説明

鋳造品の検査方法

【課題】 高温状態にある鋳造品を迅速に検査することができる検査方法を提供する。
【解決手段】 鋳造品の検査方法であって、鋳造品を冷却するとともに、鋳造品表面において検査対象として定められた検査領域の温度低下量を検出する冷却ステップS8、S10を有していることを特徴とする検査方法。検出した温度低下量に基づいて、検査領域における欠陥の有無を特定することができる。また、この方法によれば、高温状態にある鋳造品を迅速に検査することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造品の検査方法に関する。特に、鋳造品の内部に異常があるか否かを推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鋳造品内部に渦電流を生じさせ、渦電流の分布や変化を検出することによって、鋳造品の欠陥を特定する技術が開示されている。ここでいう「欠陥」とは、典型的には鋳造品の強度が不足する箇所である。鋳造品の強度は、鋳巣やクラックの存在、或いは、その粒径の大きさに依存することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−91288号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
渦電流は、鋳造品の温度によって流れ方が変化する。このため、特許文献1の技術では、高温状態にある鋳造品の欠陥を正確に特定することができない。また、特許文献1の技術では、渦電流を検出するために鋳造品にプローブを取り付ける必要がある。高温状態にある鋳造品にプローブを取り付けることは通常はできない。以上の理由から、特許文献1の技術では、高温状態にある鋳造品の検査を行うことができない。したがって、特許文献1の技術では、型から取り出した鋳造品が冷却され、温度が安定した後でなければ、鋳造品を検査できない。検査のための冷却時間を短縮化することができれば、鋳造品の製造効率を向上させることができる。即ち、高温状態にある鋳造品の検査を迅速に行うことができれば、製造効率の向上が見込める。なお、「高温状態にある鋳造品」とは、典型的には、鋳造直後の鋳造品である。本明細書は、高温状態にある鋳造品を迅速に検査することができる検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する鋳造品の検査方法は、鋳造品を冷却するとともに、鋳造品表面において検査対象として定められた検査領域の温度低下量を検出する冷却ステップを有している。
【0006】
鋳造品において欠陥が生じている領域は、一般に、断熱性が高い(熱伝導率が低い)。このため、鋳造品を冷却する際に、内部に欠陥が存在する領域と欠陥が存在しない領域では、冷却時における温度低下量に差が生じる。欠陥が存在する領域では、欠陥によって熱伝導が阻害されるので、鋳造品の内部の熱が発散し難い。一方、欠陥が存在しない領域では、鋳造品の内部まで良く冷却される。このため、鋳造品全体を均一に冷却しても、局所的に見ると、欠陥が存在している領域は欠陥が存在していない領域よりも残存熱量が多い。別言すると、欠陥が存在する領域の表面は、欠陥が存在しない領域の表面に比べて、温度低下し難く、温度低下量が小さくなる。この検査方法では、鋳造品を冷却するとともに、検査領域の温度低下量を検出する。したがって、検出した温度低下量に基づいて、検査領域における欠陥の有無を特定することができる。また、検査領域(すなわち、鋳造品表面)の温度は、サーモグラフィ装置等によって非接触で検出することができる。すなわち、上記の温度低下量は、非接触で検出することができる。また、この検査方法では、鋳造品を冷却する必要があるが、鋳造品がある程度冷却されればよく、従来の検査方法のように鋳造品の温度が安定するまで冷却する必要はない。したがって、この検査方法によれば、高温状態にある鋳造品を迅速に検査することができる。なお、上記の温度低下量は、冷却の前後において検査領域の温度を検出することにより算出してもよい。また、冷却前の検査領域の温度が既知である場合には、冷却後の検査領域の温度のみを検出することでも上記温度低下量を検出することができる。
【0007】
上述した検査方法は、冷却ステップの後に、検査領域を局所的に加熱するとともに、検査領域の温度上昇速度を検出する局所加熱ステップをさらに有していることが好ましい。
【0008】
鋳造品表面を局所加熱すると、その鋳造品表面の温度が上昇する。このとき、内部に欠陥が存在する領域と欠陥が存在しない領域では、加熱時における温度上昇量に差が生じる。内部に欠陥が存在する領域では、事前に行われた冷却ステップ後において、欠陥が存在しない領域に比べて鋳造品内部に残っている熱量が多い(すなわち、鋳造品内部が高温に維持されている)。このため、内部に欠陥が存在する鋳造品の表面では、局所加熱時に温度上昇量が大きくなる。一方、内部に欠陥が存在しない鋳造品の表面では、事前に行われた冷却ステップにおいて鋳造品内部まで冷却されている。したがって、欠陥が存在しない領域の鋳造品表面では、局所加熱時に温度上昇量が小さくなる。上述した検査方法では、冷却ステップの後に、検査領域を局所的に加熱するとともに、検査領域の温度上昇量を検出する。検出した温度上昇量から、検査領域における欠陥を特定することができる。また、この検査方法では、検査領域を局所的に加熱する。局所的な加熱によれば、冷却ステップにおける冷却よりも急激に検査領域の温度を変化させることができる。このように、検査領域の温度をより急激に変化させてその温度変化量を特定することで、より正確に欠陥を特定することが可能となる。
