説明

鉱物を収容する容器に用いられる鋼材

【課題】鉱物・鉱石を貯蔵または輸送するための容器の構造部材として好適な長寿命の鋼材であって、環境負荷が比較的高い元素であるSbやSnなどを添加せずとも、そのままで、鉱物を収容する容器として用いることが可能な鋼材を提供することを課題とする。
【解決手段】質量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.05〜〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.0001〜0.05%、S:0.0001〜0.03%、Al:0.005〜0.10%、Cu:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、N:0.002〜0.008%、O:0.0001〜0.010%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱、硫化鉄鉱、クローム鉄鉱、ニツケル鉱、コバルト鉱、ウラン鉱、マンガン鉱、タングステン鉱、モリブデン鉱、金鉱、銀鉱、銅鉱、鉛鉱、黒鉛、石炭、亜炭、石灰石、ドロマイト、けい石、砂鉱などの鉱物や鉱石を貯蔵または輸送するための容器の構造部材として用いられる耐食性に優れた鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、バルカー(ばら積船)の船艙、鉱物・鉱石を運搬(輸送)する貨物列車、鉱石倉庫などにおいて、鉱物・鉱石を貯蔵・輸送するために使用される容器に用いられる鋼材(構造用鋼)は、鉱物・鉱石と接触するため、腐食や摩耗による損傷が発生することが問題となっている。腐食は容器内に雨水などの水分が混入して、鉱物と接触することにより、硫酸を主体とした腐食性の高い酸溶液が生成することによって引き起こされ、加えて、海水や飛来塩分などによる塩化物が鋼材の腐食を促進すると考えられている。また、鉱石の積み上げおよび積み下ろしの際には、鉱石の衝突や流動あるいは荷役機などが鋼材に接触することによる摩耗損傷が起こる。
【0003】
このような腐食や摩耗への対策として、鋼材表面への塗装が施されており、ある程度の耐久性向上には寄与している。しかしながら、環境遮断性は防食塗膜を形成することでも完全ではなく、水分、塩分および酸素などの腐食を引き起こす化学物質は塗膜を浸透して、いずれは鋼材腐食を引き起こすことになる。特に、鉱物との接触により生成する腐食性溶液は塗膜の劣化も促進するため、長期間にわたって十分な防食効果を得ることは困難である。また、現実的には、塗膜には欠陥が存在する可能性が高く、特に鋼材のエッジ部や施工不良部などに防食塗料の膜厚が極度に薄い部分が形成される場合も少なくない。加えて、鉱石の衝突や流動等によって塗膜に疵が付いたり、破れたりする場合が多いため、素地鋼材が露出し、局部的にかつ集中的に鋼材が腐食してしまい、防食効果はあまり期待できないことが多い。
【0004】
以上のように、従来から一般的に用いられる塗装による防食方法では、定期的に手直しや塗替えをすることが必要であり、メンテナンス費用およびタイムロスなどの経済的損失を招くことになる。
【0005】
また、化学成分の調整などによって鋼材自体の耐食性を向上させた耐食鋼材もあり、例えば、特許文献1〜4として提案されている。しかしながら、これらの技術を用いても十分な耐食性向上効果を得ることができず、前記した経済的損失の低減への寄与は小さく、更に効果的な防食に関する技術が開発されることが待ち望まれていた。また、特許文献1〜4記載の鋼材はいずれもが、合金元素としてSbやSnといった環境負荷が比較的高い元素を用いた鋼材であり、地球環境保全の観点からも特に推奨できるものではない。
【0006】
【特許文献1】特開2000−17382号公報
【特許文献2】特開2007−262555号公報
【特許文献3】特開2007−262558号公報
