説明

鋼の連続鋳造方法および連続鋳造装置

【課題】タンディッシュ内部での溶鋼の熱対流による影響を受けにくく、溶鋼に含まれる非金属介在物を効率よく除去する鋼の連続鋳造方法および装置を提供する。
【解決手段】ロングノズル12の吐出口と出鋼口18a間に、タンディッシュ13を受鋼槽16と出鋼槽17に隔壁14が立設され、受鋼槽16から出鋼槽17へは、隔壁14に設けられた1または2以上の四角形の開口26、27から溶鋼が供給され、隔壁14から出鋼口18aまでの水平方向の距離L、溶鋼の湯面15から開口26、27の中心までの垂直方向の距離H、開口26、27からの溶鋼の水平方向の平均流速を表すV、および受鋼槽17における溶鋼の垂直方向の平均流速を表すVとの間に式(1)で表される関係が成立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼の連続鋳造方法および連続鋳造装置に関し、より具体的には高清浄度鋼を連続鋳造するためのタンディッシュ、ならびにそれを用いた鋼の連続鋳造方法および連続鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造プロセスにおいては、精錬を完了した溶鋼は、取鍋と呼ばれる容器からタンディッシュと呼ばれる中間容器を経て、連続鋳造装置の鋳型に中継供給され、鋳型による一次冷却で健全な凝固シェルを形成し、引き続いて鋳型の下方に配置された支持セグメントに付設した冷却ノズルからの散水による二次冷却により凝固を促進して鋳片を製造している。
タンディッシュの機能としては、溶鋼中の非金属介在物の浮上分離、取鍋交換時における鋳型への溶鋼の供給、および複数ストランドの鋳型への溶鋼供給等が挙げられる。
【0003】
一方、非金属介在物を大量に含む溶鋼を連続鋳造プロセスで製造した場合、鋳片内に非金属介在物が残存し、疵等の欠陥発生の原因となる。そのため、溶鋼中の介在物を低減させるための様々な対策が実施されてきた。
タンディッシュにおいては、溶鋼中の非金属介在物の浮上分離機能を高めるために、溶鋼の平均滞留時間を長くする方法が考えられてきた。この点において、タンディッシュの大容量化は有効な方法であるが、大型化に伴う耐火物費用の増加やタンディッシュの整備費用の増加等、経済的な問題があった。
【0004】
そこで、タンディッシュの内部に設けた耐火物製の堰により溶鋼の平均滞留時間を延長して、溶鋼中の非金属介在物の浮上を促進する方法が考えられてきた。これまでに、効率的に非金属介在物を浮上分離させるために、タンディッシュ内部に設けられた堰の形状および配置に関する種々の提案がなされてきた。
例えば、特許文献1には、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入位置と、タンディッシュから鋳型への注入位置との間に上堰と下堰の2段の堰を設置することにより非金属介在物の浮上分離性がすぐれた溶融金属用中間容器が開示されている。
特許文献2には、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入ノズル浸漬位置と、タンディッシュから鋳型への流出口との間に、注入ノズル方向から下堰、上堰、および下堰を順に設置することにより、非金属介在物の浮上分離性を改善する連続鋳造用タンディッシュにおける介在物除去方法が開示されている。
特許文献3には、底部に接して2個の離隔した堰開口を有した堰を用いて受鋼槽と出鋼槽とに画成されているとともに、その出鋼槽には2つ目の堰を設置することにより非金属介在物の浮上分離を改善させる鋼の連続鋳造用タンディッシュが開示されている。
特許文献4には、底部に接する1個または2個の堰穴を開口した堰を用いて受鋼槽と出鋼槽に区分したタンディッシュを使用するモールドへの連続鋳造方法において、浸漬ノズルの開口量を絞って堰穴から分配槽内に噴流する溶鋼の噴流域と浸漬ノズル流出域を互いに交差しなくなる範囲で維持してモールドに鋳造することを特徴とするタンディッシュによる高清浄度鋼の連続鋳造方法と装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特公昭54−27174号公報
【特許文献2】特開平7−132353号公報
【特許文献3】特開平10−216909号公報
