説明

【課題】 美容師等の鋏の使用者が、自ら、閉じ角を調整することができる鋏を提供する。
【解決手段】本発明の鋏1は、一対の鋏片4a,4b間で軸芯の位置を相対的に変化させる軸位置調整手段を具備し、この軸位置調整手段は、枢着部において一方の鋏片4aに穿設された長孔20と、他方の鋏片4bに穿設された円形孔と、円形孔より径の小さな円柱部、円柱部の端部に形成され長孔に嵌挿された状態で長孔の内側面に当接して長手方向に摺動可能な角柱部15を備える軸芯と、角柱部15に設けられた軸ネジ孔部16と、これに螺合可能な軸ネジと、長孔20の短手方向の一対の内側面に設けられた止めネジ孔部と、これらに夫々挿通され、その螺進及び螺退により角柱部15の位置を調整可能な一対の止めネジとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理髪店や美容院等で使用される理美容用の鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、理髪店や美容院等で鋏を使用して髪をカットする際、いわゆる「髪が逃げる」現象への対処が問題となっていた。この「髪が逃げる」現象とは、一対の鋏刃から加えられた力により、髪が刃先方向に移動する現象である。ここで、髪が逃げようとする力は、一対の鋏刃が髪を切断する位置において、一方の鋏刃と他方の鋏刃によって形成される角度「閉じ角」によって変化し、この閉じ角が大きい程大きくなる。すなわち、刃元近くで髪を切断する場合に髪はより逃げやすく、刃先近くでは、髪は一対の刃に挟み込まれた状態となり、逃げにくくなる。
【0003】
従って、櫛で髪を抑えたり、鋏を使用していない方の手指で髪を挟み込むことにより、髪を逃げにくくしたとしても、一回の切断操作で切断された髪において、刃元付近で切断された髪と刃先付近で切断された髪とでは長さが不揃いになりやすい。そのため、髪を同じ長さにそろえるために、一回の操作で切断する幅を小さくし、鋏を激しく動かして同じ位置を何度も切ったり、髪を逃がしにくくするために髪を濡らして髪同士を接着させてカットすることが行われている。また、髪を逃がしにくい鋏の改良も行われている。
【0004】
ところが、髪を逃がさずに一様な長さに切り揃えた髪は、直線的で硬い印象を与えることから、最近では、自然な仕上がりの柔らかいイメージの髪型を要望する顧客も多い。そこで、髪の長さをわずかに変化させて毛先のラインをぼかし柔らかな仕上がりとしたり、動きや軽さを表現するために、敢えて髪の長さを不規則なものとするシャギーやレイヤー等の技法によるカットが行われている。また、髪が乾いた状態で、髪を逃がしやすくしてカットすることも行われている。その他、刃幅をアールを付けて変化させた刃(笹刃)を使用し、刃幅が刃元から刃先にかけて直線的に減少する従来の鋏に比べて閉じ角を大きくした鋏も使用されている。
【0005】
上記の技術は、当業者においては当然のごとく知られているものであり、本出願人は、本願出願時において、上記の技術が記載されている文献を知見していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の鋏では、美容師等の鋏の使用者自身が行うことのできる調整は、枢着部のネジの締付け具合を変化させ、「ため」の力(一対の鋏刃の接触圧力)を調整する程度に限定された。すなわち、鋏の使用者が閉じ角を自分で調整することはできなかった。そのため、目的とする髪形に合わせて、髪の逃げやすさを能動的に変化させ、毛先の処理に微妙な変化をつけることは困難であった。
【0007】
また、同じ閉じ角でも、刃の摩耗により刃が髪を捕えにくくなるため髪が逃げやすくなる。そのため、ある程度髪を逃がしやすいように設計された鋏も、鋏の使用による刃の摩耗に伴って仕上がりが異なって来てしまう問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記の実情に鑑み、美容師等の鋏の使用者が、自ら、閉じ角を変化させ調整することができる鋏の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る鋏は、「夫々刃部及び持部を有する一対の鋏片と、前記刃部と前記持部との間に位置し、一対の前記鋏片を軸芯周りに回動可能に互いに枢着する枢着部と、一対の前記鋏片の前記刃部が物を切断する任意の切断位置において一方の前記刃部が他方の前記刃部と形成する閉じ角を、変化させて調整可能とする閉じ角調整手段と」を主に具備して構成されている。