【特許文献4】特開2008−174768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、鉱物・鉱石を貯蔵または輸送(運搬)するための容器の構造部材として好適な長寿命の鋼材であって、環境負荷が比較的高い元素であるSbやSnなどを添加せずとも、そのままで、鉱物を収容する容器として用いることが可能な鋼材を提供することを課題とするものである。また、プライマや塗膜による被覆層を表面に形成した場合においても、従来よりも長期間にわたって防食寿命を得ることができる鋼材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、質量%で、C:0.01〜0.20%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.0001〜0.05%、S:0.0001〜0.03%、Al:0.005〜0.10%、Cu:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、N:0.002〜0.008%、O:0.0001〜0.010%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鉱物を収容する容器に用いられる鋼材である。
【0009】
請求項2記載の発明は、質量%で、更に、Ni:0.01〜1.0%、Co:0.01〜1.0%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材である。
【0010】
請求項3記載の発明は、質量%で、更に、Ti:0.001〜0.10%、Nb:0.001〜0.10%、Zr:0.001〜0.10%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材である。
【0011】
請求項4記載の発明は、質量%で、更に、Ca:0.0003〜0.005%、Mg:0.0003〜0.005%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材である。
【0012】
請求項5記載の発明は、質量%で、更に、B:0.00001〜0.001%、V:0.01〜0.50%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材である。
【0013】
請求項6記載の発明は、表面に被覆層が形成されており、前記被覆層は亜鉛を含有するプライマで形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材である。
【0014】
請求項7記載の発明は、表面に被覆層が形成されており、前記被覆層は塗料を塗装して形成された塗膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材である。
【0015】
請求項8記載の発明は、表面に二層の被覆層が形成されており、前記被覆層のうち下層は亜鉛を含有するプライマで形成されており、上層は塗料を塗装して形成された塗膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材である。
【0016】
請求項9記載の発明は、バルカー(ばら積船)の船艙に用いられることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材によると、鉱物・鉱石を貯蔵または輸送(運搬)するための容器用として、耐食性に優れた長寿命の構造部材として用いることができる。また、環境負荷が比較的高い元素であるSbやSnなどを添加せずとも、そのままで、鉱物・鉱石を貯蔵または輸送するための容器用の構造部材として用いることができる。
【0018】
更には、プライマや塗膜による被覆層を表面に形成した場合においても、従来よりも長期間にわたって防食寿命を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0020】
鉱物・鉱石を輸送(運搬)または貯蔵する容器の構造用鋼材においては、しばしば、水分と鉱物・鉱石との接触により生成する硫酸に塩化物が混入した腐食性酸溶液による腐食が生じることがある。
【0021】
本発明者らが詳細に調査した結果、腐食が生じるこの環境はpHが非常に低下した酸環境であり、水素イオンの還元反応が腐食のカソード反応になっており、このカソード反応を抑制することが腐食抑制に最も効果的であることを見出した。カソード反応を抑制するためには、腐食溶解時に金属オキソ酸を形成する成分を鋼中に添加することが有効であり、具体的には微量のO、Cu、Crを添加することによって、腐食溶解時にCuおよびCrが金属オキソ酸を効果的に形成してカソード反応を抑制し、耐食性を高めることを明らかにした。
【0022】
