説明

鉱物からの銅の回収方法

【課題】銅を含む硫化鉱から銅を分離回収する。
【解決手段】銅を含む硫化鉱(以下「原料」という)から銅を回収する方法において、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩化物及び臭化物と、銅と鉄の塩化物もしくは銅と鉄の臭化物を含む酸性溶液(以下「酸性溶液」という)に原料を添加し、大気圧下かつ水溶液沸点以下において酸性溶液に空気を吹込みつつ、酸性溶液中の鉄イオンもしくは銅イオンの一方あるいは両方の酸化力により原料から銅を一価銅及び二価銅として浸出し、浸出後固液分離を行い、この固液分離後の溶液に空気を吹込み、溶液中の銅を酸化し、かつ原料から酸性溶液に浸出された鉄及び不純物を共沈させ、共沈物を含む沈澱物を分離した酸化後液から銅を抽出し、抽出した銅は硫酸溶液中に硫酸銅として回収し、この硫酸銅溶液より銅を回収し、一方、銅の抽出時に生成する塩酸を銅の浸出に繰返す銅の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石等に含有される有価金属を水溶液中に浸出溶解して目的金属を回収する方法において、一連の工程の中で銅を浸出し分離回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉱石のうち硫化銅鉱は、通常、1000℃を超える温度で溶融処理し、鉄をはじめとする不純物をスラグとして固定し、分離する乾式処理と呼ばれる方法で処理して銅を回収している。乾式プロセスでは溶融処理によって製造する銅マットと呼ばれる硫化銅精製物(Cu2S)に貴金属は濃縮され回収される。このような方法では硫化銅鉱中の硫黄は二酸化硫黄としてガス化するため排ガス処理が必要であり、溶融後の精製過程も高温を必要とし大量の燃料を消費する。さらに、原料中の不純物品位が高くなると繰返し物が増えて処理の効率が低下するとか、原料中の硫黄と銅の比率に制限があり低銅品位の原料についても処理効率が低下する等の問題点がある。
【0003】
このような排ガス処理や大量の燃料消費、原料の不純物や銅の品位に対する制限を解決するために、硫化銅鉱を水溶液中で処理する湿式法と呼ばれる種々のプロセスも開発されてきた。
銅鉱石等からの銅回収に関する湿式製錬技術は、硫酸による浸出技術が確立され溶媒抽出と電解採取を組み合わせたSX-EW法など商業規模のプラントとして建設され操業を行っている。
【0004】
しかし、硫酸浴による銅の浸出は、一般に酸化鉱主体の鉱石に用いられ、硫化鉱の浸出は反応が遅いとか貴金属の回収ができない等問題点が多いため一部の硫化鉱には適用されているにすぎない。さらに、選鉱等により銅品位を高くした銅精鉱においては、反応速度が遅いだけでなく銅浸出率が低いことや貴金属の回収が困難なことから実用化されていない。
【0005】
このような湿式処理プロセスは、銅浸出率を高くするために高温高圧を必要とする、塩化物溶液を使用して銅浸出率を高くすると回収した電着銅の品質が悪くなるあるいは回収のための電解槽の構造が複雑になる、といった問題点がある。
【0006】
高温高圧処理を行わない方法として、硫化物鉱石を塩化物水溶液を使用した塩化浴による浸出する方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1の方法は、銅の電解採取により生成した、酸化還元電位が高く、Cu2+を含むCl−Br系酸性電解液で空気導入下で硫化物鉱石から銅をCu+として浸出し、一価銅の電解採取を行う。
しかし、この方法では、浸出の際に取り扱いが困難で有害なハロゲン化合物(ハレックス、典型的にはBrCl2-)を取り扱う。また、銅の電解採取を塩化浴で行うと、得られる銅の品位が低く精製が必要であるためコストがかかる、設備が複雑であり管理が困難等の問題点がある。
【0007】
