説明

銅および銅合金用エッチング液の再生方法

【課題】排出される使用済みエッチング液の量を最小限にしつつ、長時間にわたり安定したエッチング速度が得られる銅および銅合金用の塩化鉄(III)エッチング液の再生方法を提供する。
【解決手段】Fe2+およびFe3+と非水溶性の塩を形成せず、かつCu2+と非水溶性の塩を形成するアニオンを塩化鉄(III)エッチング液に含有せしめ、分離工程、酸化工程、アニオン補給工程の3工程を含む再生方法により再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅および銅合金用エッチング液の再生方法に関する。より詳しくは、エッチング速度が安定しており、かつ、再生装置の小型化や、溶出された銅の再資源化が容易な銅および銅合金用エッチング液の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の回路パターン等を形成するための方法として、エッチング法が広く使われている。被エッチング金属が銅である場合のエッチング液としては、高いエッチングファクターが得られる等の利点から、塩化鉄(III)の水溶液が広く使われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
近年になり、より微細なパターンを形成できることがエッチング技術に求められている。微細なパターンをエッチングにより形成しようとする場合、わずかなエッチングの過不足も許容されないことから、エッチング速度を一定に保つ必要がある。エッチング速度は、一般に、エッチング液の組成の変動により大きく影響され、特に銅の溶解によって著しく低下することが知られている。すなわち、エッチングによって微細なパターンを形成するためには、エッチング液の組成を一定に維持することが必要である。
【0004】
エッチング液の組成を一定に維持するための方法としては、常時消費量を上回る量のエッチング液の新液を供給し、液量の増加分をオーバーフローにより排出する方法がある。この方法は簡便ではあるが、銅濃度を低く維持するためには、新しいエッチング液の消費量や使用済みエッチング液の発生量が膨大になる問題がある。
【0005】
かかる問題は、新しいエッチング液を用いる代わりに、使用済みエッチング液を再生し再利用することで解決することができる。塩化鉄(III)の使用済みエッチング液を再生する方法としては、まず鉄粉を加え、イオン化傾向の差により含まれる銅を析出させた後、塩素ガスを接触させて再生する技術(例えば、特許文献1参照)や、使用済みエッチング液をまず塩素ガスと接触せしめ、Fe2+をFe3+に酸化した後脱水濃縮することで、含まれるCu2+を塩化銅(II)として析出させ除去する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかし、これらの方法は各単位操作に大型の装置を必要とする上に所要時間も長いという問題がある。また、使用済みエッチング液を電解酸化し再生する技術(例えば、特許文献3参照)も提案されているが、所要時間の長い電解工程を経るため、やはり装置の小型化が難しい。すなわち、これらの技術を用いる限り、再生装置を含めたエッチング設備が著しく大型化し、既存の生産施設内に装置を収容できないなどの問題が生じる。
【0006】
以上の背景より、工程が簡便で、装置の小型化が容易な再生方法が強く求められている。かかる方法としては、塩素酸塩(例えば、特許文献4参照)や過酸化水素(例えば、特許文献5参照)等の酸化剤を塩酸と共にエッチング液に添加する技術や、オゾンガス(例えば、特許文献6参照)や空気(例えば、特許文献7参照)をエッチング液と接触させる技術が提案されている。しかし、これらの方法ではエッチング液からCu2+を除去しないため、エッチング液中にCu2+が蓄積し、そのエッチング特性は塩化鉄(III)エッチング液と塩化銅(II)エッチング液の中間的な特性になる。すなわち、これらの技術では、塩化鉄(III)エッチング液における高いエッチングファクター等の優れた特徴を十分に得られないという問題が伴う。
【特許文献1】特開2000−199086号公報
【特許文献2】特開平9−78266号公報
【特許文献3】特開平2−310382号公報
【特許文献4】特開平6−73563号公報