このような耐食性向上効果は、更に、Ni、Coの1種または2種を複合添加することによって更に大きくなることも見出した。この効果は、Ni、Coが高塩分環境において緻密で安定な表面錆皮膜を形成して、その錆皮膜中に金属オキソ酸が保持されることによって、カソード反応抑制に有効な表面金属オキソ酸濃度を高める作用によって発現されるものと考えられる。
【0023】
更に、Ti、Nb、Zrの1種または2種以上を複合添加することによっても、耐食性向上が更に大きくなることも見出した。この効果は、Ti、Nb、Zrが腐食溶解時に金属オキソ酸を形成して、カソード反応抑制効果を高めること、および緻密な表面錆皮膜形成を促進することによって、発現されるものと考えられる。
【0024】
加えて、腐食先端のpH低下を緩和させること、すなわち、水素イオン濃度を低下させることもカソード反応抑止に有効であり、このような作用を有する元素としてCa、Mgが上記との相乗作用を発現する観点で好適であることも見出した。
【0025】
また、鉱物・鉱石を輸送または貯蔵する容器の構造用鋼材においては、鉱物・鉱石との衝突や流動などによって容器表面の摩耗損傷が起こる。本発明者らが詳細に調査した結果、微細分散粒子を鋼中に添加することによって摩耗損傷を抑制できることを見出し、このような作用効果を有する微細分散粒子としては、Alの酸化物や窒化物、Crの窒化物が好適であることを明らかにした。
【0026】
また、このような摩耗損傷の更なる抑制には、Ti、Nb、Zrの酸化物や窒化物、またはCa、Mgの酸化物を、分散粒子として複合添加することが効果的であり、更にそれに加えて、Ni、Coの添加によって母材の靱性向上を図ることができることを見出した。
【0027】
本発明者らは以上のような観点から鋭意研究を重ねた結果、C、Si、Mn、Al、P、S、Cu、Cr、N、Oの添加元素を適切に調整することによって、構造材料として必要な機械特性や溶接性を満足させつつ、環境負荷が比較的高い元素であるSbやSnを添加せずとも前記課題を解決できることを見出した。以下に、これら必須添加元素の成分範囲の限定理由について説明する。尚、単位は全て%と記載するが、質量%のことを示す。次の必須添加元素以外の説明においても同様に%は質量%を示す。
【0028】
・C:0.01〜0.20%
Cは、材料の強度確保のために必要な元素である。石油類タンクの構造部材としての最低強度、すなわち、400MPa程度の強度を得るためには、使用する鋼材の肉厚にもよるが、少なくとも0.01%以上は含有させる必要がある。しかし、0.20%を超えて過剰に含有させると靱性が劣化する。こうしたことから、C含有量の範囲は0.01〜0.20%とした。尚、C含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.04%以上とするのが良い。また、C含有量の好ましい上限は0.19%であり、より好ましくは0.18%以下とするのが良い。
【0029】
・Si:0.05〜1.0%
Siは脱酸と強度確保のために必要な元素であり、0.05%に満たないと構造部材としての最低強度を確保できない。しかし、1.0%を超えて過剰に含有させると溶接性が劣化する。尚、Si含有量の好ましい下限は0.08%であり、より好ましくは0.10%以上とするのが良い。また、Si含有量の好ましい上限は0.95%であり、より好ましくは0.90%以下とするのが良い。
【0030】
・Mn:0.1〜2.0%
Mnも前記Siと同様に脱酸および強度確保のために必要であり、0.1%に満たないと構造部材としての最低強度を確保できない。しかし、2.0%を超えて過剰に含有させると靱性が劣化する。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.15%であり、より好ましくは0.20%以上とするのが良い。また、Mn含有量の好ましい上限は1.9%であり、より好ましくは1.8%以下とするのが良い。
【0031】
・P :0.0001〜0.05%
Pは溶解した場合にインヒビターとして作用するリン酸塩を生成して、耐食性を高める元素である。このような作用を得るためには、Pは0.0001%以上は必要である。しかし、Pは0.05%を超えると靱性や溶接性を劣化させる元素である。尚、P含有量の好ましい下限は0.0003%であり、より好ましくは0.0005%以上とするのが良い。また、P含有量の好ましい上限は0.045%であり、より好ましくは0.04%以下とするのが良い。
