鋳片の加熱方法
【課題】鋳片の温度制御の精度を向上させるためには、温度を多点連続計算による三次元温度計算を適用して運用するための管理する温度指標を設定して、加熱炉の不要な加熱を抑制し、経済的な昇温を可能とする鋳片の加熱方法を提供する。
【解決手段】連続鋳造機で製造された鋳片の加熱方法であって、鋳片10の表面温度及び鋳造条件から、鋳片10の長さと断面温度との温度分布の関係を装入側から抽出側にかけて求め、鋳片10の中心位置を基準にしてバーナー18、19の火力を制御して、中心位置を基準にして抽出位置における長手方向一側の平均温度と他側の平均温度との差を−15℃〜+15℃の間とし、一側の断面の最低温度と他側の平均温度分布との差を−10℃〜+20℃に制御する。
【解決手段】連続鋳造機で製造された鋳片の加熱方法であって、鋳片10の表面温度及び鋳造条件から、鋳片10の長さと断面温度との温度分布の関係を装入側から抽出側にかけて求め、鋳片10の中心位置を基準にしてバーナー18、19の火力を制御して、中心位置を基準にして抽出位置における長手方向一側の平均温度と他側の平均温度との差を−15℃〜+15℃の間とし、一側の断面の最低温度と他側の平均温度分布との差を−10℃〜+20℃に制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度分布を有する鋳片(特に、連続鋳造直後の鋳片)の加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、連続鋳造後の鋳片(鋳片の一例)を熱間圧延して目標とする厚み寸法と幅寸法に調整するため、加熱炉等により事前に鋳片の加熱を行っている。
この加熱方法としては、例えば、特許文献1に、加熱炉内を通過中の鋳片温度を推定すると共に、その推定値、抽出時の目標温度、加熱時間から鋳片の目標昇温パターンを決定し、この鋳片が目標昇温パターンに沿うよう、加熱炉の加熱帯及び均熱帯の雰囲気温度を設定する方法が開示されている。具体的には、分布定数系温度モデルを用いて現在の鋳片温度を推定し、このモデルで燃料原単位が最適な昇温パターンや設定炉温を求めており、この鋳片温度の推定を、鋳片の一断面(又は、スキッド断面を含む二断面)で行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−209044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、連続鋳造では、例えば、製造する鋳片の長さや鋳造条件の変動により、主として、鋳片の長手方向(鋳造方向)にわたって温度分布が発生している。さらに連続鋳造で製造する鋳片は、その長さが長く、先に連続鋳造がなされた部分と、連続鋳造直後の部分とで、温度差が発生する場合や、鋳造条件の変動により部分的に温度低下や温度上昇が発生する場合が多い。このため、前記した鋳片の加熱方法のように、鋳片温度を、その一断面(又は二断面)でのみ推定する場合には、鋳片の長手方向の温度分布が反映されることなく、加熱炉で鋳片全体が同じ条件で加熱されるため、過剰に昇温される部分が発生する。従って、上記した方法では、加熱に要するエネルギーコストの無駄が生じて不経済であった。
【0005】
さらに、従来は、鋳片のある位置の温度を一点計算による単純二次元差分計算によって鋳片の一断面による鋳片の温度を推定し炉内の温度を制御する方法であった。これに換えて、制御の精度を向上させるためには、鋳片の温度をより正確に把握するために多点連続計算による三次元温度計算を適用して炉内の温度を制御することが考えられる。しかし、この三次元温度計算の適用を考えても実際には、それぞれ製造する鋳片の長さや鋳造条件が異なり、これらを鋳片に適用するためには、三次元温度計算を運用するための種種の管理する温度指標を設定しないと、十分な省エネ効果を得られない。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、三次元温度計算を行い鋳片の有する温度分布を求め加熱炉内の温度を制御する場合、省エネ効果を達成するために不要な加熱を抑制する温度指標を設けて管理する鋳片の加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第一の発明に係る鋳片の加熱方法は、一端から他端にかけて高くなる傾斜温度分布を有する鋳片を長手方向を横にして、前記鋳片の上下それぞれに加熱炉の幅方向に沿って複数配置されたバーナーを備えた加熱炉に入れる鋳片の加熱方法であって、前記鋳片の表面温度及び鋳造条件から、前記鋳片の長さと前記鋳片の三次元温度計算に対応した長手方向の断面平均温度との関係を装入側から抽出側にかけて求め、前記鋳片の中心位置を基準にして前記バーナーの火力を制御して、1)前記鋳片の中心位置を基準にして抽出位置における長手方向一側の平均温度と他側の平均温度の差を−15℃〜+15℃の間とし、2)一側の前記断面の最低温度と他側の平均温度分布との差を−10℃〜+20℃に制御する。
その結果、鋳片の温度分布を、長手方向の一側と他側の所定の温度指標を比較して所定範囲に納まるように加熱するので、鋳片の温度分布のばらつきを抑えるとともに加熱炉のエネルギー消費を抑えることが可能となる。
【0008】
第二の発明に係る鋳片の加熱方法は、第一の発明に係る鋳片の加熱方法において、前記バーナーの制御は、幅方向他側に設けられているバーナーの一部の火力を落として行う。
その結果、他側のバーナーを直接に火力制御することで、迅速な温度管理が行えて加熱炉のエネルギー消費を抑えることが可能となる。
【0009】
第三の発明に係る鋳片の加熱方法は、第一の発明又は第二の発明に係る鋳片の加熱方法において、前記鋳片の加熱方法は、前記鋳片の装入し抽出する進行方向に沿って複数の炉帯に分けられ、前記複数の炉帯毎で前記バーナーの群が複数に分けられている。
その結果、鋳片の装入し抽出する進行方向に沿って、例えば加熱帯と均熱帯に分けられたバーナー群で、別途に制御することで、装入から抽出までの時系列でのきめ細かい温度管理が行えて最適な温度管理ができる。
【0010】
第四の発明に係る鋳片の加熱方法は、第一の発明乃至第三の発明のいずれか1に係る鋳片の加熱方法において、前記鋳片の抽出側の温度分布は、長手方向一方側の中央部付近に山が、他方側の中央部付近に谷が形成されたうねり形状である。
その結果、鋳片の抽出側のうねり形状の温度分布に着目して制御することにより省エネ指標として直感的に理解しやすいので、加熱炉のエネルギー消費を容易に管理することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る鋳片の加熱方法は、鋳片の温度分布を三次元的に求めることにより、他の箇所より温度の高い高温領域の位置を細かく検出する。そして、加熱炉の設定温度を三次元温度計算に基づいて温度指標を設けてバーナー制御を行うことにより高温領域の加熱を抑制しながら鋳片を加熱して、鋳片の加熱に要する総熱エネルギーの低減(省エネルギー化)が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鋳片の加熱方法が用いられる加熱炉のシステム図である。
【図2】(A)、(B)は、同加熱炉のバーナーの配置を示すものであり、それぞれ加熱炉の側断面図、及び加熱炉を平面視した説明図である。
【図3】(A)は、同加熱炉の温度計配置を示す説明図であり、(B)はバーナーの放炎方向を示す説明図である。
【図4】同加熱炉内で加熱される鋳片の温度計測の計算方法を示す説明図である。
【図5】(A)、(B)は、鋳片の温度計測方法を示し、それぞれ従来技術の二次元温度計測を示す説明図、及び三次元温度計測を示す説明図である。
【図6】(A)〜(C)は、鋳片の温度変化を概念的に示し、それぞれ従来技術の加熱を行った際の温度変化、三次元温度計測を採用するに先立って予想される温度変化、三次元温度計測を採用して加熱を行った際の実際の温度変化を示す説明図である。
【図7】(A)は鋳片のスキッド間C断面平均温度の温度変化の説明図、(B)は加熱炉内の温度分布の説明図である。
【図8】(A)は鋳片のスキッド間C断面平均温度の温度変化の説明図、(B)は加熱炉内の温度分布の説明図である。
【図9】(A)、(B)は鋳片の温度変化を示し、それぞれ“中凹み昇温”状態及び“うねり状昇温”状態の概念を示す説明図である。
【図10】(A)、(B)は加熱炉の操業指標を示し、それぞれ“中凹み昇温”状態及び“うねり状昇温”状態を示す説明図である。
【図11】“うねり状昇温”状態が発生する比率を示す棒グラフである。
【図12】“中凹み昇温”状態及び“うねり状昇温”状態が発生する頻度を示す棒グラフである。
【図13】燃料原単位低減結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
本発明の一実施の形態に係る鋳片の加熱方法は、図1、図2に示すように、加熱炉13に設けられた複数の上部バーナー18及び下部バーナー19によって加熱炉13内にある鋳片10を加熱する方法である。
鋳片10は、連続鋳造機(図示しない)で製造され、連続して出片されて、CCカッター11により所定の長さに切断された後、搬送テーブル12によって加熱炉13の装入口(以下、入口ともいう)まで運ばれる。所定長さに切断された鋳片10は、長手方向に沿って一端から他端にかけて高くなる傾斜温度分布を有する状態になっている。これは、鋳片10の一端側が他端側に比べて、連続鋳造機を出てから時間が経過しているためである。
加熱炉13の入口まで搬送された鋳片10は、加熱炉13に長手方向を横にして装入され、加熱炉13内で加熱されて抽出される。そして、適温に加熱された鋳片10は、圧延及びサイジング加工される。
【0014】
本実施の形態では、加熱炉13は、炉幅が30m、炉長が18mである。そして、鋳片10は、厚みが100〜400mm、幅が650〜3000mm、長さが3〜30mである。加熱炉及び鋳片の大きさはこの大きさに限定されず、例えば、鋳片は、鋳片を基に製造される製品の仕様に応じて大きさが決定される。
【0015】
加熱炉13は、鋳片10が装入される入口から鋳片10が抽出される出口に沿って、複数の炉帯、即ち加熱帯14と均熱帯15とに区分されている。均熱帯15においては、加熱帯14に比べ、鋳片10に与えられる熱量が小さく、均熱帯15を通過中の鋳片10の温度上昇は、加熱帯14を通過していたときより緩やかになる。
