説明

銀ナノワイヤー及びその製造方法、並びに水性分散物及び透明導電体

【課題】透明性と導電性を両立できる銀ナノワイヤー、及び水溶媒中で該水溶媒の沸点以下の温度で製造する銀ナノワイヤーの製造方法、並びに該銀ナノワイヤーを含有し、塗布後の保存安定性及び分散安定性が向上した水性分散物、及び透明導電体の提供。
【解決手段】水溶媒中で銀錯体を該水溶媒の沸点以下の温度で加熱することを特徴とする銀ナノワイヤーの製造方法である。銀錯体が、銀アンモニア錯体である態様、水溶媒の沸点以下の温度に加熱する態様、還元糖類を還元剤として用いる態様、などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性と導電性を両立できる銀ナノワイヤー及び水溶媒中で、溶媒の沸点以下の温度で製造する銀ナノワイヤーの製造方法、並びに水性分散物及び透明導電体に関する。
【背景技術】
【0002】
長軸長さが1μm以上、短軸長さが100nm以下である金属ナノワイヤー水性分散物の製造方法として、ポリオール法を用いて調製された銀ナノワイヤーポリオール分散物を、遠心分離工程を経て溶媒置換し、水性分散物を製造する方法が提案されている(特許文献1及び2参照)。
また、水溶媒を用いることを特徴とする銀ナノワイヤーの合成方法として、アンモニア銀を用い、オートクレーブ(120℃、8hr)で、長軸長さが数十μm、短軸長さが28nmのナノワイヤーを製造する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
また、アンモニアを用いず100℃以下の水溶媒を用いることを特徴とする銀ナノワイヤーの合成方法としては、45℃の水溶媒を用い一晩以上かけて作製される長軸長さ数十μmから100μm、短軸長さが80nmの銀ナノワイヤーの製造方法が提案されている(非特許文献2参照)。
また、100℃の水溶媒中で作製された長軸長さ300nm〜4μm、短軸長さ15nmの銀ナノワイヤーの製造方法が提案されている(非特許文献3参照)。
また、銅微粒子を電界析出したガラス基板を硝酸銀水溶液に一晩浸漬することにより得られ、短軸長さ90nm〜300nmの銀ナノワイヤーの製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0003】
これらの文献により銀ナノワイヤーを製造する方法が提案されているが、安価に効率よく製造するためにはオートクレーブなどによる加圧を行うことなく、水溶媒を用いて短時間で製造することが望まれている。また、短軸長さが小さい銀ナノワイヤーでは酸化防止が望まれ、短軸長さが大きな銀ナノワイヤーでは透明度向上が望まれている。
したがってこれらの観点をすべて満足できると考えられる短軸長さが5nm以上500nm以下の銀ナノワイヤーの提供が望まれているのが現状である。
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0056118号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0074316号明細書
【特許文献3】特開2006−196923号公報
【非特許文献1】J. Phys. Chem.B 2005,109,5497
【非特許文献2】Adv. Funct. Mater. 2004,14,183
【非特許文献3】J. Solid State Chemistry 179 (2006) 696
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、透明性と導電性を両立できる銀ナノワイヤー、及び水溶媒中で該水溶媒の沸点以下の温度で製造する銀ナノワイヤーの製造方法、並びに該銀ナノワイヤーを含有し、塗布後の保存安定性及び分散安定性が向上した水性分散物、及び透明導電体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 水溶媒中で銀錯体を該水溶媒の沸点以下の温度で加熱することを特徴とする銀ナノワイヤーの製造方法である。
<2> 銀錯体が、銀アンモニア錯体である前記<1>に記載の銀ナノワイヤーの製造方法である。
<3> ハロゲン化銀を経由する前記<1>から<2>のいずれか記載の銀ナノワイヤーの製造方法である。
<4> 還元糖類を還元剤として用いる前記<1>から<3>のいずれか記載の銀ナノワイヤーの製造方法である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の銀ナノワイヤーの製造方法により製造されたことを特徴とする銀ナノワイヤーである。
<6> 短軸長さが、5nm以上500nm以下である前記<5>に記載の銀ナノワイヤーである。
<7> 前記<5>から<6>のいずれかに記載の銀ナノワイヤーを含有することを特徴とする水性分散物である。
<8> 前記<7>に記載の水性分散物により形成された透明導電層を有することを特徴とする透明導電体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、透明性と導電性を両立できる銀ナノワイヤー、及び水溶媒中で該水溶媒の沸点以下の温度で製造する銀ナノワイヤーの製造方法、並びに該銀ナノワイヤーを含有し、塗布後の保存安定性及び分散安定性が向上した水性分散物、及び透明導電体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(銀ナノワイヤーの製造方法及び銀ナノワイヤー)
