説明

銀イオンの測定方法及び被検物質の測定方法

【課題】 測定溶液中の銀イオンを高感度に測定すること。
【解決手段】 生物学的相互作用を利用して標識物質としての銀微粒子を電極の表面に集める工程と、測定溶液を電極に接触させ、電極の表面に集めた銀微粒子を電気化学的に酸化する工程と、測定溶液中の銀イオンを電気化学的に還元して電極の表面に銀を析出させる工程と、電極の表面に析出した銀を電気化学的に酸化する際の電流を測定溶液中で測定する工程とを有し、測定溶液が塩素イオンを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的測定方法を利用した銀イオンの測定方法及び被検物質の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体関連物質を測定する方法としては、例えば抗原抗体反応等のように被検物質を特異的に認識する物質との相互作用を利用する方法が知られており、金属ナノ粒子と呼ばれる粒径1nm〜100nm程度の金属微粒子を標識物質として用いることがある。金属ナノ粒子の中でも最も頻繁に用いられているのは金ナノ粒子であり、例えば特許文献1においては、金コロイド粒子を化学的処理によって溶出させ、アノーディックストリッピングボルタンメトリー法により金の酸化に関連づけられるピーク電流を測定することが記載されている。
【0003】
一方、金ナノ粒子上に銀を析出させ、シグナルを増強(エンハンスメント)してさらなる高感度化を図る方法も存在する。非特許文献1には、金コロイド標識二次抗体をマイクロウェル内に結合させ、ハイドロキノンと銀イオンとを含む溶液を用いて金コロイド表面に銀を堆積させ、HNO溶液で銀を溶出させた後、0.6M KNO/0.1M HNO中でアノーディックストリッピングボルタンメトリーにより銀の電気化学的酸化に対応するピーク電流を測定することが記載されている。
【特許文献1】特表2004−512496号公報
【非特許文献1】J Immunol Methods. 301 (2005) 77-88
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、金ナノ粒子だけでなく銀ナノ粒子の標識物質としての利用に注目が集まっている。非特許文献1では、0.6M KNO/0.1M HNO溶液中で銀イオンを電気化学的に酸化し、その電流を測定しているが、この方法により得られる銀の電気化学的酸化ピークはブロードであるため、感度の向上には限界がある。
【0005】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、測定溶液中の銀イオンを高感度に測定することが可能な銀イオンの測定方法を提供することを特徴とする。また、本発明は前記銀イオンの測定方法を利用した被検物質の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の目的を達成するために、本発明に係る銀イオンの測定方法は、銀イオンを含有する可能性のある測定溶液を電極に接触させ、前記電極の表面に電気化学的に銀を析出させる工程と、前記電極の表面に析出した銀を電気化学的に酸化する際の電流を前記測定溶液中で測定する工程とを有し、前記測定溶液が塩素イオンを含有することを特徴とする。
【0007】
銀イオンと塩素イオンを含有する測定溶液を用いて銀を電気化学的に還元した後、酸化電流を測定すると、銀の酸化電流のピーク形状がシャープとなり、検出感度の向上が図られる。塩素イオンと銀イオンとは難溶解性の塩化銀等を生成することから、銀イオンの測定に際して塩素イオンを共存させることは禁忌であるとこれまで考えられてきた。しかしながら、本発明者らの検討の結果、ただちに難溶解性の塩化銀が生成するわけではないことが実験により確認された。また、銀−塩化銀電極が溶液中の塩素イオン、銀イオンと可逆応答し、しかも流れる電流で電位がほとんど変化しない特性を持つことから示唆されるように、銀の付着した電極上で銀をイオン化させる際、塩素イオン中ではほとんど電位が変化しないシャープなピークとなることが示され、高感度な検出が可能となった。
【0008】
