説明

銀の耐曇性強化

銀の耐曇性強化
アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを用いて、火焼け(firestain)および/もしくは曇りを抑えるに充分な量のゲルマニウムを含む銀合金の表面を処理する。前記の処理は、前記合金の曇りをさらに抑えることが見出され、アンモニウム=ポリスルフィド 20% 溶液上に近接して少なくとも 30分間固定して置いても、サンプルの外面が概して曇らないことがわかった。前記の処理は、成形製品の製造過程の最後で行うことができ、販売所までの輸送の間およびその後の長期間の展示において、製品の外面を曇らないままに保つことができる。本発明は、火焼けおよび/もしくは曇りを抑えるに充分な量のゲルマニウムを含む銀合金の成形製品の成形のステップ、ならびに、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドにより前記製品の表面処理のステップ、ならびに、前記製品を包装するステップ、を含む、耐曇銀製品の製造方法も含む。さらに、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドから選択される処理試薬と、ならびに、アニオン性界面活性剤、および、両性もしくは非イオン性界面活性剤との濃縮混合物であって、前記処理試薬を可溶化するような濃縮混合物とを、含む水系組成物を、前述の銀合金の処理において使用する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機硫黄化合物による表面処理を施された耐曇性強化銀製品にするための、銀合金の耐曇性を強化する有機硫黄化合物の使用、ならびに、前記の処理された製品の保存および展示の方法、に関する。本発明は、銀合金だけではなく、例えば銅、真鍮もしくはニッケルのような、耐曇性のために表面処理を要する他の金属の処理にも用いることができる、水系組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
[銀合金およびその耐曇性]
標準スターリングシルバー ( Standard Sterling silver; 英国の標準銀 ) は、用途の広い信頼できる物質として製造業者および銀細工師へと提供されているが、仕上がった製品に対し、望まざる曇りを一時的に除くために、さらなる洗浄および研磨を要してしまう。銀および銀合金は、空気中に連日曝すことにより、曇り、として知られる、光沢を損なう黒ずんだ薄膜をつくることが公知となっている。
【0003】
混ぜ物の無い'純粋な'銀は柔らかすぎて実用に耐えないということは、古代より知られており、卑金属を混ぜ加えて硬度と強度を増進することが行われてきた。英国においては、14世紀から存在する法律により、銀製品として販売できる製品が含む最小限の比率は、92.5%(標準スターリングシルバー)と定められているが、卑金属成分については規定が無い。古代の銀細工師は、入手可能な金属のうち、銅が(銀に加える)もっとも適切な金属であることを経験的に知っていた。現代の銀板金 ( silver-sheet ) 製造業者も、より大きな延性を得るために銅の代わりにカドミウムを加えたりすることがあるものの、一般的にはこの組成物にこだわっている。 2.5%のカドミウムを含むスターリングシルバーは、紡績および型打に用いられる標準物質である。低品位の銀合金は、食器類 ( hollow-ware ) および金物類 ( cutlery ) の製造用として、欧州の多くの国で使われている。南欧・中欧では、品位800の合金(千分率で銀の比率を示す)が主に用いられるが、一方、スカンジナビアでは品位830のものが主に用いられる。
【0004】
大規模製造会社における場合を除き、組み立てが完了/半完了した製品の焼き鈍し ( アニーリング; annealing ) と半田づけの作業のほとんどは、空気式ブロートーチの炎によって行なう。前記炎の酸化性もしくは還元性、ならびに前記製品の温度は、銀細工師の技術によってのみ制御されている。純銀は、特に赤熱するまで加熱されたときに、酸素を容易に透過する。銀は大気中では酸化されないが、銀/銅合金中の銅は酸化されて酸化第一銅( 酸化銅(I); cuprous oxide )もしくは酸化第二銅( 酸化銅(II); cupric oxide )になる。製品の酸化された表面を熱希硫酸で酸洗 ( pickling ) することにより、上層は除去できるが、内部に沈潜する酸化銅は除去することができないため、製品では、銀/銅酸化物の混合物の層を、純銀もしくは非合金の銀から成る表面が包んでいるかたちとなっている。さらなる加熱によって純銀はたやすく透過され、表面下の深部にある銅が酸化されることになる。連続的な焼き鈍し・冷間加工 ( コールドワーキング; cold working ) ・酸洗によって、軽い研磨によって純銀光沢を出せる表面をつくることができるが、しっかり研磨すると、'火焼け' ( 'firestain' ) もしくは'火傷' ( 'fire' ) と言われる黒ずんだ醜い染みが顕われてしまう。より高温を伴う半田づけ作業では、さらに多くの深い火焼けをつくってしまう可能性がある。火焼けの深さが 0.025mm(0.010インチ)に達すると、合金は罅割れやすくなり、且つ、酸化物の表面が半田に濡れなくなって適切な金属結合が形成されなくなるために、半田づけしづらくなってしまう。
【0005】
特許 GB-B-2255348 (Rateau, Albert and Johns; Metalcurop Recherche)は、銅成分の酸化されやすさから来る問題を低減しつつ、Ag-Cu合金固有の硬度と光沢を保持する、新規な銀合金を開示している。前記の合金は、Ag-Cu-Geの三元合金であって、92.5wt%以上のAg、0.5〜3wt%のGe、および、不純物を除く残りとして銅を含んでいる。前記の合金は、従来の製造、変形、および仕上げ作業の間に大気中で銹ることがなく、冷却しても容易に変形することができ、また、容易に鑞づけ ( brazed ) することができ、また、鋳造時に大きく収縮することがない。さらに優れた延性と引っ張り強さも示し、また、所望の硬度になるよう焼き鈍すこともできる。ゲルマニウムは、前記の新規な合金が呈する特性の有用な組み合わせによる保護機能を顕わし、また、銀の相および銅の相の双方に固溶している。前記の合金の微細構造は、繊維状ゲルマニウム=銀=銅固溶体に囲まれた、銀の中のゲルマニウム=銅固溶体という二つの相から構成されている。銅リッチ相のゲルマニウムは、鑞づけおよび火炎焼き鈍しの間に、高温で銅が酸化されて火焼けが顕在化することを抑える GeO もしくは GeO2 の保護薄膜を形成することにより、表面酸化を抑止する。さらに、ゲルマニウムの添加によって、曇りの拡大を大幅に遅らせることができ、表面が黒よりも若干黄みがかったようになり、曇りは普通の水道水で容易に除去できる。前記の合金は、とりわけ宝飾品類に有用である。しかしながら、上記の特許に開示されている合金は、結晶粒度が大きくなると、変形特性が劣るようになり、且つ、合金がエアトーチの熱を受けて局所的に表面が融けた際に、生じる低融点共晶によって大きな液溜まり ( large pools ) ができてしまう。
【0006】
特許 US-A-6168071 および EP-B-0729398 (Johns)は、銀を77wt%以上含み、ゲルマニウムを0.4〜7%含み、不純物を除く残りが主に銅であって、0ppmよりも多く20ppmよりも少ない濃度のホウ素元素を結晶微細化剤 ( grain refiner ) として含む、銀/ゲルマニウム合金を開示している。2wt%のホウ素元素を有する銅/ホウ素のマスター合金中のホウ素を与えることによって、前記の合金のホウ素成分が実現できる。このような低濃度のホウ素により、銀/ゲルマニウム合金を良好に結晶微細化することができ、ホウ素を含まない銀/ゲルマニウム合金に較べ、より大きな強度と延性を合金に加えることができると報告されている。合金中のホウ素は、宝石商が半田づけする温度において結晶成長を抑え、且つ、前記の合金を、従来の合金では合金中の銅/ゲルマニウム共晶が融け出す温度までくりかえし加熱しても、孔蝕 ( pitting ) に抗すると報告された例がある。合金の個々の元素の間に、二つの元素の自由表面 ( free surfaces ) の間に充填物質を用いることなく、強靭で美的に満足である熔接部 ( joint ) をつくることができ、また、拡散法 ( a diffusion process ) もしくは抵抗熔接 ( resistance welding ) もしくはレーザー熔接の技術によって、突き合わせ熔接部 ( butt joint ) もしくは重ね熔接部 ( lap joint ) をつくることができる。スターリングシルバーの熔接と比較すると、上述の合金の熔接は、結晶粒の大きさの平均値が小さくなっており、熔接における変形性および延性が改善されている。したがって品位830合金は、プラズマ熔接でき、且つ、研磨に砥石(グラインダー)を要しない。
【0007】
例えば、 Ag-Cu-Ge 合金および Ag-Cu-Zn-Ge 合金である三元合金および四元合金は、貴金属地金である Ag 中に、混入元素である二つの卑金属、 Cu および Ge を含む。酸化雰囲気下に曝す場合、二つの酸化反応が考えられる。第一に、銅から酸化銅(I)への酸化であって、
4[Cu]alloy+ O2 (g) -> 2Cu2O (s) (1)
第二に、ゲルマニウムから(二)酸化ゲルマニウムへの酸化であって、
[Ge]alloy + O2 (g) -> GeO2 (s) (2)
上記の反応式は、酸化ゲルマニウム(IV) GeO2 の構造を示しているが、酸化ゲルマニウム(II) GeO 、もしくは中間物質 GexOy(x=1, yは1以上2以下)も生成していると考えられる。標準状態、すなわち、純Cuと純Geのそれぞれが1atmの純酸素ガスと化合して純酸化物相を形成する状態においては、双方の反応が進むことになり、反応式(2)の化学推進力は、反応式(1)のそれの1.65倍となる。
【0008】
WO 02/095082 (Johns)では、熔融混合物を鋳って合金をつくり、例えば H2/H2O もしくは CO/CO2 のような選択的酸化雰囲気下 ( a selectively oxidizing atmosphere ) において前記の合金を焼き鈍して薄くして結晶を再結晶し、 Cu2O の形成を阻害しつつ、 GeO2 の形成を促進することによって、銀・銅・ゲルマニウムの三元合金、もしくは、銀・銅・亜鉛・ゲルマニウムの四元合金の耐曇性を向上させている。
【0009】
[銀の曇りを除去・抑制するための処理組成物]
スターリングシルバーおよび他の公知の品位の銀から、曇りを除去するおよび/もしくは曇りの形成を抑制するように、清掃もしくは保護を行うためのさまざまな提案が為されてきた。
【0010】
US-A-2841501 は、研磨粉、ならびに、無毒とされ微香性であって、銀と大気中の反応成分との間の物理的障壁となる R-S-Ag (Rはチオールのアルカン鎖)の単分子層を形成して銀の曇りを抑制する、炭素数12〜20の n-アルカンチオールに基づく、銀の研磨を開示している。
【0011】
GB-A-1130540 は、製造工程中の一ステップとしての、スターリングシルバーもしくはブリタニアシルバー ( Britannia silver ) の仕上げ済表面の保護に関しており、以下のステップを含む方法を開示している。
【0012】
99wt%の揮発性有機溶媒(例えば、トリクロロエチレンもしくは 1,1,1-トリクロロエタン)、ならびに、無色透明の保護層を銀表面に形成する能を有する 0.1〜1.8wt% の -SH基を含む有機溶質(例えば、ステアリルメルカプタン、セチルメルカプタン、ステアリルチオグリコラート、もしくはセチルチオグリコラート)、を含む溶液で、製品の清浄な銀表面を湿し、
前記溶液と前記表面を化合させ、前述の層を形成して、前記溶液を揮発させ、且つ、
前記表面を洗浄液で洗い、湯で濯ぎ、乾燥させる。上述の方法は、前記製品がユーザーのもとに届けられるまでの間、予定保存期間中に持続する、"長持ち仕上げ" ( "long-term finish" ) を提供することを示している。
【0013】
ハロハイドロカーボン類 ( ハロゲン化炭化水素類; halohydrocarbons ) は、最適な良溶媒であるとされているが、環境面での適性は現在疑問視されている。エーテル類は可燃性且つ有毒とされ、低級アルコールは貧溶媒とされている。本願出願人は、メルカプタン類の水への溶解度が、メチルメルカプタンの 23.30g/l からノニルメルカプタンの 0.00115g/l へと減少してゆき、ヘキサデシルメルカプタンおよびオクタデシルメルカプタン(CAS 2885-00-9)が水に不溶であるというデータを、インターネット上の ATOFINA Chemicals Inc のレポートから得た。
【0014】
US-A-6183815 (Enick)は、硫黄原子が金属表面に接し、アルキル基末端が前記金属表面から離れる方向に向いている、チオール化合物から誘導された自己組織化型被膜 ( a self-assembled coating ) の形成による、上述の類の処理を開示している。その明細書から例を挙げると、例えばイソプロパノール水溶液であるアルコール水溶液に溶かした、例えば CF3(CF2)5CONH(CH2)2SH であるフルオロアルキルアミド類を、濯いで柔らかい布で拭いて乾かした銀表面に噴霧している。前記フルオロアルキルアミド類は、検出できるような臭いを持たず、また、明細書および実施例には必ずしもアルコール性溶媒では良い薄膜をつくれるというわけではないと記載されてはいるが、低級アルコール、もしくは、アルコール/水混合液に可溶である。
【0015】
Yousong Kim et al. は、アノード酸化反応によってチオール類の銀への吸着が進行し、以下の反応式によって、基金属の開回路電位 ( open circuit potential ) が負方向へシフトするか、もしくは、前記電位が固定された場合にはアノード電流がピークとなることを報告している。
【0016】
RSH + M(0) -> RS-M(I) + H+ + e-(M) (M = Au or Ag)
(参照:http://www.electrochem.org/meetings/past/200/abstracts/symposia/h1/1026.pdf )
Kwan Kim, Adsorption and Reaction of Thiols and Sulfides on Noble Metals, Raman SRS-2000, 14-17 August 2000, Xaimen, Fujian, China, http://pcoss.org/icorsxm/paper/kuankim.pdf も、自己組織化型単分子膜の構造を開示しており、また、銀表面上において、二つの Ag-S 結合を形成してジチオラート類を形成する脂肪族ジチオール類とともに、アルカンチオール類、ジアルキル=スルフィド類、およびジアルキル=ジスルフィド類が自己組織化することを開示している。
【0017】
対照的に、ゲルマニウムのアルキルチオール類の構造についての文献は比較的乏しい。 Ge の 100 面への H2S の解離吸着によって、吸着した -SH基および吸着した水素化合物が得られることが、 Nelen et al., Applied Surface Science, 150, 65-72 (1999) ( http://www.chem.missouri.edu/Greenlief/pubs/00005797.pdf を参照)に報告されており、さらに、Ge(100) を室温の H2S に曝露して、解離吸着した結果が、紫外線光電子分光法 ( ultraviolet photoelectron spectroscopy ) によって容易に追跡できるという、 the University of Missouri-Columbia の Michael Greenlief 教授のレポート http://www.chem.missouri.edu/Greenlief/Research.html も参照されたい。アルカンチオール類が Ge との反応によって高品質の単分子膜を形成することは、 Han et al., J. Am. Chem. Soc., 123, 2422 (2001) に、半導体およびナノテクノロジーの文脈で報告されている。実験の節において、アルカンチオールのイソプロパノール溶液に浸漬してプロパノール中で超音波処理して乾燥した Ge(111) ウェハを、アセトン中で超音波処理して有機不純物を溶かし、濃 HF に浸漬して残留酸化物を除いて水素終端面 ( a hydrogen-terminated surface ) をつくる、と記載されている。
【発明の開示】
【0018】
GB-A-1130540 は長持ち仕上げを提供すると謳っているが、銀細工師である本願発明者の経験から言うと、このタイプの処理では、製造から最終購買者もしくはユーザーに供給されるまでの期間における曇りに因る難事を完全に解決するには至らず、数々の欠点により損われてしまう。曇りの無い状態で銀製品が小売店に届いたとしても、それは、空気から製品を保護する、製造業者による包装の結果に因るところが大である。包装が解かれ、外気と人工照明の熱とを浴びる、ホテルのディスプレイケースのような小売環境に製品が展示されると、従来のスターリングシルバーの製品は、一週間程度で再研磨が必要となり、二週間後には販売できないほどに曇ってしまっているのが普通である。展示においては、展示される製品の曇ってしまうまでの寿命は、3〜4日間程度しかないこともありうる。再研磨を行うと、擦瑕と、手による細かい掻瑕とができてしまい、製品がすぐに売れないと新品同様の外観は失なわれてしまう。展示した銀の研磨を頻繁に行う必要があると、在庫を清掃するためには雇用されてはいない製品の販売のための職員を管理する宝石商もしくは他の販売組織の労務費が嵩んでしまう。したがって、販売もしくは展示の際の曇りは深刻な問題であり、銀製品の貯蔵と展示を行う流通網の携わる人の意気を消耗させており、いまだ充分に解決されていない。
【0019】
製品が最終購買者に届くときには、当然、曇りの除去作業はできるだけやらなくても済むことが望ましい。
GB-B-2255348 および EP-B-0729398 の開示している銀合金は、現在ヨーロッパとアメリカで、 "Argentium" という商標のものが購入可能であり、本願明細書において "Argentium" という語はこの合金のことを指す。この合金は、例えばスターリングシルバーに較べて良好な耐曇性を示し、生じた曇りを簡単な清掃で除去することができるが、まだ耐曇性に改善の余地がある。 WO 02/095082 で開示されているように、選択的酸化性雰囲気下で行う焼き鈍しをする場合には、これはとりわけ真である。
【0020】
現在、火焼けおよび/もしくは曇りを能く抑えるに足る量のゲルマニウムを含んだ銀合金の表面処理に、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを用いて、合金の曇りを抑制するもしくはより強力に抑制することにより、サンプルを20%ポリ硫化アンモニウム ( ammonium polysulphide )溶液上に置き、硫化水素ガスに曝してみると、室温では少なくとも30分間、通常は45〜60分間は概して外面が曇らないままである。
【0021】
したがって本発明は、銀を 77wt% 以上、ゲルマニウムを 0.1〜7% 含んだ銀/ゲルマニウム合金製の製品のための曇り防止剤の調製において、例えば炭素数 2〜40 (好ましくは炭素数 12〜24)のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドであるような、 -SH結合もしくは -S-S-結合を有する有機化合物の使用に関するものであって、前記製品の合金のサンプルを、 20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に近接して設置しても、少なくとも30分間、典型的には 45〜60分間、外面が概して曇らないままであるような、曇りを抑制するための使用に関する。
【0022】
さらに本発明は、火焼けおよび/もしくは曇りを能く抑える量のゲルマニウムを含んだ銀合金の、もしくはその合金により形成され成型された製品を提供し、それらは炭素数12〜24のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドで処理される。
【0023】
さらに本発明は、以下のステップを含む、耐曇性銀製品の製造方法も提供する。
火焼けおよび/もしくは曇りを効果的に低減するに足る量のゲルマニウムを含む銀合金成形製品の成形、
アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドによる前記製品の表面処理、ならびに、
前記製品の包装への導入。
【0024】
上述した製品の曇り促成テストは、製品をポリ硫化アンモニウム溶液上に例えば30mmの高さで吊り下げて、蒸散する硫化水素ガスに曝すものであって、これは製品が展示され、外気に露出して加温される可能性があるような販売環境に一年以上置かれた状態に相当する。前記合金のゲルマニウム成分の保護機能と、前記有機硫黄化合物によるさらなる保護との組み合わせが、観測された耐曇性の増強に係るものであると思われる。厳しい条件下で前記製品の外観が曇らずに保たれる期間は、有機硫黄化合物で処理していない製品の場合の期間の三倍以上にすることができ、これは、保護のためのゲルマニウムを含まない従来のスターリングシルバー製品に同一の条件下で曇り促成テストを行ったときには、有機硫黄化合物による処理の有無によって曇るまでの寿命に充分な差が出ないことを鑑みると、予期せざる効果と言える。オクタデシルメルカプタンおよびヘキサデシルメルカプタン溶液に浸漬した Argentium と標準スターリングシルバーのサンプルを用いて、曇り促成テストを行ったところ、溶液( EnSolv 765, 後述する臭化n-プロピル系クリーナー溶媒)に浸した布で擦ると、標準スターリングシルバーのサンプルからは保護チオールが剥がれてしまったが、 Argentium シルバーのサンプルでは剥がれることはなかった。曇り促成テストにおいて、標準スターリングシルバーの前記の溶媒で擦った領域は、擦っていない領域よりも速く褪色したが、一方、 Argentium シルバーでは、擦った領域と擦っていない領域の間に外観上の差異は見受けられなかった。これは、チオール結合が強力である、もしくはより効率的であることを示唆している。
【0025】
Argentium Sterling にポリ硫化アンモニウムを用いた曇り促成テストについては、 the Society of American Silversmiths によるレポートが在る。 (参照: http://www.silversmithing.com/1argentium4.htm )
比較実験では、 Argentium Sterling は一時間後にも曇らないままであったが、従来のスターリングシルバーは15分未満で曇った。しかしながら、このテストは、 20%ポリ硫化アンモニウム溶液 0.5ml を蒸留水 200ml で希釈して行っているので、サンプルを20%ポリ硫化アンモニウム溶液に曝した場合に較べてはるかに緩い条件となっている。 WO 02/095082 では、サンプルは 20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に吊られているが、曝露時間は比較的短く、3〜5分後に Ag-Cu-Ge 合金の黄変の徴候が見られたと報告されている。 WO 02/095082 の明細書で報告されている他のテストには、サンプルを、硫黄華 ( flowers of sulphur ) および硝酸カルシウムを収めたデシケータ内に入れるものが含まれており、これは前記のポリ硫化アンモニウムによるテストよりも緩い条件である。
【0026】
上述の処理試薬の組成物の改良のための工程の一部において、本願出願人は、処理試薬を有機溶媒に溶かしてその溶液を水溶液と攪拌するという準備段階を必要とはせずに、処理試薬を直接に水系界面活性剤に溶解させる、もしくは分散させることができるという、予期せざる発見をした。上述の組成物の実施例は、光学的に透明であって、週単位もしくは月単位の期間、室温で安定して貯蔵できる。したがって、前記の処理組成物は、水系であり、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを含み、アニオン性界面活性剤と、中性もしくは両性の界面活性剤と、水との混合物である。
【0027】
[銀-銅-ゲルマニウム合金]
本発明に係る処理を施される合金は、火焼けおよび/もしくは曇りを効果的に低減するに足る量のゲルマニウムを含む銀の合金を含む。 US-A-6406664 (Diamond)は、錫が充分に含まれていれば、0.1wt%程度の低濃度のゲルマニウムで効果が得られるということを開示しているが、組成例は示されているものの、鋳造する製品もしくは板金から造られる製品の腐蝕もしくは火焼けに関する実験データが無い。本願発明者は、 Ge の好ましく且つより現実的な濃度下限は 0.5wt% と考えており、また実際には 1wt% 未満は望ましくないと考えている。銅を含まない二成分の合金は、99%の Ag と1%の Ge を含むことができ、また、報告されている宝飾品のための耐曇性鋳造合金は、2.5%の Pt 、1%の Ge 、残余分として Ag と任意に Zr 、Si もしくは Snを含んでいる。
【0028】
Ag-Cu-Ge 三元合金および Ag-Cu-Zn-Ge 四元合金は、本発明に係る方法で処理するのに適当であって、合金の重量に対して銀を30%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは92.5%以上含み、上限は98%であり、好ましくは97%以下である。Ag-Cu-(Zn)-Ge 合金のゲルマニウム成分は、合金の重量に対して0.1%以上であり、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1.1%以上であり、最も好ましくは1.5%以上であって、上限は6.5%であり、好ましくは4%以下である。
【0029】
もし望むなら、前記のゲルマニウム成分は、火焼けおよび/もしくは曇りへの耐久性を提供するゲルマニウムの影響を過度に妨げない、 Al 、 Ba 、 Be 、 Cd 、 Co 、 Cr 、 Er 、 Ga 、 In 、 Mg 、 Mn 、 Ni 、 Pb 、 Pd 、 Pt 、 Si 、 Sn 、 Ti 、 V 、 Y 、 Yb 、 および Zr からひとつもしくは複数選択される酸化電位を持つ元素によって、一部を置換することもできる。ゲルマニウムと置換元素との重量比は、100:0〜60:40の範囲とすることができ、好ましくは100:0〜80:20とすることができる。ゲルマニウム成分は、すべてゲルマニウムであること、すなわち重量比が100:0であるのが好ましい。
【0030】
不純物とすべての結晶微細化剤を除いた Ag-Cu-Ge 三元合金の残余分は、銅から構成されており、合金の重量に対して0.5%以上存在し、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、最も好ましくは4%以上存在する。'品位800'の三元合金では、例えば、銅の含有量は18.5%が適切である。不純物とすべての結晶微細化剤を除いた Ag-Cu-Zn-Ge 四元合金の残余分は、合金の重量に対して0.5%以上存在し、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、最も好ましくは4%以上存在する銅、および、前記の銅との重量比が 1:1 を超えないように存在する亜鉛、から構成されている。つまり、亜鉛は、銀-銅合金中に、銅成分の重量の0〜100%、オプションとして存在するということである。'品位800'の四元合金では、例えば、銅の含有量は10.5%、亜鉛の含有量は8%が適切である。
【0031】
合金は、銀、銅、およびゲルマニウム、およびオプションとしての亜鉛、に加えて、前記合金の工程間の結晶粒の成長を阻害する、結晶微細化剤を含むのが好ましい。適切な結晶微細化剤は、ホウ素、イリジウム、鉄およびニッケルを含み、特にホウ素が好ましい。好ましくはホウ素である前記結晶微細化剤は、 Ag-Cu-(Zn)-Ge 合金中に、合金の重量に対して 1〜100ppm 、好ましくは 2〜50ppm 、より好ましくは 4〜20ppm の範囲で存在する。
【0032】
好ましい実施例においては、合金は三元合金であって、不純物とすべての結晶微細化剤を除いた合金の重量に対して、80〜96%の銀、0.1〜5%のゲルマニウム、1〜19.9%の銅を含む。より好ましい実施例においては、合金は三元合金であって、不純物とすべての結晶微細化剤を除いた合金の重量に対して、92.5〜98%の銀、0.3〜3%のゲルマニウム、1〜7.2%の銅を含み、さらに結晶微細化剤として 1〜40ppm のホウ素を含む。さらに好ましい実施例においては、合金は三元合金であって、不純物とすべての結晶微細化剤を除いた合金の重量に対して、92.5〜96%の銀、0.5〜2%のゲルマニウム、1〜7%の銅を含み、さらに結晶微細化剤として 1〜40ppm のホウ素を含む。
【0033】
[保護試薬 ( Protective agents )]
保護試薬としては、例えばアルカンチオール、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドである、長鎖アルキル基、及び、 -SH 基もしくは -S-S- 基を含む化合物であって、前記長鎖は、好ましくは炭素数10以上であり、炭素数12〜24とすることができる。多用されている前記の -SH 基もしくは -S-S- 基の化合物は、炭素鎖に16〜24個の炭素原子を含む直鎖飽和脂肪族化合物であり、例えば、以下の構造式である、セチルメルカプタン(ヘキサデシルメルカプタン)およびステアリルメルカプタン(オクタデシルメルカプタン)およびセチルチオグリコラートおよびステアリルチオグリコラートである。
【0034】
【化1】