本発明の銀ナノワイヤーの製造方法は、水溶媒中で銀錯体を該水溶媒の沸点以下で加熱することを特徴とする。
本発明の銀ナノワイヤーは、本発明の銀ナノワイヤーの製造方法により製造される。
以下、本発明の銀ナノワイヤーの製造方法の説明を通じて、本発明の銀ナノワイヤーの詳細についても明らかにする。
【0009】
本発明の銀ナノワイヤーの製造方法は、水溶媒中で銀錯体を該水溶媒の沸点以下の温度で加熱し、還元反応により銀ナノワイヤーを形成する。その後、必要に応じて脱塩処理を行ってもよく、用途によっては脱塩処理工程することで水性分散物の伝導率を下げる方が好ましい。
【0010】
前記水溶媒とは、溶媒の20%以上が水であり、水以外の溶媒としては、親水性溶媒が好ましく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類などが挙げられる。
前記加熱温度は、前記水溶媒の沸点以下であり、100℃以下が好ましく、20℃以上100℃以下がより好ましく、30℃以上100℃以下が更に好ましく、40℃以上100℃以下が特に好ましい。
前記加熱温度が、100℃を超えると、粒子に強く吸着している分散剤が減少するためか、塗布膜評価での透過率が低くなることがある。また、前記加熱温度が低くなる程、核形成確率が下がり銀ナノワイヤーが長くなりすぎたためか、銀ナノワイヤーが絡みやすく、分散安定性が悪くなることがある。この傾向は20℃以下で顕著となる。
なお、銀ナノワイヤーを製造する際の反応系は、加圧なしの大気圧で行うことが好ましく、反応の際の撹拌は行っても、行わなくてもよいが、攪拌する方がより好ましい。
【0011】
前記銀錯体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、銀錯体の配位子としては、例えばCN、SCN、SO2−、チオウレア、アンモニアなどが挙げられる。これらについては、“The Theory of the Photographic Process 4th Edition”Macmillan Publishing、T.H.James著の記載を参照することができる。これらの中でも、銀アンモニア錯体が特に好ましい。
【0012】
前記加熱の際には還元剤を添加して行うことが好ましい。該還元剤としては、特に制限はなく、通常使用されるものの中から適宜選択することができ、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素金属塩;水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化アルミニウムセシウム、水素化アルミニウムベリリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム等の水素化アルミニウム塩;亜硫酸ナトリウム、ヒドラジン化合物、デキストリン、ハイドロキノン、ヒドロキシルアミン、クエン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、アスコルビン酸又はその塩等;ジエチルアミノエタノール、エタノールアミン、プロパノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノプロパノール等のアルカノールアミン;プロピルアミン、ブチルアミン、ジプロピレンアミン、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン等の脂肪族アミン;ピペリジン、ピロリジン、Nメチルピロリジン、モルホリン等のヘテロ環式アミン;アニリン、N−メチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジン等の芳香族アミン;ベンジルアミン、キシレンジアミン、N−メチルベンジルアミン等のアラルキルアミン;メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール;エチレングリコール、グルタチオン、有機酸類(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等)、還元糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラフィノース、スタキオース等)、糖アルコール類(ソルビトール等)、などが挙げられる。これらの中でも、還元糖類、その誘導体としての糖アルコール類が特に好ましい。
【0013】
前記還元剤種によっては機能として分散剤としても働く場合があり、同様に好ましく用いることができる。
【0014】
前記還元剤の添加のタイミングは、分散剤の添加前でも添加後でもよく、ハロゲン化合物あるいはハロゲン化銀微粒子の添加前でも添加後でもよい。
【0015】
本発明の銀ナノワイヤー製造の際には分散剤とハロゲン化合物、又はハロゲン化銀微粒子を添加して行うことが好ましい。分散剤量やハロゲン化合物、又はハロゲン化銀微粒子の量を加減することによりナノワイヤーの形態を制御することができる。
