銅系吸収剤の再生方法及び原料ガス中の水銀除去方法
【課題】 使用により水銀吸収性能が失われた使用済み銅系吸収剤を再生する方法を提供する。
【解決手段】 水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱し、前記使用済み銅系吸収剤から水銀を放出させる。
【解決手段】 水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱し、前記使用済み銅系吸収剤から水銀を放出させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスガス化ガスや廃棄物ガス化ガス等の水銀を含む原料ガスを接触させて原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤の再生方法及び原料ガス中の水銀除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や廃棄物の減量化が求められており、バイオマスや廃棄物などをガス化させて製造した原料ガスを発電設備(燃料電池やガスエンジン)の燃料ガスとすることが考えられている。バイオマスや廃棄物などから製造した原料ガスには環境に悪影響を与える不純物が含まれているため、不純物を除去することが不可欠である。特に、蒸気圧が高い水銀はフィルタ等によるろ過では除去できないため、水銀を除去するための除去剤が使用されている。
【0003】
水銀の除去方法として、例えば天然ガス中に含まれる水銀を除去する際などでは添着活性炭を除去剤として用いる方法が知られている。また、銅を含む溶液から沈殿法により生成された沈殿物を濾過・洗浄・乾燥し、さらに150℃〜400℃にいったん加熱することによって得られたガス状水銀吸収物質を含むガス状水銀除去剤など、銅を主体とした銅系吸収剤を用いて水銀を吸収する技術(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【0004】
この銅系吸収剤は、バイオマスガス化ガス等を接触させることでバイオマスガス化ガス等に含まれる水銀を吸収してバイオマスガス化ガス等から水銀を除去するものである。銅系吸収剤には、水銀を吸収可能な量、すなわち吸収容量があるため、水銀除去への使用にともない水銀吸収性能は次第に失われる。このため、水銀吸収性能が失われた銅系吸収剤は新品の銅系吸収剤に交換して使用される。
【0005】
しかしながら、銅系吸収剤を再生する方法が確立されていないため、使用済みの銅系吸収剤は廃棄されることになり、水銀を含有する大量の廃棄物が発生してしまうという問題や、大量の新品の銅系吸収剤を消費するという問題が生じ、銅系吸収剤の製造および処理コストの増大や資源の有効利用の点で課題となっている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−161255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、使用により水銀吸収性能が失われた使用済み銅系吸収剤を再生する方法を提供することを目的とする。
また、本発明はこのような事情に鑑み、使用により水銀吸収性能が失われた使用済み銅系吸収剤を再生することができる原料ガス中の水銀除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため検討した結果、水銀を含む(硫黄化合物及びハロゲン化物を含む)原料ガス中の水銀を吸収した使用済みの銅系吸収剤は、特定条件で加熱することにより再生できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、水銀を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で前記使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱して、前記使用済み銅系吸収剤から水銀を放出させることを特徴とする。
【0010】
請求項1の本発明では、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱することで水銀を放出させることにより、使用済み銅系吸収剤を再生することができる。従って、再生した銅系吸収剤を再度原料ガス中の水銀の除去に使用することができるため、銅系吸収剤の廃棄物量及び使用量を低減することができる。
【0011】
そして、請求項2に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記原料ガスは、硫黄化合物を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項2の本発明では、水銀、硫黄化合物を含む原料ガス中の水銀を吸収することができる。
【0013】
また、請求項3に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記原料ガスは、硫黄化合物及びハロゲン化物を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項3の本発明では、水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガス中の水銀を吸収することができる。
【0015】
また、請求項4に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記原料ガスが、バイオマスをガス化させることにより生成したバイオマスガス化ガス、または、廃棄物をガス化させることにより生成した廃棄物ガス化ガスであることを特徴とする。
【0016】
請求項4の本発明では、バイオマスガス化ガス又は廃棄物ガス化ガスから水銀を吸収するバイオマスガス化ガス用又は廃棄物ガス化ガス用の銅系吸収剤を再生することができる。
【0017】
また、請求項5に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記使用済み銅系吸収剤は、120〜160℃で、前記原料ガスを接触させて該原料ガス中の水銀を吸収したものであることを特徴とする。
【0018】
請求項5の本発明では、120〜160℃という比較的低温で原料ガスから水銀を除去する系で使用する銅系吸収剤を再生することができる。
【0019】
また、請求項6に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記水銀が放出された前記銅系吸収剤は、硫化銅を含むことを特徴とする。
【0020】
請求項6の本発明では、硫化銅を含む銅系吸収剤に対して水銀が吸収され、再生時には加熱により水銀が放出される。
【0021】
また、請求項7に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、未使用の前記銅系吸収剤が、酸化銅のみ、あるいは酸化銅と担体成分、または、成形助剤を含むことを特徴とする。
【0022】
請求項7の本発明では、酸化銅のみ、あるいは酸化銅と担体成分、又は、成形助剤を含む銅系吸収剤を再生することができる。
【0023】
上記目的を達成するための請求項8に係る本発明の原料ガス中の水銀除去方法は、水銀を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を前記銅系吸収剤に吸収させた後、この水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を請求項1〜7の何れか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法により再生し、再生した使用済み銅系吸収剤に再び水銀を含む原料ガスを接触させて水銀を吸収させることを特徴とする。
【0024】
請求項8の本発明では、原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を再生して再度原料ガス中の水銀の除去に使用することにより、銅系吸収剤の廃棄物及び使用量を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の銅系吸収剤の再生方法は、使用により水銀吸収性能が失われた使用済み銅系吸収剤を再生することができる。
【0026】
また、本発明の原料ガス中の水銀除去方法は、使用により水銀吸収性能が失われた使用済み銅系吸収剤を再生して水銀を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の再生方法で再生する銅系吸収剤は、水銀(例えば0.1μg/m3Nより高い濃度)の他、H2SやCOS等の硫黄化合物や、HClやHF等のハロゲン化物が含まれる原料ガスを、例えば、120〜160℃で接触させて原料ガス中の水銀を吸収した銅系吸収剤である。水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスとしては、糞や木材などのバイオマスや建築廃材、都市ゴミなどの廃棄物等からなる固形燃料をガス化させることにより生成したバイオマスガス化ガスや廃棄物ガス化ガス等が挙げられる。
【0028】
尚、本明細書において使用済み銅系吸収剤とは、銅系吸収剤に原料ガスを接触させて水銀を吸収することにより水銀吸収性能が失われた状態の銅系吸収剤をいう。
【0029】
また、銅系吸収剤とは、銅を主体とする吸収剤であればよく、未使用の銅系吸収剤としては、例えば、銅化合物のみ、あるいは銅化合物と担体成分、又は、成形助剤を含む吸収剤で、これらの銅化合物としては酸化銅あるいは金属銅が挙げられる。担体成分としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ゼオライト、グラスファイバー等が挙げられる。
【0030】
また、成形助剤としては、エチレングリコール、粘土鉱物等が挙げられる。銅系吸収剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、酸化銅と担体成分(シリカ)からなる銅系吸収剤の製造方法の具体例としては、塩化銅、硫酸銅、又は硝酸銅の水溶液にシリカゾルを加えた混合水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し生成した沈殿物を濾過、洗浄、乾燥、焼成して得る方法が挙げられる。
【0031】
本発明の銅系吸収剤の再生方法では、使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱して、使用済み銅系吸収剤から水銀を放出させると共に使用済み銅系吸収剤を酸化する。このように、使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱することによって、水銀が放出され、原料ガス中の水銀を吸収して原料ガスから水銀を除去する水銀吸収性能を回復することができる。
【0032】
詳述すると、まず、銅系吸収剤に硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスを接触させると、銅系吸収剤は原料ガス中の水銀を吸収して除去するが、銅系吸収剤には水銀を吸収可能な量、すなわち吸収容量があるため、水銀除去への使用にともない水銀吸収性能は次第に失われる。また同時に、酸化銅として存在している銅の一部が原料ガスに含まれる硫黄化合物との反応によって硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S等)となる。また、銅系吸収剤中の銅を硫化銅にすることができれば、原料ガス中に硫黄化合物を含んでいなくてもよい。つまり、硫黄化合物を含む原料ガスの水銀除去工程で硫化されることでもよいし、銅系吸収剤を事前に硫化させることでもよい。
