説明

銅ナノ構造体を有する透明導電性材料及びその製造方法

【課題】銅ナノ構造体を利用した有用な製品を提供する。
【解決手段】本発明の一観点に係る透明導電膜は、ポリマー中に銅ナノ構造体を分散させた構造となっている。この観点において、銅ナノ構造体は、銅ナノワイヤーであることが好ましく、また、銅ナノ構造体を0.01wt%以上15wt%以下の範囲で含むことも好ましい。また、本発明の他の一観点に係る透明導電膜の製造方法は、ポリマー溶液中に銅ナノ構造体を加えて混合及び攪拌し、ポリマー溶液を基板上に塗布し、乾燥させる。なおこの観点において、銅ナノ構造体は、銅ナノワイヤーであることが好ましく、銅ナノ構造体が、ポリマー溶液中のポリマー及び前記銅ナノ構造体の重量の和に対して0.01wt%以上15wt%以下の範囲で含まれることも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅ナノ構造体を有する透明導電性材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの金属材料については、様々な提案がなされている。例えば、金属単結晶ウイスカーは、内部に格子欠陥を殆ど有しない高強度材料であることから、高強度複合材料の強化材料や高強度繊維材料の充填剤として用いられている。金属単結晶ウイスカーの製造方法としては、例えば、亜鉛−ニッケル合金の単結晶ウイスカーを電解析出する方法が下記特許文献1に記載されている。また、ナノサイズの金属コバルト微粒子を電解析出する方法が、例えば下記特許文献2に記載されている。
【0003】
一方、銅は、導電性材料、放熱材料、触媒等の用途に使用され、銅微粒子の製造方法としては、バリン残基を有する双頭型ペプチド脂質及び金属イオンから形成された金属複合化ペプチド脂質から成るナノファイバーを、還元剤を用いて還元する方法が、例えば下記特許文献3に記載されている。
【0004】
近年、カーボンナノチューブやナノワイヤーが開発され、金属ナノ材料への関心が高まっている。平均径が数十nm〜数百nm程度で、平均長さが1μm程度以上の金属ナノワイヤーは、導電性材料、磁性材料、触媒、電子放出素子、カーボンナノチューブのテンプレート、等の様々な用途に用いられ、有用な材料として更なる開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−312050号公報
【特許文献2】特開2004−149871号公報
【特許文献3】特開2002−266007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナノサイズの銅微粒子の一形態であるナノワイヤー状の銅の製造方法は、上記特許文献3に記載されているが、非常に手が込んだ作成方法であり煩雑な面を有する。また、原料として用いられるバリン残基を有する双頭型ペプチド脂質を合成することにも手間がかかり、大量生産には向かない。
【0007】
更に、上記ナノサイズの銅材料(以下「銅ナノ構造体」という。)の応用については検討がなされていない。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、銅ナノ構造体を利用した有用な製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、銅ナノ構造体をポリマー中に分散させると、透明導電性材料として機能することを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一観点にかかる透明導電膜は、ポリマー中に銅ナノ構造体を分散させてなる。
【0011】
また、本発明の他の一観点にかかる透明導電膜の製造方法は、ポリマー溶液中に銅ナノ構造体を加えて混合及び攪拌し、ポリマー溶液を基板上に塗布し、乾燥させる。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明により、銅ナノ構造体を利用した有用な製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る透明導電膜の構成の概略を示す図である。
【図2】本実施形態に係る透明導電膜の製造方法のイメージを示す図である。
【図3】実施例1に係る銅ナノ構造体の顕微鏡写真図である。
【図4】実施例1に係る透明導電膜の顕微鏡写真図である。
【図5】実施例1に係る透明導電膜の透過率を示す図である。
【図6】実施例3に係る銅ナノ構造体の顕微鏡写真図である。
【図7】実施例3に係る透明導電膜の顕微鏡写真図である。
