説明

銀インゴットの製造方法及び坩堝装置

【課題】塩素含有量の低い銀インゴットを製造する銀インゴットの製造方法を提供する。
【解決手段】坩堝4で、銀粉8を連続的又は断続的に坩堝4に投入し、少なくとも熔融銀10を木炭9で覆った状態で銀粉8を加熱熔融する熔融工程と、銀粉8が全て熔融した状態の熔融銀10の表面が木炭9で覆われた状態で熔融銀10を坩堝4で保持する第1の保持工程と、木炭9を坩堝4から除去し、熔融銀10を鋳型に鋳造する鋳造工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有量の低い銀インゴットの製造方法及びこの銀インゴットの製造方法に用いられる坩堝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銀インゴットは、銅、鉛等を精錬する過程の一つである電解精製工程で発生するアノードスライムから分離精製された銀粉を熔融し鋳造することで製造される。アノードスライムから銀粉を分離精製する方法として、近年、環境面や作業面で優れている湿式法が採用されている。
【0003】
しかし、湿式法により得られる銀粉は、未還元の塩化銀による微量の塩素を含有しており、塩素の除去が不十分であると銀インゴットの表面が白濁し、低品質のものが出来てしまう。
【0004】
そこで、特許文献1に示すように、銀粉に固体状態の酸化カルシウムを添加して黒鉛坩堝で加熱熔融し、塩化銀蒸気と酸化カルシウムとの反応によって生成した塩化カルシウムを熔融した銀から分離除去する方法が提案されている。
【0005】
特許文献1に記載の方法では、銀粉を加熱熔融する際に、塩化銀蒸気と固体状態の酸化カルシウムとの反応を効率的に進行させるために、還元性雰囲気を維持する必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、処理する銀粉を予め坩堝に全て投入してから加熱熔融しているため、銀粉の処理規模が大きい場合には銀粉を加熱熔融する際に還元性雰囲気を維持するのが難しく、塩化銀蒸気と酸化カルシウムとを反応させて塩素品位を効率的に低減するのが難しいという問題があった。また、特許文献1に記載の方法では、大量の熔融銀に対して酸化カルシウムが混ざりにくく、酸化カルシウムが塩化銀に対して局部的にしか作用しないため、熔融銀の塩素品位を効率的に低減するのが難しい。さらに、特許文献1に記載の方法では、酸化カルシウムと熔融銀との分離が困難であり手間がかかっていたため、作業効率が低下してしまっていた。
【0007】
また、銀は、一般に、熔融状態で多量の酸素を吸収し、凝固の際に吸収した酸素を放出する性質があることが知られている。銀が凝固する際に酸素の放出が不十分であると、銀中に酸素が多く溶存してしまう。銀中の溶存酸素が多い場合、銀インゴットは、表面から内部に至るまで気泡が残る状態となり、低品質なものとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−224341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、溶存酸素を少なくし、銀インゴットの塩素品位を効率的に低減することができる銀インゴットの製造方法及び坩堝装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る銀インゴットの製造方法は、銀粉から塩素成分を除去して銀インゴットを製造する銀インゴットの製造方法において、上記銀粉が連続的又は断続的に坩堝に投入され、少なくとも該銀粉が熔融した状態の熔融銀を木炭で覆った状態で加熱熔融する熔融工程と、上記熔融銀の表面が上記木炭で覆われた状態で該熔融銀を上記坩堝で保持する保持工程と、上記木炭を上記坩堝から除去し、上記熔融銀を鋳型に鋳造する鋳造工程とを有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る銀インゴットの製造方法は、上記保持工程では、上記木炭が燃え尽きる前に該木炭を上記坩堝から除去した後に再び上記熔融銀の表面が木炭で覆われるように木炭を該坩堝に投入する。
