説明

鋳型造型用粘結剤組成物とその製造方法、鋳型造型用砂組成物および鋳型の製造方法

【課題】ホルムアルデヒド発生量を低減でき、鋳型の初期強度を高めるとともに、最終的鋳型強度を必要十分かつ、崩壊性良好なものとし、生産性の良好な鋳型を製造する。
【解決手段】酸硬化性樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤組成物において、溶媒により植物由来の葉、実、種、植物に寄生した虫こぶ等の天然物から抽出された植物性天然物抽出組成物をさらに含有させる。植物性天然物抽出組成物がホルムアルデヒド捕捉効果と硬化促進作用を発現するとともに、最終的な鋳型強度が抑制され、鋳型の崩壊工程が容易となる。植物由来の天然物としては、五倍子、没食子、タラ末、柿の実、栗皮、タマリンドの種子などの天然物が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型造型用粘結剤組成物とその製造方法、鋳型造型用砂組成物および鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋳造用鋳型の一つとして自硬性鋳型が知られている。この自硬性鋳型は、ケイ砂等の耐火性粒状材料に、酸硬化性樹脂を主成分とした粘結剤とキシレンスルホン酸やリン酸等の硬化剤とを添加、混練した後、得られた混練砂を型に充填し、粘結剤を硬化させる方法で製造されている。酸硬化性樹脂は、例えばフルフリルアルコールや、フルフリルアルコールとホルムアルデヒドなどのアルデヒド類の縮合物などが重縮合することで硬化するものである。
【0003】
ところが、このような従来の鋳型の製法においては、粘結剤の硬化時におけるアルデヒド発生量、特にホルムアルデヒド発生量が多く、作業環境を悪化させるという問題があった。ホルムアルデヒドは、縮合物の製造のために使用されたホルムアルデヒドが未反応のまま遊離することでも生じるが、例えばフルフリルアルコールが重縮合してメチレン基を形成する際など、粘結剤の硬化の過程で副生成物として大量に発生する。
【0004】
このように副生成物として発生するホルムアルデヒドを低減するには、硬化剤の使用量を抑え、硬化速度を遅くする方法が考えられる。しかし、このような方法で対処すると、ホルムアルデヒド発生量は低減できたとしても、硬化反応が十分に進行せず、十分な強度の鋳型を所定の硬化時間内で得ることは困難となる。
【0005】
そこで、硬化剤の使用量を抑制せずにホルムアルデヒド発生量を低減する方法として、尿素、尿素化合物、アミン化合物などの有機窒素化合物をホルムアルデヒド補足剤として粘結剤に添加する方法も従来から検討されている(例えば、特許文献1の段落0004参照。)
【0006】
更には、このような従来の鋳型の製法においては、一般的に、粘結剤の硬化速度が遅いため、鋳型の初期強度が低いということがあった。鋳型の初期強度が低いと、型から鋳型を取り出すのに時間がかかり、型の有効利用が阻害されるという欠点がある。
【0007】
このため、粘結剤を硬化させるための硬化剤として、酸濃度の比較的高いスルホン酸系化合物を使用したり、或いは使用する硬化剤量を多くすることが行われている。しかし、このような方法を採用すると、最終的な鋳型強度が高くなりすぎて、鋳型を崩壊しにくくなるということがあった。鋳型の崩壊が困難になると、従来の鋳型の崩壊工程を適用しにくくなる上、砂の表面に付着した粘結剤の除去が困難になり、鋳型砂の再生が合理的に行えなくなるという欠点があった。また、硬化剤の種類や硬化剤量を変更すると、混練砂を得る際に粘結剤の硬化が始まり、混練砂の可使時間が短くなるという欠点があった。
【0008】
このようなことから、硬化剤の種類を変更するのではなく、粘結剤自体を変更することが試みられている。酸硬化性樹脂にフェノール誘導体としてレゾルシノール又はフロログルシノールを含有させることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。また、酸硬化性樹脂に2,5−ビスヒドロキシメチルフラン等の硬化促進剤を含有させることが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。このような化合物を使用すると初期における鋳型強度を向上させることができるのである。
【特許文献1】特開2006−70247号公報
【特許文献2】特許第1336848号公報
【特許文献3】特許第2784715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このように有機窒素化合物を添加した方法でも、硬化剤の使用量を抑えた場合と同様に粘結剤の硬化速度が低下してしまい、所定の硬化時間内で十分な強度の鋳型は得られ難かった。