【特許文献4】特開2005−131661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タンディッシュ内に設けた堰により溶鋼の流動状態を改善し、溶鋼中の非金属介在物を浮上分離させるためには、取鍋からタンディッシュへ溶鋼を注入するロングノズルの浸漬位置と、ストッパーまたはスライディングノズルを介してタンディッシュから鋳型へ溶鋼を中継供給する流出口の位置との間における、非金属介在物を含有する溶鋼の移動経路長および移動時間の両者を増大させることにより、タンディッシュ中の溶鋼の平均滞留時間を増大させることが有効である。
さらに、タンディッシュの内部に存在する溶鋼の温度は均一でなく、温度差による熱対流が存在するため、溶鋼の流動状態を適切に制御するためには、タンディッシュ内における熱対流を考慮する必要がある。
【0007】
特許文献1および2に記載の発明では、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入位置とタンディッシュから鋳型への溶鋼の流出位置との間に堰を設けることにより、ショートパスの発生を防止してタンディッシュ内部での溶鋼の移動経路長を増大させているが、流動時間を増大させることについては考慮されておらず、熱対流による溶鋼流動を考慮していない。そのため、多段の堰または熱対流により溶鋼の流路が限定され、流速が増大することにより非金属介在物の分離効率が低下するおそれがある。
特許文献3および4に記載の発明では、タンディッシュの受鋼槽と出鋼槽との間を堰により区分して、堰よりも下流側にある鋳型への流出口近傍を、溶鋼の流動速度の小さな準静止浴として、溶鋼の移動経路長とともに移動時間を増大させ、非金属介在物の分離効率の向上を図っているが、タンディッシュ内部における溶鋼の熱対流については考慮されていない。そのため、熱対流により溶鋼の流動速度が増大すること等に起因して非金属介在物の分離効率が低下するおそれがある。
【0008】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、タンディッシュ内部での溶鋼の熱対流による影響を受けにくく、溶鋼に含まれる非金属介在物を効率よく除去する鋼の連続鋳造方法および鋼の連続鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う第1の発明に係る鋼の連続鋳造方法は、ロングノズル吐出口を介して取鍋から注入された溶鋼を受鋼して貯留し、出鋼口を介して連続鋳造鋳型に中継供給するタンディッシュを用いる鋼の連続鋳造方法において、前記ロングノズル吐出口と前記出鋼口との間には、前記タンディッシュを受鋼槽と出鋼槽に画成する隔壁が立設され、前記受鋼槽から前記出鋼槽へは、前記隔壁に設けられた1または2以上の四角形の開口から前記溶鋼が供給され、前記隔壁から前記出鋼口までの水平方向の距離L、前記溶鋼の湯面から該開口の中心までの垂直方向の距離H、下記の式(2)で定義されるV、および下記の式(3)で定義されるVとの間に下記の式(1)で表される関係が成立する。
【0010】
【数1】

【0011】
なお、前記式(2)および式(3)において、Qは前記出鋼口から前記鋳型へ流出する単位時間当たりの溶鋼量を、Sは前記開口の全面積を、gは重力加速度を、βは前記溶鋼の体積膨張率を、Tは前記湯面における溶鋼温度を、Tは前記タンディッシュの底面における溶鋼温度をそれぞれ表す。そして、Tは、湯面上のフラックスの種類や厚さの変更、あるいはプラズマ加熱を用いた積極的な熱負荷により制御が可能である。
タンディッシュに貯留された溶鋼量が定常状態にある場合には、開口を介してタンディッシュの出鋼槽に供給される単位時間当りの溶鋼量と、出鋼口を介して出鋼槽から鋳型に供給される単位時間当りの溶鋼量とは等しい。前者は、開口面積と、開口から出鋼槽に流出する溶鋼の初速度Vとの積で表されるため、式(2)が導出される。
なお、連続鋳造の初期または末期等、タンディッシュに貯留された溶鋼量が非定常状態にある場合には、開口を通過する単位時間あたりの溶鋼量と、出鋼口から鋳型へ流出する単位時間あたりの溶鋼量(Q)は必ずしも一致しない。しかしながら、式(2)で定義されるVを近似式として用い、式(1)で表される関係が成立するような位置に隔壁および開口を設けることにより同様の効果を達成できるので、このような場合にも、Vの定義式として式(2)を用いる。
【0012】
第1の発明に係る鋼の連続鋳造方法において、前記開口が前記タンディッシュの側壁に接していることが好ましい。
