説明

銅合金板材およびその製造方法

【課題】高い強度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材を安価に製造することができる、銅合金板材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPと、0.01〜0.5質量%のZnと、0.5質量%以下のSnを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金の原料を溶融して鋳造した鋳塊を加熱して保持した後、600℃〜450℃の温度域で加工度が20%以上になるように1000℃〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、時効焼鈍後の導電率が60〜70%IACSになるように時効焼鈍を行い、その後、加工度80%以上の冷間圧延を行った後に、150〜450℃で低温焼鈍を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金板材およびその製造方法に関し、特に、リードフレームなどに使用するCu−Fe−P系銅合金板材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リードフレームなどの電気電子部品に使用される材料は、高強度で、導電性および耐熱性に優れていることが要求されている。特に、リードフレームは、一般にスタンピング加工(プレス打ち抜き加工)によって多数のピンを有する形状に加工され、スタンピング加工時の歪を除去するために高温で加熱処理されるので、耐熱性に優れていることが要求されている。このような材料として、CDA194合金などのCu−Fe−P系銅合金が使用されている。
【0003】
近年、リードフレームなどを使用する半導体装置の大容量化、小型化および高機能化に伴い、リードフレームなどに使用される材料には、さらに高い強度および導電率を有することが要求されている。
【0004】
そのため、Cu−Fe−P系銅合金からなるリード素材に、新たな添加元素としてMgを添加して、導電性を損なうことなく強度および耐熱性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、Cu−Fe−P系銅合金材に、高温および低温の時効処理前に溶体化熱処理および中間の冷間圧延を施して、導電率の低下を招くことなく、強度と耐熱性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、Cu−Fe−P系銅合金材に、熱間加工後で冷間加工前に高温および低温の2段階時効処理を施して、高い強度を損なうことなく、導電性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭64−449号公報(第2頁)
【特許文献2】特許第3896793号公報(段落番号0010−0012)
【特許文献3】特開平10−324935公報(段落番号0007−0015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のように、新たな元素としてMgを添加する場合には、銅合金を製造する際の管理項目増大し、コストが増大する。また、特許文献2のように、高温および低温の時効処理前に溶体化熱処理および中間の冷間圧延を施したり、特許文献3のように、熱間加工後で冷間加工前に高温および低温の2段階時効処理を施す場合には、工程数が増大し、複雑な温度管理が必要になり、コストが増大する。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、高い強度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材を安価に製造することができる、銅合金板材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPと、0.01〜0.5質量%のZnと、0.5質量%以下のSnを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金の原料を溶融して鋳造した鋳塊を加熱して保持した後、600℃〜450℃の温度域で加工度が20%以上になるように1000℃〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、時効焼鈍後の導電率が60〜70%IACSになるように時効焼鈍を行うことにより、高い強度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材を安価に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による銅合金板材の製造方法は、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPと、0.01〜0.5質量%のZnと、0.5質量%以下のSnを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金の原料を溶融して鋳造した鋳塊を加熱して保持した後、600℃〜450℃の温度域で加工度が20%以上になるように1000℃〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、時効焼鈍後の導電率が60〜70%IACSになるように時効焼鈍を行うことを特徴とする。
