説明

鋼の連続鋳造用モールドパウダー及び連続鋳造方法

【課題】本発明の目的は、充分な凝固シェル厚みを確保するために結晶種を制御することによって抜熱速度を制御し、パウダーフィルムの剥離性を向上させて2次冷却帯での冷却能を向上させて高速鋳造をより安定化させることができ、かつ残留するパウダーフィルムがなく、下工程でのパウダーフィルムによる欠陥を低減することができる鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供することにある。
【解決手段】本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、CaO/SiO質量比が0.9〜1.2であり、MgO含有量が10〜20質量%、F含有量が10〜20質量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造において、モールド内に添加され使用される鋼の連続鋳造用モールドパウダー及び該モールドパウダーを使用する連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、モールドパウダーはモールド内に投入され、溶鋼からの受熱により滓化してモールドと凝固シェル間に流入して消費される一連の過程において、(1)モールド内の溶鋼表面の酸化防止;(2)モールド内の溶鋼表面の保温;(3)鋼中より浮上する非鉄介在物の除去;(4)モールドと凝固シェルの潤滑;(5)凝固シェルとモールド間の抜熱制御等の役割を果たす。
【0003】
モールドパウダーは、一般的にSiO、CaOを母材とし、Al、MgO、NaO、LiO、F、BaO、SrO、MnO、B及びC等の成分によって構成されており、その組成は、例えばSiO:20〜45質量%、CaO:20〜45質量%、Al:0.5〜10質量%、MgO:0.1〜8質量%、NaO:1〜20質量%、F:2〜10質量%、C:10質量%以下を有するものである。モールドパウダーを構成する主原料としては、ポルトランドセメント、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、高炉スラグ、リンスラグ、ダイカルシウムシリケート等が用いられる。また、塩基度(CaO/SiO質量比)や粉体特性を調整するために、珪石、珪藻土、ガラス粉のようなシリカ原料が使用される。更に、軟化点、粘度及び結晶化温度を調整する役割を果たすフラックス源として、蛍石、弗化ナトリウム、弗化リチウム、氷晶石、弗化マグネシウム等の弗化物、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸バリウム等の炭酸塩が添加されている。また、溶融速度を調整する目的で、カーボンブラック、コークス粉、黒鉛等の炭素質原料が添加されている。更に、必要に応じて、LiO、B、BaO、SrO、MnO、TiO、ZrO等の金属酸化物を添加することもできる。また、モールドパウダーの形状は、粉末並びに押出顆粒、中空顆粒及び撹拌造粒顆粒等がある。なお、モールドパウダーの物性値は、1300℃の粘度が0.1〜6poise、凝固温度が950〜1250℃の範囲内に設定されている。
【0004】
更に、最近では、鋼の生産性を向上するため鋳造速度の高速化が指向されている。しかし、高速鋳造を指向すれば、凝固シェル厚みは薄くなり、ブレークアウトなどの操業トラブルが発生する。また、熱流速の増大により、鋳片の表面割れが発生し易くなり、割れ感受性の低い低炭素鋼や極低炭素鋼にも表面割れが発生し易くなる。一方、高速鋳造を指向すると、2次冷却帯で凝固シェルに付着したパウダーフィルムが影響してくるという新たな課題も生ずる。2次冷却域での滞在時間が短縮されることでパウダーフィルムの剥離が完了せず、付着した状態で連鋳機を通過し、未剥離のパウダーフィルムが2次冷却帯での凝固シェルの冷却能を低下させるだけでなく、未剥離のパウダーフィルムが圧延工程での欠陥に繋がることも判明している。
【0005】
このような状況下で使用される鋼の連続鋳造用モールドパウダーとして、例えば、特許文献1には、CaO、SiO及びMgOを主成分とする鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、溶融凝固時の主結晶がCaMgSiであることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダー(請求項1);CaO、SiO及びMgOを主成分とする鋼の連続鋳造用モールドパウダーであって、CaO/SiO重量比が0.35〜0.55に、また、(CaO+MgO)/SiO重量比が0.75〜0.95に調整されてなることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダー(請求項2);F含有量が2重量%未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の連続鋳造用モールドパウダー(請求項3)が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、溶融スラグの凝固時に、ゲーレナイト、アケルマナイト、あるいは両者の全率固溶体であるメリライトを、主な結晶組成として析出させることを特徴とする連続