更には、フェノール誘導体や2,5−ビスヒドロキシメチルフラン等の硬化促進剤を含有させた場合には、初期における鋳型強度が向上することは好ましいものの、最終的な鋳型強度が高くなりすぎて、鋳型崩壊性を悪化させてしまい、結果として作業効率低下を招き、合理的な作業が行うことができ難かった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ホルムアルデヒド発生量を低減できるとともに、粘結剤の硬化速度を低下させずにむしろ高め、初期における鋳型強度を向上させるとともに、最終的な鋳型強度も必要十分な強度とし、鋳型の崩壊工程を容易にすることができる鋳型造型用粘結剤組成物とその製造方法、さらに鋳型造型用砂組成物および鋳型の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、鋳型造型用砂組成物として、溶媒により植物由来の天然物から抽出された植物性天然物抽出組成物を酸硬化性樹脂とともに使用することにより、硬化剤の使用量を抑制したり、新たに有機窒素化合物を添加せずともホルムアルデヒド発生量を低減でき、更には、硬化剤の使用量を多くした場合や、レゾルシノール又はフロログルシノールや2,5−ビスヒドロキシメチルフラン等の硬化促進剤を含有させた場合よりも、鋳型の初期強度向上と最終的な鋳型強度増大を抑制させることを新規に見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の鋳型造型用砂組成物は、酸硬化性樹脂において、溶媒より植物由来の天然物から抽出された植物性天然物抽出組成物を更に含有することを特徴とする。
前記植物由来の天然物は、五倍子、没食子、タラ末、柿の実、栗皮、タマリンドの種子からなる群から選ばれる1種以上の植物由来の天然物であることが好ましい。
前記酸硬化性樹脂と前記植物性天然物抽出組成物との合量中、前記植物性天然物抽出組成物の割合は40質量%以下であることが好ましく、0.1〜20質量%であることが好ましい。
前記酸硬化性樹脂は、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上か、前記群から選ばれる2種以上の共縮合物からなることが好ましい。
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物の製造方法は、植物由来の天然物と溶媒との混合物を加熱した後、該混合物を固液分離し、得られた液体から溶媒を除去することにより固体の植物性天然物抽出組成物を得る工程と、該植物性天然物抽出組成物と少なくとも酸硬化性樹脂を混合する工程を有することを特徴とする。
本発明の鋳型造型用砂組成物は、耐火性粒状材料と、前記鋳型造型用粘結剤組成物と、該鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させる硬化剤を含有することを特徴とする。
本発明の鋳型の製造方法は、前記鋳型造型用砂組成物を鋳型製造用の型に充填して、前記鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ホルムアルデヒド発生量を低減できるとともに、粘結剤の硬化速度を低下させずにむしろ高め、鋳型の初期強度向上と最終的な鋳型強度が抑制され、鋳型の崩壊工程を容易とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物(以下、粘結剤組成物という。)は、鋳型を製造する際の粘結剤として使用されるものであって、粘結剤成分として未硬化の酸硬化性樹脂を含有するとともに、溶媒により植物由来の天然物をさらに含有する。
【0014】
酸硬化性樹脂としては、従来公知の樹脂が使用でき、例えば、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種からなるものや、これらの群から選ばれる2種以上の混合物からなるものが使用できる。また、これらの群から選ばれる2種以上の共縮合物からなるものも使用できる。
【0015】
各縮合物を製造する際に使用されるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、グリオキザール、フルフラール等が挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。ただし、縮合物の種類によっては、アルデヒド類としてグリオキザールやフルフラールを単独で使用した際には、酸硬化が進行しない場合もある。そのような場合には、アルデヒド類として少なくともホルムアルデヒドを使用すればよい。
【0016】
フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0017】
フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.1〜1モル使用することが好ましい。
また、フェノール類とアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類を1〜3モル使用することが好ましい。
また、尿素とアルデヒド類の縮合物など、窒素原子を含む縮合物を製造する場合には、得られた縮合物中の窒素原子量が粘結剤組成物を100質量%とした際に、0.1〜6質量%の範囲となるように尿素の使用量を決定することが好ましい。より好ましくは0.1〜4.5質量%である。
【0018】
酸硬化性樹脂とともに粘結剤組成物を構成する抽出物組成物は、溶媒により植物由来の天然物から抽出されたものであって、五倍子、没食子、タラ末、柿の実、栗皮、タマリンドの種子からなる群から選ばれる1種以上の植物由来の天然物が使用できる。また、植物性天然物抽出組成物には、ピロガロールから誘導される骨格(ピロガロール骨格という。) を含有するポリフェノール類が含まれるが、これらポリフェノール類の含有量が高く、また、入手しやすい点、植物性天然物抽出組成物の抽出率が高い点などから、五倍子または没食子を使用することが好ましい。
【0019】
このような植物性天然物抽出組成物を粘結剤組成物に含有させると、硬化時に生じるホルムアルデヒド発生量を低減することができる。また、結剤組成物の硬化速度を高め、鋳型の初期強度向上と最終的な鋳型強度が抑制され、鋳型の崩壊工程を容易とすることができる。
これは、硬化時に酸硬化性樹脂から発生したホルムアルデヒドが、植物性天然物抽出組成物中のポリフェノール類に含まれる反応性の高いピロガロール骨格の反応点に付加縮合して、その結果、作業環境中に遊離するホルムアルデヒド量が低減するため、すなわち、植物性天然物抽出組成物がホルムアルデヒド補足効果を発現するためと考えられる。また、酸硬化性樹脂中に含まれるメチロール基が付加縮合することにより、高分子化がより早く進行することによるものと推察され、更には、高分子化した樹脂硬化物は、硬化密度飽和点に達してから、徐々に劣化することにより、最終的な鋳型強度が抑制され、鋳型の崩壊工程を容易とすることが可能になると推察される。
【0020】
植物由来の天然物から抽出物を抽出する際には、前記該当物の表面積を大きくして抽出効率を高めるために、予めハンマーミルなどで物理的に粉砕し、チップ状にしておくことが好ましい。ここでのチップの形状や大きさには特に制限はないが、212μm〜3.35mm(65〜6メッシュ)の粒度としたものが好ましい。より好ましくは、212μm〜600μm(65〜28メッシュ)であり、さらに好ましくは212μm〜300μm(65〜48メッシュ)である。
【0021】
植物性天然物抽出組成物を得るためには、まず、植物由来の天然物と溶媒とを混合した混合物を調整する。ついで、この混合物を加熱することにより、溶媒可溶成分が溶媒へ移行する。その後、混合物を固液分離し、得られた液体から溶媒を除去することにより固体の抽出組成物を得ることが出来る。
こうして得られた植物性天然物抽出組成物には、ピロガロールから誘導される骨格(ピロガロール骨格という。)を含有するタンニンやタンニン酸などのポリフェノール類が含まれる。
その他、こうして得られた植物性天然物抽出組成物には、上述したように各種ポリフェノール類が少なくとも含まれる他、抽出に使用する溶媒にもよるが、植物由来の天然物に元々含まれるカリウム、ケイ素、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、リン、イオウ、ホウ素、マンガン、バリウム、アルミニウム、鉄、亜鉛など、灰分(無機成分)の一部も含まれる。さらに、植物性天然物抽出組成物には、通常、糖類やその誘導体、テルペノイド類なども含まれる。
【0022】
植物性天然物抽出組成物を抽出する際に使用する溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、ヘキサノール、エーテル、アセトン、シクロヘキサン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、2−メチルピロリドン、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの有機溶媒が挙げられ、これらのうち1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよいが、取り扱い性などの点から水やメタノール、エタノールを使用することが好ましい。また、メタノールやエタノールは、水を使用した場合よりも抽出率が向上する点で好ましい溶媒である。
【0023】