【0016】
前記分散剤を添加する段階は、粒子調製する前に添加し、分散ポリマー存在下で添加してもよいし、粒子調整後に分散状態の制御のために添加しても構わないが、粒子形成前に添加する方がより好ましい。
【0017】
前記分散剤としては、例えばアミノ基含有化合物、チオール基含有化合物、スルフィド基含有化合物、アミノ酸又はその誘導体、ペプチド化合物、多糖類、多糖類由来の天然高分子、合成高分子、又はこれらに由来するゲル等の高分子類、などが挙げられる。
【0018】
前記高分子類としては、例えば保護コロイド性のあるポリマーでゼラチン、ポリビニルアルコール(P−3)、メチルセルロース、ヒドロキシプルピルセルロース、ポリアルキレンアミン、ポリアクリル酸の部分アルキルエステル、ポリビニルピロリドン(P−1)、ポリビニルピロリドン共重合体、などが挙げられる。
前記分散剤として使用可能な構造については、例えば「顔料の事典」(伊藤征司郎編、株式会社朝倉書院発行、2000年)の記載を参照できる。
なお、使用する分散剤の種類によって得られる銀ナノワイヤーの形状を変化させることができる。
【0019】
前記ハロゲン化合物としては、臭素、塩素、ヨウ素を含有する化合物であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウムなどのアルカリハライドや下記の分散剤と併用できる物質が好ましい。ハロゲン化合物の添加タイミングは、分散剤の添加前でも添加後でもよく、還元剤の添加前でも添加後でもよい。これらの一部は溶液中でハロゲン化銀微粒子を形成し得る。
【0020】
なお、ハロゲン化合物種によっては、分散剤として機能するものがありうるが、同様に好ましく用いることができる。
【0021】
前記ハロゲン化合物の代替としてハロゲン化銀微粒子を使用してもよいし、ハロゲン化合物とハロゲン化銀微粒子を共に使用してもよい。
【0022】
前記分散剤とハロゲン化合物又はハロゲン化銀微粒子は同一物質で併用してもよい。分散剤とハロゲン化合物を併用した化合物としては、例えば、アミノ基と臭化物イオンを含むHTAB(ヘキサデシル−トリメチルアンモニウムブロミド)、アミノ基と塩化物イオンを含むHTAC(ヘキサデシル−トリメチルアンモニウムクロライド)などが挙げられる。
【0023】
前記脱塩処理は、銀ナノワイヤーを形成した後、限外ろ過、透析、ゲルろ過、デカンテーション、遠心分離などの手法により行うことができる。
【0024】
−銀ナノワイヤー−
前記銀ナノワイヤーの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば円柱状、直方体状、断面が多角形となる柱状など任意の形状をとることができる。
前記銀ナノワイヤーの長軸長さは、1μm以上500μm以下が好ましく、5μm以上250μm以下がより好ましく、10μm以上100μm以下が特に好ましい。
前記銀ナノワイヤーの短軸長さは、5nm以上500nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましく、10nm以上50nm以下が特に好ましい。
前記銀ナノワイヤーの長軸長さが、1μm未満であると、導電体を塗布により作製した場合において、金属同士の接点が少なくなり導通が取りにくくなり、結果、抵抗が高くなってしまい、長軸の長さが500μmを超えると、銀ナノワイヤーが絡みやすくなるためか、分散安定性が悪くなってしまうことがある。
また、前記銀ナノワイヤーの短軸長さが、500nmを超えると、導電体としての特性は良化するが、光散乱によるヘイズが非常に目立ち、透明性が失われるため不都合であり、前記ナノワイヤーの短軸長さが、5nm未満であると、透明性は良化するが、酸化により導電性が悪化するため不都合である。
ここで、前記銀ナノワイヤーの長軸長さ、及び短軸長さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、TEM像を観察することにより求めることができる。
【0025】
(水性分散物)
本発明の水性分散物は、分散溶媒中に本発明の前記銀ナノワイヤーを含有してなる。
本発明の前記銀ナノワイヤーの前記水性分散物における含有量は、0.1質量%〜99質量%が好ましく、0.3質量%〜95質量%がより好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、製造時、乾燥工程における負荷が多大となり、99質量%を超えると、粒子の凝集が起こりやすくなることがある。
この場合、長軸長さが10μm以上の銀ナノワイヤーを0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上含有することが、より少ない塗布銀量で導電性を高くすることができ、透明性との両立の観点で特に好ましい。
【0026】
本発明の水性分散物における分散溶媒としては、主として水が用いられ、水と混和する有機溶媒を80容量%以下の割合で併用することができる。
前記有機溶媒としては、例えば、沸点が50℃〜250℃、より好ましくは55℃〜200℃のアルコール系化合物が好適に用いられる。このようなアルコール系化合物を併用することにより、塗布工程での塗り付け良化、乾燥負荷の低減をすることができる。