【0033】
銅系吸収剤の水銀吸収性能は、硫化銅の生成によって発現するものである。また、原料ガス中に硫黄化合物が含まれていない場合であっても、事前に銅系吸収剤を硫化させることによって同様の水銀除去性能が得られる。図15に基づいて銅系吸収剤の水銀吸収性能の発現について説明する。図15には硫黄化合物の状況に応じた銅系吸収剤の水銀吸収性能の挙動を示してある。
【0034】
条件は、(1)銅系吸収剤にH2Sを共存させない原料ガス組成を適用した場合、(2)事前にH2Sを流通させた銅系吸収剤にH2Sを共存させない原料ガス組成を適用した場合、(3)銅系吸収剤に500ppmのH2Sを共存させた原料ガス組成を適用した場合で、いずれも新品の銅系吸収剤を用いてある。原料ガスは、160℃、空塔速度(SV:Spase Velocity):25000h−1である。原料ガスの組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、0ppm、HCl:100ppm、Hg:75μg/m3Nである。銅系吸収剤と原料ガスとを接触させた時間(反応時間)と、銅系吸収剤を通過した後の原料ガス中の水銀濃度との関係を図15に示してある。
【0035】
図に示すように、条件(1)の場合、水銀濃度が短時間に上昇し、ほとんど水銀を吸収できないことが判る。これは、硫化銅が生成していないためである。条件(2)の場合、長時間に亘り水銀濃度が低濃度となり、水銀を吸収できていることが判る。これは、事前に硫化処理を行ったため銅系吸収剤中の銅が硫化銅に変化しているためである。条件(3)の場合、長時間に亘り水銀濃度が低濃度となり、水銀を吸収できていることが判る。これは、500ppmのH2Sが共存している条件で硫化銅が生成しているためである。条件(2)及び条件(3)の結果により、硫化銅の生成によって銅系吸収剤の水銀吸収性能が発現することが判る。
【0036】
図15の結果から、原料ガス中に硫黄化合物を含んでいても含んでいなくても、銅系吸収剤中の銅を硫化銅にすることができれば、水銀除去性能を発現させることができることが判る。
【0037】
そして、この使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱することにより、原料ガスから吸収した水銀が放出され、水銀吸収性能を回復することができる。
【0038】
尚、後述する実施例に示すように、使用済み銅系吸収剤を酸素含有雰囲気以外の雰囲気、例えば、窒素雰囲気下等で加熱すると水銀を放出することはできるが、水銀吸収性能を良好に回復することはできない。
【0039】
加熱する際の雰囲気は、酸素を含む雰囲気であればよく、例えば、酸素濃度0.5〜20%(体積)程度が好ましく、空気中でもよい。酸素濃度が高いと急激な再生反応(酸化反応)が起こって銅系吸収剤の温度が高温となり銅系吸収剤が変質して水銀吸収性能が劣化してしまう虞があるため、銅系吸収剤の量等によっては、酸素濃度は1〜2%(体積)程度とすることが好ましい。
【0040】
加熱温度は、使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上、好ましくは、200〜250℃となるようにする必要がある。180℃未満では、原料ガスと銅系吸収剤を接触させて水銀を除去する際の温度(例えば、120〜160℃)と温度域が近いため、使用済み銅系吸収剤から水銀が放出できず、水銀吸収性能が回復できないからである。また、250℃より高い温度で加熱すると、銅系吸収剤が変質して水銀吸収性能が劣化しまう虞がある。使用済み銅系吸収剤の温度は、反応する酸素等の処理ガスの温度や、反応容器の温度設定等で調整することができる。
【0041】
加熱時間は12時間以上であることが望ましい。図16に基づいて銅系吸収剤の加熱時間(再生時間)について説明する。図16には再生時間に応じた銅系吸収剤の水銀吸収性能の挙動を示してある。
【0042】
原料ガスは、160℃、空塔速度(SV:Spase Velocity):8750h−1である。原料ガスの組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:160μg/m3Nである。再生は、250℃、酸素を1%含む雰囲気中で実施した。(1)短時間(2〜3時間)で再生した銅系吸収剤と、(2)一晩かけて(11〜12時間)再生した銅系吸収剤を用い、原料ガスを接触させた時間(反応時間)と、銅系吸収剤を通過した後の原料ガス中の水銀濃度との関係を図16に示してある。
【0043】
銅系吸収剤の量が少ないため、約2時間で水銀の放出は完了した。つまり、(1)短時間の場合、水銀の放出直後に再生工程を終了したもの、(2)一晩かけて再生した場合、水銀放出後も250℃の酸素含有雰囲気中に晒したものとなる。
【0044】
図に示すように、(2)一晩かけて(11〜12時間)再生した銅系吸収剤の場合、水銀除去性能が十分に得られ、11〜12時間再生することで、水銀除去性能が回復していることが判る。(1)短時間(2〜3時間)での再生では、水銀は放出できるものの、水銀除去性能が回復していないことが判る。これは、一度吸収した水銀を放出するだけでは再生が不十分であり、銅系吸収剤中の銅が水銀除去に有効な形態に変化するのに時間を要する、などが理由と考えられる。
【0045】
図16の結果から、再生を行なう場合の加熱時間は12時間以上であることが好ましいことが判る。
【0046】
このような本発明の再生方法により再生した銅系吸収剤は、後述する実施例に示すように、バイオマスガス化ガス等の原料ガスに対して、未使用の銅系吸収剤と同程度の水銀吸収性能を発揮することができる。本発明の再生方法により再生した銅系吸収剤は、十分な水銀吸収性能を有するため、再度、原料ガス中の水銀を除去する銅系吸収剤として使用することができる。
【0047】
詳述すると、原料ガス中の水銀除去方法を示す図である図1に示すように、水銀を含む原料ガス(硫黄化合物を含む原料ガス)を、例えば120〜160℃で銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を銅系吸収剤に吸収させて原料ガスから水銀を除去して精製ガスを得る水銀処理の後、この水銀処理により水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を上記本発明の銅系吸収剤の再生方法により再生処理する。
【0048】
そして、再生処理により再生した使用済み銅系吸収剤に再び原料ガスを接触させて水銀を吸収させて原料ガスから水銀を除去して精製ガスを得る水銀処理を行う。このように、銅系吸収剤を再生して繰り返し使用することにより、原料ガス中の水銀を除去する際に使用する銅系吸収剤の廃棄物量及び使用量を低減することができる。
【0049】
本発明の銅系吸収剤の再生方法は、バイオマスガス化ガスや廃棄物ガス化ガス等、水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスを精製して燃料電池やガスエンジンの燃料ガスとするガス化設備の水銀除去装置に適用することができる。
【0050】
本発明の銅系吸収剤の再生方法で再生される銅系吸収剤を用いて原料ガスから水銀を除去する乾式ガス精製システムについて、図2に基づいて説明する。尚、原料ガスとして、バイオマスガス化ガスを用いた場合を例に説明する。
【0051】
図2には乾式ガス精製システムの概略系統を示してある。
【0052】
図2に示すように、バイオマスガス化炉1でバイオマスをガス化して得られ水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含有する原料ガス(バイオマスガス化ガス)は不純物固化手段としての粉末消石灰(Ca(OH)2)等のハロゲン化物除去剤が吹き込まれる。ハロゲン化物除去剤が吹き込まれて固化された不純物を含む原料ガス(バイオマスガス化ガス)は物理的濾過手段としてのバグフィルター2に送られ、固化された不純物がバグフィルター2で除去される(運転温度120℃〜160℃)。また、バグフィルター2では未反応のハロゲン化物除去剤やダスト等の固体状不純物も除去される。
【0053】
尚、本実施形態において、水銀を除去する重金属類除去装置3より前段にハロゲン化物除去剤の吹き込み及びバグフィルター2の設置がされているが、このハロゲン化物除去剤の吹き込み及びバグフィルター2の段階では例えば90%程度のハロゲン化物の除去のみがなされ、後述する高性能なハロゲン化物除去装置4を通る前は原料ガス中のハロゲン化物は残存している。
【0054】
バグフィルター2で不純物が除去された原料ガスは重金属類除去装置3に送られ、重金属類除去装置3では水銀蒸気(Hg)をはじめ、活性炭等により塩基性ガス(アンモニア)、重金属類(砒素、セレン等)、有機塩素化合物(ダイオキシン)が吸着除去される(運転温度120℃〜160℃)。重金属類除去装置3には水銀除去装置11が備えられ、水銀除去装置11には銅系吸収剤12が充填されている。
【0055】
この銅系吸収剤12に、原料ガスが接触することによって、水銀が原料ガスから除去できる。その際に、原料ガス中から水銀を吸収して水銀吸収性能が失われた銅系吸収剤を、水銀除去装置11から取り除き、上述した本発明の銅系吸収剤の再生方法により再生し水銀吸収性能を回復させて、再度水銀除去装置11に充填して使用する。このように銅系吸収剤を再生して再利用するため、原料ガスから水銀を除去する際に使用する銅系吸収剤の廃棄物量及び使用量を低減することができる。
【0056】
重金属類除去装置3で重金属類が除去された原料ガスは熱交換器8で昇温された後、ハロゲン化物除去装置4でHClやHF等のハロゲン化物が吸収されて除去される(運転温度250℃〜450℃)。ハロゲン化物が吸収されて除去された原料ガスは脱硫剤が充填された脱硫装置5に送られ、硫黄化合物が吸収されて除去される(運転温度250℃〜450℃)。硫黄化合物が吸収されて除去された原料ガスは燃料ガスとして発電装置6(例えば、溶融炭酸塩型燃料電池、ガスエンジン、ガスタービン等)に送られる。
【0057】
図2に示した乾式ガス精製システムでは、ダスト等の固体状不純物がバグフィルター2で濾過されて除去され、水銀蒸気(Hg)をはじめ重金属類、有機塩素化合物が重金属類除去装置3で除去され、ハロゲン化物がハロゲン化物除去装置4で除去され、硫黄化合物が脱硫装置5に吸収されて除去される。これにより、バイオマスをガス化した原料ガス、即ち、不純物として水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスを精製して、発電装置6の燃料ガスとして利用することができる。
【0058】
尚、上述した例では、使用済みの銅系吸収剤12を水銀除去装置11から一旦取り除き、重金属類除去装置3以外の場所で再生したが、水銀除去装置11を複数系統備え、原料ガスの流路を切り替える等の方法で、水銀除去装置11に銅系吸収剤12を充填したまま再生するようにしてもよい。
【実施例1】
【0059】
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
<銅系吸収剤の調製>
硝酸銅3水和物の水溶液(2mol/L)にシリカゾルを得られる吸収剤のシリカ含有量が約30重量%となる量を加えた。その混合水溶液を約60℃に加温したところに、水酸化ナトリウム水溶液(4mol/L)を撹拌しつつ水溶液のpHが弱アルカリ性になるまで少量ずつ添加した。生成した沈殿物を濾過、洗浄、乾燥、焼成して、酸化銅およびシリカ成分からなる銅系吸収剤を調製した。
【0061】