オクタデシルメルカプタンは、白色〜淡黄色のワックス状固体であり、水に不溶であり、融点は15〜16℃である。ヘキサデシルメルカプタンも白色もしくは淡黄色のワックス状固体であり、融点は30℃である。
【0035】
[有機溶媒に基づく組成物]
保護試薬は、例えばメタノールもしくはエタノールであるアルコール、例えばアセトンもしくはメチルエチルケトン ( methyl ethyl ketone ) であるケトン、例えばジエチルエーテルであるエーテル、例えば n-ブチルアセタートであるエステル、炭化水素、例えば塩化メチレン、 1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、もしくは HCFC 141b であるハロカーボン、のような例えば無極性有機溶媒である溶媒の溶液として用いることができる。前記保護試薬は、前記溶媒の 0.1〜1wt% を含むことができる。ハロゲン化アルキルもしくはハロゲン化アリール系の溶媒を使用することができ、例えば臭化n-プロピルは、大気中寿命の短さ、他のハロカーボン類に較べて低毒性であること、化学的・物理的物性および沸点、比熱および蒸発時の潜熱、に鑑みて好ましい。
【0036】
US-A-5616549 は、以下を含む溶媒混合物を開示している。90〜約96.5%の臭化n-プロピル、ならびに、0〜約6.5%のテルペン類混合物であってそのうちの35〜約50%の cis-ピナンおよび35〜約50%の trans-ピナンを含むテルペン類混合物、ならびに、3.5〜約5%の低沸点溶媒混合物であって、0.5〜1%のニトロメタン、0.5〜1%の 1,2-ブチレンオキシド、および2.5〜3%の 1,3-ジオキソラン、を含む混合物。前記の溶媒混合物は以下の利点を有する。
【0037】
(i) 空気の存在により前記混合物が酸化されて生じる遊離酸、および、水の存在により前記混合物が加水分解されて生じる遊離酸、および、高温の影響によって前記混合物が熱分解されて生じる遊離酸、のすべてに対して、完全に安定であること。
(ii) 不燃性且つ非腐蝕性であること。
(iii) 前記の溶媒混合物中の種々の化合物は U.S. Clean Air Act によって規制されてはいないこと。ならびに、
(iv) 前記の溶媒混合物中の種々の化合物のすべてが、発癌性薬品ではないこと(すなわち、前記の種々の化合物は N.T.I. 、 I.A.R.C. および California Proposition 65 にリストされているものが無く、 OSHA に規制されているものも無い)。
【0038】
さらに、前記溶媒混合物は、120よりも大きい、より好ましくは125よりも大きい、カウリ=ブタノール値 ( KB値; a kauri-butanol value ) を示し、高い溶解力 ( solvency ) を有している。加えて、前記溶媒混合物は、 1,1,1-トリクロロエタン = 1 のとき、0.96以上の蒸発速度 ( evaporation rate ) を有する。蒸発する際に前記溶媒混合物が残す不揮発性残留物 ( non-volatile residue; NVR ) は2.5mg未満であり、より好ましくは、残渣は出ない。上述の特許に係る溶媒は、 Enviro-Tech International Inc of Melrose Park, Illinois, USA から、商標 EnSolv のもとに入手可能である。
【0039】
[有機溶媒および水に基づく組成物]
例えば軽工業における用途のような多くの目的に対しては、耐曇性処理を行うにあたって、優勢である水系溶媒システムを用いるのが好ましいと言える。この目的では、保護試薬は、例えば臭化n-プロピル系の溶媒である水不溶性有機溶媒 ( water-immiscible organic solvent ) に溶かすことができ、生成した溶液は、水を加えた後に、 "キャリアー" ( "carrier" ) としてはたらく、比較的濃い水系石鹸 ( water-based soap ) もしくは洗浄剤組成物と混合して、水性の処理浸漬液 ( aqueous treatment dip ) 、もしくは、脱脂液兼処理溶液とすることができる。このように、水性浸漬液には、溶液脱脂システムが不要であるという利点があるので、前記浸漬液は容易に製造でき、低温でも使用可能であり、浸漬した製品のすべての部分をステアリルメルカプタン他の処理試薬に接触させることができ、 Argentium Silver では2分間〜1時間浸漬液に浸漬すればよく、研磨した銀の表面が水をはじく程度にまで製品を洗浄・乾燥することも容易であり、また、前記浸漬液は、製品が小売に送られる前の製造工程環境においても簡単に使用することができる。
【0040】
好ましい水系洗浄剤は、アニオン性、アルコキシラート系非イオン性、もしくは水溶性カチオン性の界面活性剤、またはこれらの混合物とすることができ、pH は 7 もしくはその近傍の値であるのが好ましい。アニオン性界面活性剤は、硫酸アルキルおよびスルホン酸アルキルベンゼンであり、硫酸アルキルエトキシ類 ( alkyl ethoxy sulphates ) の共存もしくは使用により、長時間の皮膚曝露による刺戟を抑える(US-A-3793233, Rose et al.; 4024078 Gilbert; 4316824 Pancherni)。例えばベタイン類 ( betaines ) のような他の公知の界面活性剤が存在していてもよい(例えば、 US-A-4555360 (Bissett) を見よ)。5〜15wt%の非イオン性界面活性剤と、15〜30wt%のアニオン性界面活性剤とを含む、適切な組成物は、イギリスで商標 Fairy Liquid (Proctor & Gamble) として購入可能である。
【0041】
水性液は、前記処理試薬を無機溶媒に溶かし、例えば無希釈の Fairy Liquid のような比較的濃い洗浄液を加えてつくることもできる。これにより、以下のような多くの利点を持つ洗浄液が提供される。石鹸状液は容易に製造でき、湿したスポンジ/コットンウール/布などによって容易に Argentium Silver 製品に対して前記液を使うことができ、製品の、布が届かないような都合の悪い箇所へも前記液および石鹸泡によってステアリルメルカプタン他の処理試薬を入れこむことができ、研磨した銀の表面が水をはじく程度にまで製品を洗浄・乾燥することも容易であり、このプロセスは製品が小売に送られる前の製造工程環境においても簡単に使用することができ、また、小売もしくは家庭の環境でも簡単に使用することができる。さらに、本発明に係るチオール系処理試薬による処理によって、銀/銀合金に疎水性が付与され、製造時もしくは家庭環境での洗浄プロセスにおける水染み ( water-marks ) や水錆 ( water-staining ) の問題を、軽減もしくは克服することができる。
【0042】
[水性液に基づく組成物]
驚くべきことに、アニオン性、ならびに中性もしくは両性の界面活性剤を含み、水不溶性有機溶媒を含まず、好ましくは他のすべての溶媒を含まないところの水性液へ、前記処理試薬の有効量を含む組成物を直接溶かすことができることが発見された。前記処理試薬は、そのまま用いることも希釈して用いることもできるような比較的高い濃度の界面活性剤を含む水性液にも溶かすことができる。特に前述の節での説明を参照のこと。
【0043】
前記処理試薬は、希釈する前の前記組成物中に存在することができ、その含有量は0.1wt%以上、好ましくは1wt%以上であって、前記組成物中の固形成分は、5wt%以上、通常は10〜40wt%、好ましくは50wt%以上である。前述のような比較的高濃度の、高級アルキルチオール類、および、強い水不溶性を有する他の処理試薬、に対する、水系界面活性剤液の溶解能もしくは分散能については、これまで述べられてこなかった。結果として生じる濃縮液は、水で希釈して、水性浸漬液、または、脱脂溶液および前述のように用いる浸漬液の組み合わせ、とすることができ、前記の希釈をした後の溶液もしくは懸濁液中に前記処理試薬が残留していることがわかっており、表面保護薄膜によって腐蝕を阻害できる、銀-銅合金もしくは銀-銅-ゲルマニウム合金ならびに銅、真鍮およびニッケルのような他の金属の表面処理にとって有効な量を残留させておくことができる。ヘキサデシルメルカプタン(液相)を界面活性剤"キャリアー"に直接混合し、その溶液をそのまま用いるかもしくは水で希釈して用いることにより、特に安定性および効率性の点から観た良い結果が得られる。
【0044】
特に、中性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤の混合物であって、前記の中性界面活性剤が存在する全界面活性剤の例えば約33wt%となるような混合物を含む水性液中に、本発明に係る処理試薬を良好に分散させることができる。前述の試薬中に分散させることができる処理試薬は、 n-ヘキサデシルチオールおよび n-オクタデシルチオールを含む。これらは、両性もしくは双性 ( zwiterionic ) の界面活性剤とアニオン性界面活性剤との混合物を含む水性液にも良好に分散させることができ、また、前述の混合物は、前記処理試薬を再沈澱することがほとんどない、もしくは再沈澱することがない、比較的貯蔵安定性のある光学的に透明な溶液を提供する。この場合、前記の両性もしくは双性の界面活性剤と、前記のアニオン性界面活性剤との重量比は、1:10〜10:1であり、通常は1:3に近づく。
【0045】
両性もしくは双性の界面活性剤は、単独で使用することもでき、あるいは、別の両性もしくは双性の界面活性剤との混合物、および/または、非イオン性界面活性剤との混合物、および/または、二級アミン類もしくは三級アミン類の誘導体、もしくは、複素環の二級アミン類および三級アミン類の誘導体、もしくは、四級アンモニウム化合物、四級ホスホニウム化合物、三級スルホニウム化合物、であることもできるアニオン性界面活性剤との混合物、として用いることもできる。前記の四級化合物内のカチオン原子は、複素環の環員原子としてもよい。これらすべての化合物においては、3〜18個の炭素原子を含む直鎖もしくは分鎖の少なくともひとつの脂肪族基、ならびに、例えばカルボキシ基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、もしくはホスホン酸基、であるアニオン性水溶性基を含む、少なくともひとつの脂肪族置換基、が存在する。
【0046】
使用できる双性界面活性剤の例は、ベタイン ( betaine ) 系界面活性剤(好ましい)、イミダゾリン系界面活性剤、アミノアルカノアート系界面活性剤 ( aminoalkanoate surfactants ) 、およびイミノジアルカノアート( iminodialkanoate surfactants )、を含む。適切な界面活性剤は、ココアミドジメチルカルボキシメチルベタイン ( cocoamidodimethylcarboxymethylbetaine ) 、ラウリルアミドジメチルカルボキシメチルベタイン ( laurylamidodimethylcarboxymethylbetaine ) 、セチルアミドジメチルカルボキシ-メチルベタイン ( cetylamidodimethylcarboxy-methylbetaine ) 、および、ココアミド-ビス-(2-ヒドロキシエチル)カルボキシメチル-ベタイン ( cocoamido-bis-(2-hydroxyethyl)carboxymethyl-betaine ) 、といったアミドカルボキシベタイン類 ( amidocarboxybetaines ) を含む。特に好ましいのは、例えばコカミドプロピルベタイン ( cocamidopropyl betaine ) である、以下の構造式(ここで、式中の R は、炭素数8〜18のアルキル基)を有するアミドカルボキシベタインベタイン類 ( amidocarboxybetaines betaines ) である。この化合物は一般に安全と見做されており、BYSFが実施する復帰変異試験 ( Ames test )においてサルモネラ指標菌 ( Salmonella indicator organisms ) の変異原性を呈さず、また、ヒト反復パッチ発作テスト ( human repeated patch insult test; HRIPT ) において、接触性過敏症も光アレルギーも示さなかった( BASF発行の the MAFO CAB cocamidopropyl amino betaine data sheet を参照のこと)。
【0047】
【化2】

