銅めっき付き溶接用ワイヤ
【課題】溶接時の給電チップとワイヤ表面との間に形成される摺動接点を安定的に溶融させ、連続溶接時に、摺動接点で突発的に凝固するようなことがなく、ワイヤ送給性とアーク安定性とが優れており、スパッタ及びヒュームが少ない良好な溶接作業性を有する溶接用ワイヤを提供する。
【解決手段】平均電流:150乃至170A、給電チップの給電長さ:2乃至4mm、給電チップと母材との間の距離:20乃至24mm、フリーループの直径:700乃至800mmで、炭酸ガスシールド溶接した場合に、140乃至180Aの電流領域において溶接時の前記給電チップと溶接ワイヤとの間の電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上である。また、ワイヤ表面に、0.05乃至0.35質量%の銅めっき層と、植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種又は2種以上の油脂が、ワイヤ10kg当たり、0.25乃至1.5g付着している。
【解決手段】平均電流:150乃至170A、給電チップの給電長さ:2乃至4mm、給電チップと母材との間の距離:20乃至24mm、フリーループの直径:700乃至800mmで、炭酸ガスシールド溶接した場合に、140乃至180Aの電流領域において溶接時の前記給電チップと溶接ワイヤとの間の電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上である。また、ワイヤ表面に、0.05乃至0.35質量%の銅めっき層と、植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種又は2種以上の油脂が、ワイヤ10kg当たり、0.25乃至1.5g付着している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅めっき層を有するソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤである銅めっき付き溶接用ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にMAG(CO2、CO2+Ar)ガスシールドアーク溶接、MIG溶接等には細径(直径0.8〜1.6mm)の溶接用ワイヤが使用される。この溶接用ワイヤはスプールに巻装、又はペールパックに装填された形態で溶接に供せられる。この溶接用ワイヤを使用した溶接時には、送給機の送給ローラによりスプール(又はペールパック)からワイヤを引き出すと共に、後続するコンジットケーブルに内包されたライナー内に押し込み、このライナーを経由して、溶接位置にある溶接トーチ内の給電チップまで送給する。
【0003】
ここで使用されるコンジットライナーは鋼線をスパイラル状にして形成したフレキシブルなガイド管であり、その長さは通常3〜6m程度のものから10〜20mの長尺なものが溶接個所までの距離に合わせて選択使用されている。このような一連の溶接用ワイヤの送給作業の際に、建設現場等の溶接個所が狭隘な場所、又は高低差若しくは屈曲部がある場所であっても、これらの送給条件によらず、一定速度で安定的に溶接用ワイヤが供給されることが必要となる。これが溶接用ワイヤの重要な品質特性の一つであるワイヤの送給性である。
【0004】
溶接用ワイヤは送給ローラの送給力によってコンジットライナー内に押し込まれ、一方コンジットライナー内面からは接触摩擦による送給抵抗を受ける。このとき、コンジットライナーが直線状態に近い単純な使用環境下の場合には、送給抵抗はそれ程大きくならず送給性に問題は生じない。しかし、屈曲個所が多いか、屈曲半径(曲率半径)が小さいか、又はライナーが長尺化する等の複雑な使用環境下の場合には、送給抵抗が増加し、送給力とのバランスが崩れ、送給性が著しく低下する。
【0005】
このため、安定した送給性を確保するには、送給ライナーからの送給抵抗を下げる必要がある。この送給抵抗を下げて、ワイヤの送給性を改善するために、一般的に、アーク溶接用ワイヤ表面には、潤滑剤(油、固体潤滑剤)が塗布されている。
【0006】
そして、従来から、溶接用ワイヤの送給性を向上させる方法として、ワイヤ表面に適正量の油を塗布すること(特許文献1)、ワイヤ表面に固体潤滑剤、例えばMoS2等を塗布すること(特許文献2)、中間径で焼鈍しワイヤ強度を低下させると共に、ワイヤ表面に亀裂を生成させ、この亀裂内部に油等を保持させること(特許文献3、4、5、6)、ワイヤ表面に凹部を形成し、凹部に各種粉末を充填する技術(特許文献7、8、9)が提案されている。
【0007】
このように、先行技術は、主に溶接時のワイヤの送給抵抗を低減させることを目的に開発されてきた。また、アーク安定性を向上させることを目的として、ワイヤ表面に凹部を形成し、凹部にアーク安定剤を充填する技術(特許文献10、11、12)も提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平08−157858
【特許文献2】特開平06−285678
【特許文献3】特開昭55−040068
【特許文献4】特開昭56−144892
【特許文献5】特開平08−267284
【特許文献6】特開2000−117486
【特許文献7】特開昭58−184095
【特許文献8】特開平08−99188
【特許文献9】特開2004−001061
【特許文献10】特開平5−069181
【特許文献11】特開2000−107881
【特許文献12】特開2000−271780
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の各公報に記載の従来技術においては、ワイヤの給電チップとワイヤ表面との間の摺動接点を安定化させるものではないので、従来のアーク溶接用ソリッドワイヤは、ワイヤ送給性とアーク安定性とが必ずしも十分ではない。このため、スパッタ及びヒュームが少なく良好な溶接作業性を有するアーク溶接用ワイヤの開発が要望されている。
【0010】
本発明者等は、溶接用ワイヤの送給性を支配する重要な因子として、給電チップからワイヤ表面に溶接電流が流れて、この摺動接点が局部的に溶融した後、凝固し固着(以下融着という)してしまう現象があることを見いだした。給電チップとワイヤが融着すると、この力はコンジットライナー内面の摩擦力を増幅させ、著しく送給抵抗を増加させる。送給抵抗が10kgfを超えて大きくなると、送給ローラの挟持力を超えてしまい、ローラとワイヤとの間でスリップが発生する。送給ローラは一般に溶接用ワイヤよりも硬度が高いために、スリップによってワイヤ表面が削られ、この削り屑を主とする金属粉がコンジットライナー又は給電チップ内部に堆積し、ワイヤの送給性を阻害する。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、溶接時の給電チップとワイヤ表面との間に形成される摺動接点を安定的に溶融させ、連続溶接時に、摺動接点で突発的に凝固するようなことがなく、ワイヤ送給性とアーク安定性とが優れており、スパッタ及びヒュームが少ない良好な溶接作業性を有する溶接用ワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る溶接用ワイヤは、150乃至170Aの平均電流において、2乃至4mmの給電長さを有する給電チップを使用し、給電チップと母材との間の距離を20乃至24mmにし、ワイヤ巻きぐせに起因するフリーループの直径を700乃至800mmとして、炭酸ガスシールド溶接した場合に、140乃至180Aの電流領域において溶接時の前記給電チップと溶接ワイヤとの間の電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上であり、ワイヤ全体に対して0.05乃至0.35質量%の銅めっき層がワイヤ表面に形成されており、更にワイヤ表面の銅めっき層上に、植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種又は2種以上の油脂が、ワイヤ10kg当たり、0.25乃至1.5g付着していることを特徴とする。
【0013】
この銅めっき付き溶接用ワイヤにおいて、前記電圧降下量が0.26Vを超える確率が90%以上であることが好ましい。また、前記電圧降下量が0.3Vを超える確率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは、前記電圧降下量が0.3Vを超える確率が90%以上である。
【0014】
また、本発明においては、ワイヤ表面又はワイヤ表面から100μmまでの深さの表層部に、MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された1種又は2種以上がワイヤ10kg当たり0.01乃至0.25g付着していることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶接時の給電チップとワイヤ表面との間に形成される摺動接点を安定的に溶融させることができ、連続溶接時に、摺動接点で突発的に凝固するようなことがない。これにより、ワイヤ送給性とアーク安定性とが優れており、スパッタ及びヒュームが少ない良好な溶接作業性を有する溶接用ワイヤを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。本発明は、溶接用ワイヤの送給抵抗が、本質的には、溶接電流が流れることによって発生しているものであり、単純にワイヤとコンジットライナー等との間の摩擦力等の機械的な応力によるものではないとの思想に基づき、なされたものである。
【0017】