鋳造用パウダー(請求項1);溶融スラグの化学組成としてTiOを3〜15質量%含有し、凝固時の結晶組成としてペロブスカイトを析出させることを特徴とする請求項1記載の連続鋳造用パウダー(請求項2);溶融スラグの化学組成の内、総Ca量をCaO量に換算したT.CaO質量%とSiO質量%の比、(%T.CaO)/(%SiO)の値が1.1〜1.6、フッ素(F)含有量が5質量%以下であり、凝固温度が1100〜1280℃、1300℃における粘度が0.30〜1.80Pa・Sであることを特徴とする請求項1または2記載の連続鋳造用パウダー(請求項3);アルカリ金属酸化物の合計が8質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の連続鋳造用パウダー(請求項4);溶鋼中の[sol.Al]の含有量が0.003〜0.100質量%の鋼を連続鋳造する際に、請求項3または4記載の連続鋳造用パウダーを使用することを特徴とする連続鋳造用方法(請求項5)が開示されている。また、特許文献2の[0026]段落の例C及びGには、析出結晶としてアケルマナイトとカスピダインを有するモールドパウダーが開示されている。
【0007】
更に、特許文献3には、一旦溶融した後、凝固したパウダーフィルム中に析出する結晶の内、1種類の「主な結晶」の析出量が他種結晶の析出量の2倍以上であることを特徴とする連続鋳造用パウダー(請求項1);一旦溶融した後、凝固したパウダーフィルム中に析出する結晶が3種類以下であることを特徴とする請求項1記載の連続鋳造用パウダー(請求項2);一旦溶融した後、凝固したパウダーフィルム中に析出する結晶の内、少なくとも2種類の結晶組が全率固溶体を形成し実質的に1種類の「主な結晶」をなすことを特徴とする請求項1または2記載の連続鋳造用パウダー(請求項3);「主な結晶」ではない結晶のうち、少なくとも1種類の結晶単体の融点が、「主な結晶」に比べて300℃以上融点が高い高融点結晶であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の連続鋳造用パウダー(請求項4);高融点結晶がペロブスカイトであることを特徴とする請求項4記載の連続鋳造用パウダー(請求項5);フッ素(F)含有量が4質量%以下であり、カスピダインは「主な結晶」ではないことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の連続鋳造用パウダー(請求項6);「主な結晶」がアケルマナイト、ケーレナイト、ダイオプサイト、チタナイト、CaO・SiO組成のうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか記載の連続鋳造用パウダー(請求項7);凝固温度が1100〜1280℃、1300℃における粘度が1.80Pa・S以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか記載の連続鋳造用パウダー(請求項8);水分含有量が0.5%未満であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか記載の連続鋳造用パウダー(請求項9)が開示されている。また、特許文献3の[0017]段落の例D及びHには、析出結晶としてアケルマナイトとカスピダインを有するモールドパウダーが開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、溶融した後に凝固する際に、その凝固組織中にアケルマナイトが主たる結晶として析出することを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダ(請求項1);T.CaO含有率(質量%)とSiO含有率(質量%)との比T.CaO/SiOが0.6〜1.4であることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダ(請求項2);CaO、SiO、MgO、アルカリ金属酸化物およびFを基本組成とする鋼の連続鋳造用モールドパウダであって、質量%で、T.CaOおよびSiOの合計含有率が50〜90%、MgO含有率が9〜25%、アルカリ金属酸化物の合計含有率が0.5〜15%、F含有率が5%以下であり、さらにC、Al、TiO、ZrO、MnOおよびBのうちの1種または2種以上を合計で0〜10%含有し、鋳型内の溶鋼表面に添加され溶融した後に凝固する際に、その凝固したスラグフィルム中にアケルマナイトが主たる結晶として析出することを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダ(請求項3)が開示されている。
【0009】