例えば以下の構造式を有するラウルアミド-スルホプロピルベタイン ( lauramido-sulfopropylbetaine ) のようなアミドスルホベタイン類 ( amido sulfobetaines ) であるスルホベタイン ( sulphobetaine ) 系界面活性剤も有用であり、
【0048】
【化3】

また、コカミド-2-ヒドロキシプロピルスルホベタイン ( cocamido-2-hydroxypropylsulfobetaine ) 、 ココアミドジメチルスルホプロピル-ベタイン ( cocoamidodimethylsulfopropyl-betaine ) 、 ステアリルアミド-ジメチルスルホプロピルベタイン ( stearylamido-dimethylsulfopropylbetaine ) 、および、ラウリルアミド-ビス-(2-ヒドロキシエチル)-スルホプロピルベタイン ( laurylamido-bis-(2-hydroxyethyl)-sulfopropylbetaine ) も有用である。また、例えばココアムホカルボキシプロピオナート ( cocoamphocarboxypropionate ) 、 ココアムホカルボキシプロピオン酸 ( cocoamphocarboxypropionic acid ) 、 ココアムホカルボキシグリシナート ( cocoamphocarboxyglycinate ) 、およびココアムホアセタート ( cocoamphoacetate )である、グリシン酸化合物 ( gylcinate ) およびアムホ酢酸化合物 ( amphoacetate )を含むイミダゾリン系界面活性剤も有用であり、また、例えば、 N-ラウリル-β-アミノプロピオン酸 ( N-lauryl-β-amino propionic acid ) およびその塩、ならびに、 N-ラウリル-β-イミノ-ジプロピオン酸 ( N-lauryl-s-imino-dipropionic acid ) およびその塩のような、 n-アルキルアミノ-プロピオン酸化合物類 ( n-alkylamino-propionates ) および n-アルキルイミノジプロピオン酸化合物類 ( n-alkyliminodipropionates ) であるアミノアルカノアート界面活性剤も有用である。
【0049】
非イオン性界面活性剤は、単独でも使用でき、または、アルキレンオキシドと疎水性有機化合物との縮合反応によって合成される化合物(脂肪族、もしくはアルキル基置換芳香族とすることができる)を含む混合物としても使用できる。特定の疎水性有機化合物との縮合反応を行う、前記の有機親水性基もしくはポリオキシアルキレン基の長さは、親水性基と疎水性基との間の所望のバランスを有する水溶性化合物を得られるように調整することができる。アミンオキシド類、ホスフィンオキシド類、およびスルホキシド類、を含む、半極性 ( semi-polar ) 非イオン性界面活性剤を使用することもできる。適切な化合物の種類は以下を含む。
【0050】
・ アルキルフェノール類と縮合反応するポリエチレンオキシド。これらの化合物は、6〜12個の炭素原子を含む直鎖もしくは分鎖のアルキル基を持つアルキルフェノール類と、エチレンオキシドとの縮合反応(アルキルフェノール1molにつき、5〜25molのエチレンオキシドが存在)による生成物を含む。上述の化合物中のアルキル置換基は、例えばポリマー化プロピレン、ジイソブチレン、オクテン、もしくはノネンから誘導することができる。
・ 脂肪族アルコールとエチレンオキシドとの縮合反応生成物。前記脂肪族アルコールのアルキル鎖は、直鎖もしくは分鎖であり、一般に8〜22個の炭素原子を含む。
・ エチレンオキシドと、プロピレンオキシドとエチレンジアミンとの反応生成物との、縮合反応生成物。
・ アミンオキシド系界面活性剤。例えば、ジメチルドデシルアミンオキシド、ジメチルテトラデシルアミンオキシド、エチルメチルテトラデシルアミンオキシド、セチルジメチルアミンオキシド、ジメチルステアリルアミンオキシド、セチルエチルプロピルアミンオキシド、ジエチルドデシルアミンオキシド、ジエチルテトラデシルアミンオキシド、ジプロピルドデシルアミンオキシド、ビス-(2-ヒドロキシエチル)=ドデシル=アミンオキシド、ビス-(2-ヒドロキシエチル)=3-ドデコキシ-2-ヒドロキシプロピル=アミンオキシド ( bis- (2-hydroxyethyl)-3-dodecoxy-2- hydroxypropylamine oxide ) 、 (2-ヒドロキシプロピル)=メチル=テトラデシル=アミンオキシド、ジメチルオレイルアミンオキシド ( dimethyloleylamine oxide ) 、ジメチル=(2-ヒドロキシドデシル)=アミンオキシド、ならびに、上記の化合物に対応する、デシル、ヘキサデシルおよびオクタデシル同族体 ( homologs ) 、である。
・ ホスフィンオキシド系界面活性剤。例えば、ジメチルドデシルホスフィンオキシド、ジメチルテトラデシルホスフィンオキシド、エチルメチルテトラデシルホスフィンオキシド、セチルジメチルホスフィンオキシド、ジメチルステアリルホスフィンオキシド、セチルエチルプロピルホスフィンオキシド、ジエチルドデシルホスフィンオキシド、ジエチルテトラデシルホスフィンオキシド、ジプロピルドデシルホスフィンオキシド、ジプロピルドデシルホスフィンオキシド、ビス-(ヒドロキシメチル)=ドデシル=ホスフィンオキシド、ビス-(2-ヒドロキシエチル)=ドデシル=ホスフィンオキシド、 (2-ヒドロキシプロピル)=メチル=テトラデシル=ホスフィンオキシド、ジメチル=オレイル=ホスフィンオキシド、および、ジメチル=(2-ヒドロキシドデシル)=ホスフィンオキシド、ならびに、上記の化合物に対応する、デシル、ヘキサデシルおよびオクタデシル同族体、である。
・ スルホキシド系界面活性剤。例えば、オクタデシルメチルスルホキシド、ドデシルメチルスルホキシド、テトラデシルメチルスルホキシド、 3-ヒドロキシトリデシル=メチル=スルホキシド、 3-メトキシトリデシル=メチル=スルホキシド、 3-ヒドロキシ-4-ドデコキシブチル=メチル=スルホキシド ( 3-hydroxy-4-dodecoxybutyl methyl sulfoxide ) 、オクタデシル=2-ヒドロキシエチル=スルホキシド ( octadecyl 2-hydroxyethyl sulfoxide ) 、および、ドデシルエチルスルホキシド ( dodecylethyl sulfoxide )、である。
・ エタノールアミド系界面活性剤。例えば、ココヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド ( coconut fatty acid monoethanolamide ) 、もしくは、ココヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、である。
ここで、 R は、炭素数10〜40、特に炭素数12〜18のアルキル基であって、例えばオレイル基 ( oleyl- ) もしくはココ基 ( ココヤシ油アルキル基; coco- ) である。さらなる界面活性剤としては、ジアミドアミンエトキシラート類 ( diamidoamine ethoxylates )およびジアミドアミンイミダゾリン類、ならびにエステルクォーター類 ( esterquats )のような、ジエチレントリアミン ( DETA ) 系の四級置換基がある。分類上、エステルクォーター類は、メチルジエタノールアミン ( MDEA )、トリエタノールアミン ( TEA ) 、および N,N'-ジメチル-3アミノプロパン-1,2-ジオール ( N,N-dimethyl-3aminopropane-1,2-diol; DMAPD ) を含む化合物を基にしたものとすることができる。
【0051】
アニオン性界面活性剤として、硫酸=脂肪族アルコール=エステル類 ( fatty alcohol sulphates ) 、硫酸=脂肪族アルコールエーテル=エステル類 ( fatty alcohol ether sulphates ) 、硫酸=アルキルフェノールエーテル=エステル類 ( alkyl phenol ether sulphates ) 、アルキルアリールスルホン酸類 ( alkyl aryl sulphonic acids ) 、およびこれらの塩、ならびに、クメンスルホナート、トルエンスルホナートおよびキシレンスルホナート、およびこれらの塩、ならびに、例えばラウリル硫酸ナトリウム、もしくはラウリル硫酸アンモニウムであるスルホコハク酸アルキルエステル類 ( alkyl sulphosuccinates )、を含むアルキル基系界面活性剤として、広汎な硫酸アルキルエステルを使うことができる。しかしながら、好ましい類のアニオン性界面活性剤は、硫酸モノアルキルエーテルポリオールであって、構造式 RO-(CH2CH2)nSO3M を有し、ここで式中の R は炭素数10〜18のアルキル基、 n は 2〜6 の数(好ましくは約2〜3)、 M は一価のカチオンである。このような化合物は、ココヤシ油もしくは獣脂からの誘導体として得られるか、または合成することができる炭素数10〜18のアルコールをスルホン化エトキシ化 (sulfonated ethoxylated ) したものである。ここで成功裡に使われてきたラウレス硫酸ナトリウムは、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムを、ラウリン酸 1mol あたり平均して 2mol のエチレンオキシドを用いてエトキシ化し、硫酸化して、構造式 CH3(CH2)10CH2(OCH2CH2)2OSO3Na として得られる。
【0052】
処理試薬を単に添加するにあたっては、上述の組成物を、例えば銀もしくは真鍮のための金属研磨剤として構成することができる。このような製品は、宝飾品もしくは金物類のような対象を浸漬するための液状製品として構成することができる。浸漬後、前記対象を通常は水で濯ぎ、柔らかい布で拭いて乾燥させる。別の構成としては、柔らかい布で塗布した後に拭い去るようなクリーム状もしくはペースト状のものとすることがある。
【0053】
浸漬組成物として構成するために、通常の活性成分は、酸解離定数 pKa が 5 を超えないような酸(例えば、リン酸、クエン酸、シュウ酸、もしくは酒石酸)と、チオ尿素 ( thiourea )もしくはその誘導体(例えば、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素のようなアルキル誘導体)との組み合わせとなる。クリーム状もしくはペースト状に構成するために、化学的沈澱岩の白亜 ( precipitated chalk ) 、滴虫土 ( 珪藻土; infusorial earth ) 、珪砂 ( silica ) 、 例えば粒径 0.05μm の γ-アルミナのような軟研磨剤を、例えば約 25wt% 含有することができる。これらの成分は、前記の界面活性剤および処理試薬と共存できると思われ、単純な混合によって簡便に組み合わせることができる。
【0054】
[処理手順]
前記の表面処理は、合金から成形製品を製造する製造段階が完了した後に行うことができる。前記製品は、平皿類、食器類もしくは宝飾品とすることができる。組立ステップ ( fabrication steps ) は、紡糸 ( spinning ) 、圧接 ( pressing ) 、鍛造 ( forging ) 、鋳造 ( casting ) 、彫金 ( chasing ) 、板金の鎚打 ( hammering from sheet ) 、均し ( planishing ) 、半田づけ・鑞づけ・熔接による接合 ( joining by soldering brazing or welding ) 、 焼き鈍し、ならびに、バフ/モップ ( buffs/mops ) および、酸化アルミニウムもしくはベンガラ ( 酸化鉄; rouge ) を用いた研磨、を含む。
【0055】
処理される製品は、以下のような種々の方法で脱脂することができる。
・ 超音波を伴う/伴わない、蒸気脱脂 ( vapour degreasing )
・ 超音波を伴う/伴わない、水による脱脂 ( aqueous degreasing )
・ 超音波を伴う/伴わない、有機溶媒脱脂 ( organic solvent degreasing ) (例えば、チオール処理に先立って行う、エタノールもしくはアセトンによる脱脂は、曇り促成テストにおいて非常に優れた結果を齎す)
・ 脱脂とチオール処理を同時に行う。このとき、チオールは、有機脱脂媒体もしくは水性脱脂媒体中に存在している。
【0056】
例えば、前記製品は、処理槽内で超音波を用いて脱脂してから、例えば EnSolv である溶媒に溶けている例えば 1wt% のステアリルメルカプタンである前記処理試薬の入った槽内に浸漬し、前記溶媒のひとつもしくは複数の槽内で濯ぎ、蒸発によって乾燥させることができる。過剰量のチオールを、チオール処理に好ましく用いられる溶媒と同一の溶媒で濯いで除くことによって、金属表面と反応せずに残っていたチオールが除去され、チオールが他の何かと反応を起こさないようにすることができる。前記溶媒は、残留分を出さないか、もしくは残留分を実質的に出さないので、ひき続いて水もしくは水性溶媒による洗浄をする必要はなく、また、製品は乾燥させることができる。而して流通網への配送のために前記製品を包装することができる。これは、製品をひとつもしくは複数の保護シートにくるむこと、贈答用箱への収納、および、例えば熱収縮性樹脂フィルムである保護包装で前記贈答用箱を包むこと、を含むことができる。前述の -SH基 もしくは -S-S-基を含んだ有機化合物によって処理されて包装された製品は、販売拠点へと良好な状態で届けることができるというだけではなく、期待されるところでは6ヶ月以上、ことによると12ヶ月以上という長期間に亘り、重篤な曇りを生長させないままに例えば棚やキャビネットに展示しておくことができる。
【0057】
別の手法としては、前記製品は、界面活性剤と一体になった 1〜5wt% の有機硫黄化合物(例えば、ステアリルメルカプタン)と、溶媒に溶かされた例えば珪藻土である洗浄剤、とを含む研磨剤により単に研磨することもできる。さらに別の手法としては、例えば、乾燥させた後に例えば臭化n-プロピルである有機溶媒中の処理試薬と共にしみこませたところの例えばセチルメルカプタンもしくはステアリルメルカプタンであるソガノイオウ化合物 ( sogano-sulphur compound ) をしみこませた布で単に研磨することもできる。清拭布 ( cleaning cloth ) の利点は、簡単に作ることができ、小売店や家庭の環境で簡単に使用でき、また、(使いたいならば) Argentium Silver の一般的な保全にも良好に使用できる、ということである。
【0058】
本発明に係る薄膜の実施態様は、打刻処置を受けても大部分もしくは全部が耐えることができ、また、新たに造幣された貨幣に耐曇性を与えるものであるために、本発明に係る処理方法は、打刻する直前の貨幣の面の曇り防止において特に有益であることがわかる。コレクターのために、造幣時の状態の貨幣が最小限の手の接触を以って包装されるものであり、また、すべての手の接触(例えば柔らかい布での研磨のような)は、貨幣にダメージを与えるリスクを孕んでいる、ということを理解されたい。耐曇性を延ばすことができる本発明に係る処理によって、前記のダメージを与えるリスクは低減される。
【発明を実施するための最良の態様】
【0059】
本発明を、後述の実施例に関連する図面を以って説明する。実施例において、ステアリルメルカプタンにより処理されたサンプルの "enhanced tarnish resistance" (強化された耐曇性(耐曇性向上))という語は、研磨と脱脂以外の処理を施していない Argentium Silver のサンプルと対比して言うものである。
【実施例1】
【0060】
[溶媒浸漬液の適用(溶媒脱脂されたサンプル)]
EnSolv 765 (100ml) 中にステアリルメルカプタン ( 0.1 、 0.5 および 1.0グラム) を含む溶液をつくった。研磨して EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂した Argentium Sterling のサンプルを前記のステアリルメルカプタン溶液のうちのひとつに、それぞれ2分間、5分間、15分間浸漬した。その後、サンプルを清浄なコットンウールで磨いた。
【0061】
耐曇性を評価するために、前記合金のサンプルを、20%ポリ硫化アンモニウム溶液の表面から約 25mm 離した上のヒュームカップボード ( fume cupboard ) のガラス側に置き、溶液から立ち上る硫化水素に曝されるようにした。1時間のテストの間、硫化水素に曝されてから45分後にわずかに黄変したのみで、すべてのサンプルが良好な耐曇性を示した。サンプル上に生じた薄膜は、ステアリルメルカプタンを含ませた清拭布で簡単に除去できた。
【0062】
比較実験において、標準スターリングシルバーのサンプルは、上述したテストにかけるとすぐに変色し、1時間後には深黒色の曇りが形成され、これはステアリルメルカプタンを含ませた清拭布で除去できなかった。前記清拭布で磨いた第二のスターリングシルバーのサンプルの示した結果も同様であり、前記テストにかけるとすぐに変色が始まった。EP-B-0729398 によって製造した Argentium Sterling 合金は、3分後に曇り始めた。WO 02/09502 により開示されている、選択的酸化性雰囲気下で焼き鈍した Argentium Sterling 合金の別のサンプルは、6分後に曇り始めた。標準スターリングシルバー製品の場合には曇り始めを遅延させる効果がなかったので、前記の曇り始めを著しく遅延させる効果は予期せざるものであった。
【実施例2】
【0063】
[処理後の溶媒洗浄の効果]
前記の Argentium のサンプルについて、メルカプタン処理後にコットンウールで磨く代わりに、 EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂したこと以外は、実施例1をくりかえした。その後、前記サンプルを実施例1の曇りテストにかけたところ、すべてのサンプルが耐曇性向上を示した。ステアリルメルカプタン処理の防護効果が、 EnSolv 中の超音波脱脂を耐えて残るということから、耐曇性は、ステアリルメルカプタンと、おそらくは Argentium Silver 中のゲルマニウムとを必要とする界面反応に因るものであって、 Argentiumの表面上の油脂 ( grease ) もしくは油分 ( oil ) の層の形成に因るものではないということが示唆される。
【実施例3】
【0064】
[水性浸漬液の適用(溶媒脱脂されたサンプル)]
耐曇処理溶液を、以下の成分を用いて調製した。
ステアリルメルカプタン 1g
EnSolv 765 5ml
洗浄剤(Fairy Liquid) 40ml
脱イオン水 100ml
前記のステアリルメルカプタンを、前記の EnSolv 765 に溶かした後、できた溶液を洗浄剤(Fairy Liquid)と混合して、水で希釈して、水性浸漬液を得た。 Argentium Silver のサンプルを研磨して EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂し、上記の水性浸漬液に室温で2分間浸した後、水道水を流して濯いだ。研磨表面が水をすぐにはじくようになって、サンプルが乾いたままとなったことには留意するべきである。実施例1の曇りテストにおいて、すべてのサンプルが耐曇性向上を示した。
【実施例4】
【0065】
[水性浸漬液2の適用(洗浄剤脱脂されたサンプル)]
Argentium Sterling のサンプルを、洗浄剤(Fairy Liquid)の2%水溶液中で脱脂した後、実施例3の処理溶液に浸した。処理したサンプルは、実施例3で記載した撥水性を持つようになったことに留意されたい。処理溶液中の Fairy Liquid を液体ハンドソープ (40ml) に置き換えて、上述のテストをくりかえした。ポリ硫化アンモニウム溶液に曝露したところ、サンプルは耐曇性の向上を示さなかった。前記のハンドソープはさらに低濃度だったため、これは耐曇性向上を示したかもしれないと言える。
【実施例5】
【0066】
[同時に行う脱脂および耐曇性処理]
以下の溶液を調製した。
・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 20ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 100ml の脱イオン水