図1は融着力と送給抵抗の測定装置を示す。リール1から巻き解かれた溶接ワイヤ11は、送給ローラ2によりコンジットライナー3(長さ6m)に供給され、このコンジットライナー3内を挿通してトーチ5に送給される。送給ローラ2はテーブル4b上に固定され、テーブル4bは架台4a上をワイヤ送り出し方向に移動可能に設けられている。なお、コンジットライナー3は、内部を挿通する溶接ワイヤに対して機械的抵抗力を付与するために、途中で1巻きの湾曲部分が形成されている。コンジットライナー3の送給ローラ2側の端部は、支持装置8により支持されており、この支持装置8は架台4a上に固定されている。そして、このトーチ5の給電チップ30と被溶接板6との間に市販のサイリスタ制御の溶接電源10によって溶接電圧が印加され、トーチ5から送出される溶接ワイヤ11と被溶接板6との間にアークが形成される。送給ローラ2から送出された溶接ワイヤ11がコンジットライナー3内を通過してトーチ5から被溶接板6に向けて送給されるときに溶接ワイヤ11に作用する送給抵抗は、溶接ワイヤ11が可動テーブル4bを押圧する応力となる。そこで、この応力を、支持装置8又は架台4aと可動テーブル4bとの間にロードセル9を設け、送給ローラ2と支持装置8又は架台4aとの間に作用する応力を受けて、送給ローラ2から離れようとするときの反発力を測定することにより、求め、これにより、送給抵抗を求める。
【0018】
また、トーチ5の中央にロードセル5aを取り付けて、給電チップ30とワイヤ11との間の融着力を測定する。ロードセル5aはその中心部にワイヤ11が通過できる孔を有しており、この孔をワイヤ11が通過し、給電チップ30に至る。給電チップ30からワイヤ11に溶接電流が供給されることによって、給電チップ30とワイヤ11との間で局部的に融着が発生し、給電チップ30はワイヤ11によって下方向に応力を受ける。この応力をロードセル5aを使用して測定する。以下、この給電チップ30に作用する応力をチップ抵抗という。なお、ロードセル5aに溶接電流が流れると、ロードセル5aは焼損する。このため、ロードセル5aはトーチ5から電気的に完全に絶縁され、溶接電流は給電チップ30に直接溶接電源12から供給される。
【0019】
更に、この溶接電源12の電流供給ケーブルにはホール素子10が設けられており、このホール素子10により検出されたホール電流として、溶接電流が求められる。溶接電圧はトーチ5と被溶接板6との間の電圧を電圧計7により検出することにより求める。これらの送給抵抗、チップ抵抗、溶接電流及び溶接電圧は、計測器12に入力され、記録される。
【0020】
図2は、この測定装置により測定された溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。溶接電流が流れない場合(溶接電流が0の場合)、溶接ワイヤ11を12m/分の速度で送給しても、送給抵抗は小さく(20N以下)、この送給抵抗は、溶接ワイヤ11とコンジットライナー3等との間の単純な機械的摩擦力のみである。一方、溶接を開始し、溶接電流が増加すると、特に、溶接電流が100Aを超えた後、送給抵抗が大きくなる。また、図2には、各溶接電流における送給抵抗の平均値が■で示されており、送給抵抗のばらつきの上限値、下限値がエラーバーで示されている。この図2に示すように、溶接電流が大きくなると、送給抵抗が大きくなると共に、送給抵抗のバラツキも大きくなる。このように、送給抵抗は給電チップと溶接ワイヤとの間に溶接電流が流れることにより発生し、溶接電流が大きくなるほど、この送給抵抗が増大すると共にそのバラツキが大きくなる。
【0021】
この送給抵抗の増大は、トーチ5の給電チップから溶接ワイヤ11に溶接電流が流れ、摺動接点が溶融した後、融着してしまうことに起因する。本発明者等の実験研究の結果、この融着力を低減させるために、最も効果的であった方法は、溶接時に摺動接点が安定して軟化し、溶融状態を継続することであることを見出した。溶接電流が流れても、摺動接点が安定して固体であるか、又は、安定して軟化又は溶融していれば、融着力は小さくなり、チップ抵抗も小さく、送給抵抗も小さくなる。
【0022】
この原理は、溶接用ワイヤの種類によらず、またワイヤの表面状態、例えば金属めっきの種類には依存せず、成立する。溶接電流は一般に数十から数百Aであり、このような高電流が摺動接点を流れて、常時摺動接点が固体状態でいることは困難である。断続的な軟化、溶融、凝固を繰り返すよりは、実用的には常時軟化、溶融しているほうが好ましい。
【0023】
摺動接点が常時軟化、又は溶融しているかは、摺動接点の温度を測定する必要があるが、摺動接点の温度を直接測定することは困難であり、何らかの代替値が必要である。
【0024】
摺動接点における電流と熱流を運ぶのは、金属中の自由電子である。この原理より、接点温度(Tmax)と接点での電圧降下量(EC)との間には、下記数式1に示す一定の関係が成り立つ。ここで、TERTは給電チップの温度であり、Lはローレンツ数(2.45×10−8(V/K)2)である。
【0025】
【数1】
【0026】
この関係から、電圧降下量(EC)が増加すると、接点温度Tmaxが高くなり、電圧降下量(EC)が一定値以上になると、接点は溶融することがわかる。具体的には、例えば、給電チップ温度TERTが室温(300K)であるとすると、給電チップの構成材料である銅が溶融(融点1356K)する電圧降下量は0.41Vとなる。また、給電チップの温度TERTが300K、400K、500K、600K、700K、800K、900Kとなった場合の電圧降下量ECと接点温度Tmaxとの関係は図3に示すとおりである。図3中、最左端の曲線が給電チップ温度TERTが室温(300K)である場合であり、右方にいくにつれて給電チップ温度TERTが400K、500K、600K、700K、800K、900Kと大きくなっていく。
【0027】
従来の銅めっきを有するワイヤは、表面の接触電気抵抗が低いために、電圧降下量は低く、銅が溶融する電圧降下量である0.41V(以後、「溶融電圧」と略記)を大きく下回ってしまう。
【0028】
この電圧降下量は、溶接ワイヤの表面状態を調整することにより、調整することができる。具体的には、下記5種類の方法がある。
(1)従来必須と考えられていた最終工程での油脂を使用したスキンパス工程を省略する。
(2)溶接ワイヤの表面に銅めっき処理した後、最終製品径まで、Na石鹸又はK石鹸の1種又は2種を含む潤滑剤で伸線し、湯洗浄にて潤滑剤を洗浄除去する。次いで、最終の製品径まで伸線した後に、30℃以上の温度を有する水で洗浄し、乾燥させることで、ワイヤ表面の電気的な均一性を向上させる。更に、ワイヤ表面をより高温の熱水又は高温高圧蒸気で処理することにより、ワイヤ表面の電気抵抗を均一に高める。
(3)銅めっき処理した後、乾式潤滑剤を使用したローラダイス伸線又はマイクロミル伸線を適宜用いることで、ワイヤ表面に、ワイヤ長手方向に均一な凹凸を生成させる。この微小でかつ滑らかな凸部を形成することにより、表面の電気抵抗を均一に高める。
(4)最終製品径まで伸線した後に、ストランド炉、高周波誘導加熱炉等を用いて、ワイヤ表面が過剰な表面酸化を受けない温度、時間で、銅めっき表面に極薄い酸化膜を生成させる。
(5)ワイヤ表面に硫化物を残留させる。
【0029】
これらの方法を、工場の生産設備に応じて組み合わせて使用することで、ワイヤ表面を溶融させやすい状態とすることができる。ワイヤ表面の全長、全周に亘って、均一な微小で滑らかな凸部、極薄い酸化膜、硫化物を生成し、残留させることで、溶接電流により、ワイヤ表面が常時、均一に軟化、溶融することがわかった。本技術は、フラックスを内包しないソリッドワイヤにも、フラックスを内包するフラックス入りワイヤにも適用できる。
【0030】
溶接時の電圧降下量は次のような方法で測定する。通常の給電チップを用いると、給電穴の長さが40mm程度あるために、ワイヤと給電穴は複数の接点で接触する。複数の接点で接触した状態で給電チップとワイヤとの間の電圧降下量が測定されても、電圧降下量は複数の接点が並列した状態であるために、極めて小さく測定される。
【0031】
そこで、図4に示すように、給電チップの先端のみを2〜4mm残して、絶縁スリーブを挿入し、接点がマクロ的に1箇所となるような状態で溶接を行い、電圧降下量を測定する。図4(a)は給電チップを示す断面図、図4(b)はこの給電チップを装着したトーチを示す断面図である。トーチ20は絶縁カバー22により覆われており、ケーブル21が連結されていて、このケーブル21を介して溶接ワイヤ11がトーチ20に送られてくる。トーチ20の下端には導電性の接続部23が設けられており、この接続部23にはパワーケーブル24が接続されている。接続部23の下面の一部は下方に突出しており、この突出部に給電チップ30の本体31の上端部がネジ止めされるようになっている。従って、この導電性接続部23を介してパワーケーブル24と給電チップ30の本体31とが電気的に接続されている。また、この突出部の周囲は、絶縁性筒体25が嵌合されており、この絶縁性筒体25の外側に、スリーブ26が嵌合して連結されている。このスリーブ26内に給電チップ30が配置されている。絶縁性筒体25にはシールドガスの導入管27が設けられており、この導入管27を介してシールドガスがスリーブ26内に供給されるようになっている。給電チップ30はその本体31の中心部に溶接ワイヤが挿通する孔が設けられており、この孔における給電チップ先端部33の3〜4mmの部分を除いて大部分の周面には、絶縁スリーブ32が設けられている。この絶縁スリーブ32は、例えば、内径が2.0mm、外径が3.2mmであり、導電性を有する本体31に対し、溶接ワイヤと本体31が電気的に接触しないようになっている。一方、給電チップ30の先端部33においては、孔の大きさは溶接ワイヤより若干径が大きくなる程度であり、絶縁スリーブ32よりも径が小さく、導電性本体31と前記孔を通過する溶接ワイヤ11とが直接接触するようになっている。これにより、給電チップ30の先端部33に直接溶接電流が供給される。他の金属部品から溶接ワイヤに一切電流は供給されない。そして、陽極28がスリーブ26内の給電チップ30に電気的に接続され、スプール1に巻かれたワイヤの終端に陰極が取り付けられ、陽極28と陰極(図示せず)との間の電位差がデジタル記録計(図示せず)で測定される。
【0032】
このトーチ20及び給電チップ30を使用して、例えば、直径1.2mmのワイヤの場合は、平均電流150〜170Aで溶接を行えばよい。なお、本願において平均電流とは、溶接機の電流メーターで観測された溶接電流の時間平均である。デジタル記録計の内部抵抗が十分大きければ、電位差記録回路を流れる電流は無視することができ、給電チップ30と接触している溶接ワイヤ11の先端とスプール1に巻かれた溶接ワイヤ11の終端は等電位となる。これにより、陽極28と陰極との間の電位差を測定することによって、溶接ワイヤ11と給電チップ30の先端部33との間の電位差を測定することができる。この電位差信号に完全に同期させて、溶接電流波形をデジタル記録計に取り込む。溶接電流の検出には、シャントを用いても、ホール素子10を用いてもよい。ノイズに強いことから、ホール素子10を用いることが、望ましい。シールドガスはCO2100%で溶接を行い、溶接電流と電圧降下の関係を測定すればよい。なぜならば、瞬間短絡が発生する条件で溶接することで、電流値が大きく振れ、100A近辺から、400Aまでの電流における電圧降下を測定することができるからである。測定の一例を図5に示す。