また、本発明に係る被検物質の測定方法は、生物学的相互作用を利用して標識物質としての銀微粒子を電極の表面に集める工程と、測定溶液を前記電極に接触させ、前記電極の表面に集めた前記銀微粒子を電気化学的に酸化する工程と、前記測定溶液中の銀イオンを電気化学的に還元して前記電極の表面に銀を析出させる工程と、前記電極の表面に析出した銀を電気化学的に酸化する際の電流を前記測定溶液中で測定する工程とを有し、前記測定溶液が塩素イオンを含有することを特徴とする。
【0009】
以上のような測定方法では、標識物質として用いた銀微粒子を銀イオンとして溶出させ、塩素イオンを含有する測定溶液中で銀を電気化学的に還元した後、酸化電流を測定することにより、銀の酸化電流のピーク形状がシャープとなり、検出感度の向上が図られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塩素イオンを含有する測定溶液を用いることにより、例えばKNO及びHNO等を含有するような従来の溶液を用いる場合に比べてシャープなシグナルが得られることから、感度の向上を図ることができる。これにより、銀微粒子の標識物質としての需要の拡大を図ることが可能となる。また、類似の測定条件を採用可能な金微粒子と併用することにより、同一系内で複数の被検物質の同時測定が可能となる。さらには、銀によるエンハンスメント後の銀イオンの測定も可能であることから、既存の測定方法の高感度化を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を適用した銀イオンの測定方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
先ず、少なくとも塩素イオンを含有し、銀イオンを含有する可能性のある測定溶液を用意する。測定溶液の調製方法は任意であるが、例えば銀イオンを含む可能性のある溶液と、塩酸、塩化カリウム、塩化ナトリウム等のような塩素イオンの供給源とを混合すればよい。中でも塩酸を用いることが好ましい。前記測定溶液における塩素イオン濃度は、0.05N〜0.2Nとすることが好ましい。銀イオンを含有する可能性のある溶液としては、銀イオンを含有する可能性のあるものであれば特に限定されず、例えば排水等から採取した試料溶液、銀ナノ粒子と呼ばれる粒径1nm〜100nm程度の銀微粒子等の銀を溶出させた溶液等を任意に用いることができる。
【0013】
銀ナノ粒子等の銀微粒子を銀イオンとして溶出させるための処理は、電気化学的処理、化学的処理等の公知の方法を採用することができる。しかしながら、銀微粒子の測定を行う場合、電気化学的処理によることが好ましい。後述するような銀の酸化電流測定と同一の電極上で一連の操作を完了でき、測定操作を簡略化できるからである。また、銀ナノ粒子の表面を覆う分散剤や測定溶液又は電極表面に吸着した蛋白質等の夾雑物のシグナルへの影響が電気化学的酸化によって排除され、さらなる高感度化を実現することもできるからである。
【0014】
電気化学的処理により銀ナノ粒子を溶出させる場合、銀ナノ粒子を電極表面に集めた後、電極に銀が電気化学的に酸化する電位を印加する。例えば、銀−塩化銀参照電極に対して1V〜1.5Vの電位を電極に印加し、この電位を10秒〜60秒程度維持する。これらの電位をかける時間は、銀微粒子の粒径が10nm以下と小さい時には10秒〜20秒程度、それより大きい場合は20秒〜40秒程度と、その粒径により増減させると良い。銀を電気化学的に酸化する際、銀が電気化学的に酸化する電位を一定に保持してもよいし、時間経過に伴い変化させてもよい。
【0015】
銀ナノ粒子等の銀微粒子を集めて電極表面に局在させる方法は特に制限されないが、銀微粒子を含む溶液を平坦な表面を有する電極上に滴下した後乾燥させる方法、生物学的相互作用を利用する方法等が例示される。
【0016】
次に、電極に銀が電気化学的に還元する電位を印加することにより、測定溶液中の銀イオンを電気化学的に還元し、電極上に析出させる。本発明の測定方法により銀イオンを定量する場合には、この工程において測定溶液に含有される実質的に全ての銀イオンを電極表面に析出させることが好ましい。例えば、銀−塩化銀参照電極に対して−1.5V〜−0.8Vの電位を電極に印加し、この電位を10秒〜60秒程度維持する。なお、測定溶液中の銀イオン濃度が極めて薄い場合には、例えば1時間〜24時間とさらに長時間前記電位を維持してもよい。銀を電気化学的に還元する際、銀が電気化学的に還元する電位を一定に保持してもよいし、時間経過に伴い変化させてもよい。