更に、特許文献5には、アケルマナイト(Akermanite:2CaO・MgO・2SiO)、ゲーレナイト(Gehlenite:2CaO・Al・SiO)、或いは、両者の全率固溶体であるメリライト(Melilite)を、溶融スラグ凝固時に主な結晶組成として析出し、CaO濃度とSiO濃度との比(CaO/SiO)が1.0〜1.5、AlとMgOとの濃度合計が15〜27質量%、NaOとLiOとKOとの濃度合計が1〜13質量%、F濃度が1〜5質量%、FeOとMnOとの濃度合計が3質量%以下、S濃度が0.5質量%以下、凝固温度が1100℃〜1260℃、1300℃における粘度が0.2〜1.3Pa・sであることを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダー(請求項1);更にTiOを1〜8質量%含有することを特徴とする請求項1記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー(請求項2);骨材として膨張性黒鉛を1〜5質量%添加したことを特徴とする請求項1又は2記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー(請求項3)が開示されている。
【0010】
また、特許文献6には、CaO%をSiO%で除した比(CaO/SiO)が1.1〜1.5、Fの含有量が5%未満で、かつF−0.613×NaO−1.27×LiOの式で表される、F、NaOおよびLiOの含有量が0〜1.8%、Alの含有量が10〜25%で、かつAlとMgOの合計の含有量が15〜30%、TiOの含有量が7%未満であって、一旦溶融した後に徐冷した場合に晶出もしくは析出する分子量が500未満の主たる結晶が、ゲーレナイトまたはアケルマナイト、もしくはこれらの全率固溶体であるメリライトで、さらに2番目に晶出もしくは析出する結晶がカスピダインであり、凝固温度が1050℃〜1220℃であることを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダー(請求項1);鋳型内の溶鋼表面で溶融したモールドパウダーが鋳型内壁と凝固シェルの間隙に流入する際に凝固したパウダーフィルム中に生成する主たる結晶が、ゲーレナイトまたはアケルマナイト、もしくはこれらの全率固溶体であるメリライトであり、さらに2番目の結晶がカスピダインであることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用モールドパウダー(請求項2)が開示されている。即ち、特許文献6には、溶融、凝固後のスラグフィルムに、MgO系結晶であるアケルマナイトと、F系結晶であるカスピダインが共存するモールドパウダーが開示されている。
【0011】
また、特許文献7には、CaO、SiO、LiOおよびフッ素化合物を基本成分とするモールドパウダであって、さらに、NaOおよびKOのうちの1種以上、ならびにAlを含有し、フッ素化合物を構成するFの含有率が4〜25質量%、NaOおよびKOの合計の含有率が1.5質量%以下であり、かつ、これらCaO、SiO、LiO、F、NaO、KOおよびAlの含有率で表される、下記(イ)式、(ロ)式および(ハ)式によって規定される指標aが0.47〜0.7、指標bが0〜0.4、および指標cが0〜0.6であることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダ:
a=(%CaO)/{(%CaO)+(%SiO+(%Al}(イ)
b=(%Al/{(%CaO)+(%SiO+(%Al}(ロ)
c=(%CaF/{(%CaO)+(%SiO+(%CaF}(ハ)
ここで、(%CaO)={WCaO−(%CaF×0.718} (ニ)
(%CaF=(W−WLi2O×1.27−WNa2O×0.613
−WK2O×0.404)×2.05 (ホ)
(%SiO)h=WSiO2および(%Al)h=WAl2O3であり、また、WCaO、WSiO2、WLi2O、WNa2OおよびWK2Oはモールドパウダ中に分析されるCa、Si、Al、Li、Na、Kが全てそれらの酸化物であるとして換算した含有率(質量%)であり、WFは、分析されるFの含有率(質量%)である
が開示されている。また、特許文献7の[0021]段落には、モールドパウダーがCaOを30〜60%、SiOを10〜30%、LiOを1〜15%、Fを4〜25%含むことが記載されている。更に、特許文献7の[0026]段落には、モールドパウダーがAlを10%以下含むことが記載されている。また、特許文献7の[0031]段落には、モールドパウダーが更にMgOを1〜20%含んでいてもよいことが記載されている。
【0012】
【特許文献1】特開2002−96146号公報
【特許文献2】特開2003−225744号公報
【特許文献3】特開2003−266158号公報
【特許文献4】特開2003−326342号公報
【特許文献5】特開2005−40835号公報
【特許文献6】特開2007−203364号公報
【特許文献7】特開2002−346708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献1ないし6に記載されたモールドパウダーは、融点し凝固した時に、MgO系結晶であるアケルマナイト、Al系結晶であるゲーレナイト或いは両者の全率固溶体であるメリライトを主な結晶組成として晶出するものである。しかしながら、高速鋳造においては、モールドパウダーの消費量が低下するために、これらのモールドパウダーでは、結晶が過度に発達し易く、低凝固温度のモールドパウダーであってもスラグフィルム中の結晶層が成長し、高速域での鋳造安定性が損なわれ、高速鋳造と安定的な鋳造の両立は困難となり、ブレークアウト等の操業トラブルに繋がる可能性がある。更に、特許文献7に記載されたモールドパウダーは、LiOを必須の構成成分として含有し、カスピダイン(3CaO・2SiO・CaF)のようなFを含む結晶を晶出させるものであるが、Fを含む結晶を晶出させてもパウダーフィルムを鋳片から剥離させるために充分な歪エネルギーを発生させることができない。