【0033】
図5(a)、(b)は各時間における溶接電流値と対応する時間における電圧降下量との関係をプロットした結果を示す。図5(a)は本発明の範囲から外れる比較例、図5(b)は本発明の範囲に入る実施例である。平均電流が160Aであっても、溶滴は短絡移行と、グロビュール移行とを繰返すために、電流は20Aから400Aの広い範囲に分布する。各電流値に対してその瞬間の電圧降下がプロットされており、この電圧降下量から、接点の状態を推測することができる。金属銅の溶融電圧は0.41Vである。よって、接点が安定して軟化−溶融する臨界電圧降下量が、0.41Vとなる。また、銅の軟化温度は463Kであり、この温度に相当する電圧降下量は0.12Vである。そこで、0.41Vと0.12Vの相加平均をとり、軟化溶融電圧を0.26Vとする。
【0034】
図6(a)、(b)は、図5(a)、(b)の電流140A〜180Aの40A範囲における電圧降下量の確率密度分布を示している。具体的には、電圧降下量と溶接電流を時間同期させて、例えば、2ms間隔で測定し、電流値が140〜180Aである全てのプロットのうち、0.26Vを超えるプロットの比率を求めたものである。即ち、図6(a)、(b)において、電圧降下量が0.26Vを超える確率密度を積算(ハッチング部分の面積)したものが、電圧降下量が0.26Vを超える確率となる。図6(a)は従来の銅めっき付きワイヤの電圧降下量確率密度分布であり、0.26Vを超える確率は0.5程度である。このようなワイヤを使用して溶接を行うと、摺動接点は溶融と凝固を繰り返し、融着が頻発し、安定した溶接を行うことができない。一方、図6(b)は本発明の実施例のワイヤであり、0.26Vを超える確率は0.9以上である。本発明の実施例のワイヤは、摺動接点が常時溶融し、安定した溶接を行うことができるものとなっている。
【0035】
このような知見から、本発明においては、本発明の効果を達成できる銅めっき付き溶接用ワイヤを、
(1)150乃至170Aの平均電流において、2乃至4mmの給電長さを有する給電チップを使用し、給電チップと母材との間の距離を20乃至24mmにし、ワイヤ巻きぐせに起因するフリーループの直径を700乃至800mmとして、炭酸ガスシールド溶接した場合に、
(2)140乃至180Aの電流領域において溶接時の前記給電チップと溶接ワイヤとの間の電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上であると規定する。
(3)また、本発明の銅めっき付き溶接用ワイヤには、全体に対して0.05乃至0.35質量%の銅めっき層がワイヤ表面に形成されている。
(4)更に、本発明の銅めっき付き溶接用ワイヤにおいては、更にワイヤ表面の銅めっき層上に、植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種又は2種以上の油脂が、ワイヤ10kg当たり、0.25乃至1.5g付着している。
【0036】
この(1)の条件は、(2)の電圧降下量を測定するときの溶接条件である。本発明においては、平均溶接電流が150A乃至170Aの全域で溶接を行い、そのときの電圧降下量を測定する。例えば、平均溶接電流が160Aで溶接を行い、即ち、溶接機の電流メータに160Aの指示値をセットしても、実際の電流は瞬間的に20乃至400Aまでばらつく。このばらつく電流の中で、後述するように、140A乃至180Aのときの電圧降下量を抽出する。
【0037】
(2)に示すように、150乃至170Aの平均溶接電流で溶接を行い、実際の電流と電圧降下量との関係を示すプロット(図6)の中から、実際の電流が140乃至180Aであるプロットを抽出し、その中で、電圧降下量が0.26Vを超えるものの割合が80%以上であること、即ち、電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上であることが必要である。この確率が80%以上であると、6mのコンジットライナーケーブルを途中で1巻きした送給系において、いかなる電流で溶接しても、送給抵抗が90Nを超えることはない。これは、後述する実施例の図11に示されている。よって、本発明のワイヤは、この電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上となるものである。
【0038】
また、(3)のめっき量が0.05質量%未満では、ワイヤ表面を均一に銅めっきで被覆できない。めっき量が0.35質量%を超えると、溶接金属の凝固割れ感受性が高くなる。このため、ワイヤ表面の銅めっき量は、ワイヤ全体に対して0.05乃至0.35質量%とする。更に、(4)の油量が下限値0.25g/ワイヤ10kgを下回ると、コンジットライナーでの機械的摩擦力で、送給抵抗が60Nを超えてしまう。一方、(4)の油量が1.5g/ワイヤ10kgを超えると、コンジットライナーでの詰まり量が増大し、また、送給ローラでの滑りが発生する。
【0039】
電圧降下量が0.26Vを超える確率を90%以上とすると、6mのコンジットライナーケーブルの途中で1巻きした送給系において、いかなる電流で溶接しても、送給抵抗が80Nを超えることがない。これは、後述する図12に示されている。よって、電圧降下量が0.26Vを超える確率が90%以上とすることが好ましい。更に、電圧降下量が0.3Vを超える確率が80%以上とすると、6mのコンジットライナーケーブルの途中で1巻きした送給系において、いかなる電流で溶接しても、送給抵抗が70Nを超えることがない。これは、後述する図13に示されている。よって、電圧降下量が0.3Vを超える確率を80%以上とすることが更に好ましい。更にまた、電圧降下量が0.3Vを超える確率が90%以上とすると、6mのコンジットライナーケーブルの途中で1巻きした送給系において、いかなる電流で溶接しても、送給抵抗が50Nを超えることがない。これは、後述する図14に示されている。よって、電圧降下量が0.3Vを超える確率が90%以上とすることが好ましい。
【0040】
更にまた、本発明においては、ワイヤ表面又はワイヤ表面から100μmまでの深さの表層部に、MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された1種又は2種以上がワイヤ10kg当たり0.01乃至0.25g付着していることが好ましい。MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された1種又は2種以上がワイヤ10kg当たり0.01g以上付着していると、6mコンジットライナーケーブルの途中で1ターンさせた送給系において、いかなる溶接条件においても、送給抵抗の最大値が30N以下、送給抵抗のばらつき範囲が20N以下となり、ワイヤ送給性がより一層安定する。また、付着量が0.25g/ワイヤ10kg以下の範囲では、付着量が増加するにつれて、送給抵抗の絶対値及びばらつきが共に小さくなる傾向がある。しかし、付着量が0.25g/ワイヤ10kgを超えると、コンジットライナーケーブルにおける詰まり量が多くなりすぎ、好ましくない。
【0041】
この電圧降下量と摺動接点の状態の対応関係は、ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤの区別なく成り立つ基本的な現象である。摺動接点の状態はワイヤがどの程度の力で給電チップと接触するかの影響も受ける。接触力がゼロでは、接触電気抵抗は無限大となり、安定した給電を行えない。50gf以上の接触力が保てれば、摺動接点は安定化する。給電チップを通過したワイヤの見かけの直径(フリーループ直径)を700乃至800mmとすると、ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤの区別なく、ワイヤ表面さえ適正に調整されていれば、摺動接点は安定化する。
【0042】
次に、銅めっきを有するソリッドワイヤを使用してローラダイスにより伸線加工したときの電圧降下について説明する。下記表1は使用した溶接ワイヤの組成を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
直径が5.25〜5.6mmの原線に、銅めっきをワイヤ全量に対し0.27質量%形成し、その後、穴ダイスとローラダイスを組み合わせて伸線加工を行った。直径5.5mmの線材を使用して直径が1.2mmになるまで伸線する工程において、全減径量は4.3mmである。図7は、この減径量のうち、ローラダイスを用いた減径量(ロール減径量)を横軸にとり、電圧降下量を縦軸にとって、整理したグラフ図である。また、そのときの電圧降下量が0.26Vを超える確率を下記表2に示す。なお、表2において、「確率が80%を超える閾値電圧」とは、図6に示すグラフにおいて、電圧降下量が前記閾値電圧を超える場合に、確率が80%となるような電圧のことである。例えば、実施例3において、この「確率が80%を超える閾値電圧」が0.39Vであるが、これは、電圧降下量が0.39Vを超える確率(確率密度を積分したもの)が80%となることを意味している。従って、0.39Vよりも低い0.26Vでは、実施例3の「電圧降下量が0.26Vを超える確率」が84%と、80%よりも高くなっている。
【0045】
【表2】
【0046】
図7から、ローラダイスを使用して減径することにより(ロール減径量が大きくなるにつれ)、電圧降下量が明らかに向上し、摺動接点の溶融確率が高まることが分かる。
【0047】
また、直径2.4mmにて中間焼鈍した後、酸洗し、ワイヤ全量あたり0.24質量%の銅めっきを施した。そして、最終径まで穴ダイスを用いてNa石鹸で伸線した後に、30℃以上の温水を用いて十分に洗浄することにより、表面に極薄い酸化膜が生成し、電圧降下量が明らかに向上する。図8は、洗浄水の温度と、洗浄時間との積を横軸にとり、電圧降下量を縦軸にとって両者の関係を示す。また、そのときの電圧降下量が0.26Vを超える確率を下記表3に示す。洗浄時間が長く、又は洗浄水温度が高くなるに従って、溶接時の電圧降下量は大きくなることがわかる。
