説明

銅部材のろう材被膜形成方法及びブレージングシート並びに銅部材の接合方法

【課題】 銅部材5の表面にろう材として作用可能なめっき被膜を形成し、複雑形状の部品にも適用可能なろう材被膜形成方法を提案する。
【解決手段】 銅めっき液2中にリン又はリン化合物の微粒子3を懸濁させた分散めっき液を用い、これに銅部材5を浸漬して電気めっきを施し、部材表面に銅とリン又はリン化合物の微粒子とが共析した銅−リン複合めっき層又は銅―リン化合物複合めっき層6を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅部材をろう付けするために、部材表面にろう材層を形成する銅部材のろう材被膜形成方法、及びこのろう材被膜形成方法によって製作するブレージングシート、並びにこれらの銅部材を用いてろう付する銅部材の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅部材及び銅を主成分とする銅合金部材の接合手段としてろう付が広く行われ、給湯装置や冷凍装置の熱交換器、流体通路部品等が製作されている。銅部材のろう付は、ろう材としてリン銅ろうが用いられ、接合部(継手部)に薄板(箔)状又は棒(線)状のろう材を設置し、若しくはペースト状のろう材を塗布して組み立て、これを加熱炉内に投入し、溶融したろうが間隙内に侵入して部材を溶着するものである。
【0003】
このように、ろう付による部材の接合は、ろう材の設置作業が煩雑で、作業性、生産性に課題がある。また、ろう材は接合部に適切量を供給することが好ましいが、部品形状、継手形状の複雑化に伴ってろう材の設置が困難となり、ろうの過剰供給や接合不良を招いてろう付の品質が低下するなどの課題がある。
【0004】
一方、これを解決する手段として、母材である金属板の表面に、ろう材層を圧延・圧着したブレージングシートを用いたろう付方法があり、銅板の表面にリン銅ろうのろう材層を形成する手段も提案されている(特開2004−114158号公報、特許文献1)。しかし、ブレージングシートはコストが高価であるとともに、ろう材層の薄膜化に限界があり、複雑形状の部品として成形する加工性にも課題がある。
【特許文献1】特開2004−114158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、分散めっき法により、銅部材の表面にろう材として作用可能なめっき被膜を形成し、複雑形状の部品にも適用可能なろう材被膜形成方法を提案するものである。また、このろう材被膜形成方法によって、銅板の表面に所定膜厚のろう材層を形成したブレージングシートを提案するとともに、ろう材の設置作業を不要として生産性に優れ、ろう付の品質の向上を図った銅部材の接合方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの課題を解決するため、請求項1に記載の銅部材のろう材被膜形成方法は、銅合金部材を含む銅部材をろう付けするために、当該銅部材の表面にろう材層を形成するろう材被膜形成方法であって、銅めっき液中にリン又はリン化合物の微粒子を懸濁させた分散めっき液を用い、これに銅部材を浸漬して電気めっきを施し、部材表面に銅とリン又はリン化合物の微粒子とが共析した銅−リン複合めっき層又は銅―リン化合物複合めっき層を形成させることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の銅部材のろう材被膜形成方法は、銅部材を銅めっき液中の水平下層位置に浸漬し、沈降するリン又はリン化合物の微粒子を部材表面に堆積させながら上記めっき層を形成するものである。
【0008】
請求項3に記載の銅部材のろう材被膜形成方法は、銅部材にシーリングを施し、接合部のみに上記めっき層を形成するものである。
【0009】
請求項4に記載のブレージングシートは、請求項1又は2に記載の銅部材のろう材被膜形成方法において、銅部材として銅板を用い、当該銅板の表面に所定膜厚の上記めっき層を形成するものである。
【0010】
請求項5に記載の銅部材の接合方法は、請求項1、2又は3に記載のろう材被膜形成方法によって上記めっき層が形成された銅部材を用いるか、又は請求項4に記載のブレージングシートを用い、これと他の銅部材とを当接して組み立て、加熱してろう付けするものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明の銅部材のろう材被膜形成方法は、銅めっき液中に分散材としてリン又はリン化合物の微粒子を懸濁させた分散めっき液を用い、これに銅部材を浸漬して電気めっきを施す分散めっき法により、部材表面に銅−リン複合めっき層又は銅―リン化合物複合めっき層を形成するもので、このめっき層は、銅とリン又はリン化合物の微粒子とが共析してリン銅ろう相当のろう材として作用し、銅部材の表面にろう材層を簡単に形成することができる。また、めっきによりろう材層を形成するので、複雑形状の部品にも容易に適用し、めっき被膜厚やリン微粒子の共析率の制御も可能である。
【0012】
また、銅部材を銅めっき液中の水平下層位置に浸漬し、沈降するリン又はリン化合物の微粒子を部材表面に堆積させながら上記めっき層を形成することで、めっき被膜中のリン又はリン化合物の微粒子の共析率の向上を図ることができる。
【0013】
また、銅部材にシーリングを施し、接合部のみに上記めっき層を形成することで、銅部材の接合部のみにろう材層を形成することができ、ろう材が接合部に適切量供給されて極めて合理的である。
【0014】
また、この発明のブレージングシートは、上記のろう材被膜形成方法によって、銅板の表面に所定膜厚の上記めっき層を形成することで、リン銅ろう相当のろう材として作用するろう材層を形成するもので、製作コストの低減が可能であるとともに、めっき被膜厚の制御で極めて薄膜(0.1mm以下)のろう材層も形成可能である。