<未使用銅系吸収剤による水銀除去>
上記で調製した未使用の銅系吸収剤に160℃、空塔速度(SV:Spase Velocity):25000h−1で、バイオマスガス化ガスを想定した原料ガス(ガス組
成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:62μg/m3N)を接触させて、原料ガス中の水銀を銅系吸収剤に吸収させた。尚、この原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤に含まれる銅化合物は、一部が硫化物(CuS、Cu2S)になっていた。未使用の銅系吸収剤と原料ガスとを接触させた時間(反応時間)と、銅系吸収剤を通過した後の原料ガス中の水銀濃度との関係を図4の実線で示す。
【0062】
<使用済み銅系吸収剤の再生>
次に、この原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤を加熱した。なお、流速1.0L/minの空気(酸素/窒素)中で行い、使用済み銅系吸収剤の温度が160℃→200℃→220℃→250℃となるように加熱した。加熱時間と、温度及び使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を、図3に示す。
【0063】
図3に示すように、原料ガスと銅系吸収剤を接触させて水銀を除去した際の温度である160℃になるように加熱しても水銀は全く放出されず、160℃では使用済み銅系吸収剤は再生できないことが分かった。一方、200℃以上にすると、水銀が良好に放出され、加熱後の銅系吸収剤には水銀はほぼ含まれていなかった。また、高温になるにしたがって水銀の放出速度が速くなった。
【0064】
(実施例2)
<再生した使用済み銅系吸収剤による水銀除去>
実施例1で得られた空気(酸素/窒素)中で再生させた使用済み銅系吸収剤に160℃、SV:25000h−1で、<未使用銅系吸収剤による水銀除去>と同様の原料ガス(ガス組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:62μg/m3N)を接触させて、原料ガス中の水銀を使用済み銅系吸収剤に吸収させた。銅系吸収剤と原料ガスとを接触させた時間(反応時間)と、銅系吸収剤を通過した後の原料ガス中の水銀濃度との関係を図4に破線で示す。
【0065】
この結果、本発明の再生方法で再生した銅系吸収剤の水銀除去性能を評価した実施例2では、指標となる95%の水銀除去率(5%破過)に達するまでの時間が、図4に示す未使用の銅系吸収剤と同等以上であった。
【0066】
(実施例3)
<未使用銅系吸収剤による水銀除去>
実施例1で調製した未使用の銅系吸収剤に160℃、SV:2000h−1で、バイオマスガス化ガスを想定した原料ガス(ガス組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:62μg/m3N)を接触させて、原料ガス中の水銀を銅系吸収剤に吸収させた。なお、この原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤に含まれる銅化合物は、一部が硫化物(CuS、Cu2S)になっていた。
【0067】
<使用済み銅系吸収剤の再生>
次に、この原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤を再生させた。なお、流速1.0L/minの再生ガス(ガス組成は、O2:1%、N2:balance)中で行い、使用済み銅系吸収剤の温度が始めから200℃で一定となるように加熱した。加熱時間と使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を図5に示す。
【0068】
(実施例4)
<使用済み銅系吸収剤の再生>で、再生ガスの組成をO2:2%、N2:balanceとした以外は、実施例3と同様の操作を行った。加熱時間と使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を図5に示す。
【0069】
(実施例5)
<使用済み銅系吸収剤の再生>で、使用済み銅系吸収剤の温度が始めから250℃で一定となるようにした以外は、実施例3と同様の操作を行った。加熱時間と使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を、図5に示す。
【0070】
(実施例6)
<使用済み銅系吸収剤の再生>で、再生ガスの組成をO2:2%、N2:balanceとした以外は、実施例5と同様の操作を行った。加熱時間と使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を図5に示す。
【0071】
図5に示すように、実施例3〜6でも水銀が良好に放出され、使用済み銅系吸収剤が再生できたことが確認された。なお、高温であるほど、ならびに酸素濃度が高いほど水銀の放出速度が速くなった。
【0072】
(比較例1)
原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤の加熱を流速1.0L/minの空気中で行う代わりに、流速1.0L/minの窒素中で行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0073】
その後、上記操作を行った使用済み銅系吸収剤を、実施例1で得られた空気(酸素/窒素)中で再生させた使用済み銅系吸収剤の代わりに用いて、実施例2と同様の操作を行った。1回目(未使用時)の原料ガスとの接触による水銀吸収容量、及び、2回目(再生後)の原料ガスとの接触による水銀吸収容量を相対値として図6に示す。なお、図6中、白の棒グラフが1回目の水銀吸収容量を表し、黒の棒グラフが2回目の水銀吸収容量を表す。また、実施例2の結果も合わせて図6に示す。
【0074】
図6に示すように、空気(酸素/窒素)中で再生した実施例2では、水銀吸収容量が未使用のものと同等以上であり、水銀吸収性能が完全に回復していた。一方、窒素雰囲気下で再生した比較例1では、水銀吸収容量は大幅に低下し、水銀吸収性能は回復していなかった。これは、窒素雰囲気下で再生したので、銅系吸収剤に含まれる銅化合物が酸化物とならなかったためと推測される。なお、比較例1でも、再生により実施例1と同程度に水銀はほとんど放出されていた。
【0075】
(比較例2)
銅系吸収剤の代わりに添着活性炭を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行った。1回目(未使用時)の原料ガスとの接触による水銀吸収容量、及び、2回目(再生後)の原料ガスとの接触による水銀吸収容量を相対値として図6に示す。添着活性炭を用いた場合、窒素雰囲気下での再生によりある程度水銀吸収性能は回復するが、未使用のものと同程度まで回復することはできなかった。なお、比較例2でも、再生により実施例1と同程度に水銀はほとんど放出されていた。
【0076】
図7〜図14に基づいて銅系吸収剤を繰り返して使用した状況を説明する。
【0077】
図7〜図10に基づいて繰り返し使用に伴う銅系吸収剤の状態を説明する。図7には繰り返し使用に伴う銅系吸収剤中の銅の形態変化、図8には繰り返し初期における銅系吸収剤中の水銀吸収容量の推移、図9には再生時の銅系吸収剤の物性変化、図10には銅系吸収剤の比表面積の推移を示してある。
【0078】
銅系吸収剤としては、前述した実施例1で説明したものを使用した。水銀除去工程は、160℃、空塔速度(SV:Spase Velocity):2000h−1で、模擬の原料ガス(ガス組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg)を接触させ、原料ガス中の水銀を銅系吸収剤に吸収させた。再生工程は、使用済み銅系吸収剤の温度が250℃となるように、O2:1%、N2:99%の雰囲気中で加熱した。水銀除去工程と再生工程を交互に繰り返し、20回の水銀除去と再生を実施した。図中、除去(1)〜(20)は水銀除去工程の回数、再生(1)〜(20)は再生工程の回数である。
【0079】
図7に基づいて銅系吸収剤中の銅の形態変化を説明する。図7中、白抜きで示した部分が酸化銅(CuO)の状態で、黒塗りで示した部分が不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4を含む状態で、斜線で示した部分が硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態である。図7に示すように、再生工程を5回繰り返した以降は硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態で安定していることが判る。尚、これらの銅の形態は、X線解析(XRD)分析の結果に基づくものである。
【0080】
図8に基づいて銅系吸収剤中の水銀吸収容量の推移を説明する。図8には、銅系吸収剤17.5gを使用し、5μg/m3N破過時の吸収容量(mg/kg)の推移を示してある。図に示すように、3回目までは吸収容量が徐々に増加し、4回目及び5回目では40数mg/kgで略安定している。図8に示すように、4回目以降は水銀の吸収容量が略安定することが判る。このことは、図7に示した硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態で安定する状況と傾向が一致している。
【0081】
図9に基づいて銅系吸収剤の再生工程後の物性変化を説明する。物性の項目として、比表面積(m2/g)、硫黄(wt%)、塩素(wt%)、水銀(mg/kg)を示してある。比表面積(m2/g)は、未使用の場合43.4m2/gであったものが、3回目の再生工程以降で26.7m2/g〜36.4m2/gの範囲で安定することが判る。硫黄に関しては、H2Sとの反応によって銅系吸収剤が徐々に硫化されるため濃度が上昇するが、次第に安定することが判る。塩素に関しては大きな変化はない。水銀に関しては図表に示す通りで大きな変化は生じておらず、水銀の蓄積も見られない。
【0082】
物性の項目として、銅の形態を合わせて示してある。未使用時の銅の形態は酸化銅(CuO)であり、1回目の再生後は、酸化銅(CuO)と不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4が共存し、2回目、3回目の再生後は、酸化銅(CuO)と不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4と硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)が共存している。5回目以降の再生後は、硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態となっている。
【0083】
1回目から3回目の再生後は、分子径が大きな不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4が共存し、比表面積が小さくなっており、再生が繰り返されて分子径が小さな硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態で安定すると比表面積が大きくなって安定していることが判る。つまり、図表の結果は、初期の再生工程では、吸収剤の細孔が不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4に塞がれ、繰り返して使用することによって銅系吸収剤中の銅が硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)として徐々に安定することが反映されていることが判る。比表面積が大きくなって安定することは、図8に示した水銀の吸収容量が略安定する状況と傾向が一致している。