前記アルコール系化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばメタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1−エトキシ−2−プロパノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−ジメチルアミノイソプロパノール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、エタノール、エチレングリコールが特に好ましい。
【0027】
本発明の水性分散物は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ハロゲン化物イオン等の無機イオンをなるべく含まないことが好ましい。
前記水性分散物の電気伝導度は1mS/cm以下が好ましく、0.1mS/cm以下がより好ましく、0.05mS/cm以下が更に好ましい。
前記水性分散物の20℃における粘度は、0.5mPa・s〜100mPa・sが好ましく、1mPa・s〜50mPa・sがより好ましい。
【0028】
本発明の水性分散物には、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、界面活性剤、重合性化合物、酸化防止剤、硫化防止剤、腐食防止剤、粘度調整剤、防腐剤などを含有することができる。
【0029】
前記腐食防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、アゾール類が好適である。該アゾール類としては、例えばベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾテトラゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、並びにアミン塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。該腐食防止剤を含有することで、一段と優れた防錆効果を発揮することができる。前記腐食防止剤は直接水分散物中に、適した溶媒で溶解した状態、又は粉末で添加するか、後述する透明導電体を作製後に、これを腐食防止剤浴に浸すことで付与することができる。
【0030】
本発明の水性分散物は、インクジェットプリンター用水性インク及びディスペンサー用水性インクにも好ましく用いることができる。
インクジェットプリンターによる画像形成用途において、水性分散物を塗設する基板としては、例えば紙、コート紙、表面に親水性ポリマーなどを塗設したPETフイルムなどが挙げられる。
【0031】
(透明導電体)
本発明の透明導電体は、本発明の前記水性分散物により形成される透明導電層を有する。
前記透明導電体の製造方法は、本発明の前記水性分散物を、基板上へ塗設し、乾燥する。
以下、前記透明導電体の製造方法の説明を通じて、本発明の透明導電体の詳細についても明らかにする。
【0032】
前記水性分散物を塗設する基板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、透明導電体用基板には、以下のものが挙げられるが、これらの中でも、製造適性、軽量性、可撓性、光学性(偏光性)などの点からポリマーフイルムが好ましく、PET、TAC、PENフイルムが特に好ましい。
(1)石英ガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、サファイア等のガラス
(2)ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、PET、PEN、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン、スチレン系樹脂、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂
(3)エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂
【0033】
前記基板材料としては、所望により併用してもよい。用途に応じてこれらの基板材料から適宜選択して、フィルム状等の可撓性基板、又は剛性のある基板とすることができる。
前記基板の形状としては、円盤状、カード状、シート状等のいずれの形状であってもよい。また、三次元的に積層されたものでもよい。更に基板のプリント配線を行う箇所にアスペクト比1以上の細孔、細溝を有していてもよく、これらの中に、インクジェットプリンター又はディスペンサーにより本発明の水性分散物を吐出することもできる。
【0034】
前記基板の表面は親水化処理を施すことが好ましい。また、前記基板表面に親水性ポリマーを塗設したものが好ましい。これらにより水性分散物の基板への塗布性、及び、又は、密着性が良化する。
【0035】
前記親水化処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば薬品処理、機械的粗面化処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理などが挙げられる。これらの親水化処理により表面の表面張力を30dyne/cm以上にすることが好ましい。
