説明

銅転炉の操業方法

【課題】 転炉羽口部のレンガの損耗を抑えて、転炉寿命を長く保つことが求められている。一般的には、冷材量を調整して、炉内の溶体温度を一定に保つ操業が行われているが、送風中の酸素が反応している羽口近傍では溶体の温度を十分に制御できない。
【解決手段】 銅転炉内のマット溶体に先端が浸漬された羽口から空気を吹き込む銅転炉造銅期操業において、送風空気に窒素を加え、送風酸素濃度を19.8体積%から20.8体積%とする銅転炉の操業方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属製錬における銅転炉の操業方法に関するものであり、さらに詳しく述べるならば銅転炉における冷材投入操業に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、非鉄金属製錬に用いられる銅PS転炉では、溶錬炉から産出される銅品位45 mass %から70 mass %のマットに、酸素負荷空気を吹き込むことにより、マットに含まれる鉄分及び硫黄分を除去し、銅品位98.9mass%の粗銅を生成している。
銅PS転炉はバッチ炉であり、1バッチは、主にマットに含まれる鉄分を除去する造カン期と、主にマットに含まれる硫黄分を除去する造銅期に分けられる。一般に、造カン期の酸素富化空気の酸素濃度は21体積%から30体積%である。なお、酸素濃度29%を達成した開発に関しては、非特許文献1:資源と素材Vol.117(2001),No.5,第409〜412頁、「佐賀関精錬所における転炉生産性の向上」で発表した。また造銅期の酸素富化空気の酸素濃度は、一般に21体積%から23体積%である。
【0003】
銅PS転炉は、炉体に付設された羽口からこの酸素富化空気を吹き込むため、羽口近傍のレンガの損傷が大きく、炉寿命は羽口近傍のレンガの損傷具合により決定される場合が多い。このために炉寿命を向上するため、多くの操業方法改善が提案されている。
その一つである、特許文献1:特開平8−269586号広報、「銅転炉の操業方法」:羽口に35から90体積%酸素富化空気を吹き込むことにより、羽口先端鋳付きの成長を抑え、羽口先端鋳付きに機械的衝撃をあたえることで開孔する作業をなくし、炉寿命の延長を図ることを提案している。
また、特許文献2:特開平11-335750号公報「銅転炉の操業方法」においては、造カン期に炉内に装入する冷材、特に、凝固マットを粉砕した冷材を操業回数に応じて段階的に減少することにより、羽口から吹き込まれる送風空気が入りやすく、熱過剰となり易い、炉修から比較的操業回数の少ない操業時において冷材を投入することにより、羽口レンガの損耗を軽減することで炉寿命の延長を図る。造銅期の冷材としては、電線屑、アノードスクラップなどを使用している。
【特許文献1】特開平8−269586号公報
【特許文献2】特開平11−335750号公報
【非特許文献1】資源と素材Vol.117(2001),No.5,第409〜412頁、「佐賀関精錬所における転炉生産性の向上」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の銅転炉の操業方法では、羽口に35から90体積%酸素富化空気を吹き込むが、羽口先端鋳付きの制御が困難なため、酸素富化空気により鉄あるいはSUS製の羽口ノズルを焼損する可能性があり、逆に炉寿命が短くなる危険性がある。
特許文献2の銅転炉の操業方法では、冷材により炉内溶体全体の温度をコントロールしているが、最も反応が激しい羽口近傍の溶体の温度は十分にコントロールできないため、炉寿命延長効果が少ない。
【0005】
産出転炉粗銅の温度は、ほぼ1200℃以下に抑えることが好ましい。一方、溶体と送風空気との反応熱により溶体温度は上昇する。この温度上昇を抑制し、産出転炉粗銅温度を調整するために、従来法では冷材として、電線屑、アノードスクラップなどを溶体に装入する必要がある。近年、繰り返し物低減を図るため、アノードスクラップの低減が図られてきており、冷材不足となることがある。この場合には、後工程である精製炉で製造されるアノードを繰り返す必要があり、精製炉の生産量を落とし、コスト増加を招いている。
このような背景において、転炉羽口部のれんが損傷を抑えて転炉寿命を長く保つことが求められている。前掲特許文献1〜2の操業方法はかかる要請に応えることができないので、本発明は新規な銅転炉操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る銅転炉の操業方法は、銅転炉内のマット溶体に先端が浸漬された羽口から空気を吹き込む銅転炉造銅期において、送風空気に窒素を加え、送風酸素濃度を19.8体積%から20.8体積%とすることを特徴とする。
ここで、送風酸素濃度が20.8体積%を超えると、窒素吹込み流量はほぼゼロとなり、窒素による冷却効果はなくなる。送風酸素濃度が19.8体積%未満であると、銅転炉内のマット溶体が過冷却となり、操業に支障をきたすこととなる。ゆえに、上記した範囲内の窒素を混合吹込みすることが必要である。なお、自溶炉に吹込む酸素を製造する際に窒素ガスが副産物として得られるのでこの窒素を転炉への吹込みに利用することができる。
本発明である窒素富化空気を吹込む転炉操業を行ない、その結果次のような作用が得られた。
【発明の効果】
【0007】
(1)窒素の混合吹込みにより造銅期の溶体温度上昇速度が下がる。溶体温度上昇速度は特許文献1では、平成7年当時の従来技術として、転炉造カン期における送風酸素濃度26体積%操業を行った際、送風1時間当り約150℃(約2.5℃/分)の操業例が示されている。転炉造銅期では、送風酸素濃度は、21〜23体積%で操業を行うため、従来、溶体温度上昇速度は送風1時間当り約50℃(約1℃/分)である。本発明によると窒素混合吹込みにより、溶体上昇速度は0から1℃/分の間に制御できる。
(2)従来法では、造銅期の溶体温度上昇を抑制し、産出転炉粗銅温度を調整するために、冷材を溶体に装入する必要がある。しかしながら、本発明法によると、窒素ガスが冷材として作用し、冷材の投入量を削減することができる。
(3)造銅期送風空気に窒素を入れることにより、産出転炉粗銅温度の調整を行い易くなる。さらに、窒素は酸素と異なり、羽口先端では反応しないため、その周辺レンガの損傷を抑えることができる。通常の炉で行う場合は、羽口より手前で、送風空気に窒素を混合させて炉内に吹き込む。より好ましくは、羽口ノズルを二重管とし、内管に送風空気を、外管に窒素を吹き込むこととすれば、羽口周辺レンガの損傷を更に抑えることが可能となる。
(4)通常転炉排ガスはボイラーにより廃熱回収を行っているため、造銅期送風空気に窒素を入れることにより、窒素が持ち出す熱量を蒸気として回収することが可能となり、省エネルギーを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施例1
銅転炉において、造銅期の送風空気に窒素を加え、送風酸素濃度を20.8体積%から20.38体積%とする本発明の試験操業をおこなった。表1にその結果を示す。
【0009】