【0010】
ここで、閉じ角調整手段は、枢着部において一方の鋏片における軸芯の位置を他方の鋏片に対して相対的に変化させるものを例示することができる。また、少なくとも一方の鋏片において刃部を持部と別体に形成し、両者が当接して一部重なり合う部分において一方を他方にネジ等により取付け、その取付け角度を可変とする機構(例えば、ネジと長孔との組合わせ等)を備えることにより、閉じ角を調整可能とするものを例示することもできる。
【0011】
従って、本発明によれば、閉じ角調整手段を具備することにより、美容師等の鋏の使用者自身が、閉じ角を変化させることが可能となる。これにより、髪の逃げやすさを能動的に変化させて調整し、多様な髪型を表現することが容易となる。
【0012】
また、鋏の使用により刃部が摩耗した場合、閉じ角を微調整することにより、髪の逃げやすさについての所望の設定を維持することが可能となる。
【0013】
さらに、本発明に係る鋏は、「前記閉じ角調整手段は、前記枢着部において一方の前記鋏片における前記軸芯の位置を、他方の前記鋏片に対して相対的に変化させる軸位置調整手段である」ものとすることもできる。
【0014】
ここで、軸位置調整手段は、一方の鋏片において軸芯の位置を固定し、他方の鋏片に対して軸芯位置を可変とするものであり、例えば、一方の鋏片において枢着部に複数の孔部を穿設し、そのいずれかに軸芯を挿通し、その軸芯をネジ等で係止するものが例示される。これにより、軸芯を挿通した孔の位置を中心として一対の鋏片が回動することとなり、設けた孔部の位置及び数に応じて閉じ角を変化させることが可能となる。このとき、軸芯の位置が固定されている方の鋏片において、軸芯は鋏片に挿通され、その挿通孔において回転する軸芯が一対の鋏片の回動中心となるものとすることもでき、また、軸芯自体は鋏片に固着され、軸芯に挿通されるネジ等に回動中心となる部分が設けられるものとすることもできる。
【0015】
また、上記の複数の孔部の間に連通孔を設け、いずれかの孔部に嵌挿された軸芯をその連通孔に沿って他の孔部に案内することとしてもよい。これにより、軸芯を係止するネジ等を取り外すことなく、軸位置を他の孔部に移動させることが可能となる。
【0016】
さらに、一方の鋏片において枢着部に長い孔部を穿設し、この孔部に嵌挿させた軸芯を任意の位置で係止可能なものとすることにより、軸位置を調整可能としたものも例示できる。これにより、孔部の長さに対応した範囲内で、閉じ角を連続的に変化させ、任意の閉じ角を設定することが可能となる。ここで、長い孔部の形状は特に限定されず、長方形、長円形、湾曲したもの等が例示される。また、孔部を設ける方向も、鋏片の刃幅方向の成分を有すれば特に限定されないが、閉じ角の変化を大きくするためには、孔部の長手方向を刃幅方向と一致させることが効果的である。
【0017】
なお、孔部において軸芯位置を係止する手段としては、軸芯に螺合させるネジに、孔部の幅より広幅の頭部を有するネジを使用し、鋏片と軸芯とを締め付けて固定するもの、軸芯に螺合させるネジによる押さえの力が加わる面積をワッシャや板バネ等を介在させて孔部の幅より広くした上で固定するもの、孔部の内側面に配した止めネジ等で軸芯を固定するもの等を例示することができる。
【0018】
従って、本発明によれば、軸位置調整手段を具備することにより、枢着部において一方の鋏片における軸芯の位置を、他方の鋏片に対して相対的に変化させることができる。これにより、鋏の使用者が閉じ角を調整することが可能となる。
【0019】