また、加熱炉13は、加熱炉13の幅方向で2つのエリアに区分され、本実施の形態では、この2つのエリアの一方を東側エリア16、他方を西側エリア17としている。
加熱帯14(均熱帯15についても同じ)には、加熱帯14内を進行する鋳片10の上下それぞれに複数の上部バーナー18及び複数の下部バーナー19が配置されている。なお、上部バーナー18は、加熱帯14及び均熱帯15において加熱炉13の天井23に設けられている。また、鋳片10は長手方向中心位置を基準にして一側半分が東側エリア16にあり、他側半分が西側エリア17にある状態で加熱帯14内を移動する。
複数の上部バーナー18(複数の下部バーナー19についても同じ)は、加熱炉13の幅方向に沿って並んで配置され、加熱炉13内で進行中の鋳片10を加熱して所定温度にする。本実施の形態では、加熱炉13で、平均的に、装入時の鋳片10の温度900℃を180℃昇温し、鋳片10を1080℃程度にして抽出する。
【0016】
図2は、加熱炉13のバーナー配置を示すものである。
図2(A)は、加熱炉13の断面図である。
図1で説明した加熱炉13の加熱帯14と均熱帯15の天井23は、それぞれ断面台形状に形成され、加熱帯14と均熱帯15の境界部にはそれぞれの天井23からそれぞれの加熱帯14と均熱帯15の中心部に向かって加熱するように上部バーナー18が加熱炉13の長手方向(幅方向)に複数設けられている。また、加熱炉13の底面側にも、装入され抽出されていく鋳片10を下面側から加熱する複数の下部バーナー19が、上記と同様に幅方向に設けられている。この上下のバーナー18、19により入口から出口へ移動していく鋳片10は加熱される。
【0017】
加熱炉13の天井23は、図1、図2(A)、図2(B)に示すように、加熱帯14と均熱帯15のそれぞれにおいて炉幅方向に隆起している。
加熱炉13を側面視して、加熱帯14に配置されている各上部バーナー18は加熱帯14の中心部に向かって放炎するように天井23に取り付けられ、均熱帯15に配置されている各上部バーナー18は均熱帯15の中心部に向かって放炎するように天井23に取り付けられている。
そして、加熱炉13を側面視して、加熱帯14に設けられた各下部バーナー19は加熱帯14の中心に向かって放炎するように配置され、均熱帯15に設けられた各下部バーナー19は均熱帯15の中心に向かって放炎するように配置されている。
加熱炉13内を移動する鋳片10は、この上部バーナー18及び下部バーナー19によって上下から加熱される。
【0018】
加熱炉13に、加熱炉13の幅方向に沿って配置された上部バーナー18の列(以下、「上部バーナー18の群」ともいう)は、加熱帯14及び均熱帯15にそれぞれ一つずつ設けられ、同じく加熱炉13の幅方向に沿って配置された下部バーナー19の列(以下、「下部バーナー19の群」ともいう)も、加熱帯14及び均熱帯15にそれぞれ一つずつ設けられている。
また、加熱炉13には燃料パイプ20が配管されており、各上部バーナー18の群及び各下部バーナー19の群には、燃料パイプ20を介してCOG燃料及び燃焼用エアーが供給される。各上部バーナー18及び各下部バーナー19には火力調製用の弁が取り付けられており、この弁の制御により、各上部バーナー18の群及び各下部バーナー19の群の一部の火力を制御して、炉内温度を制御する。
平面視して同じ位置の上部バーナー18と下部バーナー19は、鋳片10の上下を加熱するので、基本的に同じ火力調整がなされる。さらに、たとえば、加熱帯14のすべての上部バーナー18及び下部バーナー19がそれぞれ同じ火力となるように制御したり、加熱帯14にある上部バーナー18と下部バーナー19を配置されている場所に応じて制御することができる。
以上は、鋳片の進行方向に沿って2つの炉帯が設けられ、各炉帯毎に上部バーナー18の群及び下部バーナー19の群がそれぞれ1つずつ設けられた場合の実施例である。
【0019】
図3は、加熱炉13の温度計配置を示し、図3(A)は、加熱炉13内を平面視した図、図3(B)は、加熱炉13の断面図である。
加熱炉13の加熱帯14と均熱帯15の天井23には、図3(A)に示すように、それぞれ複数の温度計21が配置され炉内温度を管理している。本実施の形態では、図3(A)において、○記号内に、1から9までの数字が記入されている場所に温度計21が配置されている。以下、○記号内の数字によって温度計21を区別して説明する。
加熱炉13は大きく4つのエリアに分けられる。加熱帯14の東側エリア16、加熱帯14の西側エリア17、均熱帯15の東側エリア16、均熱帯15の西側エリア17の4つのエリアである。それぞれのエリアには、それぞれ1番から5番までの温度計21が、加熱炉13の炉幅方向に異なる位置で配置されている。1番から5番までの温度計21は、隣り合う温度計21を直線で結ぶと、その複数の直線によって平面視してジグザク状の線が形成される配置となっている。
また、1番及び2番の温度計21は、およそ0.6m〜1mの間隔を有して配置され、3番、4番、5番の温度計21も、およそ0.6m〜1mの間隔を空けて配置されている。
【0020】
次に、温度計21の6番から9番までの温度計21は、東側エリア16及び西側エリア17の両方に入口(装入側)から出口(抽出側)に向かって所定間隔で配置されている。
これに比して、従来は、1番、2番の温度計を制御用温度計として使用し、これによってのみ炉内温度の制御をしていた。正確には、加熱帯14と均熱帯15のそれぞれにおいて1番又は2番の温度計21で炉内温度を計測して鋳片10の特定位置の断面温度を算出し、この算出した鋳片10の温度を基に鋳片10の長手方向の温度を推定する二次元温度計算による温度推定によって加熱炉13内の温度調整をしていた。また、3番、4番、5番の温度計21は既設であったが、監視用としてのみ使用していた。
【0021】
本実施の形態では、新たに6番から9番の温度計21が、天井23に取り付けられている。6番の温度計21は、加熱炉13の入口近くの天井23に設けられ、6番〜9番の温度計21のなかで最も温度が高い場所の温度を計測する。
8番の温度計21は加熱帯14と均熱帯15の境界部であるノーズ部22に設けられ、6番〜9番の温度計21のなかで最も温度が低い場所の温度を計測する。そして、7番の温度計21は加熱帯14の出側、9番の温度計21は均熱帯15の入側で加熱炉13内の温度をそれぞれ測定する。
加熱炉13内の温度は、鋳片10の進行方向で、加熱炉13の入口から6番の温度計21の配置位置にかけて高くなり、6番の温度計21の配置位置から8番の温度計21の配置位置にかけて低くなり、8番の温度計21の配置位置から9番の温度計21の配置位置にかけて高くなっている。
【0022】
1番から9番の温度計21による各測定温度を基に、三次元温度計算を行って鋳片10の温度を算出し、加熱帯14の東側エリア16及び西側エリア17(各上下)及び均熱帯15の東側エリア16及び西側エリア17(各上下)の8帯域全てについて、上部バーナー18、下部バーナー19のCOGガス流量及び燃焼用エアー量をコントロールして温度制御を行う。
なお、温度計21は、炉内温度を測定するので一般的には熱電対が用いられる。
【0023】
図4は、鋳片10の三次元温度計算モデルを示す図であり、鋳片10をモデルとして格子分割している。
そして、加熱炉13を移動している鋳片10の全長全幅全厚の三次元温度計算モデルであり、これをいわゆる3Dオンラインモデル(三次元温度計算モデルを用いて鋳片をオンライン生産するモデル)として実機化して稼動させている。
【0024】
本実施の形態では、鋳片10のモデルが、鋳片10の長手方向に151分割(最大)、幅方向に12分割、厚さ方向に7分割され、12684個の分割片に分けられている。なお、分割ピッチは、例えば鋳片10の長手方向で200mm程度である。
そして、鋳片10の長手方向で同じ位置にある複数(84個)の分割片が、長手方向の一端から他端にかけて計測され、12684個の全ての分割片について温度計測が行われる。
【0025】
これにより、鋳片10の長手方向の両端面及び異なる位置の断面についての温度分布が得られるため、鋳片10の長手方向、幅方向、及び厚み方向の温度分布を、連続的に三次元で推定できる。
従って、この推定される温度分布に基づいて、上部バーナー18及び下部バーナー19の出力制御を行うことにより、加熱炉13内の各領域の雰囲気温度をそれぞれ調整し、鋳片10の長手方向、幅方向、及び厚み方向の温度分布を、目標とする温度分布に調整する。
また、製造する鋳片10の長さや鋳造条件の変動により、鋳片の長手方向に生じる温度差が異なり、鋳片10が長い場合、長手方向の温度差が大きくなるので、本発明の効果が顕著になる。
【0026】
つまり、鋳片10に対して、従来は長手方向の特定位置で断面をきって、その断面について二次元温度計算していたものを、長手方向の複数(151つ)の位置で断面及び端面の温度計測をすることで三次元温度計算を行うことになり、温度シュミレーションによる温度分布の精度が格段に向上したことも貢献している。
【0027】
さらに、鋳片10の温度分布の算出は、RAM、CPU、ROM、I/O、及びこれらの要素を接続するバスを備えた従来公知の演算器(即ち、コンピュータ)を用いて行うが、これに限定されるものではない。
【0028】
図5(A)は、従来技術の二次元差分温度モデルを示す図である。
従来技術では、加熱炉内を移動する鋳片の長手方向一端より5mの位置の断面について、その断面の1/4の領域を対象に温度シミュレーション計算を行い、全断面を代表させていた。なお、鋳片は、長手方向の一端側が他端側に比べて連続鋳造工程から時間が経過しているため低温である。そして、温度シミュレーション計算を行った地点は鋳片の長手方向他端より一端に近い位置である。
この結果を基に鋳片10の全体の温度を推定するので温度分布の精度が粗い。そして、鋳片の長手方向他端側は、この温度シミュレーションされた位置から遠いので、鋳片の長手方向他端側に近い領域の炉温については、細かいコントロールが難しく省エネできなかった。
【0029】
図5(B)は、本発明の三次元温度計算モデルを示す図である。