【0010】
この銅合金板材の製造方法において、銅合金の原料中のFeの含有量が2.1〜3.0質量%、Pの含有量が0.015〜0.15質量%、Znの含有量が0.02〜0.2質量%、Snの含有量が0.1質量%以下であるのが好ましい。また、時効処理を行った後に冷間圧延を行うのが好ましく、冷間圧延の加工度が80%以上であるのが好ましい。また、冷間圧延を行った後に150〜450℃で低温焼鈍を行うのが好ましい。さらに、時効焼鈍を400〜650℃で5〜15時間行うのが好ましい。
【0011】
また、本発明による銅合金板材は、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPと、0.01〜0.5質量%のZnと、0.5質量%以下のSnを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが150以上であり、450℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上であることを特徴とする。
【0012】
この銅合金板材中のFeの含有量が2.1〜3.0質量%、Pの含有量が0.015〜0.15質量%、Znの含有量が0.02〜0.2質量%、Snの含有量が0.1質量%以下であるのが好ましい。また、この銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とすると、I{220}/I{220}が3.5以上であり、450℃で30分間保持した後のI{220}/I{220}が3.0以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い強度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材を安価に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による銅合金板材の製造方法の実施の形態では、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPと、0.01〜0.5質量%のZnと、0.5質量%以下のSnを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金の原料を溶融して鋳造した鋳塊を加熱して保持した後、600℃〜450℃の温度域で加工度が20%以上になるように1000℃〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、時効焼鈍後の導電率が60〜70%IACSになるように時効焼鈍を行い、その後、加工度80%以上、好ましくは90%以上の冷間圧延を行った後に、150〜450℃で低温焼鈍を行う。
【0015】
Feは、銅合金板材の強度を向上させる作用を有するが、その含有量が1.5質量%未満では強度の向上が不十分であり、3.0質量%を超えると導電率が低下するので、Fe含有量は1.5〜3.0質量%であるのが好ましく、2.1〜3.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0016】
Pは、溶湯の脱酸作用を有するとともに、Feと化合物を形成して析出することによって導電率および強度を向上させる作用を有するが、その含有量が0.01質量%未満ではこれらの作用が不十分であり、0.2質量%を超えるとこれらの作用が飽和して経済的でないので、P含有量は0.01〜0.2質量%であるのが好ましく、0.015〜0.15質量%であるのがさらに好ましい。
【0017】
Znは、Pと同様に溶湯の脱酸作用を有するが、その含有量が0.01質量%未満では脱酸作用が不十分であり、0.5質量%を超えると脱酸作用が飽和して導電率も低下するので、Zn含有量は0.01〜0.5質量%であるのが好ましく、0.02〜0.2質量%であるのがさらに好ましい。
【0018】
Snは、銅合金板材の耐熱性を向上させる作用を有するが、その含有量が0.5質量%を超えるとマクロ偏析して熱間加工性が低下するので、Sn含有量は0.5質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0019】
なお、銅合金板材の原料として、電子材料のスクラップなどを使用する場合には、スクラップ中に混入した元素が原料中に不可避的に混入する可能性がある。また、多数の種類の銅合金を製造する場合、それぞれの銅合金の原料を同一の溶解炉で溶解すると、僅かではあるが、前の銅合金の成分が原料中に混入する場合がある。このような不可避不純物として、例えば、Ni、Mg、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、Bi、Sbなどを、それぞれ0.02質量%以下、合計0.05質量%以下の範囲で含んでもよい。
