説明

銅又は銅合金の酸化皮膜除去剤及び酸化皮膜除去方法

【課題】銅やその合金からなる物品表面の酸化銅を主体とする酸化皮膜を除去する手段として、対象物品の形態やサイズによる制約が少なく、酸化皮膜の除去性に優れ、内部金属層の侵食を生じにくく、既設のトロリ線の如き一般環境下にある銅やその合金からなる種々の物品についても適用可能な酸化皮膜除去剤を提供する。
【解決手段】メルカプト基を有する還元性化合物を有効成分とする水溶液からなる銅又は銅合金の酸化皮膜除去剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電車軌道に沿う既設のトロリ線を始めとする、銅又は銅合金を主体とする種々の被処理物を対象として、その表面に生じた酸化皮膜を始めとする種々の酸化皮膜を除去するための酸化皮膜除去剤と、これを用いた酸化皮膜除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅やその合金からなる材料は、他の各種金属材料と同様に空気中に置かれる間に表面が酸化等で劣化し、酸化銅を主体とする酸化皮膜を生じることが避けられない。このような酸化皮膜は、一般的には内部金属層の腐食抑制に機能するが、種々の通電材料として表面での電気導通性が必要なものでは当然に導通障害になると共に、中間材料として各種の後加工や後処理を施す際に様々な問題を生起することもあり、その除去を要する場合が多々ある。
【0003】
従来、銅やその合金からなる物品表面の酸化皮膜を除去するのに、主として、研磨や切削、ショットブラスト等によって機械的に削り取る方法と、所謂酸洗として知られるような塩酸、硫酸、硝酸等の水溶液や種々のエッチング液を用いて化学的に溶解除去する方法(特許文献1〜3)が採用されている。しかるに、上記の機械的に削り取る方法は、対象物品が形状的に複雑であったり、サイズが小さい場合には適用困難であり、対象物品の種類による制約が大きいという難点がある。一方、上記の化学的に溶解除去する方法では、対象物品の形態やサイズによる制約は少ないが、強酸水溶液の如き有毒な腐食性液剤を用いるため、工場外の一般環境下では採用できない上、金属層まで侵されて対象物品本来の性能が損なわれる懸念もある。
【0004】
例えば、電車軌道に沿って配設される通電用のトロリ線は、銅やその合金からなり、架線設営後は長期にわたって金属表面を大気中に曝した状態で頻繁に雨水にも濡れることから、表面に酸化銅を主とした酸化皮膜が生成し、その成長に伴って電車のパンタグラフとの間の通電性が低下してゆくため、導通不良で電車走行に支障をきたす前に酸化皮膜を除去する必要がある。しかしながら、前記の化学的な溶解除去法では、トロリ線に液剤をスプレー等で塗着して反応後に水洗するしか方法はないが、当然に該液剤の余剰分ならびに該液剤成分を含む洗浄水が線路の路盤に落下浸透することになって環境汚染を招く上、単に塗着しただけでは酸化皮膜を充分に除去することも困難であり、また繰り返し塗着水洗を行えば金属層が侵食されてトロリ線としての強度や耐久性が損なわれる可能性もある。このために従来にあっては、トロリ線の酸化皮膜を除去するのに、専ら人手によってヤスリ等を用いて削り取るという極めて非能率な方法が採られており、その作業に多大な労力と時間を費やして保全コストが嵩むという問題があった。
【特許文献1】特開平11−61467号公報(段落0002)
【特許文献2】特開2003−342763号公報(段落0002〜0003)
【特許文献3】特開2006−272816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑み、銅やその合金からなる物品表面の酸化銅を主体とする酸化皮膜を除去する手段として、対象物品の形態やサイズによる制約が少なく、且つ酸化皮膜の除去性に優れる上に内部金属層の侵食を生じにくく、既設のトロリ線の如き一般環境下にある銅やその合金からなる種々の物品についても適用可能な酸化皮膜除去剤と、これを用いた酸化皮膜除去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る銅又は銅合金の酸化皮膜除去剤は、メルカプト基を有する還元性化合物を有効成分とする水溶液からなるものとしている。
【0007】
そして、請求項2の発明は、上記請求項1の酸化皮膜除去剤において、上記の還元性化合物と共に水溶性糊剤を含有する構成としている。
【0008】