【0009】
上述した検査方法は、冷却ステップで、鋳造品を水没させることによって鋳造品を冷却することが好ましい。そのような構成によれば、鋳造品を簡単に冷却させることができる。
【0010】
上述した検査方法は、検査領域を叩くことで生じる音の周波数を検出するステップをさらに有することが好ましい。また、上述した検査方法は、検査領域を叩くことで生じる音の減衰率を検出するステップをさらに有することが好ましい。
【0011】
鋳造品を叩くことで生じる音の周波数は、叩いた部分の粗材の構造特性に応じて変化する。粗材の結晶粒径が小さい場合には、叩くことで生じる音の周波数は高くなる。したがって、検査領域を叩くことで生じる音の周波数を検出することで、検査領域の粗材の異常(欠陥)を特定することができる。また、鋳造品を叩くことで生じる音は、叩いた部分にクラック等の欠陥があると、早く減衰する。したがって、検査領域を叩くことで生じる音の減衰率を検出することで、検査領域の粗材の異常を特定することができる。これらの音による検査と上述した温度低下量による検査を組み合わせて用いることで、より精密な検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】粗大構造の粗材の内部構造を示す模式的な断面図。
【図2】緻密構造の粗材の内部構造を示す模式的な断面図。
【図3】二層構造の粗材の内部構造を示す模式的な断面図。
【図4】クラック状の欠陥108を有する粗材の内部構造を示す模式的な断面図。
【図5】鋳巣110を有する粗材の内部構造を示す模式的な断面図。
【図6】実施例の検査方法を示すフローチャート。
【図7】実施例の検査方法を示すフローチャート(図6の続き)。
【図8】熱放射による赤外線A1と反射による赤外線A2の説明図。
【図9】各領域の温度T0、温度差ΔT、マスタ温度差ΔTMを示す表。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、実施例に係る検査方法の特徴を列記する。
(特徴1)実施例は、繊維状カーボンが塗布されたキャビティ面を用いて鋳造されたダイカスト品(鋳造品)を検査する方法に関する。
(特徴2)ダイカスト品の表面に複数の検査領域が定められている。
(特徴3)検査領域毎に、冷却時の通常の温度低下量が定められている。なお、「通常時の温度低下量」とは、予め定められた品質基準に合格した鋳造品の温度低下量を意味する。
(特徴4)検査領域毎に冷却時の温度低下量を検出する。そして、検査領域毎に、検出した温度低下量と通常時の温度低下量とを比較する。
(特徴5)冷却ステップでは、予め決められた時間だけダイカスト品を冷却する。冷却時間が決まっているので、上述した温度低下量は、温度低下速度に等価である。
(特徴6)検査領域毎に、局所加熱時の通常の温度上昇量が定められている。なお、「通常時の温度上昇量」とは、予め定められた品質基準に合格した鋳造品の温度上昇量を意味する。
(特徴7)検査領域毎に局所加熱時の温度上昇量を検出する。そして、検査領域毎に、検出した温度上昇量と通常時の温度上昇量とを比較する。
(特徴8)局所加熱ステップでは、予め決められた時間だけ検査領域を加熱する。加熱時間が決まっているので、上述した温度上昇量は、温度上昇速度に等価である。
【実施例】
【0014】
実施例の検査方法では、ダイカスト品を検査する。最初に、検査対象のダイカスト品について説明する。実施例の検査方法で検査するダイカスト品は、Al(アルミニウム)に少量の他種金属(Cu、Si、Mg等)を添加した合金の溶湯を金型内に流し込み、溶湯を凝固させることによって製造される。溶湯が凝固する際には、まず、溶湯内で初晶が析出する。溶湯の温度が低下するに従って、初晶の数が増大するとともに、各初晶の粒径が増大する。さらに温度が下がると、初晶の周囲の溶湯が凝固して共晶となる。したがって、ダイカスト品の粗材の内部には、多数の初晶が存在している。初晶の粒径は、溶湯を冷却する際の冷却速度等によって変化する。一般に、溶湯が急速に冷却されるほど、初晶の粒径は小さくなる。初晶の粒径が小さいほど、ダイカスト品の粗材の強度が向上する。
【0015】
この実施例の検査方法で検査するダイカスト品は、キャビティ面に繊維状カーボン(カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等)が塗布された金型を用いて製造される。繊維状カーボンを用いたアルミダイカスト法の詳細については、日本特許公開公報第2010−131651号を参照されたい。繊維状カーボンは、キャビティ面の一部にのみ塗布される。繊維状カーボンが塗布されるキャビティ面は、ダイカスト品のうち特に強度が必要な部分を成形する面である。また、キャビティ面には、繊維状カーボンが塗布されていない面も存在する。繊維状カーボンが塗布されていない面には、断熱材に覆われている面と、繊維状カーボンと断熱材の何れにも覆われていない面が含まれている。キャビティ面の種類によって、溶湯の冷却過程は異なる。以下に、キャビティ面の種類毎に溶湯の冷却過程を説明する。