【0015】
また、この発明の銅部材の接合方法によれば、ろう材の設置作業を不要として生産性の大幅な向上を図ることができるとともに、ろう材の過剰供給や接合不良が生じることがなく、ろう付の品質の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、この発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて具体的に説明する。
図1は、この発明の銅部材のろう材被膜形成方法の基本的構成を示す説明図である。
図において、めっき槽1に収容した銅めっき液2は、硫酸銅五水和物と硫酸を適切な濃度で調合した硫酸銅めっき浴で、この銅めっき液2中にリン又はリン化合物の微粒子3を適切量懸濁させた分散めっき液が用いられる。分散材として用いる微粒子3は、リンとしては赤リン粒子、リン化合物粒子としてはCuP粒子等である。微粒子3が銅めっき液2中に均一に分散するように、ダクト7からエアーを供給して銅めっき液2を撹拌する。
【0017】
この分散めっき液中に、陽極4に対向して被めっき物である銅部材5を陰極として浸漬し、電気めっきを施す。その結果、部材表面に、めっき被膜中に銅とリン又はリン化合物の微粒子3が共析した銅−リン複合めっき層又は銅−リン化合物複合めっき層6が形成される。このめっき層6はリン銅ろう相当のろう材として作用し、銅部材5の表面にろう材層が形成される。
【0018】
図2は、他のろう材被膜形成方法を示す説明図である。
このろう材被膜形成方法は、図に示すように、陽極4を銅めっき液2中の水平上層位置とし、陽極4に対向して銅部材5を銅めっき液2中の水平下層位置に浸漬し、沈降する微粒子3を部材表面に堆積させながらめっき層6を形成するものである。したがって、リン又はリン化合物の微粒子3の共析率の向上を図ったものである。
【0019】
図3は、この発明のろう材被膜形成方法で製作したブレージングシートである。
このブレージングシート10は、上記の分散めっき法により、銅板11の表面に銅−リン複合めっき層又は銅−リン化合物複合めっき層6を形成したもので、このめっき層6がリン銅ろう相当のろう材として作用し、銅板11の表面に所定膜厚のろう材層を形成したものである。
【0020】
図4は、この発明の銅部材の接合方法の実施例である。
図に示すように、本例は、銅管12を銅板13に周壁を当接して接合するもので、銅管12にシーリングを施し、上記の分散めっき法により、周壁の一部に軸方向へ沿った上記めっき層6を形成している。この銅管12をめっき層6を挟んで銅板13に当接し、所定治具で固定して加熱炉内に投入する。めっき層6がろう材として作用し、加熱炉内で溶融して銅管12と銅板13がろう付される。このように、この発明の銅部材の接合方法によれば、ろう材の設置作業が不要であるから作業性が改善され、ろう材を接合部に適切量供給することで、ろう付の品質の向上を図ることができる。
【0021】
図5は、ブレージングシート10を用いた銅部材の接合方法の実施例である。
本例は、膨出成形した2枚のプレートを接合し、流体が分岐又は合流するための流通路15を形成した流体通路部品であり、一方のプレートをブレージングシート10で形成したものである。膨出成形したブレージングシート10と、銅板を膨出成形した他方のプレート14を、ブレージングシート10のめっき層6を挟んで当接し、所定治具で固定して加熱炉内に投入する。めっき層6がろう材として作用し、加熱炉内で溶融して2枚のプレートがろう付けされ、この流体通路部品が製作される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の銅部材のろう材被膜形成方法の説明図。
【図2】他のろう材被膜形成方法を示す説明図。
【図3】この発明のブレージングシートの断面図。
【図4】この発明の銅部材の接合方法の実施例の断面図。
【図5】他の銅部材の接合方法の実施例の斜視図。
【符号の説明】
【0023】
2 銅めっき液
3 微粒子
5 銅部材
6 めっき層
10 ブレージングシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金部材を含む銅部材をろう付けするために、当該銅部材の表面にろう材層を形成するろう材被膜形成方法であって、
銅めっき液中にリン又はリン化合物の微粒子を懸濁させた分散めっき液を用い、これに銅部材を浸漬して電気めっきを施し、部材表面に銅とリン又はリン化合物の微粒子とが共析した銅−リン複合めっき層又は銅―リン化合物複合めっき層を形成させることを特徴とした銅部材のろう材被膜形成方法。
【請求項2】
銅部材を銅めっき液中の水平下層位置に浸漬し、沈降するリン又はリン化合物の微粒子を部材表面に堆積させながら上記めっき層を形成する請求項1に記載の銅部材のろう材被膜形成方法。
【請求項3】
銅部材にシーリングを施し、接合部のみに上記めっき層を形成する請求項1又は2に記載の銅部材のろう材被膜形成方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の銅部材のろう材被膜形成方法において、銅部材として銅板を用い、当該銅板の表面に所定膜厚の上記めっき層を形成したブレージングシート。
【請求項5】
請求項1、2又は3に記載のろう材被膜形成方法によって上記めっき層が形成された銅部材を用いるか、又は請求項4に記載のブレージングシートを用い、これと他の銅部材とを当接して組み立て、加熱してろう付けする銅部材の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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