【0032】
・S :0.0001〜0.03%
Sは極微量の存在により耐食性を高める作用を有する。Sの耐食性向上効果を得るためには、0.0001%以上必要である。しかし、Sは含有量が多くなると靱性や溶接性を劣化させる元素であるため、0.03%以下とすることが必要である。尚、S含有量の好ましい下限は0.0002%であり、より好ましくは0.0003%以上とするのが良い。また、Sの好ましい上限は0.025%であり、より好ましくは0.02%以下とするのが良い。
【0033】
・Al:0.005〜0.10%
Alも前記したSi、Mnと同様に脱酸および強度確保のために必要であり、更に、酸化物や窒化物を形成して耐摩耗性を向上させるのに有効な元素である。これらの効果を発揮させるためには、0.005%以上必要である。しかし、0.10%を超えて添加すると溶接性を害するため、Al添加量の範囲は0.005〜0.10%とした。尚、Al含有量の好ましい下限は0.008%であり、より好ましくは0.010%以上とするのが良い。また、Al含有量の好ましい上限は0.09%であり、より好ましくは0.08%以下とするのが良い。
【0034】
・Cu:0.01〜1.0%
Cuは、CrおよびOとの共存により腐食溶解時に金属オキソ酸を形成して、鉱物由来の硫酸に対する耐食性を向上させるのに有効な元素である。また、Cuは塗膜欠陥部において鋼材が腐食を受けた場合に生成錆を緻密化する作用も有しており、塗膜傷部の腐食進展を抑制する効果を発現するのに有効な元素である。これらの効果を発揮させるためには、0.01%以上含有させることが必要であるが、過剰に含有させると溶接性や熱間加工性が劣化することから、1.0%以下とする必要がある。Cu含有量の好ましい下限は0.03%であり、より好ましい下限は0.06%である。また、Cu含有量の好ましい上限は0.95%であり、より好ましい上限は0.90%である。
【0035】
・Cr:0.01〜1.0%
Crは、CuおよびOとの共存により腐食溶解時に金属オキソ酸を形成して、鉱物由来の硫酸に対する耐食性を向上させるのに有効な元素である。また、Crは靱性を向上させるのに有効であり、船舶用鋼材として必要な機械特性を得るためにも必要な元素である。また、それに加えて、窒化物を形成して耐摩耗性を向上させるのにも有効な元素である。これらの効果を発揮させるためには、0.01%以上含有させることが必要であるが、過剰に含有させると溶接性や熱間加工性が劣化することから、1.0%以下とする必要がある。Cr含有量のより好ましい下限は0.03%であり、0.06%以上とすることが更に好ましい。Cr含有量のより好ましい上限は0.95%であり、0.90%以下とすることが更に好ましい。
【0036】
・N:0.002〜0.008%
Nは鋼中において窒化物の微細分散粒子を形成させて、耐摩耗性を向上させるのに有効である。このような効果を得るためには、0.002%以上の添加が必要である。しかし、過剰に添加すると、固溶Nが増加し、延性や靱性に悪影響を及ぼすため、上限を0.008%とする。尚、Nは0.0025%以上添加することがより好ましく、0.003%以上が更に好ましい。またN添加量はより好ましくは0.0075%以下であり、0.007%以下が更に好ましい。
【0037】
・O:0.0001〜0.010%
微量のOは、CuやCrなどと金属オキソ酸を形成して、鉱物由来の硫酸に対する耐食性を向上させるのに有効な元素である。また、Oは鋼中において酸化物を形成して硬度を高めて、耐摩耗性を向上させるのに有効である。このような効果を得るためには0.0001%以上含有させる必要がある。しかしながら、過度に含有すると母材や溶接熱影響部の靱性を劣化させるため、上限は0.010%とする。尚、Oは0.0002%以上添加することがより好ましく、0.0003%以上が更に好ましい。O含有量のより好ましい上限は0.0095%以下であり、0.0090%以下が更に好ましい。
【0038】
以上が、本発明鋼材の必須添加元素の成分範囲の限定理由であるが、以下に示す元素を添加すれば更に有効である。これら添加元素の成分範囲の限定理由について次に説明する。
【0039】
・Ni:0.01〜1.0%