【0036】
前記基板表面に塗設する親水性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼラチン、ゼラチン誘導体、ガゼイン、寒天、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デキストラン、などが挙げられる。
前記親水性ポリマー層の層厚(乾燥時)は、0.001μm〜100μmが好ましく、0.01μm〜20μmがより好ましい。
前記親水性ポリマー層には、硬膜剤を添加して膜強度を高めることが好ましい。前記硬膜剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド等のアルデヒド化合物;ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン化合物;ジビニルスルホン等のビニルスルホン化合物;2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン等のトリアジン化合物;米国特許第3,103,437号明細書等に記載のイソシアネート化合物、などが挙げられる。
前記親水性ポリマー層は、上記化合物を水などの適当な溶媒に溶解又は分散させて塗布液を調製し、スピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート、バーコート、ダイコート等の塗布法を利用して親水化処理した基板表面に塗布することにより形成することができる。更に、基板と上記親水性ポリマー層の間に、更なる密着性の改善など必要により下引き層を導入してもよい。前記乾燥温度は120℃以下が好ましく、30℃〜100℃がより好ましく、40℃〜80℃が更に好ましい。
【0037】
本発明においては、透明導電体を形成後に、腐食防止剤浴に通すことも好ましく行うことができ、これにより、更に優れた腐食防止効果を得ることができる。
【0038】
−用途−
本発明の透明導電体は、例えばタッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、その他フレキシブルディスプレイ用電極・帯電防止、太陽電池用電極、電子ペーパー等の各種デバイスなどに幅広く適用される。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、「銀ナノワイヤーの平均粒径(長軸・短軸の長さ)」、及び「水分散物の粘度」は、以下のようにして測定した。
【0040】
<銀ナノワイヤーの平均粒径(長軸・短軸の長さ)>
銀ナノワイヤーの平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製、JEM−2000FX)を用い、TEM像を観察することにより求めた。
【0041】
<水分散物の粘度>
CBCマテリアルズ社製VISCOMATE VM−1G により、25℃での粘度を測定した。
【0042】
(実施例1)
<銀ナノワイヤー水分散物の調製>
−添加液Aの調製−
硝酸銀粉末0.51gを純水50mLに溶解した。その後、1Nのアンモニア水を透明になるまで添加した。そして、全量が100mLになるように純水を添加した。
【0043】
−添加液Gの調製−
グルコース粉末0.5gを140mLの純水で溶解して、添加液Gを調製した。
【0044】
−添加液Hの調製−
HTAB(ヘキサデシル−トリメチルアンモニウムブロミド)粉末0.5gを27.5mLの純水で溶解して、添加液Hを調製した。
【0045】
−試料101の作製−
添加液A 20.6mLを三口フラスコ内に入れ室温にて攪拌した。この液に純水41mL、添加液H 16.5mL、及び添加液G 20.6mLをロートにて添加した。その後、90℃で5時間加熱した。この加熱中の三口フラスコ内のサンプル液温度は大気圧下、77℃で行った。攪拌回転数200rpmで行った。
得られた水分散物を冷却した後、遠心分離し、伝導度が50μS/cm以下になるまで精製し、水分散物を作製した。
得られた試料101の銀ナノワイヤーは短軸長さ15nm〜30nm、長軸長さ40μm〜60μmであった。
【0046】
−試料102の作製−
試料101において、添加液Gのグルコースを等モルのマルトースに置き換えて得られた水分散物を試料102とした。
得られた試料102の銀ナノワイヤーは短軸長さ30nm〜40nm、長軸長さ30μm〜50μmであった。
【0047】
−試料103の作製−
試料101において、添加液HのHTABを40質量%のPVP(K30)と等モルのNaBrに置き換えて得られた水分散物を試料103とした。
得られた試料103の銀ナノワイヤーは短軸長さ15nm〜40nm、長軸長さ30μm〜60μmであった。
【0048】
−試料104の作製−
試料101において、添加液Aの硝酸銀を等モルの酢酸銀に置き換えて得られた水分散物を試料104とした。
得られた試料104の銀ナノワイヤーは短軸長さ15nm〜25nm、長軸長さ40μm〜60μmであった。
【0049】
−試料105の作製−
試料101において、加熱をオートクレーブ内で、圧力1.8atom、120℃で8時間行った以外は、試料101の作製と同様にして、得られた水分散物を試料105とした。