請求項3の発明は、上記請求項1又は2の酸化皮膜除去剤において、上記の還元性化合物と共に界面活性剤を含有する構成としている。
【0009】
請求項4の発明は、上記請求項1〜3のいずれかの酸化皮膜除去剤において、上記の還元性化合物と共に水溶性多価アルコールを含有する構成としている。
【0010】
請求項5の発明は、上記請求項1〜4のいずれかの酸化皮膜除去剤において、上記の還元性化合物が、チオール、チオカルボン酸、芳香族チオ化合物、これらの塩及び誘導体から選ばれる少なくとも一種である構成としている。
【0011】
一方、請求項6の発明に係る銅又は銅合金の酸化皮膜除去方法は、上記請求項1〜5のいずれかに記載の酸化皮膜除去剤を銅又は銅合金を主体とする被処理物の表面に付与することを特徴としている。
【0012】
また、請求項7の発明は、上記請求項6の酸化皮膜除去方法において、上記の銅又は銅合金を主体とする被処理物が電車軌道に沿う既設のトロリ線である構成としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係る酸化皮膜除去剤によれば、これを銅又は銅合金からなる被処理物の表面に付与することにより、その表面に生じていた酸化銅を主体とする酸化皮膜が有効成分のメルカプト基を有する還元性化合物によって金属まで還元される。従って、例えば被処理物が表面での導電性を要する通電材料である場合、酸化皮膜の消失によって表面の導電性が回復すると共に、内部金属層の侵食減量を生じる懸念もない。また、被処理物が中間材料として各種の後加工や後処理を施すものである場合、酸化皮膜の存在による様々な問題を排除できる。しかも、この酸化皮膜除去剤は有毒な腐食性液剤ではないため、被処理物が工場外の一般環境下に置かれている場合でも支障なく適用できる。
【0014】
請求項2の発明に係る酸化皮膜除去剤では、水溶性糊剤の含有によって水溶液が粘稠になるから、被処理物の表面に対する付着量(液層の厚さ)を多くでき、それだけ酸化皮膜の除去能力が向上し、例えば電車軌道に沿う既設のトロリ線に対しても付着量を多くして確実な酸化皮膜除去を行える。
【0015】
請求項3の発明に係る酸化皮膜除去剤では、界面活性剤の含有によって被処理物の表面に対する濡れ性が向上するから、その付与面全体に均一に酸化皮膜除去を行える。
【0016】
請求項4の発明に係る酸化皮膜除去剤では、水溶性多価アルコールの含有によって水分の蒸発が抑えられるから、継続使用中や保存中における性状変化を生じにくく、それだけ安定した酸化皮膜除去処理を行える。
【0017】
請求項5の発明に係る酸化皮膜除去剤では、メルカプト基を有する還元性化合物として特定の成分を含むことから、特に優れた酸化皮膜除去性が得られる。
【0018】
一方、請求項6の発明に係る酸化皮膜除去方法によれば、上記の酸化皮膜除去剤を銅又は銅合金を主体とする被処理物の表面に付与することから、被処理物表面に生じていた酸化銅を主体とする酸化皮膜が金属まで還元される。
【0019】
また、請求項7の発明に係る酸化皮膜除去方法によれば、電車軌道に沿う既設のトロリ線を処理対象として、その表面の酸化物皮膜を効率よく除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の銅又は銅合金の酸化皮膜除去剤は、メルカプト基を有する還元性化合物を有効成分とする水溶液からなるものであり、これを銅又は銅合金を主体とする被処理物の表面に付与することにより、その表面に生じていた酸化銅を主体とする酸化皮膜を上記還元性化合物によって金属まで還元される。従って、例えば被処理物が表面での導電性を要する通電材料である場合、この酸化皮膜除去剤で酸化皮膜を消失させることにより、表面の導電性が回復すると共に、内部金属層の侵食減量を生じる懸念もない。また、銅又は銅合金からなる被処理物が中間材料として各種の後加工や後処理を施すものである場合、やはり該酸化皮膜除去剤で処理することにより、酸化皮膜の存在による様々な問題を排除できる。しかも、この酸化皮膜除去剤は有毒な腐食性液剤ではないため、工場外の一般環境下に置かれている被処理物に塗着して処理する場合、余剰の処理液や処理後の水洗時の洗浄水が周辺に滴下しても環境汚染を殆ど生じない。
【0021】