【0016】
最初に、断熱材に覆われているキャビティ面について説明する。ゲート近傍のキャビティ面は、断熱材により被覆されている。このため、この領域では、溶湯から金型に熱が伝わり難い。すなわち、溶湯が冷却され難い。したがって、ゲートの近傍で溶湯が流れ易く、溶湯をキャビティ全体に行き渡らせることができる。キャビティへ溶湯を充填した後の溶湯を冷却する段階においては、この領域では、溶湯が緩やかに冷却される。したがって、この領域で凝固した粗材では、図1に示すように、初晶100の粒径が全体的に大きくなる。この場合、初晶の粒径は12μm以上となる。以下では、図1に示すように初晶の粒径が大きい粗材の構造を、粗大構造という。粗大構造の粗材は、強度が低い。したがって、ダイカスト品のうちの強度がそれほど必要とされない箇所のみが粗大構造となるように、金型のゲートの位置等は考慮されている。このように、通常は、ダイカスト品のうちの強度がそれほど必要とされない箇所のみが粗大構造となるが、鋳造時に異常が生じた場合には、その他の箇所が粗大構造となるおそれがある。粗大構造の粗材は、内部にクラックや鋳巣等の欠陥が存在しない限り、熱伝導率が高い。したがって、粗大構造の粗材を表面側から加熱または冷却すると、粗材の内部まで温度変化し易い。
【0017】
次に、繊維状カーボンに覆われているキャビティ面について説明する。キャビティ内に溶湯を流入させている間は、キャビティ面上の繊維状カーボンの熱伝導率が低い。このため、溶湯から金型に熱が伝わり難く、溶湯が流れ易い。キャビティが溶湯で満たされると、キャビティ面上の繊維状カーボンに高い圧力が加わって繊維状カーボンの熱伝導率が上昇する。これによって、溶湯から熱が奪われ、溶湯が凝固する。このように、繊維状カーボンに覆われているキャビティ面の近傍の領域では、キャビティが溶湯で満たされたタイミングから、この領域の溶湯全体が急速に冷却される。したがって、この領域で凝固した粗材は、図2に示すように、初晶100の粒径が小さくなる。この場合、初晶の粒径は、表面側の領域で5μm未満となり、内部側に向かうほど初晶の粒径が増大するが、最も内部の領域でも初晶の粒径は12μm未満となる。以下では、図2に示すように初晶100の粒径が小さい構造を、緻密構造という。緻密構造の粗材は強度が高い。緻密構造の粗材は、内部にクラックや鋳巣等の欠陥が存在しない限り、熱伝導率が高い。したがって、緻密構造の粗材を表面側から加熱または冷却すると、粗材の内部まで温度変化し易い。
【0018】
次に、繊維状カーボンや断熱材に覆われていないキャビティ面について説明する。キャビティ面が断熱性の部材に覆われていないので、この領域では溶湯から金型に熱が伝わり易い。このため、キャビティ内に溶湯を流入させ始めた段階で、キャビティ面上で溶湯が冷却されて凝固する。その後、キャビティ内が溶湯で満たされると、キャビティ面から離れた位置の溶湯からも徐々に熱が奪われて、溶湯全体が凝固する。このように、この領域では、キャビティ面上では急速に溶湯が冷却されて、キャビティ面から離れた位置では溶湯が緩やかに冷却される。したがって、この領域で凝固した粗材は、図3に示すように、表面側の領域102では初晶100の粒径が小さいが、内部の領域104では初晶100の粒径が大きくなる。この場合、初晶の粒径は、表面側の領域102で5μm未満となるが、内部側の領域104では12μm以上となる。以下では、図3に示すように初晶の粒径が表面側の領域より内部側の領域で極端に大きくなっている構造を、二層構造という。二層構造の粗材は、緻密構造の粗材よりは強度が低い。緻密構造の粗材では表面側の領域102と内部側の領域104との境界106で初晶の粒径が極端に変化しており、この境界106が断熱層となる。したがって、二層構造の粗材を表面側から加熱または冷却すると、境界106により熱伝導が阻害されるため、粗材の内部(すなわち、内部側の領域104)の温度が変化し難い。
【0019】
また、ダイカスト品の内部には、種々の欠陥が生じる場合がある。図4に示すように、ダイカスト品の表面のごく近傍には、層状に伸びるクラック状の欠陥108が生じる場合がある。クラック状の欠陥108は、断熱層となる。したがって、クラック状の欠陥108が存在している箇所の粗材を表面側から加熱または冷却すると、欠陥108により熱伝導が阻害されるため、粗材の内部の温度が変化し難い。
【0020】
また、図5に参照番号110で示すように、ダイカスト品の内部には、鋳巣と呼ばれる空洞欠陥が形成されることがある。鋳巣110は断熱層となる。したがって、鋳巣110が存在している箇所の粗材を表面側から加熱または冷却すると、鋳巣110によって熱伝導が阻害されるため、粗材の内部(すなわち、鋳巣110よりも内部側の領域)が温度変化し難い。但し、鋳巣はサイズが小さい場合が多い。サイズが小さい鋳巣は、粗材の温度変化に与える影響は小さい。
【0021】
次に、実施例の検査方法について説明する。実施例の検査方法を行う対象である検査領域は、予め決められている。検査領域は、ダイカスト品の表面において複数個所定められている。以下では、3つの検査領域B1〜B3が存在しているとして説明する。この検査方法では、図6、7に示すフローチャートに従って各工程が行われる。