【0012】
また、本発明に係る坩堝装置は、木炭が投入された坩堝と、上記坩堝が加熱室に載置される炉体と、投入口を有し、該投入口が上記坩堝内に挿入され、該投入口から上記坩堝内に銀粉を投入する投入機と、上記炉体に設けられ、上記坩堝を加熱することで上記銀粉を加熱熔融する加熱ヒータと、上記炉体及び/又は上記投入機に設けられ、上記坩堝の底面と上記投入口とが離間するように該炉体及び/又は該投入機を昇降させる昇降手段とを備え、上記坩堝内では、上記投入された銀粉が上記加熱ヒータにより加熱熔融され、該銀粉が熔融した状態の熔融銀が上記木炭で覆われた状態にあり、上記昇降手段が上記坩堝の底面と上記投入機の投入口とを離間させることに伴い、該投入口から該銀粉が投入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熔融銀中の塩素品位を効率的に低減するとともに熔融銀に溶存する酸素を除去できるため、白濁せず表面状態の良い銀インゴットを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態で使用する坩堝装置の縦断面図である。
【図2】銀インゴットの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】熔融工程を説明するための模式図であり、(A)は、熔融開始時の状態を示す図であり、(B)は、投入された銀粉が熔融している状態を示す図であり、(C)は、投入された全ての銀粉が熔融した状態を示す図である。
【図4】保持工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態とする)について図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態に係る銀インゴットの製造方法では、後に詳述するように、図1に示すような坩堝装置1が用いられる。本実施の形態に係る銀インゴット製造方法では、熔融銀に酸素が溶存することを防止するとともに、既に熔融銀に溶存している酸素を確実に除去しながら、熔融銀中の塩素品位を効率的に低減する。
【0016】
本実施の形態に係る銀インゴットの製造方法に用いられる坩堝装置1は、図1に示すように、予め木炭9が投入された坩堝4と、坩堝4が周壁2aと床面2bとによって囲まれた加熱室11内に載置される炉体2とを備える。また、坩堝装置1は、坩堝4に銀粉8を投入する投入機5と、坩堝4に投入された銀粉8を加熱熔融する加熱ヒータ6と、投入機5に対して炉体2を昇降移動させる昇降手段12とを備える。
【0017】
坩堝装置1の炉体2は、上端2cが開口された略円筒状の周壁2aと、この周壁2aの下端2dに取り付けられた床面2bとにより、全体が有底筒状に形成されている。炉体2は、耐熱性を有する金属材料から形成され、周壁2aの内周面2e、床面2bに断熱材及び耐火材が取り付けられている。炉体2には、周壁2a及び床面2bにとり囲まれる空間に加熱室11が形成される。この加熱室11には、坩堝4が載置される。具体的には、炉体2には、床面2bに設けられる坩台3上に坩堝4が載置される。この坩台3は、円盤形状を有し、耐熱性材料から形成されている。また、炉体2は、その周壁2a内部に加熱ヒータ6が設けられ、加熱室11内を加熱する。炉体2には、周壁2aの上端2cから投入機5が加熱室11内の坩堝4に挿入されている。そして、投入機5からの被熔融物である銀粉8は、加熱室11内の坩堝4に投入される。
【0018】
炉体2は、例えば240kgの被熔融物である銀粉8を収容することができる大きさの坩堝4を加熱室11に収納できる大きさである。炉体2の周壁2aの内周面2e及び床面2bに取り付けられる図示しない断熱材は、例えば、断熱煉瓦、セラミックファイバー質のフェルト、断熱ボード、モルタル等である。また、炉体2の周壁2aの内周面2e及び床面2bに取り付けられる図示しない耐火材は、例えば耐火煉瓦、キャスタブル耐火物等である。