【0017】
次に、電極表面に析出させた銀を電気化学的に酸化し、その酸化電流を測定する。例えば、電極の電位を正方向に変化させていき、電位変化に伴う電流変化を測定する。測定される電流、例えば酸化ピーク電流に基づいて、銀イオンの有無又は濃度を測定できる。電気化学的に酸化する際に生じる電流を測定する方法としては、例えば、微分パルスボルタンメトリー、サイクリックボルタンメトリー等のボルタンメトリー、アンペロメトリー、クーロメトリー等が挙げられる。
【0018】
以上のような測定方法によれば、銀の酸化電流を測定する際に塩素イオンを含有する測定溶液を用いることで、従来用いられている硝酸水溶液等に比較して、シャープな形状の酸化電流ピークが得られる。よって、銀イオンの測定感度の向上を図ることができる。なお、銀微粒子を直接電気化学的に酸化し、このときの酸化電流を指標として銀微粒子を測定することも可能ではあるものの、銀微粒子を構成する分散剤等に由来するノイズが信号に混入するおそれがある。これに対して、本発明の測定方法によれば、銀微粒子を一旦溶出させ、電極表面に析出させた後の酸化電流を測定することにより、前記ノイズの影響が排除されて鋭敏なシグナルが得られ、高感度化を実現することができる。
【0019】
以下、上述の銀イオンの測定方法を免疫測定法に応用した例について、図1を参照して説明する。なお、上述の説明と重複する説明は省略する。
【0020】
先ず、例えば、作用極、対極及び参照極が同一面上に形成されたプレナー型電気化学デバイスを用意する。平面形状が略円形状を呈する作用極1の表面に、被検物質(抗原)3を認識する一次抗体2を固定する。電極表面は非特異吸着を防ぐためにブロッキングする。また、被検物質3上の異なる部位を認識する二次抗体4を用意し、これに銀微粒子5として銀ナノ粒子を標識することにより標識抗体を用意しておく。
【0021】
次に、前記標識抗体及び未知量の被検物質3を含む溶液を同時又は別個に作用極1の表面に供給し、一次抗体2と接触させ、作用極1上で抗原抗体反応を行う。標識抗体が被検物質3を介して一次抗体2に結合することにより、被検物質3の濃度に対応した量の銀微粒子5が作用極1の表面に集められた状態となる(図1(a))。その後、作用極1の表面を必要に応じて洗浄する。
【0022】
次に、作用極1、対極及び参照極と、電気化学的測定用の溶液とを接触させ、作用極1の表面に集めた銀微粒子5を電気化学的に酸化し、銀イオン等として溶出させる(図1(b))。本発明においては、電気化学的測定用の溶液として、例えば塩酸のような塩素イオンを含有する溶液を用いる。
【0023】
銀微粒子5を電気化学的に酸化し溶出させた後、作用極1に銀を電気化学的に還元する電位を印加する。これにより、作用極1の表面に銀が析出する(図1(c))。
【0024】
次に、作用極1の表面に析出させた銀を電気化学的に酸化し、その酸化電流を測定する。この測定結果を指標として、被検物質の有無又は濃度を測定する(図1(d))。
【0025】
以上のような測定方法においては、銀微粒子5の溶出から酸化電流測定に至るまでの一連の工程を、塩酸等の塩素イオンを含有する溶液中で一貫して行うことにより、測定溶液として硝酸等を用いる場合に比べて鋭敏なシグナルが得られ、被検物質の高感度測定が可能となる。また、銀微粒子5を一旦溶出させ、作用極1表面に析出させた後の酸化電流を指標とすることにより、銀微粒子5を被覆する分散剤や作用極1上に固定した抗体等に由来するノイズの混入を防止してシャープなシグナルを得ることができる。さらには、銀微粒子5の溶出を電気化学的酸化により行うことによって、銀微粒子5を作用極1上に集めた後、溶液の移し替え等の作業を要することなく同じ電極(作用極1)上で全ての操作を行うことができるため、簡単に測定を行うことができる。
【0026】
以上、標識物質として銀微粒子1種類のみを用いて1種類の被検物質を電気化学的に測定する方法について説明したが、本発明の銀イオンの測定方法は、複数種類の標識物質を用いた複数種類の被検物質の測定に応用することも可能である。以下、標識物質として銀微粒子と金微粒子とを用い、2種類の被検物質を免疫測定法により測定する方法を例に挙げ、図2を参照して説明する。なお、銀微粒子以外の金属微粒子として、金ナノ粒子等の金微粒子の他、白金微粒子等、他の金属微粒子を用いることも可能である。