鋳片10は、図5(B)に示すように、長手方向の全域で長手方向の異なる位置で切られた断面について温度計算がなされ、加熱制御されている。これにより、より細かい加熱制御が可能となり、従来技術では、監視可能な鋳片が加熱炉内の4本の鋳片であったが、最大で28本の鋳片の監視が可能となった。そして、加熱炉内のすべての鋳片を最適に温度制御して、省エネすることができるようになった。
【0030】
図6は、“中凹み昇温”の概念を示すものである。
図6(A)は、従来技術の温度変化を示す説明図である。
従来技術では、図6(A)に示すように、鋳片の長手方向の温度分布を考慮することなく鋳片全体を同じ条件で加熱していたので、鋳片の他端側部分の温度は、鋳片が加熱炉から抽出される際に、予め設定した必要抽出温度(圧延機で圧延するために必要な鋳片の温度)を大きく上回り、加熱に要するエネルギーコストの無駄が生じる。
【0031】
図6(B)は、本発明を適用するのに先立って想定していた鋳片の温度変化を示す説明図である。
前述した鋳片の温度分布の検出結果に基づき、加熱炉内の西側領域の加熱を抑制しながら鋳片を加熱するために、加熱炉内の西側エリアに配置されたバーナー(上部バーナー及び下部バーナー)の出力を、東側エリアに配置されたバーナー(上部バーナー及び下部バーナー)の出力よりも低下させる。そのことで、加熱炉から抽出される際の鋳片の温度は、西側に配置されている部分が、東側に配置されている部分と同等になる。これにより、鋳片の西側に配置されている部分の加熱に要するエネルギーコストの無駄を無くすことができ、省エネ効果が得られる。このような温度変化を当初は想定した。
【0032】
図6(C)は、本発明を適用したときの実際の鋳片の温度変化を示す説明図である。
実際に三次元温度計算を行って鋳片10の温度を算出して加熱炉13内の温度調整を行うと、図6(C)に示すように、鋳片10は、加熱炉13装入時に、東側エリア16にある長手方向の一端が最も温度が低く、西側エリア17にある他端に近づくにつれ、直線的に温度が高くなっていたのに対し、加熱炉13抽出時には、最低温度の位置が長手方向のセンター寄りとなった。
加熱炉13抽出時の鋳片10は、長手方向中央で温度が最も低く、両端に近づくにつれ高い温度になり、特に西側エリア17にある端部の温度が高くなった。
加熱炉13抽出時は鋳片10の長手方向両端部の温度低下が不十分な、いわゆる中央部付近が窪んだ“中凹み昇温”が発生している。
【0033】
図7は、“中凹み昇温”を説明するものである。
図7(A)は、スキッド間C断面平均温度の温度変化を示す説明図であり、鋳片10の長さと鋳片10の断面平均温度との関係を装入側から抽出側にかけて求めたものを示している。
横軸は鋳片10(母材)長を示し、縦軸はスキッド間の母材(鋳片10)のスキッド間C断面平均温度(Cはクロスセクションの略:横断面)を示す。ここでは、鋳片10を支えるスキッド等の詳細説明は省略する。
図7(A)において、○記号に1から18までの数字が記入されているのは鋳片10を支えるスキッドの影響の少ない中間部の順番を示している。図中にある複数の線分は鋳片10の長手方向の温度分布であり、図中の縦軸方向で最も下にある線分は加熱炉13に装入時の鋳片10を示している。複数の線分は、縦軸方向で上にあるほど加熱炉13出側の近くにある鋳片10である。
【0034】
図7(A)に示すように、装入時に直線的な所定の温度勾配(傾斜温度分布)をもっている“C断面平均温度”は、加熱炉13の昇温の過程で東側(B側:Bはボトムの意)及び西側(T側:Tはトップの意)の昇温が大きく且つ中央付近の昇温が比較的小さいため、鋳片10の抽出時長手方向のセンター付近が下に窪む状態になる。そして、加熱炉13装入時から抽出時までの鋳片10の昇温量は、鋳片10の東側(一側)端部と西側(他側)端部でほぼ同じ値になっている。なお、図7(A)では東側端部の温度上昇量がTB、西側端部の温度上昇量がTTでそれぞれ示されている。
【0035】
図7(B)は、加熱帯及び均熱帯の幅方向の炉温分布図である。
横軸は炉幅を示し、縦軸は炉内温度を示す。図7(B)より、炉幅方向の炉温分布は中央よりが両端側に比べて低くなっているのがわかる。そして、これが原因で“中凹み昇温”が発生していると推定される。
なぜなら、加熱帯14及び均熱帯15の両炉帯とも両端側で炉温が高くなっているため、“中凹み昇温”を呈しているが、これは、COGガス量が東側エリア16と西側エリア17でほぼ等しい時にこのような炉温分布になるからである。
なお、加熱帯14では、炉幅方向の西側が東側に比べて高温になっている。
【0036】
図8は、“うねり状昇温”の説明するものである。
図8(A)は、スキッド間C断面平均温度の温度変化を示す説明図であり、鋳片10の長さと鋳片10の断面平均温度との関係を装入側から抽出側にかけて求めたものを示している。
図7(A)と同様に、横軸は母材(鋳片10)長を示し、縦軸はスキッド間の母材(鋳片10)のスキッド間C断面平均温度を示している。○記号に1から18までの数字が記入されているのは鋳片10を支えるスキッドの影響の少ない中間部の順番を示している。
図中にある複数の線分は鋳片10の長手方向の温度分布であり、図中の縦軸方向で最も下にある線分は加熱炉13に装入時の鋳片10を示している。複数の線分は、縦軸方向で上にあるほど加熱炉13出側の近くにある鋳片10である。
【0037】
図8(A)に示すように、装入時に直線的な所定の温度勾配をもっている“C断面平均温度”は、加熱炉13の昇温の過程で東側(B側)から西側(T側)にかけての温度分布がうねり形状になっている。即ち、東側エリア16の中央部付近に山が形成され西側エリア17の中央部付近に谷が形成されている。その結果、図7と比べ、加熱炉13抽出時の母材(鋳片10)は、長手方向の各部における最低温度と最高温度の差が小さくなっている。これが、傾斜装入をうまく昇温した省エネ型昇温である“うねり状昇温”である。ここで、鋳片10の西側端部の温度上昇であるTTが東側端部の温度上昇であるTBより小さい値になっている。これにより、適正な炉温分布コントロールで中凹みのない鋳片温度制御が可能となり、省エネできる。
【0038】
図8(B)は、加熱帯及び均熱帯の幅方向の炉温分布図である。
図7と同様に、横軸は炉幅を示し、縦軸は各炉内の温度を示す。図8(B)より、炉幅方向で、図7に比べて全体としてフラットな炉温分布(特に加熱帯14)が得られ、また、均熱帯15では、特に西側の炉温の低下により、“うねり状昇温”の状態が得られていると推定される。
【0039】
図9は、“中凹み昇温”及び“うねり状昇温”の概念を示すものである。
図9(A)は、“中凹み昇温”を示す説明図である。
図9(A)で下側にある図は、横軸が母材(鋳片10)長を示し、縦軸が母材(鋳片10)のスキッド間のC断面平均温度を示す。図9(A)の上側にある図は、横軸が炉幅を示し、縦軸が各炉内の温度を示す。
図9(A)で下側にある図はこれまで述べたように、装入時に直線的な所定の温度勾配をもっている“C断面平均温度”が、加熱炉13の昇温の過程で東側(B側)及び西側(T側)の昇温が大きく且つ中央付近の昇温が比較的小さいため、抽出時長手方向のセンター付近が窪む状態である。
【0040】
図9(A)で上側にある図は、炉幅方向の炉温分布が“中凹み”状態であらわれ、その両端が高温(特に西側)になっている。この結果、母材は抽出時において西側(T側)部分が装入から抽出にいたるまでにセンター部分と同じ温度上昇をした場合より、温度上昇幅が大きくなっている。具体的には、母材の西側部分の温度上昇幅は、図9(A)で下側にある図において上矢印で示される分だけセンター部分より大きくなっている。
【0041】
図9(B)は、“うねり状昇温”を示す説明図である。
図9(B)で下側にある図は、横軸が母材(鋳片10)長を示し、縦軸が母材(鋳片10)のスキッド間のC断面平均温度を示す。図9(B)で上側にある図は、横軸が炉幅を示し、縦軸が各炉内の温度を示す。下図は、装入時に直線的な所定の温度勾配をもっている“C断面平均温度”の東側(B側)から西側(T側)にかけての温度分布が、母材の抽出時において、高くなって、低くなって、再び高くなる所謂うねり形状を呈している。
【0042】
図9(B)で上側にある図は、炉幅方向の炉温分布がほぼフラット又は東側(B側)のフラット部より西側(T側)のフラット部が所定の温度差で低い状態である。すなわち、鋳片10の長手方向の温度分布が一定範囲に納まっている。この結果、母材は抽出時において西側(T側)部分が装入から抽出にいたるまでにセンター部分と同じ温度上昇をした場合より、温度上昇幅が小さくなっている。具体的には、母材の西側部分の温度上昇幅は、図9(B)で下側にある図において下矢印で示される分だけ小さくなっている。
【0043】
図10(A)、(B)は、加熱炉の操業指標の説明図である。
図10(A)は“中凹み昇温”の指標を、図10(B)は“うねり状昇温”の指標を示す図である。
図10(A)、(B)では、縦軸がスキッド間の鋳片のスキッド間C断面平均温度、横軸が鋳片各部の鋳片の長手方向の位置である。そして、東側から西側にかけて、右肩上がりの直線は、装入位置における鋳片の長手方向の温度勾配であり、その右肩上がりの直線の上位置にある曲線は、抽出位置における鋳片の長手方向の温度分布である。
【0044】
また、図10(A)、(B)において、右肩上がりの直線上及び曲線上にそれぞれ2つずつ存在している点は、鋳片の東側エリアにある部位と西側エリアにある部位の断面の最低温度を示している。
そして、図10(A)、(B)それぞれにおいて4本ずつある水平の実線は、装入位置及び抽出位置における鋳片の東側エリアにある部位と西側エリアにある部位のそれぞれの平均温度を示す。
【0045】
図10(A)に示す曲線(中凹みの曲線)は、抽出位置における鋳片の長手方向の温度分布が中央で低くなり両端に近づくにつれ高くなっている状態を表している。そして、図10(B)に示す曲線は、抽出位置における鋳片の長手方向の温度分布が、東側(一側)の中央部付近に上向きに突出した山を形成し、西側(他側)の中央部付近に下向きに窪んだ谷を形成したうねり形状になっている状態を表わしている。
また、ここでは、東側エリア16の温度を基準として西側エリア17の温度の指標を表す。評価指標(A)は、鋳片10の東側エリア16にある部分の最低温度と西側エリア17にある部分の最低温度の差を示している。次に評価指標(B)は、鋳片10の東側エリア16にある部分の平均温度と西側エリア17にある部分の平均温度の差を示している。さらに評価指標(C)は、鋳片10の東側エリア16にある部分の最低温度と西側エリア17にある部分の平均温度との温度差を表す。