【特許文献5】特開平8−269747号公報
【特許文献6】特開2002−47585号公報
【特許文献7】特開平11−92967号公報
【非特許文献1】プリント回路学会編、プリント回路技術便覧第2版、日刊工業新聞社、1993年2月24日発行、p651
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、簡便で、かつ、再生後のエッチング液組成が安定した銅および銅合金用エッチング液の再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鉄イオン(Fe2+およびFe3+)と非水溶性の塩を形成せず、かつ銅(II)イオン(Cu2+)と非水溶性の塩を形成するアニオン種(以下、「X」と示す)を塩化鉄(III)を含有する銅および銅合金用エッチング液に含有せしめ、Cu2+とXの非水溶性塩を分離する工程(以下、「分離工程」と示す)、Fe2+をFe3+に酸化する工程(以下、「酸化工程」と示す)およびXを補給する工程(以下、「補給工程」と示す)の3工程を含む方法により再生する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の再生方法により、使用済みのエッチング液を、高いエッチングファクター等の好ましい特徴を損なうことなく、小型で簡便な装置を用い、新しいエッチング液と同等のエッチング特性を有する程度まで再生できる。これにより、微細な配線パターンを有するプリント配線板を高い歩留まりで生産できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の再生方法は、高いエッチングファクターといった特徴を有する塩化鉄(III)エッチング液の再生方法である。ここで塩化鉄(III)エッチング液とは、Cl-およびFe3+を主たる有効成分とするエッチング液を指す。かかるエッチング液の調製方法としては、塩化鉄(III)とXの酸または塩を混合・溶解することが、材料の入手性や調製作業の簡便性、また、不必要な化学種をエッチング液に混入させないという観点から好ましい。しかし、結果としてこれらのイオンが含まれれば、かかるエッチング液を他の材料から調製することも可能であり、例えば硫酸鉄(III)や酸化鉄(III)をFe3+源として利用することや、塩酸や塩化ナトリウムをCl-源として利用することも可能である。
【0011】
本発明の再生方法により再生されるエッチング液中のFe3+のモル濃度は特に限定されないが、通常0.06〜4.2mol/lの範囲である。これは、塩化鉄(III)水溶液の質量濃度に換算して1〜45質量%の範囲である。また、Cl-のモル濃度は、Fe3+のモル濃度とFe2+のモル濃度を合計したものの3倍±0.2mol/lの範囲にあることが好ましい。Cl-がこれよりも不足していると、水酸化鉄(III)の沈殿が生成してエッチング装置や製品を汚染することがあり、Cl-がこれよりも過剰であると、Cu2+がXとの非水溶性塩を形成し難くなり、分離工程によるCu2+の除去が十分でなくなることがある。
【0012】
本発明の再生方法により再生されるエッチング液は、Xを含有する。Xとしては、シュウ酸イオンおよびリン酸イオンが例示される。なお、本発明において非水溶性とは、その飽和水溶液中に2質量%以上の当該物質が含まれないことをいう。本発明の発明者等が検討したところによれば、塩化鉄(III)エッチング液にシュウ酸イオンやリン酸イオン等のXを添加した場合、これらを添加しなかった場合と比較して、エッチング速度が若干遅くなるものの、微細パターンの形成に求められる高いエッチングファクターを得る等の点で優れていた。
【0013】
本発明の再生方法に含まれる1つ目の工程は、分離工程である。この工程は、エッチング液中に浮遊したCu2+とXの非水溶性塩、例えば、Xがシュウ酸である場合のシュウ酸銅(II)結晶をエッチング液より分離する固液分離工程である。かかる工程には各種の固液分離装置を用いることができ、例えば、スクリーンセパレータ等のろ過装置や、フィルタープレス等の圧搾分離装置、サイクロンセパレータ等の遠心分離装置、沈殿槽等の沈降分離装置等の装置を用いることができる。分離工程により分離されたCu2+とXの非水溶性の塩は、高濃度の銅を含有するため、銅資源として利用することも容易である。