【0027】
先ず、前述の銀微粒子のみを用いた測定と同様の、プレナー型電気化学デバイスを用意する。作用極1の表面には、一方の被検物質3aを認識する第1の一次抗体2aと、他方の被検物質3bを認識する第2の一次抗体2bとを固定する。
【0028】
また、被検物質3a、3bの異なる部位を認識する二次抗体として、第1の二次抗体4aと第2の二次抗体4bとを用意し、一方を銀微粒子5としての銀ナノ粒子で、他方を金微粒子6としての金ナノ粒子で標識して標識抗体を作製する。
【0029】
次に、銀微粒子5及び金微粒子6を用いた2種類の標識抗体と、未知量の被検物質3a、3bを含む溶液を作用極1の表面に同時に又は別個に供給し、第1の一次抗体2a及び第2の一次抗体2bと接触させ、作用極1上で抗原抗体反応を行う。これにより、被検物質3a濃度に対応した量の銀微粒子5及び被検物質3b濃度に対応した量の金微粒子6が作用極1表面に集められる(図2(a))。
【0030】
次に、作用極1、対極及び参照極と、電気化学測定用の測定溶液とを接触させ、作用極1の表面に集めた銀微粒子5及び金微粒子6を電気化学的に酸化し、溶出させる(図2(b))。本発明においては、電気化学的測定用の溶液として、例えば塩酸のような塩素イオンを含有する溶液を用いる。電気化学的な酸化に際しては、銀微粒子5のみならず金微粒子6も溶出するような電位を印加する。
【0031】
銀微粒子5及び金微粒子6を電気化学的に酸化し溶出させた後、作用極1の電位を正方向に変化させていき、作用極1の表面に金及び銀を析出させるとともに、金微粒子6の溶出物である錯イオン等の還元電流を測定する(図2(c))。この測定結果を指標として、金微粒子6が結合した被検物質3bの有無又は濃度を知ることができる。なお、引き続き銀イオンの定量を行うことから、この工程において測定溶液に含有される実質的に全ての銀イオンを電極表面に析出させるような電位制御を行うことが好ましい。
【0032】
次に、作用極1の表面に析出させた銀を電気化学的に酸化し、その酸化電流を測定する(図2(d))。測定された酸化電流を指標として、銀微粒子5bが結合した被検物質3aの濃度を測定する。
【0033】
以上のような被検物質の測定方法によれば、銀微粒子5の電気化学的溶出から酸化電流測定に至るまでの一連の工程の途中で、金微粒子6に由来する還元電流の測定を実現することができる。すなわち、複数種類の被検物質の高感度測定を簡単な操作で同時に実現できる。特に、標識物質として金微粒子を用いる場合、作用極表面での電気化学的酸化を経て還元電流測定を行うことにより、酸化電流を測定する場合に比較してノイズの影響が抑えられ、金の正確な測定を行うことができる。
【0034】
なお、以上の実施形態の説明においては、本発明の銀イオンの測定方法を、標識物質として銀微粒子を用いた免疫測定法に応用した例について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、銀イオンを測定する工程を含む測定方法全般に応用可能である。例えば、金ナノ粒子等の金微粒子を標識物質として免疫測定法を行った後、還元剤と銀イオンと含む溶液を用いて金微粒子の表面に銀を堆積させ、堆積した銀を測定することによりシグナルを増強させる方法に応用することも可能である。
【0035】
また、本実施形態においては標識物質である銀微粒子を電極の表面に集めるために抗原抗体反応を利用したが、これに限定されない。例えば、核酸−核酸、核酸−核酸結合タンパク質、レクチン−糖鎖、又はレセプター−リガンドの特異的結合を利用してもよい。すなわち、本発明の銀イオンの測定方法は、例えば銀微粒子を標識物質として用いたDNA検出方法等、生物学的相互作用を利用した測定方法全般に応用可能である。
【0036】
また、前述の説明では、銀微粒子を溶出させた直後の溶液を測定溶液としたが、銀ナノ粒子を溶出させた直後の溶液を電極表面に接触させて電気化学的に酸化し、還元した後、再度酸化したものを測定溶液としてもよい。さらに、酸化と還元とを複数回繰り返したものを測定溶液としてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について実験結果に基づき説明する。
【0038】
(実験1)
本実験では、測定溶液について比較検討を行った。