Niは高塩分環境において、耐食性向上に大きく寄与する緻密な表面錆皮膜を形成するのに有効である。また、NiはCuと同様に防食塗膜下で発生する腐食反応を抑制する作用を有しており、塗装の薄膜部分などで発生しやすい塗膜下腐食による塗膜膨れを抑制する効果を有する元素である。また、Niは、Pのインヒビター効果を増大させる作用も有する。また、Niは母材靱性を向上させて耐摩耗性を向上させるのにも有効である。更に、Niは、Cu添加による赤熱脆性を防止するのに必要な元素である。こうした効果を発揮させるためには0.01%以上含有させることが好ましい。しかしながら、添加量が過剰になると溶接性や熱間加工性が劣化することから、1.0%以下とすることが好ましい。Niを含有させるときのより好ましい下限は0.03%であり、0.06%以上が更に好ましい。Niを含有させるときのより好ましい上限は0.95%であり、0.90%以下が更に好ましい。
【0040】
・Co:0.01〜1.0%
CoはNiと同様に高塩分環境において、耐食性向上に大きく寄与する緻密な表面錆皮膜を形成するのに必要不可欠な元素である。また、CoはNiと同様に母材靱性を向上させて耐摩耗性を向上させるのにも有効である。こうした効果を発揮させるためには、Coは0.01%以上の添加が必要である。しかしながら、1.0%を超えて添加すると溶接性が劣化することから、Co添加量の範囲は0.01〜1.0%とした。Coを含有させるときのより好ましい下限は0.03%であり、0.06%以上が更に好ましい。Coを含有させるときのより好ましい上限は0.95%であり、0.90%以下が更に好ましい。
【0041】
・Ti:0.001〜0.10%
Tiは耐食性向上に有効な元素である。Tiは、塩化物腐食環境において生成する錆を緻密化する作用を有しており、塗膜傷部における腐食進展を抑制する元素である。また、Tiは酸化物および窒化物の微細分散粒子を鋼中に形成して、耐摩耗性を向上させる元素である。こうした効果を発揮させるためには0.001%以上含有させることが好ましい。しかしながら、添加量が過剰になると溶接性や熱間加工性が劣化することから、0.10%以下とすることが好ましい。Tiを含有させるときのより好ましい下限は0.003%であり、0.006%以上が更に好ましい。Tiを含有させるときのより好ましい上限は0.095%であり、0.09%以下が更に好ましい。
【0042】
・Nb:0.001〜0.10%
Nbは耐食性向上に有効な元素である。NbもTiと同様に、塩化物腐食環境において生成する錆を緻密化する作用を有しており、塗膜傷部における腐食進展を抑制する元素である。また、NbはTiと同様に酸化物および窒化物の微細分散粒子を鋼中に形成して、耐摩耗性を向上させる元素である。こうした効果を発揮させるためには0.001%以上含有させることが好ましい。しかしながら、添加量が過剰になると溶接性や熱間加工性が劣化することから、0.10%以下とすることが好ましい。Nbを含有させるときのより好ましい下限は0.003%であり、0.006%以上が更に好ましい。Nbを含有させるときのより好ましい上限は0.095%であり、0.09%以下が更に好ましい。
【0043】
・Zr:0.001〜0.10%
Zrは耐食性向上に有効な元素である。Zrは前記したTiやNbと同様に、塩化物腐食環境において生成する錆を緻密化する作用を有しており、塗膜傷部における腐食進展を抑制する元素である。また、ZrはTiやNbと同様に、酸化物および窒化物の微細分散粒子を鋼中に形成して、耐摩耗性を向上させる元素である。こうした効果を発揮させるためには0.001%以上含有させることが好ましい。しかしながら、添加量が過剰になると溶接性や熱間加工性が劣化することから、0.10%以下とすることが好ましい。Zrを含有させるときのより好ましい下限は0.003%であり、0.006%以上が更に好ましい。Zrを含有させるときのより好ましい上限は0.095%であり、0.09%以下が更に好ましい。
【0044】
・Ca:0.0003〜0.005%
Caは耐食性向上に有効な元素である。Caは腐食先端のpH低下を緩和する作用を有しており、pH低下による腐食促進を抑制する効果を発揮して、耐食性を発現するのに有効である。また、Caは酸化物の微細分散粒子を鋼中に形成して、耐摩耗性を向上させる元素である。こうした作用は、Caを0.0003%以上含有させることによって有効に発揮される。しかしながら、0.005%を超えて過剰に含有させると加工性と溶接性とを劣化させることになる。Caを含有させるときのより好ましい下限は0.0005%であり、0.0008%以上が更に好ましい。Caを含有させるときのより好ましい上限は0.0045%であり、0.004%以下が更に好ましい。