【0013】
第1の発明に係る鋼の連続鋳造方法において、前記開口が前記タンディッシュの底面に接していることが好ましい。
【0014】
第1の発明に係る鋼の連続鋳造方法において、前記出鋼槽における、(前記湯面から前記開口下端までの距離)−(前記出鋼槽の溶鋼深さの最小値)が+50mm以下であることが好ましい。
タンディッシュの底面には、耐火物の施工上等の理由で、その平面が平滑とならず段差が設けられることがあるが、そのような段差はタンディッシュ内部における溶鋼の流れを乱して非金属介在物の浮上分離を阻害するおそれがある。しかし、(湯面から開口下端までの距離)−(出鋼槽の溶鋼深さの最小値)が+50mm以下という条件を満足すれば、実質的に非金属介在物の浮上分離は阻害されない。
なお、「段差」とは、隔壁と出鋼口との間のタンディッシュ(出鋼槽)底部における垂直方向の変位を伴う構造をいい、例えば、出鋼槽底面から溶鋼の湯面方向に向かって立設された堰状のもの、および1段または複数段の階段状のものを含む(以下同じ)。
また、「出鋼槽の溶鋼深さ」とは、例えば出鋼槽に堰状の段差が設けられている場合には、堰の頂上と湯面との距離をいう。
【0015】
第2の発明に係る鋼の連続鋳造装置は、ロングノズル吐出口を介して取鍋から注入された溶鋼を受鋼して貯留し、出鋼口を介して連続鋳造鋳型に中継供給するタンディッシュを備えた鋼の連続鋳造装置において、前記ロングノズル吐出口と前記出鋼口との間には、前記タンディッシュを受鋼槽と出鋼槽に画成する隔壁が立設され、前記受鋼槽から前記出鋼槽へは、前記隔壁に設けられた1または2以上の四角形の開口から前記溶鋼が供給され、前記隔壁から前記出鋼口までの水平方向の距離L、前記溶鋼の湯面から該開口の中心までの垂直方向の距離H、前記式(2)で定義されるV、および前記式(3)で定義されるVとの間に前記式(1)で表される関係が成立する。なお、前記式(2)および式(3)において、Qは前記出鋼口から前記鋳型へ流出する単位時間当たりの溶鋼量を、Sは前記開口の全面積を、gは重力加速度を、βは前記溶鋼の体積膨張率を、Tは前記湯面における溶鋼温度を、Tは前記タンディッシュの底面における溶鋼温度をそれぞれ表す。
【0016】
第2の発明に係る鋼の連続鋳造装置において、前記開口が前記タンディッシュの側壁に接していることが好ましい。
【0017】
第2の発明に係る鋼の連続鋳造装置において、前記開口が前記タンディッシュの底面に接していることが好ましい。
【0018】
第2の発明に係る鋼の連続鋳造装置において、前記出鋼槽における、(前記湯面から前記開口下端までの距離)−(前記出鋼槽の溶鋼深さの最小値)が+50mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係る鋼の連続鋳造方法および第2の発明に係る鋼の連続鋳造装置は、ロングノズル吐出口および出鋼口の間に立設された隔壁によりタンディッシュを受鋼槽と出鋼槽に画成し、隔壁に設けられた開口を介して受鋼槽から出鋼槽に溶鋼を供給するに際し、タンディッシュ内部における溶鋼の流動状態に対する熱対流の影響も考慮して、L、H、V、Vとの間に上記の式(1)で表される関係が成り立つように、隔壁および各開口を配設する。このような構成を取ることにより、タンディッシュを必要以上に大型化することなく、溶鋼およびそれに含まれる非金属介在物の移動経路長および滞留時間を増大させ、非金属介在物の浮上分離性を改善できる。
【0020】
第1の発明に係る鋼の連続鋳造方法および第2の発明に係る鋼の連続鋳造装置において、開口がタンディッシュの側壁に接していると、隔壁から出鋼口までの水平方向の距離を必要以上に大きくすることなく、溶鋼の移動経路長を大きくすることができる。
【0021】
第1の発明に係る鋼の連続鋳造方法および第2の発明に係る鋼の連続鋳造装置において、開口がタンディッシュの底面に接していると、溶鋼の垂直方向の移動経路長が大きくなるので、堰から出鋼口までの水平方向の距離を必要以上に大きくすることなく、溶鋼の移動経路長を大きくすることができる。
【0022】