【0014】
従って、本発明の目的は、充分な凝固シェル厚みを確保するために結晶種を制御することによって抜熱速度を制御し、パウダーフィルムの剥離性を向上させて2次冷却帯での冷却能を向上させて高速鋳造をより安定化させることができ、かつ残留するパウダーフィルムがなく、下工程でのパウダーフィルムによる欠陥を低減することができる鋼の連続鋳造用モールドパウダー及び該モールドパウダーを使用する連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、CaO/SiO質量比が0.9〜1.2であり、MgO含有量が10〜20質量%、F含有量が10〜20質量%であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、鋼の連続鋳造用モールドパウダーを溶融・冷却後のパウダーフィルムにMgOを含む結晶とFを含む結晶の2相以上が生成することを特徴とする。
【0017】
更に、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、MgOを含む結晶が、モンチセライト、メルウィナイト及びフォルステライトからなる群から選択される1種または2種以上であり、Fを含む結晶が、カスピダインまたはフルオライトまたはそれら両者であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、Alの含有量がゼロまたは8質量%以下であることを特徴とする。
【0019】
更に、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、NaO含有量がゼロまたは5質量%以下であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、MnO、BaO及びBからなる群から選択される1種または2種以上の含有量がゼロまたは5質量%以下であることを特徴とする。
【0021】
更に、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、トータルカーボン(T.C)量が、ゼロまたは10質量%以下であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、1300℃での粘度が4poise以下であることを特徴とする。
【0023】
更に、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、結晶化温度が1100℃以下であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の鋼の連続鋳造方法は、上記鋼の連続鋳造用モールドパウダーを用い、炭素含有量が100ppm未満の極低炭素鋼、炭素含有量が0.01〜0.08質量%の低炭素鋼または炭素含有量が0.16〜0.20質量%の中炭素鋼を1.4〜3.0m/分の鋳造速度で鋳造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、安定した高速鋳造が可能な鋼の連続鋳造用モールドパウダー及び該モールドパウダーを使用した鋼の連続鋳造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダー(以下、モールドパウダーと記載する)は、CaO/SiO質量比(塩基度)が0.9〜1.2の範囲内にあり、好ましくは0.9〜1.14、更に好ましくは0.9〜1.1の範囲内にある。ここで、塩基度が0.9未満若しくは1.2を超える場合には、パウダーフィルムと鋳片上に生成したスケールとの反応性が高まり、パウダーフィルムとスケールの混合物が形成され、パウダーフィルムの剥離性が悪化し、鋳片の冷却効率の低下やパウダーフィルムの残留による疵が発生するために好ましくない。
【0027】
本発明のモールドパウダーにおいて、MgOの含有量は、10〜20質量%、好ましくは10〜18質量%の範囲内である。また、本発明のモールドパウダーにおいて、Fの含有量は10〜20質量%、好ましくは11〜20質量%の範囲内である。
【0028】
モールドパウダーの塩基度、MgO含有量及びF含有量を上述の範囲内とすることにより、モールドパウダーを溶融し、冷却した後のパウダーフィルムにMgOを含む結晶(以下、MgO系結晶という)並びにFを含む結晶(以下、F系結晶という)が生成する。この2種類の異なる結晶相がパウダーフィルム中に生成して体積変化を生じ、それによってパウダーフィルム中に歪としてエネルギーが残留し易くなり、冷却時、特に、2次冷却帯で水に接触した時に大きな歪エネルギーが発生してパウダーフィルムが鋳片から剥離する。
【0029】
パウダーフィルム中にMgO系結晶とF系結晶を生成、共存させるためには、モールドパウダーのMgO含有量とF含有量を10〜20質量%の範囲内とする必要がある。ここで、MgO含有量並びにF含有量が20質量%を超えると、スラグベアーを生成するために好ましくない。また、MgO含有量とF含有量が10質量%未満であると、目的とする種類の結晶が生成しにくくなるために好ましくない。