なお、被処理物が置かれる環境・雰囲気によって異なるが、銅又は銅合金の酸化皮膜には、主体の酸化物(酸化銅)と共に、水酸化物、塩化物、硫化物、炭酸化物等が微量ないし少量併存する場合が多い。また、電車軌道のトロリ線等では汚れとして油分が付着していることもある。しかるに、本発明の酸化皮膜除去剤によれば、これら併存成分や付着成分を含む酸化皮膜でも支障なく除去できる。
【0022】
上記有効成分のメルカプト基を有する還元性化合物は、酸化銅に対する還元性を示すものであれば特に制約はないが、例えばメタンチオール、エタンチオールの如きチオール系化合物、チオグリコール、チオグリセリンの如きチオポリオール系化合物、チオ酢酸、チオプロピオン酸、チオグリコール酸、チオリンゴ酸の如きチオカルボン酸系化合物、チオ安息香酸、チオサルシル酸、チオフェノールの如き芳香族チオ化合物、これら化合物の誘導体及び塩等が好適なものとして挙げられる。なお、塩としてはアルカリ金属塩、アンモニウム塩、第1〜第3級アミン塩等がある。そして、これら化合物は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0023】
このようなメルカプト基を有する還元性化合物の配合量としては、電車軌道に沿う既設のトロリ線の如く長期間の放置で厚い酸化皮膜を生じている場合、酸化皮膜除去剤水溶液の水を除く成分中、40重量%以上を占める範囲が望ましく、少な過ぎては酸化皮膜を充分に除去する上で処理時間が長くることになる。
【0024】
また、本発明の酸化皮膜除去剤では、上記のメルカプト基を有する還元性化合物と共に、必要に応じて、水溶性糊剤、界面活性剤、水溶性多価アルコール、pH調整剤、香料等を適宜配合してもよい。
【0025】
上記の水溶性糊剤は、酸化皮膜除去剤の水溶液を粘稠化させる成分である。すなわち、酸化皮膜除去剤の水溶液が粘稠であることにより、その水溶液を被処理物の表面に付着させて処理する際、その付着量(液層の厚さ)を多くできるから、それだけ酸化皮膜の除去能力が増す。例えば、電車軌道に沿う既設のトロリ線における酸化皮膜を除去する場合、酸化皮膜除去剤の水溶液を該トロリ線に付着させることになるが、低粘性では滴り落ちて僅かしか付着しないために充分な反応性が得られないのに対し、高粘性では付着量を多くして充分な反応に基づく確実な酸化皮膜除去を行える。
【0026】
このような水溶性糊剤としては、種々の天然ないし合成の糊剤を使用でき、例えば天然系糊剤では澱粉系のもの、半合成系糊剤ではカルボキシメチルセルロース(CMC)系のものが代表的である。また、合成系糊剤では、ポリアクリル酸とその塩、アクリル酸−マレイン酸共重合体の如きポリアクリル酸系糊剤、ポリビニルアルコール系糊剤、ポリオキシエチレンアルキルグリコール系糊剤等が挙げられる。そして、これら水溶性糊剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0027】
水溶性糊剤の配合量は、酸化皮膜除去の処理対象及び処理形態に応じて、酸化皮膜除去剤水溶液が常温下で適当な粘度範囲になるように設定すればよいが、一般的に粘度範囲を900±300cps程度とする量が好ましい。また、酸化皮膜除去の反応性を充分に確保する上で、前記還元性化合物100重量部に対して水溶性糊剤を5重量部以下とすることが推奨される。なお、酸化皮膜除去剤の水溶液中に被処理物を浸漬する処理形態では、このような水溶性糊剤は無配合でもよい。
【0028】
前記の界面活性剤は、酸化皮膜除去剤の濡れ性を向上させる機能を発揮する。従って、これを配合した酸化皮膜除去剤を被処理物表面に付与した際、その付与した表面がムラなく濡れて均一に酸化皮膜除去されることになる。このような界面活性剤としては、特に制約はないが、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルの如き非イオン界面活性剤が好適なものとして挙げられる。
【0029】
しかして、界面活性剤の配合量は、前記還元性化合物100重量部に対して1〜20重量部の範囲がよく、少な過ぎては充分な濡れ性向上効果がなく、逆に多過ぎては前記還元性化合物の作用を阻害する懸念がある。
【0030】
前記の水溶性多価アルコールは、酸化皮膜除去剤の水分蒸発を抑える機能を発揮する。すなわち、これを配合した酸化皮膜除去剤では、継続使用中や保存中において水分蒸発よによる性状変化を生じにくく、それだけ安定した酸化皮膜除去処理を行える。このような水溶性多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0031】