塩化浴で銅精鉱を浸出し、溶媒抽出により塩化浴より銅イオンを有機溶媒中に抽出して有機相と水相を分離後、有機相を硫酸と接触させることで有機溶媒中に抽出した二価銅を硫酸銅に変換し従来の硫酸浴での銅の電解採取を行うことで品位の高い銅を得る方法が提案された。(特許文献2)。この方法では、銅抽出時に空気の吹込みと同時に抽出を行うことから、溶液中の鉄が空気酸化により沈殿し、分相が悪化する、空気中に抽出剤がコンタミし、抽出剤のロスにつながる等の問題がある。現在のところ、上述した塩化浴での銅湿式製錬プロセスは、他の鉱山開発プロセスに比べ、コスト面、管理面で採算が合わず、大規模な鉱石処理プロセスが困難である問題もある。
【特許文献1】AU Patent No669906「Production of metals from minerals」
【特許文献2】CA Patent 1105410「Method of obtaining copper from sulphurized concentrates」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決したもので、塩化浴で硫化銅鉱を浸出し特別な酸化剤や特別な装置を使用することなく空気の使用のみで、硫化銅鉱中の銅を98%以上浸出し回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、次の方法に関する。
(1) 銅を含む硫化鉱(以下「原料」という)から銅を回収する方法において、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩化物及び臭化物と、銅と鉄の塩化物もしくは銅と鉄の臭化物を含む酸性溶液(以下「酸性溶液」という)に原料を添加し、大気圧下かつ水溶液沸点以下において酸性溶液に空気を吹込みつつ、酸性溶液中の鉄イオンもしくは銅イオンの一方あるいは両方の酸化力により原料から銅を一価銅及び二価銅として浸出し、浸出後固液分離を行い、この固液分離後の溶液に空気を吹込み、溶液中の銅を酸化し、かつ原料から酸性溶液に浸出された鉄及び不純物を共沈させ、共沈物を含む沈澱物を分離した酸化後液から銅を抽出し、抽出した銅は硫酸溶液中に硫酸銅として回収し、この硫酸銅溶液より銅を回収し、一方、銅の抽出時に生成する塩酸を銅の浸出に繰返すことを特徴とする銅の回収方法。
(2) 前記銅の浸出が、前段の浸出残渣を次段に順次移行する複数段からなり、前記酸化後液を複数段の各段へ分配することを特徴とする(1)記載の銅の回収方法。
(3) 前記複数段の浸出後液をそれぞれ各段から抜出した後全てを混合し、引続いて、酸化工程へ給液する(2)記載の銅の回収方法。
(4) 酸性溶液中の塩化物イオンと臭化物イオンの濃度の合計が、120g/L〜200g/Lであることを特徴とする(1)から(3)までの何れか1項記載の銅の回収方法。
(5) 銅の浸出を70℃以上で行う(1)から(4)までの何れか1項記載の銅の回収方法。
(6) 浸出された銅を、溶媒抽出、イオン交換、電解採取または置換のいずれかもしくはそれらの組合せからなる方法により回収する(1)記載の銅の回収方法。
(7) 原料全体の80%以上が粒径40μm以下にする粉砕摩鉱工程を有することを特徴とする(1)から(6)までの何れか1項記載の銅の回収方法。
以下、本発明を詳しく説明する。
【0010】
以下,本発明の具体例を、図1を参照して示す。このプロセスを、銅浸出はCL、酸化はOX、銅抽出はCEX、銅回収はCEWとして表示する。
また、銅浸出は4段からなる具体例が示されている。この段数は、処理原料に応じて調節される。
【0011】
銅浸出工程(CL)
原料を塩化第二銅、塩化鉄、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム混合液に添加し、大気圧下70℃以上の温度で空気を溶液中に吹込みながら反応させ原料中の銅を浸出する。この場合、代表的な銅の硫化鉱であるカルコパイライトを例にすると次のような反応式に従って銅は溶出すると考えられる。
CuFeS2+3CuCl2→4CuCl+FeCl2+2S (1)