第1の発明に係る鋼の連続鋳造方法および第2の発明に係る鋼の連続鋳造装置において、出鋼槽における、(湯面から開口下端までの距離)−(出鋼槽の溶鋼深さの最小値)が+50mm以下であると、溶鋼の流路を実質的には縮小しないため、溶鋼の移動時間の減少が実質的になく、溶鋼の流路を実質的に制限しないため、溶鋼の移動経路長を維持または増大できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る鋼の連続鋳造装置の説明図、図2(A)は同鋼の連続鋳造装置に用いられるタンディッシュの概略説明図、図2(B)はタンディッシュの隔壁の概略説明図、図3はαの値と鋼の連続鋳造時の不具合発生率(相対値)との関係を示すグラフ、図4はdの値と出鋼槽における段差の形状との関係をまとめた説明図である。
図1、図2を参照して、本発明の一実施の形態に係る鋼の連続鋳造装置10および鋼の連続鋳造方法について説明する。
鋼の連続鋳造は、鋼の強度、加工性、および耐疲労性等の低下の原因となる酸化物等の介在物を溶鋼から除去するとともに、次の圧延工程において加工しやすいように一定の形状を有する半製品を製造することを目的として行われる。
転炉で産生された溶鋼は、直接、または必要に応じて二次精錬工程を経た後、連続鋳造装置10の最上部に位置する取鍋11に注入される。取鍋11では、溶鋼中に存在する介在物が浮上するので、これを除去する。
【0024】
次いで溶鋼は、ロングノズル12の吐出口を介して、取鍋11のすぐ下に設けられたタンディッシュ13に注入される。ロングノズル12と出鋼口18a(浸漬ノズル18が設けられているタンディッシュ13の出鋼口)との間には、出鋼口18aからの水平距離がLである位置にタンディッシュ13の底面から、貯留された溶鋼の湯面15よりも上方まで隔壁14が立設されており、タンディッシュ13を受鋼槽16と出鋼槽17とに画成している。ロングノズル12を介して受鋼槽16に供給された溶鋼は、隔壁14に設けられた開口(第1の開口26、第2の開口27)から出鋼槽17に供給される。
出鋼槽17に供給された溶鋼が出鋼口18aまで流動する間に、更に介在物が浮上するため、これを除去することにより、溶鋼から介在物を効果的に除去することができる。次に溶鋼は、浸漬ノズル18を介して鋳型19の最上部に注入される。鋳型19は熱伝導率の高い銅製であり、常に水冷されているため、溶鋼は急冷され凝固を開始する。凝固を開始した鋳片20は、鋳片支持ロール21により鋳型19の下部から連続的に引き出されるとともに、鋳片冷却装置22により冷却水の噴射等により更に冷却され、凝固完了点(クレータエンド)23において完全に凝固する。完全に凝固した鋳片20は、鋳片引き抜きロール24により連続鋳造装置10から引き抜かれ、鋳片搬送ロール25によって圧延工程へ搬送される。
【0025】
次に、図2(A)および(B)を参照しつつ、タンディッシュ13に立設された隔壁14の位置、および受鋼槽16から出鋼槽17に溶鋼を供給する開口の個数、位置、および形状について説明する。なお、図2(A)においては、タンディッシュ13を直方体として図示しているが、タンディッシュ13の形状は特に制限されない。
隔壁14には、タンディッシュ13の側壁および底面に接するように長方形状の第1の開口26および第2の開口27が設けられている。第1の開口26および第2の開口27は、互いに合同であり、図2(B)に示すように、その水平方向および垂直方向の辺の長さを、それぞれLWV、およびLWLで表す。また、図2(B)に示すように、湯面15から第1の開口26の中心(または、第2の開口27の中心)までの垂直方向の距離をHで表す。
【0026】
WVとLWLとの比LWV/LWLは、0.5≦LWV/LWL≦6であることが好ましい。
WV/LWL<0.5、またはLWV/LWL>6である場合には、第1の開口26または第2の開口27の形状が扁平になりすぎ、第1の開口26または第2の開口27を通過した溶鋼の流動が出鋼槽17の溶鋼と接する面積が大きくなりすぎる。その結果、出鋼槽17における溶鋼の流動を乱すため、非金属介在物の浮上分離性の改善効果が低減する。
さらに、耐火物からなる隔壁14における第1の開口26および第2の開口27の施工性を良好に保つためには、0.08(m)≦LWV、かつ0.08(m)≦LWLであることが好ましい。
【0027】
取鍋11からロングノズル12を介して受鋼槽16に供給された溶鋼は、第1の開口26および第2の開口27を介して出鋼槽17に供給される。出鋼槽17の内部に貯留された溶鋼量が定常状態にある場合には、受鋼槽16から出鋼槽17に供給される溶鋼の単位時間あたりの体積と、出鋼槽17から鋳型19への溶鋼の単位時間あたりの体積(Q)とが等しくなる。
