説明

鋳鉄管の遠心鋳造方法

【課題】トラフでの溶湯の流れを阻害することなく、簡単な手段で鋳型の受口形成部に流入する溶湯への異物の混入を防止できるようにすることである。
【解決手段】注湯用樋3のトラフ3aの先端近くに差し渡した支軸部材6に、トラフ3aの中を流れる溶湯Aの上層部の流れを制限する上層流制限部材としてのセラミック製のブランケット7aを垂下させて取り付けることにより、トラフ3aの中を初期に流れる溶湯Aの上層部に混入する比重の小さい異物をブランケット7aで堰き止めて、トラフ3aでの溶湯Aの流れを阻害することなく、トラフ3aの先端から初期に注湯されて鋳型1の受口形成部1aに流入する溶湯Aへの異物の混入を防止できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一端側に受口を有する鋳鉄管を遠心鋳造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一端側に受口を有する鋳鉄管を遠心鋳造する際は、図4に示すように、一端側の受口形成部1aに中子2が装着された円筒状の鋳型1に、受口形成部1aと反対側の挿し口形成部1b側から注湯用樋3のトラフ3aを挿入し、鋳型1を横向きの軸心回りに回転させながら、取鍋(図示省略)から三角取鍋4に供給された溶湯を注湯用樋3のシュート3bに注入し、シュート3bに注入された溶湯Aをトラフ3aの先端から鋳型1内に注湯している。溶湯Aは最初に鋳型1の奥側の受口形成部1aの近傍に注湯され、溶湯Aの注湯位置を鋳型1の挿し口形成部1b側へ移動させるように、鋳型1を前進させるか、注湯用樋3を後退させることにより、鋳鉄管が受口側から挿し口側へ向けて遠心鋳造される。
【0003】
このように鋳鉄管を遠心鋳造する際には、取鍋から三角取鍋に供給された溶湯に浮いていたスラグ、耐火物等の異物や、注入される溶湯に注湯用樋の内面から巻き込まれる塗型等の異物が、トラフの先端から鋳型内に注湯される溶湯に混入することがある。これらの異物は溶湯よりも比重が小さいので、鋳鉄管の受口を形成する初期に注湯される溶湯に混入しやすい。通常、鋳型の受口形成部には、中子との間に狭くて複雑な形状のキャビティが形成されているので、このような受口形成部のキャビティに流入する溶湯に異物が混入していると、鋳造された鋳鉄管の受口に異物が介在物として残る。このため、鋳造後に煩雑な補修作業が必要になり、最悪の場合は、鋳鉄管が不良品として製品化できなくなる問題があった。
【0004】
このような問題に対して、鋳型の受口形成部の入口にボール紙等の溶解または燃焼可能な阻止部材を設け、この阻止部材が溶解または燃焼する間に、受口形成部の入口で異物を溶湯の表面に浮き上がらせ、受口形成部に流入する溶湯に異物が混入しないようにする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたものでは、受口形成部の入口で異物を確実に溶湯の表面に浮き上がらせるために、トラフの先端からの注湯開始位置を受口形成部の入口から十分に離間させるようにしている。
【0005】
また、受口の有無に関らず、一般的な鋳鉄管の遠心鋳造を対象として、注湯用樋のシュートとトラフの間に濾過用フィルタを介装して溶湯中の異物を濾過し、鋳型に注湯される溶湯への異物の混入を防止する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載されたものでは、注湯用樋での溶湯通過抵抗を小さくするために、濾過用フィルタを網状フィルタとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4350032号公報
【特許文献2】実開昭63−29655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された鋳型の受口形成部に流入する溶湯への異物の混入を防止する方法は、鋳型と中子の間に形成される受口形成部の入口を阻止部材で完全に閉塞するために、阻止部材の寸法を精度よく管理する必要があるとともに、鋳型が回転しても阻止部材が外れないようにする必要がある。このため、阻止部材の取り付けに手間がかかり、取り付けの際に鋳型や中子を損傷する恐れもある。
【0008】
