説明

鋳造用ケレン

【課題】溶着性改善のためのケレン表面の表面処理や表面加工が不要で、必要最低限の本数、設置面積にて、注湯の際に中子を支持するのに必要な強度と、溶融金属(溶湯)との溶着が容易な溶着性とをともに満たすことができる鋳造用ケレンを提供すること。
【解決手段】中子を支持する鋳造用ケレンにおいて、互いに間隔をあけて配置された複数の支持軸1aと、前記複数の支持軸1aの一方の端部同士を結合する一方端側の結合板1bAと、該複数の支持軸1aの他方の端部同士を結合する他方端側の結合板1bBとを有し、前記各支持軸1aが、軸長さ方向と直交する方向の断面の最大差し渡し長さDと、軸長さXとが、D≦2.5×√Xの関係を満足することを特徴とする鋳造用ケレン1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造に用いられる鋳型付属品であって、中子を支持する鋳造用ケレンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば円筒管のような中空部分を有するものを鋳造する際には、中空部分の形成に中子が使用される。この場合、中子の形状による制約や中子の強度が不足し、中子のみでは鋳型内に固定できないときには、中子を支持し固定するための鋳造用ケレン(以下、単にケレンともいう)と呼ばれる中子支持具が使用される。このケレンは、鋳造の際に鋳型内に注湯された溶融金属に鋳ぐるまれるため、鋳造前後にわたり中子を支える強度と、溶融金属との溶着性が良いことが必要とされる。
【0003】
従来、ケレンとして、図7(a)に示すように円柱状をなす1つの支持軸の両端部に小径の円錐台板を結合してなるもの、また、図7(b)に示すように円柱状をなす1つの支持軸の両端部に円板(円盤)を結合してなるもの(特開平6−31392号公報の従来技術として示された図10)、また、図7(c)に示すように断面コ字状に曲折されてなるもの(特開平6−31392号公報の従来技術として示された図11)等が知られている。ケレンの材質は、鉄などの金属が主に用いられ、鋳込まれる溶融金属と溶着しやすいように同じ組成のものが用いられており、また、鋳造後に溶融してなくなる樹脂製のもの(特開平6−31392号公報)なども用いられている。
【特許文献1】特開平6−31392号公報(段落[0007]、図10、図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケレンを用いて鋳造を行う場合、ケレンと注湯された溶融金属との界面に隙間などの未溶着部が存在すると、鋳造欠陥となり鋳物強度が低下するなどの問題が発生する。注湯された溶融金属とケレンとの溶着性を良くするためにはケレンの支持軸を細くして熱容量を小さくすることが有効であるが、ケレンの支持軸が細すぎると注湯の際に中子を支持するための強度が低下し、ケレンは必要な特性を満足できない。一方、反対にケレンの強度を高めるために支持軸を太くすると、熱容量が大きくなり溶着性が悪化する。なお、前記未溶着部については、鋳型内に設置されたケレンの両端部は鋳型と接触しているため、この付近では鋳型への抜熱により注湯された溶融金属の温度が低下するため、鋳型に近接したケレン両端部付近では溶着性が悪化し、ケレンと溶融金属の界面に未溶着の欠陥が発生しやすい。
【0005】
このため、強度と溶着性という相反する特性を満足するには適切なケレン形状の設計が必要であるが、現実にはまず強度特性を優先し、注湯の際に中子を支持するための強度から必要となるケレン形状を決定し、鋳造後のケレンの未溶着部分については後の工程で溶接補修等を実施せざるを得ないこととなっている。
【0006】
なお、支持軸が細くて溶着性の良いケレンを使用し、単にケレンの設置数を増やして全体の強度を確保したり、1箇所のケレン設置位置に、複数本のケレンをそれぞれ隣接させて並べて設置したりするやり方も考えられるものの、1つの鋳型に対して使用するケレンの設置数は、造型、機械加工及び溶接補修等のコストを考慮すると、できる限り少ないことが望ましく、前記のやり方は実用的でなく採用できないものである。
【0007】