CuFeS2+3FeCl3→CuCl+4FeCl2+2S (2)
これらの反応により30 〜75%程度の浸出率を達成することができる。
また、 浸出段階の少なくとも一時期、好ましくは後期において、空気の吹込みを行いながら、浸出を行う。この結果、(1)あるいは式(2)の反応が進行することと併行して、これらの浸出反応の結果生成した第一銅及び第一鉄が次のような反応でそれぞれ第二銅と第二鉄に酸化される。
CuCl+(1/4)O2+HCl→CuCl2+(1/2)H2O (3)
FeCl2+(1/4)O2+HCl→FeCl3+(1/2)H2O (4)
(3)及び(4)式で生成する化学種は(1)及び(2)式の酸化剤として浸出に再利用できる。この結果、浸出率はさらに高くなる。上記(3)及び (4)式の反応は溶液中に吹込む空気中の酸素で進行するため、浸出反応中に空気を吹込むことで、特別な酸化剤やハロゲン化合物(ハレックス:典型的にはBrCl2-)なしでも、原料より溶出した塩化第一銅や塩化第一鉄を酸化し塩化第二銅あるいは塩化第二鉄として銅浸出反応を継続できる。
酸性水溶液では塩化物のみでも反応は進行するが、臭素イオンが存在する場合浸出反応の酸化還元電位を低くすることができるので、反応速度が速くなり、反応時間を短縮することができるため、上述の溶解及び反応を高い効率で実現するためには、第1の酸性水溶液中の塩化物イオンと臭化物イオンの濃度の合計が、120g/L〜200g/Lであることが好ましい。
銅浸出を促進するため、粉砕・摩鉱した原料を用いるほうが好ましく、その際の粒度は、原料全体の80%の粒径が40μm以下が好ましい。
また、浸出前液中の塩化第二銅濃度は20g/L以上が好ましい。
浸出温度は70℃以上を必要とするが、銅浸出反応を、より促進させるためには、温度を上げて反応を行うほうが良い。
以上の例では第二銅及び第二鉄の両方が酸化剤として作用しているが、硫化銅鉱のように鉄が不純物レベルでしか存在しない鉱石処理の場合は、第二銅のみを酸化剤として銅の浸出を行うことができる。
【0012】
複数段浸出
銅浸出工程では、原料中の銅の浸出を十分に行うため複数の反応槽を必要とする場合があり、その際の浸出液の流れは紙面で左から右への方向となり、一方浸出残渣の流れは紙面で上から下への方向になるから、これらの流れは図1のように十字流れを取る。
また、複数に分割した銅浸出の各段での反応終了後、フィルタープレスまたはシックナー等により固液分離または濃縮し、得られた残渣または濃縮スラリーは次の銅浸出段へ送られる。各銅浸出段で分離された浸出後液は、後述の銅抽出工程へ送られる。
【0013】
酸化工程(OX)
浸出後液中の銅を酸化するために、複数段から産出される銅浸出後液を混合し空気を吹込み、第一銅の少なくとも一部の酸化を行う。式(3)に示すように第一銅の酸化には酸素のほかに酸を消費する。このため、溶液のpHが上昇するが、pHの上昇にともない式(5)で示す反応によって鉄が沈殿し酸を生成する。
FeCl3+2H2O→FeOOH+3HCl (5)
式(5)により生成する酸(HCl)を利用して式(3)の銅の酸化を進行させる。銅の酸化が終了すれば酸が残留することで溶液のpHが低下し式(5)の反応が平衡に達することで酸化は終了する。
なお、銅回収では陽イオン交換型の有機抽出剤あるいは溶媒抽出を使用する場合は、これらの交換反応を円滑に行うために、第一銅及び第二銅が混在する浸出液を前もって酸化することにより実質的に全部が第二銅からなる溶液を作成することが好ましい。
また、一価銅を二価銅に酸化させる際、鉄やその他の不純物の一部が沈殿するため、フィルタープレス等でろ過分離すると、さらに上記した交換反応が円滑に進む。
【0014】
銅回収工程(CEX及びCEW)
前述の酸化工程で得られた、酸化後液から銅を回収する。銅の回収は、公知の溶媒抽出、イオン交換、電解採取または置換、あるいはこれらの組合せにより行うことができる。
銅の回収を塩化浴による電解採取で行う場合は、特許文献1に記載されているとおり、アノード側及びカソード側の反応は次のようになる。