【0022】
ステップS2では、金型から取り出された直後でまだ高温のダイカスト品を、サーモグラフィ装置によって撮影する。ダイカスト品は、金型の内部で冷却されて約200〜300℃の範囲内で温度が分布するようになった段階で金型から取り出される。ダイカスト品が金型から取り出された後に、ダイカスト品の内部で熱伝導が起きて、ダイカスト製品における温度分布がより均一化する。このときのダイカスト品の温度は、約200〜250℃となる。すなわち、金型から取り出された直後のダイカスト品では、約200〜250℃の範囲内で温度が略均一に分布している。図8に示すように、サーモグラフィ装置120は、ダイカスト品111から赤外線を検出する。これによって、サーモグラフィ装置120は、ダイカスト品111の表面における赤外線強度分布を示す画像を出力する。なお、本実施例では、汎用のサーモグラフィ装置を用いている。このため、サーモグラフィ装置は、検出された赤外線強度を温度に換算した温度分布を示す画像を出力する。しかし、後述するように、サーモグラフィ装置により検出される赤外線には、ダイカスト品の温度と相関する赤外線A1(ダイカスト品の熱放射による赤外線)の他に、温度と相関がない赤外線A2(反射による赤外線)が含まれている。したがって、サーモグラフィ装置により出力されるデータは、正確には、温度分布を示しているというより、赤外線強度分布を任意単位で示しているといえる。ステップS2で検出される赤外線強度分布には、検査領域B1〜B3の赤外線強度と、後述する擬似黒体部の赤外線強度が含まれている。
【0023】
ステップS4では、ステップS2で検出された赤外線強度分布から、擬似黒体部の赤外線強度を特定する。「擬似黒体部」とは、ダイカスト品の表面のうちで熱放射赤外線比率が高い部分に付した呼び名である。擬似黒体部について以下に説明する。図8に示すように、ダイカスト品111からの赤外線(すなわち、サーモグラフィ装置120により検出される赤外線)には、ダイカスト品111からの熱放射により生じる赤外線A1と、外部からダイカスト品111に到達した赤外線A3がダイカスト品111の表面で反射することで生じる赤外線A2が含まれている。ダイカスト品111からの赤外線のうちの熱放射による赤外線A1の割合が熱放射赤外線比率である。ダイカスト品111に形成されている凹部112内には、外部からの赤外線A3がほとんど到達しない。したがって、凹部112内からは反射による赤外線A2がほとんど生じない。このため、凹部112内の熱放射赤外線比率は、略100%である。熱放射赤外線比率が100%である物質は、一般に、黒体と呼ばれる。凹部112内は、熱放射赤外線比率が略100%であるので、ここでは擬似黒体部という。ステップS4で赤外線強度を検出する擬似黒体部は、予め決められている。本実施例では、サーモグラフィ装置120による撮影範囲のうちで最も熱放射赤外線比率が高い領域が、擬似黒体部として予め定められている。
【0024】
ステップS6では、ステップS2で検出された赤外線強度分布と、ステップS4で特定された擬似黒体部の赤外線強度から、ダイカスト品の表面における熱放射赤外線比率分布を算出する。そして、算出した熱放射赤外線比率分布から、検査領域B1〜B3の熱放射赤外線比率を特定する。ここで、上述したように、擬似黒体部から出る赤外線の略全ては、熱放射による赤外線である。一方、擬似黒体部以外のダイカスト品の表面から出る赤外線には、熱放射による赤外線と反射による赤外線が含まれている。また、金型から取り出した直後のダイカスト品では、200〜250℃の範囲で略均一に温度が分布している。したがって、擬似黒体部以外のダイカスト品の表面から熱放射により放出される赤外線の強度は、擬似黒体部の赤外線強度と略等しい。このため、擬似黒体部の赤外線強度を所定の領域の赤外線強度で除算することで、その領域の熱放射赤外線比率を算出することができる。鋳造品表面の各部において熱放射赤外線比率を算出することで、ダイカスト品の表面の熱放射赤外線比率分布を得ることができる。即ち、擬似黒体部の赤外線強度を、赤外線強度分布の各位置における赤外線強度で除し、そうして新たに生成される分布が熱放射赤外線比率分布となる。得られた熱放射赤外線比率分布には、検査領域B1〜B3の熱放射赤外線比率が含まれている。したがって、熱放射赤外線比率分布から検査領域B1〜B3の熱放射赤外線比率を特定することができる。
【0025】
以上に説明したステップS4〜S6の一連の処理は、サーモグラフィ装置に接続された演算装置(図示省略)により実行される。後に説明されるサーモグラフィ装置の検出値を用いた演算も、この演算装置により実行される。
【0026】
ステップS8では、ダイカスト品を水没させる。ダイカスト品は、容器内に貯められた水の中に沈められる。これによって、ダイカスト品が冷却される。ダイカスト品を水没させた状態で予め決められた時間が経過したら、ダイカスト品を水中から引き上げる。そして、ダイカスト品の表面の水滴を除去する。
【0027】
ステップS10では、ステップS2と同様にして、ダイカスト品を、サーモグラフィ装置120によって撮影する。これによって、ダイカスト品の表面における赤外線強度分布を検出する。ステップS10で検出される赤外線強度分布には、検査領域B1〜B3の赤外線強度と擬似黒体部の赤外線強度が含まれている。