また、強度低下を招くことなく溶着性を改善することを目的として、ケレン表面に亜鉛などの低融点金属メッキを施したり、表面積を増加させるべく支持軸表面に凹凸をつけたりして、注湯時のケレンの温度上昇を促進させて溶着性を向上することも考案されている。しかしながら、基本的にはケレンの熱容量は支持軸の外径寸法で決まるため、これらの表面処理による溶着性の改善効果は十分でなく、さらにこれらの表面処理や、凹凸加工などの表面加工に要するコスト上昇の点から、ケレン表面にこれらの表面処理や表面加工を施さなくてよいものが望ましい。
【0008】
そこで、本発明の課題は、溶着性改善のためのケレン表面の表面処理や表面加工が不要で、必要最低限の本数、設置面積にて、注湯の際に中子を支持するのに必要な強度と、溶融金属(溶湯)との溶着が容易な溶着性とをともに満たすことができるようにした、鋳造用ケレンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0010】
本発明による鋳造用ケレンは、中子を支持する鋳造用ケレンにおいて、互いに間隔をあけて配置された複数の支持軸と、前記複数の支持軸の一方の端部同士を結合する一方端側の結合板と、該複数の支持軸の他方の端部同士を結合する他方端側の結合板とを有し、前記各支持軸が、軸長さ方向と直交する方向の断面の最大差し渡し長さDと、軸長さXとが、D≦2.5×√Xの関係を満足することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明による鋳造用ケレンは、複数の支持軸を有し、一方端側に位置して鋳型に当接させる結合板によってこれらの支持軸の一方の端部同士を結合するとともに、他方端側に位置して中子に当接させる結合板によってこれらの支持軸の他方の端部同士を結合し、かつ、前記各支持軸が、軸長さ方向と直交する方向の断面の最大差し渡し長さDと、軸長さXとが、D≦2.5×√Xの関係を満足するように構成されている。したがって、前記のD≦2.5×√Xの関係を満足する複数の支持軸によって中子を支持するものであるから、各支持軸は支持軸単体の場合に溶融金属との溶着が容易な外径寸法とすることができ、これにより必要最低限の本数、設置面積にて、強度と溶着性の両方を満たすことができる。よって、溶着性改善のためのケレン表面の表面処理や表面加工を不要とし、従来とは違ってケレン両端部まで完全に溶着させることができて、鋳物製品の品質向上を図ることができ、また、ケレン未溶着部に係る溶接補修などの手直し作業をなくして製造コストを下げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態による鋳造用ケレンを示す図であって、その(a)は正面図、その(b)は平面図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態のケレン1は、互いに間隔をあけて配置された円柱形をなす4本の支持軸1aと、4本の支持軸1aの一方の端部同士を結合する一方端側の結合板1bAと、4本の支持軸1aの他方の端部同士を結合する正方形をなす他方端側の結合板1bBとにより構成されており、かつ、4本の支持軸1aは、ともに、軸長さ方向と直交する方向の断面の最大差し渡し長さである外径Dと、軸長さXとが、D≦2.5×√Xの関係を満たしている。
【0014】
この4本の支持軸1aと結合板1bA,1bBとの材質、つまりケレン1の材質は鋳造しようとしている鋳造品と同じく鋳鋼(SS400)である。
【0015】
図2は図1に示す鋳造用ケレンを中子とともに鋳型にセットした状態を示す断面図、図3は図2における上型を取り除いた状態を示す平面図である。
【0016】
図2と図3において、2はクロマイト砂による鋳型であり、鋳型2は上型2aと下型2bからなっている。3は注湯されて製品(円筒管)となるキャビティ、4は製品の中空部を形成するための円柱状の中子である。鋳造しようとしている製品は、鋳鋼(SS400)製の円筒管である。中子4は砂型からなり、前記のケレン1によって鋳型2内で水平に延びる姿勢にて支持されている。ケレン1は、中子4の上側と下側とに各2本ずつ、合計4本セットされている。
【0017】
5は湯道、6は押湯である。溶融金属(溶湯)は、湯道5を経てキャビティ3下部からキャビティ3内に流入してケレン1を鋳ぐるみながら充填され、キャビティ3の上方に設置された押湯6が満たされるまで注湯されるようになっている。