加えて、本発明に係る鋏は、「前記軸位置調整手段は、前記枢着部において一方の前記鋏片に穿設され、長手方向を前記鋏片の刃幅方向と一致させた長孔と、前記枢着部において他方の前記鋏片に穿設された円形孔と、該円形孔より径の小さな断面を有する円柱部、該円柱部の端部を前記円形孔より広径に拡径した軸芯端部、前記円柱部のもう一方の端部に形成され前記長孔に嵌挿された状態で前記長孔の内側面に当接して前記長手方向に摺動可能な角柱部、該角柱部に設けられた軸ネジ孔部を備える軸芯と、前記軸芯の前記軸ネジ孔部に螺合可能な軸ネジと、前記長孔の短手方向の一対の内側面から、夫々前記鋏片を貫通して設けられた一対の止めネジ孔部と、一対の該止めネジ孔部に夫々螺合可能に挿通され、その螺進及び螺退により前記長孔に嵌挿された前記角柱部の前記長孔における位置を調整可能な一対の止めネジと」を具備する構成とすることもできる。
【0020】
ここで、軸芯の円柱部は、一方の鋏片の枢着部において穿設された円形孔よりその断面径が小さいため、この円形孔に挿通される。そして、円形孔の径より広径に形成された軸芯端部により、それ以上の侵入が防止される。これにより、軸芯は、円形孔に挿通された状態でこの円柱部において回転可能となり、一対の鋏片を回動自在とする回動中心となる。
【0021】
また、軸芯の角柱部は、もう一方の鋏片に穿設された長孔に嵌挿された状態で長孔の内側面に当接してその長手方向に摺動可能とされるため、一対の側面の長さは長孔の短手方向の長さと略同一とされる。そして、もう一対の側面の長さは長孔の長手方向の長さより短く、その差が大きいほど軸芯位置を可変とする範囲が大きくなる。
【0022】
さらに、長孔は、その長手方向が鋏片の刃幅方向と一致している。ここで、長孔の形状は、その内側面に軸芯の角柱部を当接させ摺動させるため、長手方向の一対の内側面が平行であれば特に限定されず、矩形や端部を円形に湾曲させて形成された形状が例示される。
【0023】
また、軸ネジは角柱部に設けらた軸ネジ孔部と螺合することにより、一方の鋏片にその円柱部を挿通し、他方の鋏片の長孔にその角柱部に嵌挿させた軸芯を係止し、一対の鋏片を互いに枢着させる。ここで、軸ネジの種類は特に限定されないが、ネジのヘッド部が鋏片から大きく突出することがなく、髪が引掛かったり絡まったりしにくい形状であることが望ましい。
【0024】
さらに、止めネジ孔部は、長孔の短手方向の一対の内側面に設けられ、夫々刃幅方向に鋏片を貫通している。これにより、止めネジ孔部に挿通した止めネジを、枢着部において鋏片の外部の側面から調整することが可能となる。
【0025】
また、止めネジは、拡径した頭部を有しない棒状又は筒状のピン型ネジを使用することができる。一般的に、先端の形状には、平先、棒先、丸先、尖り先等があるが、角柱部の側面に当接してその位置を調整するため、平面との当接状態が安定する平先や棒先ものが好適である。ここで、止めネジの螺進及び螺退は、棒状の止めネジの頭部のすり割部分をドライバーで回して行ったり、筒状の止めネジの六角孔を六角レンチで回して行うこともできる。また、止めネジの先端に竜頭を取付けて鋏片の外部に延出させ、その竜頭を回すことにより止めネジを螺進及び螺退させるものとすれば、鋏の使用者が工具を使用することなく、軸位置の調整、すなわち閉じ角の調整を行うことができる。
【0026】
なお、角柱部の位置の固定は、かかる止めネジを使用しなくとも、角柱部の軸ネジ孔部と螺合する軸ネジにより、軸芯と鋏片を締付けて係止することによっても可能ではあるが、軸ネジとは別個の止めネジを使用することにより、軸ネジを外さなくても軸芯の位置を調整することが可能となる。また、軸ネジは軸芯位置の調整とは無関係となるため、軸ネジにより枢着部の締付け具合の調整をすることも可能となる。
【0027】
従って、本発明によれば、一方の鋏片に穿設された円形孔に挿通させた軸芯に形成された角柱部を、他方の鋏片に穿設された長孔に嵌挿させ、長孔にそって摺動させることにより、一対の鋏片の間で軸芯の位置を相対的に変化させることができる。これにより閉じ角を変化させ調整することが可能となる。また、長孔は長手方向を鋏片の刃幅方向と一致させて形成されているため、軸芯位置の変化により効果的に閉じ角が変化する。
【0028】
さらに、長孔における角柱部の位置は、一対の止めネジの螺進及び螺退により任意の位置で固定することができるため、角柱部が長孔において摺動可能な長さに相応する範囲内で、閉じ角を連続的に変化させて任意の閉じ角を設定し、また、微調整することが可能となる。
【0029】