【図8】実施例3に係る透明導電膜の透過率を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例に示す例示のみ限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係る透明導電膜(以下「本膜」という。)1の構成の概略を示す図である。本図で示すように、本膜1は、ポリマー2中に、銅ナノ構造体3を分散させたてなる。
【0016】
本実施形態において、銅ナノ構造体3とは、非常に小さな構造体であって、ナノ材料として用いることができるものである。その形状は特に限定されるものではないが、円柱(ワイヤーを含む)、及び三角柱、四角柱などの多角柱を含む柱状形状、並びに樹枝状形状(デンドライト)の構造体を例示することができる。その大きさは、おおよそ、直径が100μm以下、かつ長さが50nm以上であり、好ましくは直径が5μm以下で、かつ長さが100nm以上である。なお、ここでいうナノ構造体の大きさは、樹枝状形状の場合には、樹枝を形成する幹・枝それぞれの大きさを意味する。銅ナノ構造体の形状、大きさは、電子顕微鏡の観察により確認することができる。
【0017】
また、本実施形態にかかる銅ナノ構造体3は、純銅のみで構成されてもよく、条件によっては酸化銅や水酸化銅を含有していてもよい。
【0018】
また、本実施形態に係るポリマー2は、いわゆる高分子であって、銅ナノ構造体3を安定的に保持することができるものであり、この限りにおいて限定されるわけではないが、可視領域において透明である材料が好ましい。ここで「透明」とは、膜厚によって適宜調整は可能であるが、少なくとも可視領域の波長範囲において、十分な透過性を有することをいい、例えば360nmから900nmの範囲の光を60%以上透過することをいう。
【0019】
本実施形態に係るポリマー2は、上記機能を有する限りにおいて限定されないが、例えば、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアセチレン等を挙げることができるがこれに限定されない。
【0020】
また、本実施形態において、銅ナノ構造体3は、透明導電膜全体に対し、0.01wt%以上15wt%以下の範囲で含まれていることが好ましい。0.01wt%以上含ませることで、膜内において導電性を確保することができるとともに、15wt%以下とすることで透明性を確保することができるといった効果がある。なお、後述の実施例から明らかなように、銅ナノ構造体がナノワイヤー形状のものである場合は、0.01wt%以上10wt%以下、より好ましくは5wt%とすることで十分透過性と導電性を確保することが可能であり、ナノデンドライト形状の場合は、上記のとおり0.01wt%以上15wt%以下で優れた透過性と導電性を確保することができる。
【0021】
また、本膜1は、基板4上に形成されていることが好ましい。基板4上に形成することで、安定的に形状を保持することが可能となる。基板4としては、本膜1を安定的に形状を保持することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばガラス、透明なポリマーであることは透過型の表示装置などを実現する観点から好ましい一例であるが、反射型の表示装置などに用いる場合、不透明な材料であってもよく、例えば絶縁層が形成された金属基板、半導体基板上に形成することも可能である。
【0022】
本膜1の厚さは、導電性を有する限りにおいて限定されず、様々な厚さとすることができるが、透明性を確保する観点からは、できる限り薄いほうであることが好ましく、導電性を確保する観点からは、厚いほうが好ましく、これらのバランスによって定まる。限定されるわけではないが、好ましい範囲としては、1μm以上2mm以下の範囲であることが好ましい。
【0023】
本膜1は、上記の構成により、透明導電膜として利用が可能である。具体的には、ポリマー中に上記銅ナノ構造体を含ませることで、銅ナノ構造体同士が接触し、膜全体として導電性を確保し、導電性の配線材料として用いることができる。
【0024】
次に、本膜1の製造方法(以下「本方法」という。)について説明する。本方法は、ポリマー溶液中に銅ナノ構造体を加えて混合及び攪拌し、ポリマー溶液を基板上に塗布し、乾燥させる。
【0025】
ポリマー溶液は、上記ポリマーを溶媒に含ませたものである。溶媒は、ポリマーを分散させ、銅ナノ構造体を加えて混合、攪拌することができる限りにおいて限定されず様々な溶媒を採用することができるが、乾燥などの工程によって容易に除去することができるものであることが好ましい。例えば限定されるわけではないが、メチルエチルケトン、アセトン等を用いることができる。
【0026】
ポリマー溶液中のポリマーの濃度については、ポリマーを十分に溶解することができる限りにおいて限定されず、また乾燥などの工程によって容易に除去することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばポリマーの重量を1とした場合、溶媒の重量を5以上20以下とすることが現実的であり好ましい。