【0045】
・Mg:0.0003〜0.005%
Mgは前記したCaと同様に腐食先端のpH低下を緩和する作用を有しており、pH低下による腐食促進を抑制する効果を発揮して、耐食性を発現するのに有効である。また、MgはCaと同様に酸化物の微細分散粒子を鋼中に形成して、耐摩耗性を向上させる元素である。こうした作用は、Mgを0.0003%以上含有させることによって有効に発揮される。しかしながら、0.005%を超えて添加すると加工性と溶接性とを劣化させる。このような理由で、添加量は0.0003〜0.005%の範囲が適正である。Mgを含有させるときのより好ましい下限は0.0005%であり、0.0008%以上が更に好ましい。Mgを含有させるときのより好ましい上限は0.0045%であり、0.004%以下が更に好ましい。
【0046】
・B:0.00001〜0.001%
Bは焼入性を向上させるため強度向上に有効な元素である。このような作用を得るためには、Bは0.00001%以上含有させる必要がある。しかし、0.001%を超えて過剰に勧誘させると母材靱性が劣化するため好ましくない。尚、Bは0.00003%以上添加することがより好ましく、0.00005%以上が更に好ましい。またB添加量はより好ましくは0.0009%以下であり、0.0008%以下が更に好ましい。
【0047】
・V:0.001〜0.30%
Vは強度向上に有効な元素である。このような作用を得るためには、Vは0.001%以上含有させる必要がある。しかし、0.030%を超えて過剰に含有させると母材靱性が劣化するため好ましくない。尚、Vは0.003%以上添加することがより好ましく、0.006%以上が更に好ましい。またV添加量はより好ましくは0.29%以下であり、0.28%以下が更に好ましい。
【0048】
本発明鋼材に添加させる添加元素の成分範囲の限定理由は以上の通りであり、残部は鉄および不可避的不純物からなる。不可避的不純物は鋼材の諸特性を害さない程度に添加することができ、合計で0.05%以下、好ましくは0.04%以下に抑えることによって、本発明の耐食性発現効果を極大化することができる。
【0049】
本発明鋼材は、その表面に塗装などによって被覆層を形成しなくとも優れた耐食性および耐摩耗性を発揮するものであるが、プライマや塗料などを塗る表面処理によって被覆層を形成することも可能である。プライマとしては、無機ジンクリッチプライマや有機ジンクリッチプライマなどの亜鉛を含有するプライマを用いて被覆層を形成することが好適であり、その膜厚は5〜50μm程度が推奨される。また、塗料としては、変性エポキシ塗料やタールエポキシ塗料などのエポキシ樹脂系をはじめとして、ブチラール系やウレタン系などの塗料を用いて被覆層(塗膜)を形成することができ、その膜厚としては100〜400μm程度が推奨される。
【0050】
また、一次防錆の役割も兼ねたプライマを下塗りとして、その上に塗料による塗装を施して二層からなる被覆層を形成することが推奨される。これらの表面処理によって本発明鋼材の表面に被覆層を形成することで、従来の表面に塗装を施した鋼材と同等以上の塗装耐久性を得ることができ、また、何らかの原因で表面に疵が生じて鋼材が露出した場合でも、疵部の腐食進展は抑制されるため、従来の鋼材より優れた耐久寿命を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含されるものである。
【0052】
[供試材の作製]
表1に示す種々の成分組成の鋼材を真空溶解炉により溶製し、50kgの鋼塊とした。得られた鋼塊を1150℃に加熱した後、熱間圧延を行って、板厚10mmの鋼素材とした。このとき、熱間圧延終了温度は650〜850℃の範囲、熱間圧延終了後から500℃までの冷却速度を0.1〜15℃/秒以下の範囲で適宜調整した。鋼素材より50×30×4(mm)の大きさのテストピースを切り出して、無塗装状態と塗装状態のテストピースを作製した。
【0053】
無塗装状態での耐食性(裸耐食性)を評価するためのテストピースを図1に示す。このテストピースは、湿式回転研磨機で#600まで全面を研磨し、水洗およびアセトン洗浄をしてから試験に供試した。尚、腐食試験時に吊り下げるためにテストピースの端部には3mmφの吊り下げ孔1を形成した。
【0054】