【0020】
本発明による銅合金板材の製造方法の実施の形態によって、銅合金の原料を溶解して鋳造する鋳塊は、通常の銅合金の連続鋳造法または半連続鋳造法により製造することができる。
【0021】
この鋳塊の熱間圧延は、加熱炉によって900〜1000℃程度の温度で2時間以上保持した後に行う。この熱間圧延時の温度は、1000℃程度〜350℃であるが、600℃〜350℃の温度域、好ましくは600℃〜450℃の温度域で加工度10%以上、好ましくは20%以上の熱間圧延を行う。この熱間圧延によって、銅マトリックス中に微細なFeまたはFe−P系化合物が析出すると考えられる。なお、600℃〜350℃の温度域、好ましくは600℃〜450℃の低温域の熱間圧延では、金属間化合物が動的に析出することにより、高温域では起こらない析出物の生成と微細化が起こるという効果があり、その後の時効焼鈍処理の温度を低くし且つ時間を短くしても、硬さと導電率の両方を高くすることができる。また、熱間圧延後の導電率が40%IACS未満であると、FeまたはFe−P系化合物の析出の進行が不十分であり、その後の時効焼鈍処理で得られる析出物の微細化が困難になると考えられ、一方、熱間圧延後の導電率が85%IACSを越えると、析出物が粗大化する可能性があるため、熱間圧延後の導電率が40〜85%IACSであるのが好ましく、40〜60%IACSになるのがさらに好ましく、40〜50%IACSになるのが最も好ましいが、上記の熱間圧延を行うことによって、熱間圧延後の導電率をこの範囲にすることができる。
【0022】
この熱間圧延後の時効焼鈍は、時効焼鈍後の導電率が60〜70%IACSになるように行う。時効焼鈍後の導電率が60%IACSより低いと、高い導電率の銅合金板材を製造することができず、一方、時効焼鈍後の導電率が70%IACSより高いと、加熱した後の硬さが低下したり、析出物が粗大化して可撓性が低下する。このように時効焼鈍後の導電率が60〜70%IACSになるようにするには、400〜650℃で5〜15時間時効焼鈍を行うのが好ましい。高温度および長時間になるにつれて、導電率が高く且つ耐熱性が悪くなる傾向があると考えられるので、銅合金板材に要求される特性に応じて適切な条件で時効焼鈍を行うのが好ましい。なお、設備的に難しい場合には、銅合金板材を熱間圧延した後に、面削し、冷間圧延した後、時効焼鈍を行っても問題ないと考えられるが、時効焼鈍後の酸洗を行う必要があるので、コストが増大する。
【0023】
また、時効焼鈍後の最終冷間圧延は、所望の板厚になるように行う。一般に、加工度が高くなるにつれて、強度が高くなるが、耐熱性が低下すると考えられる。しかし、本発明による銅合金板材の製造方法の実施の形態によって製造される銅合金板材は、最終冷間圧延の加工度80%以上、好ましくは90%以上であっても、優れた耐熱性を有する。また、要求される強度および板厚によっては、最終冷間圧延後に低温焼鈍を行う必要がある。この低温焼鈍は、歪取り焼鈍であり、加工度を高くすることによって低下した導電率を回復するために行う。
【0024】
本発明による銅合金板材の実施の形態は、1.5〜3.0質量%、好ましくは2.1〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%、好ましくは0.015〜0.15質量%のPと、0.01〜0.5質量%、好ましくは0.02〜0.2質量%のZnと、0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下のSnを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有するu−Fe−P系合金からなる板材であり、導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが150以上であり、450℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上である。また、この銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とすると、I{220}/I{220}が3.5以上であり、450℃で30分間保持した後のI{220}/I{220}が3.0以上であるのが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明による銅合金板材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0026】
[実施例1〜7]
表1に示す化学成分の銅合金(2.12質量%のFeと、0.029質量%のPと、0.08質量%のZnと、0.024質量%のSnと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金)を高周波溶解炉で溶解し、厚さ30mm×幅50mm×長さ150mmの7つの鋳塊を作製した。
【0027】