・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 30ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 100ml の脱イオン水

・ 1g のステアリルメルカプタン (好ましい量)
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 100ml の脱イオン水

・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 500ml の脱イオン水

・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 1000ml の脱イオン水
前記溶液を、超音波洗浄槽内で50℃に加熱した。研磨した Argentium Silver のサンプルを前記溶液中で2分間超音波脱脂し、水道水を流して濯いだ。上述の処理溶液のうちのはじめの三つでは、サンプルの表面が撥水性を示し、サンプルの乾燥を保ったのが観察された。上述の処理溶液のうちのはじめの三つで処理したサンプルを、実施例1の曇りテストにかけたところ、すべてが耐曇性向上を示した。しかし、上述の処理溶液のうちの残りの二つで処理したサンプルの場合には、濯ぎ段階で表面が水をはじかなかった。前記サンプルが乾燥した際には、表面に筋が見られ、曇りテストで変色した。500ml の溶液で処理したサンプルは、 1000ml の溶液で処理したサンプルよりも変色の度合いが小さかった。上述した実験では、水系において Argentium Silver を脱脂とチオール処理試薬を用いた曇り防止を同時に行うことができることが示され、また、前記のステアリルメルカプタン/EnSolv/洗浄剤/水の溶液の濃度が高いほど、より良い耐曇性が得られることが示された。
【実施例6】
【0067】
[直接塗布 ―― 希釈していない洗浄剤溶液(溶媒脱脂/水脱脂サンプル)]
以下の溶液を調製した。
・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の洗浄剤(Fairy Liquid) (好ましい量)