抽出の具体的な方法や使用する装置などには特に制限はないが、還流冷却器を具備した抽出装置を用いて、該当物質と溶媒との混合物を溶媒の沸点程度の温度で加熱し、溶媒を還流させながら抽出する方法が好ましい。抽出時間としては、0.5〜24時間が好ましく、より好ましくは、0.5〜3時間である。また、ここで混合する植物由来の天然物と溶媒との質量比は、天然物:溶媒=1:2〜10が好ましい。抽出時間や質量比がこのような範囲であると、効果的な抽出が行える。特に、工業的観点や経済面からは、1:2程度がより好ましい。
また、こうして加熱された後の混合物を固液分離する方法にも特に制限はなく、ろ過、遠心分離などで行えばよい。固液分離により得られた液体から溶媒を除去する方法にも特に制限はなく、蒸発乾固などの公知の方法を採用すればよい。
【0024】
酸硬化性樹脂と植物性天然物抽出組成物との比率は、これらの合計を100質量%とした場合、酸硬化性樹脂が60質量%以上で、植物性天然物抽出組成物が40質量%以下であることが好ましい。このような範囲であると、酸硬化性樹脂中に植物性天然物抽出組成物が良好に溶解し、沈殿が生じることもない。ただし、植物性天然物抽出組成物が少なすぎると、上述したような鋳型の初期強度向上と最終的な鋳型強度が抑制され、鋳型の崩壊工程を容易とする作用が期待できない可能性があるため、好ましくは酸硬化性樹脂と植物性天然物抽出組成物との合計中、植物性天然物抽出組成物の割合が0.1〜20質量%であり、さらに好ましくは3〜10質量%である。
【0025】
粘結剤組成物中には、さらに水分が含まれてもよい。例えば、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水分との混合物の形態で得られるが、このような縮合物を粘結剤組成物に使用するにあたり、合成過程に由来するこれらの水分をあえて除去する必要はない。また、粘結剤組成物を取り扱いしやすい粘度に調整する目的などで、水分をさらに添加してもよい。ただし、水分が過剰になると、酸硬化性樹脂の硬化反応を阻害するおそれがあるため、粘結剤組成物中の水分量は0.5〜30質量%の範囲とすることが好適である。
【0026】
また、粘結剤組成物中には、得られる鋳型の強度を向上させる目的で、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤を添加してもよい。
【0027】
本発明の粘結剤組成物は、未硬化の状態にある酸硬化性樹脂と、植物性天然物抽出組成物と、必要に応じて添加される水分やシランカップリング剤とを混合することで製造できる。この際、未硬化の酸硬化性樹脂を製造する過程で、植物性天然物抽出組成物や水分を添加することで、結果的にこれらの成分を含有する粘結剤組成物を得てもよい。
【0028】
このような粘結剤組成物とこの粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを耐火性粒状材料に加え、これらを品川式万能攪拌機などで混練することによって、鋳型造型用砂組成物(以下、砂組成物という。)を得ることができる。
耐火性粒状材料としては、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性材料を回収したものや再生処理をしたものなども使用できる。
硬化剤としては、キシレンスルホン酸などのスルホン酸系化合物、リン酸系化合物、硫酸など、従来公知のものを1種以上使用できる。
【0029】
砂組成物における耐火性粒状材料と粘結剤組成物と硬化剤との比率は適宜設定できるが、耐火性粒状材料100質量部に対し、粘結剤組成物が0.5〜1.5質量部で、硬化剤が0.075〜0.9質量部の範囲が好ましい。このような比率であると、十分な強度の鋳型が得られやすい。
砂組成物から鋳型を製造する方法としては、自硬性鋳型造型法を採用することができる。すなわち、砂組成物を鋳型造型用の所定の型に充填すると、砂組成物中の粘結剤組成物が硬化剤の作用により硬化する。その結果、鋳型を得ることができる。
【0030】
以上説明したように、このような砂組成物は、酸硬化性樹脂とともに植物性天然物抽出組成物を含有する粘結剤組成物を含み、この粘結剤組成物は優れたホルムアルデヒド補足効果と硬化促進作用を発現する。よって、このような砂組成物から鋳型を製造することによって、ホルムアルデヒド発生量を低減でき、作業環境を良好に維持することができるとともに、鋳型の初期強度向上と最終的な鋳型強度を必要十分なものとし、鋳型の崩壊工程を容易にすることができる。具体的には、砂組成物を鋳型製造用の型に充填してから30分〜1時間経過すれば、高い強度を備え、鋳込みが十分可能な鋳型を製造できる。このような鋳型は抜型も容易であり、それも鋳型の生産性の点から好ましい。
【0031】