【0018】
図4は図2における鋳造用ケレンのセット状態を拡大して示す断面図である。同図に示すように、ケレン1を水平に保持するため、上型2a(下型2b)におけるケレン1の結合板1bAが当接される部位に、製品面に対して外側に10mmの段差部分(水平面を持つ凹部)を設けるとともに、中子4における結合板1bBが当接される部位に、同様に、製品面に対して外側に10mmの段差部分を設けてある。これらの段差部分は鋳造後に機械加工によって除去されることになっている。
【実施例1】
【0019】
実施例1の鋳造用ケレンとして、図1に示す構成であって、支持軸1aの外径D:φ30mm、支持軸1aの長さX:220mm、4本の支持軸1aの間隔:中心間距離で50mm、正方形の結合板1bA,1bB:厚み10mm,一辺の長さ80mm、のものを製作し、これを前記の図2〜図3に示すように鋳型2内にセットし、鋳造を行ってその溶着性を評価した。なお、鋳造しようとしている鋳鋼(SS400)製の前記円筒管(製品)は、外径1000mm、長さ4000mm、肉厚200mm、重量約15000kgである。
【0020】
図5は比較例の鋳造用ケレンを示す斜視図である。円柱形をなす比較例のケレン10は、鋳鋼(SS400)からなり、支持軸の外径D:φ50mm、長さX:220mmである。
【0021】
実施例1のケレンと比較例のケレン10について、それらを用いて製品である前記円筒管の鋳造をそれぞれ実施し、強度と溶着性を評価した。評価のために、得られた製品におけるケレンのセット部位(装着部位)ついての、肉厚測定と超音波検査とを行った。まず、強度については、鋳造前に中子4を所定の位置に保持できているか否か、さらに鋳造後、製品肉厚が規定通り保たれているか否かにより評価した。また、溶着性については、製品の前記段差部分をグラインダによる機械加工で除去した後、超音波探傷検査によって製品内にケレンとの溶着不完全による未溶着部が存在するか否かを確認することで評価した。
【0022】
強度については、実施例1、比較例ともに、鋳造前の造型において中子4を問題なく支持できたうえ、鋳造後の製品肉厚も鋳込み前と同様に上側部分及び下側部分とも変化しておらず、必要な強度を十分満たすことを確認した。
【0023】
【表1】

【0024】
溶着性については、超音波探傷検査結果を表1に示す。比較例のケレン10では、支持軸端部から30mmにわたって未溶着部が存在した。これに対して、実施例1のケレンでは、製品内に未溶着部が存在せず、ケレン全長にわたって完全に溶融金属との溶着が行われていた。
【実施例2】
【0025】
図1に示す構成であって表2に示す支持軸外径Dと支持軸長さXを有するNo.1〜No.9のケレン(実施例2のケレン)、及びNo.10〜No.37のケレン(比較例のケレン)について、それらを用いて前記円筒管の鋳造をそれぞれ実施し、前記実施例1の場合と同様にして、強度と溶着性を評価した。なお、円筒管(製品)の肉厚は100〜250mmであり、この厚みに応じて支持軸1aの長さXを変えた。また、4本の支持軸1a同士の間隔は、中心間距離で1.5×Dとした。
【0026】
強度については、実施例2(No.1〜No.9)、比較例(No.10〜No.37)ともに、鋳造前の造型において中子4を問題なく支持できたうえ、鋳造後の製品肉厚も鋳込み前と同様に上側部分及び下側部分とも変化しておらず、必要な強度を十分満たすことを確認した。
【0027】
溶着性については、前述した超音波探傷検査による結果をもとに算出した溶着率(%)で評価した。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
溶着率は、製品肉厚に対する溶着部長さの割合を百分率表示したもので定義され、ケレンが製品と完全に溶着しており良好な場合は100%となる。表2におけるNo.10〜No.37では、支持軸端部付近に未溶着部が存在していた。これに対して、表2におけるNo.1〜No.9では、製品内に未溶着部が存在せず、良好であり、ケレン全長にわたって完全に溶融金属との溶着が行われていた。
【0030】
図6は鋳造試験結果を示すグラフである。図6は、表2の結果をもとに、横軸にケレンの支持軸長さXを、縦軸にケレンの支持軸外径Dをとり、ケレンの溶着率100%のものを○印で示し、溶着率が100%未満のものを×印で示してある。