【0084】
図10に基づいて銅系吸収剤の比表面積の推移を説明する。未使用の銅系吸収剤の比表面積は43.4m2/gであり、水銀除去工程後は除去を5回程度繰り返すまで(図中Aの領域)比表面積が小さくなり、5回目以降(図中Bの領域)は略安定していることが判る。再生工程後は、図中Aの領域で比表面積が一旦小さくなった後に徐々に大きくなり、図中Bの領域で水銀除去工程後と同程度の面積で推移していることが判る。
【0085】
図中Aの領域は、銅系吸収剤が、酸化銅(CuO)や不安定物質Cu3(SO4)(OH)4等の様々な銅化合物が混在し、水銀の吸収容量が徐々に増加する領域となっている。図中Bの領域は、銅系吸収剤が、硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)として安定し、水銀の吸収容量も略一定状態の領域となっている。銅系吸収剤の水銀除去工程後及び再生後の比表面積の推移は、図9に示した再生後に比表面積が安定する状況及び図8に示した水銀の吸収容量が略安定する状況と傾向が一致している。
【0086】
図11、図12に基づいて6回目の再生工程、即ち、水銀の吸収容量が安定した状態における再生工程を、4.0gの銅系吸収剤を用いて酸素含有雰囲気及び窒素雰囲気で実施した状況を説明する。図11には酸素含有雰囲気(O2:1%、N2:99%)での再生工程の経時変化、図12には窒素雰囲気(N2:100%)での再生工程の経時変化を示してある。つまり、硫化銅として安定した銅系吸収剤により、再生時のガス条件(雰囲気条件)の影響を示してある。
【0087】
図11に示すように、酸素含有雰囲気で再生工程を実施した場合、160℃で約100μg/m3Nの水銀放出濃度が得られ、200℃で800μg/m3N近傍の水銀放出濃度が得られる。250℃で約8時間〜15時間程度経過後に再生が完了する。図12に示すように、窒素雰囲気で再生工程を実施した場合、160℃では約10μg/m3N〜約20μg/m3N程度しか水銀放出濃度が得られず、200℃で200μg/m3N近傍の水銀放出濃度となる。250℃で約18時間から25時間経過後に再生が完了する。
【0088】
このように、酸素含有雰囲気で再生を実施することで(酸素の共存により)、水銀の放出速度が早くなることが判る。これは、水銀の硫化物が酸素の共存により、水銀と二酸化硫黄に反応するためであると考えられる。即ち、
HgS+O2→Hg+SO2
等の反応が生じていると考えられる。
【0089】
図13に基づいて硫化銅として安定した銅系吸収剤を異なるガス条件で再生した後の水銀除去特性を説明する。即ち、ガス条件を代えて7回目の水銀除去工程を実施した場合の水銀除去特性を説明する。水銀除去工程には、窒素雰囲気で再生した銅系吸収剤(点線で示してある)と、酸素含有雰囲気で再生した銅系吸収剤(図中実線で示してある)を使用した。図13には7回目の水銀除去工程における水銀濃度の経時変化を示してある。
【0090】
銅系吸収剤を3.5g使用し、原料ガスのガス条件は、温度:160℃、空塔速度SV:10000h−1、ガス組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:160μg/m3Nである。
【0091】
図に点線で示したように、窒素雰囲気で再生した銅系吸収剤を用いた場合には、短時間(3時間程度)で水銀濃度が上昇した。図に実線で示したように、酸素含有雰囲気で再生した銅系吸収剤を用いた場合には、長時間に亘って(20時間以上)低濃度を維持した。このため、酸素含有雰囲気で再生した銅系吸収剤を用いた場合には、高い水銀除去性能を維持していることが判る。
【0092】
図11〜図13に示したように、酸素含有雰囲気で再生した銅系吸収剤を用いることで、短い時間で再生することができ、高い水銀除去性能を維持することができる。従って、銅系吸収剤が硫化銅として安定した後においても、酸素含有雰囲気で再生を行なうことが望ましい。
【0093】
図14に基づいて銅系吸収剤の運用コストを説明する。図14には乾式水銀除去プロセスに要する銅系吸収剤と添着活性炭の運用コストを示してある。前提条件として、充填剤の充填量は120kg/回、処理ガス量は400m3N/h、空塔速度SVは約2000h−1、Hg濃度は30μg/m3Nであり、年間水銀負荷は、
(30μg/m3N)×(400m3N/h)×(24h)×(365)
=105g・Hg/年
である。
【0094】
銅系吸収剤の使用温度は160℃と120℃、添着活性炭の使用温度は120℃である。銅系吸収剤の160℃での水銀吸収容量は44mg-Hg/kg、120℃での水銀吸収容量は220mg-Hg/kg以上であり、添着活性炭の水銀吸収容量は16mg-Hg/kgである。銅系吸収剤の160℃での年間の必要交換回数は20回、銅系吸収剤の120℃での年間の必要交換回数は4回以下、添着活性炭の年間の必要交換回数は55回である。銅系吸収剤の160℃での年間の使用量は120kg(2年で240kg)、銅系吸収剤の120℃での年間の使用量は24kg以下(10年で240kg以下)、添着活性炭の年間の使用量は6600kgとなる。
【0095】
銅系吸収剤の単価は10000円/kg、添着活性炭の単価は1000円/kgである。銅系吸収剤の160℃での年間の廃棄物発生量(再生時に放出した水銀を吸着させる吸着剤を含む)は121kg(2年で242kg)、銅系吸収剤の120℃での年間の廃棄物発生量(再生時に放出した水銀を吸着させる吸着剤を含む)は25kg以下(10年で250kg以下)、添着活性炭の年間の廃棄物発生量は6600kgとなる。そして、収集・運搬を含む廃棄物の処理単価は350円/kgである。
【0096】
このため、年間の運用コストは、銅系吸収剤を160℃で使用した場合、1243千円、銅系吸収剤を120℃で使用した場合、250千円以下、添着活性炭は8910千円と試算される。
【0097】
銅系吸収剤の単価は試作品ベースであるため、大量生産を行なうことにより安くなることが考えられる。添着活性炭の単価は銅系吸収剤の1/10であるが、使い捨てでの運用のため使用量が多くなる。これらのことから、銅系吸収剤の160℃での運用コストは、添着活性炭を120℃で使用する場合の14%、銅系吸収剤の120℃での運用コストは、添着活性炭を120℃で使用する場合の約3%以下となることが判る。従って、銅系吸収剤を再生して繰り返して使用することにより、吸収剤の運用コストを抑えた乾式水銀除去プロセスを実現することができる。
【0098】
以上の結果から、水銀除去工程で生成した硫化銅は、初期の再生工程で他の銅化合物に変化したが、再生工程の繰り返しに伴い吸収剤中の硫化銅として安定すると共に水銀吸収容量が増加することが判る。
【0099】
また、銅系吸収剤中の銅が硫化銅として安定した5回目から20回目までの繰り返しにおいては、銅系吸収剤の比表面積や残留する硫黄濃度、塩素濃度に大きな変化はなく、水銀の蓄積や除去性能の低下も見られなかった。このことから、銅系吸収剤は少なくとも20回の繰り返し使用が可能であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、バイオマスガス化ガスや廃棄物ガス化ガス等の水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスから水銀を除去する産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】原料ガス中の水銀除去方法を示す図である。
【図2】乾式ガス精製システムの概略系統図である。
【図3】実施例1の銅系吸収剤の再生処理での水銀放出挙動を示す図である。
【図4】再生した銅系吸収剤及び未使用の銅系吸収剤を用いて原料ガスから水銀を除去した際の挙動を示す図である。
【図5】実施例3〜6の銅系吸収剤の再生処理での水銀放出挙動を示す図である。
【図6】吸収剤の1回目(未使用時)と2回目(再生後)の水銀吸収容量を比較した図である。
【図7】繰り返し使用に伴う銅系吸収剤中の銅の形態変化を示す図である。
【図8】繰り返し初期における銅系吸収剤中の水銀吸収容量の推移を示す図である。
【図9】再生時の銅系吸収剤の物性変化を示す図である。
【図10】銅系吸収剤の比表面積の推移を示す図である。
【図11】酸素含有雰囲気での再生工程の経時変化を示す図である。
【図12】窒素雰囲気での再生工程の経時変化を示す図である。
【図13】7回目の水銀除去工程における水銀濃度の経時変化を示す図である。
【図14】乾式水銀除去プロセスに要する銅系吸収剤と添着活性炭の運用コストを示す図である。
【図15】硫黄化合物の状況に応じた銅系吸収剤の水銀吸収性能の挙動を示す図である。
【図16】再生時間に応じた銅系吸収剤の水銀吸収性能の挙動を示す図である。
【符号の説明】
【0102】
1 バイオマスガス化炉
2 バグフィルター
3 重金属類除去装置
4 ハロゲン化物除去装置
5 脱硫装置
6 発電装置
8 熱交換器
11 水銀除去装置
12 銅系吸収剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスガス化ガスや廃棄物ガス化ガス等の水銀を含む原料ガスを接触させて原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤の再生方法及び原料ガス中の水銀除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や廃棄物の減量化が求められており、バイオマスや廃棄物などをガス化させて製造した原料ガスを発電設備(燃料電池やガスエンジン)の燃料ガスとすることが考えられている。バイオマスや廃棄物などから製造した原料ガスには環境に悪影響を与える不純物が含まれているため、不純物を除去することが不可欠である。特に、蒸気圧が高い水銀はフィルタ等によるろ過では除去できないため、水銀を除去するための除去剤が使用されている。
【0003】
水銀の除去方法として、例えば天然ガス中に含まれる水銀を除去する際などでは添着活性炭を除去剤として用いる方法が知られている。また、銅を含む溶液から沈殿法により生成された沈殿物を濾過・洗浄・乾燥し、さらに150℃〜400℃にいったん加熱することによって得られたガス状水銀吸収物質を含むガス状水銀除去剤など、銅を主体とした銅系吸収剤を用いて水銀を吸収する技術(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【0004】
この銅系吸収剤は、バイオマスガス化ガス等を接触させることでバイオマスガス化ガス等に含まれる水銀を吸収してバイオマスガス化ガス等から水銀を除去するものである。銅系吸収剤には、水銀を吸収可能な量、すなわち吸収容量があるため、水銀除去への使用にともない水銀吸収性能は次第に失われる。このため、水銀吸収性能が失われた銅系吸収剤は新品の銅系吸収剤に交換して使用される。
【0005】
しかしながら、銅系吸収剤を再生する方法が確立されていないため、使用済みの銅系吸収剤は廃棄されることになり、水銀を含有する大量の廃棄物が発生してしまうという問題や、大量の新品の銅系吸収剤を消費するという問題が生じ、銅系吸収剤の製造および処理コストの増大や資源の有効利用の点で課題となっている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−161255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、使用により水銀吸収性能が失われた使用済み銅系吸収剤を再生する方法を提供することを目的とする。