【0046】
ここで、発明者らは、当初、評価指標(A)を操業指標として西側エリア17にあるバーナー(上部バーナー18及び下部バーナー19)を東側エリア16にあるバーナーより火力を落として鋳片10の加熱を行っていたが、鋳片10を加熱する際に消費されるエネルギーの抑制効果は限定的であった。そこで、三次元温度計算モデルを用いて鋳片10の温度計算をし、西側エリア17にあるバーナーの一部を、西側エリア17にある他のバーナーと東側エリア16にあるバーナーに対して火力を落として鋳片10を加熱し省エネルギー効果が大となる操業指標を調査する実験を行った。
そして、発明者らは、省エネルギー効果が大となる操業指標として新たに評価指標(B)、評価指標(C)を見出した。評価指標(B)、評価指標(C)を所定の範囲に納まるようにすれば、鋳片10の長手方向の温度分布が一定範囲内に納まり、省エネルギー効果が大となったのである。また、図10(A)に示す中凹みの曲線の状態と、図10(B)に示すうねり形状の状態は共に、加熱炉抽出時に求められる鋳片の温度分布の条件を満たしており、更に従来の操業に比べ、鋳片を加熱する際に使用されるエネルギー量が小さいことを確認した。
なお、評価指標(A)、評価指標(B)、評価指標(C)は、数値で表されるので、統計管理に都合がよい。
【0047】
図11は、“うねり状昇温”の発生比率を示す図であり、加熱炉13で加熱された鋳片10の全数に対して、”うねり状昇温”が発生した鋳片10の比率を示している。
横軸は時間軸で月を示し、縦軸は、“うねり状昇温”の発生率を示している。ここでいう“うねり状昇温”と認定される分類は、鋳片10が加熱されて、抽出位置における鋳片10の長手方向の温度分布がうねり形状になった状態のものであり、これまで述べたような鋳片10の温度分布のパターンにおいて所定の特徴部を備える形状を便宜上分類して決めている。この“うねり状昇温”と認定される分類は、評価指数を用いて適正な炉温コントロールを行うことによって達成することができる。
【0048】
以下、時系列に従い、具体的な施策及び結果を示す。基本的な考え方は、東側エリア16を基準に西側エリア17は低く炉内温度を設定することである。
5月:三次元温度計算モデルにより操業中の状態である。その結果、全体の10%程度の“うねり状昇温”が発生している。
6月:上記に加えて、西側エリア17の炉温度を低減するために、加熱帯14及び均熱帯15の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より10℃低い状態を15℃低いように拡大した(5℃拡大)。そして、下旬より加熱帯14の西側エリア17のみをさらに15℃低い状態より20℃低い状態に拡大した(5℃拡大)。その結果、52%程度の比率で“うねり状昇温”が発生している。
【0049】
7月:下旬より、加熱帯14の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より25℃低い状態(5℃拡大)に、均熱帯15の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より20℃低い状態(5℃拡大)にして運用した。その結果、61%程度の“うねり状昇温”が発生している。
8月:加熱帯14の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より30℃低い状態にした(5℃拡大)。その結果、63%程度の“うねり状昇温”が発生している。
9月:加熱帯14の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より40℃低い状態にした(10℃拡大)。その結果、78%程度の“うねり状昇温”が発生している。
10月:最終的には、加熱帯14の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より40℃低い状態で、均熱帯15の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より20℃低い状態にして操業した。結果として、80%程度の“うねり状昇温”が発生している。
【0050】
このように、月を追うごとに“うねり状昇温”の発生比率が増加し、省エネ効果が向上しているのが分かる。
ここで、東側エリア16に対する西側エリア17の炉温の低下幅を、10月時の操業条件以上に拡大させると、抽出位置において、元来温度の高い鋳片10の西側エリア17にある部分が東側エリア16にある部分より低温になりすぎることがあるのを確認した。
また、装入側から抽出側にかけて鋳片10の長さと鋳片10の三次元温度計算に対応した長手方向の断面平均温度との関係は、鋳片10の表面温度及び鋳造条件から求めることができる。なお、鋳片の表面温度は、周知の放射温度計で測るのが好ましい。
【0051】
従って、求められた鋳片10の長さと鋳片10の三次元温度計算に対応した長手方向の断面平均温度との関係を基に上部バーナー18及び下部バーナー19の火力を調整し、評価指標(B)を−15℃〜+15℃、評価指標(C)を−10℃〜+20℃に逐次制御することが本発明のポイントとなる。そして、この制御によって、消費エネルギーを抑制した上で、抽出位置における鋳片が求められる温度を備えた状態にする鋳片の加熱が可能となる。
この評価指標(B)を−15℃〜+15℃、評価指標(C)を−10℃〜+20℃にする制御は、鋳片10の中心位置を基準に他側(西側エリア17にある部分)にあるバーナー(上部バーナー18及び下部バーナー19)の一部を、他側にある他のバーナーや一側(東側エリア16にある部分)にあるバーナーと比較して火力を落とすことによってなされる。
【0052】
図12は、三次元温度計算モデルでの評価指数と“うねり状昇温”の省エネ効果を示す関係図である。
図12には、図11を用いて説明した施策を5月(対策前)、6月(一次対策後)、9月(二次対策後)に行った際の結果が表に示され、各月ごとに、操業指標として評価指標(A)、評価指標(B)及び評価指標(C)を採用したときの結果が示されている。
各表中の棒グラフは、熱処理(加熱)されるそれぞれの鋳片10に対し、“中凹み昇温”の発生頻度と“うねり状昇温”の発生頻度をそれぞれ表している。そして、横軸は、東側エリア16の炉温に対して西側エリア17の炉温との差を算出して得た評価値(単位は温度)を示している。横軸の数値Xの部分は、評価幅が”(X―5)〜X”であることを示し、例えば“0”の部分は、“−5〜0”であり、“10”の部分は“5〜10”である。このように、5℃のステップ幅を有している。
【0053】
つまり、表中の各棒は、抽出位置において鋳片10の、各評価指標で定義された東側エリア16にある部分の温度と西側エリア17にある部分の温度差(評価指標(A)では、鋳片10の東側エリア16にある部分の最低温度と西側エリア17にある部分の最低温度の差)が、(X−5)℃〜X℃の範囲にあることを示している。
また、三次元温度計算モデルでの操業の結果、全本数に対する“中凹み昇温”の発生数と“うねり状昇温”の発生数を棒グラフで示している。この図からわかるように、全体として“うねり状昇温”の比率が月を追うごとに上昇している評価指標(B)、(C)に着目すると、横軸の−10から+10の目盛りでの評価値が、特に月を追って、“うねり状昇温”の比率が上昇してきているのがわかる。
そして、図12中の表が示す結果を基に、
評価指標(B)について、一方側の(断面)平均温度と他方側の(断面)平均温度との差を−15℃〜+15℃の間として、
評価指標(C)について、一方側の(断面の)最低温度と他方側の(断面)平均温度との差を−10℃〜+20℃に制御する操業を管理することで、“うねり状昇温”の比率が上昇し省エネ効果が達成されてきていることがわかる。
【0054】
図13は、燃料原単位低減結果を示す図である。
横軸は、時間軸で月を示し、縦軸は、加熱炉13の加熱燃料原単位を示し、対策前を100%としている(SM:サイジングミルを示す)。図13に示すように、月ごとに燃料原単位が低減されて、最終的には計画2%低減に対して、10月の実績では9%の大幅な低減を達成している。このように、“中凹み昇温”と“うねり状昇温”を発生させることに関連して、予想以上の燃料原単位低減の効果が発揮されている。
【0055】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例、例えば熱延鋼板や厚板等の圧延される熱片鋼片のように、温度分布を有する鋼片も含むものである。
【符号の説明】
【0056】
10:鋳片、11:CCカッター、12:搬送テーブル、13:加熱炉、14:加熱帯、15:均熱帯、16:東側エリア、17:西側エリア、18:上部バーナー、19:下部バーナー、20:燃料パイプ、21:温度計、22:ノーズ部、23:天井
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度分布を有する鋳片(特に、連続鋳造直後の鋳片)の加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、連続鋳造後の鋳片(鋳片の一例)を熱間圧延して目標とする厚み寸法と幅寸法に調整するため、加熱炉等により事前に鋳片の加熱を行っている。
この加熱方法としては、例えば、特許文献1に、加熱炉内を通過中の鋳片温度を推定すると共に、その推定値、抽出時の目標温度、加熱時間から鋳片の目標昇温パターンを決定し、この鋳片が目標昇温パターンに沿うよう、加熱炉の加熱帯及び均熱帯の雰囲気温度を設定する方法が開示されている。具体的には、分布定数系温度モデルを用いて現在の鋳片温度を推定し、このモデルで燃料原単位が最適な昇温パターンや設定炉温を求めており、この鋳片温度の推定を、鋳片の一断面(又は、スキッド断面を含む二断面)で行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−209044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、連続鋳造では、例えば、製造する鋳片の長さや鋳造条件の変動により、主として、鋳片の長手方向(鋳造方向)にわたって温度分布が発生している。さらに連続鋳造で製造する鋳片は、その長さが長く、先に連続鋳造がなされた部分と、連続鋳造直後の部分とで、温度差が発生する場合や、鋳造条件の変動により部分的に温度低下や温度上昇が発生する場合が多い。このため、前記した鋳片の加熱方法のように、鋳片温度を、その一断面(又は二断面)でのみ推定する場合には、鋳片の長手方向の温度分布が反映されることなく、加熱炉で鋳片全体が同じ条件で加熱されるため、過剰に昇温される部分が発生する。従って、上記した方法では、加熱に要するエネルギーコストの無駄が生じて不経済であった。