【0028】
ステップS12では、擬似黒体部と各検査領域B1〜B3の温度を算出する。擬似黒体部の温度は、ステップS10で検出された擬似黒体部の赤外線強度を温度に換算することで算出される。擬似黒体部は、熱放射赤外線比率が略100%であるので、ステップS10で検出された赤外線強度を直接温度に換算することができる。擬似黒体部は、本実施例の場合、200〜250℃の範囲内の何れかの温度となり、ダイカスト品の温度の代表点となる。一方、検査領域B1〜B3の温度は、以下のように算出される。まず、ステップS10で検出された各検査領域B1〜B3の赤外線強度に、ステップS6で算出した各検査領域B1〜B3の熱放射赤外線比率を乗算する。これによって、冷却後(ステップS10の実行時)において各検査領域B1〜B3で生じていた熱放射による赤外線強度が算出される。次に、算出された熱放射による赤外線強度を、温度に換算する。これによって、各検査領域B1〜B3の冷却後の温度が正確に算出される。上述したように、冷却前(金型から取り出した直後)のダイカスト品の温度は、200〜250℃の範囲内で略均一に分布している(すなわち、各検査領域の冷却前の温度が既知である)。したがって、冷却後の各検査領域B1〜B3の温度を算出することは、これらの領域の冷却工程における温度低下量を算出することに等しい。図9は、ステップS12で得られる各領域の温度T0を例示している。なお、検査領域B1は、二層構造となるべき箇所であり、検査領域B2、B3は、緻密構造となるべき箇所である。図9に示すように、二層構造となるべき検査領域B1では、通常は、緻密構造となるべき検査領域B2、B3よりも冷却後の温度T0が高くなる(すなわち、温度低下量が小さくなる)。
【0029】
ステップS14では、図9に示すように、各検査領域B1〜B3と擬似黒体部との温度差ΔTを算出する。
【0030】
ステップS16では、ステップS14で各検査領域B1〜B3について算出した温度差ΔTを、マスタ温度差ΔTMと比較する。マスタ温度差ΔTMは、各検査領域について予め定められている。各検査領域のマスタ温度差ΔTMは、図9に示されている。マスタ温度差ΔTMは、各検査領域B1〜B3の通常時の温度差ΔTを定めたものである。なお、通常時の温度差ΔTとは、予め定められた品質基準に合格したダイカスト品で得られる温度差ΔTを意味する。当然、予め定められた品質基準に合格したダイカスト品の温度差を計測する際、検査対象のダイカスト品の温度差を計測する場合と同じ条件(冷却前の温度や冷却条件)の下で温度差を計測する。
【0031】
温度差ΔTがマスタ温度差ΔTMよりも小さいことは、その検査領域が通常よりも冷えていることを意味し、温度差ΔTがマスタ温度差ΔTMよりも大きいことは、その検査領域が通常よりも冷えていないことを意味する。二層構造となるべき検査領域B1の温度差ΔTがマスタ温度差ΔTMよりも極端に大きい場合(通常よりも冷えていない場合)には、検査領域B1の内部に、二層構造の境界部(図3の境界106)よりも断熱性が大きい欠陥(例えば、クラック状の欠陥や鋳巣)が存在していると考えられる。また、緻密構造となるべき検査領域B2、B3の温度差ΔTがマスタ温度差ΔTMよりも極端に大きい場合(通常よりも冷えていない場合)には、検査領域B2、B3の粗材が二層構造になっているか、または、検査領域B2、B3の内部に断熱性が大きい欠陥が存在していると考えられる。緻密構造となるべき検査領域B2、B3は強度が求められる箇所であるので、検査領域B2、B3が二層構造となっていると強度不足となるおそれがある。このように、緻密構造となるべき領域が二層構造となっていることは、欠陥の一つと考えることができる。ステップS16では、各検査領域の温度差ΔTをマスタ温度差ΔTMと比較することで、各検査領域における欠陥の有無を判定する。例えば、図9の例では、温度差ΔTとマスタ温度差ΔTMの差が10℃以上である場合に、異常あり(その検査領域に欠陥がある)と判定される。検査領域B1、B3では、温度差ΔTがマスタ温度差ΔTMと近い。したがって、検査領域B1、B3は異常なしと判定される。一方、検査領域B2は、温度差ΔTがマスタ温度差ΔTMよりも26℃高い。このため、検査領域B2は、異常ありと判定される。
【0032】
なお、ステップS16では、ステップS12で算出した温度(摂氏温度)ではなく、ステップS14で算出した温度差ΔTに基づいて欠陥の有無を判定している。温度差ΔTは、擬似黒体部に対する検査領域の相対温度を示している。このように、温度差ΔTに基づいて欠陥を特定するのは、各工程の条件のばらつきによってダイカスト品全体の温度が高くなったり低くなったりすることがあるためである。温度差ΔTを用いることで、このダイカスト品全体の温度のばらつきの影響を排除して欠陥を特定することができる。ただし、ダイカスト品全体の温度のばらつきがそれほど生じない環境で検査を行う場合には、温度差ΔTではなく、温度T0を用いて検査を行ってもよい。
【0033】