【0027】
本方法では、上述の通り、ポリマー溶液を準備した後、銅ナノ構造体を加えて混合及び攪拌を行なう。銅ナノ構造体の量としては、限定されるわけではないが、上記構成の説明時において述べたとおり、透明導電膜全体に対し、0.01wt%以上15wt%以下の範囲で含まれていることが好ましい。具体的には、含まれるポリマーの重量及び銅ナノ構造体の重量の合計に対し、銅ナノ構造体が0.01wt%以上15wt%以下の範囲となるように混合することが好ましい。
【0028】
また本方法において、ポリマー溶液を乾燥させる工程によって、溶媒を除去し、透明導電膜として機能を発揮することができる。ポリマーを乾燥させる工程としては、限定されるわけではないが、大気中又は非酸化性雰囲気中に静置することで可能であるが、乾燥剤等を併用することも好ましい一形態であり、乾燥のため加温することも好ましい。
【0029】
また本方法において、乾燥させる工程は、本膜を形成する基板上に塗布した後に行なうことが好ましく、この塗布の際、基板上又は基板に凹みを有する収容部を設け、この凹みに上記ポリマー溶液を注入することが好ましい。このようにすることで膜の形状を確保することができるようになる。
【0030】
以上の工程により、本方法は、透明導電膜を製造することができる。
【0031】
なお、本実施形態において、銅ナノ構造体は、製造できる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、銅アンミン錯体水溶液を、飽和カロメル参照電極に対し電解電位−1.2V〜−3.0Vで電気分解することで陰極上に銅ナノ構造体を析出させることで製造することができる。上記銅アンミン錯体は、市販のものを用いてもよく、また、調製することもできる。
【0032】
電解電位−1.2V以下とすることで、通常の膜に近い形状の銅ではなく、銅ナノ構造体を析出させることができる一方、−3.0V以上とすることで、溶媒や支持電解質の分解を防ぐことができる。
【0033】
なお上記銅アンミン錯体は、[Cu(NH+で表される。本発明において、[Cu(NH]SOや[Cu(NH](NOを水系溶媒に溶解させることで、銅アンミン錯体水溶液を調製することができる。
【0034】
銅アンミン錯体水溶液中における銅アンミン錯体の濃度は、1mM以上であることが好ましく、より直径の細い材料を製造する観点から10mM以上であることがより好ましく、20mM以上であることがさらに好ましく、60mM以上であることが特に好ましい。また、銅アンミン錯体水溶液中における銅アンミン錯体の濃度は、300mM以下とすることが好ましく、より直径の細い材料を製造する観点から220mM以下であることがより好ましい。
【0035】
上記水系溶媒は、水と混合することが可能な溶媒、例えばアルコール類、グリコール類、アンモニア等と水との混合溶媒、及び水である。水系溶媒としては、イオン交換水等の水、またはアンモニア水を用いることが好ましく、アンモニア水を用いることがより好ましい。水系溶媒としてアンモニア水を用いた場合、濃度は0.01M〜5Mであることが好ましい。
【0036】
以上、本発明により、銅ナノ構造体を利用した有用な製品を提供することができる。
【実施例】
【0037】
ここで、上記実施形態に係る透明導電膜について、実際に作成し、その効果を確認した。以下詳細に示す。
【0038】
(実施例1)
硫酸テトラアンミン錯体銅(II)、[Cu(NH]SOを25mMになるように
加え、電解質としてLiSOを0.1Mとなるように加え、アンモニアが3Mとなるよう水溶液を電解液として調整した。
【0039】
次に、この溶液を、ITOガラス板、Ptをそれぞれ電極として用い、この間に−1.45Vで印加し、銅ナノ構造体を析出させた。なお通電電気量は2.0C/cmとし、溶液の温度は22℃とした。この析出させた銅ナノ構造体はナノデンドライト形状のナノワイヤー(以下この銅ナノ構造体を「銅ナノデンドライト」という。)を有していた。この写真図を図3に示しておく。なお図中のスケールは5μmである。
【0040】
一方、ポリメタクリル酸メチル(以下「PMMA」という。)とメチルエチルケトンを1:10となるようポリマー溶液を準備し、この溶液に、上記析出した銅ナノデンドライトを加え、混合及び攪拌した後、ガラス基板上にバーコート法を用いて塗布し、乾燥させて製膜した。具体的には、ガラス基板上に、所定の距離を置いて平行な一対の薄いスペーサーを配置し、このスペーサーの間に銅ナノデンドライトを分散させた上記ポリマー溶液を塗布し、棒でスペーサーの厚さ以上に盛り上がった溶液をすりきって除去した。このイメージ図を図2に示しておく。なお、この銅ナノデンドライトを分散させたポリマー溶液は、銅ナノデンドライトの濃度が異ならせて複数作成した。濃度はそれぞれ、PMMAと銅ナノデンドライトの合計量に対し銅ナノデンドライトが1.7wt%、5.5wt%、8.4wt%、12.5wt%となるように作製した。なお、作製した透明導電膜の顕微鏡写真を図4に示しておく。本図は8.4wt%のものである。