【0014】
本発明の再生方法に含まれる2つ目の工程は、酸化工程である。かかる工程としては、例えば、過酸化水素、過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩等の酸化剤をエッチング液に添加する方法や、酸素、オゾン、二酸化塩素、塩素等の酸化性ガスを含むガスとエッチング液を接触させる方法、または、電解装置を用いてエッチング液を陽極酸化する方法等を用いることができる。
【0015】
これらのうち、酸化剤を添加する方法が装置の小型化の観点から好ましい。中でも過酸化水素は、酸化反応による副生成物が水のみであり、エッチング液中に不要な化学種を蓄積させることがないから特に好ましい。例えば、特開平8−269747号公報で提案されている従来技術では、過酸化水素に併せて塩酸を添加する必要があるが、本発明においては塩酸の添加は必要ない。
【0016】
かかる酸化工程の操作量、すなわち酸化剤の添加量、酸化性ガスの流通量、あるいは電解装置を用いる場合の通電量等を決定するための方法の一例としては、酸化還元電位の測定がある。すなわち酸化還元電位があらかじめ定めた境界値を下回った場合に酸化工程の装置を稼働せしめ、別の境界値を上回った場合に装置を停止するような操作を行う。また、PID制御装置などのフィードバック制御装置を用い、酸化還元電位が一定になるように時間あたりの操作量を調整しながら、連続的に酸化処理を行うこともでき、この方法によればエッチング液組成が早期に安定することから好ましい。
【0017】
また、エッチングされる銅の量から算出される理論量より若干過剰の酸化剤を連続的に添加しても良い。酸化工程として過酸化水素を添加する場合、過剰の過酸化水素は化1の反応で除去されるため大きな問題が生じることはない。
【0018】
【化1】

【0019】
本発明の再生方法に含まれる3つ目の工程は、補給工程である。本発明の補給工程としては、Xの酸を添加する方法、Xの各種金属塩を添加する方法、エッチング液中で加水分解等の反応によりXを生成する物質を添加する方法等がある。Xがリン酸イオンである場合の具体例としては、リン酸を添加する方法や、リン酸二水素ナトリウム等のリン酸塩を添加する方法、五酸化二リン等の加水分解によりリン酸を生成する方法等の方法がある。また、Xがシュウ酸イオンである場合の具体例としては、シュウ酸を添加する方法や、シュウ酸ナトリウム等のシュウ酸塩を添加する方法がある。これらのうち、Xの酸を添加する方法が、エッチング液中に不要な化学種を蓄積させることがないから好ましい。すなわち、Xがリン酸イオンである場合はリン酸を添加することが、Xがシュウ酸イオンである場合はシュウ酸を添加することが好ましい。
【0020】
補給工程の操作量、すなわち、Xを含むまたはXを生成する物質の添加量は、エッチングされる銅の量から算出される理論量とすることで、実用上十分な制御を行うことはできる。この場合、長時間の経過によりXの濃度が変動したり、また、排出される液量が若干増加したりする欠点はあるが、それでも従来の方法から排出される液量よりははるかに少量であり、装置を簡略化できる利点がある。
【0021】
しかしながら、補給工程の操作量を決定するにあたりさらに好ましい態様は、補給工程の操作量を酸化還元電位等の方法で決定した酸化工程の操作量と比例させることである。化2は、Xが銅(II)と1:1の非水溶性塩を形成する2価アニオンであり、Xをその酸H2Xとして添加し、酸化剤として過酸化水素を用いる場合の本発明の再生方法における反応式を示す。(a)は塩化鉄(III)による銅の溶解反応、(b)は塩化鉄(II)を過酸化水素により塩化鉄(III)に再生する反応である。(c)は(a)と(b)を総合したものであり、消費される物質が酸化剤とH2Xのみであることが分かる。
【0022】
【化2】

【0023】
化2に示すように、本発明に用いるエッチング液において、酸化剤とXの消費量は比例の関係にあるから、酸化工程の操作量とXの添加量を比例させることで、エッチング液の組成を長時間にわたり一定に維持することができる。また、この場合、操作量と酸化されるFe2+量の関係が定量的になるという観点から、酸化剤を添加する方法により酸化工程を行うことが好ましい。
【0024】