銀ナノ粒子を含む溶液を平板状の電極上に滴下して乾燥させることにより、電極の表面に銀ナノ粒子を吸着させた。次に、銀ナノ粒子が吸着した電極上に0.1規定の塩酸水溶液を滴下した。次に前処理として、銀−塩化銀参照電極に対して電極の電位を+1.3Vに10秒間保持し、続けて−1.0Vで10秒間保持した。次に、微分パルスボルタンメトリー(DPV)により、電極電位を−0.4Vから+0.4Vへ変化させていき、電位変化に対する電流変化を測定した。また、比較例として、0.1規定の塩酸水溶液に代えて、0.1規定の硝酸水溶液を用い、前述した条件で前処理及び微分パルスボルタンメトリーを行った。結果を図3に示す。
【0039】
図3から明らかなように、塩素イオンを含有する測定溶液を用いると、ピーク形状がシャープになり、他のシグナルとの区別が容易になった。したがって、塩素イオンを含有する測定溶液を用いることにより、従来のボルタンメトリー法で用いられる硝酸等に比較して、測定感度の向上が可能となることが示された。
【0040】
(実験2)
本実験では、本発明の測定方法の定量性について検討を行った。
先ず、平板状の印刷電極上に各種濃度の銀ナノ粒子溶液を滴下し乾燥させた後、実験1と同様にして前処理及び微分パルスボルタンメトリーを行った。結果を図4に示す。図4から明らかなように、電極上の銀量とDPVの酸化ピーク電流値は良く相関した。すなわち、本発明の方法により銀イオンの定量が可能であることが示された。
【0041】
(実験3)
本実験では、測定溶液中の塩素イオン濃度の影響について調べた。
銀ナノ粒子が吸着した電極上に、測定溶液として、0.1規定の塩酸水溶液、1M 塩化ナトリウム水溶液で調製した0.1規定の塩酸水溶液、又は、飽和塩化カリウム水溶液で調製した0.1規定の塩酸水溶液のいずれかを滴下した。これ以外は、実験1と同様にして前処理及び微分パルスボルタンメトリーを行った。結果を図5に示す。図5より、塩素イオン濃度が高すぎると、銀の検出が難しくなる傾向が示された。
【0042】
(実験4)
本実験では、銀ナノ粒子が吸着した電極について、以下のような前処理を行った後、実験1と同様の条件で微分パルスボルタンメトリーを行った。結果を図6に示す。図6より、本発明の方法によって高感度な測定が可能となることが示された。
(1)銀−塩化銀参照電極に対して電極の電位を+1.3Vに10秒間保持し、続けて−1.0Vで10秒間保持した。(本発明)
(2)前処理を行わなかった。(比較例)
(3)銀−塩化銀参照電極に対して電極の電位を+1.3Vに10秒間保持した。(比較例)
(4)銀−塩化銀参照電極に対して電極の電位を−1.0Vで10秒間保持した。(比較例)
【0043】
(実験5)
本実験では、サンドイッチ型免疫測定法のモデル抗原としてヒトゴナドトロピン(hCG)を選び、その電気化学的検出を試みた。標識物質として銀ナノ粒子を用いた。作用極の表面に一次抗体(抗α−サブユニット抗体)を固定した印刷電極を用いて、リン酸緩衝液で希釈したhCGを特異的に捕集し、そのhCGに銀ナノ粒子で標識した二次抗体(抗hCG抗体)を結合させ、銀ナノ粒子の量を電気化学的に測定することにより、試料中のhCGの濃度を調べた。
【0044】
1. 電極への一次抗体の固定化
測定用の電極デバイスとしては、図7に示すような、作用極(カーボン)11、対極(カーボン)12、参照極(Ag/AgCl)13を有するプレナー型の印刷電極デバイス(長さ11mm、幅3mm)を用いた。濃度100μg/mLに調製した一次抗体(抗α−サブユニット抗体)溶液を作用極上に2μL滴下し、4℃の冷暗所で12時間以上静置することにより、抗α−サブユニット抗体を作用極の表面に固定した。リン酸緩衝液を用いて印刷電極デバイスを洗浄後、0.1%のウシ血清アルブミンでブロッキングを行った。
【0045】
2. 抗原抗体反応の実施
被検物質としてのhCGを0.1%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝液で希釈することにより、hCGの濃度が0ng/mL、1ng/mL、10ng/mLとなるように溶液を調製した。それらの溶液を、一次抗体の固定及びブロッキングを行った前記作用極上に2μL滴下し、室温で30分静置することにより、一次抗体にhCGを結合させた。その後、リン酸緩衝液を用いて印刷電極デバイスを洗浄した。
【0046】