・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の石鹸(液体ハンドソープ)
前記のステアリルメルカプタンは、最初に前記の EnSolv 中に溶かした。その後、その溶液に前記洗浄剤を混合した。 Argentium Silver のサンプルを研磨して EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂した。而して、前記のステアリルメルカプタン/EnSolv/洗浄剤の溶液を、前記の Argentium Silver のサンプルの表面に湿したコットンウールを用いて直接塗布し、石鹸泡で揉み洗いした。サンプルを水道水を流して濯いだ。それぞれの場合において、研磨面が水をはじいてサンプルが乾いたままとなったことに留意した。サンプルを希釈していない ( neat ) ポリ硫化アンモニウム溶液上に1時間以上曝して、実施例1の曇りテストを行った。すべてのサンプルが耐曇性向上を示した。上述したステアリルメルカプタン直接塗布法を、2% Fairy Liquid 水溶液で脱脂したサンプルでテストした。耐曇性の強化が再度達成された。
【実施例7】
【0068】
[布による塗布(溶媒脱脂サンプル)]
以下の溶液に、清浄な綿布を浸して布を用意した。布は乾燥しているものがよい。
・ 0.1g のステアリルメルカプタンを 100ml の EnSolv に溶かしたもの
・ 0.5g のステアリルメルカプタンを 100ml の EnSolv に溶かしたもの
・ 1.0g のステアリルメルカプタンを 100ml の EnSolv に溶かしたもの(好ましい)
Argentium Silver のサンプル(研磨して EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂したもの)を、前記布で拭った後に、清浄なコットンウールで磨いた。サンプルをポリ硫化アンモニウム溶液上に1時間以上曝して実施例1の曇りテストを行った。すべてのサンプルが耐曇性向上を示した。
【実施例8】
【0069】
[Fairy liquid に溶かしたヘキサデシルメルカプタンおよびオクタデシルメルカプタン]
液体のヘキサデシルメルカプタン (1g) を Fairy liquid (アニオン性および非イオン性の界面活性剤を含む界面活性剤)と水に混ぜ、以下に示す量に調製した。
【0070】
参照番号 Fairy liquid (ml) 脱イオン水 (ml)
8.1 40 Nil
8.2 100 Nil
8.3 200 Nil
8.4 40 100
8.5 40 200
溶液 8.2 の成分は、予めヘキサデイスルメルカプタンを有機溶媒に溶かしておかなくても、充分に混合できるのが明らかである。 Argentium Silver のサンプルを調製した溶液に10分間浸し、濯いだ。前記の Argentium Silver のサンプルの表面は疎水性となり、前記の Argentium Silver のサンプルの表面と結合したヘキサデシルメルカプタンの層が形成されたことを窺わせる。水で能く濯いだが、濯いだ後の表面に特記するような析出物は見られなかった。サンプルの一部を EnSolv 765 を染ませたコットンウールで擦った後に、希釈していないポリ硫化アンモニウムを用いた曇りテストに45分間以上かけた。優れた耐曇性が見られ、 EnSolv 765 で処理した部分と処理していない部分との間に重大な差異はなかった。オクタデシルメルカプタンと Fairy liquid とから類似の溶液を調製した。これらは初めは透明であったが、安定性に劣り、数ヶ月後にはオクタデシルメルカプタンの表層が剥がれてしまった。
【実施例9】
【0071】
[Simple ボディソープ ( Simple shower gel ) に溶かしたヘキサデシルメルカプタン]
液体のヘキサデシルメルカプタンを、 Simple ボディソープ(Accentia Health and Beauty Ltd, Birmingham, UK 製の透明なボディソープであって、主な界面活性剤としてラウレス硫酸ナトリウム ( sodium laureth sulfate ) および コカミドプロピルベタイン ( cocamidopropyl betaine ) を含み、コカミド DEA ( cocamido DEA ) および付随物を含むと思われる)と水とに混合し、以下に示す量に調製した。
【0072】
参照番号 HDM (g) Simple (ml) 脱イオン水 (ml)
9.1 1 100 Nil
9.2 1 100 100
9.3 5 100 100
9.4 1 200 100
混合してすぐに、溶液 9.1 および 9.4 は透明な粘性のあるゲルとなり、ヘキサデシルメルカプタンの特記すべき分離は見られなかった。サンプル 9.2 も、完全に透明であったが、水様の粘度であり、またヘキサデシルメルカプタンの分離は見られなかった。サンプル 9.3 も、水様の粘度であり振盪すると乳化エマルションが見られたが、静置した表面にヘキサデシルメルカプタンが分離しているのが観察された。
【0073】
予備実験において、Argentium Silver のサンプルを溶液 9.1 に10分間浸漬して濯いだ。前記の Argentium Silver のサンプルの表面は疎水性となり、前記の Argentium Silver の表面に結合するヘキサデシルメルカプタン層の形成が示唆された。水で能く洗ったが、濯いだ後の表面に特記するような析出物は見られなかった。希釈していないポリ硫化アンモニウムを用いてテストしたところ、優れた耐曇性が見られた。
【0074】
Argentium Silver のサンプル、および従来のスターリングシルバーは、以下のように準備した。各サンプルを Steelbright 研磨剤で研磨し、続いてベンガラで研磨した後、54℃の水の 2wt% Fairy Liquid 水溶液中で2分間超音波脱脂した。さらにエタノール中で5分間脱脂した後、室温の検査溶液に浸漬した。溶液から出し、 EnSolv 765 を染ませた織布で各サンプルの一部を擦ってから、希釈していないポリ硫化アンモニウムを用いた曇りテストに45分間以上かけた。 Argentium のサンプルでは、優れた耐曇性とチオール結合とが観察され、特に溶液 9.1 および 9.4 において、水成分の多い溶液 9.2 および 9.3 に較べて良好な結果が得られた。溶液 9.1 および 9.4 を用いた場合、標準スターリングシルバーでも幾許かの耐曇性が見られたが、チオール層は容易に剥がれてしまい、処理しないサンプルと EnSolv 765 で処理したサンプルとの差異が明らかになった。
【実施例10】
【0075】
[コカミドプロピルベタイン ( cocamidopropyl betaine; CPB ) とラウレス硫酸ナトリウム ( sodium laureth sulfate; SLS )との混合物]
上述の物質は、 Surfachem Ltd of Leeds, United Kingdom から、液体として注げる程度に ( pourable ) 薄い水溶液、および、ややゼラチン状である高濃度液体(70%活性)として供給された。液体ヘキサデシルメルカプタン (1ml) をこれらの物質と混合し、以下に示す量に調製した。
【0076】
参照番号 SLS (g) CPB (ml) 水 (ml)
10.1 40 40 100
10.2 40 20 100
10.3 30 10 100
10.4 10 30 50
10.5 30 10 160
溶液 10.1 においては、ラウレス硫酸ナトリウムとコカミドプロピルベタインとの薄い混合液に、ヘキサデシルメルカプタンを加えた後に、水を添加して溶液を冷却しながら混合した。 調製した溶液は、当初には薄い泡状の白い肌理があったが、静置すると透明なゲルに変わった。溶液 10.2 は、大体同様であった。溶液 10.3 は、当初は、液面に多数の水泡が見られる若干透明な水様の溶液であり、一晩静置すると透明に変わった。溶液 10.4 は、約35℃までゆるやかに加熱しながら攪拌した。加熱することで攪拌工程をわずかに助成しているように見える。攪拌して数分後には、混合液が若干泡立ってきた。前記混合液を一晩静置したところ、粘性のある溶液が得られた。溶液 10.5 は、攪拌しながら約35℃まで加熱した。水は最後に加えた。加熱によって能く攪拌できた。溶液は微細泡状となったが、数時間(12時間以内)静置すると、水よりも少し薄い透明な溶液となった。
【0077】
Steelbright で研磨した後にベンガラで研磨し、 2wt% Fairy Liquid 水溶液中で2分間超音波脱脂した後、さらにアセトン中で脱脂し、室温の検査溶液に10分間浸漬し、冷たい水道水で洗って、 Argentium Silver のサンプルをつくった。チオールをすべて除去する試みとして各サンプルの下側を EnSolv 765 を染ませた織布で擦った後、前記サンプルを45分間放置してから、希釈していないポリ硫化アンモニウムによる曇り促成テストに45分間かけた。
【0078】
すべてのサンプルが、水洗プロセスにおいて非常に優れた疎水性を示し、チオール類の存在が示唆された。水滴ははじかれ、各サンプルを乾燥させる必要はなかった。前記サンプルは曇りテストにおいて良好な耐曇性を示し、前記の擦った部分と擦っていない部分との間にはほとんど差異はなかった。テストした各サンプルにおいて、ヘキサデシルメルカプタンが、 Argentium Silver の表面上に曇り防止チオール結合層を形成している、と結論した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機硫黄化合物による表面処理を施された耐曇性強化銀製品にするための、銀合金の耐曇性を強化する有機硫黄化合物の使用、ならびに、前記の処理された製品の保存および展示の方法、に関する。本発明は、銀合金だけではなく、例えば銅、真鍮もしくはニッケルのような、耐曇性のために表面処理を要する他の金属の処理にも用いることができる、水系組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
[銀合金およびその耐曇性]
標準スターリングシルバー ( Standard Sterling silver; 英国の標準銀 ) は、用途の広い信頼できる物質として製造業者および銀細工師へと提供されているが、仕上がった製品に対し、望まざる曇りを一時的に除くために、さらなる洗浄および研磨を要してしまう。銀および銀合金は、空気中に連日曝すことにより、曇り、として知られる、光沢を損なう黒ずんだ薄膜をつくることが公知となっている。
【0003】
混ぜ物の無い'純粋な'銀は柔らかすぎて実用に耐えないということは、古代より知られており、卑金属を混ぜ加えて硬度と強度を増進することが行われてきた。英国においては、14世紀から存在する法律により、銀製品として販売できる製品が含む最小限の比率は、92.5%(標準スターリングシルバー)と定められているが、卑金属成分については規定が無い。古代の銀細工師は、入手可能な金属のうち、銅が(銀に加える)もっとも適切な金属であることを経験的に知っていた。現代の銀板金 ( silver-sheet ) 製造業者も、より大きな延性を得るために銅の代わりにカドミウムを加えたりすることがあるものの、一般的にはこの組成物にこだわっている。 2.5%のカドミウムを含むスターリングシルバーは、紡績および型打に用いられる標準物質である。低品位の銀合金は、食器類 ( hollow-ware ) および金物類 ( cutlery ) の製造用として、欧州の多くの国で使われている。南欧・中欧では、品位800の合金(千分率で銀の比率を示す)が主に用いられるが、一方、スカンジナビアでは品位830のものが主に用いられる。
【0004】
大規模製造会社における場合を除き、組み立てが完了/半完了した製品の焼き鈍し ( アニーリング; annealing ) と半田づけの作業のほとんどは、空気式ブロートーチの炎によって行なう。前記炎の酸化性もしくは還元性、ならびに前記製品の温度は、銀細工師の技術によってのみ制御されている。純銀は、特に赤熱するまで加熱されたときに、酸素を容易に透過する。銀は大気中では酸化されないが、銀/銅合金中の銅は酸化されて酸化第一銅( 酸化銅(I); cuprous oxide )もしくは酸化第二銅( 酸化銅(II); cupric oxide )になる。製品の酸化された表面を熱希硫酸で酸洗 ( pickling ) することにより、上層は除去できるが、内部に沈潜する酸化銅は除去することができないため、製品では、銀/銅酸化物の混合物の層を、純銀もしくは非合金の銀から成る表面が包んでいるかたちとなっている。さらなる加熱によって純銀はたやすく透過され、表面下の深部にある銅が酸化されることになる。連続的な焼き鈍し・冷間加工 ( コールドワーキング; cold working ) ・酸洗によって、軽い研磨によって純銀光沢を出せる表面をつくることができるが、しっかり研磨すると、'火焼け' ( 'firestain' ) もしくは'火傷' ( 'fire' ) と言われる黒ずんだ醜い染みが顕われてしまう。より高温を伴う半田づけ作業では、さらに多くの深い火焼けをつくってしまう可能性がある。火焼けの深さが 0.025mm(0.010インチ)に達すると、合金は罅割れやすくなり、且つ、酸化物の表面が半田に濡れなくなって適切な金属結合が形成されなくなるために、半田づけしづらくなってしまう。
【0005】
特許 GB-B-2255348 (Rateau, Albert and Johns; Metalcurop Recherche)は、銅成分の酸化されやすさから来る問題を低減しつつ、Ag-Cu合金固有の硬度と光沢を保持する、新規な銀合金を開示している。前記の合金は、Ag-Cu-Geの三元合金であって、92.5wt%以上のAg、0.5〜3wt%のGe、および、不純物を除く残りとして銅を含んでいる。前記の合金は、従来の製造、変形、および仕上げ作業の間に大気中で銹ることがなく、冷却しても容易に変形することができ、また、容易に鑞づけ ( brazed ) することができ、また、鋳造時に大きく収縮することがない。さらに優れた延性と引っ張り強さも示し、また、所望の硬度になるよう焼き鈍すこともできる。ゲルマニウムは、前記の新規な合金が呈する特性の有用な組み合わせによる保護機能を顕わし、また、銀の相および銅の相の双方に固溶している。前記の合金の微細構造は、繊維状ゲルマニウム=銀=銅固溶体に囲まれた、銀の中のゲルマニウム=銅固溶体という二つの相から構成されている。銅リッチ相のゲルマニウムは、鑞づけおよび火炎焼き鈍しの間に、高温で銅が酸化されて火焼けが顕在化することを抑える GeO もしくは GeO2 の保護薄膜を形成することにより、表面酸化を抑止する。さらに、ゲルマニウムの添加によって、曇りの拡大を大幅に遅らせることができ、表面が黒よりも若干黄みがかったようになり、曇りは普通の水道水で容易に除去できる。前記の合金は、とりわけ宝飾品類に有用である。しかしながら、上記の特許に開示されている合金は、結晶粒度が大きくなると、変形特性が劣るようになり、且つ、合金がエアトーチの熱を受けて局所的に表面が融けた際に、生じる低融点共晶によって大きな液溜まり ( large pools ) ができてしまう。
【0006】
特許 US-A-6168071 および EP-B-0729398 (Johns)は、銀を77wt%以上含み、ゲルマニウムを0.4〜7%含み、不純物を除く残りが主に銅であって、0ppmよりも多く20ppmよりも少ない濃度のホウ素元素を結晶微細化剤 ( grain refiner ) として含む、銀/ゲルマニウム合金を開示している。2wt%のホウ素元素を有する銅/ホウ素のマスター合金中のホウ素を与えることによって、前記の合金のホウ素成分が実現できる。このような低濃度のホウ素により、銀/ゲルマニウム合金を良好に結晶微細化することができ、ホウ素を含まない銀/ゲルマニウム合金に較べ、より大きな強度と延性を合金に加えることができると報告されている。合金中のホウ素は、宝石商が半田づけする温度において結晶成長を抑え、且つ、前記の合金を、従来の合金では合金中の銅/ゲルマニウム共晶が融け出す温度までくりかえし加熱しても、孔蝕 ( pitting ) に抗すると報告された例がある。合金の個々の元素の間に、二つの元素の自由表面 ( free surfaces ) の間に充填物質を用いることなく、強靭で美的に満足である熔接部 ( joint ) をつくることができ、また、拡散法 ( a diffusion process ) もしくは抵抗熔接 ( resistance welding ) もしくはレーザー熔接の技術によって、突き合わせ熔接部 ( butt joint ) もしくは重ね熔接部 ( lap joint ) をつくることができる。スターリングシルバーの熔接と比較すると、上述の合金の熔接は、結晶粒の大きさの平均値が小さくなっており、熔接における変形性および延性が改善されている。したがって品位830合金は、プラズマ熔接でき、且つ、研磨に砥石(グラインダー)を要しない。
【0007】
例えば、 Ag-Cu-Ge 合金および Ag-Cu-Zn-Ge 合金である三元合金および四元合金は、貴金属地金である Ag 中に、混入元素である二つの卑金属、 Cu および Ge を含む。酸化雰囲気下に曝す場合、二つの酸化反応が考えられる。第一に、銅から酸化銅(I)への酸化であって、
4[Cu]alloy + O2 (g) -> 2Cu2O (s) (1)
第二に、ゲルマニウムから(二)酸化ゲルマニウムへの酸化であって、
[Ge]alloy + O2 (g) -> GeO2 (s) (2)
上記の反応式は、酸化ゲルマニウム(IV) GeO2の構造を示しているが、酸化ゲルマニウム(II) GeO 、もしくは中間物質 GexOy(x=1, yは1以上2以下)も生成していると考えられる。標準状態、すなわち、純Cuと純Geのそれぞれが1atmの純酸素ガスと化合して純酸化物相を形成する状態においては、双方の反応が進むことになり、反応式(2)の化学推進力は、反応式(1)のそれの1.65倍となる。
【0008】
WO 02/095082 (Johns)では、熔融混合物を鋳って合金をつくり、例えば H2/H2O もしくは CO/CO2 のような選択的酸化雰囲気下 ( a selectively oxidizing atmosphere ) において前記の合金を焼き鈍して薄くして結晶を再結晶し、 Cu2O の形成を阻害しつつ、 GeO2 の形成を促進することによって、銀・銅・ゲルマニウムの三元合金、もしくは、銀・銅・亜鉛・ゲルマニウムの四元合金の耐曇性を向上させている。
【0009】
[銀の曇りを除去・抑制するための処理組成物]
スターリングシルバーおよび他の公知の品位の銀から、曇りを除去するおよび/もしくは曇りの形成を抑制するように、清掃もしくは保護を行うためのさまざまな提案が為されてきた。
【0010】
US-A-2841501 は、研磨粉、ならびに、無毒とされ微香性であって、銀と大気中の反応成分との間の物理的障壁となる R-S-Ag (Rはチオールのアルカン鎖)の単分子層を形成して銀の曇りを抑制する、炭素数12〜20の n-アルカンチオールに基づく、銀の研磨を開示している。
【0011】
GB-A-1130540 は、製造工程中の一ステップとしての、スターリングシルバーもしくはブリタニアシルバー ( Britannia silver ) の仕上げ済表面の保護に関しており、以下のステップを含む方法を開示している。
【0012】
99wt%の揮発性有機溶媒(例えば、トリクロロエチレンもしくは 1,1,1-トリクロロエタン)、ならびに、無色透明の保護層を銀表面に形成する能を有する 0.1〜1.8wt% の -SH基を含む有機溶質(例えば、ステアリルメルカプタン、セチルメルカプタン、ステアリルチオグリコラート、もしくはセチルチオグリコラート)、を含む溶液で、製品の清浄な銀表面を湿し、
前記溶液と前記表面を化合させ、前述の層を形成して、前記溶液を揮発させ、且つ、
前記表面を洗浄液で洗い、湯で濯ぎ、乾燥させる。上述の方法は、前記製品がユーザーのもとに届けられるまでの間、予定保存期間中に持続する、"長持ち仕上げ" ( "long-term finish" ) を提供することを示している。
【0013】
ハロハイドロカーボン類 ( ハロゲン化炭化水素類; halohydrocarbons ) は、最適な良溶媒であるとされているが、環境面での適性は現在疑問視されている。エーテル類は可燃性且つ有毒とされ、低級アルコールは貧溶媒とされている。本願出願人は、メルカプタン類の水への溶解度が、メチルメルカプタンの 23.30g/l からノニルメルカプタンの 0.00115g/l へと減少してゆき、ヘキサデシルメルカプタンおよびオクタデシルメルカプタン(CAS 2885-00-9)が水に不溶であるというデータを、インターネット上の ATOFINA Chemicals Inc のレポートから得た。
【0014】
US-A-6183815 (Enick)は、硫黄原子が金属表面に接し、アルキル基末端が前記金属表面から離れる方向に向いている、チオール化合物から誘導された自己組織化型被膜 ( a self-assembled coating ) の形成による、上述の類の処理を開示している。その明細書から例を挙げると、例えばイソプロパノール水溶液であるアルコール水溶液に溶かした、例えば CF3(CF2)5CONH(CH2)2SH であるフルオロアルキルアミド類を、濯いで柔らかい布で拭いて乾かした銀表面に噴霧している。前記フルオロアルキルアミド類は、検出できるような臭いを持たず、また、明細書および実施例には必ずしもアルコール性溶媒では良い薄膜をつくれるというわけではないと記載されてはいるが、低級アルコール、もしくは、アルコール/水混合液に可溶である。
【0015】
Yousong Kim et al. は、アノード酸化反応によってチオール類の銀への吸着が進行し、以下の反応式によって、基金属の開回路電位 ( open circuit potential ) が負方向へシフトするか、もしくは、前記電位が固定された場合にはアノード電流がピークとなることを報告している。
【0016】
RSH + M(0) -> RS-M(I) + H++ e-(M) (M = Au or Ag)
(参照:http://www.electrochem.org/meetings/past/200/abstracts/symposia/h1/1026.pdf )
Kwan Kim, Adsorption and Reaction of Thiols and Sulfides on Noble Metals, Raman SRS-2000, 14-17 August 2000, Xaimen, Fujian, China, http://pcoss.org/icorsxm/paper/kuankim.pdf も、自己組織化型単分子膜の構造を開示しており、また、銀表面上において、二つの Ag-S 結合を形成してジチオラート類を形成する脂肪族ジチオール類とともに、アルカンチオール類、ジアルキル=スルフィド類、およびジアルキル=ジスルフィド類が自己組織化することを開示している。
【0017】
対照的に、ゲルマニウムのアルキルチオール類の構造についての文献は比較的乏しい。 Ge の 100 面への H2S の解離吸着によって、吸着した -SH基および吸着した水素化合物が得られることが、 Nelen et al., Applied Surface Science, 150, 65-72 (1999) ( http://www.chem.missouri.edu/Greenlief/pubs/00005797.pdf を参照)に報告されており、さらに、Ge(100) を室温の H2S に曝露して、解離吸着した結果が、紫外線光電子分光法 ( ultraviolet photoelectron spectroscopy ) によって容易に追跡できるという、 the University of Missouri-Columbia の Michael Greenlief 教授のレポート http://www.chem.missouri.edu/Greenlief/Research.html も参照されたい。アルカンチオール類が Ge との反応によって高品質の単分子膜を形成することは、 Han et al., J. Am. Chem. Soc., 123, 2422 (2001) に、半導体およびナノテクノロジーの文脈で報告されている。実験の節において、アルカンチオールのイソプロパノール溶液に浸漬してプロパノール中で超音波処理して乾燥した Ge(111) ウェハを、アセトン中で超音波処理して有機不純物を溶かし、濃 HF に浸漬して残留酸化物を除いて水素終端面 ( a hydrogen-terminated surface ) をつくる、と記載されている。
【発明の開示】
【0018】
GB-A-1130540 は長持ち仕上げを提供すると謳っているが、銀細工師である本願発明者の経験から言うと、このタイプの処理では、製造から最終購買者もしくはユーザーに供給されるまでの期間における曇りに因る難事を完全に解決するには至らず、数々の欠点により損われてしまう。曇りの無い状態で銀製品が小売店に届いたとしても、それは、空気から製品を保護する、製造業者による包装の結果に因るところが大である。包装が解かれ、外気と人工照明の熱とを浴びる、ホテルのディスプレイケースのような小売環境に製品が展示されると、従来のスターリングシルバーの製品は、一週間程度で再研磨が必要となり、二週間後には販売できないほどに曇ってしまっているのが普通である。展示においては、展示される製品の曇ってしまうまでの寿命は、3〜4日間程度しかないこともありうる。再研磨を行うと、擦瑕と、手による細かい掻瑕とができてしまい、製品がすぐに売れないと新品同様の外観は失なわれてしまう。展示した銀の研磨を頻繁に行う必要があると、在庫を清掃するためには雇用されてはいない製品の販売のための職員を管理する宝石商もしくは他の販売組織の労務費が嵩んでしまう。したがって、販売もしくは展示の際の曇りは深刻な問題であり、銀製品の貯蔵と展示を行う流通網の携わる人の意気を消耗させており、いまだ充分に解決されていない。
【0019】
製品が最終購買者に届くときには、当然、曇りの除去作業はできるだけやらなくても済むことが望ましい。
GB-B-2255348 および EP-B-0729398 の開示している銀合金は、現在ヨーロッパとアメリカで、 "Argentium" という商標のものが購入可能であり、本願明細書において "Argentium" という語はこの合金のことを指す。この合金は、例えばスターリングシルバーに較べて良好な耐曇性を示し、生じた曇りを簡単な清掃で除去することができるが、まだ耐曇性に改善の余地がある。 WO 02/095082 で開示されているように、選択的酸化性雰囲気下で行う焼き鈍しをする場合には、これはとりわけ真である。
【0020】
現在、火焼けおよび/もしくは曇りを能く抑えるに足る量のゲルマニウムを含んだ銀合金の表面処理に、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを用いて、合金の曇りを抑制するもしくはより強力に抑制することにより、サンプルを20%ポリ硫化アンモニウム ( ammonium polysulphide )溶液上に置き、硫化水素ガスに曝してみると、室温では少なくとも30分間、通常は45〜60分間は概して外面が曇らないままである。
【0021】
したがって本発明は、銀を77wt%以上、ゲルマニウムを0.4〜7%含み、残りの成分は主に銅であるような、銀/ゲルマニウム合金製の、成形された平皿類 ( flatware ) 、食器類 ( hollowware ) もしくは宝飾品の、完成品もしくは半完成品である製品の処理方法であって、前記製品の合金のサンプルを、20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に近接して設置しても、少なくとも30分間は外面が曇らないままであるような、曇りを抑制する、もしくは曇りをさらに強力に抑制するための方法であって、
アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドによる前記製品の表面処理を含む方法、に関する。
【0022】
上記の方法は、前記製品を包装する、さらなるステップを含むことができる。
さらに本発明は、炭素数12〜24のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドによって処理され、火焼けおよび/もしくは曇りを効果的に低減するに足る量のゲルマニウムを含む銀合金製の、成形された平皿類、食器類もしくは宝飾品の、完成品もしくは半完成品である製品であって、前記製品の合金のサンプルを、20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に近接して設置しても、少なくとも30分間は外面が曇らないままであるような耐曇性を示す、製品を提供する。
【0023】
上述した製品の曇り促成テストは、製品をポリ硫化アンモニウム溶液上に例えば30mmの高さで吊り下げて、蒸散する硫化水素ガスに曝すものであって、これは製品が展示され、外気に露出して加温される可能性があるような販売環境に一年以上置かれた状態に相当する。前記合金のゲルマニウム成分の保護機能と、前記有機硫黄化合物によるさらなる保護との組み合わせが、観測された耐曇性の増強に係るものであると思われる。厳しい条件下で前記製品の外観が曇らずに保たれる期間は、有機硫黄化合物で処理していない製品の場合の期間の三倍以上にすることができ、これは、保護のためのゲルマニウムを含まない従来のスターリングシルバー製品に同一の条件下で曇り促成テストを行ったときには、有機硫黄化合物による処理の有無によって曇るまでの寿命に充分な差が出ないことを鑑みると、予期せざる効果と言える。オクタデシルメルカプタンおよびヘキサデシルメルカプタン溶液に浸漬した Argentium と標準スターリングシルバーのサンプルを用いて、曇り促成テストを行ったところ、溶液( EnSolv 765, 後述する臭化n-プロピル系クリーナー溶媒)に浸した布で擦ると、標準スターリングシルバーのサンプルからは保護チオールが剥がれてしまったが、 Argentium シルバーのサンプルでは剥がれることはなかった。曇り促成テストにおいて、標準スターリングシルバーの前記の溶媒で擦った領域は、擦っていない領域よりも速く褪色したが、一方、 Argentium シルバーでは、擦った領域と擦っていない領域の間に外観上の差異は見受けられなかった。これは、チオール結合が強力である、もしくはより効率的であることを示唆している。
【0024】
Argentium Sterling にポリ硫化アンモニウムを用いた曇り促成テストについては、 the Society of American Silversmiths によるレポートが在る。 (参照: http://www.silversmithing.com/1argentium4.htm )
比較実験では、 Argentium Sterling は一時間後にも曇らないままであったが、従来のスターリングシルバーは15分未満で曇った。しかしながら、このテストは、 20%ポリ硫化アンモニウム溶液 0.5ml を蒸留水 200ml で希釈して行っているので、サンプルを20%ポリ硫化アンモニウム溶液に曝した場合に較べてはるかに緩い条件となっている。 WO 02/095082 では、サンプルは 20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に吊られているが、曝露時間は比較的短く、3〜5分後に Ag-Cu-Ge 合金の黄変の徴候が見られたと報告されている。 WO 02/095082 の明細書で報告されている他のテストには、サンプルを、硫黄華 ( flowers of sulphur ) および硝酸カルシウムを収めたデシケータ内に入れるものが含まれており、これは前記のポリ硫化アンモニウムによるテストよりも緩い条件である。
【0025】
上述の処理試薬の組成物の改良のための工程の一部において、本願出願人は、処理試薬を有機溶媒に溶かしてその溶液を水溶液と攪拌するという準備段階を必要とはせずに、処理試薬を直接に水系界面活性剤に溶解させる、もしくは分散させることができるという、予期せざる発見をした。上述の組成物の実施例は、光学的に透明であって、週単位もしくは月単位の期間、室温で安定して貯蔵できる。したがって、前記の処理組成物は、水系であり、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを含み、アニオン性界面活性剤と、中性もしくは両性の界面活性剤と、水との混合物である。
【0026】
[銀-銅-ゲルマニウム合金]
本発明に係る処理を施される合金は、火焼けおよび/もしくは曇りを効果的に低減するに足る量のゲルマニウムを含む銀の合金を含む。 US-A-6406664 (Diamond)は、錫が充分に含まれていれば、0.1wt%程度の低濃度のゲルマニウムで効果が得られるということを開示しているが、組成例は示されているものの、鋳造する製品もしくは板金から造られる製品の腐蝕もしくは火焼けに関する実験データが無い。本願発明者は、 Ge の好ましく且つより現実的な濃度下限は 0.5wt% と考えており、また実際には 1wt% 未満は望ましくないと考えている。銅を含まない二成分の合金は、99%の Ag と1%の Ge を含むことができ、また、報告されている宝飾品のための耐曇性鋳造合金は、2.5%の Pt 、1%の Ge 、残余分として Ag と任意に Zr 、Si もしくは Snを含んでいる。
【0027】
Ag-Cu-Ge 三元合金および Ag-Cu-Zn-Ge 四元合金は、本発明に係る方法で処理するのに適当であって、合金の重量に対して銀を30%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは92.5%以上含み、上限は98%であり、好ましくは97%以下である。Ag-Cu-Zn-Ge 合金のゲルマニウム成分は、合金の重量に対して0.1%以上であり、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1.1%以上であり、最も好ましくは1.5%以上であって、上限は6.5%であり、好ましくは4%以下である。
【0028】
もし望むなら、前記のゲルマニウム成分は、火焼けおよび/もしくは曇りへの耐久性を提供するゲルマニウムの影響を過度に妨げない、 Al 、 Ba 、 Be 、 Cd 、 Co 、 Cr 、 Er 、 Ga 、 In 、 Mg 、 Mn 、 Ni 、 Pb 、 Pd 、 Pt 、 Si 、 Sn 、 Ti 、 V 、 Y 、 Yb 、 および Zr からひとつもしくは複数選択される酸化電位を持つ元素によって、一部を置換することもできる。ゲルマニウムと置換元素との重量比は、100:0〜60:40の範囲とすることができ、好ましくは100:0〜80:20とすることができる。ゲルマニウム成分は、すべてゲルマニウムであること、すなわち重量比が100:0であるのが好ましい。
【0029】
不純物とすべての結晶微細化剤を除いた Ag-Cu-Ge 三元合金の残余分は、銅から構成されており、合金の重量に対して0.5%以上存在し、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、最も好ましくは4%以上存在する。'品位800'の三元合金では、例えば、銅の含有量は18.5%が適切である。不純物とすべての結晶微細化剤を除いた Ag-Cu-Zn-Ge 四元合金の残余分は、合金の重量に対して0.5%以上存在し、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、最も好ましくは4%以上存在する銅、および、前記の銅との重量比が 1:1 を超えないように存在する亜鉛、から構成されている。つまり、亜鉛は、銀-銅合金中に、銅成分の重量の0〜100%、オプションとして存在するということである。'品位800'の四元合金では、例えば、銅の含有量は10.5%、亜鉛の含有量は8%が適切である。
【0030】
合金は、銀、銅、およびゲルマニウム、およびオプションとしての亜鉛、に加えて、前記合金の工程間の結晶粒の成長を阻害する、結晶微細化剤を含むのが好ましい。適切な結晶微細化剤は、ホウ素、イリジウム、鉄およびニッケルを含み、特にホウ素が好ましい。好ましくはホウ素である前記結晶微細化剤は、 Ag-Cu-(Zn)-Ge 合金中に、合金の重量に対して 1〜100ppm 、好ましくは 2〜50ppm 、より好ましくは 4〜20ppm の範囲で存在する。
【0031】
好ましい実施例においては、合金は三元合金であって、不純物とすべての結晶微細化剤を除いた合金の重量に対して、80〜96%の銀、0.1〜5%のゲルマニウム、1〜19.9%の銅を含む。より好ましい実施例においては、合金は三元合金であって、不純物とすべての結晶微細化剤を除いた合金の重量に対して、92.5〜98%の銀、0.3〜3%のゲルマニウム、1〜7.2%の銅を含み、さらに結晶微細化剤として 1〜40ppm のホウ素を含む。さらに好ましい実施例においては、合金は三元合金であって、不純物とすべての結晶微細化剤を除いた合金の重量に対して、92.5〜96%の銀、0.5〜2%のゲルマニウム、1〜7%の銅を含み、さらに結晶微細化剤として 1〜40ppm のホウ素を含む。
【0032】
[保護試薬 ( Protective agents )]
保護試薬としては、例えばアルカンチオール、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドである、長鎖アルキル基、及び、 -SH 基もしくは -S-S- 基を含む化合物であって、前記長鎖は、好ましくは炭素数10以上であり、炭素数12〜24とすることができる。多用されている前記の -SH 基もしくは -S-S- 基の化合物は、炭素鎖に16〜24個の炭素原子を含む直鎖飽和脂肪族化合物であり、例えば、以下の構造式である、セチルメルカプタン(ヘキサデシルメルカプタン)およびステアリルメルカプタン(オクタデシルメルカプタン)およびセチルチオグリコラートおよびステアリルチオグリコラートである。
【0033】
【化1】