これらの鋳塊を、加熱炉によって900〜950℃で3時間保持した後、900〜450℃で熱間圧延を行って板厚10mmの圧延材を得た。なお、この熱間圧延は、温度域900〜600℃で9パス行った後、温度域600〜450℃で1パス行い、この温度域600〜450℃で行う加工度を30%とした。この熱間圧延後の導電率を測定したところ、42.9%IACSであった。
【0028】
次に、得られた圧延材に、焼鈍炉によって等温時効をそれぞれ550℃で5時間(実施例1)、550℃で7時間(実施例2)、550℃で9時間(実施例3)、550℃で15時間(実施例4)、450℃で9時間(実施例5)、500℃で9時間(実施例6)、600℃で9時間(実施例7)行った後に急冷した。この時効処理後の導電率をJIS H0505の導電率測定方法に従って測定したところ、それぞれ62.5%IACS(実施例1)、64.7%IACS(実施例2)、66.1%IACS(実施例3)、68.7%IACS(実施例4)、63.7%IACS(実施例5)、66.3%IACS(実施例6)、64.0%IACS(実施例7)であり、いずれも60〜70%IACSであった。
【0029】
最後に、時効焼鈍後の圧延材の表面および裏面を研磨し、加工度(圧延率)99%で仕上げ冷間圧延を行った後、300℃の焼鈍炉内で30分間保持する低温焼鈍を行って、板厚0.125mmの銅合金板材を作製した。これらの銅合金板材の製造条件を表1および表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
このようにして得られた銅合金板材の導電率をJIS H0505の導電率測定方法に従って測定したところ、それぞれ60.0%IACS(実施例1)、61.5%IACS(実施例2)、63.0%IACS(実施例3)、64.5%IACS(実施例4)、61.2%IACS(実施例5)、63.3%IACS(実施例6)、62.5%IACS(実施例7)であり、いずれも60%IACS以上であった。
【0033】
また、得られた銅合金板材のビッカース硬さHVをJIS Z2244に準拠して測定したところ、それぞれ170(実施例1)、169(実施例2)、169(実施例3)、165(実施例4)、165(実施例5)、166(実施例6)、165(実施例7)であり、いずれも150以上であった。
【0034】
また、得られた銅合金板材のX線回折強度を測定した。このX線回折強度(X線回折積分強度)の測定は、銅合金板材の板面(圧延面)を#1500耐水ペーパーで研磨仕上げした試料を用意し、X線回折装置(XRD)を用いて、Mo−Kα線、管電圧20kV、管電流2mAの条件で、試料の研磨仕上げ面について{220}面のX線回折強度(反射回折面積分強度)I{220}を測定することによって行った。一方、同じX線回折装置を用いて、同じ測定条件で、純銅標準粉末の{220}面のX線回折強度I{220}も測定した。これらの測定値を用いて、X線回折強度比I{220}/I{220}を求めた。その結果、I{220}/I{220}は、それぞれ4.1(実施例1)、3.8(実施例2)、3.7(実施例3)、4.1(実施例4)、3.9(実施例5)、3.9(実施例6)、3.9(実施例7)であり、いずれも3.5以上であった。
【0035】
次に、得られた銅合金板材を450℃で30分間保持する耐熱試験を行った後、ビッカース硬さHVを測定したところ、それぞれ153(実施例1)、147(実施例2)、146(実施例3)、142(実施例4)、146(実施例5)、145(実施例6)、148(実施例7)であり、いずれも140以上であった。
【0036】
また、450℃で30分間保持する耐熱試験後の銅合金板材について、上述した方法と同様に、X線回折強度を測定し、X線回折強度比I{220}/I{220}を求めたところ、それぞれ4.1(実施例1)、3.9(実施例2)、4.4(実施例3)、3.8(実施例4)、3.9(実施例5)、4.2(実施例6)、3.6(実施例7)であり、いずれも3.0以上であった。
【0037】
これらの結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
[比較例1〜3]
等温時効をそれぞれ550℃で0時間(比較例1)、550℃で1時間(比較例2)、550℃で3時間(比較例3)とした以外は、実施例1〜7と同様の方法により、銅合金板材を作製した。なお、実施例1〜7と同様の方法により測定した熱間圧延後の導電率は42.9%IACであった。また、実施例1〜7と同様の方法により測定した時効処理後の導電率は、それぞれ41.9%IACS(比較例1)、57.1%IACS(比較例2)、58.9%IACS(比較例3)であり、いずれも60%IACSより低かった。これらの銅合金板材の製造条件を表4および表5に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