水溶性多価アルコールの配合量は、前記還元性化合物100重量部に対して1〜20重量部の範囲がよく、少な過ぎては充分な使用効果が得られず、逆に多過ぎては前記還元性化合物の作用を阻害する懸念がある。
【0032】
前記のpH調整剤は、酸化皮膜除去剤の水溶液のpHが酸性側又はアルカリ側に偏っている場合に、それを中和して中性付近に調整するために使用する。例えば、前記のメルカプト基を有する還元性化合物としてチオカルボン酸系化合物を用いた場合、その水溶液が酸性になり、そのままでは前記電車軌道のトロリ線を始めとして工場外の一般環境下にある被処理物に適用すると、周辺への飛散や地盤への浸透等で問題を生じるため、pH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液やモノエタノールアミン等のアルカリ化剤を配合して中和することが望ましい。なお、酸化皮膜除去剤の水溶液のpHは7.0±0.5の範囲に設定するのがよい。
【0033】
前記の香料は、前記有効成分のメルカプト基を有する還元性化合物が概して不快臭を放つことから、その消臭や減臭のために配合するものであり、柑橘系やローズ系を始めとして様々な良い香りを発する天然香料及び合成香料をいずれも使用できる。
【0034】
酸化皮膜除去の対象となる被処理物としては、銅又は銅合金を主体とする表面を有するものであればよく、その種類、大きさ、形態等に制約はないが、とりわけ工場外の一般環境下に設置されていて処理のために移動できない物品のように、浸漬処理が困難で専ら表面への酸化皮膜除去剤の付着による処理を必要とする場合に、本発明の酸化皮膜除去剤の適用効果が大きい。
【0035】
例えば、電車軌道に沿う既設のトロリ線を処理対象とする場合、本発明の酸化皮膜除去剤を適当な塗布手段によってトロリ線に付着させることになるが、その水溶液を予め前記水溶性糊剤の配合で高粘性に設定しておくことにより、その付着量を多くして確実な酸化皮膜除去を行える。また、このようなトロリ線の処理では、軌道上に余剰の酸化皮膜除去剤が落下すると共に、処理後のノズル等による水洗の際に反応物を含む洗浄水が軌道上に流下するが、酸洗用やエッチング用の強酸水溶液のような強い毒性や腐食性がない上、予め酸化皮膜除去剤の水溶液を中性に調整しておくことで環境汚染の問題を回避できる。更に、この酸化皮膜除去剤に界面活性剤を配合しておけば、トロリ線の表面への濡れ性が良くなるから、被着した表面全体にムラなく酸化皮膜除去を行える。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例及び比較例について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたセルロース系及びポリアクリル酸系糊剤と合成香料は次の通りである。
セルロース系糊剤・・・・・第一工業製薬社製の商品名セロゲンHE−1500F
ポリアクリル酸系糊剤・・・日光ケミカルズ社製の商品名カーボポール941
合成香料A・・・・・・・・東香料社製の商品名 Bath Bouquet M-7441
合成香料B・・・・・・・・山本香料社製の商品名 GRAPEFRUIT A-11618/SB
【0037】
実施例1
後記表1記載の各成分を用い、常温下で、水(水道水─以下同様)にチオグリコール酸アンモン及びセルロース系糊剤を投入して攪拌後、ポリエチレングリコールアルキルアミンエーテル(非イオン界面活性剤)及びエチレングリコールと合成香料Aを加えて充分に攪拌することにより、pH7.0±0.5で粘稠な酸化皮膜除去剤水溶液を調製した。
【0038】
実施例2
後記表1記載の各成分を用い、常温下で、水にチオグリコール酸を投入して攪拌後、48%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7.0±0.5まで中和したのち、セルロース系糊剤を加えてよく攪拌し、得られた粘稠な水溶液にポリエチレングリコールアルキルエーテル(非イオン界面活性剤)及びジエチレングリコールと合成香料Bを加えて充分に攪拌することにより、酸化皮膜除去剤水溶液を調製した。
【0039】
実施例3
後記表1記載の各成分を用い、常温下で、水にチオグリコール酸を投入して攪拌後、モノエタノールアミンを添加してpH7.0±0.5まで中和したのち、ポリアクリル酸系糊剤を加えてよく攪拌し、得られた粘稠な水溶液にポリエチレングリコールアルキルフェノールエーテル(非イオン界面活性剤)及びグリセリンと合成香料Aを加えて充分に攪拌することにより、酸化皮膜除去剤水溶液を調製した。