【0019】
炉体2の加熱室11に載置される坩堝4は、耐熱性を有する全体が有底筒形状からなり、耐熱性材料により形成されている。坩堝4は、例えば黒鉛で形成されている。黒鉛製の坩堝4は、その内部を還元性雰囲気に保持することができる点で好ましい。坩堝4は、全体が炉体2の加熱室11内に収納される大きさである。また、坩堝4は、その外径が炉体2の周壁2aの内径よりやや小径に形成されている。なお、坩堝4は、黒鉛製に限らず、内部を還元性雰囲気に保つことができるものであれば、例えばセラミックス製のものであってもよい。また、坩堝4は、上述のような形状に限らず、坩堝4内と外気との接触を抑制できるものであれば、例えば、上端2cの開口の面積が床面2bの面積より小さい先窄み形状であってもよい。また、坩堝装置1には、炉体2の周壁2aと坩堝4との間隙を埋める固定ブロック7が設けられている。この固定ブロック7は、例えば、耐火煉瓦、キャスタブル耐火物等からなり、坩堝4を炉体2の加熱室11内に固定する。
【0020】
坩堝4の上部に配設される投入機5は、銀粉8が投入されるホッパー部13と、このホッパー部13の底部13aに設けられ、坩堝4に銀粉8を導出する導出管14とから構成されている。投入機5においては、ホッパー部13に被熔融物である銀粉8が投入され、この銀粉8が導出管14を下って坩堝4内に投入される。
【0021】
投入機5のホッパー部13は、内部に銀粉8を収容できる略直方体形状を有し、底部13aに貫通孔13bが形成されている。この底部13aの貫通孔13bには、導出管14が連結され、ホッパー部13の内部と導出管14の内部とが連通されている。導出管14は、上端14aがホッパー部13の貫通孔13bに連結され、下端14bが坩堝4の底部4a近傍に位置する管状部材からなる。導出管14は、上端14a側がホッパー部13に向かって拡径するテーパ状に形成されている。導出管14は、このテーパにより、効率よくホッパー部13内の銀粉8を導出管14内に導く。導出管14は、下端14bが坩堝4の底部4a近傍に位置し、後述する昇降手段12により坩堝4が降下動作されることに伴い、下端14bと坩堝4の底部4aとが離間し、ホッパー部13内の銀粉8が導出される。
【0022】
このように投入機5は、坩堝4上部にホッパー部13が配設され、導出管14の下端14bが坩堝4の底部4a近傍に位置する。投入機5は、導出管14にバルブ等の供給量を調整する機構が設けられておらず、常にホッパー部13内の銀粉8が導出管14を下って坩堝4内に投入される状態にある。そして、後述する昇降手段12が降下し、下端14bと底部4aとの距離が離間されることに伴い、さらに銀粉8が投入されるようになっている。すなわち、投入機5は、昇降手段12の昇降動作により、所定量の銀粉8が坩堝4内に投入される。なお、投入機5は、図示しない配設手段により坩堝4上部に配設される。また、投入機5は、坩堝4内に銀粉8が投入された後、熔融銀を鋳造できるように、図示しない退避手段により導出管14が坩堝4内から退避される。
【0023】
加熱ヒータ6は、炉体2の周壁2aに設けられ、加熱室11を加熱する。具体的には、加熱ヒータ6は、加熱室11内の坩堝4を加熱することで、坩堝4に投入された銀粉8を加熱熔融する。加熱ヒータ6は、坩堝4内の温度を調節することができるもの、例えば、高純度炭化ケイ素からなるシリコニット(登録商標)である。このように炉体2は、シリコニットからなる加熱ヒータ6を備えることで、電気炉を構成する。なお、加熱ヒータ6は、上述のように、シリコニットに限らず、温度調整を図ることができるヒータであれば、いかなるものであってもよい。
【0024】
