをエキスバンド加工し、高さが115mm、幅が100mm、厚さが1.0mmの正極格子とした。ボールミル法で作製した鉛粉100mass%に対し、0.1mass%のアクリル繊維、13mass%の水及び10mass%の希硫酸(20℃での比重:1.40)を加えて混練した正極活物質ペーストを、正極格子1枚当たり50g充填した。充填後に正極格子を50℃、相対湿度50%で48時間放置して熟成し、次いで50℃で24時間放置して乾燥させ、未化成の正極板とした。Pb-0.05mass%Ca-0.5mass%Snの鉛合金シートをエキスバンド加工し、高さが115mm、幅が100mm、厚さが0.7mmの負極格子とした。ボールミル法で作製した鉛粉100mass%に対し、0.15mass%のリグニン、0.2mass%のカーボンブラック、0.5mass%の硫酸バリウム、0.1mass%のアクリル繊維、13mass%の水及び10mass%の希硫酸(20℃での比重:1.40)を加えて混練した負極活物質ペーストを、負極格子1枚当たり、45g充填した。充電後に負極格子を50℃、相対湿度50%で48時間放置して熟成し、次いで50℃で24時間放置して乾燥させ、未化成の負極板とした。正負の格子の材質と製造方法、及び正負の活物質ペーストの製造方法、組成、熟成条件等は任意である。
【0016】
押出し法によって成型したポリエチレン樹脂製セパレータを二つ折りにし、両サイドをメカニカルシールによって袋状にしセパレータとした。セパレータに収納した未化成の負極板8枚と、未化成の正極板7枚とを交互にスタックし、COS方式(キャストオンストラップ方式)で同極性の極板の耳同士を溶接し、未化成の正負の極板群とした。正負の極板群を6個、ポリプロピレン製の電槽内に収納してセル間を直列に接続し、電槽の蓋を溶着した後、20℃で比重が1.230の希硫酸を注液し、25℃の水槽中で電槽化成を行い、鉛蓄電池とした。電解液は水,硫酸,Alイオン,Liイオン,Mgイオン以外の成分を含有していても良い。実施例の鉛蓄電池は遊離の電解液がある液式鉛蓄電池であるが、制御弁式鉛蓄電池でも良い。
【0017】
作製した鉛蓄電池の種類を表1に示す。各鉛蓄電池を6個ずつ作製し、図4に示すアイドリングストップ寿命試験(以下、IS寿命試験という。)と図5に示す軽負荷寿命試験とに3個ずつ供試した。結果は3個の鉛蓄電池の平均値で示し、AlイオンもLiイオンもMgイオンも含有しない従来例の性能を100とする相対値で結果を示す。IS寿命試験はSBA S 0101:2006に規定され、25℃の気槽内で、45Aの定電流での59秒間の放電と300A、1秒間のパルス放電を行った後、14Vの定電圧で60秒間、最大電流100Aで充電するサイクルを、3600サイクル毎に40〜48時間放置しながら反復する。そして300A、1秒間のパルス放電時の放電電圧が7.2V未満になると寿命とする。IS寿命試験では充電不足の環境で充放電を繰り返した際の寿命を測定し、実施例ではサルフェーションによる寿命を測定することになり、実用的には130以上の寿命性能が必要である。
【0018】
軽負荷寿命試験はJIS D 5301:2006に規定され、41℃の水槽内で、25Aの定電流で240秒間放電した後、14.8Vの定電圧で600秒間、最大電流25Aで充電するサイクルを反復し、480サイクル毎に370Aで30秒間放電する。そして370Aの放電30秒目の放電電圧が7.2V以下になると寿命とする。軽負荷寿命試験は、過充電状態になる条件で使用した際の寿命を測定し、実施例では電解液中のAlイオンとLiイオンとによる正極活物質の軟化の影響を測定することになり、実用的には80以上の寿命性能が必要である。
【0019】
表1の従来例と比較例1とを比較すると、AlイオンとLiイオンとを電解液に含有させることにより、IS寿命性能が著しく向上するが、その一方で軽負荷寿命性能が許容値以下に低下することが分かる。また軽負荷寿命性能が低下した比較例1等の鉛蓄電池を解体すると、正極活物質の軟化による脱落が生じていた。次にAlイオンもLiイオンも含有しない電解液に、Mgイオンを含有させても、IS寿命性能は向上せず、軽負荷寿命性能も向上しなかった。Mgイオンの効果はAlイオンおよびLiイオンを含有する場合に得られることがわかった。
【0020】
【表1】

【0021】
AlイオンとLiイオンとを含有する電解液にMgイオンを含有させる場合、Mgイオンを0.2mmol/L含有させても意味が無いが、0.5mmol/L以上含有させるとIS寿命性能を高く保ちながら、軽負荷寿命性能も許容値以上にできることが分かった。そしてAlイオンとLiイオンとを含有する電解液にMgイオンを4mmol/L含有させると、IS寿命性能が急減することが分かった。上記の特徴は、
・ Alイオン含有量とLiイオン含有量が共に0.1mol/Lの系でも、
・ Alイオン含有量が0.3mol/L、Liイオン含有量が0.1mol/Lの系でも、
・ Alイオン含有量が0.1mol/L、Liイオン含有量が0.3mol/Lの系でも、共通であった。Mgイオン含有量の影響を図1に示す。なおMgイオンに替えて、電解液にNaイオンを3m mol/L含有させても、軽負荷寿命性能は向上しなかった(比較例17)。
【0022】
電解液中のAlイオン及びLiイオンの作用はIS寿命性能を向上させることにあり、その副作用は軽負荷寿命性能を低下させることにある。電解液中のAlイオン含有量の影響を図2に示す。Liイオン濃度が0.1mol/LでMgイオン濃度が2mmol/Lの系でも、Liイオン濃度が0.3mol/LでMgイオン濃度が2mmol/Lの系でも、Liイオン濃度が0.1mol/LでMgイオン濃度が1mmol/Lの系でも、Alイオン濃度が0.01mol/LではIS寿命性能が不足し、0.4mol/Lでは軽負荷寿命性能が許容範囲に達しないことが分かった。
【0023】
電解液中のLiイオン含有量の影響を図3に示す。Alイオン濃度が0.1mol/LでMgイオン濃度が2mmol/Lの系でも、Alイオン濃度が0.1mol/LでMgイオン濃度が1mmol/Lの系でも、Alイオン濃度が0.3mol/LでMgイオン濃度が2mmol/Lの系でも、Liイオン濃度が0.01mol/LではIS寿命性能が不足し、0.4mol/Lでは軽負荷寿命性能が許容範囲に達しないことが分かった。
【0024】
以上のことから、鉛蓄電池のIS寿命性能と軽負荷寿命性能とを共に実用的な範囲に保つ条件は、電解液がMgイオンを0.5mmol/L以上3mmol/L以下、Alイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下、Liイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下の濃度で含有することであることが分かる。実施例では、電解液は水と硫酸と、Mgイオンと、Alイオンと、Liイオンのみを含むが、IS寿命性能と軽負荷寿命性能とを損ねない範囲で、上記以外の金属イオンあるいはアニオン等を含んでいても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板と電解液とを有する鉛蓄電池であって、
前記電解液はMgイオンを0.5mmol/L以上3mmol/L以下、Alイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下、Liイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下の濃度で含有することを特徴とする鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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