オクタデシルメルカプタンは、白色〜淡黄色のワックス状固体であり、水に不溶であり、融点は15〜16℃である。ヘキサデシルメルカプタンも白色もしくは淡黄色のワックス状固体であり、融点は30℃である。
【0034】
[有機溶媒に基づく組成物]
保護試薬は、例えばメタノールもしくはエタノールであるアルコール、例えばアセトンもしくはメチルエチルケトン ( methyl ethyl ketone ) であるケトン、例えばジエチルエーテルであるエーテル、例えば n-ブチルアセタートであるエステル、炭化水素、例えば塩化メチレン、 1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、もしくは HCFC 141b であるハロカーボン、のような例えば無極性有機溶媒である溶媒の溶液として用いることができる。前記保護試薬は、前記溶媒の 0.1〜1wt% を含むことができる。ハロゲン化アルキルもしくはハロゲン化アリール系の溶媒を使用することができ、例えば臭化n-プロピルは、大気中寿命の短さ、他のハロカーボン類に較べて低毒性であること、化学的・物理的物性および沸点、比熱および蒸発時の潜熱、に鑑みて好ましい。
【0035】
US-A-5616549 は、以下を含む溶媒混合物を開示している。90〜約96.5%の臭化n-プロピル、ならびに、0〜約6.5%のテルペン類混合物であってそのうちの35〜約50%の cis-ピナンおよび35〜約50%の trans-ピナンを含むテルペン類混合物、ならびに、3.5〜約5%の低沸点溶媒混合物であって、0.5〜1%のニトロメタン、0.5〜1%の 1,2-ブチレンオキシド、および2.5〜3%の 1,3-ジオキソラン、を含む混合物。前記の溶媒混合物は以下の利点を有する。
【0036】
(i) 空気の存在により前記混合物が酸化されて生じる遊離酸、および、水の存在により前記混合物が加水分解されて生じる遊離酸、および、高温の影響によって前記混合物が熱分解されて生じる遊離酸、のすべてに対して、完全に安定であること。
(ii) 不燃性且つ非腐蝕性であること。
(iii) 前記の溶媒混合物中の種々の化合物は U.S. Clean Air Act によって規制されてはいないこと。ならびに、
(iv) 前記の溶媒混合物中の種々の化合物のすべてが、発癌性薬品ではないこと(すなわち、前記の種々の化合物は N.T.I. 、 I.A.R.C. および California Proposition 65 にリストされているものが無く、 OSHA に規制されているものも無い)。
【0037】
さらに、前記溶媒混合物は、120よりも大きい、より好ましくは125よりも大きい、カウリ=ブタノール値 ( KB値; a kauri-butanol value ) を示し、高い溶解力 ( solvency ) を有している。加えて、前記溶媒混合物は、 1,1,1-トリクロロエタン = 1 のとき、0.96以上の蒸発速度 ( evaporation rate ) を有する。蒸発する際に前記溶媒混合物が残す不揮発性残留物 ( non-volatile residue; NVR ) は2.5mg未満であり、より好ましくは、残渣は出ない。上述の特許に係る溶媒は、 Enviro-Tech International Inc of Melrose Park, Illinois, USA から、商標 EnSolv のもとに入手可能である。
【0038】
[有機溶媒および水に基づく組成物]
例えば軽工業における用途のような多くの目的に対しては、耐曇性処理を行うにあたって、優勢である水系溶媒システムを用いるのが好ましいと言える。この目的では、保護試薬は、例えば臭化n-プロピル系の溶媒である水不溶性有機溶媒 ( water-immiscible organic solvent ) に溶かすことができ、生成した溶液は、水を加えた後に、 "キャリアー" ( "carrier" ) としてはたらく、比較的濃い水系石鹸 ( water-based soap ) もしくは洗浄剤組成物と混合して、水性の処理浸漬液 ( aqueous treatment dip ) 、もしくは、脱脂液兼処理溶液とすることができる。このように、水性浸漬液には、溶液脱脂システムが不要であるという利点があるので、前記浸漬液は容易に製造でき、低温でも使用可能であり、浸漬した製品のすべての部分をステアリルメルカプタン他の処理試薬に接触させることができ、 Argentium Silver では2分間〜1時間浸漬液に浸漬すればよく、研磨した銀の表面が水をはじく程度にまで製品を洗浄・乾燥することも容易であり、また、前記浸漬液は、製品が小売に送られる前の製造工程環境においても簡単に使用することができる。
【0039】
好ましい水系洗浄剤は、アニオン性、アルコキシラート系非イオン性、もしくは水溶性カチオン性の界面活性剤、またはこれらの混合物とすることができ、pH は 7 もしくはその近傍の値であるのが好ましい。アニオン性界面活性剤は、硫酸アルキルおよびスルホン酸アルキルベンゼンであり、硫酸アルキルエトキシ類 ( alkyl ethoxy sulphates ) の共存もしくは使用により、長時間の皮膚曝露による刺戟を抑える(US-A-3793233, Rose et al.; 4024078 Gilbert; 4316824 Pancherni)。例えばベタイン類 ( betaines ) のような他の公知の界面活性剤が存在していてもよい(例えば、 US-A-4555360 (Bissett) を見よ)。5〜15wt%の非イオン性界面活性剤と、15〜30wt%のアニオン性界面活性剤とを含む、適切な組成物は、イギリスで商標 Fairy Liquid (Proctor & Gamble) として購入可能である。
【0040】
水性液は、前記処理試薬を無機溶媒に溶かし、例えば無希釈のFairy Liquid のような比較的濃い洗浄液を加えてつくることもできる。これにより、以下のような多くの利点を持つ洗浄液が提供される。石鹸状液は容易に製造でき、湿したスポンジ/コットンウール/布などによって容易に Argentium Silver 製品に対して前記液を使うことができ、製品の、布が届かないような都合の悪い箇所へも前記液および石鹸泡によってステアリルメルカプタン他の処理試薬を入れこむことができ、研磨した銀の表面が水をはじく程度にまで製品を洗浄・乾燥することも容易であり、このプロセスは製品が小売に送られる前の製造工程環境においても簡単に使用することができ、また、小売もしくは家庭の環境でも簡単に使用することができる。さらに、本発明に係るチオール系処理試薬による処理によって、銀/銀合金に疎水性が付与され、製造時もしくは家庭環境での洗浄プロセスにおける水染み ( water-marks ) や水錆 ( water-staining ) の問題を、軽減もしくは克服することができる。
【0041】
[水性液に基づく組成物]
驚くべきことに、アニオン性、ならびに中性もしくは両性の界面活性剤を含み、水不溶性有機溶媒を含まず、好ましくは他のすべての溶媒を含まないところの水性液へ、前記処理試薬の有効量を含む組成物を直接溶かすことができることが発見された。前記処理試薬は、そのまま用いることも希釈して用いることもできるような比較的高い濃度の界面活性剤を含む水性液にも溶かすことができる。特に前述の節での説明を参照のこと。
【0042】
前記処理試薬は、希釈する前の前記組成物中に存在することができ、その含有量は0.1wt%以上、好ましくは1wt%以上であって、前記組成物中の固形成分は、5wt%以上、通常は10〜40wt%、好ましくは50wt%以上である。前述のような比較的高濃度の、高級アルキルチオール類、および、強い水不溶性を有する他の処理試薬、に対する、水系界面活性剤液の溶解能もしくは分散能については、これまで述べられてこなかった。結果として生じる濃縮液は、水で希釈して、水性浸漬液、または、脱脂溶液および前述のように用いる浸漬液の組み合わせ、とすることができ、前記の希釈をした後の溶液もしくは懸濁液中に前記処理試薬が残留していることがわかっており、表面保護薄膜によって腐蝕を阻害できる、銀-銅合金もしくは銀-銅-ゲルマニウム合金ならびに銅、真鍮およびニッケルのような他の金属の表面処理にとって有効な量を残留させておくことができる。ヘキサデシルメルカプタン(液相)を界面活性剤"キャリアー"に直接混合し、その溶液をそのまま用いるかもしくは水で希釈して用いることにより、特に安定性および効率性の点から観た良い結果が得られる。
【0043】
特に、中性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤の混合物であって、前記の中性界面活性剤が存在する全界面活性剤の例えば約33wt%となるような混合物を含む水性液中に、本発明に係る処理試薬を良好に分散させることができる。前述の試薬中に分散させることができる処理試薬は、 n-ヘキサデシルチオールおよび n-オクタデシルチオールを含む。これらは、両性もしくは双性 ( zwiterionic ) の界面活性剤とアニオン性界面活性剤との混合物を含む水性液にも良好に分散させることができ、また、前述の混合物は、前記処理試薬を再沈澱することがほとんどない、もしくは再沈澱することがない、比較的貯蔵安定性のある光学的に透明な溶液を提供する。この場合、前記の両性もしくは双性の界面活性剤と、前記のアニオン性界面活性剤との重量比は、1:10〜10:1であり、通常は1:3に近づく。
【0044】
両性もしくは双性の界面活性剤は、単独で使用することもでき、あるいは、別の両性もしくは双性の界面活性剤との混合物、および/または、非イオン性界面活性剤との混合物、および/または、二級アミン類もしくは三級アミン類の誘導体、もしくは、複素環の二級アミン類および三級アミン類の誘導体、もしくは、四級アンモニウム化合物、四級ホスホニウム化合物、三級スルホニウム化合物、であることもできるアニオン性界面活性剤との混合物、として用いることもできる。前記の四級化合物内のカチオン原子は、複素環の環員原子としてもよい。これらすべての化合物においては、3〜18個の炭素原子を含む直鎖もしくは分鎖の少なくともひとつの脂肪族基、ならびに、例えばカルボキシ基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、もしくはホスホン酸基、であるアニオン性水溶性基を含む、少なくともひとつの脂肪族置換基、が存在する。
【0045】
使用できる双性界面活性剤の例は、ベタイン ( betaine ) 系界面活性剤(好ましい)、イミダゾリン系界面活性剤、アミノアルカノアート系界面活性剤 ( aminoalkanoate surfactants ) 、およびイミノジアルカノアート( iminodialkanoate surfactants )、を含む。適切な界面活性剤は、ココアミドジメチルカルボキシメチルベタイン ( cocoamidodimethylcarboxymethylbetaine ) 、ラウリルアミドジメチルカルボキシメチルベタイン ( laurylamidodimethylcarboxymethylbetaine ) 、セチルアミドジメチルカルボキシ-メチルベタイン ( cetylamidodimethylcarboxy-methylbetaine ) 、および、ココアミド-ビス-(2-ヒドロキシエチル)カルボキシメチル-ベタイン ( cocoamido-bis-(2-hydroxyethyl)carboxymethyl-betaine ) 、といったアミドカルボキシベタイン類 ( amidocarboxybetaines ) を含む。特に好ましいのは、例えばコカミドプロピルベタイン ( cocamidopropyl betaine ) である、以下の構造式(ここで、式中の R は、炭素数8〜18のアルキル基)を有するアミドカルボキシベタインベタイン類 ( amidocarboxybetaines betaines ) である。この化合物は一般に安全と見做されており、BYSFが実施する復帰変異試験 ( Ames test )においてサルモネラ指標菌 ( Salmonella indicator organisms ) の変異原性を呈さず、また、ヒト反復パッチ発作テスト ( human repeated patch insult test; HRIPT ) において、接触性過敏症も光アレルギーも示さなかった( BASF発行の the MAFO CAB cocamidopropyl amino betaine data sheet を参照のこと)。
【0046】
【化2】

例えば以下の構造式を有するラウルアミド-スルホプロピルベタイン ( lauramido-sulfopropylbetaine ) のようなアミドスルホベタイン類 ( amido sulfobetaines ) であるスルホベタイン ( sulphobetaine ) 系界面活性剤も有用であり、
【0047】
【化3】