また、このように植物性天然物抽出組成物を酸硬化性樹脂と併用することによって高い硬化促進作用を得る方法においては、硬化速度を高めるために硬化剤を多量に使用する必要はなく、硬化剤をむしろ少なく抑えることもできる。従来、硬化剤として、スルホン酸系化合物や硫酸を使用した際には、得られた鋳型への注湯時において、鋳型を構成している硬化物が熱分解し、亜硫酸ガスが発生することが知られているが、このように硬化剤量を抑えることができれば、亜硫酸ガス発生量も大幅に低減できる。亜硫酸ガス発生量を低減すると、より良好な作業環境が得られると同時に、亜硫酸ガス中の硫黄に起因する鋳物球状化阻害の発生率も低下させることができる。
【0032】
さらに、この粘結剤組成物で使用される植物性天然物抽出組成物は植物由来の天然物から得られるものであって、石油資源を原料とした合成品ではないため、たとえ石油資源が逼迫したとしても、優れた粘結剤組成物を安定に提供することができる。
また、この粘結剤組成物は、植物由来の天然物と溶媒との混合物を加熱した後、この混合物を固液分離し、得られた液体から溶媒を除去することにより固体の植物性天然物抽出組成物を得る工程と、この植物性天然物抽出組成物と少なくとも酸硬化性樹脂を混合する工程により製造でき、例えば、植物性天然物抽出組成物を精製するなどの煩雑な工程は必要ない。よって、優れた粘結剤組成物を容易に製造することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を具体的に説明する。
[実施例1〜8]
フルフリルアルコール(酸硬化性樹脂)に、溶媒により五倍子から抽出された植物性天然物抽出組成物と、シランカップリング剤であるN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランとを添加、混合し、各成分を表1に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。
なお、植物性天然物抽出組成物は次のようにして得た。
まず、五倍子のチップ:600質量部とメタノール:1800質量部との混合物をフラスコに入れ、これをマントルヒーターで65℃に加熱し、メタノールの還流状態を保ったまま1時間攪拌して、抽出物を抽出するための操作を行った。ついで、この混合物を常温に冷却後、固体と液体(抽出液)とにろ別し、得られた抽出液をロータリーエバポレータに投入した。そして、60℃で減圧状態を保ちメタノールを蒸発させ(蒸発乾固)、固体の抽出物460質量部を得た。
【0034】
そして、フリーマントル6号砂(ケイ砂)100質量部に対して、粘結剤組成物1質量部と、硬化剤(キシレンスルホン酸65%)0.3質量部とを添加し、品川式万能攪拌機で混練して、砂組成物を得た。
その後、この砂組成物の一部を直ちに温度25℃、湿度40%の条件下、内径50mm、高さ50mmの型が形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、30分及び24時間経過後に硬化後のテストピースを取り出し、その圧縮強度(鋳型強度)を測定した。圧縮強度の測定は、JIS−Z−2601の鋳物砂の試験方法に準じた。
一方、残りの砂組成物のうちの30gを温度25℃、湿度40%の条件の条件下、容積1Lのポリビンに仕込み、密封して硬化させ、30分経過後にポリビン内のホルムアルデヒド量を北川式ホルムアルデヒド検知管で測定した。そして、その数値を砂組成物1gあたりに換算した。圧縮強度と砂組成物1gあたりのホルムアルデヒド発生量を表1に示す。
【0035】
[比較例1]
五倍子抽出物を添加しない以外は、実施例1と同様にして、各成分を表1に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして、圧縮強度(鋳型強度)とホルムアルデヒド量を測定した。圧縮強度と砂組成物1gあたりのホルムアルデヒド発生量を表1〜2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
[実施例9〜14]
フルフリルアルコール(酸硬化性樹脂)に、五倍子、没食子、タラ末、柿の実、栗皮、タマリンドの種子の各種抽出物7.5質量%と、シランカップリング剤であるN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランとを添加、混合し、各成分を表2に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。
なお、各種抽出物は、五倍子と同様の操作を行うことにより抽出物を得た。
【0038】
ついで、実施例1と同様にして、各成分を表2に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして、圧縮強度(鋳型強度)とホルムアルデヒド量を測定した。圧縮強度と砂組成物1gあたりのホルムアルデヒド発生量を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