アノード側:2Cu+ + 2e → 2Cu (6)
カソード側:2Cl-+ Br- → BrCl2- (ハレックス) + 2e- (7)
酸化工程を経た浸出液中の銅を選択的に回収するためには陽イオン交換型の有機金属抽出剤やイオン交換樹脂を使用する方法が好ましい。このような抽出剤や樹脂を使用すると、式(8)で示すように銅イオンの抽出と同時に溶液中にプロトンが排出され溶液中に酸を生成する。
2R-H+CuCl2→R2-Cu+2HCl (8)
(ここでRは有機金属抽出剤ないしはイオン交換樹脂の官能基を示す)
【0015】
酸化工程後、銅抽出工程を経て、浸出工程へ繰返す溶液中には、原料中の銅を二価の塩化物として溶出させるのに必要な塩素量を、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩酸のいずれかの組合せ、または単独で、供給することができる。なお、この塩酸は(8)式で生成する。
さらに、銅の抽出量は浸出工程で原料から溶出した銅量とし、抽出後の液中に残る銅はそのまま浸出工程に繰返され、酸化剤として浸出反応を繰返すことができるため、浸出液中の銅量のバランスをとることができる。この銅抽出後の液を銅浸出工程に繰返し、抽出の結果、式(8)により生成する酸と残留する第二銅を次の銅浸出に使用する。
このようにして新たな薬品を添加することなく銅の浸出と回収を繰返すことができる。
【0016】
有機金属抽出剤を使用する場合、銅抽出後の抽出剤は簡単な洗浄を経て、希硫酸で逆抽出することで硫酸銅溶液を得ることができる。この硫酸銅溶液から電気分解することで金属銅を回収できる(式(9))。硫酸浴からの銅の電解採取(CEW)は良く知られた方法であり、容易に品位の高い銅を得ることができる。また、硫酸銅溶液から電気分解により金属銅を回収すると金属銅はカソード側に析出するが、対極のアノード側では水の電気分解が起こり、酸が精製する(式(10))。この酸を抽出剤からの銅の逆抽出に使用できるため、新たな硫酸を添加する必要がなく試薬使用量低減につながる。
CuSO4+2e-→Cu+SO42− (カソード側) (9)
H2O→2H++(1/2)O2+2e (アノード側) (10)
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以下の効果を有する。
本発明は原料を、特段の前処理を施すことなく、酸性水溶液中で処理し、大気圧下水溶液の沸点以下の温度で反応させることが可能であるため、特別な設備を必要としない。また、空気を溶液中の吹込み空気中の酸素を利用して酸化された銅及び鉄の塩化物及び/又は臭化物が酸化剤として作用する。このために、特別な酸化剤を使用することなく銅を浸出することができる。上記した銅や鉄は原料中に含まれているために、かかる銅や鉄も銅浸出に利用できるため薬品コストの節約になる。
また、酸性水溶液は上述のような成分系であり、塩化浴で銅の浸出を行うため、硫酸浴浸出の場合のように、浸出物表面の不働態化反応が起こらない。このため、反応時間の短縮により反応槽が小さくなり設備費を小さくできる。
【0018】
本発明の銅浸出工程は大気圧下で行われるために、オートクレーブのような特別な設備は必要とせず、基本的に反応槽と攪拌機、シクナーあるいはプレスフィルターのような簡便な設備の組み合わせで工程を構築できるため、鉱山近傍での運転維持が容易である。
【0019】
本発明の銅浸出では、ヒ素をはじめとする不純物も浸出される。一旦浸出された不純物は、酸化工程において、沈澱に移行するので、沈澱分離を行うことにより、銅を浸出液から回収するため回収銅に対する不純物の影響を排除でき、高不純物品位の原料を処理できる。
【0020】
浸出工程に繰返される溶液は、銅抽出工程を経た溶液である。これらの溶液を浸出工程に繰返しているために、塩化物及び臭化物系薬品の消耗がほとんどない。また、酸化剤として腐食性や毒性の高い薬品を使用する必要がない。
【0021】