また、本発明はこのような事情に鑑み、使用により水銀吸収性能が失われた使用済み銅系吸収剤を再生することができる原料ガス中の水銀除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため検討した結果、水銀を含む(硫黄化合物及びハロゲン化物を含む)原料ガス中の水銀を吸収した使用済みの銅系吸収剤は、特定条件で加熱することにより再生できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、水銀を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で前記使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱して、前記使用済み銅系吸収剤から水銀を放出させることを特徴とする。
【0010】
請求項1の本発明では、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱することで水銀を放出させることにより、使用済み銅系吸収剤を再生することができる。従って、再生した銅系吸収剤を再度原料ガス中の水銀の除去に使用することができるため、銅系吸収剤の廃棄物量及び使用量を低減することができる。
【0011】
そして、請求項2に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記原料ガスは、硫黄化合物を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項2の本発明では、水銀、硫黄化合物を含む原料ガス中の水銀を吸収することができる。
【0013】
また、請求項3に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記原料ガスは、硫黄化合物及びハロゲン化物を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項3の本発明では、水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガス中の水銀を吸収することができる。
【0015】
また、請求項4に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記原料ガスが、バイオマスをガス化させることにより生成したバイオマスガス化ガス、または、廃棄物をガス化させることにより生成した廃棄物ガス化ガスであることを特徴とする。
【0016】
請求項4の本発明では、バイオマスガス化ガス又は廃棄物ガス化ガスから水銀を吸収するバイオマスガス化ガス用又は廃棄物ガス化ガス用の銅系吸収剤を再生することができる。
【0017】
また、請求項5に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記使用済み銅系吸収剤は、120〜160℃で、前記原料ガスを接触させて該原料ガス中の水銀を吸収したものであることを特徴とする。
【0018】
請求項5の本発明では、120〜160℃という比較的低温で原料ガスから水銀を除去する系で使用する銅系吸収剤を再生することができる。
【0019】
また、請求項6に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、前記水銀が放出された前記銅系吸収剤は、硫化銅を含むことを特徴とする。
【0020】
請求項6の本発明では、硫化銅を含む銅系吸収剤に対して水銀が吸収され、再生時には加熱により水銀が放出される。
【0021】
また、請求項7に係る本発明の銅系吸収剤の再生方法は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、未使用の前記銅系吸収剤が、酸化銅のみ、あるいは酸化銅と担体成分、または、成形助剤を含むことを特徴とする。
【0022】
請求項7の本発明では、酸化銅のみ、あるいは酸化銅と担体成分、又は、成形助剤を含む銅系吸収剤を再生することができる。
【0023】
上記目的を達成するための請求項8に係る本発明の原料ガス中の水銀除去方法は、水銀を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を前記銅系吸収剤に吸収させた後、この水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を請求項1〜7の何れか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法により再生し、再生した使用済み銅系吸収剤に再び水銀を含む原料ガスを接触させて水銀を吸収させることを特徴とする。
【0024】
請求項8の本発明では、原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を再生して再度原料ガス中の水銀の除去に使用することにより、銅系吸収剤の廃棄物及び使用量を低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の銅系吸収剤の再生方法は、使用により水銀吸収性能が失われた使用済み銅系吸収剤を再生することができる。
【0026】
また、本発明の原料ガス中の水銀除去方法は、使用により水銀吸収性能が失われた使用済み銅系吸収剤を再生して水銀を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の再生方法で再生する銅系吸収剤は、水銀(例えば0.1μg/m3Nより高い濃度)の他、H2SやCOS等の硫黄化合物や、HClやHF等のハロゲン化物が含まれる原料ガスを、例えば、120〜160℃で接触させて原料ガス中の水銀を吸収した銅系吸収剤である。水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスとしては、糞や木材などのバイオマスや建築廃材、都市ゴミなどの廃棄物等からなる固形燃料をガス化させることにより生成したバイオマスガス化ガスや廃棄物ガス化ガス等が挙げられる。
【0028】
尚、本明細書において使用済み銅系吸収剤とは、銅系吸収剤に原料ガスを接触させて水銀を吸収することにより水銀吸収性能が失われた状態の銅系吸収剤をいう。
【0029】
また、銅系吸収剤とは、銅を主体とする吸収剤であればよく、未使用の銅系吸収剤としては、例えば、銅化合物のみ、あるいは銅化合物と担体成分、又は、成形助剤を含む吸収剤で、これらの銅化合物としては酸化銅あるいは金属銅が挙げられる。担体成分としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ゼオライト、グラスファイバー等が挙げられる。
【0030】
また、成形助剤としては、エチレングリコール、粘土鉱物等が挙げられる。銅系吸収剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、酸化銅と担体成分(シリカ)からなる銅系吸収剤の製造方法の具体例としては、塩化銅、硫酸銅、又は硝酸銅の水溶液にシリカゾルを加えた混合水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加し生成した沈殿物を濾過、洗浄、乾燥、焼成して得る方法が挙げられる。
【0031】
本発明の銅系吸収剤の再生方法では、使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱して、使用済み銅系吸収剤から水銀を放出させると共に使用済み銅系吸収剤を酸化する。このように、使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱することによって、水銀が放出され、原料ガス中の水銀を吸収して原料ガスから水銀を除去する水銀吸収性能を回復することができる。
【0032】
詳述すると、まず、銅系吸収剤に硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスを接触させると、銅系吸収剤は原料ガス中の水銀を吸収して除去するが、銅系吸収剤には水銀を吸収可能な量、すなわち吸収容量があるため、水銀除去への使用にともない水銀吸収性能は次第に失われる。また同時に、酸化銅として存在している銅の一部が原料ガスに含まれる硫黄化合物との反応によって硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S等)となる。また、銅系吸収剤中の銅を硫化銅にすることができれば、原料ガス中に硫黄化合物を含んでいなくてもよい。つまり、硫黄化合物を含む原料ガスの水銀除去工程で硫化されることでもよいし、銅系吸収剤を事前に硫化させることでもよい。
【0033】
銅系吸収剤の水銀吸収性能は、硫化銅の生成によって発現するものである。また、原料ガス中に硫黄化合物が含まれていない場合であっても、事前に銅系吸収剤を硫化させることによって同様の水銀除去性能が得られる。図15に基づいて銅系吸収剤の水銀吸収性能の発現について説明する。図15には硫黄化合物の状況に応じた銅系吸収剤の水銀吸収性能の挙動を示してある。
【0034】
条件は、(1)銅系吸収剤にH2Sを共存させない原料ガス組成を適用した場合、(2)事前にH2Sを流通させた銅系吸収剤にH2Sを共存させない原料ガス組成を適用した場合、(3)銅系吸収剤に500ppmのH2Sを共存させた原料ガス組成を適用した場合で、いずれも新品の銅系吸収剤を用いてある。原料ガスは、160℃、空塔速度(SV:Spase Velocity):25000h−1である。原料ガスの組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、0ppm、HCl:100ppm、Hg:75μg/m3Nである。銅系吸収剤と原料ガスとを接触させた時間(反応時間)と、銅系吸収剤を通過した後の原料ガス中の水銀濃度との関係を図15に示してある。
【0035】
図に示すように、条件(1)の場合、水銀濃度が短時間に上昇し、ほとんど水銀を吸収できないことが判る。これは、硫化銅が生成していないためである。条件(2)の場合、長時間に亘り水銀濃度が低濃度となり、水銀を吸収できていることが判る。これは、事前に硫化処理を行ったため銅系吸収剤中の銅が硫化銅に変化しているためである。条件(3)の場合、長時間に亘り水銀濃度が低濃度となり、水銀を吸収できていることが判る。これは、500ppmのH2Sが共存している条件で硫化銅が生成しているためである。条件(2)及び条件(3)の結果により、硫化銅の生成によって銅系吸収剤の水銀吸収性能が発現することが判る。
【0036】
図15の結果から、原料ガス中に硫黄化合物を含んでいても含んでいなくても、銅系吸収剤中の銅を硫化銅にすることができれば、水銀除去性能を発現させることができることが判る。
【0037】
そして、この使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱することにより、原料ガスから吸収した水銀が放出され、水銀吸収性能を回復することができる。
【0038】
尚、後述する実施例に示すように、使用済み銅系吸収剤を酸素含有雰囲気以外の雰囲気、例えば、窒素雰囲気下等で加熱すると水銀を放出することはできるが、水銀吸収性能を良好に回復することはできない。
【0039】
加熱する際の雰囲気は、酸素を含む雰囲気であればよく、例えば、酸素濃度0.5〜20%(体積)程度が好ましく、空気中でもよい。酸素濃度が高いと急激な再生反応(酸化反応)が起こって銅系吸収剤の温度が高温となり銅系吸収剤が変質して水銀吸収性能が劣化してしまう虞があるため、銅系吸収剤の量等によっては、酸素濃度は1〜2%(体積)程度とすることが好ましい。