第1の開口26および第2の開口27から出鋼槽17に流出する溶鋼の初速度をVとすると、第1の開口26および第2の開口27の面積の総和Sは2×LWV×LWLと表されるため、受鋼槽16から出鋼槽17に供給される溶鋼の単位時間あたりの体積は、2×LWV×LWL×V(=Q)となる。
したがって、浸漬ノズル18から鋳型19へ流出する単位時間当たりの溶鋼量QとVとの間には、下記の式(4)で表される関係が成立する。
【0028】
【数2】

【0029】
なお、V(m/sec)は、例えば0.01≦V≦0.15である。
【0030】
また、第1の開口26および第2の開口27から出鋼槽17に供給された溶鋼は、出鋼槽17内部の温度差に起因する熱対流により上昇するが、その場合における垂直方向の平均流速Vと、H、湯面15における溶鋼温度T、およびタンディッシュ13の底面における溶鋼温度Tとの間には、前記式(3)で表される関係が成立する。
なお、Tは湯面15から高さ方向で100mm以内で測定することが好ましく、Tは、タンディッシュ13の底面から高さ方向で100mm以内で測定することが好ましい。
また、V(m/sec)は、例えば0.05≦V≦0.30である。そして、gは重力加速度を、βは溶鋼の体積膨張率を表す。
【0031】
第1の開口26および第2の開口27から出鋼槽17に供給された溶鋼が水平方向にLだけ移動して、浸漬ノズル18の位置まで到達するのに要する時間は、(L/V)で表される。また、溶鋼が垂直方向にHだけ移動して湯面15まで到達するのに要する時間は(H/V)で表される。
溶鋼に含まれる非金属介在物を十分に除去するためには、溶鋼を湯面15まで浮上させることが好ましいので、両者の間に、(L/V)≧(H/V)なる関係が成立するように、すなわち、前記式(1)において、α≧1、より好ましくはα≧1.5となるようにL、H、LWV、LWL、およびTの値を設定する。
非金属介在物の浮上分離を改善するためには、αの値を大きくし、溶鋼が湯面15付近に滞留する時間を長くすることが好ましいが、α>30となる場合には、タンディッシュ13の大型化に伴い、溶鋼温度の低下、耐火物費用の増加、メンテナンスコストの上昇等の問題が顕著になるとともに、非金属介在物の浮上分離性の改善効果が飽和する。そのため、α≦30でなければならず、より好ましくはα≦20である。
【0032】
(湯面15から第1の開口26および第2の開口27下端までの距離)−(出鋼槽17の溶鋼深さの最小値)=dとした場合、d≦+50mmである。
図1および図2(A)に示すように、タンディッシュ13の受鋼槽16および出鋼槽17の底面はいずれも平坦であり、かつ同一平面上にあるが、耐火物施工等の都合により段差を設けてもよい。dの値と出鋼槽17における段差の形状との関係をまとめた表を図4(a)〜(e)に示す。
【0033】
図4中、(a)、(a1)、(b)、および(b1)は、d>0である場合である。この場合、段差により溶鋼の流路は実質的に縮小しないため、実質的に溶鋼の滞留時間の減少を伴うことなく、溶鋼の移動経路長を維持することができる。d<+50mmとなると、段差の頂上と溶鋼の湯面との距離の縮小が進み、該縮小部を通過する溶鋼速度の増加が顕著になるため、溶鋼の滞留時間が減少し、非金属介在物の浮上分離効果が得にくくなる。
なお、(a)および(b)のように下堰28を設ける場合、0mm<d≦+50mmであっても溶鋼の流路が制限され、下堰28の上部を通過する溶鋼速度が増大するおそれがある。そのため、第1の開口26および第2の開口27の下端と、下堰28の隔壁14と対向する面の頂部とを結ぶ直線の仰角θ(図4中(a)を参照)について、θ≦30°となる関係が成り立つことが好ましい。
【0034】
図4中、(c)、(c1)、(d)および(d1)は、d=0となる場合である。この場合は、溶鋼の流路が実質的に変化しないため、溶鋼の滞留時間は減少せず、溶鋼の移動経路長も変化しない。なお、(d1)は、出鋼槽17の底面が出鋼口18a方向に向かって下方に傾斜する場合であるが、この場合、出鋼槽17の溶鋼深さの最小値は、隔壁14の出鋼槽17側における溶鋼深さであるため、d=0である(したがって、第1の開口26および第2の開口27とがタンディッシュ13の底面に接しており、かつd<0となる場合は存在しない)。