【0048】
【表3】
【0049】
更に、高周波誘導加熱装置(発振周波数:20kHz)を用いて、大気中にてワイヤを瞬間的に高温に加熱した。図9は誘導加熱温度と溶接時の電圧降下量との関係を示す。また、そのときの電圧降下量が0.26Vを超える確率を下記表4に示す。加熱温度が300℃で電圧降下量は急激に大きくなることがわかる。450℃を超えてワイヤの温度を上げると、ワイヤが焼鈍を受けて軟化し、溶接用ワイヤとして不具合があった。
【0050】
【表4】
【0051】
図10は横軸にZnS量をとり、縦軸に電圧降下量をとって、ZnS量と電圧降下量との関係を示す。また、そのときの電圧降下量が0.26Vを超える確率を下記表5に示す。この図10に示すように、ワイヤ表面に適正量の油脂とZnSが塗布されることによって、電圧降下量が上昇する。また、ZnS量の増加に従って、電圧降下量は大きくなることが分かる。また、他の硫化物に関しても同様な関係があることが明らかになった。
【0052】
【表5】
【実施例】
【0053】
次に、JIS YGW11相当の化学組成を有するソリッドワイヤを使用して、実験を行った。下記表2はこのソリッドワイヤの組成を示す。
【0054】
【表6】
【0055】
直径が5.25mmのときに銅めっきを施し、その後、下記実施例1〜5に示す内容で冷間伸線、洗浄、及び表面処理を行ない、直径が1.170乃至1.200mmのワイヤに仕上げた。また、表面処理について、植物油としてパーム油、動物油として牛脂、及び合成油としてポリイソブテンを使用した。なお、0.6乃至1.6mmのワイヤ径に仕上げたワイヤ、及びフラックス入りワイヤに関しても同様な効果が確認できた。
【0056】
効果の程度は、図1に示す実験装置を用いて、溶接電流を変えて、適正電圧に調整し、6m長のトーチを使用し、途中で直径が300mmになるように1回転湾曲させた送給系における送給抵抗を測定し、送給性を評価した。
【0057】
「実施例1」
直径が5.5mmから1.2mmになるまで、全て穴ダイスにより、Na石鹸を使用して乾式伸線を行い、製品径において60℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、乾燥後、合成油をワイヤ10kg当たり、0.8g塗布した。製品径において油脂を用いた軽減面のスキンパスは行っていない。
【0058】
図11はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。送給抵抗の上限値は100N未満である。送給ローラの挟持力は100N程度であり、送給抵抗の上限値が100N未満であれば、送給ローラでのスリップは発生せず、銅めっき粉等の発生が防止できる。若干のワイヤ速度変動が発生するが、銅めっき粉による給電チップ、スプリングライナー、コンジットチューブ等に銅粉が詰まらないという必要最低限の条件は満たされる。
【0059】
「実施例2」
直径が5.5mmから2.4mmになるまで、全て穴ダイスにより、Na石鹸を使用して乾式伸線を行い、直径が2.4mmから1.25mmになるまで、ローラダイス伸線を行い、直径が1.25mmから1.2mmになるまで、穴ダイスにより、Na石鹸を用いた乾式伸線を行い、製品径において70℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、乾燥後、合成油をワイヤ10kg当たり、0.8g塗布した。
【0060】
図12はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。送給抵抗の上限値が80Nを下回り、送給速度変動も低減し、スパッタの発生量も低減する。
【0061】
「実施例3」
直径が5.5mmから1.28mmになるまで、ローラダイスによりNa石鹸を主として用いる伸線を主に行い、直径が1.28mmから1.2mmまでは穴ダイスによりNa石鹸を使用した乾式伸線を行い、製品径において65℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、乾燥後、合成油をワイヤ10kg当たり、0.8g塗布した。
【0062】
図13はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。実施例3は、更に、送給抵抗が安定化し、高電流においても溶接欠陥等が発生する確率がきわめて小さくなる。
【0063】
「実施例4」
直径が5.5mmから1.25mmになるまで、ローラダイスによりK石鹸を用いた伸線を主に行い、直径が1.25mmから1.2mmになるまで、穴ダイスにより、Na石鹸を使用した乾式伸線を行い、製品径において65℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、更に、120℃の高温蒸気にて2秒間加熱した後、乾燥し、その後、合成油をワイヤ10kg当たり0.8g塗布した。
【0064】
図14はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。送給抵抗が低位安定化し、スパッタ、ヒュームの発生量が大幅に低減する。
【0065】
「実施例5」
直径が5.5mmから1.25mmになるまで、ローラダイスによりNa石鹸、K石鹸から選択された石鹸と、亜硝酸塩、リン酸塩等の無機物系軟化点調整剤と、MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された硫化物との混合物を潤滑剤として用いた伸線を主に行い、直径が1.25mmから1.2mmになるまでは、穴ダイスによりNa石鹸を用いた乾式伸線を行い、製品径において65℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、乾燥後、合成油をワイヤ10kg当たり0.8g、MoS2、WS2、及びZnSを夫々ワイヤ10kg当たり0.05g(硫化物の合計でワイヤ10kg当たり0.15g)塗布した。
【0066】
図15はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。溶接電流に対して、送給抵抗はほとんど影響を受けず、実用電流範囲全てにおいて、ワイヤの速度変動は皆無になる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】融着力と送給抵抗の測定装置を示す。
【図2】この測定装置により測定された溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図3】給電チップの温度TERTが300K、400K、500K、600K、700K、800K、900Kとなった場合の電圧降下ECと接点温度Tmaxとの関係を示す。
【図4】(a)は給電チップを示す断面図、(b)はこの給電チップを装着したトーチを示す断面図である。
【図5】(a)、(b)は各時間における溶接電流値と対応する時間における電圧降下量との関係をプロットした結果を示し、(a)は本発明の範囲から外れる比較例、(b)は本発明の範囲に入る実施例である。
【図6】(a)、(b)は、図5(a)、(b)の電流140A〜180Aの40A範囲における電圧降下量の確率密度分布を示す。
【図7】ローラダイスを用いた減径量(ロール減径量)を横軸にとり、溶接時の電圧降下量を縦軸にとって、整理したグラフ図である。
【図8】洗浄水の温度と、洗浄時間との積を横軸に取り、電圧降下量を縦軸にとって両者の関係を示すグラフ図である。
【図9】誘導加熱温度と溶接時の電圧降下量との関係を示すグラフ図である。
【図10】横軸にZnS量をとり、縦軸に電圧降下量をとって、ZnS量と電圧降下量との関係を示すグラフ図である。
【図11】実施例1の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図12】実施例2の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図13】実施例3の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図14】実施例4の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図15】実施例5の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0068】
1:リール
2:送給ローラ
3:ケーブル
5:トーチ
6:被溶接板
8:支持装置
11:溶接ワイヤ
12:溶接電源
20:トーチ
21:ケーブル
22:絶縁カバー
23:接続部
24:パワーケーブル
25:絶縁性筒体
26:スリーブ
28:陽極
30:給電チップ
31:導電性本体
32:絶縁スリーブ
33:給電チップ先端部
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅めっき層を有するソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤである銅めっき付き溶接用ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にMAG(CO2、CO2+Ar)ガスシールドアーク溶接、MIG溶接等には細径(直径0.8〜1.6mm)の溶接用ワイヤが使用される。この溶接用ワイヤはスプールに巻装、又はペールパックに装填された形態で溶接に供せられる。この溶接用ワイヤを使用した溶接時には、送給機の送給ローラによりスプール(又はペールパック)からワイヤを引き出すと共に、後続するコンジットケーブルに内包されたライナー内に押し込み、このライナーを経由して、溶接位置にある溶接トーチ内の給電チップまで送給する。
【0003】
ここで使用されるコンジットライナーは鋼線をスパイラル状にして形成したフレキシブルなガイド管であり、その長さは通常3〜6m程度のものから10〜20mの長尺なものが溶接個所までの距離に合わせて選択使用されている。このような一連の溶接用ワイヤの送給作業の際に、建設現場等の溶接個所が狭隘な場所、又は高低差若しくは屈曲部がある場所であっても、これらの送給条件によらず、一定速度で安定的に溶接用ワイヤが供給されることが必要となる。これが溶接用ワイヤの重要な品質特性の一つであるワイヤの送給性である。