【0040】
加熱温度は、使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上、好ましくは、200〜250℃となるようにする必要がある。180℃未満では、原料ガスと銅系吸収剤を接触させて水銀を除去する際の温度(例えば、120〜160℃)と温度域が近いため、使用済み銅系吸収剤から水銀が放出できず、水銀吸収性能が回復できないからである。また、250℃より高い温度で加熱すると、銅系吸収剤が変質して水銀吸収性能が劣化しまう虞がある。使用済み銅系吸収剤の温度は、反応する酸素等の処理ガスの温度や、反応容器の温度設定等で調整することができる。
【0041】
加熱時間は12時間以上であることが望ましい。図16に基づいて銅系吸収剤の加熱時間(再生時間)について説明する。図16には再生時間に応じた銅系吸収剤の水銀吸収性能の挙動を示してある。
【0042】
原料ガスは、160℃、空塔速度(SV:Spase Velocity):8750h−1である。原料ガスの組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:160μg/m3Nである。再生は、250℃、酸素を1%含む雰囲気中で実施した。(1)短時間(2〜3時間)で再生した銅系吸収剤と、(2)一晩かけて(11〜12時間)再生した銅系吸収剤を用い、原料ガスを接触させた時間(反応時間)と、銅系吸収剤を通過した後の原料ガス中の水銀濃度との関係を図16に示してある。
【0043】
銅系吸収剤の量が少ないため、約2時間で水銀の放出は完了した。つまり、(1)短時間の場合、水銀の放出直後に再生工程を終了したもの、(2)一晩かけて再生した場合、水銀放出後も250℃の酸素含有雰囲気中に晒したものとなる。
【0044】
図に示すように、(2)一晩かけて(11〜12時間)再生した銅系吸収剤の場合、水銀除去性能が十分に得られ、11〜12時間再生することで、水銀除去性能が回復していることが判る。(1)短時間(2〜3時間)での再生では、水銀は放出できるものの、水銀除去性能が回復していないことが判る。これは、一度吸収した水銀を放出するだけでは再生が不十分であり、銅系吸収剤中の銅が水銀除去に有効な形態に変化するのに時間を要する、などが理由と考えられる。
【0045】
図16の結果から、再生を行なう場合の加熱時間は12時間以上であることが好ましいことが判る。
【0046】
このような本発明の再生方法により再生した銅系吸収剤は、後述する実施例に示すように、バイオマスガス化ガス等の原料ガスに対して、未使用の銅系吸収剤と同程度の水銀吸収性能を発揮することができる。本発明の再生方法により再生した銅系吸収剤は、十分な水銀吸収性能を有するため、再度、原料ガス中の水銀を除去する銅系吸収剤として使用することができる。
【0047】
詳述すると、原料ガス中の水銀除去方法を示す図である図1に示すように、水銀を含む原料ガス(硫黄化合物を含む原料ガス)を、例えば120〜160℃で銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を銅系吸収剤に吸収させて原料ガスから水銀を除去して精製ガスを得る水銀処理の後、この水銀処理により水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を上記本発明の銅系吸収剤の再生方法により再生処理する。
【0048】
そして、再生処理により再生した使用済み銅系吸収剤に再び原料ガスを接触させて水銀を吸収させて原料ガスから水銀を除去して精製ガスを得る水銀処理を行う。このように、銅系吸収剤を再生して繰り返し使用することにより、原料ガス中の水銀を除去する際に使用する銅系吸収剤の廃棄物量及び使用量を低減することができる。
【0049】
本発明の銅系吸収剤の再生方法は、バイオマスガス化ガスや廃棄物ガス化ガス等、水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスを精製して燃料電池やガスエンジンの燃料ガスとするガス化設備の水銀除去装置に適用することができる。
【0050】
本発明の銅系吸収剤の再生方法で再生される銅系吸収剤を用いて原料ガスから水銀を除去する乾式ガス精製システムについて、図2に基づいて説明する。尚、原料ガスとして、バイオマスガス化ガスを用いた場合を例に説明する。
【0051】
図2には乾式ガス精製システムの概略系統を示してある。
【0052】
図2に示すように、バイオマスガス化炉1でバイオマスをガス化して得られ水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含有する原料ガス(バイオマスガス化ガス)は不純物固化手段としての粉末消石灰(Ca(OH)2)等のハロゲン化物除去剤が吹き込まれる。ハロゲン化物除去剤が吹き込まれて固化された不純物を含む原料ガス(バイオマスガス化ガス)は物理的濾過手段としてのバグフィルター2に送られ、固化された不純物がバグフィルター2で除去される(運転温度120℃〜160℃)。また、バグフィルター2では未反応のハロゲン化物除去剤やダスト等の固体状不純物も除去される。
【0053】
尚、本実施形態において、水銀を除去する重金属類除去装置3より前段にハロゲン化物除去剤の吹き込み及びバグフィルター2の設置がされているが、このハロゲン化物除去剤の吹き込み及びバグフィルター2の段階では例えば90%程度のハロゲン化物の除去のみがなされ、後述する高性能なハロゲン化物除去装置4を通る前は原料ガス中のハロゲン化物は残存している。
【0054】
バグフィルター2で不純物が除去された原料ガスは重金属類除去装置3に送られ、重金属類除去装置3では水銀蒸気(Hg)をはじめ、活性炭等により塩基性ガス(アンモニア)、重金属類(砒素、セレン等)、有機塩素化合物(ダイオキシン)が吸着除去される(運転温度120℃〜160℃)。重金属類除去装置3には水銀除去装置11が備えられ、水銀除去装置11には銅系吸収剤12が充填されている。
【0055】
この銅系吸収剤12に、原料ガスが接触することによって、水銀が原料ガスから除去できる。その際に、原料ガス中から水銀を吸収して水銀吸収性能が失われた銅系吸収剤を、水銀除去装置11から取り除き、上述した本発明の銅系吸収剤の再生方法により再生し水銀吸収性能を回復させて、再度水銀除去装置11に充填して使用する。このように銅系吸収剤を再生して再利用するため、原料ガスから水銀を除去する際に使用する銅系吸収剤の廃棄物量及び使用量を低減することができる。
【0056】
重金属類除去装置3で重金属類が除去された原料ガスは熱交換器8で昇温された後、ハロゲン化物除去装置4でHClやHF等のハロゲン化物が吸収されて除去される(運転温度250℃〜450℃)。ハロゲン化物が吸収されて除去された原料ガスは脱硫剤が充填された脱硫装置5に送られ、硫黄化合物が吸収されて除去される(運転温度250℃〜450℃)。硫黄化合物が吸収されて除去された原料ガスは燃料ガスとして発電装置6(例えば、溶融炭酸塩型燃料電池、ガスエンジン、ガスタービン等)に送られる。
【0057】
図2に示した乾式ガス精製システムでは、ダスト等の固体状不純物がバグフィルター2で濾過されて除去され、水銀蒸気(Hg)をはじめ重金属類、有機塩素化合物が重金属類除去装置3で除去され、ハロゲン化物がハロゲン化物除去装置4で除去され、硫黄化合物が脱硫装置5に吸収されて除去される。これにより、バイオマスをガス化した原料ガス、即ち、不純物として水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスを精製して、発電装置6の燃料ガスとして利用することができる。
【0058】
尚、上述した例では、使用済みの銅系吸収剤12を水銀除去装置11から一旦取り除き、重金属類除去装置3以外の場所で再生したが、水銀除去装置11を複数系統備え、原料ガスの流路を切り替える等の方法で、水銀除去装置11に銅系吸収剤12を充填したまま再生するようにしてもよい。
【実施例1】
【0059】
以下、本発明について実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
<銅系吸収剤の調製>
硝酸銅3水和物の水溶液(2mol/L)にシリカゾルを得られる吸収剤のシリカ含有量が約30重量%となる量を加えた。その混合水溶液を約60℃に加温したところに、水酸化ナトリウム水溶液(4mol/L)を撹拌しつつ水溶液のpHが弱アルカリ性になるまで少量ずつ添加した。生成した沈殿物を濾過、洗浄、乾燥、焼成して、酸化銅およびシリカ成分からなる銅系吸収剤を調製した。
【0061】
<未使用銅系吸収剤による水銀除去>
上記で調製した未使用の銅系吸収剤に160℃、空塔速度(SV:Spase Velocity):25000h−1で、バイオマスガス化ガスを想定した原料ガス(ガス組
成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:62μg/m3N)を接触させて、原料ガス中の水銀を銅系吸収剤に吸収させた。尚、この原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤に含まれる銅化合物は、一部が硫化物(CuS、Cu2S)になっていた。未使用の銅系吸収剤と原料ガスとを接触させた時間(反応時間)と、銅系吸収剤を通過した後の原料ガス中の水銀濃度との関係を図4の実線で示す。
【0062】
<使用済み銅系吸収剤の再生>
次に、この原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤を加熱した。なお、流速1.0L/minの空気(酸素/窒素)中で行い、使用済み銅系吸収剤の温度が160℃→200℃→220℃→250℃となるように加熱した。加熱時間と、温度及び使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を、図3に示す。
【0063】
図3に示すように、原料ガスと銅系吸収剤を接触させて水銀を除去した際の温度である160℃になるように加熱しても水銀は全く放出されず、160℃では使用済み銅系吸収剤は再生できないことが分かった。一方、200℃以上にすると、水銀が良好に放出され、加熱後の銅系吸収剤には水銀はほぼ含まれていなかった。また、高温になるにしたがって水銀の放出速度が速くなった。
【0064】
(実施例2)
<再生した使用済み銅系吸収剤による水銀除去>
実施例1で得られた空気(酸素/窒素)中で再生させた使用済み銅系吸収剤に160℃、SV:25000h−1で、<未使用銅系吸収剤による水銀除去>と同様の原料ガス(ガス組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:62μg/m3N)を接触させて、原料ガス中の水銀を使用済み銅系吸収剤に吸収させた。銅系吸収剤と原料ガスとを接触させた時間(反応時間)と、銅系吸収剤を通過した後の原料ガス中の水銀濃度との関係を図4に破線で示す。
【0065】
この結果、本発明の再生方法で再生した銅系吸収剤の水銀除去性能を評価した実施例2では、指標となる95%の水銀除去率(5%破過)に達するまでの時間が、図4に示す未使用の銅系吸収剤と同等以上であった。
【0066】
(実施例3)
<未使用銅系吸収剤による水銀除去>
実施例1で調製した未使用の銅系吸収剤に160℃、SV:2000h−1で、バイオマスガス化ガスを想定した原料ガス(ガス組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:62μg/m3N)を接触させて、原料ガス中の水銀を銅系吸収剤に吸収させた。なお、この原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤に含まれる銅化合物は、一部が硫化物(CuS、Cu2S)になっていた。