【0031】
図6によると、支持軸長さXが長くなるほど製品肉厚が厚くなり溶融金属の熱容量が増すためケレンが溶着しやすく、また、支持軸外径Dが小さくなるほどケレンの体積、すなわちケレンの熱容量が減るため、同様にケレンが溶着しやすくなることがわかる。このことから、図6における○印と×印との境界線を求めるとD=2.5×√Xとなり、D≦2.5×√Xにおいて溶着率100%が得られる。ここで、本実施例では支持軸1aが円柱形をなすことから、支持軸1aの軸長さ方向と直交する方向の断面の最大差し渡し長さとして、支持軸1aの外径寸法Dを採用した。
【0032】
このように、本発明による鋳造用ケレンは、複数の支持軸1aを有し、一方端側に位置して鋳型2に当接させる結合板1bAによってこれらの支持軸の一方の端部同士を結合するとともに、他方端側に位置して中子4に当接させる結合板1bBによってこれらの支持軸1aの他方の端部同士を結合し、かつ、前記各支持軸1aが、軸長さ方向と直交する方向の断面の最大差し渡し長さDと、軸長さXとが、D≦2.5×√Xの関係を満足するように構成されている。したがって、前記のD≦2.5×√Xの関係を満足する複数の支持軸1aによって中子を支持するものであるから、各支持軸1aは支持軸1a単体の場合に溶融金属との溶着が容易な外径寸法とすることができ、これにより必要最低限の本数、設置面積にて、強度と溶着性の両方を満たすことができる。よって、溶着性改善のためのケレン表面の表面処理や表面加工を不要とし、従来とは違ってケレン両端部まで完全に溶着させることができて、鋳物製品の品質向上を図ることができ、また、ケレン未溶着部に係る溶接補修などの手直し作業をなくして製造コストを下げることができる。
【0033】
なお、本発明による鋳造用ケレンにおいては、支持軸の本数は2本以上でもって必要な強度を満足すれば良く、ケレン上下に負荷がかかった場合のバランスを考慮すると、3本以上を有することが望ましい。また、支持軸同士の間隔については、支持軸同士の間に溶融金属が流入し溶融金属と反応して溶着することが必要となるため、ある程度間隔をあける必要がある。ただし、鋳造温度を高くすれば溶着性を改善できるので、最低限、互いに接触しないように配置すれば良いが、望ましくは支持軸の外径寸法をDとした場合、D/2以上(中心間距離:1.5×D以上)の間隔をあけることが良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態による鋳造用ケレンを示す図であって、その(a)は正面図、その(b)は平面図である。
【図2】図1に示す鋳造用ケレンを中子とともに鋳型にセットした状態を示す断面図である。
【図3】図2における上型を取り除いた状態を示す平面図である。
【図4】図2における鋳造用ケレンのセット状態を拡大して示す断面図である。
【図5】比較例の鋳造用ケレンを示す斜視図である。
【図6】鋳造試験結果を示すグラフである。
【図7】従来の鋳造用ケレンを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1…鋳造用ケレン
1a…支持軸
1bA,1bB…結合板
2…鋳型
2a…上型
2b…下型
3…キャビティ
4…中子
5…湯道
6…押湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中子を支持する鋳造用ケレンにおいて、互いに間隔をあけて配置された複数の支持軸と、前記複数の支持軸の一方の端部同士を結合する一方端側の結合板と、該複数の支持軸の他方の端部同士を結合する他方端側の結合板とを有し、前記各支持軸が、軸長さ方向と直交する方向の断面の最大差し渡し長さDと、軸長さXとが、D≦2.5×√Xの関係を満足することを特徴とする鋳造用ケレン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−90403(P2007−90403A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284975(P2005−284975)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】