【0004】
溶接用ワイヤは送給ローラの送給力によってコンジットライナー内に押し込まれ、一方コンジットライナー内面からは接触摩擦による送給抵抗を受ける。このとき、コンジットライナーが直線状態に近い単純な使用環境下の場合には、送給抵抗はそれ程大きくならず送給性に問題は生じない。しかし、屈曲個所が多いか、屈曲半径(曲率半径)が小さいか、又はライナーが長尺化する等の複雑な使用環境下の場合には、送給抵抗が増加し、送給力とのバランスが崩れ、送給性が著しく低下する。
【0005】
このため、安定した送給性を確保するには、送給ライナーからの送給抵抗を下げる必要がある。この送給抵抗を下げて、ワイヤの送給性を改善するために、一般的に、アーク溶接用ワイヤ表面には、潤滑剤(油、固体潤滑剤)が塗布されている。
【0006】
そして、従来から、溶接用ワイヤの送給性を向上させる方法として、ワイヤ表面に適正量の油を塗布すること(特許文献1)、ワイヤ表面に固体潤滑剤、例えばMoS2等を塗布すること(特許文献2)、中間径で焼鈍しワイヤ強度を低下させると共に、ワイヤ表面に亀裂を生成させ、この亀裂内部に油等を保持させること(特許文献3、4、5、6)、ワイヤ表面に凹部を形成し、凹部に各種粉末を充填する技術(特許文献7、8、9)が提案されている。
【0007】
このように、先行技術は、主に溶接時のワイヤの送給抵抗を低減させることを目的に開発されてきた。また、アーク安定性を向上させることを目的として、ワイヤ表面に凹部を形成し、凹部にアーク安定剤を充填する技術(特許文献10、11、12)も提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平08−157858
【特許文献2】特開平06−285678
【特許文献3】特開昭55−040068
【特許文献4】特開昭56−144892
【特許文献5】特開平08−267284
【特許文献6】特開2000−117486
【特許文献7】特開昭58−184095
【特許文献8】特開平08−99188
【特許文献9】特開2004−001061
【特許文献10】特開平5−069181
【特許文献11】特開2000−107881
【特許文献12】特開2000−271780
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の各公報に記載の従来技術においては、ワイヤの給電チップとワイヤ表面との間の摺動接点を安定化させるものではないので、従来のアーク溶接用ソリッドワイヤは、ワイヤ送給性とアーク安定性とが必ずしも十分ではない。このため、スパッタ及びヒュームが少なく良好な溶接作業性を有するアーク溶接用ワイヤの開発が要望されている。
【0010】
本発明者等は、溶接用ワイヤの送給性を支配する重要な因子として、給電チップからワイヤ表面に溶接電流が流れて、この摺動接点が局部的に溶融した後、凝固し固着(以下融着という)してしまう現象があることを見いだした。給電チップとワイヤが融着すると、この力はコンジットライナー内面の摩擦力を増幅させ、著しく送給抵抗を増加させる。送給抵抗が10kgfを超えて大きくなると、送給ローラの挟持力を超えてしまい、ローラとワイヤとの間でスリップが発生する。送給ローラは一般に溶接用ワイヤよりも硬度が高いために、スリップによってワイヤ表面が削られ、この削り屑を主とする金属粉がコンジットライナー又は給電チップ内部に堆積し、ワイヤの送給性を阻害する。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、溶接時の給電チップとワイヤ表面との間に形成される摺動接点を安定的に溶融させ、連続溶接時に、摺動接点で突発的に凝固するようなことがなく、ワイヤ送給性とアーク安定性とが優れており、スパッタ及びヒュームが少ない良好な溶接作業性を有する溶接用ワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る溶接用ワイヤは、150乃至170Aの平均電流において、2乃至4mmの給電長さを有する給電チップを使用し、給電チップと母材との間の距離を20乃至24mmにし、ワイヤ巻きぐせに起因するフリーループの直径を700乃至800mmとして、炭酸ガスシールド溶接した場合に、140乃至180Aの電流領域において溶接時の前記給電チップと溶接ワイヤとの間の電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上であり、ワイヤ全体に対して0.05乃至0.35質量%の銅めっき層がワイヤ表面に形成されており、更にワイヤ表面の銅めっき層上に、植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種又は2種以上の油脂が、ワイヤ10kg当たり、0.25乃至1.5g付着していることを特徴とする。
【0013】
この銅めっき付き溶接用ワイヤにおいて、前記電圧降下量が0.26Vを超える確率が90%以上であることが好ましい。また、前記電圧降下量が0.3Vを超える確率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは、前記電圧降下量が0.3Vを超える確率が90%以上である。
【0014】
また、本発明においては、ワイヤ表面又はワイヤ表面から100μmまでの深さの表層部に、MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された1種又は2種以上がワイヤ10kg当たり0.01乃至0.25g付着していることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶接時の給電チップとワイヤ表面との間に形成される摺動接点を安定的に溶融させることができ、連続溶接時に、摺動接点で突発的に凝固するようなことがない。これにより、ワイヤ送給性とアーク安定性とが優れており、スパッタ及びヒュームが少ない良好な溶接作業性を有する溶接用ワイヤを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。本発明は、溶接用ワイヤの送給抵抗が、本質的には、溶接電流が流れることによって発生しているものであり、単純にワイヤとコンジットライナー等との間の摩擦力等の機械的な応力によるものではないとの思想に基づき、なされたものである。
【0017】
図1は融着力と送給抵抗の測定装置を示す。リール1から巻き解かれた溶接ワイヤ11は、送給ローラ2によりコンジットライナー3(長さ6m)に供給され、このコンジットライナー3内を挿通してトーチ5に送給される。送給ローラ2はテーブル4b上に固定され、テーブル4bは架台4a上をワイヤ送り出し方向に移動可能に設けられている。なお、コンジットライナー3は、内部を挿通する溶接ワイヤに対して機械的抵抗力を付与するために、途中で1巻きの湾曲部分が形成されている。コンジットライナー3の送給ローラ2側の端部は、支持装置8により支持されており、この支持装置8は架台4a上に固定されている。そして、このトーチ5の給電チップ30と被溶接板6との間に市販のサイリスタ制御の溶接電源10によって溶接電圧が印加され、トーチ5から送出される溶接ワイヤ11と被溶接板6との間にアークが形成される。送給ローラ2から送出された溶接ワイヤ11がコンジットライナー3内を通過してトーチ5から被溶接板6に向けて送給されるときに溶接ワイヤ11に作用する送給抵抗は、溶接ワイヤ11が可動テーブル4bを押圧する応力となる。そこで、この応力を、支持装置8又は架台4aと可動テーブル4bとの間にロードセル9を設け、送給ローラ2と支持装置8又は架台4aとの間に作用する応力を受けて、送給ローラ2から離れようとするときの反発力を測定することにより、求め、これにより、送給抵抗を求める。
【0018】
また、トーチ5の中央にロードセル5aを取り付けて、給電チップ30とワイヤ11との間の融着力を測定する。ロードセル5aはその中心部にワイヤ11が通過できる孔を有しており、この孔をワイヤ11が通過し、給電チップ30に至る。給電チップ30からワイヤ11に溶接電流が供給されることによって、給電チップ30とワイヤ11との間で局部的に融着が発生し、給電チップ30はワイヤ11によって下方向に応力を受ける。この応力をロードセル5aを使用して測定する。以下、この給電チップ30に作用する応力をチップ抵抗という。なお、ロードセル5aに溶接電流が流れると、ロードセル5aは焼損する。このため、ロードセル5aはトーチ5から電気的に完全に絶縁され、溶接電流は給電チップ30に直接溶接電源12から供給される。
【0019】
更に、この溶接電源12の電流供給ケーブルにはホール素子10が設けられており、このホール素子10により検出されたホール電流として、溶接電流が求められる。溶接電圧はトーチ5と被溶接板6との間の電圧を電圧計7により検出することにより求める。これらの送給抵抗、チップ抵抗、溶接電流及び溶接電圧は、計測器12に入力され、記録される。
【0020】
図2は、この測定装置により測定された溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。溶接電流が流れない場合(溶接電流が0の場合)、溶接ワイヤ11を12m/分の速度で送給しても、送給抵抗は小さく(20N以下)、この送給抵抗は、溶接ワイヤ11とコンジットライナー3等との間の単純な機械的摩擦力のみである。一方、溶接を開始し、溶接電流が増加すると、特に、溶接電流が100Aを超えた後、送給抵抗が大きくなる。また、図2には、各溶接電流における送給抵抗の平均値が■で示されており、送給抵抗のばらつきの上限値、下限値がエラーバーで示されている。この図2に示すように、溶接電流が大きくなると、送給抵抗が大きくなると共に、送給抵抗のバラツキも大きくなる。このように、送給抵抗は給電チップと溶接ワイヤとの間に溶接電流が流れることにより発生し、溶接電流が大きくなるほど、この送給抵抗が増大すると共にそのバラツキが大きくなる。
【0021】