加えて、長孔における角柱部の位置の調整を、止めネジを使用して行うため、軸ネジを外すことなく軸位置を変化させ、閉じ角を調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明の鋏によれば、美容師等の鋏の使用者が、自ら、閉じ角を変化させ調整することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施するための最良の一実施形態である鋏について、図1乃至図4に基づき説明する。図1(a)は本発明の鋏の一例を示す全体図であり、図1(b)は要部を拡大して示す拡大図であり、図2は図1の鋏の分解斜視図であり、図3及び図4は図1の鋏の軸芯の位置の変化に対応した閉じ角の変化を示す説明図である。
【0032】
本実施形態の鋏1は、夫々刃部2a,2b及び持部3a,3bを有する一対の鋏片4a,4bと、刃部2a,2bと持部3a,3bとの間に位置し、一対の鋏片4a,4bを軸芯11周りに互いに回動可能に枢着する枢着部5とを主に具備して構成されている。
【0033】
そして、枢着部5において一方の鋏片4aに穿設され、長手方向を鋏片4aの刃幅方向と一致させた矩形の長孔20と、枢着部5において他方の鋏片4bに穿設された円形孔10と、軸芯11と、軸芯11に螺合可能な軸ネジ30と、長孔20の内側面に設けられた一対の止めネジ孔部21a,21bと、これらの止めネジ孔部21a,21bに螺合可能な一対の止めネジ22a,22bとにより、本発明における閉じ角調整手段(軸位置調整手段)が構成されている。
【0034】
更に詳しく説明すると、軸芯11は、円柱部12、円柱部12の端部に設けられた軸芯端部13、円柱部12のもう一方の端部に形成された角柱部15、角柱部15に設けられた軸ネジ孔部16を具備している。
【0035】
ここで、軸芯11の円柱部12は、その断面径が鋏片4bの枢着部5において穿設された円形孔10より小さいものとされ、円形孔10に挿通可能である。そして、円形孔10の径より広径に形成された軸芯端部13により、それ以上の侵入が防止される。これにより、軸芯11は、この円柱部12において回転可能となり、一対の鋏片4a,4bを回動自在とする回動中心となる。
【0036】
また、長孔20は、その長手方向が鋏片4aの刃幅方向と一致する矩形に形成されている。そして、軸芯11の角柱部15は、その一対の側面の長さは長孔20の短手方向の長さと略同一とされ、もう一対の側面の長さは長孔20の長手方向の長さより短いものとされている。これにより、軸芯11の角柱部15は長孔20に嵌挿された状態で、その側面を長孔20の内側面に当接して長手方向に摺動可能となる。
【0037】
また、本実施例では、軸芯11の円柱部12の直径と角柱部15の対角線の長さは略同一とされ、円柱部12及び角柱部15の高さは、夫々鋏片4a,4bの厚さよりも小さく設定されている。そのため、軸芯11を一対の鋏片4a,4bに取付けた状態で、角柱部15側の端部が鋏片4aから突出することがない。これにより、軸ネジ30を角柱部15に設けられた軸ネジ孔16に螺合させた状態で、軸ネジ30の頭部と鋏片4aとの間に余分な隙間を生じることがなく、枢着部5のがたつきを防止することができる。
【0038】
次に、軸ネジ30は、半球を平たくした形状のヘッド部を有する小ネジで、角柱部15に設けらた軸ネジ孔部16と螺合する。これにより、鋏片4bの円形孔10にその円柱部12を挿通し、他方の鋏片4aの長孔20にその角柱部15に嵌挿させたを軸芯11を係止し、一対の鋏片4a,4bを互いに枢着させる。
【0039】
また、止めネジは、一対の六角孔付き止めネジ22a,22bが使用され、これに螺合する止めネジ孔部21a,21bは、長孔20の短手方向の一対の内側面の夫々の略中央に設けられている。これにより、止めネジ22a,22bを夫々止めネジ孔部21a,21bに挿通し、一方を螺進させ他方を螺退させることにより、長孔20に嵌挿された角柱部15の位置を調整し固定することができる。そして、止めネジ孔部21a,21bは夫々刃幅方向に鋏片4aを貫通しているため、枢着部5において、鋏片4aの外部の側面から止めネジ22a,22bを調整することが可能となる。このとき、止めネジ22a,22bの外側の先端に竜頭を取付けて鋏片4aの外部に延出させ、鋏の使用者が工具を使用することなく、その竜頭を回すことにより軸位置の調整、すなわち閉じ角の調整を行うものとすることができる。