【0067】
<使用済み銅系吸収剤の再生>
次に、この原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤を再生させた。なお、流速1.0L/minの再生ガス(ガス組成は、O2:1%、N2:balance)中で行い、使用済み銅系吸収剤の温度が始めから200℃で一定となるように加熱した。加熱時間と使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を図5に示す。
【0068】
(実施例4)
<使用済み銅系吸収剤の再生>で、再生ガスの組成をO2:2%、N2:balanceとした以外は、実施例3と同様の操作を行った。加熱時間と使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を図5に示す。
【0069】
(実施例5)
<使用済み銅系吸収剤の再生>で、使用済み銅系吸収剤の温度が始めから250℃で一定となるようにした以外は、実施例3と同様の操作を行った。加熱時間と使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を、図5に示す。
【0070】
(実施例6)
<使用済み銅系吸収剤の再生>で、再生ガスの組成をO2:2%、N2:balanceとした以外は、実施例5と同様の操作を行った。加熱時間と使用済み銅系吸収剤から放出された水銀量との関係を図5に示す。
【0071】
図5に示すように、実施例3〜6でも水銀が良好に放出され、使用済み銅系吸収剤が再生できたことが確認された。なお、高温であるほど、ならびに酸素濃度が高いほど水銀の放出速度が速くなった。
【0072】
(比較例1)
原料ガス中の水銀を吸収させた使用済み銅系吸収剤の加熱を流速1.0L/minの空気中で行う代わりに、流速1.0L/minの窒素中で行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0073】
その後、上記操作を行った使用済み銅系吸収剤を、実施例1で得られた空気(酸素/窒素)中で再生させた使用済み銅系吸収剤の代わりに用いて、実施例2と同様の操作を行った。1回目(未使用時)の原料ガスとの接触による水銀吸収容量、及び、2回目(再生後)の原料ガスとの接触による水銀吸収容量を相対値として図6に示す。なお、図6中、白の棒グラフが1回目の水銀吸収容量を表し、黒の棒グラフが2回目の水銀吸収容量を表す。また、実施例2の結果も合わせて図6に示す。
【0074】
図6に示すように、空気(酸素/窒素)中で再生した実施例2では、水銀吸収容量が未使用のものと同等以上であり、水銀吸収性能が完全に回復していた。一方、窒素雰囲気下で再生した比較例1では、水銀吸収容量は大幅に低下し、水銀吸収性能は回復していなかった。これは、窒素雰囲気下で再生したので、銅系吸収剤に含まれる銅化合物が酸化物とならなかったためと推測される。なお、比較例1でも、再生により実施例1と同程度に水銀はほとんど放出されていた。
【0075】
(比較例2)
銅系吸収剤の代わりに添着活性炭を用いた以外は、比較例1と同様の操作を行った。1回目(未使用時)の原料ガスとの接触による水銀吸収容量、及び、2回目(再生後)の原料ガスとの接触による水銀吸収容量を相対値として図6に示す。添着活性炭を用いた場合、窒素雰囲気下での再生によりある程度水銀吸収性能は回復するが、未使用のものと同程度まで回復することはできなかった。なお、比較例2でも、再生により実施例1と同程度に水銀はほとんど放出されていた。
【0076】
図7〜図14に基づいて銅系吸収剤を繰り返して使用した状況を説明する。
【0077】
図7〜図10に基づいて繰り返し使用に伴う銅系吸収剤の状態を説明する。図7には繰り返し使用に伴う銅系吸収剤中の銅の形態変化、図8には繰り返し初期における銅系吸収剤中の水銀吸収容量の推移、図9には再生時の銅系吸収剤の物性変化、図10には銅系吸収剤の比表面積の推移を示してある。
【0078】
銅系吸収剤としては、前述した実施例1で説明したものを使用した。水銀除去工程は、160℃、空塔速度(SV:Spase Velocity):2000h−1で、模擬の原料ガス(ガス組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg)を接触させ、原料ガス中の水銀を銅系吸収剤に吸収させた。再生工程は、使用済み銅系吸収剤の温度が250℃となるように、O2:1%、N2:99%の雰囲気中で加熱した。水銀除去工程と再生工程を交互に繰り返し、20回の水銀除去と再生を実施した。図中、除去(1)〜(20)は水銀除去工程の回数、再生(1)〜(20)は再生工程の回数である。
【0079】
図7に基づいて銅系吸収剤中の銅の形態変化を説明する。図7中、白抜きで示した部分が酸化銅(CuO)の状態で、黒塗りで示した部分が不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4を含む状態で、斜線で示した部分が硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態である。図7に示すように、再生工程を5回繰り返した以降は硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態で安定していることが判る。尚、これらの銅の形態は、X線解析(XRD)分析の結果に基づくものである。
【0080】
図8に基づいて銅系吸収剤中の水銀吸収容量の推移を説明する。図8には、銅系吸収剤17.5gを使用し、5μg/m3N破過時の吸収容量(mg/kg)の推移を示してある。図に示すように、3回目までは吸収容量が徐々に増加し、4回目及び5回目では40数mg/kgで略安定している。図8に示すように、4回目以降は水銀の吸収容量が略安定することが判る。このことは、図7に示した硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態で安定する状況と傾向が一致している。
【0081】
図9に基づいて銅系吸収剤の再生工程後の物性変化を説明する。物性の項目として、比表面積(m2/g)、硫黄(wt%)、塩素(wt%)、水銀(mg/kg)を示してある。比表面積(m2/g)は、未使用の場合43.4m2/gであったものが、3回目の再生工程以降で26.7m2/g〜36.4m2/gの範囲で安定することが判る。硫黄に関しては、H2Sとの反応によって銅系吸収剤が徐々に硫化されるため濃度が上昇するが、次第に安定することが判る。塩素に関しては大きな変化はない。水銀に関しては図表に示す通りで大きな変化は生じておらず、水銀の蓄積も見られない。
【0082】
物性の項目として、銅の形態を合わせて示してある。未使用時の銅の形態は酸化銅(CuO)であり、1回目の再生後は、酸化銅(CuO)と不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4が共存し、2回目、3回目の再生後は、酸化銅(CuO)と不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4と硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)が共存している。5回目以降の再生後は、硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態となっている。
【0083】
1回目から3回目の再生後は、分子径が大きな不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4が共存し、比表面積が小さくなっており、再生が繰り返されて分子径が小さな硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)の状態で安定すると比表面積が大きくなって安定していることが判る。つまり、図表の結果は、初期の再生工程では、吸収剤の細孔が不安定物質Cu(OH)2・H2O、Cu3+2(SO4)(OH)4に塞がれ、繰り返して使用することによって銅系吸収剤中の銅が硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)として徐々に安定することが反映されていることが判る。比表面積が大きくなって安定することは、図8に示した水銀の吸収容量が略安定する状況と傾向が一致している。
【0084】
図10に基づいて銅系吸収剤の比表面積の推移を説明する。未使用の銅系吸収剤の比表面積は43.4m2/gであり、水銀除去工程後は除去を5回程度繰り返すまで(図中Aの領域)比表面積が小さくなり、5回目以降(図中Bの領域)は略安定していることが判る。再生工程後は、図中Aの領域で比表面積が一旦小さくなった後に徐々に大きくなり、図中Bの領域で水銀除去工程後と同程度の面積で推移していることが判る。
【0085】
図中Aの領域は、銅系吸収剤が、酸化銅(CuO)や不安定物質Cu3(SO4)(OH)4等の様々な銅化合物が混在し、水銀の吸収容量が徐々に増加する領域となっている。図中Bの領域は、銅系吸収剤が、硫化銅(CuS、Cu7.2S4、Cu9S5、Cu2S)として安定し、水銀の吸収容量も略一定状態の領域となっている。銅系吸収剤の水銀除去工程後及び再生後の比表面積の推移は、図9に示した再生後に比表面積が安定する状況及び図8に示した水銀の吸収容量が略安定する状況と傾向が一致している。
【0086】
図11、図12に基づいて6回目の再生工程、即ち、水銀の吸収容量が安定した状態における再生工程を、4.0gの銅系吸収剤を用いて酸素含有雰囲気及び窒素雰囲気で実施した状況を説明する。図11には酸素含有雰囲気(O2:1%、N2:99%)での再生工程の経時変化、図12には窒素雰囲気(N2:100%)での再生工程の経時変化を示してある。つまり、硫化銅として安定した銅系吸収剤により、再生時のガス条件(雰囲気条件)の影響を示してある。
【0087】
図11に示すように、酸素含有雰囲気で再生工程を実施した場合、160℃で約100μg/m3Nの水銀放出濃度が得られ、200℃で800μg/m3N近傍の水銀放出濃度が得られる。250℃で約8時間〜15時間程度経過後に再生が完了する。図12に示すように、窒素雰囲気で再生工程を実施した場合、160℃では約10μg/m3N〜約20μg/m3N程度しか水銀放出濃度が得られず、200℃で200μg/m3N近傍の水銀放出濃度となる。250℃で約18時間から25時間経過後に再生が完了する。
【0088】
このように、酸素含有雰囲気で再生を実施することで(酸素の共存により)、水銀の放出速度が早くなることが判る。これは、水銀の硫化物が酸素の共存により、水銀と二酸化硫黄に反応するためであると考えられる。即ち、
HgS+O2→Hg+SO2
等の反応が生じていると考えられる。
【0089】
図13に基づいて硫化銅として安定した銅系吸収剤を異なるガス条件で再生した後の水銀除去特性を説明する。即ち、ガス条件を代えて7回目の水銀除去工程を実施した場合の水銀除去特性を説明する。水銀除去工程には、窒素雰囲気で再生した銅系吸収剤(点線で示してある)と、酸素含有雰囲気で再生した銅系吸収剤(図中実線で示してある)を使用した。図13には7回目の水銀除去工程における水銀濃度の経時変化を示してある。
【0090】