特に好ましい例としては、シュウ酸と過酸化水素をモル比が1:1になるように添加する方法、リン酸と過酸化水素をモル比が2:3になるように添加する方法がある。シュウ酸と過酸化水素は、それぞれ別個に添加しても良いし、両者を混合してから添加しても良い。リン酸と過酸化水素についても同様である。
【0025】
化3には、従来の方法において、酸化剤として化1と同じ過酸化水素を用いた場合の反応式を示す。(a′)は塩化鉄(III)による銅の溶解反応、(b′)は塩化鉄(II)を過酸化水素により塩化鉄(III)に再生する反応である。(c′)は(a′)と(b′)を総合したものであり、酸化剤に併せHClが消費されることが分かる。したがって、かかる反応においては塩酸の添加が必須であり、また、水溶性で容易には除去できないCuCl2として、Cu2+がエッチング液中に蓄積する。
【0026】
【化3】

【0027】
本発明の再生方法に含まれる3つの工程は、どのような順序で行っても良い。また、これら3工程は回分式(バッチ式)の処理であっても、半回分式(セミバッチ式)の処理であっても、連続式(フロー式)の処理であっても良い。これらの処理方式の2つ以上を組み合わせ、例えば、分離工程を回分式で行い、酸化工程および補給工程を連続式で行うようなことも可能である。また、2つ以上の工程、例えば酸化工程と補給工程とを1つの工程として同時に行っても良い。例えば、Fe2+をFe3+に酸化するための酸化剤とXを補給するための化学種とをあらかじめ混合した後で、エッチング液に添加するような工程を用いても構わない。
【0028】
本発明の再生方法において、Fe3+、Cl-がエッチング液から失われることは原理的にはなく、エッチング液にFe3+、Cl-を補給することは必須ではない。しかし、実際の装置においては、例えば、エッチング後の被エッチング材を洗浄するための水が混入する場合や、エッチング液が被エッチング材に付着してエッチング装置の外に持ち出される場合がある。これらの場合には、必要に応じ、Fe3+、Cl-を補給することが好ましい。
【0029】
Fe3+、Cl-の補給が必要であるか否かを判定する方法としては、例えば、エッチング液の比重を適宜測定し、比重があらかじめ定めた境界値を下回った場合に、十分な濃度のFe3+、Cl-を含む補給液の一定量を補給するか、あるいは、かかる補給液を比重が別途定めた境界値を上回るまで補給する方法がある。なお、Fe3+とCl-の濃度比を上記の好ましい範囲に維持する観点から、Fe3+およびCl-は、塩化鉄(III)水溶液を添加することで補給することが好ましい。
【0030】
本発明の再生方法において、水がエッチング液から失われることは原理的にはなく、エッチング液に水を補給することは必須ではない。しかし、実際の装置において、例えば、蒸発により水が失われる場合には、必要に応じ水を補給することが好ましい。具体的には、エッチング液の比重があらかじめ定めた境界値を上回った場合に一定量の水を補給するか、あるいは、比重が別途定めた境界値を下回るまで水を補給すれば良い。
【0031】
本発明の再生方法は、装置が小型化できることを1つの優れた特徴とするが、所要エネルギー量が少ない等の優れた特徴を活かし、大規模な装置を用いてこれを行うことも可能である。
【0032】
本発明の再生方法に用いるエッチング液は、銅および銅合金のエッチング液である。Cu2+以外の金属イオンには、Xと非水溶性の塩を形成しない、すなわち、分離工程で除去できないものがあるため、本発明により再生されるエッチング液によりエッチングされる銅合金の、銅以外の金属の含有量は少ない方が好ましい。
【0033】
本発明の再生方法に用いるエッチング液には、必要に応じて、界面活性剤、アルコール等の濡れ剤等の各種添加剤を添加することもできる。ただし、アンモニアや各種アミン、クエン酸等のキレート剤等、銅イオンの水溶性を高める化学種を添加することは、銅イオンの分離を困難にすることから好ましくない。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を示す。
【0035】
[実施例1]
実施例1には、本発明の再生方法により、エッチング液を回分的に再生する一例を示す。
【0036】
<エッチング液の調製>