炉体2を昇降する昇降手段12は、炉体2の床面2bに接続される油圧シリンダである。この昇降手段12は、炉体2と投入機5とを近接離間させる。昇降手段12は、坩堝4の底部4aと投入機5の導出管14の下端14b(投入口)とを離間させることで、投入機5内の銀粉8が坩堝4内に投入されるようにする。なお、昇降手段12は、上述のような油圧シリンダに限らず、他の昇降手段であってもよい。また、昇降手段12は、上述のように、炉体2に接続され、炉体2を移動させることに限らず、例えば、投入機5に接続し、炉体2と投入機5とを近接離間させるものであってもよい。さらに、昇降手段12は、炉体2及び投入機5のそれぞれに接続され、互いに離間するようにするものであってもよい。
【0025】
坩堝装置1において加熱熔融され、銀インゴットの製造に用いられる銀粉8は、特に限定されるものではないが、例えば、銀の精錬プロセスから得られる塩素を含有する。この銀粉8には、例えば、100ppm〜700ppm程度の塩素、具体的には、平均して200ppm程度の塩素が含有されている。
【0026】
また、坩堝装置1は、図1に示すように制御部20を有する。この制御部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)21及びメモリ22を備え、これらCPU21及びメモリ22が、バス24を介して接続されている。また、制御部20は、加熱ヒータ6及び昇降手段12と接続されており、加熱ヒータ6及び昇降手段12の動作を制御する。また、制御部20には、入力部23が接続されている。制御部20は、入力部23を介して、ユーザからの入力を受けつける。制御部20は、例えば、CPU21が、メモリ22に格納されているプログラム等により、ユーザが入力部23で入力した値に基づいて加熱ヒータ6の温度を制御する。また、制御部20は、ユーザによる入力部23での入力操作に基づいて、昇降手段12の昇降位置を制御する。
【0027】
このような構成を有する坩堝装置1は、銀粉8の熔融開始時に、坩堝4内に後述の熔融銀10の表面全体を覆う量の木炭9が予め投入されており、坩堝4内に投入機5から銀粉8が投入され、銀粉8の熔融を行う。このとき、坩堝装置1は、坩堝4の底部4aと投入機5の導出管14の下端14bとが昇降手段12により離間されることで、投入機5内から自動的に銀粉8が坩堝4内に少量投入される。坩堝4に投入される銀粉8の量は、昇降手段12の降下動作に基づくものであり、例えば、断続的に降下動作することで、銀粉8が断続的に投入される。また、昇降手段12が連続的に降下動作することで、銀粉8が連続的に投入される。また、昇降手段12の降下動作の降下速度を変えることで、時間あたりに投入される量も変わる、すなわち、降下速度を遅くすることで少量の銀粉8が投入されることとなる。なお、昇降手段12による銀粉8の投入量は、ホッパー部13に投入される全銀粉8の量及び銀粉8の熔融時間により加減される。
【0028】
坩堝装置1は、投入機5内から坩堝4内に投入された銀粉8を加熱ヒータ6により加熱して熔融銀10とするととともに、木炭9を加熱することで還元性ガス(例えば、一酸化炭素(CO))を発生させ、この還元性ガスによる還元雰囲気を坩堝4内に形成する。坩堝装置1は、坩堝4内に所定量投入された銀粉8と熔融銀10との固液混合状態の表面、詳細には、少なくとも熔融銀10を木炭9により覆うことで、木炭9と熔融銀10とを近接させ、熔融銀10の表面に還元雰囲気を形成することができる。このように、坩堝装置1は、銀粉8が全て熔融していない熔融過程にあっても、熔融銀10の表面近傍に還元性ガスによる還元雰囲気を形成することで、熔融銀10から発生する塩化銀蒸気を還元し、熔融銀10中の塩素品位を効率的に低減することができる。また、坩堝装置1は、熔融銀10の表面近傍に還元雰囲気を形成して熔融銀10から発生する塩化銀蒸気を還元することで、未還元の塩化銀蒸気が坩堝装置1の外部に放出されるのを防止することができる。さらに、坩堝装置1は、熔融銀10の表面近傍に還元雰囲気を形成することで、熔融銀10中に溶存する酸素を除去し、更なる酸素が熔融銀10に溶け込むことを防止することができる。
【0029】
次に、坩堝装置1を用いて熔融銀10の塩素品位を効率的に低減し、熔融銀10中に溶存する酸素を除去するとともに、大気中の酸素が熔融銀10に溶け込むのを防止できる銀インゴットの製造方法について、図2乃至図4を用いて説明する。