【0005】
さらに、従来は、鋳片のある位置の温度を一点計算による単純二次元差分計算によって鋳片の一断面による鋳片の温度を推定し炉内の温度を制御する方法であった。これに換えて、制御の精度を向上させるためには、鋳片の温度をより正確に把握するために多点連続計算による三次元温度計算を適用して炉内の温度を制御することが考えられる。しかし、この三次元温度計算の適用を考えても実際には、それぞれ製造する鋳片の長さや鋳造条件が異なり、これらを鋳片に適用するためには、三次元温度計算を運用するための種種の管理する温度指標を設定しないと、十分な省エネ効果を得られない。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、三次元温度計算を行い鋳片の有する温度分布を求め加熱炉内の温度を制御する場合、省エネ効果を達成するために不要な加熱を抑制する温度指標を設けて管理する鋳片の加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第一の発明に係る鋳片の加熱方法は、一端から他端にかけて高くなる傾斜温度分布を有する鋳片を長手方向を横にして、前記鋳片の上下それぞれに加熱炉の幅方向に沿って複数配置されたバーナーを備えた加熱炉に入れる鋳片の加熱方法であって、前記鋳片の表面温度及び鋳造条件から、前記鋳片の長さと前記鋳片の三次元温度計算に対応した長手方向の断面平均温度との関係を装入側から抽出側にかけて求め、前記鋳片の中心位置を基準にして前記バーナーの火力を制御して、1)前記鋳片の中心位置を基準にして抽出位置における長手方向一側の平均温度と他側の平均温度の差を−15℃〜+15℃の間とし、2)一側の前記断面の最低温度と他側の平均温度分布との差を−10℃〜+20℃に制御する。
その結果、鋳片の温度分布を、長手方向の一側と他側の所定の温度指標を比較して所定範囲に納まるように加熱するので、鋳片の温度分布のばらつきを抑えるとともに加熱炉のエネルギー消費を抑えることが可能となる。
【0008】
第二の発明に係る鋳片の加熱方法は、第一の発明に係る鋳片の加熱方法において、前記バーナーの制御は、幅方向他側に設けられているバーナーの一部の火力を落として行う。
その結果、他側のバーナーを直接に火力制御することで、迅速な温度管理が行えて加熱炉のエネルギー消費を抑えることが可能となる。
【0009】
第三の発明に係る鋳片の加熱方法は、第一の発明又は第二の発明に係る鋳片の加熱方法において、前記鋳片の加熱方法は、前記鋳片の装入し抽出する進行方向に沿って複数の炉帯に分けられ、前記複数の炉帯毎で前記バーナーの群が複数に分けられている。
その結果、鋳片の装入し抽出する進行方向に沿って、例えば加熱帯と均熱帯に分けられたバーナー群で、別途に制御することで、装入から抽出までの時系列でのきめ細かい温度管理が行えて最適な温度管理ができる。
【0010】
第四の発明に係る鋳片の加熱方法は、第一の発明乃至第三の発明のいずれか1に係る鋳片の加熱方法において、前記鋳片の抽出側の温度分布は、長手方向一方側の中央部付近に山が、他方側の中央部付近に谷が形成されたうねり形状である。
その結果、鋳片の抽出側のうねり形状の温度分布に着目して制御することにより省エネ指標として直感的に理解しやすいので、加熱炉のエネルギー消費を容易に管理することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る鋳片の加熱方法は、鋳片の温度分布を三次元的に求めることにより、他の箇所より温度の高い高温領域の位置を細かく検出する。そして、加熱炉の設定温度を三次元温度計算に基づいて温度指標を設けてバーナー制御を行うことにより高温領域の加熱を抑制しながら鋳片を加熱して、鋳片の加熱に要する総熱エネルギーの低減(省エネルギー化)が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鋳片の加熱方法が用いられる加熱炉のシステム図である。
【図2】(A)、(B)は、同加熱炉のバーナーの配置を示すものであり、それぞれ加熱炉の側断面図、及び加熱炉を平面視した説明図である。
【図3】(A)は、同加熱炉の温度計配置を示す説明図であり、(B)はバーナーの放炎方向を示す説明図である。
【図4】同加熱炉内で加熱される鋳片の温度計測の計算方法を示す説明図である。
【図5】(A)、(B)は、鋳片の温度計測方法を示し、それぞれ従来技術の二次元温度計測を示す説明図、及び三次元温度計測を示す説明図である。
【図6】(A)〜(C)は、鋳片の温度変化を概念的に示し、それぞれ従来技術の加熱を行った際の温度変化、三次元温度計測を採用するに先立って予想される温度変化、三次元温度計測を採用して加熱を行った際の実際の温度変化を示す説明図である。
【図7】(A)は鋳片のスキッド間C断面平均温度の温度変化の説明図、(B)は加熱炉内の温度分布の説明図である。
【図8】(A)は鋳片のスキッド間C断面平均温度の温度変化の説明図、(B)は加熱炉内の温度分布の説明図である。
【図9】(A)、(B)は鋳片の温度変化を示し、それぞれ“中凹み昇温”状態及び“うねり状昇温”状態の概念を示す説明図である。
【図10】(A)、(B)は加熱炉の操業指標を示し、それぞれ“中凹み昇温”状態及び“うねり状昇温”状態を示す説明図である。
【図11】“うねり状昇温”状態が発生する比率を示す棒グラフである。
【図12】“中凹み昇温”状態及び“うねり状昇温”状態が発生する頻度を示す棒グラフである。
【図13】燃料原単位低減結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
本発明の一実施の形態に係る鋳片の加熱方法は、図1、図2に示すように、加熱炉13に設けられた複数の上部バーナー18及び下部バーナー19によって加熱炉13内にある鋳片10を加熱する方法である。
鋳片10は、連続鋳造機(図示しない)で製造され、連続して出片されて、CCカッター11により所定の長さに切断された後、搬送テーブル12によって加熱炉13の装入口(以下、入口ともいう)まで運ばれる。所定長さに切断された鋳片10は、長手方向に沿って一端から他端にかけて高くなる傾斜温度分布を有する状態になっている。これは、鋳片10の一端側が他端側に比べて、連続鋳造機を出てから時間が経過しているためである。
加熱炉13の入口まで搬送された鋳片10は、加熱炉13に長手方向を横にして装入され、加熱炉13内で加熱されて抽出される。そして、適温に加熱された鋳片10は、圧延及びサイジング加工される。
【0014】
本実施の形態では、加熱炉13は、炉幅が30m、炉長が18mである。そして、鋳片10は、厚みが100〜400mm、幅が650〜3000mm、長さが3〜30mである。加熱炉及び鋳片の大きさはこの大きさに限定されず、例えば、鋳片は、鋳片を基に製造される製品の仕様に応じて大きさが決定される。
【0015】
加熱炉13は、鋳片10が装入される入口から鋳片10が抽出される出口に沿って、複数の炉帯、即ち加熱帯14と均熱帯15とに区分されている。均熱帯15においては、加熱帯14に比べ、鋳片10に与えられる熱量が小さく、均熱帯15を通過中の鋳片10の温度上昇は、加熱帯14を通過していたときより緩やかになる。
また、加熱炉13は、加熱炉13の幅方向で2つのエリアに区分され、本実施の形態では、この2つのエリアの一方を東側エリア16、他方を西側エリア17としている。
加熱帯14(均熱帯15についても同じ)には、加熱帯14内を進行する鋳片10の上下それぞれに複数の上部バーナー18及び複数の下部バーナー19が配置されている。なお、上部バーナー18は、加熱帯14及び均熱帯15において加熱炉13の天井23に設けられている。また、鋳片10は長手方向中心位置を基準にして一側半分が東側エリア16にあり、他側半分が西側エリア17にある状態で加熱帯14内を移動する。
複数の上部バーナー18(複数の下部バーナー19についても同じ)は、加熱炉13の幅方向に沿って並んで配置され、加熱炉13内で進行中の鋳片10を加熱して所定温度にする。本実施の形態では、加熱炉13で、平均的に、装入時の鋳片10の温度900℃を180℃昇温し、鋳片10を1080℃程度にして抽出する。
【0016】
図2は、加熱炉13のバーナー配置を示すものである。
図2(A)は、加熱炉13の断面図である。
図1で説明した加熱炉13の加熱帯14と均熱帯15の天井23は、それぞれ断面台形状に形成され、加熱帯14と均熱帯15の境界部にはそれぞれの天井23からそれぞれの加熱帯14と均熱帯15の中心部に向かって加熱するように上部バーナー18が加熱炉13の長手方向(幅方向)に複数設けられている。また、加熱炉13の底面側にも、装入され抽出されていく鋳片10を下面側から加熱する複数の下部バーナー19が、上記と同様に幅方向に設けられている。この上下のバーナー18、19により入口から出口へ移動していく鋳片10は加熱される。
【0017】
加熱炉13の天井23は、図1、図2(A)、図2(B)に示すように、加熱帯14と均熱帯15のそれぞれにおいて炉幅方向に隆起している。
加熱炉13を側面視して、加熱帯14に配置されている各上部バーナー18は加熱帯14の中心部に向かって放炎するように天井23に取り付けられ、均熱帯15に配置されている各上部バーナー18は均熱帯15の中心部に向かって放炎するように天井23に取り付けられている。
そして、加熱炉13を側面視して、加熱帯14に設けられた各下部バーナー19は加熱帯14の中心に向かって放炎するように配置され、均熱帯15に設けられた各下部バーナー19は均熱帯15の中心に向かって放炎するように配置されている。