また、コカミド-2-ヒドロキシプロピルスルホベタイン ( cocamido-2-hydroxypropylsulfobetaine ) 、 ココアミドジメチルスルホプロピル-ベタイン ( cocoamidodimethylsulfopropyl-betaine ) 、 ステアリルアミド-ジメチルスルホプロピルベタイン ( stearylamido-dimethylsulfopropylbetaine ) 、および、ラウリルアミド-ビス-(2-ヒドロキシエチル)-スルホプロピルベタイン ( laurylamido-bis-(2-hydroxyethyl)-sulfopropylbetaine ) も有用である。また、例えばココアムホカルボキシプロピオナート ( cocoamphocarboxypropionate ) 、 ココアムホカルボキシプロピオン酸 ( cocoamphocarboxypropionic acid ) 、 ココアムホカルボキシグリシナート ( cocoamphocarboxyglycinate ) 、およびココアムホアセタート ( cocoamphoacetate )である、グリシン酸化合物 ( gylcinate ) およびアムホ酢酸化合物 ( amphoacetate )を含むイミダゾリン系界面活性剤も有用であり、また、例えば、 N-ラウリル-β-アミノプロピオン酸 ( N-lauryl-β-amino propionic acid ) およびその塩、ならびに、 N-ラウリル-β-イミノ-ジプロピオン酸 ( N-lauryl-s-imino-dipropionic acid ) およびその塩のような、 n-アルキルアミノ-プロピオン酸化合物類 ( n-alkylamino-propionates ) および n-アルキルイミノジプロピオン酸化合物類 ( n-alkyliminodipropionates ) であるアミノアルカノアート界面活性剤も有用である。
【0048】
非イオン性界面活性剤は、単独でも使用でき、または、アルキレンオキシドと疎水性有機化合物との縮合反応によって合成される化合物(脂肪族、もしくはアルキル基置換芳香族とすることができる)を含む混合物としても使用できる。特定の疎水性有機化合物との縮合反応を行う、前記の有機親水性基もしくはポリオキシアルキレン基の長さは、親水性基と疎水性基との間の所望のバランスを有する水溶性化合物を得られるように調整することができる。アミンオキシド類、ホスフィンオキシド類、およびスルホキシド類、を含む、半極性 ( semi-polar ) 非イオン性界面活性剤を使用することもできる。適切な化合物の種類は以下を含む。
【0049】
・ アルキルフェノール類と縮合反応するポリエチレンオキシド。これらの化合物は、6〜12個の炭素原子を含む直鎖もしくは分鎖のアルキル基を持つアルキルフェノール類と、エチレンオキシドとの縮合反応(アルキルフェノール1molにつき、5〜25molのエチレンオキシドが存在)による生成物を含む。上述の化合物中のアルキル置換基は、例えばポリマー化プロピレン、ジイソブチレン、オクテン、もしくはノネンから誘導することができる。
・ 脂肪族アルコールとエチレンオキシドとの縮合反応生成物。前記脂肪族アルコールのアルキル鎖は、直鎖もしくは分鎖であり、一般に8〜22個の炭素原子を含む。
・ エチレンオキシドと、プロピレンオキシドとエチレンジアミンとの反応生成物との、縮合反応生成物。
・ アミンオキシド系界面活性剤。例えば、ジメチルドデシルアミンオキシド、ジメチルテトラデシルアミンオキシド、エチルメチルテトラデシルアミンオキシド、セチルメチルアミンオキシド、ジメチルステアリルアミンオキシド、セチルエチルプロピルアミンオキシド、ジエチルドデシルアミンオキシド、ジエチルテトラデシルアミンオキシド、ジプロピルドデシルアミンオキシド、ビス-(2-ヒドロキシエチル)=ドデシル=アミンオキシド、ビス-(2-ヒドロキシエチル)=3-ドデコキシ-2-ヒドロキシプロピル=アミンオキシド ( bis- (2-hydroxyethyl)-3-dodecoxy-2- hydroxypropylamine oxide ) 、 (2-ヒドロキシプロピル)=メチル=テトラデシル=アミンオキシド、ジメチルオレイルアミンオキシド ( dimethyloleylamine oxide ) 、ジメチル=(2-ヒドロキシドデシル)=アミンオキシド、ならびに、上記の化合物に対応する、デシル、ヘキサデシルおよびオクタデシル同族体 ( homologs ) 、である。
・ ホスフィンオキシド系界面活性剤。例えば、ジメチルドデシルホスフィンオキシド、ジメチルテトラデシルホスフィンオキシド、エチルメチルテトラデシルホスフィンオキシド、セチルジメチルホスフィンオキシド、ジメチルステアリルホスフィンオキシド、セチルエチルプロピルホスフィンオキシド、ジエチルドデシルホスフィンオキシド、ジエチルテトラデシルホスフィンオキシド、ジプロピルドデシルホスフィンオキシド、ジプロピルドデシルホスフィンオキシド、ビス-(ヒドロキシメチル)=ドデシル=ホスフィンオキシド、ビス-(2-ヒドロキシエチル)=ドデシル=ホスフィンオキシド、 (2-ヒドロキシプロピル)=メチル=テトラデシル=ホスフィンオキシド、ジメチル=オレイル=ホスフィンオキシド、および、ジメチル=(2-ヒドロキシドデシル)=ホスフィンオキシド、ならびに、上記の化合物に対応する、デシル、ヘキサデシルおよびオクタデシル同族体、である。
・ スルホキシド系界面活性剤。例えば、オクタデシルメチルスルホキシド、ドデシルメチルスルホキシド、テトラデシルメチルスルホキシド、 3-ヒドロキシトリデシル=メチル=スルホキシド、 3-メトキシトリデシル=メチル=スルホキシド、 3-ヒドロキシ-4-ドデコキシブチル=メチル=スルホキシド ( 3-hydroxy-4-dodecoxybutyl methyl sulfoxide ) 、オクタデシル=2-ヒドロキシエチル=スルホキシド ( octadecyl 2-hydroxyethyl sulfoxide ) 、および、ドデシルエチルスルホキシド ( dodecylethyl sulfoxide )、である。
・ エタノールアミド系界面活性剤。例えば、ココヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド ( coconut fatty acid monoethanolamide ) 、もしくは、ココヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、である。
ここで、 R は、炭素数10〜40、特に炭素数12〜18のアルキル基であって、例えばオレイル基 ( oleyl- ) もしくはココ基 ( ココヤシ油アルキル基; coco- ) である。さらなる界面活性剤としては、ジアミドアミンエトキシラート類 ( diamidoamine ethoxylates )およびジアミドアミンイミダゾリン類、ならびにエステルクォーター類 ( esterquats )のような、ジエチレントリアミン ( DETA ) 系の四級置換基がある。分類上、エステルクォーター類は、メチルジエタノールアミン ( MDEA )、トリエタノールアミン ( TEA ) 、および N,N'-ジメチル-3アミノプロパン-1,2-ジオール ( N,N-dimethyl-3aminopropane-1,2-diol; DMAPD ) を含む化合物を基にしたものとすることができる。
【0050】
アニオン性界面活性剤として、硫酸=脂肪族アルコール=エステル類 ( fatty alcohol sulphates ) 、硫酸=脂肪族アルコールエーテル=エステル類 ( fatty alcohol ether sulphates ) 、硫酸=アルキルフェノールエーテル=エステル類 ( alkyl phenol ether sulphates ) 、アルキルアリールスルホン酸類 ( alkyl aryl sulphonic acids ) 、およびこれらの塩、ならびに、クメンスルホナート、トルエンスルホナートおよびキシレンスルホナート、およびこれらの塩、ならびに、例えばラウリル硫酸ナトリウム、もしくはラウリル硫酸アンモニウムであるスルホコハク酸アルキルエステル類 ( alkyl sulphosuccinates )、を含むアルキル基系界面活性剤として、広汎な硫酸アルキルエステルを使うことができる。しかしながら、好ましい類のアニオン性界面活性剤は、硫酸モノアルキルエーテルポリオールであって、構造式 RO-(CH2CH2)nSO3M を有し、ここで式中の R は炭素数10〜18のアルキル基、 n は 2〜6 の数(好ましくは約2〜3)、 M は一価のカチオンである。このような化合物は、ココヤシ油もしくは獣脂からの誘導体として得られるか、または合成することができる炭素数10〜18のアルコールをスルホン化エトキシ化 (sulfonated ethoxylated ) したものである。ここで成功裡に使われてきたラウレス硫酸ナトリウムは、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムを、ラウリン酸 1mol あたり平均して 2mol のエチレンオキシドを用いてエトキシ化し、硫酸化して、構造式 CH3(CH2)10CH2(OCH2CH2)2OSO3Na として得られる。
【0051】
処理試薬を単に添加するにあたっては、上述の組成物を、例えば銀もしくは真鍮のための金属研磨剤として構成することができる。このような製品は、宝飾品もしくは金物類のような対象を浸漬するための液状製品として構成することができる。浸漬後、前記対象を通常は水で濯ぎ、柔らかい布で拭いて乾燥させる。別の構成としては、柔らかい布で塗布した後に拭い去るようなクリーム状もしくはペースト状のものとすることがある。
【0052】
浸漬組成物として構成するために、通常の活性成分は、酸解離定数pKa が 5 を超えないような酸(例えば、リン酸、クエン酸、シュウ酸、もしくは酒石酸)と、チオ尿素 ( thiourea )もしくはその誘導体(例えば、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素のようなアルキル誘導体)との組み合わせとなる。クリーム状もしくはペースト状に構成するために、化学的沈澱岩の白亜 ( precipitated chalk ) 、滴虫土 ( 珪藻土; infusorial earth ) 、珪砂 ( silica ) 、 例えば粒径 0.05μm の γ-アルミナのような軟研磨剤を、例えば約 25wt% 含有することができる。これらの成分は、前記の界面活性剤および処理試薬と共存できると思われ、単純な混合によって簡便に組み合わせることができる。
【0053】
[処理手順]
前記の表面処理は、合金から成形製品を製造する製造段階が完了した後に行うことができる。前記製品は、平皿類、食器類もしくは宝飾品とすることができる。組立ステップ ( fabrication steps ) は、紡糸 ( spinning ) 、圧接 ( pressing ) 、鍛造 ( forging ) 、鋳造 ( casting ) 、彫金 ( chasing ) 、板金の鎚打 ( hammering from sheet ) 、均し ( planishing ) 、半田づけ・鑞づけ・熔接による接合 ( joining by soldering brazing or welding ) 、 焼き鈍し、ならびに、バフ/モップ ( buffs/mops ) および、酸化アルミニウムもしくはベンガラ ( 酸化鉄; rouge ) を用いた研磨、を含む。
【0054】
処理される製品は、以下のような種々の方法で脱脂することができる。
・ 超音波を伴う/伴わない、蒸気脱脂 ( vapour degreasing )
・ 超音波を伴う/伴わない、水による脱脂 ( aqueous degreasing )
・ 超音波を伴う/伴わない、有機溶媒脱脂 ( organic solvent degreasing ) (例えば、チオール処理に先立って行う、エタノールもしくはアセトンによる脱脂は、曇り促成テストにおいて非常に優れた結果を齎す)
・ 脱脂とチオール処理を同時に行う。このとき、チオールは、有機脱脂媒体もしくは水性脱脂媒体中に存在している。
【0055】
例えば、前記製品は、処理槽内で超音波を用いて脱脂してから、例えば EnSolv である溶媒に溶けている例えば 1wt% のステアリルメルカプタンである前記処理試薬の入った槽内に浸漬し、前記溶媒のひとつもしくは複数の槽内で濯ぎ、蒸発によって乾燥させることができる。過剰量のチオールを、チオール処理に好ましく用いられる溶媒と同一の溶媒で濯いで除くことによって、金属表面と反応せずに残っていたチオールが除去され、チオールが他の何かと反応を起こさないようにすることができる。前記溶媒は、残留分を出さないか、もしくは残留分を実質的に出さないので、ひき続いて水もしくは水性溶媒による洗浄をする必要はなく、また、製品は乾燥させることができる。而して流通網への配送のために前記製品を包装することができる。これは、製品をひとつもしくは複数の保護シートにくるむこと、贈答用箱への収納、および、例えば熱収縮性樹脂フィルムである保護包装で前記贈答用箱を包むこと、を含むことができる。前述の -SH基 もしくは -S-S-基を含んだ有機化合物によって処理されて包装された製品は、販売拠点へと良好な状態で届けることができるというだけではなく、期待されるところでは6ヶ月以上、ことによると12ヶ月以上という長期間に亘り、重篤な曇りを生長させないままに例えば棚やキャビネットに展示しておくことができる。
【0056】
別の手法としては、前記製品は、界面活性剤と一体になった 1〜5wt% の有機硫黄化合物(例えば、ステアリルメルカプタン)と、溶媒に溶かされた例えば珪藻土である洗浄剤、とを含む研磨剤により単に研磨することもできる。さらに別の手法としては、例えば、乾燥させた後に例えば臭化n-プロピルである有機溶媒中の処理試薬と共にしみこませたところの例えばセチルメルカプタンもしくはステアリルメルカプタンであるソガノイオウ化合物 ( sogano-sulphur compound ) をしみこませた布で単に研磨することもできる。清拭布 ( cleaning cloth ) の利点は、簡単に作ることができ、小売店や家庭の環境で簡単に使用でき、また、(使いたいならば) Argentium Silver の一般的な保全にも良好に使用できる、ということである。
【0057】
本発明に係る薄膜の実施態様は、打刻処置を受けても大部分もしくは全部が耐えることができ、また、新たに造幣された貨幣に耐曇性を与えるものであるために、本発明に係る処理方法は、打刻する直前の貨幣の面の曇り防止において特に有益であることがわかる。コレクターのために、造幣時の状態の貨幣が最小限の手の接触を以って包装されるものであり、また、すべての手の接触(例えば柔らかい布での研磨のような)は、貨幣にダメージを与えるリスクを孕んでいる、ということを理解されたい。耐曇性を延ばすことができる本発明に係る処理によって、前記のダメージを与えるリスクは低減される。
【発明を実施するための最良の態様】
【0058】
本発明を、後述の実施例に関連する図面を以って説明する。実施例において、ステアリルメルカプタンにより処理されたサンプルの "enhanced tarnish resistance" (強化された耐曇性(耐曇性向上))という語は、研磨と脱脂以外の処理を施していない Argentium Silver のサンプルと対比して言うものである。
【実施例1】
【0059】
[溶媒浸漬液の適用(溶媒脱脂されたサンプル)]
EnSolv 765 (100ml) 中にステアリルメルカプタン ( 0.1 、 0.5 および 1.0グラム) を含む溶液をつくった。研磨して EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂した Argentium Sterling のサンプルを前記のステアリルメルカプタン溶液のうちのひとつに、それぞれ2分間、5分間、15分間浸漬した。その後、サンプルを清浄なコットンウールで磨いた。
【0060】
耐曇性を評価するために、前記合金のサンプルを、20%ポリ硫化アンモニウム溶液の表面から約 25mm 離した上のヒュームカップボード ( fume cupboard ) のガラス側に置き、溶液から立ち上る硫化水素に曝されるようにした。1時間のテストの間、硫化水素に曝されてから45分後にわずかに黄変したのみで、すべてのサンプルが良好な耐曇性を示した。サンプル上に生じた薄膜は、ステアリルメルカプタンを含ませた清拭布で簡単に除去できた。
【0061】
比較実験において、標準スターリングシルバーのサンプルは、上述したテストにかけるとすぐに変色し、1時間後には深黒色の曇りが形成され、これはステアリルメルカプタンを含ませた清拭布で除去できなかった。前記清拭布で磨いた第二のスターリングシルバーのサンプルの示した結果も同様であり、前記テストにかけるとすぐに変色が始まった。EP-B-0729398 によって製造した Argentium Sterling 合金は、3分後に曇り始めた。WO 02/09502 により開示されている、選択的酸化性雰囲気下で焼き鈍した Argentium Sterling 合金の別のサンプルは、6分後に曇り始めた。標準スターリングシルバー製品の場合には曇り始めを遅延させる効果がなかったので、前記の曇り始めを著しく遅延させる効果は予期せざるものであった。
【実施例2】
【0062】
[処理後の溶媒洗浄の効果]
前記の Argentium のサンプルについて、メルカプタン処理後にコットンウールで磨く代わりに、EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂したこと以外は、実施例1をくりかえした。その後、前記サンプルを実施例1の曇りテストにかけたところ、すべてのサンプルが耐曇性向上を示した。ステアリルメルカプタン処理の防護効果が、 EnSolv 中の超音波脱脂を耐えて残るということから、耐曇性は、ステアリルメルカプタンと、おそらくは Argentium Silver中のゲルマニウムとを必要とする界面反応に因るものであって、 Argentiumの表面上の油脂( grease )もしくは油分( oil )の層の形成に因るものではないということが示唆される。
【実施例3】
【0063】
[水性浸漬液の適用(溶媒脱脂されたサンプル)]
耐曇処理溶液を、以下の成分を用いて調製した。
ステアリルメルカプタン 1g
EnSolv 765 5ml
洗浄剤(Fairy Liquid) 40ml
脱イオン水 100ml
前記のステアリルメルカプタンを、前記の EnSolv 765 に溶かした後、できた溶液を洗浄剤(Fairy Liquid)と混合して、水で希釈して、水性浸漬液を得た。 Argentium Silver のサンプルを研磨して EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂し、上記の水性浸漬液に室温で2分間浸した後、水道水を流して濯いだ。研磨表面が水をすぐにはじくようになって、サンプルが乾いたままとなったことには留意するべきである。実施例1の曇りテストにおいて、すべてのサンプルが耐曇性向上を示した。
【実施例4】
【0064】
[水性浸漬液2の適用(洗浄剤脱脂されたサンプル)]
Argentium Sterling のサンプルを、洗浄剤(Fairy Liquid)の2%水溶液中で脱脂した後、実施例3の処理溶液に浸した。処理したサンプルは、実施例3で記載した撥水性を持つようになったことに留意されたい。処理溶液中の Fairy Liquid を液体ハンドソープ (40ml) に置き換えて、上述のテストをくりかえした。ポリ硫化アンモニウム溶液に曝露したところ、サンプルは耐曇性の向上を示さなかった。前記のハンドソープはさらに低濃度だったため、これは耐曇性向上を示したかもしれないと言える。
【実施例5】
【0065】
[同時に行う脱脂および耐曇性処理]
以下の溶液を調製した。
・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 20ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 100ml の脱イオン水

・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 30ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 100ml の脱イオン水

・ 1g のステアリルメルカプタン (好ましい量)
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 100ml の脱イオン水

・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 500ml の脱イオン水

・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の洗浄剤(Fairy Liquid)
・ 1000ml の脱イオン水
前記溶液を、超音波洗浄槽内で50℃に加熱した。研磨した Argentium Silver のサンプルを前記溶液中で2分間超音波脱脂し、水道水を流して濯いだ。上述の処理溶液のうちのはじめの三つでは、サンプルの表面が撥水性を示し、サンプルの乾燥を保ったのが観察された。上述の処理溶液のうちのはじめの三つで処理したサンプルを、実施例1の曇りテストにかけたところ、すべてが耐曇性向上を示した。しかし、上述の処理溶液のうちの残りの二つで処理したサンプルの場合には、濯ぎ段階で表面が水をはじかなかった。前記サンプルが乾燥した際には、表面に筋が見られ、曇りテストで変色した。500ml の溶液で処理したサンプルは、 1000ml の溶液で処理したサンプルよりも変色の度合いが小さかった。上述した実験では、水系において Argentium Silver を脱脂とチオール処理試薬を用いた曇り防止を同時に行うことができることが示され、また、前記のステアリルメルカプタン/EnSolv/洗浄剤/水の溶液の濃度が高いほど、より良い耐曇性が得られることが示された。
【実施例6】
【0066】
[直接塗布 ―― 希釈していない洗浄剤溶液(溶媒脱脂/水脱脂サンプル)]
以下の溶液を調製した。
・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の洗浄剤(Fairy Liquid) (好ましい量)