また、ステップS8でダイカスト品を水中から引き上げてからステップS10でダイカスト品をサーモグラフィ装置で撮影するまでの間に、水滴の除去等を行う必要がある。このため、ダイカスト品を水中から引き上げてからサーモグラフィ装置による撮影を行うまでの時間間隔はある程度長くなる。このため、この間にダイカスト品の表面の温度分布が均質化し、欠陥に起因する温度差が消失する場合がある。このため、ステップS16では、比較的大きい欠陥を特定することはできるが、小さい欠陥を特定することは難しい。したがって、この検査方法では、ステップS16に引き続いてステップS18以降の処理を実施する(図7)。
【0034】
ステップS18では、サーモグラフィ装置120で撮影しながら、ハロゲンヒータ等によって各検査領域B1〜B3を局所的に加熱する。局所加熱は、予め決められた時間だけ行う。そして、サーモグラフィ装置120によって、各検査領域B1〜B3の局所加熱の前後における赤外線強度の変化量を検出する。ステップS18は、検査領域B1〜B3毎に行う。次に、ステップS20で、ステップS18で検出した各検査領域B1〜B3の赤外線強度の変化量と、ステップS6で算出した各検査領域B1〜B3の熱放射赤外線比率から、ステップS18の局所加熱の前後における各検査領域B1〜B3の温度上昇量を算出する。
【0035】
ステップS22では、ステップS20で算出した各検査領域B1〜B3の温度上昇量を、マスタ温度上昇量と比較する。マスタ温度上昇量は、各検査領域について予め定められている。マスタ温度上昇量は、各検査領域B1〜B3においてステップS20で通常時に得られる温度上昇量を定めたものである。なお、通常時の温度上昇量とは、予め定められた品質基準に合格したダイカスト品で得られる温度上昇量を意味する。
【0036】
温度上昇量がマスタ温度上昇量よりも小さいことは、その検査領域が通常よりも温度上昇していないことを意味し、温度上昇量がマスタ温度上昇量よりも大きいことは、その検査領域が通常よりも温度上昇していることを意味する。二層構造の粗材や断熱性の欠陥が存在する粗材では、冷却工程で内部が冷却され難いので、局所加熱工程の開始時において粗材の内部が高温に維持されている。したがって、このような粗材の表面領域は、ステップS18の局所加熱において表面側と内部側の両方から加熱される。このため、粗材の表面が急速に温度上昇する。したがって、このような粗材は、温度上昇量が大きくなる。各検査領域の温度上昇量をマスタ温度上昇量と比較することで、各検査領域内における欠陥の有無を判定することができる。
【0037】
上述したように、ステップS16で通常よりも温度低下が小さい検査領域は、二層構造の領域か、クラック状の欠陥が存在する領域か、鋳巣が存在する領域である。このステップS16で通常よりも温度低下が小さい検査領域が、ステップS22で通常よりも温度上昇が大きい場合には、その検査領域は、二層構造の領域か、クラック状の欠陥が存在する領域であると考えられる。また、ステップS16で通常よりも温度低下が小さい検査領域が、ステップS22で通常と同定度に温度上昇する場合には、この検査領域は、鋳巣が存在する領域であると考えられる。このように、二層構造及びクラック状の欠陥と、鋳巣とで温度上昇量に差が生じるのは、二層構造及びクラック状の欠陥は面状に広がるため広い範囲に断熱の影響が及ぶのに対し、鋳巣は点状の欠陥であるため、鋳巣の周囲を通じて粗材の表面側と内部側とで熱が伝導し易いためである。また、検査領域に鋳巣が存在する場合には、サーモグラフィ装置の出力画像に円形の模様が見える場合もある。このように、ステップS16で欠陥があることが特定された領域においては、ステップS22でその欠陥が鋳巣であるのか、他の欠陥であるのかを判別することができる。
【0038】
また、ステップS16で温度低下が通常と同程度である検査領域は、緻密構造の領域か粗大構造の領域である。但し、二層構造の領域でも、表面側と内部側とで初晶の粒径の差が小さければ、ステップS16で温度低下が通常と同程度であると判定される場合がある。したがって、ステップS16で温度低下が通常と同程度である検査領域には、二層構造の領域が含まれる場合がある。ステップS16で温度低下が通常と同程度である検査領域が、ステップS22で通常よりも温度上昇が大きい場合には、その検査領域は二層構造の領域であると考えられる。ステップS22で通常と同程度に温度が上昇する場合には、その検査領域は緻密構造から粗大構造の領域であると考えられる。このように、ステップS16で二層構造として特定できない検査領域をステップS22で二層構造として特定できるのは、ステップS18における局所加熱ではステップS8における冷却よりも急激に温度変化するためである。このように、局所加熱により検査領域を急激に加熱することで、断熱性の差により生じる温度上昇量の差をより正確に検出することができ、より正確に二層構造を特定することができる。
【0039】
以上に説明したように、ステップS22までの処理で、かなり高い精度で欠陥を特定できる。しかし、ステップS22までの処理では、検査領域が、緻密構造であるか粗大構造であるかを判別することができない。また、ステップS22までの処理では、検査領域が、二層構造であるか、クラック状の欠陥が存在する領域であるかを判別することができない。したがって、本実施例の検査方法では、さらに以下のステップを実行する。
【0040】