【0041】
そして、この作製した膜に対し、透過率測定を行った。この結果を図5に示す。この結果、1.7wt%では90%を超える高い可視光透過率を得ることができ、8.4wt%であっても80%の透過率を得ることができることを確認した。
【0042】
(実施例2)
本実施例では、用いた基板を銅板とした以外は上記実施例1と同じ手法で同じ濃度の透明導電膜を作成した。そして、作製した透明導電膜の銅板とは反対の側に、金を電極として付し、その抵抗を測定し。伝導度を測定した。なおこの測定は、銅板と金とを透明導電膜を作製し、この間の抵抗を測定しリファレンスとして行った。この結果を下記表に示しておく。
【表1】

【0043】
この結果、いずれも良好な電気伝導度(S/cm)を有していることが確認できた。特に、12.5wt%の例では、1.1(S/cm)といったきわめて高い導電性を得ることが確認できた。
【0044】
(実施例3)
本実施例では、印加した電圧等電気分解の条件を異ならせた以外は上記実施例1と同じ手法で水溶液を作製し、銅ナノ構造体を析出させた。具体的には、電圧を−1.7Vとして電気分解を行なった。なお通電電気量、溶液温度は上記実施例1と同じとした。この結果析出した銅ナノ構造体について図6に示しておく。この構造は、ナノワイヤー状構造となっている(以下「銅ナノワイヤー」という。)ことが確認できた。なお図中のスケールは5μmである。
【0045】
次に、ポリメタクリル酸メチル(以下「PMMA」という。)とメチルエチルケトンを1:10となるようポリマー溶液を準備し、この溶液に、上記析出した銅ナノワイヤーを加え、混合及び攪拌した後、ガラス基板上にバーコート法を用いて塗布し、乾燥させて製膜した。具体的には、ガラス基板上に、所定の距離を置いて平行な一対の薄いスペーサーを配置し、このスペーサーの間に銅ナノワイヤーを分散させた上記ポリマー溶液を塗布し、棒でスペーサーの厚さ以上に盛り上がった溶液をすりきって除去した。なお、この銅ナノワイヤーを分散させたポリマー溶液は、銅ナノワイヤーの濃度が異ならせて複数作成した。濃度はそれぞれ、PMMAと銅ナノワイヤーの合計量に対し銅ナノデンドライトが1.8wt%、2.9wt%となるように作製した。なお、作製した透明導電膜の顕微鏡写真を図7に示しておく。本図は1.8wt%のものである。
【0046】
そして、この作製した膜に対し、上記実施例1と同様の透過率測定を行った。この結果を図6に示す。この結果、1.8wt%ではほぼ100%に近い可視光透過率を得ることができることを確認した。
【0047】
(実施例4)
本実施例では、用いた基板を銅板とした以外は上記実施例3と同じ手法で同じ濃度の透明導電膜を作成した。そして、作製した透明導電膜の銅板とは反対の側に、金を電極として付し、その抵抗を測定し。伝導度を測定した。なおこの測定は、銅板と金とを透明導電膜を作製し、この間の抵抗を測定しリファレンスとして行った。この結果を下記表に示しておく。
【表2】

【0048】
この結果、いずれも良好な電気伝導度(S/cm)を有していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、透明導電膜及びその製造方法として産業上の利用可能性がある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー中に銅ナノ構造体を分散させた透明導電膜。
【請求項2】
前記銅ナノ構造体は、銅ナノワイヤーである請求項1記載の透明導電膜。
【請求項3】
前記銅ナノ構造体を0.01wt%以上15wt%以下の範囲で含む請求項1記載の透明導電膜。
【請求項4】
ポリマー溶液中に銅ナノ構造体を加えて混合及び攪拌し、
前記ポリマー溶液を基板上に塗布し、乾燥させる透明導電膜の製造方法。
【請求項5】
前記銅ナノ構造体は、銅ナノワイヤーである請求項4記載の透明導電膜。
【請求項6】
前記銅ナノ構造体は、前記ポリマー溶液中のポリマー及び前記銅ナノ構造体の重量の和に対して0.01wt%以上15wt%以下の範囲で含まれる請求項4記載の透明導電膜の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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