【0030】
まず、図2に示す熔融工程S1において、坩堝装置1は、初期状態として、坩堝4と投入機5とが近接した状態にある。具体的には、図3(A)に示すように、坩堝装置1は、投入機5の導出管14の下端14bと坩堝4の底部4aとが近接した状態にある。この図3(A)に示す状態のとき、坩堝装置1には、ホッパー部13に銀粉8が投入されている。ホッパー部13に投入された銀粉8は、導出管14内を通って、坩堝4の底部4aに溜まっている。このとき、坩堝装置1は、初期状態では、導出管14の下端14bと坩堝4の底部4aとの間に銀粉8が溜まっており、下端14bと銀粉8との間に空間がないため、投入機5から新たに銀粉8が坩堝4内に投入されることはない。そして、坩堝4内には、塩素成分を除去するための木炭9が予め投入されている。
【0031】
図3(A)に示す初期状態から、図2に示す熔融工程S1において、坩堝装置1は、加熱ヒータ6(図1を参照)により坩堝4内を加熱する。具体的に、制御部20(図1を参照)は、加熱ヒータ6の温度を、約1230〜1250℃に制御する。熔融工程S1においては、銀粉8を木炭9の共存下で加熱熔融する。このとき、図3(A)に示す初期状態で投入された木炭9は、熔融前の銀粉8と混ざり合った状態にあるが、銀粉8が熔融するにつれて、銀粉8と熔融銀10との固液混合状態となり、浮力により熔融銀10に浮上することとなる。すなわち、熔融銀10の表面近傍が、木炭9により覆われた状態となる。
【0032】
そして、熔融工程S1において、制御部20は、図3(B)に示すように、昇降手段12(図1を参照)を制御して炉体2を降下させ、投入機5の導出管14の下端14bと、坩堝4の底部4aとが離間するようにする。坩堝装置1は、このように導出管14の下端14bと、坩堝4の底部4aとが離間すると、下端14bと坩堝4内に投入されている銀粉8との間に空間が形成されるため、下端14bと坩堝4内の銀粉との間を埋めるように、ホッパー部13内の銀粉8が自動的に坩堝4内に投入される。
【0033】
熔融工程S1において、坩堝4内に投入された銀粉8は、加熱されて熔融銀10となり、銀粉8と熔融銀10との固液混合状態となる。熔融工程S1において、坩堝装置1は、制御部20により昇降手段12を制御して、導出管14の下端14bが熔融銀10と接触しないように炉体2を降下させることで、導出管14の下端14bと坩堝4の底部4aとを離間させて、銀粉8が所定量ずつ坩堝4内に投入されるようする。例えば、制御部20は、所定時間毎に昇降手段12により炉体2を降下させて、坩堝4に投入された銀粉8が全て熔融しないうちに銀粉8が断続的に坩堝4に投入するようにする。このとき、坩堝装置1は、銀粉8の熔融中であっても、銀粉8と熔融銀10との固液混合状態の表面に木炭9から発生する還元性ガスによる還元雰囲気を形成することで、銀粉8の熔融中であっても上述したように熔融銀10から酸素と塩素とを除去することができる。熔融工程S1において、ホッパー部13内の銀粉8は、最終的に全て坩堝4に投入され、図3(C)に示すように熔融銀10となる。なお、熔融工程S1において、制御部20は、上述したように断続的ではなく、連続的に銀粉8が投入されるように昇降手段12の動作を制御するようにしてもよい。
【0034】
図3(A)に示す初期状態で投入される木炭9としては、均一な燃焼時間となるように略均一の大きさのものが好ましい。また、木炭9は、例えば備長炭が用いられ、十分な燃焼時間を確保するための大きさであることが好ましい。また、木炭9は、銀粉8と混ざり合った状態で坩堝4に投入されたとしても、銀粉8が熔融することで対流が起こり、木炭9の浮力も合わさって、図3(C)に示すように熔融銀10の液面に滞留することとなる大きさであることが好ましい。木炭9は、熔融銀10の表面に滞留して熔融銀10の表面を覆うことで、加熱されて発生する還元性ガスによる還元雰囲気を坩堝4内に形成する。
【0035】