[実施例15]
酸硬化性樹脂と実施例1で使用したものと同じ五倍子抽出物と、シランカップリング剤と、水分とを表3に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。
具体的には、フルフリルアルコール246.0質量部と、50質量%ホルムアルデヒド水溶液50.0質量部と、10質量%塩酸1.0質量部とを温度計、冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコ中に入れて100℃で3時間反応させ、フルフリルアルコールとホルムアルデヒドの縮合物91.3質量%と、水分8.7質量%からなる混合物を得た。
ついで、この混合物15質量部に対して、フルフリルアルコール81.9質量部と、実施例で使用したものと同じ五倍子3.0質量部と、シランカップリング剤0.1質量部とを加えて、各成分を表3に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。
【0041】
ついで、こうして得られた粘結剤組成物を使用した以外は実施例1と同様にして砂組成物を調製した。
その後、この砂組成物の一部を実施例1と同じ条件下、同じテストピース作製用木型に充填して硬化させ、1時間経過後及び24時間経過後のテストピースを取り出し、その圧縮強度(鋳型強度)を同様に測定した。
一方、残りの砂組成物のうち30gを実施例1と同様にポリビン内で硬化させ、1時間経過後のホルムアルデヒド量を同様の方法で測定した。そして、その数値を砂組成物1gあたりに換算した圧縮強度と砂組成物1gあたりのホルムアルデヒド発生量を表3に示す。
【0042】
[実施例16]
酸硬化性樹脂と実施例1で使用したものと同じ五倍子抽出物と、シランカップリング剤と、水分とを表3に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。
具体的には、フェノール500.0質量部と、50質量%ホルムアルデヒド水溶液544.2質量部、48%質量%水酸化カリウム水溶液26.9質量部とを温度計、冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコ中に入れて70℃で2時間反応させ、その後、65質量%パラトルエンスルホン酸水溶液55.5質量部を加えて中和し、フェノールとホルムアルデヒドの縮合物72.9質量%と、水分27.1質量%からなる混合物を得た。
ついで、この混合物15質量部に対して、フルフリルアルコール81.9質量部と、実施例で使用したものと同じ五倍子抽出物3.0質量部と、シランカップリング剤0.1質量部とを加えて、各成分を表3に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。
【0043】
ついで、こうして得られた粘結剤組成物を使用した以外は実施例1と同様にして砂組成物を調製した。
その後、実施例15と同様にして、圧縮強度(鋳型強度)とホルムアルデヒド量を測定した。圧縮強度と砂組成物1gあたりのホルムアルデヒド発生量を表3に示す。
【0044】
[実施例17]
酸硬化性樹脂と実施例1で使用したものと同じ五倍子抽出物と、シランカップリング剤と、水分とを表3に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。
具体的には、フルフリルアルコール182.5質量部と、尿素66.0質量部と、50質量%ホルムアルデヒド水溶液169.14質量部と、15%質量%水酸化カリウム水溶液2.0質量部とを温度計、冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコ中に入れて80℃で1時間反応させ、その後、10質量%塩酸3.5質量部を添加して、更に1時間反応させた。その後、15質量%水酸化ナトリウム水溶液0.8質量部と、尿素40.0質量部とを添加して、さらに30分間反応させ、フルフリルアルコールと尿素とホルムアルデヒドの縮合物80.6質量%と、水分19.4質量%からなる混合物を得た。
ついで、この混合物15質量部に対して、フルフリルアルコール81.9質量部と、実施例で使用したものと同じ五倍子抽出物3.0質量部と、シランカップリング剤0.1質量部とを加えて、各成分を表3に示す割合で含有する粘結剤組成物を調製した。
【0045】
ついで、こうして得られた粘結剤組成物を使用した以外は実施例1で使用したものと同様にして砂組成物を調製した。
その後、実施例15と同様にして、圧縮強度(鋳型強度)とホルムアルデヒド量を測定した。圧縮強度と砂組成物1gあたりのホルムアルデヒド発生量を表3に示す。