また、得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前の導電率、耐熱試験前後のビッカース硬さHVを測定するとともに、比較例1で得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前後のI{220}/I{220}を求めた。耐熱試験前の導電率は、それぞれ42.5%IACS(比較例1)、55.4%IACS(比較例2)、56.3%IACS(比較例3)であり、いずれも60%IACSより低かった。耐熱試験前のビッカース硬さHVは、それぞれ171(比較例1)、170(比較例2)、166(比較例3)であり、いずれも150以上であった。また、耐熱試験後のビッカース硬さHVは、それぞれ156(比較例1)、152(比較例2)、153(比較例3)であり、いずれも140以上であった。また、比較例1で得られた銅合金板材について、耐熱試験前のI{220}/I{220}は3.7、耐熱試験後のI{220}/I{220}は4.0であり、それぞれ3.5以上および3.0以上であった。これらの結果を表6に示す。
【0043】
【表6】

【0044】
[実施例8〜9]
仕上げ冷間圧延における圧延率をそれぞれ90%(実施例8)、80%(実施例9)とした以外は、実施例4と同様の方法により、銅合金板材を作製した。なお、実施例1〜7と同様の方法により測定した熱間圧延後の導電率は42.9%IACSであった。また、実施例1〜7と同様の方法により測定した時効処理後の導電率は、それぞれ68.7%IACS(実施例8)、68.7%IACS(実施例9)であり、いずれも60〜70%IACSであった。これらの銅合金板材の製造条件を表1および表2に示す。
【0045】
また、得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前の導電率、耐熱試験前後のビッカース硬さHVを測定するとともに、耐熱試験前後のI{220}/I{220}を求めた。耐熱試験前の導電率は、それぞれ64.0%IACS(実施例8)、65.0%IACS(実施例9)であり、いずれも60%IACS以上であった。耐熱試験前のビッカース硬さHVは、それぞれ166(実施例8)、155(実施例9)であり、いずれも150以上であった。また、耐熱試験後のビッカース硬さHVは、それぞれ145(実施例8)、141(実施例9)であり、いずれも140以上であった。耐熱試験前のI{220}/I{220}は、それぞれ3.8(実施例8)、3.6(実施例9)であり、いずれも3.5以上であった。また、耐熱試験後のI{220}/I{220}は、それぞれ3.6(実施例8)、3.8(実施例9)であり、いずれも3.0以上であった。これらの結果を表3に示す。
【0046】
[実施例10〜14]
表1に示す化学成分の銅合金(実施例10では、2.10質量%のFeと、0.030質量%のPと、0.08質量%のZnと、0.020質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金、実施例11では、1.50質量%のFeと、0.100質量%のPと、0.20質量%のZnを含み、残部がCuからなる銅合金、実施例12では、2.20質量%のFeと、0.010質量%のPと、0.09質量%のZnと、0.070質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金、実施例13では、2.70質量%のFeと、0.100質量%のPと、0.14質量%のZnと、0.030質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金、実施例14では、3.00質量%のFeと、0.050質量%のPと、0.02質量%のZnと、0.100質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金)から鋳塊を作製した以外は、実施例3と同様の方法により、銅合金板材を作製した。なお、実施例1〜7と同様の方法により測定した時効処理後の導電率は、それぞれ66.1%IACS(実施例10)、67.0%IACS(実施例11)、63.5%IACS(実施例12)、64.7%IACS(実施例13)、63.2%IACS(実施例14)であり、いずれも60〜70%IACSであった。これらの銅合金板材の製造条件を表1および表2に示す。
【0047】
また、得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前の導電率、耐熱試験前後のビッカース硬さHVを測定するとともに、耐熱試験前後のI{220}/I{220}を求めた。耐熱試験前の導電率は、それぞれ63.0%IACS(実施例10)、65.5%IACS(実施例11)、61.0%IACS(実施例12)、62.0%IACS(実施例13)、60.8%IACS(実施例14)であり、いずれも60%IACS以上であった。耐熱試験前のビッカース硬さHVは、それぞれ169(実施例10)、160(実施例11)、162(実施例12)、164(実施例13)、166(実施例14)であり、いずれも150以上であった。また、耐熱試験後のビッカース硬さHVは、それぞれ146(実施例10)、147(実施例11)、146(実施例12)、144(実施例13)、146(実施例14)であり、いずれも140以上であった。耐熱試験前のI{220}/I{220}は、それぞれ3.7(実施例10)、3.9(実施例11)、3.6(実施例12)、3.8(実施例13)、4.0(実施例14)であり、いずれも3.5以上であった。また、耐熱試験後のI{220}/I{220}は、それぞれ4.4(実施例10)、3.8(実施例11)、4.1(実施例12)、3.9(実施例13)、4.0(実施例14)であり、いずれも3.0以上であった。これらの結果を表3に示す。