【表1】

【0010】
窒素ガスを混合して吹込む実施例は、窒素ガスを混合吹込みしない比較例に対して、冷材量が8t/バッチ(75-67=8)低減し、月当たり1900t/月(8t/バッチ×8回/日×30.5日/月))減少する。これにより、精製炉の鋳造コストも減少する。
さらに窒素ガスを混合して吹込む実施例では、窒素ガスを混合吹込みしない比較例に対して、羽口部の温度が、1240℃から1200℃に低減する。これにより、炉寿命が330回から350回へ上昇する。
また、窒素ガスを混合して吹き込むことにより、排ガス発生量が多くなり、転炉廃熱回収ボイラーにて発生する蒸気が増加する。
【0011】
実施例2
銅転炉において、造銅期の送風空気に窒素を加え、送風酸素濃度を19.8体積%とし、実施例1と同じ操業を行った結果を次の表に示す。
実施例2では、比較例に対して、冷材量が15t/バッチ(75-60=15)低減し、月当たり3700t/月(15t/バッチ×8回/日×30.5日/月))減少しており、実施例1よりも更に冷材量が低減している。また、溶体の温度上昇がなくなるため、実施例1よりも更に炉寿命が向上する。
一方、送風酸素濃度が実施例2の19.8体積%未満であると、銅転炉内のマット溶体が過冷却となり、操業に支障をきたすこととなるため、この送風酸素濃度の下限は19.8体積%である。



【0012】
【表2】

【0013】
上記実施例に示すように本発明においては、以下の効果を有する。
<発明の効果>
(1)銅転炉造銅期の溶体温度上昇速度が下がり、特に羽口近傍の過熱が抑制できるため、炉寿命の延長に効果がある。
(2)銅転炉造銅期溶湯温度制御が行い易くなり、冷材使用量を低減することが出来る。佐賀関精錬所では、冷材として繰り返し品を生産している。この繰り返し品が低減でき、転炉1炉当りの生産性が向上する。
(3)排ガス量増加による排ガス顕熱の増加分はボイラーで回収できるため、省エネルギーを図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
上述したように、銅PS転炉の造銅期において、羽口から、空気に加え窒素ガスを吹き込み冷材とし、工程繰返し銅材の冷材を減少し、同時に、羽口部のレンガの消耗を抑え、炉寿命を延長することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅転炉内のマット溶体に先端が浸漬された羽口から空気を吹き込む銅転炉造銅期操業において、送風空気に窒素を加え、送風酸素濃度を19.8体積%から20.8体積%とすることを特徴とする銅転炉の操業方法。

【公開番号】特開2008−81795(P2008−81795A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263750(P2006−263750)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】