この送給抵抗の増大は、トーチ5の給電チップから溶接ワイヤ11に溶接電流が流れ、摺動接点が溶融した後、融着してしまうことに起因する。本発明者等の実験研究の結果、この融着力を低減させるために、最も効果的であった方法は、溶接時に摺動接点が安定して軟化し、溶融状態を継続することであることを見出した。溶接電流が流れても、摺動接点が安定して固体であるか、又は、安定して軟化又は溶融していれば、融着力は小さくなり、チップ抵抗も小さく、送給抵抗も小さくなる。
【0022】
この原理は、溶接用ワイヤの種類によらず、またワイヤの表面状態、例えば金属めっきの種類には依存せず、成立する。溶接電流は一般に数十から数百Aであり、このような高電流が摺動接点を流れて、常時摺動接点が固体状態でいることは困難である。断続的な軟化、溶融、凝固を繰り返すよりは、実用的には常時軟化、溶融しているほうが好ましい。
【0023】
摺動接点が常時軟化、又は溶融しているかは、摺動接点の温度を測定する必要があるが、摺動接点の温度を直接測定することは困難であり、何らかの代替値が必要である。
【0024】
摺動接点における電流と熱流を運ぶのは、金属中の自由電子である。この原理より、接点温度(Tmax)と接点での電圧降下量(EC)との間には、下記数式1に示す一定の関係が成り立つ。ここで、TERTは給電チップの温度であり、Lはローレンツ数(2.45×10−8(V/K)2)である。
【0025】
【数1】
【0026】
この関係から、電圧降下量(EC)が増加すると、接点温度Tmaxが高くなり、電圧降下量(EC)が一定値以上になると、接点は溶融することがわかる。具体的には、例えば、給電チップ温度TERTが室温(300K)であるとすると、給電チップの構成材料である銅が溶融(融点1356K)する電圧降下量は0.41Vとなる。また、給電チップの温度TERTが300K、400K、500K、600K、700K、800K、900Kとなった場合の電圧降下量ECと接点温度Tmaxとの関係は図3に示すとおりである。図3中、最左端の曲線が給電チップ温度TERTが室温(300K)である場合であり、右方にいくにつれて給電チップ温度TERTが400K、500K、600K、700K、800K、900Kと大きくなっていく。
【0027】
従来の銅めっきを有するワイヤは、表面の接触電気抵抗が低いために、電圧降下量は低く、銅が溶融する電圧降下量である0.41V(以後、「溶融電圧」と略記)を大きく下回ってしまう。
【0028】
この電圧降下量は、溶接ワイヤの表面状態を調整することにより、調整することができる。具体的には、下記5種類の方法がある。
(1)従来必須と考えられていた最終工程での油脂を使用したスキンパス工程を省略する。
(2)溶接ワイヤの表面に銅めっき処理した後、最終製品径まで、Na石鹸又はK石鹸の1種又は2種を含む潤滑剤で伸線し、湯洗浄にて潤滑剤を洗浄除去する。次いで、最終の製品径まで伸線した後に、30℃以上の温度を有する水で洗浄し、乾燥させることで、ワイヤ表面の電気的な均一性を向上させる。更に、ワイヤ表面をより高温の熱水又は高温高圧蒸気で処理することにより、ワイヤ表面の電気抵抗を均一に高める。
(3)銅めっき処理した後、乾式潤滑剤を使用したローラダイス伸線又はマイクロミル伸線を適宜用いることで、ワイヤ表面に、ワイヤ長手方向に均一な凹凸を生成させる。この微小でかつ滑らかな凸部を形成することにより、表面の電気抵抗を均一に高める。
(4)最終製品径まで伸線した後に、ストランド炉、高周波誘導加熱炉等を用いて、ワイヤ表面が過剰な表面酸化を受けない温度、時間で、銅めっき表面に極薄い酸化膜を生成させる。
(5)ワイヤ表面に硫化物を残留させる。
【0029】
これらの方法を、工場の生産設備に応じて組み合わせて使用することで、ワイヤ表面を溶融させやすい状態とすることができる。ワイヤ表面の全長、全周に亘って、均一な微小で滑らかな凸部、極薄い酸化膜、硫化物を生成し、残留させることで、溶接電流により、ワイヤ表面が常時、均一に軟化、溶融することがわかった。本技術は、フラックスを内包しないソリッドワイヤにも、フラックスを内包するフラックス入りワイヤにも適用できる。
【0030】
溶接時の電圧降下量は次のような方法で測定する。通常の給電チップを用いると、給電穴の長さが40mm程度あるために、ワイヤと給電穴は複数の接点で接触する。複数の接点で接触した状態で給電チップとワイヤとの間の電圧降下量が測定されても、電圧降下量は複数の接点が並列した状態であるために、極めて小さく測定される。
【0031】
そこで、図4に示すように、給電チップの先端のみを2〜4mm残して、絶縁スリーブを挿入し、接点がマクロ的に1箇所となるような状態で溶接を行い、電圧降下量を測定する。図4(a)は給電チップを示す断面図、図4(b)はこの給電チップを装着したトーチを示す断面図である。トーチ20は絶縁カバー22により覆われており、ケーブル21が連結されていて、このケーブル21を介して溶接ワイヤ11がトーチ20に送られてくる。トーチ20の下端には導電性の接続部23が設けられており、この接続部23にはパワーケーブル24が接続されている。接続部23の下面の一部は下方に突出しており、この突出部に給電チップ30の本体31の上端部がネジ止めされるようになっている。従って、この導電性接続部23を介してパワーケーブル24と給電チップ30の本体31とが電気的に接続されている。また、この突出部の周囲は、絶縁性筒体25が嵌合されており、この絶縁性筒体25の外側に、スリーブ26が嵌合して連結されている。このスリーブ26内に給電チップ30が配置されている。絶縁性筒体25にはシールドガスの導入管27が設けられており、この導入管27を介してシールドガスがスリーブ26内に供給されるようになっている。給電チップ30はその本体31の中心部に溶接ワイヤが挿通する孔が設けられており、この孔における給電チップ先端部33の3〜4mmの部分を除いて大部分の周面には、絶縁スリーブ32が設けられている。この絶縁スリーブ32は、例えば、内径が2.0mm、外径が3.2mmであり、導電性を有する本体31に対し、溶接ワイヤと本体31が電気的に接触しないようになっている。一方、給電チップ30の先端部33においては、孔の大きさは溶接ワイヤより若干径が大きくなる程度であり、絶縁スリーブ32よりも径が小さく、導電性本体31と前記孔を通過する溶接ワイヤ11とが直接接触するようになっている。これにより、給電チップ30の先端部33に直接溶接電流が供給される。他の金属部品から溶接ワイヤに一切電流は供給されない。そして、陽極28がスリーブ26内の給電チップ30に電気的に接続され、スプール1に巻かれたワイヤの終端に陰極が取り付けられ、陽極28と陰極(図示せず)との間の電位差がデジタル記録計(図示せず)で測定される。
【0032】
このトーチ20及び給電チップ30を使用して、例えば、直径1.2mmのワイヤの場合は、平均電流150〜170Aで溶接を行えばよい。なお、本願において平均電流とは、溶接機の電流メーターで観測された溶接電流の時間平均である。デジタル記録計の内部抵抗が十分大きければ、電位差記録回路を流れる電流は無視することができ、給電チップ30と接触している溶接ワイヤ11の先端とスプール1に巻かれた溶接ワイヤ11の終端は等電位となる。これにより、陽極28と陰極との間の電位差を測定することによって、溶接ワイヤ11と給電チップ30の先端部33との間の電位差を測定することができる。この電位差信号に完全に同期させて、溶接電流波形をデジタル記録計に取り込む。溶接電流の検出には、シャントを用いても、ホール素子10を用いてもよい。ノイズに強いことから、ホール素子10を用いることが、望ましい。シールドガスはCO2100%で溶接を行い、溶接電流と電圧降下の関係を測定すればよい。なぜならば、瞬間短絡が発生する条件で溶接することで、電流値が大きく振れ、100A近辺から、400Aまでの電流における電圧降下を測定することができるからである。測定の一例を図5に示す。
【0033】
図5(a)、(b)は各時間における溶接電流値と対応する時間における電圧降下量との関係をプロットした結果を示す。図5(a)は本発明の範囲から外れる比較例、図5(b)は本発明の範囲に入る実施例である。平均電流が160Aであっても、溶滴は短絡移行と、グロビュール移行とを繰返すために、電流は20Aから400Aの広い範囲に分布する。各電流値に対してその瞬間の電圧降下がプロットされており、この電圧降下量から、接点の状態を推測することができる。金属銅の溶融電圧は0.41Vである。よって、接点が安定して軟化−溶融する臨界電圧降下量が、0.41Vとなる。また、銅の軟化温度は463Kであり、この温度に相当する電圧降下量は0.12Vである。そこで、0.41Vと0.12Vの相加平均をとり、軟化溶融電圧を0.26Vとする。
【0034】
図6(a)、(b)は、図5(a)、(b)の電流140A〜180Aの40A範囲における電圧降下量の確率密度分布を示している。具体的には、電圧降下量と溶接電流を時間同期させて、例えば、2ms間隔で測定し、電流値が140〜180Aである全てのプロットのうち、0.26Vを超えるプロットの比率を求めたものである。即ち、図6(a)、(b)において、電圧降下量が0.26Vを超える確率密度を積算(ハッチング部分の面積)したものが、電圧降下量が0.26Vを超える確率となる。図6(a)は従来の銅めっき付きワイヤの電圧降下量確率密度分布であり、0.26Vを超える確率は0.5程度である。このようなワイヤを使用して溶接を行うと、摺動接点は溶融と凝固を繰り返し、融着が頻発し、安定した溶接を行うことができない。一方、図6(b)は本発明の実施例のワイヤであり、0.26Vを超える確率は0.9以上である。本発明の実施例のワイヤは、摺動接点が常時溶融し、安定した溶接を行うことができるものとなっている。
【0035】
このような知見から、本発明においては、本発明の効果を達成できる銅めっき付き溶接用ワイヤを、
(1)150乃至170Aの平均電流において、2乃至4mmの給電長さを有する給電チップを使用し、給電チップと母材との間の距離を20乃至24mmにし、ワイヤ巻きぐせに起因するフリーループの直径を700乃至800mmとして、炭酸ガスシールド溶接した場合に、
(2)140乃至180Aの電流領域において溶接時の前記給電チップと溶接ワイヤとの間の電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上であると規定する。
(3)また、本発明の銅めっき付き溶接用ワイヤには、全体に対して0.05乃至0.35質量%の銅めっき層がワイヤ表面に形成されている。