【0048】
[実施例15〜17]
600℃〜450℃における熱間圧延の加工度をそれぞれ20%(実施例15)、40%(実施例16)、50%(実施例17)とした以外は、実施例3と同様の方法により、銅合金板材を作製した。なお、実施例1〜7と同様の方法により測定した熱間圧延後の導電率は、それぞれ40.8%IACS(実施例15)、43.1%IACS(実施例16)、43.6%IACS(実施例17)であった。また、実施例1〜7と同様の方法により測定した時効処理後の導電率は、それぞれ62.7%IACS(実施例15)、63.5%IACS(実施例16)、63.3%IACS(実施例17)であり、いずれも60〜70%IACSであった。これらの銅合金板材の製造条件を表1および表2に示す。
【0049】
また、得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前の導電率、耐熱試験前後のビッカース硬さHVを測定するとともに、耐熱試験前後のI{220}/I{220}を求めた。耐熱試験前の導電率は、それぞれ63.0%IACS(実施例15)、64.2%IACS(実施例16)、63.5%IACS(実施例17)であり、いずれも60%IACS以上であった。耐熱試験前のビッカース硬さHVは、それぞれ168(実施例15)、169(実施例16)、167(実施例17)であり、いずれも150以上であった。また、耐熱試験後のビッカース硬さHVは、それぞれ145(実施例15)、146(実施例16)、145(実施例17)であり、いずれも140以上であった。耐熱試験前のI{220}/I{220}は、それぞれ3.8(実施例15)、3.6(実施例16)、3.9(実施例17)であり、いずれも3.5以上であった。また、耐熱試験後のI{220}/I{220}は、それぞれ4.2(実施例15)、3.8(実施例16)、3.9(実施例17)であり、いずれも3.0以上であった。これらの結果を表3に示す。
【0050】
[比較例4〜5]
表1に示す化学成分の銅合金(比較例4では、2.20質量%のFeと、0.029質量%のPと、0.10質量%のZnと、0.027質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金、比較例5では、2.22質量%のFeと、0.036質量%のPと、0.09質量%のZnと、0.067質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金)から鋳塊を作製し、900〜450℃の熱間圧延の代わりに900〜600で熱間圧延10パス行い、等温時効を570℃で8時間行った以外は、実施例1〜7と同様の方法により、銅合金板材を作製した。なお、実施例1〜7と同様の方法により測定した時効処理後の導電率は、それぞれ66.0%IACS(比較例4)、65.8%IACS(比較例5)であり、いずれも60〜70%IACSであった。これらの銅合金板材の製造条件を表4および表5に示す。
【0051】
また、得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前の導電率、耐熱試験前後のビッカース硬さHVを測定した。耐熱試験前の導電率は、それぞれ63.0%IACS(比較例4)、62.7%IACS(比較例5)であり、いずれも60%IACS以上であった。耐熱試験前のビッカース硬さHVは、それぞれ156(比較例4)、170(比較例5)であり、いずれも150以上であったが、耐熱試験後のビッカース硬さHVは、それぞれ95(比較例4)、123(比較例5)であり、いずれも140よりも低かった。これらの結果を表6に示す。
【0052】
[比較例6]
等温時効を550℃で20時間(比較例2)とした以外は、実施例1〜7と同様の方法により、銅合金板材を作製した。なお、実施例1〜7と同様の方法により測定した熱間圧延後の導電率は42.9%IACSであった。また、実施例1〜7と同様の方法により測定した時効処理後の導電率は、73.8%IACSであり、70%IACSより高かった。この銅合金板材の製造条件を表4および表5に示す。
【0053】
また、得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前の導電率、耐熱試験前後のビッカース硬さHVを測定するとともに、耐熱試験前後のI{220}/I{220}を求めた。耐熱試験前の導電率は、66.0%IACSであり、60%IACS以上であった。耐熱試験前のビッカース硬さHVは165であり、150以上であったが、耐熱試験後のビッカース硬さHVは112であり、140より低かった。耐熱試験前のI{220}/I{220}は3.8であり、3.5以上であったが、耐熱試験後のI{220}/I{220}は1.8であり、3.0より低かった。これらの結果を表6に示す。
【0054】
[比較例7〜14]