ステップS24では、各検査領域を鉄球等の打撃手段で叩き、これによって生じた音を集音マイクにより検出する。さらに、マイクに接続されている演算装置によって、マイクで検出された波形を周波数解析する。これによって、ダイカスト品の固有振動数を検出する。さらに、音の減衰率を検出する。また、この演算装置は、検出された周波数と減衰率に基づいて、各検査領域の良否を判定する。
【0041】
叩くことで生じる音の波形を周波数解析すると、通常は、3つの周波数でピーク(極大値)が得られる。本実施例の場合には、100Hz程度の低周波数領域と、1kHz程度の中周波数領域と、10kHz程度の高周波数領域で極大値が得られる。これらの周波数は、ダイカスト品毎に固有の振動数である。低周波数領域の固有振動数は、ダイカスト品の形状によって変化する。したがって、低周波数領域の固有振動数と予め決められた周波数(良品で得られる低周波数領域の固有振動数)との差を算出し、その差に基づいて、ダイカスト品が設計通りの形状であるか否かを判定することができる。中周波数領域の固有振動数は、叩いた領域の肉厚等によって変化する。中周波数領域の固有振動数が予め決められた周波数(良品で得られる中周波数領域の固有振動数)との差を算出し、その差に基づいて、叩いた領域が設計通りの肉厚であるか否かを判定することができる。また、中周波数領域の固有振動数は、粗材が二層構造である場合や、粗材中に鋳巣がある場合にも変化することがある。したがって、中周波数領域の固有振動数により、これらの有無を検査することもできる。高周波数領域の固有振動数は、叩いた領域の粗材の内部の結晶の粒径によって変化する。粗材の内部の結晶の粒径が大きければ、高周波数領域の固有振動数は低くなり、粗材の内部の結晶の粒径が小さければ、高周波数領域の固有振動数は高くなる。このため、叩いた領域が緻密構造や二層構造であれば、高周波数領域の固有振動数は高くなり、叩いた領域が粗大構造であれば、高周波数領域の固有振動数は低くなる。すなわち、高周波数領域の固有振動数と予め決められた周波数(良品で得られる高周波数領域の固有振動数)との差を算出し、その差に基づいて、叩いた領域が粗大構造であるか否かを判定可能である。上述した温度変化による検査では、緻密構造か粗大構造かを判別できないが、ステップS24でこれを判定することができる。
【0042】
また、叩くことで生じる音の減衰率は、叩いた領域内におけるクラックの有無によって変化する。クラックが生じている場合には、減衰率は大きくなり、クラックが生じていなければ、減衰率は小さくなる。したがって、減衰率を検出することで、検査領域近傍におけるクラックの有無を判別することができる。上述した温度変化による検査では、二層構造かクラック状の欠陥かを判別することができないが、ステップS24でこれを判別することができる。
【0043】
また、このように、固有振動数と音の減衰率に基づく判定を行う場合には、音圧が判定結果に影響することがない。したがって、ダイカスト品を叩くときの強さにばらつきが生じても、正確に判定をすることができる。
【0044】
なお、ステップS24は、ダイカスト品が完全に冷却されるより前(温度が安定するより前)に行う。このため、ステップS24を実行する際のダイカスト品の温度は、ダイカスト品の冷却速度や、ステップS24を実行するタイミング等によって変化する。上述した固有振動数や減衰率は、ダイカスト品の温度によっても変化する。すなわち、ステップS24で検出される固有振動数や減衰率には、ダイカスト品の温度によって大きな誤差が生じる。しかしながら、この温度による誤差は、ダイカスト品の温度が分かっていれば補正することができる。本実施例の検査方法では、ステップ18で各検査領域の温度を測定している。したがって、ステップS24では、温度による誤差を補正して正確に固有振動数及び減衰率による検査を行うことができる。
【0045】
以上に説明したように、本実施例の検査方法によれば、ダイカスト品の各部が、緻密構造であるか、二層構造であるか、粗大構造であるかを正確に特定することができる。さらに、この検査方法によれば、ダイカスト品の各部において、クラック、鋳巣等の欠陥の有無を検査することができる。また、この検査方法は、金型から取り出されたダイカスト品が冷却されて温度が安定するまで待つことなく、実行することができる。したがって、この検査方法をダイカスト品の製造ラインに適用しても、ダイカスト品を効率よく製造することができる。
【0046】
また、サーモグラフィ装置によれば、広範囲の赤外線強度分布を短時間で検出することができる。また、サーモグラフィ装置によれば、非接触でダイカスト品を検査することができる。すなわち、検査のためにダイカスト品に機器を設置する必要がない。したがって、短時間でダイカスト品を検査することができる。
【0047】
実施例の検査方法についての留意点を述べる。実施例では、鋳造品の温度が約200〜250℃の範囲内で分布している状態から冷却した。冷却前の鋳造品の温度は200〜250℃に限られないが、冷却前後の温度低下量に基づいて欠陥を判断するため、冷却前の鋳造品の温度は150℃以上であることが好ましい。即ち、冷却ステップは、金型から取り出し後の温度150℃以上の鋳造品を冷却することが好ましい。
【0048】