市販の40°ボーメの塩化鉄(III)水溶液(濃度37質量%)1.35kg(無水物として0.50kg)、シュウ酸二水和物0.14kgに水を加え10.00kgとし、塩化鉄(III)5.0質量%、シュウ酸1.0質量%を含むエッチング液10.00kgを調製した。このエッチング液は、3.082molの塩化鉄(III)を含み、理論上1.541mol、すなわち98gの銅を溶解できる。
【0037】
<エッチング>
厚さ12μmの銅箔20gを量りとり、次いで、1枚1gの枚葉20枚に分割した。うち1枚を、クロロプレン系接着剤を用いて透明塩化ビニル製の基材上に貼り付け、スプレーエッチング装置を用いて上記エッチング液でエッチングした。銅箔が完全に溶解したら、エッチング装置から基材を取り出し、次の1枚を貼り付けて再度エッチングを行うことを繰り返した。銅箔が完全にエッチングされ基材が露出するまで、最初の1枚目では90秒、最後となる20枚目では105秒かかった。
【0038】
<分離工程>
理論上の溶解可能量の20%、すなわち、20g(0.315mol)の銅を溶解した使用済みのエッチング液を、微細沈殿用ろ紙(JIS P 3801 5種C相当品)を用いて吸引ろ過して不溶物を分離した。
【0039】
<酸化工程>
分離工程を終えた使用済みエッチング液を攪拌しながら、36g(0.317mol)の過酸化水素水(濃度30質量%)を5分間かけて添加した。
【0040】
<補給工程>
酸化工程を終えた使用済みエッチング液を攪拌しながら、284g(0.315mol)のシュウ酸水溶液(濃度10質量%)を添加した。
【0041】
<エッチング>
上記と同様のエッチングを再度行った。銅箔が完全にエッチングされ基材が露出するまで、最初の1枚目では95秒、最後の20枚目では105秒かかった。
【0042】
[実施例2]
実施例2には、本発明の方法により、エッチング液を連続的に再生する一例を示す。
【0043】
<エッチング液の調製>
実施例1で調製したものと同じエッチング液を同量調製した。
【0044】
<エッチング>
厚さ12μmの銅箔50gを量りとり、次いで1枚1g(0.0157mol)の枚葉50枚に分割した。うち1枚を、クロロプレン系接着剤を用いて透明塩化ビニル製の基材上に貼り付け、図1の液循環回路を有するスプレーエッチング装置を用いて上記エッチング液でエッチングした。なお、銅箔を貼り付けた基材は、3分に1回の割合で新しい銅箔を貼り付けた基材に交換した。なお、交換時には、いずれの場合も前の基材に貼り付けた銅箔は完全に溶解されていた。銅箔が完全にエッチングされ基材が露出するまでの時間は、最初の1枚では100秒、5枚目では95秒、50枚目では95秒であった。
【0045】
図1において、エッチング液貯蔵槽1に貯蔵されたエッチング液は、ノズル用ポンプ2により、スプレーノズル3から銅箔5を貼り付けた基材4に向けて噴射される。エッチング液は、循環用ポンプ6によって、ろ過装置7に送られ、ここで、Cu2+とアニオン種の非水溶性塩(シュウ酸銅)を含む不溶物が分離される。次に、エッチング液は混合槽8に送り込まれ、ここで、薬液注入用定量ポンプ12により、過酸化水素貯蔵槽9から過酸化水素水が注入され、シュウ酸水溶液貯蔵槽10からシュウ酸水溶液が注入される。混合槽8には、毎分1.78g、すなわち3分あたり正味0.534g(0.0157mol)の過酸化水素水(濃度10質量%)、および毎分4.72g、すなわち3分あたり正味1.42g(0.0157mol)のシュウ酸水溶液(濃度10質量%)を注入した。
【0046】
[比較例1]
比較例1には、従来提案されている方法、すなわち分離工程、補給工程を行わない方法により、エッチング液を回分的に再生する場合の一例を示す。
【0047】
<エッチング液の調製>
市販の40°ボーメの塩化鉄(III)水溶液(濃度37質量%)1.35kg(無水物として0.50kg)、濃度35質量%塩酸の286gに水を加え10.00kgとし、塩化鉄(III)5.0質量%、塩酸1.0質量%を含むエッチング液10.00kgを調製した。このエッチング液は、3.082molの塩化鉄(III)を含み、理論上1.541mol、すなわち98gの銅を溶解できる。
【0048】
<エッチング>
実施例1と同様にしてエッチングを行った。銅箔が完全にエッチングされ基材が露出するまで、1枚目では60秒、20枚目では75秒かかった。
【0049】
<酸化工程>