より詳細には、熔融工程S1において、坩堝装置1は、坩堝4内に所定量ずつ投入された銀粉8と熔融銀10との固液混合状態の少なくとも熔融銀10を木炭9により覆うことで、木炭9と熔融銀10とを近接させ、熔融銀10の表面近傍に還元雰囲気を形成する。坩堝装置1は、銀粉8の熔融中であっても、熔融銀10の表面近傍に還元雰囲気を形成することで、熔融銀10から発生する塩化銀蒸気を還元し、熔融銀10中の塩素品位を効率的に低減することができる。また、坩堝装置1は、熔融銀10の表面近傍に還元雰囲気を形成することで、熔融銀10中に溶存する酸素を除去し、更なる酸素が熔融銀10に溶け込むことを防止することができる。
【0036】
また、図3(A)に示す初期状態で投入される木炭9の投入量は、熔融銀10の表面全体を覆うことができる程度が好ましい。坩堝装置1は、かかる木炭9の投入量とすることで、銀粉8の熔融中であっても、銀粉8と熔融銀10との固液混合状態の表面に還元雰囲気を形成して熔融銀10から塩素と酸素とを同時に除去し、更なる酸素が熔融銀10に溶け込むことを防止することができる。
【0037】
なお、熔融銀10の表面全体を還元性雰囲気で保持できるものであれば、木炭に替えて、例えば、コークス、活性炭等の反応性の良い炭素、砂糖、殿粉等のように加熱熔融温度で炭素を生成する炭素含有化合物を用いてもよい。
【0038】
次に、図2に示す保持工程S2において、坩堝装置1で熔融銀10に溶存する酸素を除去するとともに塩素品位を低減するために、図3(C)に示す状態で熔融銀10を保持する。
【0039】
具体的に、保持工程S2としては、先ず図4に示すステップS10において、木炭9が燃え尽きる前に所定時間が経過したかどうかを判断する。具体的に、ステップS10において、坩堝4内の熔融銀10の表面全体が木炭9で覆われた状態で、加熱ヒータ6により1230〜1250℃の雰囲気で熔融銀10を所定時間保持する。ステップS10において、熔融銀10を加熱した状態を所定時間保持することによって、熔融銀10から塩素及び酸素を除去する。ここで、所定時間とは、脱酸素及び脱塩素がなされるまでの時間であり、経験則上導き出され、銀粉8の投入量と、投入した銀粉8に含有される塩素含有量とによって変動する。所定時間は、例えば銀粉8の投入量が240kgであり、銀粉8に含有される塩素含有量が200ppmである場合には、約30分である。なお、所定時間が経過したかどうかの判断は、例えば、熔融銀10から一部を取り出した熔融銀10を分析することによって行う。
【0040】
ステップS10において、木炭9が燃え尽きる前に、所定時間を経過したと判断した場合には、木炭9を熔融銀10から取り出すステップS3に進む。一方、ステップS10において、木炭9が燃え尽きる前に、所定時間が経過していないと判断した場合には、脱酸素及び脱塩素処理が不十分であるため、燃え尽きる前の木炭9を熔融銀10から取り出して、木炭9を入れ替えるステップS11に進む。
【0041】
ステップS11において、燃え尽きた木炭9を除去して新たな木炭9を坩堝4に投入する。具体的に、ステップS11において、熔融銀10の表面全体が木炭9で覆われた状態となる量の木炭9が坩堝4に投入される。
【0042】
ステップS12において、坩堝4内の熔融銀10の表面全体が木炭9で覆われた状態で、加熱ヒータ6により1100〜1150℃の雰囲気で熔融銀10を保持する。このように、ステップS12において、加熱温度を上述した1230〜1250℃から1100〜1150℃に下げることによって、後に詳述するステップS4において鋳造操作を行う際に適した温度とすることができる。
【0043】
ステップS13において、坩堝4での保持時間が、上述した所定時間を経過したかどうかを判断する。ステップS13において、所定時間が経過したと判断した場合には、ステップS3に進む。一方、ステップS13において、所定時間が経過していないと判断した場合には、ステップS12に戻る。
【0044】