【0040】
実施例4
後記表1記載の各成分を用い、常温下で、水にチオリンゴ酸及びセルロース系糊剤を投入して攪拌後、ポリエチレングリコールアルキルアミンエーテル及びエチレングリコールと合成香料Aを加えて充分に攪拌することにより、pH7.0±0.5で粘稠な酸化皮膜除去剤水溶液を調製した。
【0041】
比較例1
後記表1記載の各成分を用い、常温下で、水にチオ尿素及びセルロース系糊剤を投入して攪拌後、ポリエチレングリコールアルキルアミンエーテル及びエチレングリコールと合成香料Aを加えて充分に攪拌することにより、pH7.0±0.5で粘稠な酸化皮膜除去剤水溶液を調製した。
【0042】
〔導電性試験〕
表面の酸化皮膜によって通電性を喪失した既設のトロリ線(直径93mm)を試験用サンプルとして回収し、これを約5cmの長さに切断して5本の試験片を作成し、各々テスターによる抵抗測定で通電性喪失を確認した。そして、前記実施例1〜4及び比較例1の酸化皮膜除去剤水溶液をそれぞれ各試験片の表面に刷毛で塗布し、5分後に試験片表面を水で濡らしたウエスで拭き取り、更に乾いたウエスで拭き取ったのち、電気抵抗測定機(コーナン商事社製の商品名デジタルマルチテスターKM−320N)で抵抗測定して導電性を調べた。その結果を表1に示す。
【0043】
〔侵食性試験〕
前記トロリ線の試験用サンプルより約1mの長さに切断して5本の試験片を作成し、前処理として、前記実施例1〜4の酸化皮膜除去剤水溶液をそれぞれ各試験片の表面に刷毛で塗布し、7日間放置後に水洗、乾燥して酸化皮膜を完全に除去した。次いで、この前処理を施した各試験片の表面に再び前記実施例1〜4の酸化皮膜除去剤水溶液を刷毛で塗布し、その塗布1日後、10日後、30日後に同一箇所の直径をノギスで測定した。その結果を表1に示す。


























【0044】
【表1】

【0045】
上記表1で示す導電性試験の結果から、本発明の酸化皮膜除去剤は、通電性を喪失したトロリ線の表面に塗布して5分程度保持するだけで、その表面の酸化皮膜を確実に除去して通電性を完全に回復させ得ることが実証される。これに対し、メルカプト基を有する還元性化合物に代えて硫黄を含む還元性化合物であるチオ尿素を用いた比較例1の水溶液では、トロリ線表面の酸化皮膜を除去できず、通電性が回復しないことが判る。また、同表の侵食性試験の結果から、本発明の酸化皮膜除去剤は、トロリ線表面に長期間残留しても金属層を侵食せず、銅及び銅合金に対する腐食性がないことが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルカプト基を有する還元性化合物を有効成分とする水溶液からなる銅又は銅合金の酸化皮膜除去剤。
【請求項2】
前記還元性化合物と共に水溶性糊剤を含有してなる請求項1に記載の銅又は銅合金の酸化皮膜除去剤。
【請求項3】
前記還元性化合物と共に界面活性剤を含有してなる請求項1又は2に記載の銅又は銅合金の酸化皮膜除去剤。
【請求項4】
前記還元性化合物と共に水溶性多価アルコールを含有してなる請求項1〜3のいずれかに記載の銅又は銅合金の酸化皮膜除去剤。
【請求項5】
前記還元性化合物が、チオール、チオカルボン酸、芳香族チオ化合物、これらの塩及び誘導体から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載の銅又は銅合金の酸化皮膜除去剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化皮膜除去剤を銅又は銅合金を主体とする被処理物の表面に付与することを特徴とする銅又は銅合金の酸化皮膜除去方法。
【請求項7】
前記の銅又は銅合金を主体とする被処理物が電車軌道に沿う既設のトロリ線である請求項6に記載の銅又は銅合金の酸化皮膜除去方法。

【公開番号】特開2010−111887(P2010−111887A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283311(P2008−283311)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(597158539)旭油脂化学工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】