原料中の銅品位が変動しても浸出液に添加する原料量を変化させることで溶液中に浸出する銅量を一定にでき、原料中の銅品位の変動にも対応できる。低い銅品位の原料でも第1の酸性水溶液量を少なくすることにより、浸出銅濃度を一定にできるため、乾式製錬で対応が困難な低銅品位精鉱を処理できる。本発明方法は、乾式製錬で適用できないような低い銅品位の原料にも対応できることから、従来の方法では採算がとれないような鉱石の処理に適している。たとえば、銅品位16%、金品位90g/t、不純物としてのヒ素品位1250ppmのような精鉱では銅品位が低いため、同一銅量を輸送させるにはグロス量が大きくなり鉱山から製錬所までの陸上及び海上の輸送費がかかるため鉱山側の費用が増大する。さらに不純物が高く、金品位が高いにもかかわらず製錬所側での処理も困難となる。このような鉱石は、当初金鉱山として開発を始めたようなところに見受けられる。
【0022】
硫酸銅溶液での電解採取が可能となり、高品位の電気銅を生産することができる。
【0023】
多段浸出(請求項2)の場合、銅の浸出反応速度を速くすることができる。
【0024】
処理物の流れを十文字にすることにより、処理物の流れが単純になり、設備を小型化することができる(請求項2、3)
【0025】
たとえば、温度100℃以下、大気圧下で空気を吹込み銅浸出率98%以上を実現できる(請求項5)。
【0026】
銅の抽出を公知の方法で行うことにより、操業が容易になる(請求項6)。
【0027】
原料を粉砕することにより、浸出率を促進し回収率を向上できる(請求項7)。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(実施例1)
塩化第二銅を銅濃度として20g/L、塩化第二鉄を鉄濃度として2g/L、塩酸を7g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩酸、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして22g/Lの濃度の液を作成し浸出液として使用した。原料として、Cu 22%、Fe 24%、S 27%という組成を持つ銅精鉱を粉砕し、粒度P80 値で18μmとしたものを用いた。前記整粒精鉱400gを前記浸出液4Lに添加した。浸出液を85℃に加温後攪拌しながら原料の精鉱を投入し、浸出を実施した。
所定時間反応後、ろ過し、浸出残渣を再度上記浸出液にて浸出を行った。この浸出を4段行い、浸出残渣中の銅品位の推移を観察した。また、空気の吹込みは、1・2段反応の際は行わず、3・4段反応の際に1.0L/minの流量で吹き込んだ。
表1に、この実施例の結果を示す。










【0029】
【表1】



【0030】
この例で示すように、銅浸出率は述べ反応時間に伴い増加し、反応段数4段、延べ反応時間14時間で98%、反応段数4段、延べ反応時間19時間で98.7%に達した。
【0031】
(実施例2)
塩化第2銅、もしくは塩化第1銅を銅濃度として10g/L、塩素イオン濃度を塩化銅の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として108g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして13g/Lの濃度の液を作成し、抽出前液として作成した。
抽出剤として、LIX984をIsoperMで希釈し、体積比20%としたものを作成した。
この抽出前液と抽出剤を体積比1:1で混合後、静置し有機相と水相に分離し、水相中の銅濃度を測定した。
表2に抽出条件と結果を示す。

【0032】
【表2】

【0033】
この例で示すように、LIX984はCu+は抽出せず、Cu2+を抽出する。このことから、浸出後液からのLIX984による銅の回収では、浸出後液中のCuをCu2+に酸化する必要があることがわかる。
【0034】
(実施例3)
銅精鉱の浸出後液を空気酸化して得られた液を抽出前液とし、LIX984をIsoperMで希釈し、体積比20%としたものを抽出剤として、抽出試験を行った。