この場合、出鋼口18aに向かって深さ方向に溶鋼の流路が拡大するため、溶鋼速度の水平方向(第1の開口26および第2の開口27から、それぞれ出鋼口18aへ向かう方向をいう。以下同じ)成分の大きさは減少する傾向を示すとともに、溶鋼経路長の増大をもたらす。なお、図4中図示しなかったが、出鋼口18a方向に向かって下方に変位する階段状の段差であっても同様である。これらの場合において許容されるdの下限値は、耐火物の施工状況等にもよるが、通常−300mmである。
【0035】
図4中、(e)および(e1)は、d<0である場合であって、第1の開口26および第2の開口27とがタンディッシュ13の底面に接していない場合である。このような場合、出鋼口18aに向かって深さ方向に溶鋼の流路が拡大する傾向を示すため、溶鋼速度の水平方向成分の大きさは減少する傾向を示すとともに、溶鋼経路長を長く取ることができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。ここで、図3はαの値と、鋼の連続鋳造時の不具合発生率との関係を示すグラフである。
【0037】
取鍋から溶鋼を供給するロングノズルと、鋳型へ溶鋼を供給する浸漬ノズルとの間に、1、あるいは互いに合同な2の長方形の開口を有する隔壁を設けたタンディッシュ(出鋼槽の底面は平坦であり、隔壁と出鋼口との間に堰等の段差を有しないもの、およびθ≦21°となる位置に高さ40mmの堰を有するものの2種類を用いた)を用いて、鋼の連続鋳造を行った。
なお、開口部近傍における溶鋼温度T、および湯面近傍における溶鋼温度Tは、熱電対型温度計を用いて測定した。
α≧1を満たす範囲で、種々の操業条件(Q、開口の個数、LWV、LWL、H、L、T、T)下で鋼の連続鋳造を行い(実施例1〜11)、得られた鋳片における不具合発生率を検討した。また、比較のために、α<1となる操業条件下での鋼の連続鋳造も併せて行い(比較例1〜3)、同様に不具合発生率を検討した。
各実施例および比較例における、操業条件および不具合発生率を以下の表1に示す。
なお、不具合発生率は、比較例1における不具合発生率に対する相対値として示した。また、VおよびVは、それぞれ前記式(2)および(3)を用いて算出した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示した実施例1〜11、および比較例1〜3より得られた、αの値と不具合発生率との関係を図3に示す。
図3より明らかなように、αの値が1未満の場合(比較例1〜3)には、不具合発生率が1.0以上であるのに対し、αの値を1.61とすることにより、不具合発生率は半分以下に減少していることがわかる(実施例10、11)。さらにαの値を増大させることにより、不具合発生率は減少するが、実施例1〜3の結果より、αの値が20を超えると、αの値の増大による不具合発生率の改善効果は飽和に達していることがわかる。
【0040】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部または全部を組み合わせて本発明の鋼の連続鋳造装置および鋼の連続鋳造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、前記実施の形態の鋼の連続鋳造装置において、タンディッシュの隔壁に長方形の隔壁を設けたが、開口の形状は、正方形、平行四辺形、および台形のいずれかであってもよい。また、開口の数は1であってもよく、また3以上であってもよい。
また、前記実施の形態では浸漬ノズルを1本のみ有するタンディッシュを用いる場合について説明したが、2本以上の浸漬ノズルを有するタンディッシュを用いる鋼の連続鋳造装置および連続鋳造方法に対しても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鋼の連続鋳造装置の概略説明図である。
【図2】(A)は同鋼の連続鋳造装置に用いられるタンディッシュの概略説明図、(B)はタンディッシュの隔壁の概略説明図である。
【図3】αの値と鋼の連続鋳造時の不具合発生率(相対値)との関係を示すグラフである。
【図4】dの値と出鋼槽における段差の形状との関係をまとめた説明図である。
【符号の説明】
【0042】