加熱炉13内を移動する鋳片10は、この上部バーナー18及び下部バーナー19によって上下から加熱される。
【0018】
加熱炉13に、加熱炉13の幅方向に沿って配置された上部バーナー18の列(以下、「上部バーナー18の群」ともいう)は、加熱帯14及び均熱帯15にそれぞれ一つずつ設けられ、同じく加熱炉13の幅方向に沿って配置された下部バーナー19の列(以下、「下部バーナー19の群」ともいう)も、加熱帯14及び均熱帯15にそれぞれ一つずつ設けられている。
また、加熱炉13には燃料パイプ20が配管されており、各上部バーナー18の群及び各下部バーナー19の群には、燃料パイプ20を介してCOG燃料及び燃焼用エアーが供給される。各上部バーナー18及び各下部バーナー19には火力調製用の弁が取り付けられており、この弁の制御により、各上部バーナー18の群及び各下部バーナー19の群の一部の火力を制御して、炉内温度を制御する。
平面視して同じ位置の上部バーナー18と下部バーナー19は、鋳片10の上下を加熱するので、基本的に同じ火力調整がなされる。さらに、たとえば、加熱帯14のすべての上部バーナー18及び下部バーナー19がそれぞれ同じ火力となるように制御したり、加熱帯14にある上部バーナー18と下部バーナー19を配置されている場所に応じて制御することができる。
以上は、鋳片の進行方向に沿って2つの炉帯が設けられ、各炉帯毎に上部バーナー18の群及び下部バーナー19の群がそれぞれ1つずつ設けられた場合の実施例である。
【0019】
図3は、加熱炉13の温度計配置を示し、図3(A)は、加熱炉13内を平面視した図、図3(B)は、加熱炉13の断面図である。
加熱炉13の加熱帯14と均熱帯15の天井23には、図3(A)に示すように、それぞれ複数の温度計21が配置され炉内温度を管理している。本実施の形態では、図3(A)において、○記号内に、1から9までの数字が記入されている場所に温度計21が配置されている。以下、○記号内の数字によって温度計21を区別して説明する。
加熱炉13は大きく4つのエリアに分けられる。加熱帯14の東側エリア16、加熱帯14の西側エリア17、均熱帯15の東側エリア16、均熱帯15の西側エリア17の4つのエリアである。それぞれのエリアには、それぞれ1番から5番までの温度計21が、加熱炉13の炉幅方向に異なる位置で配置されている。1番から5番までの温度計21は、隣り合う温度計21を直線で結ぶと、その複数の直線によって平面視してジグザク状の線が形成される配置となっている。
また、1番及び2番の温度計21は、およそ0.6m〜1mの間隔を有して配置され、3番、4番、5番の温度計21も、およそ0.6m〜1mの間隔を空けて配置されている。
【0020】
次に、温度計21の6番から9番までの温度計21は、東側エリア16及び西側エリア17の両方に入口(装入側)から出口(抽出側)に向かって所定間隔で配置されている。
これに比して、従来は、1番、2番の温度計を制御用温度計として使用し、これによってのみ炉内温度の制御をしていた。正確には、加熱帯14と均熱帯15のそれぞれにおいて1番又は2番の温度計21で炉内温度を計測して鋳片10の特定位置の断面温度を算出し、この算出した鋳片10の温度を基に鋳片10の長手方向の温度を推定する二次元温度計算による温度推定によって加熱炉13内の温度調整をしていた。また、3番、4番、5番の温度計21は既設であったが、監視用としてのみ使用していた。
【0021】
本実施の形態では、新たに6番から9番の温度計21が、天井23に取り付けられている。6番の温度計21は、加熱炉13の入口近くの天井23に設けられ、6番〜9番の温度計21のなかで最も温度が高い場所の温度を計測する。
8番の温度計21は加熱帯14と均熱帯15の境界部であるノーズ部22に設けられ、6番〜9番の温度計21のなかで最も温度が低い場所の温度を計測する。そして、7番の温度計21は加熱帯14の出側、9番の温度計21は均熱帯15の入側で加熱炉13内の温度をそれぞれ測定する。
加熱炉13内の温度は、鋳片10の進行方向で、加熱炉13の入口から6番の温度計21の配置位置にかけて高くなり、6番の温度計21の配置位置から8番の温度計21の配置位置にかけて低くなり、8番の温度計21の配置位置から9番の温度計21の配置位置にかけて高くなっている。
【0022】
1番から9番の温度計21による各測定温度を基に、三次元温度計算を行って鋳片10の温度を算出し、加熱帯14の東側エリア16及び西側エリア17(各上下)及び均熱帯15の東側エリア16及び西側エリア17(各上下)の8帯域全てについて、上部バーナー18、下部バーナー19のCOGガス流量及び燃焼用エアー量をコントロールして温度制御を行う。
なお、温度計21は、炉内温度を測定するので一般的には熱電対が用いられる。
【0023】
図4は、鋳片10の三次元温度計算モデルを示す図であり、鋳片10をモデルとして格子分割している。
そして、加熱炉13を移動している鋳片10の全長全幅全厚の三次元温度計算モデルであり、これをいわゆる3Dオンラインモデル(三次元温度計算モデルを用いて鋳片をオンライン生産するモデル)として実機化して稼動させている。
【0024】
本実施の形態では、鋳片10のモデルが、鋳片10の長手方向に151分割(最大)、幅方向に12分割、厚さ方向に7分割され、12684個の分割片に分けられている。なお、分割ピッチは、例えば鋳片10の長手方向で200mm程度である。
そして、鋳片10の長手方向で同じ位置にある複数(84個)の分割片が、長手方向の一端から他端にかけて計測され、12684個の全ての分割片について温度計測が行われる。
【0025】
これにより、鋳片10の長手方向の両端面及び異なる位置の断面についての温度分布が得られるため、鋳片10の長手方向、幅方向、及び厚み方向の温度分布を、連続的に三次元で推定できる。
従って、この推定される温度分布に基づいて、上部バーナー18及び下部バーナー19の出力制御を行うことにより、加熱炉13内の各領域の雰囲気温度をそれぞれ調整し、鋳片10の長手方向、幅方向、及び厚み方向の温度分布を、目標とする温度分布に調整する。
また、製造する鋳片10の長さや鋳造条件の変動により、鋳片の長手方向に生じる温度差が異なり、鋳片10が長い場合、長手方向の温度差が大きくなるので、本発明の効果が顕著になる。
【0026】
つまり、鋳片10に対して、従来は長手方向の特定位置で断面をきって、その断面について二次元温度計算していたものを、長手方向の複数(151つ)の位置で断面及び端面の温度計測をすることで三次元温度計算を行うことになり、温度シュミレーションによる温度分布の精度が格段に向上したことも貢献している。
【0027】
さらに、鋳片10の温度分布の算出は、RAM、CPU、ROM、I/O、及びこれらの要素を接続するバスを備えた従来公知の演算器(即ち、コンピュータ)を用いて行うが、これに限定されるものではない。
【0028】
図5(A)は、従来技術の二次元差分温度モデルを示す図である。
従来技術では、加熱炉内を移動する鋳片の長手方向一端より5mの位置の断面について、その断面の1/4の領域を対象に温度シミュレーション計算を行い、全断面を代表させていた。なお、鋳片は、長手方向の一端側が他端側に比べて連続鋳造工程から時間が経過しているため低温である。そして、温度シミュレーション計算を行った地点は鋳片の長手方向他端より一端に近い位置である。
この結果を基に鋳片10の全体の温度を推定するので温度分布の精度が粗い。そして、鋳片の長手方向他端側は、この温度シミュレーションされた位置から遠いので、鋳片の長手方向他端側に近い領域の炉温については、細かいコントロールが難しく省エネできなかった。
【0029】
図5(B)は、本発明の三次元温度計算モデルを示す図である。
鋳片10は、図5(B)に示すように、長手方向の全域で長手方向の異なる位置で切られた断面について温度計算がなされ、加熱制御されている。これにより、より細かい加熱制御が可能となり、従来技術では、監視可能な鋳片が加熱炉内の4本の鋳片であったが、最大で28本の鋳片の監視が可能となった。そして、加熱炉内のすべての鋳片を最適に温度制御して、省エネすることができるようになった。
【0030】
図6は、“中凹み昇温”の概念を示すものである。
図6(A)は、従来技術の温度変化を示す説明図である。
従来技術では、図6(A)に示すように、鋳片の長手方向の温度分布を考慮することなく鋳片全体を同じ条件で加熱していたので、鋳片の他端側部分の温度は、鋳片が加熱炉から抽出される際に、予め設定した必要抽出温度(圧延機で圧延するために必要な鋳片の温度)を大きく上回り、加熱に要するエネルギーコストの無駄が生じる。
【0031】
図6(B)は、本発明を適用するのに先立って想定していた鋳片の温度変化を示す説明図である。
前述した鋳片の温度分布の検出結果に基づき、加熱炉内の西側領域の加熱を抑制しながら鋳片を加熱するために、加熱炉内の西側エリアに配置されたバーナー(上部バーナー及び下部バーナー)の出力を、東側エリアに配置されたバーナー(上部バーナー及び下部バーナー)の出力よりも低下させる。そのことで、加熱炉から抽出される際の鋳片の温度は、西側に配置されている部分が、東側に配置されている部分と同等になる。これにより、鋳片の西側に配置されている部分の加熱に要するエネルギーコストの無駄を無くすことができ、省エネ効果が得られる。このような温度変化を当初は想定した。
【0032】
図6(C)は、本発明を適用したときの実際の鋳片の温度変化を示す説明図である。
実際に三次元温度計算を行って鋳片10の温度を算出して加熱炉13内の温度調整を行うと、図6(C)に示すように、鋳片10は、加熱炉13装入時に、東側エリア16にある長手方向の一端が最も温度が低く、西側エリア17にある他端に近づくにつれ、直線的に温度が高くなっていたのに対し、加熱炉13抽出時には、最低温度の位置が長手方向のセンター寄りとなった。
加熱炉13抽出時の鋳片10は、長手方向中央で温度が最も低く、両端に近づくにつれ高い温度になり、特に西側エリア17にある端部の温度が高くなった。
加熱炉13抽出時は鋳片10の長手方向両端部の温度低下が不十分な、いわゆる中央部付近が窪んだ“中凹み昇温”が発生している。
【0033】
図7は、“中凹み昇温”を説明するものである。
図7(A)は、スキッド間C断面平均温度の温度変化を示す説明図であり、鋳片10の長さと鋳片10の断面平均温度との関係を装入側から抽出側にかけて求めたものを示している。