また、抽出後の有機相を純水で洗浄した後、180g/Lの希硫酸にて逆抽出を行った。さらに、逆抽出後の有機相を純水にて洗浄した。
それぞれ、得られた水相を分析し、銅及びハロゲンの分配を調べた。
表3に試験条件及び結果を示す。

【0035】
【表3】

【0036】
この例で示すように、180g/Lの希硫酸により、有機相中の銅が水相中に逆抽出していることがわかる。
また、抽出後の有機相は塩素の持込があり、純水で洗浄することで、銅のロスがなく塩素の除去が可能である。また、逆抽出後の有機相にも硫酸イオンの持込があり、同様に純水を用い洗浄することで、硫酸イオンの除去が可能である。
また、抽出後液の組成は、Cu 23.4g/L、Cl 170g/L、Br 21.4g/Lであり、そのまま銅浸出工程に繰り返し、浸出前液として使用することができる液性となっている。
【0037】
(実施例4)
塩化第二銅を銅濃度として5g/L〜20g/L、塩化第二鉄を鉄濃度として2g/L、塩酸を7g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩酸、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/Lもしくは108g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして22g/Lもしくは13g/Lの濃度の液を作成し浸出液として使用した。原料として、Cu 22%、Fe 24%、S 27%という組成を持つ銅精鉱を粉砕し、P80 値18μmとしたものを用いた。
この整粒精鉱600gを前記浸出液4Lに添加した。
浸出液を所定温度に加温後攪拌しながら原料の精鉱を投入し、空気を流量1.0L/minで吹込みながら浸出を実施した。所定時間反応後、ろ過し、浸出残渣を再度上記浸出液にて浸出を行った。この浸出を複数段行い、浸出残渣中の銅品位の推移を観察した。
表4にこの実施例の条件と結果を示す。
【0038】
【表4】

【0039】
この例で示すように、銅の浸出速度は塩素濃度及び臭素濃度、反応温度に影響され、浸出残渣中の銅品位を短時間で1%以下にするためには、塩素濃度と臭素濃度の合計値を少なくとも120g/L以上、反応温度を少なくとも70℃以上にする必要がある。また、塩素濃度と臭素濃度の合計値が120g/L、反応温度70℃の両条件で浸出した場合では、浸出残渣中の銅品位は同程度の延べ反応時間で、1%以下には低下しない。
また、比較例で示したとおり、反応温度が50℃であれば、反応時間を25時間以上と長くしても、残渣中銅品位は17%、銅浸出率は11.1%にしか到達しない。
これらより、銅浸出の反応速度には塩素濃度と臭素濃度の合計値及び反応温度が大きな影響を与えることがわかる。
【0040】
(実施例5)
塩化第二銅を銅濃度として20g/L、塩化第二鉄を鉄濃度として2g/L、塩酸を7g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩酸、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして22g/Lの濃度の液を作成し浸出液として使用した。原料として、Cu 23%、Fe 24%、S 27%という組成を持つ銅精鉱を粉砕し、粒度P80 値で41μmとしたものを用いた。
前記整粒精鉱600gを前記浸出液4Lに添加した。
浸出液を所定温度に加温後攪拌しながら原料の精鉱を投入し、空気を流量1.0L/minで吹込みながら浸出を実施した。所定時間反応後、ろ過し、浸出残渣を再度上記浸出液にて浸出を行った。この浸出を4段行い、浸出残渣中の銅品位の推移を観察した。
浸出温度及び時間は1・2段反応でそれぞれ、70℃、2時間とし、3・4段反応においてはそれぞれ、85℃、5時間とした。
表5に銅浸出条件と結果を示す。
【0041】
【表5】

【0042】