900〜450℃の熱間圧延の代わりに900〜600で熱間圧延10パス行い、等温時効を550℃で7時間(比較例7)、550℃で9時間(比較例8)、550℃で15時間(比較例9)、550℃で20時間(比較例10)、450℃で9時間(比較例11)、500℃で9時間(比較例12)、550℃で9時間(比較例13)、600℃で9時間(比較例14)行った以外は、実施例1〜7と同様の方法により、銅合金板材を作製した。なお、実施例1〜7と同様の方法により測定した熱間圧延後の導電率は38.3%IACSであった。また、実施例1〜7と同様の方法により測定した時効処理後の導電率は、それぞれ60.4%IACS(比較例7)、65.2%IACS(比較例8)、67.2%IACS(比較例9)、70.2%IACS(比較例10)、62.0%IACS(比較例11)、64.8%IACS(比較例12)、65.2%IACS(比較例13)、63.8%IACS(比較例14)であり、いずれも60〜70%IACSであった。これらの銅合金板材の製造条件を表4および表5に示す。
【0055】
また、得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前の導電率、耐熱試験前後のビッカース硬さHVを測定するとともに、耐熱試験前後のI{220}/I{220}を求めた。耐熱試験前の導電率は、それぞれ58.5%IACS(比較例7)、61.5%IACS(比較例8)、63.8%IACS(比較例9)、64.5%IACS(比較例10)、59.0%IACS(比較例11)、62.0%IACS(比較例12)、61.6%IACS(比較例13)、61.0%IACS(比較例14)であり、比較例8〜10と12〜14では60%IACS以上であったが、比較例7および11では60%IACSより低かった。耐熱試験前のビッカース硬さHVは、それぞれ166(比較例7)、164(比較例8)、163(比較例9)、160(比較例10)、165(比較例11)、163(比較例12)、164(比較例13)、166(比較例14)であり、いずれも150以上であった。また、耐熱試験後のビッカース硬さHVは、それぞれ140(比較例7)、135(比較例8)、98(比較例9)、95(比較例10)、128(比較例11)、115(比較例12)、135(比較例13)、132(比較例14)であり、比較例7では140以上であったが、他の比較例8〜14ではいずれも140より低かった。耐熱試験前のI{220}/I{220}は、それぞれ4.0(比較例7)、3.9(比較例8)、4.0(比較例9)、4.0(比較例10)、3.9(比較例11)、3.9(比較例12)、3.9(比較例13)、3.9(比較例14)であり、いずれも3.5以上であった。また、耐熱試験後のI{220}/I{220}は、それぞれ3.8(比較例7)、2.9(比較例8)、1.8(比較例9)、1.8(比較例10)、2.5(比較例11)、2.2(比較例12)、2.9(比較例13)、2.9(比較例14)であり、比較例7では3.0以上であったが、他の比較例8〜14ではいずれも3.0より低かった。これらの結果を表6に示す。
【0056】
[比較例15]
仕上げ冷間圧延における圧延率を70%とした以外は、実施例4と同様の方法により、銅合金板材を作製した。なお、実施例1〜7と同様の方法により測定した熱間圧延後の導電率は42.9%IACSであった。また、実施例1〜7と同様の方法により測定した時効処理後の導電率は、68.7%IACSであり、60〜70%IACSであった。この銅合金板材の製造条件を表4および表5に示す。
【0057】
また、得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前の導電率、耐熱試験前後のビッカース硬さHVを測定するとともに、耐熱試験前後のI{220}/I{220}を求めた。耐熱試験前の導電率は、65.2%IACSであり、60%IACS以上であった。耐熱試験前のビッカース硬さHVは148であり、150より低く、耐熱試験後のビッカース硬さHVは138であり、140より低かった。耐熱試験前のI{220}/I{220}は3.5であり、3.5以上であり、耐熱試験後のI{220}/I{220}は3.6であり、3.0以上であった。これらの結果を表6に示す。
【0058】
[比較例16〜20]
表1に示す化学成分の銅合金(比較例16では、2.10質量%のFeと、0.030質量%のPと、0.08質量%のZnと、0.020質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金、比較例17では、1.50質量%のFeと、0.100質量%のPと、0.20質量%のZnを含み、残部がCuからなる銅合金、比較例18では、2.20質量%のFeと、0.010質量%のPと、0.09質量%のZnと、0.070質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金、比較例19では、2.70質量%のFeと、0.100質量%のPと、0.14質量%のZnと、0.030質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金、比較例20では、3.00質量%のFeと、0.050質量%のPと、0.02質量%のZnと、0.100質量%のSnを含み、残部がCuからなる銅合金)から鋳塊を作製し、900〜450℃の熱間圧延の代わりに900〜600で熱間圧延10パス行った以外は、実施例3と同様の方法により、銅合金板材を作製した。なお、実施例1〜7と同様の方法により測定した時効処理後の導電率は、それぞれ65.2%IACS(比較例16)、67.2%IACS(比較例17)、64.2%IACS(比較例18)、64.6%IACS(比較例19)、62.7%IACS(比較例20)であり、いずれも60〜70%IACSであった。これらの銅合金板材の製造条件を表4および表5に示す。