横軸は鋳片10(母材)長を示し、縦軸はスキッド間の母材(鋳片10)のスキッド間C断面平均温度(Cはクロスセクションの略:横断面)を示す。ここでは、鋳片10を支えるスキッド等の詳細説明は省略する。
図7(A)において、○記号に1から18までの数字が記入されているのは鋳片10を支えるスキッドの影響の少ない中間部の順番を示している。図中にある複数の線分は鋳片10の長手方向の温度分布であり、図中の縦軸方向で最も下にある線分は加熱炉13に装入時の鋳片10を示している。複数の線分は、縦軸方向で上にあるほど加熱炉13出側の近くにある鋳片10である。
【0034】
図7(A)に示すように、装入時に直線的な所定の温度勾配(傾斜温度分布)をもっている“C断面平均温度”は、加熱炉13の昇温の過程で東側(B側:Bはボトムの意)及び西側(T側:Tはトップの意)の昇温が大きく且つ中央付近の昇温が比較的小さいため、鋳片10の抽出時長手方向のセンター付近が下に窪む状態になる。そして、加熱炉13装入時から抽出時までの鋳片10の昇温量は、鋳片10の東側(一側)端部と西側(他側)端部でほぼ同じ値になっている。なお、図7(A)では東側端部の温度上昇量がTB、西側端部の温度上昇量がTTでそれぞれ示されている。
【0035】
図7(B)は、加熱帯及び均熱帯の幅方向の炉温分布図である。
横軸は炉幅を示し、縦軸は炉内温度を示す。図7(B)より、炉幅方向の炉温分布は中央よりが両端側に比べて低くなっているのがわかる。そして、これが原因で“中凹み昇温”が発生していると推定される。
なぜなら、加熱帯14及び均熱帯15の両炉帯とも両端側で炉温が高くなっているため、“中凹み昇温”を呈しているが、これは、COGガス量が東側エリア16と西側エリア17でほぼ等しい時にこのような炉温分布になるからである。
なお、加熱帯14では、炉幅方向の西側が東側に比べて高温になっている。
【0036】
図8は、“うねり状昇温”の説明するものである。
図8(A)は、スキッド間C断面平均温度の温度変化を示す説明図であり、鋳片10の長さと鋳片10の断面平均温度との関係を装入側から抽出側にかけて求めたものを示している。
図7(A)と同様に、横軸は母材(鋳片10)長を示し、縦軸はスキッド間の母材(鋳片10)のスキッド間C断面平均温度を示している。○記号に1から18までの数字が記入されているのは鋳片10を支えるスキッドの影響の少ない中間部の順番を示している。
図中にある複数の線分は鋳片10の長手方向の温度分布であり、図中の縦軸方向で最も下にある線分は加熱炉13に装入時の鋳片10を示している。複数の線分は、縦軸方向で上にあるほど加熱炉13出側の近くにある鋳片10である。
【0037】
図8(A)に示すように、装入時に直線的な所定の温度勾配をもっている“C断面平均温度”は、加熱炉13の昇温の過程で東側(B側)から西側(T側)にかけての温度分布がうねり形状になっている。即ち、東側エリア16の中央部付近に山が形成され西側エリア17の中央部付近に谷が形成されている。その結果、図7と比べ、加熱炉13抽出時の母材(鋳片10)は、長手方向の各部における最低温度と最高温度の差が小さくなっている。これが、傾斜装入をうまく昇温した省エネ型昇温である“うねり状昇温”である。ここで、鋳片10の西側端部の温度上昇であるTTが東側端部の温度上昇であるTBより小さい値になっている。これにより、適正な炉温分布コントロールで中凹みのない鋳片温度制御が可能となり、省エネできる。
【0038】
図8(B)は、加熱帯及び均熱帯の幅方向の炉温分布図である。
図7と同様に、横軸は炉幅を示し、縦軸は各炉内の温度を示す。図8(B)より、炉幅方向で、図7に比べて全体としてフラットな炉温分布(特に加熱帯14)が得られ、また、均熱帯15では、特に西側の炉温の低下により、“うねり状昇温”の状態が得られていると推定される。
【0039】
図9は、“中凹み昇温”及び“うねり状昇温”の概念を示すものである。
図9(A)は、“中凹み昇温”を示す説明図である。
図9(A)で下側にある図は、横軸が母材(鋳片10)長を示し、縦軸が母材(鋳片10)のスキッド間のC断面平均温度を示す。図9(A)の上側にある図は、横軸が炉幅を示し、縦軸が各炉内の温度を示す。
図9(A)で下側にある図はこれまで述べたように、装入時に直線的な所定の温度勾配をもっている“C断面平均温度”が、加熱炉13の昇温の過程で東側(B側)及び西側(T側)の昇温が大きく且つ中央付近の昇温が比較的小さいため、抽出時長手方向のセンター付近が窪む状態である。
【0040】
図9(A)で上側にある図は、炉幅方向の炉温分布が“中凹み”状態であらわれ、その両端が高温(特に西側)になっている。この結果、母材は抽出時において西側(T側)部分が装入から抽出にいたるまでにセンター部分と同じ温度上昇をした場合より、温度上昇幅が大きくなっている。具体的には、母材の西側部分の温度上昇幅は、図9(A)で下側にある図において上矢印で示される分だけセンター部分より大きくなっている。
【0041】
図9(B)は、“うねり状昇温”を示す説明図である。
図9(B)で下側にある図は、横軸が母材(鋳片10)長を示し、縦軸が母材(鋳片10)のスキッド間のC断面平均温度を示す。図9(B)で上側にある図は、横軸が炉幅を示し、縦軸が各炉内の温度を示す。下図は、装入時に直線的な所定の温度勾配をもっている“C断面平均温度”の東側(B側)から西側(T側)にかけての温度分布が、母材の抽出時において、高くなって、低くなって、再び高くなる所謂うねり形状を呈している。
【0042】
図9(B)で上側にある図は、炉幅方向の炉温分布がほぼフラット又は東側(B側)のフラット部より西側(T側)のフラット部が所定の温度差で低い状態である。すなわち、鋳片10の長手方向の温度分布が一定範囲に納まっている。この結果、母材は抽出時において西側(T側)部分が装入から抽出にいたるまでにセンター部分と同じ温度上昇をした場合より、温度上昇幅が小さくなっている。具体的には、母材の西側部分の温度上昇幅は、図9(B)で下側にある図において下矢印で示される分だけ小さくなっている。
【0043】
図10(A)、(B)は、加熱炉の操業指標の説明図である。
図10(A)は“中凹み昇温”の指標を、図10(B)は“うねり状昇温”の指標を示す図である。
図10(A)、(B)では、縦軸がスキッド間の鋳片のスキッド間C断面平均温度、横軸が鋳片各部の鋳片の長手方向の位置である。そして、東側から西側にかけて、右肩上がりの直線は、装入位置における鋳片の長手方向の温度勾配であり、その右肩上がりの直線の上位置にある曲線は、抽出位置における鋳片の長手方向の温度分布である。
【0044】
また、図10(A)、(B)において、右肩上がりの直線上及び曲線上にそれぞれ2つずつ存在している点は、鋳片の東側エリアにある部位と西側エリアにある部位の断面の最低温度を示している。
そして、図10(A)、(B)それぞれにおいて4本ずつある水平の実線は、装入位置及び抽出位置における鋳片の東側エリアにある部位と西側エリアにある部位のそれぞれの平均温度を示す。
【0045】
図10(A)に示す曲線(中凹みの曲線)は、抽出位置における鋳片の長手方向の温度分布が中央で低くなり両端に近づくにつれ高くなっている状態を表している。そして、図10(B)に示す曲線は、抽出位置における鋳片の長手方向の温度分布が、東側(一側)の中央部付近に上向きに突出した山を形成し、西側(他側)の中央部付近に下向きに窪んだ谷を形成したうねり形状になっている状態を表わしている。
また、ここでは、東側エリア16の温度を基準として西側エリア17の温度の指標を表す。評価指標(A)は、鋳片10の東側エリア16にある部分の最低温度と西側エリア17にある部分の最低温度の差を示している。次に評価指標(B)は、鋳片10の東側エリア16にある部分の平均温度と西側エリア17にある部分の平均温度の差を示している。さらに評価指標(C)は、鋳片10の東側エリア16にある部分の最低温度と西側エリア17にある部分の平均温度との温度差を表す。
【0046】
ここで、発明者らは、当初、評価指標(A)を操業指標として西側エリア17にあるバーナー(上部バーナー18及び下部バーナー19)を東側エリア16にあるバーナーより火力を落として鋳片10の加熱を行っていたが、鋳片10を加熱する際に消費されるエネルギーの抑制効果は限定的であった。そこで、三次元温度計算モデルを用いて鋳片10の温度計算をし、西側エリア17にあるバーナーの一部を、西側エリア17にある他のバーナーと東側エリア16にあるバーナーに対して火力を落として鋳片10を加熱し省エネルギー効果が大となる操業指標を調査する実験を行った。
そして、発明者らは、省エネルギー効果が大となる操業指標として新たに評価指標(B)、評価指標(C)を見出した。評価指標(B)、評価指標(C)を所定の範囲に納まるようにすれば、鋳片10の長手方向の温度分布が一定範囲内に納まり、省エネルギー効果が大となったのである。また、図10(A)に示す中凹みの曲線の状態と、図10(B)に示すうねり形状の状態は共に、加熱炉抽出時に求められる鋳片の温度分布の条件を満たしており、更に従来の操業に比べ、鋳片を加熱する際に使用されるエネルギー量が小さいことを確認した。
なお、評価指標(A)、評価指標(B)、評価指標(C)は、数値で表されるので、統計管理に都合がよい。
【0047】
図11は、“うねり状昇温”の発生比率を示す図であり、加熱炉13で加熱された鋳片10の全数に対して、”うねり状昇温”が発生した鋳片10の比率を示している。
横軸は時間軸で月を示し、縦軸は、“うねり状昇温”の発生率を示している。ここでいう“うねり状昇温”と認定される分類は、鋳片10が加熱されて、抽出位置における鋳片10の長手方向の温度分布がうねり形状になった状態のものであり、これまで述べたような鋳片10の温度分布のパターンにおいて所定の特徴部を備える形状を便宜上分類して決めている。この“うねり状昇温”と認定される分類は、評価指数を用いて適正な炉温コントロールを行うことによって達成することができる。
【0048】
以下、時系列に従い、具体的な施策及び結果を示す。基本的な考え方は、東側エリア16を基準に西側エリア17は低く炉内温度を設定することである。
5月:三次元温度計算モデルにより操業中の状態である。その結果、全体の10%程度の“うねり状昇温”が発生している。