この例で示すように、原料粒度がP80値で41μmであっても、反応段数4段、延べ浸出時間14時間で残渣中銅品位0.6%、銅浸出率98.3%に達した。
また、反応段数毎に反応時間、反応温度の設定を変更することで、反応時間の短縮による設備コストの低減と加熱エネルギー低減による操業コストの低減の両立が可能である。
【0043】
(実施例6)
塩化第二銅を銅濃度として20g/L、塩化第二鉄を鉄濃度として2g/L、塩酸を7g/L、塩素イオン濃度を塩化銅、塩酸、塩化鉄の塩素イオンを含めた全塩素イオン濃度として180g/L、臭化ナトリウムを臭化物イオンとして22g/Lの濃度の液を作成し浸出液として使用し、Cu 23%、Fe 24%、S 27%という組成を持つ粉砕銅精鉱を投入し浸出した。
銅浸出は4段行い、ろ過後の液を混合した。混合後の液から4L採取し、これを酸化前液とした。
酸化前液を所定温度に加温後、攪拌しながら空気を1.0L/minで吹込みながら酸化を実施した。所定時間反応後、ろ過し、酸化後液及び酸化残渣の分析を行った。表6に酸化試験の結果を示す。
【0044】
【表6】

【0045】
表6より、酸化前液中に存在した不純物であるAsは、酸化残渣として排出されることがわかる。そのため、不純物が系内に残存することなく銅を回収できるため、高純度銅を得られる。また、今まで処理できなかった高不純物品位の原料の処理が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
鉱石の浸出反応を促進することにより、小設備化、薬品節約が可能であり、また大気圧下、沸点以下浸出によるエネルギー削減等の低コストでプロセスであり、また乾式製錬に不適である原料を処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の銅浸出法の一実施態様を示す工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含む硫化鉱(以下「原料」という)から銅を回収する方法において、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩化物及び臭化物と、銅と鉄の塩化物もしくは銅と鉄の臭化物を含む酸性溶液(以下「酸性溶液」という)に原料を添加し、大気圧下かつ水溶液沸点以下において酸性溶液に空気を吹込みつつ、酸性溶液中の鉄イオンもしくは銅イオンの一方あるいは両方の酸化力により原料から銅を一価銅及び二価銅として浸出し、浸出後固液分離を行い、この固液分離後の溶液に空気を吹込み、溶液中の銅を酸化し、かつ原料から酸性溶液に浸出された鉄及び不純物を共沈させ、共沈物を含む沈澱物を分離した酸化後液から銅を抽出し、抽出した銅は硫酸溶液中に硫酸銅として回収し、この硫酸銅溶液より銅を回収し、一方、銅の抽出時に生成する塩酸を銅の浸出に繰返すことを特徴とする銅の回収方法。
【請求項2】
前記銅の浸出が、前段の浸出残渣を次段に順次移行する複数段からなり、前記酸化後液を複数段の各段へ分配することを特徴とする請求項1記載の銅の回収方法。
【請求項3】
前記複数段の浸出後液をそれぞれ各段から抜出した後全てを混合し、引続いて、酸化工程へ給液する請求項2記載の銅の回収方法。
【請求項4】
酸性溶液中の塩化物イオンと臭化物イオンの濃度の合計が、120g/L〜200g/Lであることを特徴とする請求項1から3までの何れか1項記載の銅の回収方法。
【請求項5】
銅の浸出を70℃以上で行う請求項1から4までの何れか1項記載の銅の回収方法。
【請求項6】
浸出された銅を、溶媒抽出、イオン交換、電解採取または置換のいずれかもしくはそれらの組合せからなる方法により回収する請求項1記載の銅の回収方法。
【請求項7】
原料全体の80%以上が粒径40μm以下にする粉砕摩鉱工程を有することを特徴とする請求項1から6までの何れか1項記載の銅の回収方法。


【図1】
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