塗装状態での耐食性(塗装耐食性)を評価するためのテストピースを図2に示す。まず、塗装面(50×30mmの一面)をサンドブラスト仕上げし、水洗およびアセトン洗浄の後、ジンクリッチプライマを平均膜厚が15μm(±3μm)となるようにして塗布し、24時間以上デシケータ内で乾燥させた。その後、防食塗料として変性エポキシ樹脂系塗料をエアレススプレーにより厚さが350μm(±20μm)となるようにして塗布した。試験面以外が腐食するのを防ぐために、塗装面以外にシリコンシーラントを塗布して被覆を施した。塗膜2およびシリコンシーラントが乾燥した後、長さ40mm、幅0.5mmの鋼材素地まで達するカット疵3を試験面側にカッターナイフで形成した。
【0055】
[腐食試験方法]
鉱物を収容する容器が曝される環境を模擬した腐食試験として、硫酸によりpHを2.0に調整した3%NaCl水溶液を腐食液として、浸漬腐食試験を実施した。この溶液は、鉱物・鉱石と接触した水分により生成する硫酸および飛来塩分などによる塩化物混入を想定した環境条件を模擬している。試験溶液はウォーターバスにより温度30℃に保持し、試験期間は10日間とした。
【0056】
腐食試験には、表1および表2に示したNo.1〜54の鋼材の夫々につき、無塗装5枚、塗装5枚の計10枚ずつを供試した。無塗装のテストピースはナイロン線を用いて腐食試験槽内に吊り下げ、塗装したテストピースは塗装面を上面として試験槽底に水平に設置した。
【0057】
無塗装テストピースは、試験前後の重量減少量(腐食量)を測定し、供試した5枚の平均値を求めて平均腐食量とした。塗装テストピースについては、塗膜疵部の腐食深さをデプスゲージで測定し、各々供試した5個の試験片のうちの最も腐食深さが深いものを最大腐食深さとした。尚、試験後のテストピースは10%クエン酸水素2アンモニウム水溶液(室温)中での陰極チャージにより腐食生成物を除去し、重量測定またはデプスゲージによる深さ測定に供した。
【0058】
[摩耗試験方法]
鉱物・鉱石の流動などによる鋼材の摩耗特性を評価するための試験として、JIS R1613に準じてボールオンディスク式の摩耗試験を実施した。図3に示すように、φ40×5mmのディスク状に加工したNo.1〜54の鋼材に、アルミナボール4(φ10mm)を圧力10Nで押しつけて、64rpm(回転/毎分)の回転速度でディスク状鋼材5を回転させた。総回転数2万回転まで試験を行い、試験前後のディスク状鋼材5の重量変化(鋼材の摩耗量)を測定した。摩耗試験はNo.1〜54の鋼材の夫々について3回ずつ行い、測定された摩耗量の平均値を求めて平均摩耗量とした。
【0059】
[試験結果]
腐食試験および摩耗試験の結果を表3に示す。平均腐食量、最大腐食深さおよび摩耗量はNo.1の鋼材(普通鋼)を100としたときの相対値で示している。
【0060】
また、以上の裸耐食性、塗装耐食性および耐摩耗性の試験結果より総合評価を行った。評価基準としては、No.1の鋼材を100とした場合に、平均腐食量が50未満、最大腐食深さが60未満、平均摩耗量が90未満のすべてを満足するものを「○」とした。また、平均腐食量が40未満、最大腐食深さが45未満、平均摩耗量が75未満のすべてを満足するものは「○〜◎」とした。また、平均腐食量が35未満、最大腐食深さが35未満、平均摩耗量が60未満のすべてを満足するものは「◎」とした。更に、平均腐食量が30以下、最大腐食深さが20以下、平均摩耗量が50以下のすべてを満足するものを「◎◎」とした。
【0061】
SbおよびSnを添加したNo.2およびNo.3は裸耐食性の向上(平均腐食量の低減)は認められるが、塗装耐食性や耐摩耗性が十分ではない。また、No.4はCu添加量が、No.5はCr添加量が、No.6はN添加量、No.7はO添加量が夫々請求項1で規定した添加量の範囲に満たないため、特性向上効果が不十分な結果であり、鉱物を収容する容器に用いられる鋼材としては満足できるものではない。
【0062】
これに対して、本発明の成分範囲に制御したNo.8〜No.10の鋼材はSb添加鋼(No.2)あるいはSn添加鋼(No.3)に比べると裸耐食性は同等以上であり、塗装耐食性および耐摩耗性は非常に優れる結果となっている。更に、Ni、Coなどの元素添加量を適切に調整した場合(No.11〜54)には、各特性が飛躍的に向上する結果が得られた。特に、C、Si、Mn、Al、P、S、Cu、Cr、N、Oの本発明鋼材の必須添加元素の添加量を適切に調整することに加えて、Ni、Coから選ばれる1種以上を含有させ、且つTi、Nb、Zrから選ばれる1種以上を含有させ、更にはCa、Mgから選ばれる1種以上を含有させることによって、極めて優れた特性(総合評価で◎◎)を発現させることができる。この作用効果は、金属オキソ酸形成と緻密な表面錆皮膜形成による腐食抑制および微細分散粒子形成による摩耗抑制により発現されるものと考えられる。