(4)更に、本発明の銅めっき付き溶接用ワイヤにおいては、更にワイヤ表面の銅めっき層上に、植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種又は2種以上の油脂が、ワイヤ10kg当たり、0.25乃至1.5g付着している。
【0036】
この(1)の条件は、(2)の電圧降下量を測定するときの溶接条件である。本発明においては、平均溶接電流が150A乃至170Aの全域で溶接を行い、そのときの電圧降下量を測定する。例えば、平均溶接電流が160Aで溶接を行い、即ち、溶接機の電流メータに160Aの指示値をセットしても、実際の電流は瞬間的に20乃至400Aまでばらつく。このばらつく電流の中で、後述するように、140A乃至180Aのときの電圧降下量を抽出する。
【0037】
(2)に示すように、150乃至170Aの平均溶接電流で溶接を行い、実際の電流と電圧降下量との関係を示すプロット(図6)の中から、実際の電流が140乃至180Aであるプロットを抽出し、その中で、電圧降下量が0.26Vを超えるものの割合が80%以上であること、即ち、電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上であることが必要である。この確率が80%以上であると、6mのコンジットライナーケーブルを途中で1巻きした送給系において、いかなる電流で溶接しても、送給抵抗が90Nを超えることはない。これは、後述する実施例の図11に示されている。よって、本発明のワイヤは、この電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上となるものである。
【0038】
また、(3)のめっき量が0.05質量%未満では、ワイヤ表面を均一に銅めっきで被覆できない。めっき量が0.35質量%を超えると、溶接金属の凝固割れ感受性が高くなる。このため、ワイヤ表面の銅めっき量は、ワイヤ全体に対して0.05乃至0.35質量%とする。更に、(4)の油量が下限値0.25g/ワイヤ10kgを下回ると、コンジットライナーでの機械的摩擦力で、送給抵抗が60Nを超えてしまう。一方、(4)の油量が1.5g/ワイヤ10kgを超えると、コンジットライナーでの詰まり量が増大し、また、送給ローラでの滑りが発生する。
【0039】
電圧降下量が0.26Vを超える確率を90%以上とすると、6mのコンジットライナーケーブルの途中で1巻きした送給系において、いかなる電流で溶接しても、送給抵抗が80Nを超えることがない。これは、後述する図12に示されている。よって、電圧降下量が0.26Vを超える確率が90%以上とすることが好ましい。更に、電圧降下量が0.3Vを超える確率が80%以上とすると、6mのコンジットライナーケーブルの途中で1巻きした送給系において、いかなる電流で溶接しても、送給抵抗が70Nを超えることがない。これは、後述する図13に示されている。よって、電圧降下量が0.3Vを超える確率を80%以上とすることが更に好ましい。更にまた、電圧降下量が0.3Vを超える確率が90%以上とすると、6mのコンジットライナーケーブルの途中で1巻きした送給系において、いかなる電流で溶接しても、送給抵抗が50Nを超えることがない。これは、後述する図14に示されている。よって、電圧降下量が0.3Vを超える確率が90%以上とすることが好ましい。
【0040】
更にまた、本発明においては、ワイヤ表面又はワイヤ表面から100μmまでの深さの表層部に、MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された1種又は2種以上がワイヤ10kg当たり0.01乃至0.25g付着していることが好ましい。MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された1種又は2種以上がワイヤ10kg当たり0.01g以上付着していると、6mコンジットライナーケーブルの途中で1ターンさせた送給系において、いかなる溶接条件においても、送給抵抗の最大値が30N以下、送給抵抗のばらつき範囲が20N以下となり、ワイヤ送給性がより一層安定する。また、付着量が0.25g/ワイヤ10kg以下の範囲では、付着量が増加するにつれて、送給抵抗の絶対値及びばらつきが共に小さくなる傾向がある。しかし、付着量が0.25g/ワイヤ10kgを超えると、コンジットライナーケーブルにおける詰まり量が多くなりすぎ、好ましくない。
【0041】
この電圧降下量と摺動接点の状態の対応関係は、ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤの区別なく成り立つ基本的な現象である。摺動接点の状態はワイヤがどの程度の力で給電チップと接触するかの影響も受ける。接触力がゼロでは、接触電気抵抗は無限大となり、安定した給電を行えない。50gf以上の接触力が保てれば、摺動接点は安定化する。給電チップを通過したワイヤの見かけの直径(フリーループ直径)を700乃至800mmとすると、ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤの区別なく、ワイヤ表面さえ適正に調整されていれば、摺動接点は安定化する。
【0042】
次に、銅めっきを有するソリッドワイヤを使用してローラダイスにより伸線加工したときの電圧降下について説明する。下記表1は使用した溶接ワイヤの組成を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
直径が5.25〜5.6mmの原線に、銅めっきをワイヤ全量に対し0.27質量%形成し、その後、穴ダイスとローラダイスを組み合わせて伸線加工を行った。直径5.5mmの線材を使用して直径が1.2mmになるまで伸線する工程において、全減径量は4.3mmである。図7は、この減径量のうち、ローラダイスを用いた減径量(ロール減径量)を横軸にとり、電圧降下量を縦軸にとって、整理したグラフ図である。また、そのときの電圧降下量が0.26Vを超える確率を下記表2に示す。なお、表2において、「確率が80%を超える閾値電圧」とは、図6に示すグラフにおいて、電圧降下量が前記閾値電圧を超える場合に、確率が80%となるような電圧のことである。例えば、実施例3において、この「確率が80%を超える閾値電圧」が0.39Vであるが、これは、電圧降下量が0.39Vを超える確率(確率密度を積分したもの)が80%となることを意味している。従って、0.39Vよりも低い0.26Vでは、実施例3の「電圧降下量が0.26Vを超える確率」が84%と、80%よりも高くなっている。
【0045】
【表2】
【0046】
図7から、ローラダイスを使用して減径することにより(ロール減径量が大きくなるにつれ)、電圧降下量が明らかに向上し、摺動接点の溶融確率が高まることが分かる。
【0047】
また、直径2.4mmにて中間焼鈍した後、酸洗し、ワイヤ全量あたり0.24質量%の銅めっきを施した。そして、最終径まで穴ダイスを用いてNa石鹸で伸線した後に、30℃以上の温水を用いて十分に洗浄することにより、表面に極薄い酸化膜が生成し、電圧降下量が明らかに向上する。図8は、洗浄水の温度と、洗浄時間との積を横軸にとり、電圧降下量を縦軸にとって両者の関係を示す。また、そのときの電圧降下量が0.26Vを超える確率を下記表3に示す。洗浄時間が長く、又は洗浄水温度が高くなるに従って、溶接時の電圧降下量は大きくなることがわかる。
【0048】
【表3】
【0049】
更に、高周波誘導加熱装置(発振周波数:20kHz)を用いて、大気中にてワイヤを瞬間的に高温に加熱した。図9は誘導加熱温度と溶接時の電圧降下量との関係を示す。また、そのときの電圧降下量が0.26Vを超える確率を下記表4に示す。加熱温度が300℃で電圧降下量は急激に大きくなることがわかる。450℃を超えてワイヤの温度を上げると、ワイヤが焼鈍を受けて軟化し、溶接用ワイヤとして不具合があった。
【0050】
【表4】
【0051】
図10は横軸にZnS量をとり、縦軸に電圧降下量をとって、ZnS量と電圧降下量との関係を示す。また、そのときの電圧降下量が0.26Vを超える確率を下記表5に示す。この図10に示すように、ワイヤ表面に適正量の油脂とZnSが塗布されることによって、電圧降下量が上昇する。また、ZnS量の増加に従って、電圧降下量は大きくなることが分かる。また、他の硫化物に関しても同様な関係があることが明らかになった。
【0052】
【表5】
【実施例】
【0053】
次に、JIS YGW11相当の化学組成を有するソリッドワイヤを使用して、実験を行った。下記表2はこのソリッドワイヤの組成を示す。
【0054】
【表6】
【0055】
直径が5.25mmのときに銅めっきを施し、その後、下記実施例1〜5に示す内容で冷間伸線、洗浄、及び表面処理を行ない、直径が1.170乃至1.200mmのワイヤに仕上げた。また、表面処理について、植物油としてパーム油、動物油として牛脂、及び合成油としてポリイソブテンを使用した。なお、0.6乃至1.6mmのワイヤ径に仕上げたワイヤ、及びフラックス入りワイヤに関しても同様な効果が確認できた。
【0056】
効果の程度は、図1に示す実験装置を用いて、溶接電流を変えて、適正電圧に調整し、6m長のトーチを使用し、途中で直径が300mmになるように1回転湾曲させた送給系における送給抵抗を測定し、送給性を評価した。
【0057】
「実施例1」
直径が5.5mmから1.2mmになるまで、全て穴ダイスにより、Na石鹸を使用して乾式伸線を行い、製品径において60℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、乾燥後、合成油をワイヤ10kg当たり、0.8g塗布した。製品径において油脂を用いた軽減面のスキンパスは行っていない。
【0058】
図11はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。送給抵抗の上限値は100N未満である。送給ローラの挟持力は100N程度であり、送給抵抗の上限値が100N未満であれば、送給ローラでのスリップは発生せず、銅めっき粉等の発生が防止できる。若干のワイヤ速度変動が発生するが、銅めっき粉による給電チップ、スプリングライナー、コンジットチューブ等に銅粉が詰まらないという必要最低限の条件は満たされる。