【0030】
なお、前記MgO系結晶としては、例えばモンチセライト[Monticellite:CaMgSiOまたは(Ca,Mg)O・MgO・SiO]、メルウィナイト(Merwinite:3CaO・MgO・2SiO)、フォルステライト(Forsterite:2MgO・SiO)等を挙げることができる。また、F系結晶としては、例えばカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)、フルオライト(Fluorite:CaF)等を挙げることができる。ここで、本発明のモールドパウダーにおいては、モールドパウダーを溶融し、冷却する際に形成されるパウダーフィルム中に、MgO系結晶とF系結晶が共存していることが重要である。また、MgO系結晶及びF系結晶以外の結晶が生成しても良いが、X線粉末回折などで同定される結晶相における主要鉱物相がMgO系結晶とF系結晶である。なお、MgO系結晶とF系結晶の生成する温度は同一であっても、異なっていてもよい。
【0031】
また、本発明のモールドパウダーにおいて、Alの含有量は、ゼロまたは8質量%以下、より好ましくは7質量%以下である。ここで、Alの含有量が8質量%を超えると、モールドパウダーを溶融・冷却した後に生成される主要鉱物相がMgO系結晶及びF系結晶から他の鉱物相へ変化してパウダーフィルムの剥離性が低下するために好ましくない。
【0032】
更に、本発明のモールドパウダーは、NaOを含有することができる。NaOの含有量は、ゼロまたは5質量%以下、好ましくは4質量%以下である。ここで、NaOの含有量が5質量%を超えると、モールドパウダーのガラス化が促進され、MgO系結晶とF系結晶が生成する時にも歪エネルギーが発生しにくくなり、パウダーフィルムの剥離性が低下するために好ましくない。なお、本発明のモールドパウダーにおいては、パウダーフィルムの剥離性を充分に確保するために、LiOを含まないことが肝要である。
【0033】
更に、本発明のモールドパウダーは、MnO、BaO、B等の成分を含有していても良いが、これらの含有量は合計で5質量%以下、好ましくは4質量%以下である。これらの含有量が5質量%を超えると、パウダーフィルムの剥離性が低下するために好ましくない。
【0034】
また、本発明のモールドパウダーのトータルカーボン(T.C)量は、ゼロまたは10質量%以下、好ましくは8質量%以下の範囲内である。T.Cが10質量%を超えると、滓化速度が著しく低下するために好ましくない。なお、カーボン成分は滓化速度調整材として作用する。
【0035】
更に、本発明のモールドパウダーにおいて、1300℃での粘度は、4.0poise以下、好ましくは3.5poise以下であることが好ましい。1300℃での粘度が4.0poiseを超えると、流入性の低下に加え、結晶の生成も増大して、流入性が低下して潤滑不足となり、拘束性ブレークアウトが発生する可能性が高くなるために好ましくない。
【0036】
また、本発明のモールドパウダーにおいて、結晶化温度は、1100℃以下、好ましくは900〜1085℃、より好ましくは900〜1050℃の範囲内である。ここで、結晶化温度が900℃未満では、鋳片が過度に強冷却され、割れが発生する可能性が高くなるために好ましくない。また、1100℃を超えると、鋳片が緩冷却され、凝固シェル厚みが薄くなり、ブレークアウトが発生する可能性が高くなり、また、スラグベアーの生成や成長を促進するために好ましくない。
【0037】
本発明のモールドパウダーは、上記組成を有するものであれば、その原料配合は特に限定されるものではないが、例えばポルトランドセメント、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、高炉スラグ、リンスラグ、ダイカルシウムシリケート等を主原料とし、珪石、珪藻土、ガラス粉等のシリカ原料、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩または弗化物等や、カーボンブラック、コークス粉、黒鉛等のカーボン原料を配合することができる。
【0038】
なお、カーボン原料を除く原料を配合して事前に溶解、水冷若しくは空冷して所定の粒度へ粉砕した後、必要に応じてカーボン原料を配合する、いわゆるプリメルトタイプのモールドパウダーとしても良い。
【0039】
また、本発明のモールドパウダーは、その形状を限定されるものではなく、例えば、粉末タイプや押出顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒顆粒等、目的に応じた形状にて使用することができる。
【0040】
本発明のモールドパウダーは、炭素含有量が100ppm未満の極低炭素鋼、炭素含有量が0.01〜0.08質量%の低炭素鋼及び炭素含有量が0.16〜0.20質量%の中炭素鋼の鋼種の連続鋳造に好ましく使用することができる。なお、炭素含有量が0.08を超え0.16質量%未満の割れ感受性の高い中炭素鋼に使用すると、表面割れが発生するために好ましくない。
【0041】