また、実施例の検査方法では、鋳造品の温度が約200〜250℃で分布している状態から冷却した。冷却前の温度が管理できない場合、冷却ステップに先立って、鋳造品表面において検査対象として定められた検査領域の温度を計測するステップを設けることも好適である。この場合、検査領域の温度を計測した後に冷却ステップを行い、次いで、冷却後の検査領域の温度を計測する。これによって、冷却前後の検査領域の温度低下量を算出する。
【0049】
図9のケースの場合、冷却前の温度がいずれの検査領域も200℃であったとすると、領域B1の温度低下量は、200℃−145℃=65℃である。領域B2の温度低下量は、200℃−73℃=127℃である。領域B3の温度低下量は、200℃−75℃=125℃である。このように、実施例では、冷却前の各検査領域の温度が既知であるので、冷却後の各検査領域の温度が、各検査領域の温度低下量に対応した値となる。また、実施例では、各検査領域の冷却後温度と黒体部の冷却後温度の差ΔTをマスタ温度差ΔTMと比較することで、検査領域の良否を判定した。温度差ΔTは、黒体部に対する相対的な検査領域の温度低下量に相当する。したがって、実施例の検査方法も、各検査領域の冷却前後の温度低下量に基づいて良否(即ち欠陥の有無)を判定していることになる。また、マスタ温度差ΔTMは、予め定められた品質基準に合格したダイカスト品で得られる温度低下量(基準温度低下量)に基づいて定められている。したがって、各検査領域の温度差ΔTをマスタ温度差ΔTと比較することで、各検査領域の良否を正確に判定することができる。
【0050】
なお、上述した実施例では、ステップS10において、音の周波数と減衰率を検出したが、粗材中における音の速度を検出してもよい。粗材中における音の速度は、粗材の内部構造によって変化する。したがって、検出される音の速度によって、粗材の内部構造に異常がないかを検査することができる。
【0051】
また、上述した実施例では、ステップS4で赤外線強度を検出する擬似黒体部が予め決められていた。この擬似黒体部は、以下のように決定することができる。まず、製造ラインで製造されたダイカスト品を用意し、このダイカスト品の凹部(擬似黒体部として使用できそうな箇所)内に熱電対を取り付ける。次に、ダイカスト品を恒温槽に入れて所定時間加熱する。次に、ダイカスト品を恒温槽から取り出し、サーモグラフィ装置によってダイカスト品の表面の赤外線強度分布を検出する。上述した通り、サーモグラフィ装置によれば、赤外線強度は、温度に換算した値として出力される。次に、熱電対により検出される温度と、サーモグラフィ装置により出力される温度との差が小さい箇所を特定する。このように、熱電対により検出される温度(実際の温度)とサーモグラフィ装置により出力される温度(赤外線強度から換算した温度)との差が小さくなる領域を、擬似黒体部としてステップS4で用いることができる。
【0052】
なお、上述した実施例では、検査領域の赤外線強度と、擬似黒体部の赤外線強度から、各検査領域の摂氏温度を算出した。しかしながら、各検査領域の温度は、その他の任意の単位を用いて表してもよい。例えば、誤差要因が少ない環境でサーモグラフィ装置による撮影を行うことができる場合には、検査領域における熱放射赤外線比率のばらつきが小さくなるので、熱放射赤外線比率を考慮することなくサーモグラフィ装置が検出する赤外線強度そのものを温度を示す値として用いてもよい。このような値でも、通常時の値(マスタ値)と比較することで、検査領域における欠陥の有無を検査することができる。
【0053】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0054】
100:初晶
108:欠陥
110:鋳巣
111:ダイカスト品
112:凹部
120:サーモグラフィ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造品の検査方法であって、
鋳造品を冷却するとともに、鋳造品表面において検査対象として定められた検査領域の温度低下量を検出する冷却ステップ、
を有していることを特徴とする検査方法。
【請求項2】
冷却ステップの後に、検査領域を局所的に加熱するとともに、検査領域の温度上昇量を検出する局所加熱ステップ、
をさらに有していることを特徴とする請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
冷却ステップでは、鋳造品を水没させることによって鋳造品を冷却することを特徴とする請求項1または2に記載の検査方法。
【請求項4】
検査領域を叩くことで生じる音の周波数を検出するステップをさらに有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項5】
検査領域を叩くことで生じる音の減衰率を検出するステップをさらに有することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−110910(P2012−110910A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260222(P2010−260222)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)