【0059】
「実施例2」
直径が5.5mmから2.4mmになるまで、全て穴ダイスにより、Na石鹸を使用して乾式伸線を行い、直径が2.4mmから1.25mmになるまで、ローラダイス伸線を行い、直径が1.25mmから1.2mmになるまで、穴ダイスにより、Na石鹸を用いた乾式伸線を行い、製品径において70℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、乾燥後、合成油をワイヤ10kg当たり、0.8g塗布した。
【0060】
図12はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。送給抵抗の上限値が80Nを下回り、送給速度変動も低減し、スパッタの発生量も低減する。
【0061】
「実施例3」
直径が5.5mmから1.28mmになるまで、ローラダイスによりNa石鹸を主として用いる伸線を主に行い、直径が1.28mmから1.2mmまでは穴ダイスによりNa石鹸を使用した乾式伸線を行い、製品径において65℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、乾燥後、合成油をワイヤ10kg当たり、0.8g塗布した。
【0062】
図13はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。実施例3は、更に、送給抵抗が安定化し、高電流においても溶接欠陥等が発生する確率がきわめて小さくなる。
【0063】
「実施例4」
直径が5.5mmから1.25mmになるまで、ローラダイスによりK石鹸を用いた伸線を主に行い、直径が1.25mmから1.2mmになるまで、穴ダイスにより、Na石鹸を使用した乾式伸線を行い、製品径において65℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、更に、120℃の高温蒸気にて2秒間加熱した後、乾燥し、その後、合成油をワイヤ10kg当たり0.8g塗布した。
【0064】
図14はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。送給抵抗が低位安定化し、スパッタ、ヒュームの発生量が大幅に低減する。
【0065】
「実施例5」
直径が5.5mmから1.25mmになるまで、ローラダイスによりNa石鹸、K石鹸から選択された石鹸と、亜硝酸塩、リン酸塩等の無機物系軟化点調整剤と、MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された硫化物との混合物を潤滑剤として用いた伸線を主に行い、直径が1.25mmから1.2mmになるまでは、穴ダイスによりNa石鹸を用いた乾式伸線を行い、製品径において65℃の湯にて2秒間浸漬洗浄を行い、乾燥後、合成油をワイヤ10kg当たり0.8g、MoS2、WS2、及びZnSを夫々ワイヤ10kg当たり0.05g(硫化物の合計でワイヤ10kg当たり0.15g)塗布した。
【0066】
図15はこの場合の溶接電流と送給抵抗との関係を示す。溶接電流に対して、送給抵抗はほとんど影響を受けず、実用電流範囲全てにおいて、ワイヤの速度変動は皆無になる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】融着力と送給抵抗の測定装置を示す。
【図2】この測定装置により測定された溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図3】給電チップの温度TERTが300K、400K、500K、600K、700K、800K、900Kとなった場合の電圧降下ECと接点温度Tmaxとの関係を示す。
【図4】(a)は給電チップを示す断面図、(b)はこの給電チップを装着したトーチを示す断面図である。
【図5】(a)、(b)は各時間における溶接電流値と対応する時間における電圧降下量との関係をプロットした結果を示し、(a)は本発明の範囲から外れる比較例、(b)は本発明の範囲に入る実施例である。
【図6】(a)、(b)は、図5(a)、(b)の電流140A〜180Aの40A範囲における電圧降下量の確率密度分布を示す。
【図7】ローラダイスを用いた減径量(ロール減径量)を横軸にとり、溶接時の電圧降下量を縦軸にとって、整理したグラフ図である。
【図8】洗浄水の温度と、洗浄時間との積を横軸に取り、電圧降下量を縦軸にとって両者の関係を示すグラフ図である。
【図9】誘導加熱温度と溶接時の電圧降下量との関係を示すグラフ図である。
【図10】横軸にZnS量をとり、縦軸に電圧降下量をとって、ZnS量と電圧降下量との関係を示すグラフ図である。
【図11】実施例1の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図12】実施例2の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図13】実施例3の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図14】実施例4の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【図15】実施例5の溶接電流と送給抵抗との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0068】
1:リール
2:送給ローラ
3:ケーブル
5:トーチ
6:被溶接板
8:支持装置
11:溶接ワイヤ
12:溶接電源
20:トーチ
21:ケーブル
22:絶縁カバー
23:接続部
24:パワーケーブル
25:絶縁性筒体
26:スリーブ
28:陽極
30:給電チップ
31:導電性本体
32:絶縁スリーブ
33:給電チップ先端部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
150乃至170Aの平均電流において、2乃至4mmの給電長さを有する給電チップを使用し、給電チップと母材との間の距離を20乃至24mmにし、ワイヤ巻きぐせに起因するフリーループの直径を700乃至800mmとして、炭酸ガスシールド溶接した場合に、140乃至180Aの電流領域において溶接時の前記給電チップと溶接ワイヤとの間の電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上であり、ワイヤ全体に対して0.05乃至0.35質量%の銅めっき層がワイヤ表面に形成されており、更にワイヤ表面の銅めっき層上に、植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種又は2種以上の油脂が、ワイヤ10kg当たり、0.25乃至1.5g付着していることを特徴とする銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【請求項2】
前記電圧降下量が0.26Vを超える確率が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【請求項3】
前記電圧降下量が0.3Vを超える確率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【請求項4】
前記電圧降下量が0.3Vを超える確率が90%以上であることを特徴とする請求項3に記載の銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【請求項5】
ワイヤ表面又はワイヤ表面から100μmまでの深さの表層部に、MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された1種又は2種以上がワイヤ10kg当たり0.01乃至0.25g付着していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【請求項1】
150乃至170Aの平均電流において、2乃至4mmの給電長さを有する給電チップを使用し、給電チップと母材との間の距離を20乃至24mmにし、ワイヤ巻きぐせに起因するフリーループの直径を700乃至800mmとして、炭酸ガスシールド溶接した場合に、140乃至180Aの電流領域において溶接時の前記給電チップと溶接ワイヤとの間の電圧降下量が0.26Vを超える確率が80%以上であり、ワイヤ全体に対して0.05乃至0.35質量%の銅めっき層がワイヤ表面に形成されており、更にワイヤ表面の銅めっき層上に、植物油、動物油、鉱物油及び合成油からなる群から選択された1種又は2種以上の油脂が、ワイヤ10kg当たり、0.25乃至1.5g付着していることを特徴とする銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【請求項2】
前記電圧降下量が0.26Vを超える確率が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【請求項3】
前記電圧降下量が0.3Vを超える確率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【請求項4】
前記電圧降下量が0.3Vを超える確率が90%以上であることを特徴とする請求項3に記載の銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【請求項5】
ワイヤ表面又はワイヤ表面から100μmまでの深さの表層部に、MoS2、WS2、及びZnSからなる群から選択された1種又は2種以上がワイヤ10kg当たり0.01乃至0.25g付着していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の銅めっき付き溶接用ワイヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−341309(P2006−341309A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133739(P2006−133739)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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