10:鋼の連続鋳造装置、11:取鍋、12:ロングノズル、13:タンディッシュ、14:隔壁、15:湯面、16:受鋼槽、17:出鋼槽、18:浸漬ノズル、18a:出鋼口、19:鋳型、20:鋳片、21:鋳片支持ロール、22:鋳片冷却装置(スプレー)、23:凝固完了点(クレータエンド)、24:鋳片引き抜きロール、25:鋳片搬送ロール、26:第1の開口、27:第2の開口、28:下堰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロングノズル吐出口を介して取鍋から注入された溶鋼を受鋼して貯留し、出鋼口を介して連続鋳造鋳型に中継供給するタンディッシュを用いる鋼の連続鋳造方法において、前記ロングノズル吐出口と前記出鋼口との間には、前記タンディッシュを受鋼槽と出鋼槽に画成する隔壁が立設され、前記受鋼槽から前記出鋼槽へは、前記隔壁に設けられた1または2以上の四角形の開口から前記溶鋼が供給され、前記隔壁から前記出鋼口までの水平方向の距離L、前記溶鋼の湯面から該開口の中心までの垂直方向の距離H、下記の式(2)で定義されるV、および下記の式(3)で定義されるVとの間に下記の式(1)で表される関係が成立することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【数1】

なお、前記式(2)および式(3)において、Qは前記出鋼口から前記鋳型へ流出する単位時間当たりの溶鋼量を、Sは前記開口の全面積を、gは重力加速度を、βは前記溶鋼の体積膨張率を、Tは前記湯面における溶鋼温度を、Tは前記タンディッシュの底面における溶鋼温度をそれぞれ表す。
【請求項2】
請求項1記載の鋼の連続鋳造方法において、前記開口が前記タンディッシュの側壁に接していることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
請求項1および2のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法において、前記開口が前記タンディッシュの底部に接していることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法において、前記出鋼槽における、(前記湯面から前記開口下端までの距離)−(前記出鋼槽の溶鋼深さの最小値)が+50mm以下であることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【請求項5】
ロングノズル吐出口を介して取鍋から注入された溶鋼を受鋼して貯留し、出鋼口を介して連続鋳造鋳型に中継供給するタンディッシュを備える鋼の連続鋳造装置において、前記ロングノズル吐出口と前記出鋼口との間には、前記タンディッシュを受鋼槽と出鋼槽に画成する隔壁が立設され、前記受鋼槽から前記出鋼槽へは、前記隔壁に設けられた1または2以上の四角形の開口から前記溶鋼が供給され、前記隔壁から前記出鋼口までの水平方向の距離L、前記溶鋼の湯面から該開口の中心までの垂直方向の距離H、下記の式(2)で定義されるV、および下記の式(3)で定義されるVとの間に下記の式(1)で表される関係が成立することを特徴とする鋼の連続鋳造装置。
【数2】

なお、前記式(2)および式(3)において、Qは前記出鋼口から前記鋳型へ流出する単位時間当たりの溶鋼量を、Sは前記開口の全面積を、gは重力加速度を、βは前記溶鋼の体積膨張率を、Tは前記湯面における溶鋼温度を、Tは前記タンディッシュの底面における溶鋼温度をそれぞれ表す。
【請求項6】
請求項5記載の鋼の連続鋳造装置において、前記開口が前記タンディッシュの側壁に接していることを特徴とする鋼の連続鋳造装置。
【請求項7】
請求項5および6のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造装置において、前記開口が前記タンディッシュの底部に接していることを特徴とする鋼の連続鋳造装置。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造装置において、前記出鋼槽における、(前記湯面から前記開口下端までの距離)−(前記出鋼槽の溶鋼深さの最小値)が+50mm以下であることを特徴とする鋼の連続鋳造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−260038(P2008−260038A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104090(P2007−104090)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】