本発明のモールドパウダーを使用する連続鋳造操作において、鋳造速度は1.4〜3.0m/分、好ましくは1.6〜3.0m/分、より好ましくは1.8〜3.0m/分の範囲内である。鋳造速度が1.4m/分未満であると、溶融スラグ層が5mm以下になり、安定した操業を確保することができないために好ましくない。なお、本発明のモールドパウダーをより好ましい状態で使用するためには、1.8〜3.0m/分の範囲内の条件で使用することが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明のモールドパウダーを更に説明する。
実施例
表1に記載する化学組成を有するモールドパウダーについて、以下に記載する操作にて溶融、冷却後に生成される結晶について調査した結果を表1に記載する。
また、モールドパウダーをスラブ連鋳機にて使用した結果を表1に併記する。
【0043】
【表1】

【0044】
結晶調査は、150gのモールドパウダーを1300℃で溶解、安定後、4℃/分の冷却速度で炉冷することにより、パウダーフィルムを得、得られたパウダーフィルムを粉砕してX線粉末回折することによって行われた。なお、生成結晶について、”+”記号の数が多い程、結晶生成量が多いことを示す。
また、鋳造操作は、スラブ連鋳機にて、5〜50heat行ったものである。なお、鋼種の欄の「ULC」は極低炭素鋼を、「LC」は低炭素鋼をそれぞれ示す。
また、使用結果において、操業性は使用中のベアーの生成状況、BO予知(熱電対)の安全性を示すもので、○は極めて安全、△はまずまず、×は不安定をそれぞれ表す。また、フィルム剥離性は、2次冷却帯位置にカメラを設置してフィルムの剥離状況を観察した結果であり、○は剥離良好、×は剥離悪いをそれぞれ表す。更に、鋳片品質は鋳片を観察して評価したものであり、○はノロカミ、割れなし、△はノロカミ、割れ少、×はノロカミ、割れ多いをそれぞれ表す。また、コイル品質はコイル中のモールドパウダー性欠陥による不良率を示すもので、○はリジェクト無し、×はリジェクト多数発生をそれぞれ示す。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、炭素含有量が100ppm以下の極低炭素鋼、炭素含有量0.01〜0.08質量%の低炭素鋼または炭素含有量0.16〜0.20質量%の中炭素鋼を1.4〜3.0m/分の鋳造速度で鋳造する際に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO/SiO質量比が0.9〜1.2であり、MgO含有量が10〜20質量%、F含有量が10〜20質量%であることを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項2】
鋼の連続鋳造用モールドパウダーを溶融・冷却後のパウダーフィルムにMgOを含む結晶とFを含む結晶の2相以上が生成する、請求項1記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項3】
MgOを含む結晶が、モンチセライト、メルウィナイト及びフォルステライトからなる群から選択される1種または2種以上であり、Fを含む結晶が、カスピダインまたはフルオライトまたはそれら両者である、請求項2記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項4】
Alの含有量がゼロまたは8質量%以下である、請求項1ないし3のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項5】
NaO含有量がゼロまたは5質量%以下である、請求項1ないし4のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項6】
MnO、BaO及びBからなる群から選択される1種または2種以上の含有量がゼロまたは5質量%以下である、請求項1ないし5のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項7】
トータルカーボン量が、ゼロまたは10質量%以下である、請求項1ないし6のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項8】
1300℃での粘度が4poise以下である、請求項1ないし7のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項9】
結晶化温度が1100℃以下である、請求項1ないし8のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項10】
鋼の連続鋳造方法において、請求項1ないし9のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダーを用い、炭素含有量が100ppm未満の極低炭素鋼、炭素含有量0.01〜0.08質量%の低炭素鋼または炭素含有量0.16〜0.20質量%の中炭素鋼を1.4〜3.0m/分の鋳造速度で鋳造することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。

【公開番号】特開2010−5657(P2010−5657A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167483(P2008−167483)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】