【0040】
次に、本実施形態の鋏1における軸位置の調整方法、すなわち、閉じ角の調整方法について説明する。まず、図1(b)に示すように、軸芯11の角柱部15の中心を長孔20の中心Cに位置させて固定すれば、軸芯11がいずれの鋏片4a,4bにおいても中央にあり、通常の鋏と同様の状態で使用することができる。なお、図1(b)では、長孔20内での角柱部15の位置を明示するため、軸ネジ30を省略して図示している。
【0041】
そして、図3に示すように、閉じ角を大きくしたいとき、すなわち、髪をより逃がしやすくして切断したい場合は、軸芯11の角柱部15を長孔20において鋏を使用する手の親指側の側面20aに向かって摺動させる。このとき、角柱部15が側面20aに当接したとき、軸位置はAとなり、閉じ角が最大となる。ここで、図3においては、軸が長孔20の中央Cに位置する場合の鋏片4aを二点鎖線で示し、軸が中央Cにある場合と、軸位置をAに変化させた場合とで、一対の鋏片4a,4bが噛合う状態を、鋏片4b側の位置を任意の位置Xに固定して比較し、軸の位置をCからAに移動させたことにより閉じ角がθから拡大した様子を図示している。なお、図3では、角柱部15の位置を明示するため、軸ネジ30を省略して図示している。
【0042】
更に、図4に示すように、閉じ角を小さくしたいとき、すなわち、髪を逃がさずに切断したい場合は、軸芯11の角柱部15を長孔20において鋏を使用する手の小指側の側面20bに向かって摺動させる。このとき、角柱部15が側面20bに当接したとき、軸位置はBとなり、閉じ角が最小となる。ここで、図4においては、図3と同様に、軸が長孔20の中央Cに位置する場合の鋏片4aを二点鎖線で示し、軸が中央Cにある場合と、軸位置をBに変化させた場合とで、一対の鋏片4a,4bが噛合う状態を、鋏片4b側の位置を位置Xに固定して比較し、軸の位置をCからBに移動させたことにより、閉じ角がθから減少した様子を図示している。なお、図4においても、軸ネジ30を省略して図示している。
【0043】
以上のように、鋏片4aの刃部2aの任意の位置Xにおいて、閉じ角が最大値及び最小値となる場合を示したが、止めネジ22a,22bによる軸芯11位置の微調整により、この範囲内で任意の閉じ角を設定することが可能となる。
【0044】
また、鋏の使用者が上記のように閉じ角を調整し、髪の逃がしやすさの設定を所望のものとしても、刃部が摩耗すると刃が髪を捕えにくくなり、同じ閉じ角でも髪が逃げ易くなってしまう。この場合は、上記の同様の操作により閉じ角を微調整することにより、髪の逃げやすさについての所望の設定を維持することができる。
【0045】
なお、本実施形態では、刃部2a,2bとして、刃幅をアールを付けて変化させた刃(笹刃)を使用しているが、刃幅が刃元から刃先にかけて直線的に減少する通常の鋏においても、上記と同様に、軸位置の変化により閉じ角を変化させることができる。
【0046】
以上のように、本実施形態の鋏1によれば、一方の鋏片に穿設された円形孔10に挿通させた軸芯11に形成された角柱部15を、他方の鋏片に穿設された長孔20に嵌挿させ、長孔20にそって摺動させることにより、一対の鋏片4a,4bの間で軸芯11の位置を相対的に変化させることができる。これにより、閉じ角を変化させ調整することが可能となる。また、長孔20は長手方向を鋏片の刃幅方向と一致させて形成されているため、軸芯11の位置の変化により効果的に閉じ角が変化する。
【0047】
さらに、長孔20における角柱部15の位置は、一対の止めネジ22a,22bの螺進及び螺退により任意の位置で固定することができるため、角柱部15の摺動可能な長さに相応する範囲内で閉じ角を連続的に変化させ、微調整することが可能となる。
【0048】
これにより、美容師等の鋏の使用者が、鋏の閉じ角を自ら変化させることができ、髪を逃がし難くして切断することも、敢えて髪を逃がし易くして切断することも可能となる。そして、閉じ角を微調整しながら所望の設定として鋏を使用することにより、毛先の処理を微妙に変化させた多様な髪形を表現することが可能となる。
【0049】