得られた試料105の銀ナノワイヤーは短軸長さ25nm〜30nm、長軸長さ40μm〜50μmであった。
【0050】
得られた水分散物に水を加えて遠心分離し、伝導度が50μS/cm以下になるまで精製し、銀の含有量が、銀22質量%となるよう調整した塗布用水分散物を作製した。これらの塗布用水分散物の粘度はすべて10mPa・s(25℃)以下であった。また、XRD測定(理学電機株式会社製、RINT2500)より、すべての試料で金属銀の回折パターンを得た。
【0051】
次に、市販の二軸延伸熱固定済の厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基板に8W/m・分のコロナ放電処理を施し、下記組成の下引き層を乾燥厚みが0.8μmになるように塗設した。
−下引き層の組成−
ブチルアクリレート(40質量%)と、スチレン(20質量%)と、グリシジルアクリレート(40質量%)との共重合体ラテックスに、ヘキサメチレン−1,6−ビス(エチレンウレア)を0.5質量%含有させたもの
【0052】
次に、下引き層の表面に8W/m・分のコロナ放電処理を施して、ヒドロキシエチルセルロースを親水性ポリマー層として乾燥厚みが0.2μmになるように塗設した。
次に、ドクターコーターを用いて、試料101〜105の各塗布用水分散物を親水性ポリマー層上に塗布し、乾燥した。塗布銀量を蛍光X線分析装置(SII社製、SEA1100)にて測定し、0.02g/mとなるように塗布量を調節した。
【0053】
得られた塗布物について、以下のようにして諸特性を評価した。結果を表1に示す。
【0054】
<塗布物の透過率>
島津製作所製UV−2550を用いて、400nm〜800nmの透過率を測定した。
【0055】
<塗布物の表面抵抗>
三菱化学株式会社製Loresta−GP MCP−T600を用いて表面抵抗を測定した。
【0056】
<塗布用水分散物の安定性>
マグネティックスターラーにて攪拌の後、1辺5cm、高さ30cmの透明アクリル柱へ水分散液を移し、室温で3時間静置させた。水面から深さ2cmのところから液をサンプリングし、紫外可視透過吸収スペクトル(島津製作所製、UV−2550)を測定することで、分散安定性の評価を行った。ベースラインは水を入れた光学セルを100%とした。分散安定性が高いサンプルは、水面近くにおいても透過率が低く、分散安定の低いサンプルにおいては、沈降が著しく起こるため、水面近くの透過率が高くなった。
評価基準は以下の通りである。なお、分散安定性は数字が大きいほど優れていることを示す。
〔評価基準〕
1: 透過率が90%以上で、沈降が著しく、実用上問題あるレベルである。
2: 透過率が70%以上90%未満で、沈降が確認でき、実用上問題あるレベルである。
3: 透過率が50%以上70%未満で、沈降が若干見られるが、実用上問題ないレベルである。
4: 透過率が30%以上50%未満で、沈降がほとんどなく、実用上問題ないレベルである。
5: 透過率が0%以上30%未満で、沈降が確認できず、実用上問題ないレベルである。
【0057】
<塗布物の保存安定性>
試料101〜105の各水分散物を用いて、前述と同様の方法で塗布サンプルを作製した。50℃、湿度60%RHの空気中にて2週間放置し、放置後の表面抵抗測定により、塗布物の保存安定性の比較を行った。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の銀ナノワイヤー及び水性分散物は、例えばタッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、その他フレキシブルディスプレイ用電極・帯電防止、太陽電池用電極、電子ペーパー等の各種デバイスなどに幅広く適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶媒中で銀錯体を該水溶媒の沸点以下の温度で加熱することを特徴とする銀ナノワイヤーの製造方法。
【請求項2】
銀錯体が、銀アンモニア錯体である請求項1に記載の銀ナノワイヤーの製造方法。
【請求項3】
ハロゲン化銀を経由する請求項1から2のいずれか記載の銀ナノワイヤーの製造方法。
【請求項4】
還元糖類を還元剤として用いる請求項1から3のいずれか記載の銀ナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の銀ナノワイヤーの製造方法により製造されたことを特徴とする銀ナノワイヤー。
【請求項6】
短軸長さが、5nm以上500nm以下である請求項5に記載の銀ナノワイヤー。
【請求項7】
請求項5から6のいずれかに記載の銀ナノワイヤーを含有することを特徴とする水性分散物。
【請求項8】
請求項7に記載の水性分散物により形成された透明導電層を有することを特徴とする透明導電体。

【公開番号】特開2009−242880(P2009−242880A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91702(P2008−91702)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】