【0063】
以上のように、本発明鋼材はいずれも、裸仕様での耐食性と耐摩耗性が向上しているのが明らかであり、鉱物を収容する容器に用いられる鋼材として好適である。また、塗膜疵部の腐食進展も従来鋼よりも小さく、塗装耐食性も飛躍的に向上しており、塗装仕様でも従来よりも長寿命が得られることが明らかである。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】無塗装状態での耐食性(裸耐食性)を評価するためのテストピースを示す平面図である。
【図2】塗装状態での耐食性(塗装耐食性)を評価するためのテストピースを示す平面図である。
【図3】摩耗特性を評価するための試験方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0068】
1…吊り下げ孔
2…塗膜
3…カット疵
4…アルミナボール
5…ディスク状鋼材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.01〜0.20%、
Si:0.05〜1.0%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.0001〜0.05%、
S:0.0001〜0.03%、
Al:0.005〜0.10%、
Cu:0.01〜1.0%、
Cr:0.01〜1.0%、
N:0.002〜0.008%、
O:0.0001〜0.010%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする鉱物を収容する容器に用いられる鋼材。
【請求項2】
質量%で、更に、
Ni:0.01〜1.0%、
Co:0.01〜1.0%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材。
【請求項3】
質量%で、更に、
Ti:0.001〜0.10%、
Nb:0.001〜0.10%、
Zr:0.001〜0.10%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材。
【請求項4】
質量%で、更に、
Ca:0.0003〜0.005%、
Mg:0.0003〜0.005%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材。
【請求項5】
質量%で、更に、
B:0.00001〜0.001%、
V:0.01〜0.50%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材。
【請求項6】
表面に被覆層が形成されており、前記被覆層は亜鉛を含有するプライマで形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材。
【請求項7】
表面に被覆層が形成されており、前記被覆層は塗料を塗装して形成された塗膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材。
【請求項8】
表面に二層の被覆層が形成されており、前記被覆層のうち下層は亜鉛を含有するプライマで形成されており、上層は塗料を塗装して形成された塗膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材。
【請求項9】
バルカーの船艙に用いられることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の鉱物を収容する容器に用いられる鋼材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−100872(P2010−100872A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271238(P2008−271238)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】