特許文献2に記載された注湯用樋のシュートとトラフの間で異物を網状フィルタで濾過する方法は、網状フィルタのメッシュを粗くすれば、溶湯通過抵抗を小さくできるが、メッシュを粗くすると細かい異物を濾過できない問題がある。また、網状フィルタは異物による目詰まりによって、トラフでの溶湯の流れが阻害される恐れもある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、トラフでの溶湯の流れを阻害することなく、簡単な手段で鋳型の受口形成部に流入する溶湯への異物の混入を防止できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、一端側の受口形成部に中子が装着された円筒状の鋳型に、受口形成部と反対側の挿し口形成部側から注湯用樋のトラフを挿入し、前記鋳型を横向きの軸心回りに回転させながら、前記注湯用樋に注入される溶湯をトラフの先端から鋳型内に注湯し、このトラフの先端からの注湯位置を前記鋳型の受口形成部の近傍から挿し口形成部側へ移動させて、鋳鉄管を受口側から挿し口側へ向けて遠心鋳造する鋳鉄管の遠心鋳造方法において、前記注湯用樋のトラフの途中に、トラフの中を流れる溶湯の上層部の流れを少なくとも初期に制限する上層流制限部材を設けた方法を採用した。
【0011】
すなわち、注湯用樋のトラフの途中に、トラフの中を流れる溶湯の上層部の流れを少なくとも初期に制限する上層流制限部材を設けることにより、トラフの中を初期に流れる溶湯の上層部に混入する比重の小さい異物を上層流制限部材で堰き止めて、トラフでの溶湯の流れを阻害することなく、トラフの先端から初期に注湯されて鋳型の受口形成部に流入する溶湯への異物の混入を防止できるようにした。また、この上層流制限部材は、その下流側の溶湯の表面を均すように整流化するので、トラフの先端から注湯される溶湯の量の変動を抑制して、鋳型の損傷を防止する効果も期待できる。
【0012】
前記上層流制限部材を前記トラフの先端の近くに設けることにより、溶湯がトラフの中を流れる間に比重の小さい異物を溶湯の表面に浮き上がらせて、より確実に上層流制限部材で堰き止めることができる。
【0013】
前記上層流制限部材を上方から垂下し、可撓性を有する素材で形成することにより、垂下された上層流制限部材が溶湯の流圧によって下流側へ撓むようにし、溶湯の流れに対する抵抗を少なくして、溶湯をスムーズに下流側へ流すことができる。
【0014】
前記上層流制限部材の素材はセラミック製のブランケットとすることができる。セラミック製のブランケットは、アルミナ・シリケート繊維等のセラミック繊維を積層しながらニードル加工を施したフェルト状のブランケットであり、優れた耐熱性を有するので繰り返し使用することができる。
【0015】
前記上層流制限部材の素材はボール紙とすることもできる。ボール紙は溶湯の熱によって燃焼するが、初期に流れる溶湯の上層部の流れを制限できればよいので問題なく、上層流制限部材を安価なものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る鋳鉄管の遠心鋳造方法は、注湯用樋のトラフの途中に、トラフの中を流れる溶湯の上層部の流れを少なくとも初期に制限する上層流制限部材を設けたので、トラフでの溶湯の流れを阻害することなく、鋳型の受口形成部に流入する溶湯への異物の混入を防止することができる。また、この上層流制限部材は、トラフの先端から注湯される溶湯の量の変動を抑制して、鋳型の損傷を防止する効果も期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る鋳鉄管の遠心鋳造方法を採用した遠心鋳造装置を示す縦断面図
【図2】(a)は図1のトラフの先端部を拡大して示す断面図、(b)は(a)の側面図
【図3】図2(a)の変形例を示す断面図
【図4】従来の鋳鉄管の遠心鋳造方法を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明に係る鋳鉄管の遠心鋳造方法を採用した遠心鋳造装置を示す。この遠心鋳造装置は、一端側の受口形成部1aに中子2が装着された円筒状の鋳型1に、受口形成部1aと反対側の挿し口形成部1b側から注湯用樋3のトラフ3aを挿入し、鋳型1を横向きの軸心回りに回転させながら、取鍋(図示省略)から三角取鍋4に供給された溶湯Aを注湯用樋3のシュート3bに注入し、シュート3bに注入された溶湯Aをトラフ3aの先端から鋳型1内に注湯するものである。溶湯Aは最初に鋳型1の奥側の受口形成部1aの近傍に注湯され、注湯用樋3と三角取鍋4を搭載した台車5を鋳型1から後退させて、溶湯Aの注湯位置を鋳型1の挿し口形成部1b側へ移動させることにより、鋳鉄管が受口側から挿し口側へ向けて遠心鋳造される。