【0046】
[比較例2]
五倍子抽出物を添加せず、その代わりにフルフリルアルコールの配合量を増加させた以外は実施例15と同様にして、表3に示す粘結剤組成物を調製した。
ついで、こうして得られた粘結剤組成物を使用した以外は実施例1と同様にして砂組成物を調製した。
その後、実施例15と同様にして、圧縮強度(鋳型強度)とホルムアルデヒド量を測定した。圧縮強度と砂組成物1gあたりのホルムアルデヒド発生量を表3に示す。
【0047】
[比較例3]
五倍子抽出物を添加せず、その代わりにフルフリルアルコールの配合量を増加させた以外は実施例16と同様にして、表3に示す粘結剤組成物を調製した。
ついで、こうして得られた粘結剤組成物を使用した以外は実施例1と同様にして砂組成物を調製した。
その後、実施例16と同様にして、圧縮強度(鋳型強度)とホルムアルデヒド量を測定した。圧縮強度と砂組成物1gあたりのホルムアルデヒド発生量を表3に示す。
【0048】
[比較例4]
五倍子抽出物を添加せず、その代わりにフルフリルアルコールの配合量を増加させた以外は実施例17と同様にして、表3に示す粘結剤組成物を調製した。
ついで、こうして得られた粘結剤組成物を使用した以外は実施例1と同様にして砂組成物を調製した。
その後、実施例17と同様にして、圧縮強度(鋳型強度)とホルムアルデヒド量を測定した。圧縮強度と砂組成物1gあたりのホルムアルデヒド発生量を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表1〜表3で明らかなように、酸硬化性樹脂とともに植物由来の天然物から抽出された植物性天然物抽出組成物を更に含有することによって、硬化時のホルムアルデヒド発生量を低減できるとともに、鋳型の初期強度を高め、更には最終的な鋳型強度も必要十分なものとし、鋳型の崩壊工程を容易とする鋳型を製造できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸硬化性樹脂を含有する鋳型造型用粘結剤組成物において、溶媒により植物由来の葉、実、種、植物に寄生した虫こぶ等の天然物から抽出された植物性天然物抽出組成物を更に含有することを特徴とする鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項2】
前記植物性天然物抽出組成物は、五倍子、没食子、タラ末、柿の実、栗皮、タマリンドの種子からなる群より選ばれる1種以上の植物由来の天然物であることを特徴とする請求項1に記載の鋳型造型用粘結剤組成物
【請求項3】
前記酸硬化性樹脂と前記植物性天然物抽出組成物との合量中、前記植物性天然物抽出組成物の割合が40質量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項4】
前記植物性天然物抽出組成物の割合が0.1〜20質量%であることを特徴とする請求項3に記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項5】
前記酸硬化性樹脂は、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フェノール類とアルデヒド類の縮合物、尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上か、2種以上の共縮合物からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の鋳型造型用粘結剤組成物。
【請求項6】
植物由来の天然物と溶媒との混合物を加熱した後、該混合物を固液分離し、得られた液体から溶媒を除去することにより固体の植物性天然物抽出組成物を得る工程と、
該植物性天然物抽出組成物と少なくとも酸硬化性樹脂を混合する工程を有することを特徴とする鋳型造型用粘結剤組成物の製造方法。
【請求項7】
耐火性粒状材料と、請求項1ないし5のいずれかに記載の鋳型造型用粘結剤組成物と、該鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを含有することを特徴とする鋳型造型用砂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の鋳型造型用砂組成物を鋳型造型用の型に充填して、前記鋳型造型用粘結剤組成物を硬化させることを特徴とする鋳型の製造方法。

【公開番号】特開2009−119505(P2009−119505A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297827(P2007−297827)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】