【0059】
また、得られた銅合金板材について、実施例1〜7と同様の方法により、耐熱試験前の導電率、耐熱試験前後のビッカース硬さHVを測定するとともに、耐熱試験前後のI{220}/I{220}を求めた。耐熱試験前の導電率は、それぞれ61.5%IACS(比較例16)、64.2%IACS(比較例17)、61.2%IACS(比較例18)、61.6%IACS(比較例19)、59.8%IACS(比較例20)であり、比較例16〜19では60%IACS以上であったが、比較例20では60%IACSより低かった。耐熱試験前のビッカース硬さHVは、それぞれ164(比較例16)、163(比較例17)、162(比較例18)、165(比較例19)、165(比較例20)であり、いずれも150以上であった。また、耐熱試験後のビッカース硬さHVは、それぞれ135(比較例16)、130(比較例17)、136(比較例18)、128(比較例19)、120(比較例20)であり、いずれも140より低かった。耐熱試験前のI{220}/I{220}は、それぞれ3.9(比較例16)、3.8(比較例17)、3.9(比較例18)、3.9(比較例19)、4.0(比較例20)であり、いずれも3.5以上であった。また、耐熱試験後のI{220}/I{220}は、それぞれ2.9(比較例16)、2.1(比較例17)、2.8(比較例18)、2.5(比較例19)、2.2(比較例20)であり、いずれも3.0より低かった。これらの結果を表6に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPと、0.01〜0.5質量%のZnと、0.5質量%以下のSnを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金の原料を溶融して鋳造した鋳塊を加熱して保持した後、600℃〜450℃の温度域で加工度が20%以上になるように1000℃〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、時効焼鈍後の導電率が60〜70%IACSになるように時効焼鈍を行うことを特徴とする、銅合金板材の製造方法。
【請求項2】
前記銅合金の原料中のFeの含有量が2.1〜3.0質量%、Pの含有量が0.015〜0.15質量%、Znの含有量が0.02〜0.2質量%、Snの含有量が0.1質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の銅合金板材の製造方法。
【請求項3】
前記時効処理を行った後に冷間圧延を行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の銅合金板材の製造方法。
【請求項4】
前記冷間圧延の加工度が80%以上であることを特徴とする、請求項3に記載の銅合金板材の製造方法。
【請求項5】
前記冷間圧延を行った後に150〜450℃で低温焼鈍を行うことを特徴とする、請求項3または4に記載の銅合金板材の製造方法。
【請求項6】
前記時効焼鈍を400〜650℃で5〜15時間行うことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の銅合金板材の製造方法。
【請求項7】
1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPと、0.01〜0.5質量%のZnと、0.5質量%以下のSnを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが150以上であり、450℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上であることを特徴とする、銅合金板材。
【請求項8】
前記銅合金板材中のFeの含有量が2.1〜3.0質量%、Pの含有量が0.015〜0.15質量%、Znの含有量が0.02〜0.2質量%、Snの含有量が0.1質量%以下であることを特徴とする、請求項7に記載の銅合金板材。
【請求項9】
前記銅合金板材の板面における{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とし、純銅標準粉末の{220}結晶面のX線回折強度をI{220}とすると、I{220}/I{220}が3.5以上であり、450℃で30分間保持した後のI{220}/I{220}が3.0以上であることを特徴とする、請求項7または8に記載の銅合金板材。