ステップS3において、坩堝装置1は、坩堝4内の熔融銀10の表面に浮いている木炭9が掻き出される。そして、鋳造工程S4において、坩堝炉1は、傾けられることで坩堝4内の熔融銀10を鋳造する、すなわち、熔融銀10を鋳型に流し込み成形する。鋳造工程S4において鋳造された熔融銀10は、徐冷後、鋳型から外されることで、銀インゴットとなる。鋳造工程S4において、鋳造温度は、銀インゴットの鋳造操作が可能な温度であれば特に限定されるものではなく、例えば、鋳造後の銀インゴット表面が良好な状態となる銀の融点(962℃)直上近くが好ましい。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態に係る銀インゴットの製造方法において、銀粉8の熔融開始時に、坩堝4内に銀粉8とともに熔融銀の表面全体を覆う量の木炭9が投入され、銀粉8の熔融を行う。坩堝装置1は、坩堝4の底部4aと投入機5の導出管14の下端14bとを昇降手段12により離間することで、上述したように投入機5内から銀粉8が坩堝4内に所定量ずつ投入される。坩堝装置1は、坩堝4内に所定量ずつ投入された銀粉8と熔融銀10との固液混合状態の少なくとも熔融銀10を木炭9により覆うことで、木炭9と熔融銀10とを近接させ、熔融銀10の表面近傍に還元雰囲気を形成する。
【0046】
このように、坩堝装置1は、銀粉8の熔融中であっても、熔融銀10の表面近傍に還元雰囲気を形成することで、熔融銀10から発生する塩化銀蒸気を還元し、熔融銀10中の塩素品位を効率的に低減することができる。また、坩堝装置1は、銀粉8と熔融銀10との固液混合状態の少なくとも熔融銀10の表面近傍に還元雰囲気を形成することで、熔融銀10中に溶存する酸素を除去し、更なる酸素が熔融銀10に溶け込むことを防止することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例では、坩堝装置1において、5種類の還元銀粉を用いて図2及び図4に示す工程により銀インゴットを製造した。この5種類の還元銀粉は、それぞれ銅の電解精製工程で発生したロットが異なるアノードスライムから分離精製されたものであり、塩素含有量の平均が200ppmである。実施例では、坩堝4として、黒鉛製の坩堝(内径:310mm、高さ:580mm 日本ルツボ株式会社製)を用い、木炭9として、国産の備長炭(径平均:50mm、長さ:100mm)を用いた。
【0049】
具体的に、熔融工程S1において、240kgの還元銀粉を投入機5のホッパー部13に投入し、昇降手段12が断続的に降下することで所定量ずつ坩堝4に投入されるようにした。また、坩堝4内に、240kgの銀粉に対して1kgの備長炭を予め投入しておき、加熱ヒータ6により坩堝4内を1230〜1250℃に加熱した。
【0050】
ステップS10において、還元銀粉が全て熔融した熔融銀10の状態から30分間、1230〜1250℃の雰囲気で熔融銀10を保持した。ステップS11において、熔融銀10の表面に浮いている備長炭を坩堝4内から除去した後に、坩堝4内の熔融銀10の表面が覆われる量の木炭9を投入した。ステップS12において、1100〜1150℃の雰囲気で30分間、熔融銀10を保持した。ステップS3において、坩堝4の表面に浮いた備長炭を坩堝4内から除去した。鋳造工程S4において、坩堝4内に残留した備長炭を除去した後、サンプルを採取し、1100〜1150℃にて、耐熱性を有する鋳鉄製鋳型に坩堝4内の熔融銀10を鋳造した。鋳造後には、プロパンガスバーナを使って鋳造物の湯面をあぶりながら徐冷した。
【0051】