加えて、鋏の使用により刃が摩耗した場合においても、鋏の使用者が自ら閉じ角を調整し、髪の逃げ易さについての所望の設定を維持することが可能となる。
【0050】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0051】
例えば、本実施例では、円形孔は動刃に穿設され、長孔は静刃に穿設された場合を示したが、これに限定されず逆の関係であってもよく、静刃において軸芯を固定し、動刃に対して軸芯の位置を変化させるものとすることもできる。
【0052】
また、本実施形態では、長孔は矩形形状とされているが、長手方向の一対の内側面が平行であればこの形状に限定されず、例えば、端部が円形に湾曲したものとすることもできる。
【0053】
更に、円柱部の径と角柱部の対角線の長さとの関係、及び両者の高さと鋏片の厚さの関係は、本実施例のものに限定されず、円柱部及び角柱部が共に円形孔に挿通でき、軸芯の角柱部側の端部が長孔を設けた鋏片から突出しない範囲で設定可能である。例えば、円柱部の径に比べて角柱部が小さく形成され、これに対応して長孔の短手方向の長さを短いものとしてもよく、また、円柱部の高さを鋏片の厚さよりも大きなものとし、角柱部と共に長孔に嵌挿されるものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(a)は本発明の鋏の一例を示す全体図であり、(b)は要部を拡大して示す拡大図である。
【図2】図1の鋏の分解斜視図である。
【図3】図1の鋏の軸芯の位置の変化に対応した閉じ角の変化を示す説明図である。
【図4】図1の鋏の軸芯の位置の変化に対応した閉じ角の変化を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1 鋏
2a,2b 刃部
3a,3b 持部
4a,4b 鋏片
5 枢着部
10 円形孔
11 軸芯
12 円柱部
13 軸芯端部
15 角柱部
16 軸ネジ孔部
20 長孔
21a,21b 止めネジ孔部
22a,22b 止めネジ
30 軸ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
夫々刃部及び持部を有する一対の鋏片と、
前記刃部と前記持部との間に位置し、一対の前記鋏片を軸芯周りに回動可能に互いに枢着する枢着部と、
一対の前記鋏片の前記刃部が物を切断する任意の切断位置において一方の前記刃部が他方の前記刃部と形成する閉じ角を、変化させて調整可能とする閉じ角調整手段と
を具備することを特徴とする鋏。
【請求項2】
前記閉じ角調整手段は、
前記枢着部において一方の前記鋏片における前記軸芯の位置を、他方の前記鋏片に対して相対的に変化させる軸位置調整手段である
ことを特徴とする請求項1に記載の鋏。
【請求項3】
前記軸位置調整手段は、
前記枢着部において一方の前記鋏片に穿設され、長手方向を前記鋏片の刃幅方向と一致させた長孔と、
前記枢着部において他方の前記鋏片に穿設された円形孔と、
該円形孔より径の小さな断面を有する円柱部、該円柱部の端部を前記円形孔より広径に拡径した軸芯端部、前記円柱部のもう一方の端部に形成され前記長孔に嵌挿された状態で前記長孔の内側面に当接して前記長手方向に摺動可能な角柱部、該角柱部に設けられた軸ネジ孔部、を備える軸芯と、
前記軸芯の前記軸ネジ孔部に螺合可能な軸ネジと、
前記長孔の短手方向の一対の内側面から、夫々前記鋏片を貫通して設けられた一対の止めネジ孔部と、
一対の該止めネジ孔部に夫々螺合可能に挿通され、その螺進及び螺退により前記長孔に嵌挿された前記角柱部の前記長孔における位置を調整可能な一対の止めネジと
を具備することを特徴とする請求項2に記載の鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−271836(P2006−271836A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98606(P2005−98606)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(397076888)株式会社刃物屋トギノン (8)
【Fターム(参考)】