6月:上記に加えて、西側エリア17の炉温度を低減するために、加熱帯14及び均熱帯15の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より10℃低い状態を15℃低いように拡大した(5℃拡大)。そして、下旬より加熱帯14の西側エリア17のみをさらに15℃低い状態より20℃低い状態に拡大した(5℃拡大)。その結果、52%程度の比率で“うねり状昇温”が発生している。
【0049】
7月:下旬より、加熱帯14の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より25℃低い状態(5℃拡大)に、均熱帯15の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より20℃低い状態(5℃拡大)にして運用した。その結果、61%程度の“うねり状昇温”が発生している。
8月:加熱帯14の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より30℃低い状態にした(5℃拡大)。その結果、63%程度の“うねり状昇温”が発生している。
9月:加熱帯14の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より40℃低い状態にした(10℃拡大)。その結果、78%程度の“うねり状昇温”が発生している。
10月:最終的には、加熱帯14の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より40℃低い状態で、均熱帯15の西側エリア17の炉温設定を東側エリア16より20℃低い状態にして操業した。結果として、80%程度の“うねり状昇温”が発生している。
【0050】
このように、月を追うごとに“うねり状昇温”の発生比率が増加し、省エネ効果が向上しているのが分かる。
ここで、東側エリア16に対する西側エリア17の炉温の低下幅を、10月時の操業条件以上に拡大させると、抽出位置において、元来温度の高い鋳片10の西側エリア17にある部分が東側エリア16にある部分より低温になりすぎることがあるのを確認した。
また、装入側から抽出側にかけて鋳片10の長さと鋳片10の三次元温度計算に対応した長手方向の断面平均温度との関係は、鋳片10の表面温度及び鋳造条件から求めることができる。なお、鋳片の表面温度は、周知の放射温度計で測るのが好ましい。
【0051】
従って、求められた鋳片10の長さと鋳片10の三次元温度計算に対応した長手方向の断面平均温度との関係を基に上部バーナー18及び下部バーナー19の火力を調整し、評価指標(B)を−15℃〜+15℃、評価指標(C)を−10℃〜+20℃に逐次制御することが本発明のポイントとなる。そして、この制御によって、消費エネルギーを抑制した上で、抽出位置における鋳片が求められる温度を備えた状態にする鋳片の加熱が可能となる。
この評価指標(B)を−15℃〜+15℃、評価指標(C)を−10℃〜+20℃にする制御は、鋳片10の中心位置を基準に他側(西側エリア17にある部分)にあるバーナー(上部バーナー18及び下部バーナー19)の一部を、他側にある他のバーナーや一側(東側エリア16にある部分)にあるバーナーと比較して火力を落とすことによってなされる。
【0052】
図12は、三次元温度計算モデルでの評価指数と“うねり状昇温”の省エネ効果を示す関係図である。
図12には、図11を用いて説明した施策を5月(対策前)、6月(一次対策後)、9月(二次対策後)に行った際の結果が表に示され、各月ごとに、操業指標として評価指標(A)、評価指標(B)及び評価指標(C)を採用したときの結果が示されている。
各表中の棒グラフは、熱処理(加熱)されるそれぞれの鋳片10に対し、“中凹み昇温”の発生頻度と“うねり状昇温”の発生頻度をそれぞれ表している。そして、横軸は、東側エリア16の炉温に対して西側エリア17の炉温との差を算出して得た評価値(単位は温度)を示している。横軸の数値Xの部分は、評価幅が”(X―5)〜X”であることを示し、例えば“0”の部分は、“−5〜0”であり、“10”の部分は“5〜10”である。このように、5℃のステップ幅を有している。
【0053】
つまり、表中の各棒は、抽出位置において鋳片10の、各評価指標で定義された東側エリア16にある部分の温度と西側エリア17にある部分の温度差(評価指標(A)では、鋳片10の東側エリア16にある部分の最低温度と西側エリア17にある部分の最低温度の差)が、(X−5)℃〜X℃の範囲にあることを示している。
また、三次元温度計算モデルでの操業の結果、全本数に対する“中凹み昇温”の発生数と“うねり状昇温”の発生数を棒グラフで示している。この図からわかるように、全体として“うねり状昇温”の比率が月を追うごとに上昇している評価指標(B)、(C)に着目すると、横軸の−10から+10の目盛りでの評価値が、特に月を追って、“うねり状昇温”の比率が上昇してきているのがわかる。
そして、図12中の表が示す結果を基に、
評価指標(B)について、一方側の(断面)平均温度と他方側の(断面)平均温度との差を−15℃〜+15℃の間として、
評価指標(C)について、一方側の(断面の)最低温度と他方側の(断面)平均温度との差を−10℃〜+20℃に制御する操業を管理することで、“うねり状昇温”の比率が上昇し省エネ効果が達成されてきていることがわかる。
【0054】
図13は、燃料原単位低減結果を示す図である。
横軸は、時間軸で月を示し、縦軸は、加熱炉13の加熱燃料原単位を示し、対策前を100%としている(SM:サイジングミルを示す)。図13に示すように、月ごとに燃料原単位が低減されて、最終的には計画2%低減に対して、10月の実績では9%の大幅な低減を達成している。このように、“中凹み昇温”と“うねり状昇温”を発生させることに関連して、予想以上の燃料原単位低減の効果が発揮されている。
【0055】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例、例えば熱延鋼板や厚板等の圧延される熱片鋼片のように、温度分布を有する鋼片も含むものである。
【符号の説明】
【0056】
10:鋳片、11:CCカッター、12:搬送テーブル、13:加熱炉、14:加熱帯、15:均熱帯、16:東側エリア、17:西側エリア、18:上部バーナー、19:下部バーナー、20:燃料パイプ、21:温度計、22:ノーズ部、23:天井
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から他端にかけて高くなる傾斜温度分布を有する鋳片を長手方向を横にして、前記鋳片の上下それぞれに加熱炉の幅方向に沿って複数配置されたバーナーを備えた該加熱炉に入れる鋳片の加熱方法であって、
前記鋳片の表面温度及び鋳造条件から、前記鋳片の長さと前記鋳片の三次元温度計算に対応した長手方向の断面平均温度との関係を装入側から抽出側にかけて求め、
前記鋳片の中心位置を基準にして前記バーナーの火力を制御して、1)前記鋳片の中心位置を基準にして抽出位置における長手方向一側の平均温度と他側の平均温度の差を−15℃〜+15℃の間とし、2)一側の最低温度と他側の平均温度との差を−10℃〜+20℃に逐次制御することを特徴とする鋳片の加熱方法。
【請求項2】
請求項1記載の鋳片の加熱方法において、前記バーナーの制御は、幅方向他側に設けられている前記バーナーの一部の火力を落として行うことを特徴とする鋳片の加熱方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の鋳片の加熱方法において、前記加熱炉は前記鋳片の装入側から抽出側に向かう進行方向に沿って複数の炉帯に分けられ、前記炉帯毎に前記バーナーの群が設けられていることを特徴とする鋳片の加熱方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の鋳片の加熱方法において、前記鋳片の抽出側の温度分布は、長手方向一方側の中央部付近に山が、他方側の中央部付近に谷が形成されたうねり形状であることを特徴とする鋳片の加熱方法。
【請求項1】
一端から他端にかけて高くなる傾斜温度分布を有する鋳片を長手方向を横にして、前記鋳片の上下それぞれに加熱炉の幅方向に沿って複数配置されたバーナーを備えた該加熱炉に入れる鋳片の加熱方法であって、
前記鋳片の表面温度及び鋳造条件から、前記鋳片の長さと前記鋳片の三次元温度計算に対応した長手方向の断面平均温度との関係を装入側から抽出側にかけて求め、
前記鋳片の中心位置を基準にして前記バーナーの火力を制御して、1)前記鋳片の中心位置を基準にして抽出位置における長手方向一側の平均温度と他側の平均温度の差を−15℃〜+15℃の間とし、2)一側の最低温度と他側の平均温度との差を−10℃〜+20℃に逐次制御することを特徴とする鋳片の加熱方法。
【請求項2】
請求項1記載の鋳片の加熱方法において、前記バーナーの制御は、幅方向他側に設けられている前記バーナーの一部の火力を落として行うことを特徴とする鋳片の加熱方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の鋳片の加熱方法において、前記加熱炉は前記鋳片の装入側から抽出側に向かう進行方向に沿って複数の炉帯に分けられ、前記炉帯毎に前記バーナーの群が設けられていることを特徴とする鋳片の加熱方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の鋳片の加熱方法において、前記鋳片の抽出側の温度分布は、長手方向一方側の中央部付近に山が、他方側の中央部付近に谷が形成されたうねり形状であることを特徴とする鋳片の加熱方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−237028(P2012−237028A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105538(P2011−105538)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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