このようにして製造された各銀インゴットに含有される塩素量を次のように測定した。すなわち、熔融銀中から塩素を蒸留させて捕集し、硝酸銀を添加して塩化銀として、蛍光X線分析装置(PANalytical社製:MagiX)を用いてX線分析にて定量を行った。その測定結果を以下の表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、実施例で得られた銀インゴットの塩素の含有量は、いずれの場合も6ppm以下に抑えられていた。このことから、実施例では、80〜90%という高い塩素除去率が得られたことがわかる。また、熔融工程S1においては、還元銀粉を加熱熔融する際に白煙も発生しなかった。さらに、各実施例における銀インゴットは、その製造工程中、具体的には実施例の鋳造工程S4において、熔融銀10からの酸素の放出による気泡の発生は極めて少なかった。そして、得られた銀インゴットの表面は、気泡によるふくれ及び穴開きが無く平滑な形状であり、極めて良好な状態であった。
【0054】
これに対し、参照例として、実施例の熔融工程S1のように、投入機5から還元銀粉が所定量ずつ投入されながら還元銀粉を加熱熔融するのではなく、一度に全ての還元銀粉を投入して熔融を開始し、その他の条件を実施例と同様とした場合に得られた銀インゴットの塩素含有量は、10〜15ppmであった。
【0055】
以上の結果から、実施例では、塩素含有量が低い銀インゴットが安定して得られ、脱酸素処理により表面状態が良好な高純度銀インゴットが得られることが分かる。一方、参照例では、得られた銀インゴットの塩素含有量の結果から、実施例と比較して十分に脱塩素処理がなされていないことが分かる。
【符号の説明】
【0056】
1 坩堝装置、2 炉体、2a 周璧、2b 床面、3 坩台、4 坩堝、5 投入機、6 加熱ヒータ、7 保持ブロック、8 銀粉、9 木炭、10 熔融銀、11 加熱室、12 昇降手段、13 ホッパー部、14 導出管、20 制御部、21 CPU、22 メモリ、23 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉から塩素成分を除去して銀インゴットを製造する銀インゴットの製造方法において、
上記銀粉が連続的又は断続的に坩堝に投入され、少なくとも該銀粉が熔融した状態の熔融銀を木炭で覆った状態で加熱熔融する熔融工程と、
上記熔融銀の表面が上記木炭で覆われた状態で該熔融銀を上記坩堝で保持する保持工程と、
上記木炭を上記坩堝から除去し、上記熔融銀を鋳型に鋳造する鋳造工程と
を有することを特徴とする銀インゴットの製造方法。
【請求項2】
上記保持工程では、上記木炭が燃え尽きる前に該木炭を上記坩堝から除去した後に再び上記熔融銀の表面が木炭で覆われるように木炭を該坩堝に投入することを特徴とする請求項1記載の銀インゴットの製造方法。
【請求項3】
上記保持工程では、上記木炭を再投入するまでは、1230〜1250℃の雰囲気で上記熔融銀を保持し、上記木炭を再投入した後は、1100〜1150℃の雰囲気で上記熔融銀を保持することを特徴とする請求項2記載の銀インゴットの製造方法。
【請求項4】
上記木炭は、大きさが略均一であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の銀インゴットの製造方法。
【請求項5】
上記坩堝は、黒鉛製の坩堝であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の銀インゴットの製造方法。
【請求項6】
木炭が投入された坩堝と、
上記坩堝が加熱室に載置される炉体と、
投入口を有し、該投入口が上記坩堝内に挿入され、該投入口から上記坩堝内に銀粉を投入する投入機と、
上記炉体に設けられ、上記坩堝を加熱することで上記銀粉を加熱熔融する加熱ヒータと、
上記炉体及び/又は上記投入機に設けられ、上記坩堝の底面と上記投入口とが離間するように該炉体及び/又は該投入機を昇降させる昇降手段とを備え、
上記坩堝内では、上記投入された銀粉が上記加熱ヒータにより加熱熔融され、該銀粉が熔融した状態の熔融銀が上記木炭で覆われた状態にあり、上記昇降手段が上記坩堝の底面と上記投入口とを離間させることに伴い、該投入口から該銀粉が投入されることを特徴とする坩堝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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