・ 1g のステアリルメルカプタン
・ 5ml の EnSolv 765
・ 40ml の石鹸(液体ハンドソープ)
前記のステアリルメルカプタンは、最初に前記の EnSolv 中に溶かした。その後、その溶液に前記洗浄剤を混合した。 Argentium Silver のサンプルを研磨して EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂した。而して、前記のステアリルメルカプタン/EnSolv/洗浄剤の溶液を、前記の Argentium Silver のサンプルの表面に湿したコットンウールを用いて直接塗布し、石鹸泡で揉み洗いした。サンプルを水道水を流して濯いだ。それぞれの場合において、研磨面が水をはじいてサンプルが乾いたままとなったことに留意。サンプルを希釈していない ( neat ) ポリ硫化アンモニウム溶液上に1時間以上曝して、実施例1の曇りテストを行った。すべてのサンプルが耐曇性向上を示した。上述したステアリルメルカプタン直接塗布法を、2% Fairy Liquid 水溶液で脱脂したサンプルでテストした。耐曇性の強化が再度達成された。
【実施例7】
【0067】
[布による塗布(溶媒脱脂サンプル)]
以下の溶液に、清浄な綿布を浸して布を用意した。布は乾燥しているものがよい。
・ 0.1g のステアリルメルカプタンを 100ml の EnSolv に溶かしたもの
・ 0.5g のステアリルメルカプタンを 100ml の EnSolvに溶かしたもの
・ 1.0g のステアリルメルカプタンを 100ml の EnSolvに溶かしたもの(好ましい)
Argentium Silver のサンプル(研磨して EnSolv 765 中で2分間超音波脱脂したもの)を、前記布で拭った後に、清浄なコットンウールで磨いた。サンプルをポリ硫化アンモニウム溶液上に1時間以上曝して実施例1の曇りテストを行った。すべてのサンプルが耐曇性向上を示した。
【実施例8】
【0068】
[Fairy liquid に溶かしたヘキサデシルメルカプタンおよびオクタデシルメルカプタン]
液体のヘキサデシルメルカプタン (1g) を Fairy liquid (アニオン性および非イオン性の界面活性剤を含む界面活性剤)と水に混ぜ、以下に示す量に調製した。
【0069】
参照番号 Fairy liquid (ml) 脱イオン水 (ml)
8.1 40 Nil
8.2 100 Nil
8.3 200 Nil
8.4 40 100
8.5 40 200
溶液 8.2 の成分は、予めヘキサデイスルメルカプタンを有機溶媒に溶かしておかなくても、充分に混合できるのが明らかである。 Argentium Silver のサンプルを調製した溶液に10分間浸し、濯いだ。前記の Argentium Silver のサンプルの表面は疎水性となり、前記の Argentium Silver のサンプルの表面と結合したヘキサデシルメルカプタンの層が形成されたことを窺わせる。水で能く濯いだが、濯いだ後の表面に特記するような析出物は見られなかった。サンプルの一部を EnSolv 765 を染ませたコットンウールで擦った後に、希釈していないポリ硫化アンモニウムを用いた曇りテストに45分間以上かけた。優れた耐曇性が見られ、 EnSolv 765 で処理した部分と処理していない部分との間に重大な差異はなかった。オクタデシルメルカプタンと Fairy liquid とから類似の溶液を調製した。これらは初めは透明であったが、安定性に劣り、数ヶ月後にはオクタデシルメルカプタンの表層が剥がれてしまった。
【実施例9】
【0070】
[Simple ボディソープ ( Simple shower gel ) に溶かしたヘキサデシルメルカプタン]
液体のヘキサデシルメルカプタンを、 Simple ボディソープ(Accentia Health and Beauty Ltd, Birmingham, UK 製の透明なボディソープであって、主な界面活性剤としてラウレス硫酸ナトリウム ( sodium laureth sulfate ) および コカミドプロピルベタイン ( cocamidopropyl betaine ) を含み、コカミド DEA ( cocamido DEA ) および付随物を含むと思われる)と水とに混合し、以下に示す量に調製した。
【0071】
参照番号 HDM (g) Simple (ml) 脱イオン水 (ml)
9.1 1 100 Nil
9.2 1 100 100
9.3 5 100 100
9.4 1 200 100
混合してすぐに、溶液 9.1 および 9.4 は透明な粘性のあるゲルとなり、ヘキサデシルメルカプタンの特記すべき分離は見られなかった。サンプル 9.2 も、完全に透明であったが、水様の粘度であり、またヘキサデシルメルカプタンの分離は見られなかった。サンプル 9.3 も、水様の粘度であり振盪すると乳化エマルションが見られたが、静置した表面にヘキサデシルメルカプタンが分離しているのが観察された。
【0072】
予備実験において、Argentium Silver のサンプルを溶液 9.1 に10分間浸漬して濯いだ。前記の Argentium Silver のサンプルの表面は疎水性となり、前記の Argentium Silver の表面に結合するヘキサデシルメルカプタン層の形成が示唆された。水で能く洗ったが、濯いだ後の表面に特記するような析出物は見られなかった。希釈していないポリ硫化アンモニウムを用いてテストしたところ、優れた耐曇性が見られた。
【0073】
Argentium Silver のサンプル、および従来のスターリングシルバーは、以下のように準備した。各サンプルを Steelbright 研磨剤で研磨し、続いてベンガラで研磨した後、54℃の水の 2wt% Fairy Liquid 水溶液中で2分間超音波脱脂した。さらにエタノール中で5分間脱脂した後、室温の検査溶液に浸漬した。溶液から出し、 EnSolv 765 を染ませた織布で各サンプルの一部を擦ってから、希釈していないポリ硫化アンモニウムを用いた曇りテストに45分間以上かけた。 Argentium のサンプルでは、優れた耐曇性とチオール結合とが観察され、特に溶液 9.1 および 9.4 において、水成分の多い溶液 9.2 および 9.3 に較べて良好な結果が得られた。溶液 9.1 および 9.4 を用いた場合、標準スターリングシルバーでも幾許かの耐曇性が見られたが、チオール層は容易に剥がれてしまい、処理しないサンプルと EnSolv 765 で処理したサンプルとの差異が明らかになった。
【実施例10】
【0074】
[コカミドプロピルベタイン ( cocamidopropyl betaine; CPB ) とラウレス硫酸ナトリウム ( sodium laureth sulfate; SLS )との混合物]
上述の物質は、 Surfachem Ltd of Leeds, United Kingdom から、液体として注げる程度に ( pourable ) 薄い水溶液、および、ややゼラチン状である高濃度液体(70%活性)として供給された。液体ヘキサデシルメルカプタン (1ml) をこれらの物質と混合し、以下に示す量に調製した。
【0075】
参照番号 SLS (g) CPB (ml) 水 (ml)
10.1 40 40 100
10.2 40 20 100
10.3 30 10 100
10.4 10 30 50
10.5 30 10 160
溶液 10.1 においては、ラウレス硫酸ナトリウムとコカミドプロピルベタインとの薄い混合液に、ヘキサデシルメルカプタンを加えた後に、水を添加して溶液を冷却しながら混合した。 調製した溶液は、当初には薄い泡状の白い肌理があったが、静置すると透明なゲルに変わった。溶液 10.2 は、大体同様であった。溶液 10.3 は、当初は、液面に多数の水泡が見られる若干透明な水様の溶液であり、一晩静置すると透明に変わった。溶液 10.4 は、約35℃までゆるやかに加熱しながら攪拌した。加熱することで攪拌工程をわずかに助成しているように見える。攪拌して数分後には、混合液が若干泡立ってきた。前記混合液を一晩静置したところ、粘性のある溶液が得られた。溶液 10.5 は、攪拌しながら約35℃まで加熱した。水は最後に加えた。加熱によって能く攪拌できた。溶液は微細泡状となったが、数時間(12時間以内)静置すると、水よりも少し薄い透明な溶液となった。
【0076】
Steelbright で研磨した後にベンガラで研磨し、 2wt% Fairy Liquid 水溶液中で2分間超音波脱脂した後、さらにアセトン中で脱脂し、室温の検査溶液に10分間浸漬し、冷たい水道水で洗って、 Argentium Silver のサンプルをつくった。チオールをすべて除去する試みとして各サンプルの下側を EnSolv 765 を染ませた織布で擦った後、前記サンプルを45分間放置してから、希釈していないポリ硫化アンモニウムによる曇り促成テストに45分間かけた。
【0077】
すべてのサンプルが、水洗プロセスにおいて非常に優れた疎水性を示し、チオール類の存在が示唆された。水滴ははじかれ、各サンプルを乾燥させる必要はなかった。前記サンプルは曇りテストにおいて良好な耐曇性を示し、前記の擦った部分と擦っていない部分との間にはほとんど差異はなかった。テストした各サンプルにおいて、ヘキサデシルメルカプタンが、 Argentium Silver の表面上に曇り防止チオール結合層を形成している、と結論した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火焼けおよび/もしくは曇りを効果的に低減するに足る量のゲルマニウムを含む銀合金の表面処理における、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドの使用方法であって、前記合金のサンプルを、 20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に近接して設置して、少なくとも30分間、外面が概して曇らないままであるように、曇りを抑制する、もしくは曇りをさらに強力に抑制することを特徴とする、使用方法。
【請求項2】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドが、炭素数12〜24のアルキル基を有することを特徴とする、請求項1記載の使用方法。
【請求項3】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドは、有機溶媒中に在ることを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の使用方法。
【請求項4】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを含む前記溶媒が、概して中性であることを特徴とする、請求項3記載の使用方法。
【請求項5】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドは、臭化n-プロピルに基づく溶媒中に在ることを特徴とする、請求項3もしくは4に記載の使用方法。
【請求項6】
(a) 前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを有機溶媒中に溶かし、前記溶液に比較的高濃度の水性石鹸もしくは洗浄剤を添加することにより、得ることができる組成物、あるいは、 (b) 前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを有機溶媒中に溶かし、前記溶液に比較的高濃度の水性石鹸もしくは洗浄剤を添加し、水で希釈することによって、得ることができる水系分散液、あるいは、 (c) アニオン性界面活性剤と、中性もしくはアニオン性の界面活性剤との混合水溶液に、前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを直接溶かすことにより、得ることができる組成物、の中に前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドが在ることを特徴とする、請求項3もしくは4に記載の使用方法。
【請求項7】
前記の組み合わせが、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドから選択される処理試薬と、前記処理試薬を効率的に溶かすことのできる濃度のアニオン性界面活性剤および両性界面活性剤、を含むことを特徴とする、請求項6記載の使用方法。
【請求項8】
前記の組み合わせが、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドから選択される処理試薬と、前記処理試薬を効率的に溶かすことのできる濃度のアニオン性界面活性剤および中性界面活性剤、を含むことを特徴とする、請求項6記載の使用方法。
【請求項9】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドが、研磨剤に含まれているか、もしくは研磨布に染み込まされていることを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の使用方法。
【請求項10】
前記のアルカンチオールもしくはアルキルチオグリコラートが、ステアリルメルカプタン(オクタデシルメルカプタン)、セチルメルカプタン(ヘキサデシルメルカプタン)、ステアリルチオグリコラート、および、セチルチオグリコラート、から選択されることを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項11】
合金の前記表面処理のために、結晶微細化剤をさらに含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項12】
銀、銅およびゲルマニウムの三元合金の表面処理のための使用方法であることを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項13】
前記三元合金が、不純物とすべての結晶微細化剤を除いた前記合金の重量に対して 80〜96% の銀、 0.1〜5% のゲルマニウム、および 1〜19.9% の銅、から成ることを特徴とする、請求項12記載の使用方法。
【請求項14】
前記三元合金が、不純物と結晶微細化剤を除いた前記合金の重量に対して 92.5〜98% の銀、 0.3〜3%のゲルマニウム、および 1〜7.2% の銅、と共に在る、結晶微細化剤としての 1〜40ppm のホウ素、から成ることを特徴とする、請求項12記載の使用方法。
【請求項15】
前記三元合金が、不純物と結晶微細化剤を除いた前記合金の重量に対して 92.5〜96% の銀、 0.5〜2% のゲルマニウム、および 1〜7% の銅、と共に在る、結晶微細化剤としての 1〜40ppm のホウ素、から成ることを特徴とする、請求項12記載の使用方法。
【請求項16】
銀、銅、亜鉛およびゲルマニウムの四元合金の表面処理のための使用方法であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項17】
前記亜鉛が、前記銅との重量比で 1:1 以下、存在することを特徴とする、請求項16記載の使用方法。
【請求項18】
前記合金が、完成品もしくは半完成品である製品に成形されたものであることを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項19】
銀を少なくとも 77wt% 、ゲルマニウムを 0.4〜7% 含み、残りの成分は主に銅であるような、銀/ゲルマニウム合金の製品に対する曇り防止処理における、炭素数12〜24の、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドの使用方法であって、前記合金の曇りを低減、もしくはさらに低減し、前記合金のサンプルを、少なくとも30分間は概して外面が曇らないままに、 20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に近接して設置しておくことができることを特徴とする、使用方法。
【請求項20】
炭素数 12〜24 の、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドによって処理された、火焼けおよび/もしくは曇りを低減するために有効な量のゲルマニウムを含む、銀合金、もしくは前記銀合金から成形された成形製品。
【請求項21】
耐曇性銀製品の製造方法であって、
火焼けおよび/もしくは曇りを効果的に低減するに足る量のゲルマニウムを含む銀合金成形製品の成形、
アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドによる前記製品の表面処理、ならびに、
前記製品の包装への導入、
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項22】
前記包装が、贈答用箱を含むことを特徴とする、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記包装が、前記贈答用箱をくるむための外部ラッピングを含むことを特徴とする、請求項22記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を少なくとも77wt%、ゲルマニウムを0.4〜7%含み、残りの成分は主に銅であるような、銀/ゲルマニウム合金製の、成形された平皿類、食器類、もしくは宝飾品の、完成品もしくは半完成品である製品の処理方法であって、前記製品の曇りを低減、もしくはさらに低減し、前記製品の合金のサンプルを、少なくとも30分間は概して外面が曇らないままに、20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に近接して設置しておくことができる方法であって、
アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドによる前記製品の表面処理を含む、方法。
【請求項2】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドが、炭素数12〜24のアルキル基を有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドは、有機溶媒中に在ることを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の方法。
【請求項4】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを含む前記溶媒が、概して中性であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドは、臭化n-プロピルに基づく溶媒中に在ることを特徴とする、請求項3もしくは4に記載の方法。
【請求項6】
(a) 前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを有機溶媒中に溶かし、前記溶液に比較的高濃度の水性石鹸もしくは洗浄剤を添加することにより、得ることができる組成物、あるいは、 (b) 前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを有機溶媒中に溶かし、前記溶液に比較的高濃度の水性石鹸もしくは洗浄剤を添加し、水で希釈することによって、得ることができる水系分散液、の中に前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドが在ることを特徴とする、請求項3もしくは4に記載の方法。
【請求項7】
アニオン性界面活性剤と、中性、両性もしくは双性の界面活性剤との混合水溶液に、前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドを直接溶かすことにより、得ることができる組成物中に、前記のアルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドが在り、前記混合液は水以外の溶媒を含まないことを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、界面活性剤としてベタインを含むことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ベタインが、コカミドプロピルベタインであることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
アニオン性界面活性剤をさらに含むことを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アニオン性界面活性剤が、構造式 RO-(CH2CH2)nSO3M を有し、式中の R が炭素数10〜18のアルキル基、 n が 2〜6 の数、 M が一価のカチオンであることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記アニオン性界面活性剤が、ラウレス硫酸の一価のカチオン塩であることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
両性もしくは双性の界面活性剤、及び、アニオン性界面活性剤を、重量比にして1:10〜10:1で含むことを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記混合水溶液が、ラウレス硫酸ナトリウムおよびコカミドプロピルベタインを含むことを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項15】
前記のアルカンチオールもしくはアルキルチオグリコラートが、ステアリルメルカプタン(オクタデシルメルカプタン)、セチルメルカプタン(ヘキサデシルメルカプタン)、ステアリルチオグリコラート、および、セチルチオグリコラート、から選択されることを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記合金が、不純物と結晶微細化剤を除いた前記合金の重量に対して 92.5〜98% の銀、 0.3〜3%のゲルマニウム、および 1〜7.2% の銅、と共に在る、結晶微細化剤としての 1〜40ppm のホウ素、から成ることを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記三元合金が、不純物と結晶微細化剤を除いた前記合金の重量に対して 92.5〜96% の銀、 0.5〜2% のゲルマニウム、および 1〜7% の銅、と共に在る、結晶微細化剤としての 1〜40ppm のホウ素、から成ることを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記合金が、銀、銅、亜鉛およびゲルマニウムの四元合金であることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記の処理した製品を、包装するさらなるステップを含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記包装が、贈答用箱を含むことを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記包装が、前記贈答用箱をくるむための外部ラッピングを含むことを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
銀を少なくとも77wt%、ゲルマニウムを0.4〜7%含み、残りの成分は主に銅であるような、銀/ゲルマニウム合金の製品に対する曇り防止処理における、炭素数12〜24の、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドの使用方法であって、前記合金の曇りを低減、もしくはさらに低減し、前記製品の合金のサンプルを、少なくとも30分間は概して外面が曇らないままに、 20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に近接して設置しておくことができることを特徴とする、使用方法。
【請求項23】
火焼けおよび/もしくは曇りを低減するために有効な量のゲルマニウムを含む銀合金製の、成形された平皿類、食器類、もしくは宝飾品の、完成品もしくは半完成品である製品であって、炭素数12〜24の、アルカンチオール、アルキルチオグリコラート、ジアルキル=スルフィド、もしくはジアルキル=ジスルフィドによって処理された製品であって、前記製品の合金のサンプルを、少なくとも30分間は概して外面が曇らないままに、20%ポリ硫化アンモニウム溶液上に近接して設置しておくことができるような耐曇性を示すことを特徴とする、製品。

【公表番号】特表2006−523266(P2006−523266A)
【公表日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506057(P2006−506057)
【出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001373
【国際公開番号】WO2004/087996
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505436438)ミドルセックス シルバー カンパニー リミテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】MIDDLESEX SILVER CO.LIMITED
【Fターム(参考)】