【0019】
図2(a)、(b)に拡大して示すように、前記トラフ3aの先端近くの両縁には支軸部材6が差し渡され、この支軸部材6から垂下されるように、トラフ3aの中を流れる溶湯Aの上層部の流れを制限する上層流制限部材としてのセラミック製のブランケット7aが取り付けられている。このブランケット7aは、アルミナ・シリケート繊維を積層してニードル加工を施した可撓性を有するフェルト状のものであり、溶湯Aの熱でも溶解しない。ブランケット7aの下流側面の下端部には、その浮き上がりを抑制するための錘8が取り付けられている。
【0020】
したがって、前記トラフ3aの先端近くで溶湯Aの表面に浮き上がっているスラグ等の比重の小さい異物Bは、ブランケット7aの繊維に引っ掛かることで堰き止められ、トラフ3aの先端から鋳型1内へ注湯されることはない。また、ブランケット7aは溶湯Aの流圧によって下流側へ撓むので、流れの抵抗となることなく溶湯Aをスムーズに下流側へ流すとともに、その下流側での溶湯Aの表面を均すように整流化し、トラフ3aの先端から注湯される溶湯Aの量の変動も抑制する。
【0021】
図3は、前記上層流制限部材の変形例を示す。この上層流制限部材はボール紙7bで形成されており、同様に、支軸部材6から垂下されるように取り付けられている。この変形例では、ボール紙7bが溶湯Aの熱によって短時間で燃焼するが、注湯用樋3に初期に流れる溶湯Aに混入し、トラフ3aの先端近くで溶湯Aの表面に浮き上がっている異物Bを堰き止め、最初に注湯されて鋳型1の受口形成部1aに入り込む溶湯Aに異物Bが混入するのが防止される。なお、受口形成部1aに入り込む溶湯Aが初期にトラフ3aを流れる時間は非常に短いので、ボール紙7bが燃焼するまでの時間は2秒程度でよい。ボール紙を複数枚重ねて上層流制限部材を形成してもよい。
【0022】
上述した実施形態では、上層流制限部材の素材をセラミック製のブランケットまたはボール紙としたが、上層流制限部材は、トラフの中を流れる溶湯の上層部の流れを少なくとも初期に制限できるものであればよく、セラミック製の板や、溶湯に溶解しない金属板等の他の素材で形成することもできる。
【符号の説明】
【0023】
A 溶湯
B 異物
1 鋳型
1a 受口形成部
1b 挿し口形成部
2 中子
3 注湯用樋
3a トラフ
3b シュート
4 三角取鍋
5 台車
6 支軸部材
7a ブランケット
7b ボール紙
8 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側の受口形成部に中子が装着された円筒状の鋳型に、受口形成部と反対側の挿し口形成部側から注湯用樋のトラフを挿入し、前記鋳型を横向きの軸心回りに回転させながら、前記注湯用樋に注入される溶湯をトラフの先端から鋳型内に注湯し、このトラフの先端からの注湯位置を前記鋳型の受口形成部の近傍から挿し口形成部側へ移動させて、鋳鉄管を受口側から挿し口側へ向けて遠心鋳造する鋳鉄管の遠心鋳造方法において、前記注湯用樋のトラフの途中に、トラフの中を流れる溶湯の上層部の流れを少なくとも初期に制限する上層流制限部材を設けたことを特徴とする鋳鉄管の遠心鋳造方法。
【請求項2】
前記上層流制限部材を前記トラフの先端の近くに設けた請求項1に記載の鋳鉄管の遠心鋳造方法。
【請求項3】
前記上層流制限部材を上方から垂下し、可撓性を有する素材で形成した請求項1または2に記載の鋳鉄管の遠心鋳造方法。
【請求項4】
前記上層流制限部材の素材をセラミック製のブランケットとした請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳鉄管の遠心鋳造方法。
【請求項5】
前記上層流制限部材の素材をボール紙とした請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳鉄管の遠心鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−24802(P2012−24802A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165524(P2010−165524)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)