分離工程を終えた使用済みエッチング液を攪拌しながら、66g(0.634mol)の塩酸(濃度35質量%)、次いで36g(0.317mol)の過酸化水素水(濃度30質量%)を5分間かけて添加した。
【0050】
<エッチング>
上と同様のエッチングを再度行った。銅箔が完全にエッチングされ基材が露出するまで、1枚目では55秒、20枚目では80秒かかった。
【0051】
[比較例2]
比較例2には、従来提案されている方法、すなわち分離工程、補給工程を行わない方法により、エッチング液を連続的に再生する場合の一例を示す。
【0052】
<エッチング>
エッチング液として、比較例1で調製したものと同じエッチング液を用いたこと、および図2の液循環回路を有するスプレーエッチング装置を用いたこと以外には、実施例2と同様にしてエッチングを行った。交換時には、いずれの場合も前の基材に貼り付けた銅箔は完全に溶解されていた。銅箔が完全にエッチングされ基材が露出するまでの時間は、最初の1枚では60秒、5枚目では55秒、50枚目では70秒であった。
【0053】
図2において、エッチング液貯蔵槽1に貯蔵されたエッチング液は、ノズル用ポンプ2により、スプレーノズル3から銅箔5を貼り付けた基材4に向けて噴射される。エッチング液は、循環用ポンプ6によって、混合槽8に送り込まれ、ここで、薬液注入用定量ポンプ12により、過酸化水素貯蔵槽9から過酸化水素水が注入され、塩酸貯蔵槽11から塩酸水溶液が注入される。混合槽8には、毎分1.78g、すなわち3分あたり正味0.534g(0.0157mol)の過酸化水素水(濃度10質量%)、および毎分3.83g、すなわち3分あたり正味1.15g(0.0315mol)の塩酸水溶液(濃度10質量%)を注入した。
【0054】
実施例1に示すように、本発明の再生方法によれば、再生されたエッチング液によるエッチング速度と新液によるエッチング速度が同程度となり、エッチング速度を安定化することが可能である。
【0055】
対して、比較例1に示すように、従来提案されているような再生方法では、エッチング液中に溶解したCu2+の影響で、再生されたエッチング液によるエッチング速度と新液によるエッチング速度が同程度にはならず、エッチング速度を安定化することは不可能である。
【0056】
実施例2に示すように、本発明の再生方法により、エッチング装置内のエッチング液を連続的に再生することにより、長時間にわたりエッチング速度を安定に維持することが可能である。
【0057】
対して、比較例2に示すように、従来の再生方法により、エッチング装置内のエッチング液を連続的に再生しても、エッチング液中に蓄積するCu2+の影響によりエッチング速度が変化してしまい、安定したエッチングは不可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】エッチング液の再生を本発明の方法により連続的に行う場合の液循環回路の一例の概略図。
【図2】エッチング液の再生を従来の方法により連続的に行う場合の液循環回路の一例の概略図。
【符号の説明】
【0059】
1 エッチング液貯蔵槽
2 ノズル用ポンプ
3 スプレーノズル
4 基材
5 銅箔
6 循環用ポンプ
7 ろ過装置
8 混合槽
9 過酸化水素貯蔵槽
10 シュウ酸水溶液貯蔵槽
11 塩酸貯蔵槽
12 薬液注入用定量ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化鉄(III)を含有する銅および銅合金用エッチング液の再生方法において、鉄イオン(Fe2+およびFe3+)と非水溶性の塩を形成せず、かつ、銅イオン(Cu2+)と非水溶性の塩を形成するアニオン種を該エッチング液に含有せしめ、Cu2+と該アニオン種の非水溶性塩を分離する工程、Fe2+をFe3+に酸化する工程、および該アニオン種を補給する工程の3工程を含むことを特徴とする銅および銅合金用エッチング液の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−249736(P2009−249736A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103162(P2008−103162)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】