次に、銀ナノ粒子標識二次抗体(抗hCG抗体)を含有する溶液を前記処理した作用極上に2μL滴下し、室温で30分静置することにより、捕集されたhCGに二次抗体を結合させた。その後、リン酸緩衝液を用いて印刷電極デバイスを洗浄した。
【0047】
3. 電気化学測定
0.1規定の塩酸水溶液30μLを、プレナー型印刷電極の各電極部分の全面が完全に覆われるように前記処理した印刷電極デバイス上に滴下した。次いで、参照電極に対し作用極の電位を+1.3Vに10秒間保持し、続けて−1Vで10秒間保持した。
【0048】
次に微分パルスボルタンメトリーにより、作用極の電位を−0.4Vから0.4Vへ変化させていき、電位変化に対する電流変化を測定した。電位に対する電流変化の特性図を図8に示す。図8に示したように、0V付近に銀の酸化に伴う電流ピークが得られている。
【0049】
また試験溶液中のhCGとピーク電流値との関係を図9に示す。図9より、hCGの濃度が高くなるにつれて電流値も増加する傾向が認められた。このように、二次抗体に標識された銀ナノ粒子の量を、塩素イオンを含有する測定溶液中で電気化学的に測定することにより、被検溶液中のhCG濃度を測定することが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の銀イオンの測定方法の応用例を説明するための模式図である。
【図2】本発明の銀イオンの測定方法の他の応用例を説明するための模式図である。
【図3】実験1の結果を示す特性図である。
【図4】実験2の結果を示す特性図である。
【図5】実験3の結果を示す特性図である。
【図6】実験4の結果を示す特性図である。
【図7】実験5で用いた印刷電極デバイスの概略平面図である。
【図8】実験5での微分パルスボルタンメトリーの結果を示す特性図である。
【図9】実験5のhCGとピーク電流値との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0051】
1 作用極、2 一次抗体、3 被検物質(抗原)、4 二次抗体、5 銀微粒子、6 金微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンを含有する可能性のある測定溶液を電極に接触させ、前記電極の表面に電気化学的に銀を析出させる工程と、
前記電極の表面に析出した銀を電気化学的に酸化する際の電流を前記測定溶液中で測定する工程とを有し、
前記測定溶液が塩素イオンを含有することを特徴とする銀イオンの測定方法。
【請求項2】
前記測定溶液は、前記電極の表面に集めた銀微粒子を塩素イオンを含有する溶液中で電気化学的に酸化することにより作製したものであることを特徴とする請求項1記載の銀イオンの測定方法。
【請求項3】
前記塩素イオンを含有する溶液は塩酸であることを特徴とする請求項2記載の銀イオンの測定方法。
【請求項4】
前記電極の表面に銀を析出させる工程において、前記測定溶液に含有される銀以外の金属イオンを電気化学的に還元する際の電流を測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の銀イオンの測定方法。
【請求項5】
生物学的相互作用を利用して標識物質としての銀微粒子を電極の表面に集める工程と、
測定溶液を前記電極に接触させ、前記電極の表面に集めた前記銀微粒子を電気化学的に酸化する工程と、
前記測定溶液中の銀イオンを電気化学的に還元して前記電極の表面に銀を析出させる工程と、
前記電極の表面に析出した銀を電気化学的に酸化する際の電流を前記測定溶液中で測定する工程とを有し、
前記測定溶液が塩素イオンを含有することを特徴とする被検物質の測定方法。
【請求項6】
前記標識物質として銀微粒子と銀以外の金属微粒子とを用い、
前記電極の表面に集めた前記銀微粒子を電気化学的に酸化する工程において、前記金属微粒子も電気化学的に酸化するとともに、
前記電極の表面に電気化学的に銀を析出させる工程において、前記測定溶液に含有される前記金属微粒子の酸化物を電気化学的に還元する際の電流を測定することを特徴とする請求項5記載の被検物質の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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