銅系吸収剤を3.5g使用し、原料ガスのガス条件は、温度:160℃、空塔速度SV:10000h−1、ガス組成は、H2:25%、CO:17%、CO2:8.5%、H2O:28%、N2:balance、H2S:500ppm、HCl:100ppm、Hg:160μg/m3Nである。
【0091】
図に点線で示したように、窒素雰囲気で再生した銅系吸収剤を用いた場合には、短時間(3時間程度)で水銀濃度が上昇した。図に実線で示したように、酸素含有雰囲気で再生した銅系吸収剤を用いた場合には、長時間に亘って(20時間以上)低濃度を維持した。このため、酸素含有雰囲気で再生した銅系吸収剤を用いた場合には、高い水銀除去性能を維持していることが判る。
【0092】
図11〜図13に示したように、酸素含有雰囲気で再生した銅系吸収剤を用いることで、短い時間で再生することができ、高い水銀除去性能を維持することができる。従って、銅系吸収剤が硫化銅として安定した後においても、酸素含有雰囲気で再生を行なうことが望ましい。
【0093】
図14に基づいて銅系吸収剤の運用コストを説明する。図14には乾式水銀除去プロセスに要する銅系吸収剤と添着活性炭の運用コストを示してある。前提条件として、充填剤の充填量は120kg/回、処理ガス量は400m3N/h、空塔速度SVは約2000h−1、Hg濃度は30μg/m3Nであり、年間水銀負荷は、
(30μg/m3N)×(400m3N/h)×(24h)×(365)
=105g・Hg/年
である。
【0094】
銅系吸収剤の使用温度は160℃と120℃、添着活性炭の使用温度は120℃である。銅系吸収剤の160℃での水銀吸収容量は44mg-Hg/kg、120℃での水銀吸収容量は220mg-Hg/kg以上であり、添着活性炭の水銀吸収容量は16mg-Hg/kgである。銅系吸収剤の160℃での年間の必要交換回数は20回、銅系吸収剤の120℃での年間の必要交換回数は4回以下、添着活性炭の年間の必要交換回数は55回である。銅系吸収剤の160℃での年間の使用量は120kg(2年で240kg)、銅系吸収剤の120℃での年間の使用量は24kg以下(10年で240kg以下)、添着活性炭の年間の使用量は6600kgとなる。
【0095】
銅系吸収剤の単価は10000円/kg、添着活性炭の単価は1000円/kgである。銅系吸収剤の160℃での年間の廃棄物発生量(再生時に放出した水銀を吸着させる吸着剤を含む)は121kg(2年で242kg)、銅系吸収剤の120℃での年間の廃棄物発生量(再生時に放出した水銀を吸着させる吸着剤を含む)は25kg以下(10年で250kg以下)、添着活性炭の年間の廃棄物発生量は6600kgとなる。そして、収集・運搬を含む廃棄物の処理単価は350円/kgである。
【0096】
このため、年間の運用コストは、銅系吸収剤を160℃で使用した場合、1243千円、銅系吸収剤を120℃で使用した場合、250千円以下、添着活性炭は8910千円と試算される。
【0097】
銅系吸収剤の単価は試作品ベースであるため、大量生産を行なうことにより安くなることが考えられる。添着活性炭の単価は銅系吸収剤の1/10であるが、使い捨てでの運用のため使用量が多くなる。これらのことから、銅系吸収剤の160℃での運用コストは、添着活性炭を120℃で使用する場合の14%、銅系吸収剤の120℃での運用コストは、添着活性炭を120℃で使用する場合の約3%以下となることが判る。従って、銅系吸収剤を再生して繰り返して使用することにより、吸収剤の運用コストを抑えた乾式水銀除去プロセスを実現することができる。
【0098】
以上の結果から、水銀除去工程で生成した硫化銅は、初期の再生工程で他の銅化合物に変化したが、再生工程の繰り返しに伴い吸収剤中の硫化銅として安定すると共に水銀吸収容量が増加することが判る。
【0099】
また、銅系吸収剤中の銅が硫化銅として安定した5回目から20回目までの繰り返しにおいては、銅系吸収剤の比表面積や残留する硫黄濃度、塩素濃度に大きな変化はなく、水銀の蓄積や除去性能の低下も見られなかった。このことから、銅系吸収剤は少なくとも20回の繰り返し使用が可能であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、バイオマスガス化ガスや廃棄物ガス化ガス等の水銀、硫黄化合物及びハロゲン化物を含む原料ガスから水銀を除去する産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】原料ガス中の水銀除去方法を示す図である。
【図2】乾式ガス精製システムの概略系統図である。
【図3】実施例1の銅系吸収剤の再生処理での水銀放出挙動を示す図である。
【図4】再生した銅系吸収剤及び未使用の銅系吸収剤を用いて原料ガスから水銀を除去した際の挙動を示す図である。
【図5】実施例3〜6の銅系吸収剤の再生処理での水銀放出挙動を示す図である。
【図6】吸収剤の1回目(未使用時)と2回目(再生後)の水銀吸収容量を比較した図である。
【図7】繰り返し使用に伴う銅系吸収剤中の銅の形態変化を示す図である。
【図8】繰り返し初期における銅系吸収剤中の水銀吸収容量の推移を示す図である。
【図9】再生時の銅系吸収剤の物性変化を示す図である。
【図10】銅系吸収剤の比表面積の推移を示す図である。
【図11】酸素含有雰囲気での再生工程の経時変化を示す図である。
【図12】窒素雰囲気での再生工程の経時変化を示す図である。
【図13】7回目の水銀除去工程における水銀濃度の経時変化を示す図である。
【図14】乾式水銀除去プロセスに要する銅系吸収剤と添着活性炭の運用コストを示す図である。
【図15】硫黄化合物の状況に応じた銅系吸収剤の水銀吸収性能の挙動を示す図である。
【図16】再生時間に応じた銅系吸収剤の水銀吸収性能の挙動を示す図である。
【符号の説明】
【0102】
1 バイオマスガス化炉
2 バグフィルター
3 重金属類除去装置
4 ハロゲン化物除去装置
5 脱硫装置
6 発電装置
8 熱交換器
11 水銀除去装置
12 銅系吸収剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で前記使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱して、前記使用済み銅系吸収剤から水銀を放出させることを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項2】
請求項1に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記原料ガスは、硫黄化合物を含むことを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項3】
請求項1に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記原料ガスは、硫黄化合物及びハロゲン化物を含むことを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記原料ガスが、バイオマスをガス化させることにより生成したバイオマスガス化ガス、または、廃棄物をガス化させることにより生成した廃棄物ガス化ガスであることを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記使用済み銅系吸収剤は、120〜160℃で、前記原料ガスを接触させて該原料ガス中の水銀を吸収したものであることを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記水銀が放出された前記銅系吸収剤は、硫化銅を含むことを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
未使用の前記銅系吸収剤が、酸化銅のみ、あるいは酸化銅と担体成分、または、成形助剤を含むことを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項8】
水銀を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を前記銅系吸収剤に吸収させた後、この水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を請求項1〜7の何れか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法により再生し、再生した使用済み銅系吸収剤に再び水銀を含む原料ガスを接触させて水銀を吸収させることを特徴とする原料ガス中の水銀除去方法。
【請求項1】
水銀を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を、酸素を含む雰囲気中で前記使用済み銅系吸収剤の温度が180℃以上になるように加熱して、前記使用済み銅系吸収剤から水銀を放出させることを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項2】
請求項1に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記原料ガスは、硫黄化合物を含むことを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項3】
請求項1に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記原料ガスは、硫黄化合物及びハロゲン化物を含むことを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記原料ガスが、バイオマスをガス化させることにより生成したバイオマスガス化ガス、または、廃棄物をガス化させることにより生成した廃棄物ガス化ガスであることを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記使用済み銅系吸収剤は、120〜160℃で、前記原料ガスを接触させて該原料ガス中の水銀を吸収したものであることを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
前記水銀が放出された前記銅系吸収剤は、硫化銅を含むことを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法において、
未使用の前記銅系吸収剤が、酸化銅のみ、あるいは酸化銅と担体成分、または、成形助剤を含むことを特徴とする銅系吸収剤の再生方法。
【請求項8】
水銀を含む原料ガスを銅系吸収剤に接触させて該原料ガス中の水銀を前記銅系吸収剤に吸収させた後、この水銀を吸収した使用済み銅系吸収剤を請求項1〜7の何れか一項に記載の銅系吸収剤の再生方法により再生し、再生した使用済み銅系吸収剤に再び水銀を含む原料ガスを接触させて水銀を吸収させることを特徴とする原料ガス中の水銀除去方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−39706(P2009−39706A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138128(P2008−138128)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、「多燃料・多種不純物対応乾式ガス精製システム研究開発」共同研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、「多燃料・多種不純物対応乾式ガス精製システム研究開発」共同研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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